PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>冬の花火

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雪に舞う炎
 吹雪舞う中、その魔種の女は笑いながら歩いていた。
 彼女が魔術で生み出した火は、なんらかの力を持つのか消えることがない。激しい熱は寄りつくものを焦がし、この冷気に中てられた者達を誘い込もうとする。
 そしてまた、燃えて死んでいく。それは敵と言わず味方と言わず――むしろ彼女に味方などいないが――火にくべていくのだから堪ったものではない。
「あの男達も派手なことをするのね。でも助かるわ……こんなに寒いのなら火を求める者も多い、つまりは飛んで火に入る夏の虫が沢山……ふふ、楽しいわね」
 魔種、“忘却の母”は炎を絶やさぬように次々と火の手をあげながら歩いて行く。城すら燃やしかねない勢いだが、おそらくはそれをとがめ立てする者がいればそれすらも殺すだろう。彼女はそういう女である。
 そして、そこにいる理由はもう一つ。
「あの子は……『私の娘』は来るかしら? おびえて苦しんで来ないかしら? 私はそれでもいいんだけど」
 そうなれば、彼女は死ぬまで立ち上がれまい。そして、己が人畜無害であるというあり得ぬ『妄想』すらも保てなくなるだろう。自ら命を絶つだろうか? 否、運命を味方につけたイレギュラーズがそんなことを出来るはずもあるまい。苦しみ続けるばかりだろう。いつまでも。
「ああ、私のかわいい娘! 死よりも苦しい記憶に正気を奪われた哀れな娘! 自分が奪ってきた命の意味も理解できないあなたはきっと私を殺す選択しかできないでしょうね……!」
 “忘却の母”は、イルシア・ユーリオータは、娘を殺すことも娘に殺されることも、心の底から望んでいるのだ。
 反転すらも許されぬ娘は、しかし苦しみから逃れるために新たな十字架を背負うことになるのだ。その運命、逃れ難し。

●記憶の灯火と悪意の火種
 妖精郷、エウィンの町を奪還したイレギュラーズは、続いて妖精城アヴィル=ケインの奪還を目指していた。
 そのさなかの魔種達の襲撃――その目的は『冬の王』であった。
 勇者アイオンと仲間達、妖精の英雄ロスローリエンとエレインらによって封印された邪妖『冬の王』。
 魔手ブルーベルは『冬の王を封印していた力』を、クオン=フユツキは『冬の王の力」を得て、行方をくらます。
 妖精郷はその力により恐るべき真冬の環境にさらされ、猛吹雪が襲い、そしてすべては凍り付く。
 アヴィル=ケインは大量の魔物と天然の防壁を得たことで、益々『籠城向け』の場となってしまったのだ。

「……この現状で、『妖精達をも火にくべて楽しもう』という幼稚ともいえる理由で動いていた“忘却の母”……イルシア・ユーリオータと呼ぶべきでしょうか。彼女は未だアヴィル=ケインの城郭を散策しています。まるで気軽な散歩でもするかのように。周囲一帯に炎で包み、寒さに耐えきれぬ者、城に近づく者、そしてその動きを快く思わないタータリクス側の相手すらも火にくべて回る姿は、どちらの勢力にも制御できない厄災に過ぎません」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)の言葉が正しければ――イレギュラーズ達の調査結果通りなら、となるが。イルシア・ユーリオータは『そんなこと』だけの為に独自に妖精郷に立ち入り、好きかってしていると言うことだ。燃やせるなら善性の妖精だろうと邪妖だろうとこの際関係なく、そしてこの吹雪は却って『消えぬ炎』への薪を増やすだけの舞台装置ですらある。
 彼女を倒さねば城郭の攻略は大きく遅延を強いられ、彼女を何とかしようと現れる邪妖の増援の対処にも追われる……畢竟、敵との激突機会を徒に増やし、友軍の損耗を増やしすらするということだ。
「エルシアさんの事情を考えれば『行ってください』とはとても申し上げられませんが、彼女が、イルシアが明確に貴女を待っていることは間違いないでしょう。その上でどうするかは、判断をお任せします」
 エルシア・クレンオータ(p3p008209)は目の光が乏しいままに三弦の方を見た。そして……彼女は選択を迫られる。
 イレギュラーズもまた、炎の壁と城内からあふれる邪妖、そしてイルシアの撃破を必要とする三つ巴の戦いに身を投じる必要が生まれる。
 いずれすべてが死ぬまで、彼女はそうし続けるだろうから。
 だから、すべてを忘れて前に進むのか、抱えて進むのかを決めねばならない。

