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シナリオ詳細

病魔を運ぶ『ヤカン』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夏は豊穣において、丹精込めて畑に愛情を込める時期だ。
 いかに手間暇かけて畑仕事を行うかで、実りの秋になって作物が応えてくれる。
 それだけに、鬼人種の農民達も汗水たらして野良仕事に励む。
 合間に茶菓子を食べて体調を整えつつ、朝から晩まで働く人々にはただただ感服するばかりだ。

 そんな農村の日常をぶち壊そうと、突然妖が襲い掛かる。
 しかも、その妖は複製肉腫とされ、狂暴性を増して人々に牙を剥く。
 その群れは一見すれば狐を思わせる。実際に狐の異名として、使用される場合もあるとのこと。
 だが、毛並みが青黄色というのが異様であり、狐にしてはあまりにも凶悪な面構えをしており、見るだけで悍ましさを感じさせる。
 その妖怪は、ヤカンと呼ばれる。薬缶……ケトルを思い出しそうなネーミングだが、野干と表記する。
 元から死肉を貪る狡猾な獣とされるが、肉腫化によって群れるようになった野干共は病魔をまき散らすことで人々を死滅させてその死肉を喰らうことを覚えただけにタチが悪い。
 それらがだしぬけにやってくれば、農民達も対処が間に合わず。
「う、うう……!!」
「頭が、痛い……」
 病魔に蝕まれた農民達は苦しみ、動けなくなってしまう。
 病魔が流行れば、作物を育てる手が無くなり、飢饉にも繋がる。後は病魔や飢えで力尽きた人々を、野干共は貪り食うつもりなのだろう。
「苦しい、苦しい……」 
「助けてくれ、死にたくない……」
 人々が病魔に苦しむ状況の中、野干共はにやにやと笑いながら倒れる人々を刃で傷つけ、軽くその傷口を舐めとる。
 それによって病気をより悪化させ、人々を弱らせるのだ。
「ク、ククク……」
 小さく笑う野干共はさらなる人々を病魔に侵すべく、村のあちこちへと飛び回っていくのである……。
 

 カムイグラ此岸ノ辺。
 豊穣の依頼を確認すべく、この国のあちらこちらを飛び回る『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は、他のイレギュラーズの手を借りながらも、情報収集へと励んでいたようだ。
 そうして、彼女が危険視していた依頼。
「複製肉腫となった妖による事件が起こっている地域を確認しました」
 現状、被害は病魔が村を覆っているという状況で、犠牲者が出るには至っていない。
 だが、放置していれば間違いなく村の存亡に関わる事態となっており、早急な解決が必要な状況だ。
 場所は豊穣内のサクラダ村。
 多数の野菜を育てているこの地で、野干という妖の群れが現れ、人々に病魔を振りまいている。
「直接病魔をばら撒くだけでなく傷をつけて一舐めし、病気の治りを遅くして人々を弱らせ、死に至らしめようとするのだそうです」
 野干は新鮮な血肉だけでなく、屍肉も好むという。
 敢えてじっくり人々を苦しめて殺害することで、絶妙なスパイスとしているらしい。
「あまりに外道すぎる相手で、放置など見過ごせない相手ですね……」
 ギフトのおかげで動揺することなく淡々と説明しているアクアベルだが、だからといって怒りが全くないわけではない。
 できるなら、自らの手で神罰を下したいとすら思っているだろうが、アクアベルもさすがにそこまでの戦闘能力は持たない。
「いくら複製肉腫となったとしても、ここまでの相手を放置などできません」
 必ず、この場で野干の殲滅を。
 アクアベルはそうイレギュラーズ達へと望むのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 カムイグラの農村に現れる肉腫化した妖討伐を願います。

●概要
 複製肉腫化した野干の群れの討伐。

●敵……複製肉腫・妖
○野干(やかん)×6体
 全長1・5mほど。青黄色をした狐にも似た生き物ですが、人だけでなく、虎や豹などの猛獣すら喰らう悪獣とされ、狼を思わせる生態も持っている妖です。
 病魔を憑りつかせたり、呪い舐めして傷の治りを遅くしたりとかなり嫌な攻撃を仕掛けてくるだけでなく、長く刃の如く伸ばした爪、鋭い牙と直接斬りかかるなど肉弾戦も強力な相手です。

