PandoraPartyProject

シナリオ詳細

篝火に舞う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 五月晴れ爆ぜる篝火宵に散り。
 パチリパチリと夜の闇に薪の弾ける音が木霊する。
 夜更けの森の中は、街中の喧噪と比べれば静かではあった。
 されど、其処に住まう小さき者達の囁き声は何処からともなく聞こえてくる。
 草の根の間。木々の葉擦れの中。耳の傍で木霊する音。

 時に大群となって押し寄せる小さき者は、人々の糧を食い荒らし飢えを齎す。
 為ればこそ人々は火を起こした。
 明るきに誘われる虫をおびき寄せるため。暗がりの邪悪を寄せ付けぬため。
 篝火を灯し太鼓や笛の祭り囃子を奏でるのだ。
 それは代々その土地に伝わる風習となって今へと紡がれる。

「――その祭りは、蟲葬りと呼ばれているそうです」
 黄金の瞳が僅かばかり伏せられて長い睫毛の影が落ちていた。
 射干玉の流れる髪を掻上げた彼岸会 無量(p3p007169)は、月が照らすたんぼ道を進んでいく。
 それに続くのは無量の錫杖を見つめる炎堂 焔 (p3p004727)だ。
「むしおくり?」
 こてりと首を傾げた焔に無量は目を細め頷く。
「ええ、蟲を葬ると書いて、蟲葬りです」
「それは、つまり飛んで火に入る夏の虫的なやつなのかの?」
 悪戯な笑みで指先に火を灯したアカツキ・アマギ (p3p008034)はくつくつと笑った。
 ただ其れだけであればイレギュラーズが呼び出される道理はない。
 伝統に則って村人達で祭りを行えばいいだけのこと。
「でも、わたしたちが呼び出されたってことは、蟲意外にも何か居るってことだよね」
 ルアナ・テルフォード (p3p000291)は隣の緋道 佐那 (p3p005064)に問いかける。
「たしかにそう考えるのが道理ね」
 少女の言葉に佐那は応えた。砂の地面を蹴る音が水田に木霊する蛙の声にかき消される。
 一つ鳴声が響けば、次々と重なるように鳴き出す蛙にアーリア・スピリッツ (p3p004400)は風流を感じていた。もし叶うのならば、戦いが終わった後に、この自然の中で祝杯を上げたいと願うアーリア。
「大自然の中で味わうお酒っていうのも悪く無いと思うのよ」
「そうですね。美味しいと思います」
 アーリアの言葉に頷いたのはエリス (p3p007830)だ。美味しい食べ物とお酒。夜風と篝火。想像するだけでお酒が進みそうだと二人は笑い合う。
「まあ、行ってみるしかないでしょう!」
 拳をぎゅっと握りしめたウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)の声が水田に元気よく響いた。


 篝火の橙に誘われてやってくるのは蟲だけではない。
 ぬらり揺蕩う妖怪が祭り囃子を聞きつけて姿を現す。
 狐火に座敷童、木霊に精霊、竹切狸も集い出す。
 敵意を向ければ己の身を守るために反撃して来るであろう彼等も。
 酒と祭り囃子に誘われれば陽気に踊り出すのだ。

 今宵は火花散る篝火の祭り囃子が紫紺に響く――

GMコメント

 もみじです。篝火祭りでどんちゃん騒ぎ。

●目的
 篝火を守る

●ロケーション
 村里近くの山の中。開けた場所です。
 篝火があるので視界に影響はありません。
 戦場の真ん中に篝火があり、村人が数人集まっています。

●敵
○蜘蛛童子×3、狐火×2、竹切狸×2
 楽しげな祭り囃子に誘われてやってきました。
 血気盛んな彼らは強そうなイレギュラーズを見つけて大興奮。
 勝負しようと迫ってきます。良い感じに相手をしてあげましょう。
 打ち負かせば一緒に酒でも食らって楽しく騒ぐことができます。

○夜光蟲
 青白く光る巨大なふわふわと浮かぶ球体やうねうねと空を舞う蟲。
 見た目は昆虫というよりは、より生命の根源に近いものです。
 蟲葬りが成功すれば夏の夜空に無数の羽ばたきを引き連れて何処かへ消えて行きます。