GMコメント

 泣いても笑ってもこれが最後です。
 生半可な対策だと火にくべちゃおうねみたいな。そういうアレです。

●依頼達成条件
・“忘却の母”イルシア・ユーリオータの撃破(殺害)
・邪妖の全滅

●失敗条件
 エルシア・クレンオータ(p3p008209)参加時、その死亡。
 参加不参加に関わらず、半数以上の重傷。

●“忘却の母”イルシア・ユーリオータ
 エルシア・クレンオータ(p3p008209)さんの母親。村が焼失した際に自分と娘に忘却の禁呪を行使した結果、自分だけ『恐怖』を忘れられずに狂気に落ち、結果として反転した。
 彼女が死亡しない限り、『エルシアは過去の記憶を忘れられない』。
 なお、エルシアが記憶を取り戻したのは『彼女自身の記憶を操作した』からであり、イルシアの記憶を移植したからではない(=イルシアはそのときの記憶を持っていない)。
 アヴィル=ケイン城郭部を燃やし続け、内外からの出入りに大きな制限をかけている。どちらに有益か不利益かなどどうでもよく、それに誘われた者を効率的に燃やすため。
 神秘攻撃力がエグいほど高く、EXAもかなり高い。機動が3だし防御面が『彼女自身は』低めの代わりに攻撃面のステータスは相当な域。火炎・精神無効。
・極ノ炎叢(常時発動。後述の地形効果をもち、戦場で『火炎系』と『凍結系』BSつきの攻撃が行使されるたび攻撃力微増(累積))
・炎壁付与(神付単・棘、抵抗増)
・炎雨(神遠域・高威力、業炎、足止)
・火線(神超単・炎獄)
・何もかも忘れて(神超単・万能、呪い、封印)

●レッドキャップス×10
 邪妖。斧を持ち血塗れの三角帽子をかぶった小柄な存在。
 HPはそこまで高くないがCTがとても高く、必殺やブレイクを伴った攻撃を行う。

●アイアタル×5
 邪悪な蛇の妖精。魔眼(神遠単・魅了)と冷死病(神近単・猛毒・氷結)を行使する。

※邪妖2種はイレギュラーズのみならずイルシアも敵と見なす可能性大

●フィールド効果『炎叢』
 常時回復不可の『窒息』を伴う。
 3ターンに1度『火炎』相当のダメージ(無効可)。

●特殊ルール(エルシア専用)
 エルシア・クレンオータ(p3p008209)参加時、以下の不利を被る。
・戦闘開始より3ターン、回復スキル無効の『封印』状態。
・イルシア死亡までギフト『か弱き人』の効果が無効となる(=相手を攻撃し、あるいは殺したという明確な罪の意識を認識する状態となる)。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <夏の夢の終わりに>冬の花火Lv:20以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時31分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

アラン・アークライト(p3p000365)
勇者の使命
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
マルク・シリング(p3p001309)
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海武闘
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
恐怖とは?
メーコ・メープル(p3p008206)
優しい夢
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