●状況
 豊穣にある農村の一つ、サクラダ村へと野干の群れが近づいてきているようです。
 直接人を喰らう他、病魔を撒きちらす相手とあり、手早い討伐が求められます。
 農民の避難が間に合っておりませんが、基本病魔に倒れる人々はほとんど家の中で伏せており、避難は困難です。

 事後は人々の病魔を振り払い、癒しに当たっていただきますと幸いです。満足に動ける程度に回復していただけますと、人々も喜ぶかと思います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 病魔を運ぶ『ヤカン』完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
彼岸会 空観(p3p007169)
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
ユン(p3p008676)
四季遊み
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀

リプレイ


 豊穣の地、サクラダと呼ばれる村。
 現状、この一帯を脅かしているヤカンの討伐へとローレットイレギュラーズ達は現場に急行する。
「ヤカン? ああ、薬缶ではなく野干で御座いますか。ややこしいですね」
 背に大きな蝶の翼を生やす旅人女性、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がその名前に端整な眉を顰めるが、さらに不快感を露わにして。
「それにしても、なんと悪趣味な妖でしょう」
 幻が事前にきいたところでは、この野干、人を病気にして散々苦しめて死に至らしめた遺体を喰らうという。まさに外道の所業である。
「依頼書、見ておいてよかったぜ。非道な奴ららしいじゃねぇか」
 その幻の関係者である世界企業『自由の翼』の社長、グロー・バーリンも今回の妖による事件を放置できないとのこと。
 ただ、若い者の仕事を横から取るのも流儀に反すると、今回は病人達に振舞う料理の準備をするそうだ。
「野干……射干ですか」
 軽装で依頼に臨む黒いショートヘアの『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が言うように、射干と表記されることもあるようだ。
「元々が死肉喰らい故に肉腫化によって、随分と悪趣味な代物になり果てたものなのです」
「病気を撒くだけで無くその上苦しめるとは……卑劣な外道め」
 ヘイゼルの言葉を受け、プライドの高い銀髪の青年、久泉 清鷹(p3p008726)は故郷で起きている事件なだけに、露骨なまでに嫌悪感を示していた。
「疫病振りまく妖というのは厄介なもんだ」
 深緑の旧家出身、『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)が道端で紫煙を燻ぶらせてから仲間に合流する。
 シガーは以前にもそうした妖と交戦経験があるそうだが、どうにもいけ好かない輩が多いとのこと。なにせ、人が苦悶し、絶望する様を悦び、できる限り長く苦しめる相手なのだ。
「私が居た世界はこの村と同じ惨状でした」
 旅人である『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)はかつていた世界で疫病が蝕み、飢饉で餓える状況に絶望したという。
 その為、寄る辺なき彼岸から救うべく多数の人々を殺し、いつしか命奪うだけの鬼に成り果てたという。
「……もし私が道を違えた意味があるとするのならば、今この村を救う為でもありましょう」
「ああ。幸いにも今回は救う可能性が消えたわけではない」
 シガーも全力で現状苦しむ人々の救済の為に力を尽くす構えだ。
「魔の存在は皆殺しにすると決めているんでな」
 かつては勇者と呼ばれた聖剣使い、『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が複製魔種と成り果てた野干の群れの討伐に当たる理由はそれだけではない。
 カムイグラに領地を持つものとして。そして、聖都神殿騎士団の一員として。
「人々の平和を乱す輩は討たねばならん」
「さっさとそんな奴はとっちめて、村人たちを助けないとな」
 ――無力な村人を病気にして殺すだけじゃ飽き足らず、苦しめてその感情をスパイスにして楽しむなど、言語道断。
 カムイグラの各地で妖討伐を行う不動 狂歌(p3p008820)もまた、事態の重さを見過ごせずに討伐に参加する。
「これ以上犠牲者を出さぬ為にも、此処で一体残らず叩かねばなるまい」
 前方に見えてきた村落。その人々を救うべく、清鷹が野干の討伐に強い意欲を見せるのである。