リプレイ

●真実も因縁も炎の中に
「煙草の火には困らないが、この勢いでは燃え尽きるのが速いな……とんだ火遊びだ」
 『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は口にしていた煙草を吐き捨てると、辺り一面を覆う炎に舌打ちする。魔種・“忘却の母”ことイルシア・ユーリオータが放った炎は吹雪の中でなおその勢いを増し、イレギュラーズの身を苛む。
「ああ、それにしても吹雪に対してなんてアンバランスな……! こいつが花火だなんて冗談じゃないさ、火薬の量間違ってるんじゃないか!」
「周りは寒いはずなのに、息苦しくなるレベルで燃えてるとかとんでもないな。顔も知らぬ魔種だが、決着を付けたがる者がいるのも納得だ」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)と『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)がこの状況に毒づくのも無理は無い。『冬の王』の復活により猛吹雪にさらされる中、ここだけが炎に巻かれているのだ。これを異常事態と捉えたのがイレギュラーズのみならず、アヴィル=ケイン内の邪妖達も、というのが笑い話で済まされるのか、否か……。
「ただでさえ厳しい状況の上に、敵は魔種……それでも」
 戦わなければ、勝たなければならない。マルク・シリング(p3p001309)は炎が揺れる先にちらりと見えた、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)に似たイルシアの姿を見て歯噛みする。妖精郷の運命を差配する戦いであると同時に、エルシアの命と心すらも差配する戦いなのである。
「ああ……私は思い出した記憶によって、母がどれほど正しかったのかを知ってしまったのに! その慈悲を自らの手で振り払ってしまった私を、母は今更許してなどくれないでしょう……」
「エルシアさん、落ち着いてくださいめぇ。今度こそ、メーコが守りますめぇ」
「僕もガラじゃないけどね、目の前で死なれるのは寝覚めが悪い。僕の為にも、なんとしても生きて貰うよ」
 エルシアが思い悩む姿を、『不退転の贖罪』メーコ・メープル(p3p008206)とアトは各々の言葉で励ます。エルシアの言葉には記憶の混濁した者らしい、善悪の曖昧さが見て取れる。母の正しさ、そして慈悲。そんなものがあるのなら、エルシアが請うように伸ばした手を取り仲良く反転させていただろうに。……そうならなかったのは幸運だったが。
「親が子を亡き者にしようとする……この世界はそんな悲劇がありふれ過ぎている。甘いといわれるかもしれないがそれを私は許さない!」
「甘いもなにも、苦い話じゃねえか。魔女が娘に毒リンゴを食わせに来たなんてな。んじゃ、さしずめ俺らはお姫サマを守る九人の小人ってワケだ。しかし、アイツは最高に運が無えぜ。何せその内の一人は──世界最強の山賊、このグドルフさまなんだからなあ!」
 『筋肉最強説』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の義憤に、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は常と変わらぬにやついた笑いを崩さず、しかし目の奥に灯った暴力性を隠さずに啖呵を切った。されど、古の物語を引いて己の道理を説く姿には、蛮性のみならぬ知性が見え隠れする。
「少なくとも、“忘却の母”は明確に邪妖とも敵対しているようですね」
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、本格的な邪妖達の反攻を前に燃え尽きた個体の姿を見て、改めてイルシアが今般の件とは別次元で動いていることを思い知らされる。あれがタータリクス主導の計画に組み込まれていたならば、と考えれば寒気もしようが、そうでないなら扱いようはある。
「お母様……こんなにも罪深い私は、罪に苦しむ事でしか赦されないのです……」
「……来たのね、私の娘。私の罪。ああ、なんて……罪深い姿と心根に満ちているのかしら?」
 エルシアの絞り出すような声は、どうやら多少離れていてもイルシアの耳朶を打ったらしい。喜ぶような、敵意を露わにするような声が確かにエルシアへと届いた。
 まあ無理もあるまい。いかにも自らに寄せたといわんばかりの姿で現れた娘が何を目論んでいるのかなど、狂気にまみれていても理解は容易だ。
「誰かが無念のままに燃やされるのはもう沢山だ。狩らせて貰うぞ。忘却の母!」
「あなたは……私の腕を切り落とそうとした粗忽な彼ね。覚えているわ、覚えていますとも。また、痛めつけられに来たのかしら?」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が荒々しく切った啖呵を、しかしイルシアは柳に風と受け流す。が、目に籠もった殺気の程を見るに、決して侮っているとは言い難い。
「全く風情もクソもねえ、汚え花火だぜ」
「あなたのような『当たり前』も持ち合わせない男が風情を語るのね? 面白い話もあるものだわ」
 グドルフはイルシアの反論に「娘ひとり守れないヤツがよく言うぜ」と毒づいた。守れなかったから、殺すのだろうか。碌な女ではない。
「エルシアさん、皆さん、敵の攻撃はお任せくださいめぇ。そして、メーコも皆さんを頼りにしていますめぇ」
「エルシア殿、私が、私達がついている……グドルフ殿ではないが、9人がかりで貴女を支えるのだ。最後まで、立って頂きたい」
 メーコは仲間に。ブレンダはエルシアに。それぞれが言葉を尽くし、仲間に、そしてイルシアに、共に全力を尽くすことを誓う。願う。
「ギャッギャッ!」
「Srrrrr……!!」
 やがて城門の方から本格的な襲撃が始まるに至り、イルシアも目を細め、四周にぐるりと視線を向けて笑みを深めた。
「私の『花園』にいらっしゃい! もっと燃やさせてくれるのでしょう、あなたも、娘も、私も! 踊りましょう、最後まで!」
「僕はイルシアさんと踊りにきた訳じゃない。エルシアさんを救いに来たんだ」
「命の奪い合いを楽しむなど言語道断です。……今、その苦悩から解放して差し上げましょう」
 イルシアの狂気に満ちた笑みに、マルクは噛みしめるように反論する。アリシスは決意をあらたに的を見据える。
 素早く間合いを詰めるレッドキャップスの群れに視線を向け、エルシアは静かに。
「私は、お母様を討伐します」
 まっすぐイルシアを見据え、宣言した。

●邪眼と斧と、狂気
「お前のような奴が居るから、不幸になる奴が居なくならないんだよ。……お前はここで消す」
「総ゆる不幸は私の幸福よ。誰かが私のために少しずつ不幸になってくれる。自分が昨日まで手にしていた幸福を取りこぼして、それが手に入らないと嘆き悲しむの。素敵だと思わない?」
 アランは異形の剣を双振りの聖剣へと変え、両肩から交差する袈裟懸けへと振り下ろす。勇者の象徴を、殺意の下に振り下ろすという矛盾。
 イルシアはそれを正面から受け止めつつ、突き出した指先から火線を放つ――よもや、至近距離ですらこの技巧は牙を剥くのか。身を捩った彼は、腹部にじくじくと響く熱感に目を剥いた。
「お前の理屈なんて聞いてねェんだよ。エルシアを拒否したくせに自分で殺そうなんて烏滸がましいとは思わねえのかって話だ。忘れさせることが出来るくせに、それをしない。望まないヤツの心を踏み躙るお前が赦せねえ」
「良い反応をするのね。気に入らないわ」
 イルシアは続けざまに手を翳すと、エルシアの位置を中心にして炎の雨を降らせる。礫ひとつひとつに恐るべき熱量を持ったそれがエルシアに降りかかる直前、アトは彼女を庇って舌打ちする。
「チッ、ガラじゃないんだけどなあ、盾役なんて!」
「アトさん……! ごめんなさい、私なんかのために。……でもありがとう、『私はあの人の為にこの連中を殺せるわ』」
 炎の雨とタイミングをずらして飛びかかったレッドキャップスに魔力を叩き込みつつ、エルシアは沈痛な面持ちでアトのマントの裾を掴む。小さい叫び声を上げて仰け反った邪妖の姿を見た彼女の目に濁りが浮いたのを、アトは見逃さない。が、返答はせずに彼は襲いかかる敵と攻撃だけを見ていた。何故なら、濁りは一瞬。より深く敵意と悪意にまみれた笑みで手を伸ばし、邪妖達へとこれでもかと『イルシアの味方として彼等を殺しにかかる狂気の幻想種』として振る舞ったのだから。
「炎の中での戦いというから正直不安はあったが、通じなければ問題ないようだな……アランさん、問題ないか?」
「ハッ、一遍喰らっておきたかったから丁度いいぜ! 悪趣味な女の炎なんて、なんのこたぁねえ!」
 修也はアランの腹部を治療しつつ、炎に満ちた世界の中で呼吸を一つ。備えは確かに機能し、彼の身に些かの不利も及ぼさない。治療に回る人間にとって、それらの異常を無視できるのはかなり、大きい。
「群がってきやがるなぁ、殴り放題で堪らねえぜ!」
 グドルフはレッドキャップス達数体を切り飛ばすと、挑発的な笑みで彼等を見据えた。直後、不可視の衝撃に僅かに頭を傾いだが、ものともせずに首を捻る。魔眼で彼を狙ったアイアタルは驚愕の表情を浮かべたが、彼の視界には入らない。彼は遠くから自分を狙う腰抜けよりも、今目の前に立って襲ってくる相手をこそ、殺したいと願っているのだから。
「グドルフ殿が引きつけておいてくれるなら、狙うのなど容易い!」
「お前達の斧がどれ程のものでも、此方の技は外さんよ」
 グドルフに殴り飛ばされる際に一矢報いたレッドキャップスは、次の瞬間にブレンダの一撃で大きく仰け反った。風と炎を纏った2本の長剣は、嵐となって彼等を巻き込んだのだ。