 村落へと到着したイレギュラーズ達。
 メンバーはまず、直接1軒1軒民家へと歩いて回る。
 ノックし、一言断って中へと入るユン。弱った村人は言葉を返す力すらなくなっていた。
「僕も森で暮らしていて、たくさんの仲間がいて、平和な毎日があったから分かる」
「…………」
 苦しみに耐えながら見つめてくる村民へ、ユンは告げる。
「僕にとって一番大切なものがそれだから。だから、守らせて欲しいんだ」
 小さく頷いたその村民は気を失い、寝息を立て始める。

「僕達が必ずや、あの狐どもを全て倒してみせます。だから、安心して家の中でゆっくりしていてくださいね」
 幻もまた村民達へと、自分達が再び声をかけるまでは出ないようにと優しく告げる。
 野干は狡猾な相手だ。病魔によって動けぬ人々を囮にされかねない。
「ですから、扉には鍵をかけ、窓は締め切っておいてくださいね」
 病魔の手が及んでいない村民は頷き、イレギュラーズの勧め通りに衝立などを使って施錠を行う。
「病人を動かすのは難しいですし、避難は野干の注意を引きますからね……」
 ヘイゼルは病気で動けぬ村人へと家に閉じ籠るよう願う。
 また、ヘイゼルは比較的元気な者から野干の出現方向など情報を集めていく。

「これで安心して戦えますね」
 ある程度人々に声をかけ終えたところで、ギフトを働かせる清鷹が何かを察して。
「来る……前方だ」
 気配を感じた彼が確認したのは、病魔を撒き散らす複製肉腫となった妖……野干の群れだ。
 グルルルル……。
 威嚇してくる野干達は牙を剥く。自分達の狩場に余計な真似をするなと言わんばかりに。
「野干か……」
 ユンはそんな獣の見た目をした相手に、仲間意識が芽生えるのか躊躇いもしてしまうが。
「でも、僕はそなた達に容赦しないよ。僕は村の者たちの平和な日常を取り戻したいから」
「これ以上被害が広がらないよう、逃さず倒してしまうとしよう」
 大業物「斬鬼」を手にユンが構えをとれば、シガーも精霊刀を手に、引き付け班が先に仕掛けるのを待つ。
「聖都神殿騎士団ハロルド! テメェらをブチのめしに来た男だ!」
「もう一人も喰わせたりなど致しません。僕の前から消失して頂きましょうか」
 中でも壁役となるハロルドが高らかに名乗りを上げれば、幻もまた敵を煽るように言い放つ。
 ガルルル……アオォォォォ……ン!
「自身と同じ様な者を生み出させぬ為に……」
 唸りながらも次々に吼え始める野干に、無量もまた太刀を握ってこう宣言する。
「今一度、私は修羅となる」
 ――クク、ククク……。
 しかしながら、野干どもは含み笑いすらして、その挑戦を真っ向から受けてみせるのである。


 死肉を喰らうという妖、野干の数は6体。
 見た目は青黄色をした狐を思わせるが、その面構えはとても友好的な相手とは言いがたい。
「村の外で退治せねばな」
 清鷹が言うのは、村の人々への被害も懸念してのことだが、相手が病魔を取りつかせてくることも大きい。
 ともあれ、そんな野干共は邪魔なイレギュラーズ達は排除を決め、ダッシュして飛び掛かってくる。
 それらの壁として立ち塞がるハロルドは、もう一人の自分の可能性を纏うことで尋常ならざる力を発揮して。
「ははははっ! おら、死にたい奴から掛かってこいよ!」
 楽しそうに笑う彼は圧縮した闘気で作った透明な青刃を多数展開し、野干どもの怒りを煽る。
 2体が一度にハロルドへと食らいつくが、彼はさほど意にも介さずに。
「テメェらごときに、この『翼十字』が砕けるかッ!」
 それは、聖都神殿騎士団の所属である証。
 健在ぶりをアピールしながら、彼は狂月の刃を獣の身体へと食い込ませていく。
 さらに2体がハロルドに向かうが、他2体の注意が反れていることもあって幻がそちらの抑えに回る。
 素早さに勝る幻は手にするステッキで奇術を見せつける。
 妖、それも複製肉腫に想い人がいるかは分からぬが、刹那の間でも夢心地にいたのは間違いない。
 一度攻撃した幻は敢えて村の方へと敵を引き付けるよう逃げる。
 彼女はさらに別の敵へと狙いを変え、仲間が引き付けやすいよう誘導と村の護りを同時にこなす。
「これより先は一歩も行かせぬ! 向かって来られよ!」
 もう1体、フリーの敵は清鷹が名乗りを上げて引き付ける。
 とはいえ、突出しすぎれば敵の的だと彼も把握しており、程々の位置で立ち回っていく。