 それに耐え、追撃に現れたジョージの足に手斧を振り下ろした個体は、快哉を叫ぶ間もなく斧ごと蹴り飛ばされバウンドし、膝をつく。……それでも未だ命を落とさぬのは、腐っても邪妖ということか。足を裂かれたジョージは、しかし筋肉を引き絞ってかろうじてその傷を自身で塞いだ。凄まじい胆力だ。
「あなたは真っ先に倒します、イルシア様」
「素敵な殺意ね。殺意を向ければ向けるほど、それは貴女に返っていくけど……いいのかしら?」
 アリシスは魔力を収束させて撃ち出し、イルシアを打ち据える。同時に幾許かの痛覚が炎となってアリシスを刺激するが、さして脅威とは言うまい。次いで封印の呪いが彼女を二度にわたって襲うが、割って入ったメーコがそれを受ける。膝を屈しかけた彼女は、しかし次の瞬間に発条仕掛けよろしく顔を上げ、イルシアを睨んだ。
「エルシアさんを傷つけたこと、心を曇らせたこと。許すつもりはないですめぇ」
「あらあら、しぶとい羊さんね。何度焼いても焦げないなんて厭な子……あの時も、本当に厄介だったわ」
 メーコの怒りを一心に受けても、なおイルシアは笑顔だった。敵意も殺意も、今の彼女にとってはちっとも辛くも苦しくもないのだろう。恐ろしいことだ。
(消えぬ炎、尽きぬ炎。成程、塗り潰される程に忌んだのでしょう)
 アリシスはメーコの肩越しにイルシアを見て、哀れなほどに歪んだその気性を認識する。タータリクスの反転も、酷いゆがみとともにあったと聞く。それを思えば、彼女の狂い方も理解できよう。
 恐れていたこと、避けていたものを体現する存在となる。魅了されたわけでも望んだわけでも無く、『反転した彼女がそれに呑まれた』のか。
「レッドキャップス、か。君達に恨みはないけど、生かしておくにはあまりに邪悪だ。死んで罪を雪ぐといい」
 マルクは修也を、アランを、アトをジョージをメーコを、傷つきつつ戦う者と治癒に専心する者を信じた。己も癒やし手として力を付けてきた。その使うなら今をおいて他にない。
 ――のだが、その一瞬を犠牲にしてでも放った光で、仲間を害する邪妖を倒すことを選択した。
 仲間の治療を忘れた訳では無く、僅かな猶予があればと攻めに回る。立ち回りでイルシアを邪妖と挟撃できる位置に陣取れたが、それでもなお現れる邪妖とイルシアは苛烈な攻め手を繰り返す。
 癒やすよりも早く、絶えず攻めることで被害を減らす。煩悶と苦痛がない交ぜになった中、彼の選択に誤りがあろうものか。
「アトさん、ついてきてくださいますか? ……母は今、傷ついています。邪妖と皆さんの猛攻で、とても、とても」
「……僕は構わないが。大丈夫かい?」
 エルシアの興奮気味の声に、アトは眉根を寄せつつ問いかける。今し方、新たに向かってきたレッドキャップスを魔力で弾き飛ばし、炎の雨から逃れ得ぬように巻き込んだばかりだ。自分達を襲う被害もだが、母たるイルシアへ邪妖を差し向けるべく、殊更に過剰な演技を見せるエルシアの精神状態に不安が生まれるのは当然だろう。
「大丈夫です。私は苦しみたいのです」
「……エルシア?」
「私はお母様を害することで罪を得たい。祈りを捧げれば戦わずとも争いを退けられると夢を見ていた私は、でもあの時目をそらしていただけで、お母様を傷つけてしまった。拒絶してしまったのです。
 今、私は誰かを傷つけていることを理解している、出来ているのです……嗚呼! これは私が罪を認め、“赦し”を受けるための機会なのだとしたらどれ程に報われるのでしょうか!」
 エルシアは、イルシアと、彼女を襲う邪妖を射程圏に収めると、迷いなき所作で魔砲を放つ。祈りではなく、敵意ある魔術を、誰かに向けて。
 それは今まで戦いから目をそらし、戦えぬ者を『装って』きた彼女の初めての敵意、殺意。
「嬢ちゃんよお、歯ァ食いしばって生き抜けよ! 最後まで諦めんじゃねえぞッ!」
 グドルフは最後のレッドキャップスを蹴散らすと、敵としてイルシアへと視線を向けた。……そして、さらなるレッドキャップスの増援が唐突に現れたことに舌打ちした。邪魔なだけで強敵でもない。だが、イルシアに打ちかかる一瞬が先延ばしにされ、仲間の被害が増える機会を増やされる。思い通りにならないことは、得てして不満の種となる。
「エルシア、戦うなら……足を止めるな、考えるのを止めるな、自分が自分であることを忘れるんじゃねェ! テメェはあの時も、戦ってただろうが!」
 アランはイルシアへと猛攻を繰り出しつつ、割り込んでくるレッドキャップスやアイアタルの猛攻を凌ぎながら叫ぶ。アイアタルにとって、イレギュラーズもイルシアも等しく敵だ。マルクの治療が及ぶ一拍、彼は魔眼に浸食されたが……一撃の威力が減じた以外、イルシアを責め立てる事に変わりなく。結果としてぶれずに役割を全うし続けた。ゆえに、説得力が増す。
「炎は好きだが貴様のそれは身に余るッ! ここで消させてもらうとしよう!!!」
「あらあら、乱暴に剣を振り回すのね。その風で、私の炎を煽ってくれるのかしら?」
 イルシアは、当然ながら相当な傷を負っていた。ブレンダの一撃を受け止め、笑顔で放たれた火線は相手の喉を貫通し、深々と貫き燃やし尽くそうとする。
 蓄積した傷を押して踏みとどまったのは、偏に運命の支えがあってこそだ。塞がれた喉は強い咆吼を発しながら、イルシアを押し切ろうと両腕に力を与える。
「俺に出来るのは、一刻も早く、この馬鹿げた火遊びを終わらせることだけだ!」
「この場で一番怖いのは、言うまでもなくイルシアだ。僕が皆を倒させない! 攻撃を絶やさないように……!」
「メーコも治療を手伝いますめぇ。こちらを狙ってきたらなんとしてでも押さえ込みますめぇ」
「助かる! その分僕は全力で攻撃と回復を!」
「俺も手伝うさ。どこまでやれるかは保証しないが……!」
 マルク、メーコ、修也の3人は治療に回り、攻め手を緩めず、時に仲間を庇いつつ戦線を下げぬよう死力を尽くす。イルシアの猛攻に加え、無闇に前進しないアイアタルが厄介極まりない。レッドキャップスの攻勢が強まったのは計算外だが、ギリギリ凌げるだけマシではあるか。
 そして、何度目かのエルシアの魔砲がイルシアを襲った時。
「……お母様」
 エルシアは、攻撃の手を止め、ゆっくりと母に歩み寄りながら破顔した。自分の罪として傷つけた母。自らを殺そうとした母。赦してくれない、母の姿。
「今一度機会をいただけるなら、今度こそ、お母様に従います」
 その選択を笑える者は、その場にはいはすまい。
 エルシアは、イレギュラーズとしてではなく『娘』として、母に赦しを希う。