 6体もいる敵は攻撃パターンはバラバラで、直接噛みついてくるだけでなく、病魔もばら撒いてくる。
 しかしながら、ハロルドはダメージを負いながらも平然として。
「悪いが俺の抵抗力を舐めてもらっては困る。並大抵の異常攻撃では、俺に通用せんぞ」
 敵を引き付けつつ、彼はさらに狂月を空中に展開して。
「それに『魔』を討ち払うのは俺の十八番でな」
 ハロルドは遠慮なく、その刃を野干共へと浴びせかけていく。
 とはいえ、状態異常はともかく、体に受けるダメージは決して小さくはない。引き付ける数もあり、ヘイゼルが回復役として支援し、自らの調和を賦活の力に変換して癒しへと当たる。
 ヘイゼルは他メンバーの動きも見つつ、場合によっては一度に回復できる立ち位置を続けながら布陣し、主にハロルドの回復をメインに立ち回っていく。
 また、ハロルドの引き付ける敵の注意がそれぬよう、ユンは時折飛ぶ斬撃を飛ばすことで注意を向けようとする。
「これだけの数を引き付けてもらっているから……」
 ハロルドの負担が大きくなりすぎぬよう、ユンは相手の防御を崩すことで援護もはかっていた。
 その間も、攻撃役となるメンバー達が野干の排除を目指す。
 狙うは、清鷹が引き付けた1体。
 野干が彼を狙い、鋭い爪を薙ぎ払った直後、狂歌が振り回す鎖のついた棘鉄球を叩きつける。
 それほど速くはないものの、威力に特化した狂歌の一撃。
 頭を叩きつけられた野干は地面を転がると、無量がじっと額の目で見つめて。
「何処へ行こうと言うのですか、貴方の行く先は……もう決まっています」
 その目はギフトとしてだけでなく、戦闘にも使うことができる。
 野干はなんとか病魔を振りまいて抵抗するが、無量は涼しい顔のまま。
 ――さあ、地獄へと、行きませい。
 ――病魔が何か、呪いが何か。
 ――人であれば殺せよう、獣であれば止められよう。
 だが、無量は……鬼と化した彼女は止まらない。
「下卑た笑みごと叩き斬ってくれましょう」
 無量の剣術は変幻邪剣。揺らめく切っ先で敵を惑わせ、見とれる敵の首を狙う。
 だが、敵も動物の勘か、ギリギリのところで致命傷を避ける。
 とはいえ、どす黒い血が流れだし、長くないことを感じさせた。
 そして、シガーが素早く懐へと潜り込んで。
「玩具兼餌だと思ってた『人』に、切られて血を流す気分はどうだ?」
 注意が仲間から反れていた敵へとシガーが挑発を行うと、そいつは睨みつけてくる。
 ただ、相手に攻撃などさせず、シガーは精霊刀を振るってその首を跳ね飛ばす。
 表情を強張らせた野干の首が地面に落ちると、同時にその胴体もまた真横に倒れていったのだった。