●願い儚く
 何を言っているのだろう。イルシアはひざまずいた娘を見て、心から不要なものを見る目を向けた。
「罪に向き合う為にここに来たんじゃなかったのかしら……滑稽だわ」
「何とでも仰ってください。忘れられないなら赦して欲しい。私はお母様に何でも、したい。そのためなら、私が赦してもらえるなら――」
「なら、その目障りな命を捨てて。それでも貴女を赦してあげない」
 縋るように伸ばされた左手は、熱線により両断された。それは翻ると、エルシアの胸を貫きにかかる。
「……ッ!」
 アトが彼女を抱きかかえて右足を犠牲にしなければ、恐らくその時点でエルシアは『死んでいた』だろう。運命など及ばぬところで、命を落としたに違いない。
「クソが、自分から死にに行くヤツがあるか……!」
 そしてもう1人。
 アランが、尽きかけた魔力を総動員して追撃を断ち切らねばどうなっていたことか。半死半生のイルシアにそれほどの魔力が残っていたことも衝撃的だが、仲間の暴挙も同様に度しがたい。
「なんで……!」
「いいかい、君には時が来たんだ。己の中に芽生える殺意を自覚するときだ」
 癒やし手3人の全霊の治療で傷が塞がりつつあったエルシアの肩を掴み、アトが噛んで含めるように言葉を紡ぐ。
「親殺しは罪深かろう、苦しかろう。永劫それを抱えて生き続けることになるだろう」
「でも――お母様にたった一度でも赦して貰えれば私はきっと」
「だが、それでもだ」
 震える声で抗弁するエルシアの言葉を、アトは遮った。
 弱った2人を好機とみて襲いかかってきたレッドキャップスは、グドルフとジョージの連携で文字通り一蹴される。
「……あの親子に最後の時間が要るのなら、こちらで立てなくしよう。保証する」
「テメェは詭弁が得意だったろうが、アト。とっとと言いたいこと言っちまえ」
「ったく、話の腰を折るなよ……それに、これは詭弁じゃない。僕の正直な感想だ」
 ジョージの静謐ながら確りとした言葉に、グドルフが茶化すように付け加える。グドルフにはそういったフォローしかできない。彼がそう定義した『山賊』はそういう男だ。……だからだろうか、きょとんとしたエルシアに、アトは言葉を続けた。
「今この場で、君が自身の殺意から目を背けることの方が、今この場で、親の呪いから開放されることを拒む方が、ずっとずっと、重たい罪なんだ。……さっきそうしたように、僕の影から殺意を撃ち込め。さっきのように狂気からじゃなく、君の正気で。君がそれを為す前に、彼女が死んだら……君は自分の殺意を勘違いしたまま、母親と死に別れるぞ。目を見開いて、親という呪いを踏み越えていけ。なに、お前が出来ないとは僕は思わないさ」
「私の、正気の殺意……」
 2人の会話を背景に、アリシスがアイアタル達を次々と魔力を以て叩き潰す。
 凄まじい消費と共に炎を払った魔力の衝撃は、そのまま邪妖達の存在すらも無に帰した。目の前のイルシアは死に体だ。治療に回った面々の魔力は尽きかけだが、これ以上異常な被害を被ることは最早あるまい。……例外を考慮する必要はあるが。
「エルシア殿、選択を。私はそれを支持しよう」
 ブレンダは近付く邪妖を蹴散らしながら、問いかける。思えば先ほどの選択も、彼女は支持すべきではなかったか? そう僅かに思いはしたが、それとこれとは話が異なる。
 エルシアの意志でイルシアをどうするか、だ。彼女が自ら命を捨てる愚行を支持することは、とてもじゃないが出来はしないのだ。
「……私は」
 エルシアは拳を握った。残った右手をすっと掲げ、母に魔力を照準した。
 自らの殺意。
 母の赦しが秤に乗っても、己の罪より軽かろう。それは、釣り合わぬ天秤であったのだ。
「お母様、ごめんなさい。赦して貰えないなら、私は母殺し(あなた)を背負います」
 伸ばした手は魔力を吐き出す。イルシアの胸郭を貫き心臓を砕いたそれは、背を貫かずそのまま全身の神経をズタズタに切り裂いた。
「……まだ、邪妖は残っています! 僕達で残った手合いを!」
「もう殆どからっけつなんだけどね……いいさ、最後まで付き合うよ」
「ンだよ、火が消えちまったじゃねえか。アレでツマミの一つでも焼いてやろうかと思ってたのによ」
 マルクが声を張ると、修也とグドルフがやれやれと続く。グドルフの冗談がどの程度本気だったのかは知るよしもないが……。
「はぁ、最後の最後まで気が抜けないな……」
「別れには時間が必要だ。邪魔をさせるわけにはいかん」
 ブレンダとジョージもボロボロの体にむち打ち、向かっていく。
 今や命など残っていない母に何をば言う機会もなかろうが、それでも2人の時間は必要なのだ。