 残る野干は5体。
 村にそいつらを入れぬよう、イレギュラーズはしっかりと抑えに当たるが、妖はそんなメンバー達の思惑をすり抜けた動きを見せることも。
 ハロルドの抑える4体のうちの2体、それに清鷹の抑える1体が正気に戻る。
 一行が村を守るよう布陣しているのは向こうも察しているところ。
 幻や清鷹が素早くフォローに動こうとするが、敵は裏をかいて狂歌へと爪を薙ぎ払い大きく口を開けて食らいつく。
 狂歌も纏めて攻撃すべく、棘鉄球を振り回して暴風域を起こして敵の迎撃を行うが、敵の勢いは止まらない。
「ガルル、ガアアアッ!!」
 数で迫り、一気に猛攻撃を浴びせかけて狂歌の体を切り裂いてしまう。
 血まみれになって倒れる狂歌も解放したいところだが、村に野干を近づけぬよう清鷹が改めて名乗りを上げて。
「通しはせぬ!」
 そいつは彼が引き付けを続けていた1体でもある。
 すでに幾度かビームを刻みながら切りかかっていたことで、全身に傷が刻まれており、苦しそうに息づく。
 遊撃に当たるユンがそこで畳みかけ、切れ目の無い刺突と斬撃を繰り返して追い込み、野干の体を切り裂いて。
 アォォォン……。
 そいつは弱々しく一鳴きし、崩れ落ちたのだった。

 2体は再びハロルドが狂月で青い刃を埋め込み、強く引き付けていて。
「村へは行かせん」
 最初の4体から、ハロルドは数を変動させつつも抑えを続け、なんとか戦線を持たせる。
 挑発も交え、彼は防御能力を高めつつ抑えを続けるが、それでもかなり苦しい状況。
 それでも、倒れず持たせられたのは、ヘイゼルの回復支援あってこそだろう。
「着実に相手の数は減ってます。油断せず行きましょう」
 また、突発的な敵の攻勢にさえ対処できれば、ヘイゼルは状況に応じて状況を立て直すべく号令をかけて範囲回復。
 それだけじゃなく、余裕があればヘイゼルは青い糸を伸ばして結んだ敵から注意と精神力を啜っていた。
 おかげで、攻撃役による野干討伐が加速する。
 ハロルドから少しでも注意が漏れれば、無量がすかさず第三の瞳で見つめて。
 ――最早村には一歩足りとも近づけさせぬ。逃がしもせぬ。
 ――我が身に牙を、爪を突き立てよ。
 それによって、敵が上手くつり出せられればこちらのもの。
「この身は剣の山、平穏を破る者達に報いを、応報の痛みを与えましょう」
 無量は頭、喉、鳩尾、三か所の急所を一突きで貫き、野干が吠えることすらできぬようにして。
「もう一度、哂って御覧なさい」
 だが、そんな余裕はもうない敵が口を開けてくるのに対し、無量は変幻邪剣でしばし戸惑わせ、呆気にとられる敵の首を瞬時に切り裂いてみせたのだった。
 気づけば、1体が清鷹が相手にし、速力を威力に変換して野干の体を深々と切り裂いている。
「どうした? 一方的に甚振れる立場じゃ無ければ、怖くて爪も立てられないか?」
 そいつを、シガーが煽るが、敵は忌々しそうにこちらを睨み返し、病魔を振りまくのみ。
 だが、多少それで今シガーが苦しんだところで、死にゆく野干にはもはや関係なき事。
 シガーは一刀両断し、その身体を真っ二つに切り裂いてしまう。

 ここまでくれば、後はハロルドが抑える敵へと直接メンバーの狙いが向く。
 残る片方へと幻が迫る。もはや敵が怒り状態かなど関係ない。
 存分に奇術を使い、幻は敵へと無数の青い蝶を向かわせて。
「魂を彼岸へと誘うのが蝶としての本能。 ……今日も魂が誘われる」
 幻の言葉通り、野干の魂は彼岸に至り、空っぽになった肉体はただその場に力なく横倒しになるのみ。
 残る1体はハロルドを注視したまま、ここに来て清鷹が直接追い詰める。
 仲間達が刃を浴びせかけていく。そのほとんどが刀、太刀によるものだが、清鷹もまた鋭利なる刀で切りかかる。
 すでに相手はどす黒い血で塗れていたが、その程度の苦痛、これまで人々が受けたものを考えれば生ぬるい。
「これまで殺してきた人々にあの世で詫びるんだな」
 加速し、音速にまで至った彼の斬撃は一振りの元にその命まで断ち切ってみせたのだった。