 炎が消えていく。
 イルシアの死に伴い、魔力で編まれた炎の渦は吹雪に力負けし、次第に白一面に変えていく。その中で、エルシアは見るも無惨な母の体をかき抱いた。
 強制的に啓かれた蒙(きおく)は忘却の渦に流されそうになったが、そもそも、彼女にそれを忘れさせたのもまた腕の中の母であったことを彼女は知っている。
 悲劇の記憶だけをクローズアップされていたが、幸せな日々は確かにあったのだ。
 エルシアが母と過ごした甘い記憶。忘却と刷り込み、二重に締め上げられたその記憶がふと戻った時、彼女の鼻先で花一輪の匂いがした。
「…………私は」
 何事かを口にしようとしたエルシアは、メーコに抱きしめられ、次の瞬間に意識を遠い彼方に追いやられた。抱きしめた側のメーコもまた、意識を失う。
 彼女のギフトで、耐えがたいショックから一時的に逃避させたのだ。
「って、僕らがこの2人……3人? を運ぶのかい?!」
「いいトコ持ってったんだ、苦労すりゃいいだろ」
「僕も手伝うよ……取り敢えず吹雪が凌げるところまでだけど」
 2人の様子に驚愕したアトに、アランが冗談めかして告げる。フォローに回ったマルクのなんと優しいことか。
「……イルシア様は元に戻れませんでした。エルシア様は」
「問題ねぇだろ。立てないなら背中ぶっ叩きゃあいい」
 アリシスが不安げに少女の寝顔を覗き込むと、強ち本気でやりそうなトーンで、グドルフがそう口にした。

成否

成功

MVP

アト・サイン(p3p001394)
観光客

状態異常

杠・修也(p3p000378) [重傷]
壁を超えよ
アリシス・シーアルジア(p3p000397) [重傷]
黒のミスティリオン
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017) [重傷]
恐怖とは?
エルシア・クレンオータ(p3p008209) [重傷]
自然を想う心

あとがき

 お疲れ様でした。
 目覚めた後、エルシアさんは罪に苛まれることでしょう。こればかりはどうしようもありません。
 この戦いに『赦し』はありません。ただ『罪』があるだけです。
 ……しかし、忘れていたことが全て不幸だったでしょうか?

PAGETOPPAGEBOTTOM