 全ての野干を討伐しても、イレギュラーズが一息つくには早い。
「念には念を入れて、ね」
 病気が移ったりしないようにと、幻は村から離れたところまで野干の死体を運んでから深くに穴を掘って埋めていく。
 同時に、ヘイゼルの意向もあり、病人達を集会場などへと輸送する。
「物理的な治療はお任せするけれど……」
 出来る限り一度に治療をと、ヘイゼルは気力を充填させながらクェーサーアナライズを使い、可能な限り野干がもたらした病魔を振り払う。
 動かすのも危険と判断した者には、ハロルドや無量が別途治療に当たる。
「悪いが俺の治療は手荒いぞ。かなり痛いだろうが我慢してくれ」
 医療技術を持つハロルドは病人の負担が最小限になるよう手加減した光で、体内の不浄を振り払う。
 患者は死ぬことは無いが、仲間に体力回復も頼みながらの処置となる。
「それと……、もし困ったことがあれば俺の領地に来ると良い」
 また、ハロルドは自らの領地も紹介し、相談事を受け付けることをサクラダ村の民に伝えてもいたようだ。
 無量は未来ある子供に携行してきた果実カラビ・ナ・ヤナルを食べさせ、病魔を振り払わせる……が。
「一人は救えても、二人は救えない。何と情けない事か……」
 病魔を払う術をこの一つの手段しか持たず、無量はしばし自らの至らなさを実感していたが……。
「然しそれでも、他に出来る事はありましょう」
 外へと視線を向けた彼女は、別の仕事を見いだしていたようだ。

 イレギュラーズ達の治療もあり、少しずつ動ける村民が増えていた様子。
 そんな中、一色を取り戻した狂歌が家事スキルを活かし、お腹を空かせた村民に食事を準備する。
 大鍋は幻の関係者であるグローから借り、狂歌は雑炊の炊き出しを行う。
 合わせて、シガーはグローらと協力してパン粥や煮込み料理を用意しており、メンバー達は動ける村民に配膳などの手伝いを頼んでいた。
「洗濯や自炊などは修行に出ていた時も自分でやっていたからな。少しは役に立てると思う」
 清鷹も医療技術などは持ち合わせていないからとその手伝いを申し出て、まだ満足に動けぬ人々へと雑炊の配膳に動く。
「ああ、美味しい……」
「こんなにうまいメシ食ったのは久々だ……」
 満足に食事もとれなかった者も多く、その味は彼らにとって格別なものとなっていた。
「もう大丈夫だよ」
 そんな人々へとユンが寄り添い、話し相手となる。
 病が重くのしかかっていた年配の方や子供などはとりわけ死の恐怖を実感していたことをユンは実感する。
 また、すぐには動けず、畑仕事ができないと歯痒そうに語る者達の話をユンは耳にして。
「そうだ、よければ僕に畑仕事を手伝わせくれないか」
 そんな申し出に、村民達もできるならと頭を下げる。
 すでに、シガーや狂歌などは家事スキルなどを使って掃除や洗濯など、日常生活のサポートに回っている。
 ユンは無量と共に畑仕事。雑草を抜いたり、畑を耕したりする。
 無量もまた夏の猛暑によって畑の作物が枯れてしまうことを懸念し、畑に水やりを行い、実の剪定を手伝う。
「どれ程の広さかは分かりませんが、必ずやり遂げる」
 数日はかかりそうな状況だが、無量はこの村に滞在して人々がある程度満足に動けるようになるまで手伝いを行う気概のようだ。
「力はこう見えてもあるんだよ」
 まだ暑いが、やがて秋になる。
 まだ動けない人の分まで力になりたいとユンは語る。
「たくさん実る秋になるといいね」
「此の地の名は豊穣。餓え、苦しむ民の姿は似合いません」
 ユンも無量も、人々が安心して休み、快復した後も笑って過ごせるようにと、日暮れまで土にまみれて汗を流すのである。

成否

成功

MVP

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは半数以上の野干を引き付けていた貴方へ。他の方々のプレイングからも便りにされていたことを感じさせました。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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