●勝負の後は楽しく宴会を楽しみましょう。
 むしろお目当てはこっちという方も居るのではないでしょうか。

 見える風景は夜光蟲が揺蕩う様子。満点の星空。橙色の篝火。大自然の恵み。
 村人や妖怪も集まって飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
 美味しそうな串焼きや、とうもろこし、おにぎり、酒などが沢山あります。
 ありそうなものが出てきます。持ち込んでも構いません。
 キャンプファイヤー気分を味わえます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 篝火に舞う完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
彼岸会 空観(p3p007169)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
エリス(p3p007830)
呪い師
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

リプレイ


 夜の帳は紫紺の絹を纏い、輝く星空は天鵞絨の如く優しい光を放っている。
「いいわねぇ、カムイグラの夏」
 ほうと頬に手を当てた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は懐かしさに目を細めた。
 風に揺れる葉の音、光る蟲に動物の声。初めて見るはずなのに何処か郷愁を感じるのだ。
 不思議だと微笑んで、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)へと向き直る。
「カムイグラの炎を使ったお祭りかぁ、どんな感じなのかな」
 目をきらめかせながら、焔はくるりとその場で回った。
「でも、お祭りを楽しむためにもまずは篝火を守り切らないといけないみたいだね!」
「そうねぇ。それが村の人達からの依頼」
 焔の言葉にアーリアがにっこりと頷く。

 橙に爆ぜる火の粉が空へと舞い上がった。
「篝火なんてじっと見るの初めてですけど、風情っていうか。魅入られるものがありますね……」
 パチパチと木の鳴らす音に耳を傾けるのは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)だ。
 火の暖かさと耳をくすぐる音色。何かに取り憑かれた様に見つめてしまうのは何故なのだろう。
「ふふん、火を使う祭事であれば、妾の領分よ。ばっちし立派な篝火を点火してみようぞ」
 起伏の少ない胸に手を当てた『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は、えっへんと可愛いポーズを取る。
「あっ、放火に興味は無いですよーー。勘違いしないでくださいねーー」
「え、そういう依頼ではない?」
 ウィズィのツッコミに口を尖らせるアカツキ。残念だという表情を一瞬だけ見せたあと、くるりと振り返り目をキラキラとさせる。
「じゃが、ファイヤーなお祭りには変わりないのじゃろう!? 盛り上げていくのじゃ!」
 ポジティブなアカツキにウィズィはくすりと笑った。

「燃やされて木がパチン、て爆ぜる音には、魔除けの効果があるんだったかな? どうだったかな?」
 あやふやな知識を仲間に披露するのは『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)だ。
 知識のある大人の振る舞いは難しいと小首を傾げる。
 ギフトを使い大人の姿になったとしても、中身はそのままであれば不釣り合いだろうと、子供のままでこのお祭りにきていた。
 和やかな雰囲気の篝火の祭り囃子に釣れられて。
 森の中からひょこりと管狐が顔を出す。宵闇の中から次々と蜘蛛童子や竹切狸も現れた。
『おまつり、おまつり、たのし?』
『たのしそう、あいつら、つよそう』
『勝負! 勝負!』
 口々に言葉を発する妖怪たちに村人は震え上がる。
 力を持たない人々は小妖怪ですら強大な化け物に見えるだろう。
「ふふ……何やら妖怪さんたちも、わくわくしてやってきちゃったみたいだけれど」
 アーリアが村人達をその背にさっと隠した。
「……あれ? お祭りじゃなくてボク達を狙ってる?」
 森の中から殺気立って走り込んでくる妖怪たちの様子に武器を構えるアーリアと焔。
「今日はお祭りなんだよ? だから皆仲良く楽しもうね。え? まってまって?」
 わたわたと迎撃の構えを見せるルアナ。その剣に管狐の火飛礫が飛んでくる。
 それはパチンと弾け、大きな音を戦場に響かせた。
「わ、わ! これは、力の見せ合い。傷つけるのが目的じゃない試合。運動だよ! 沢山動いたら、ご飯も美味しいしね」
『試合?』
「そうだよ! 試合だよ! どっちかが降参するまで勝負!」
 ルアナの呼び声に妖怪達は素直に頷く。その様子にアーリアは張り詰めていた緊張を解いた。
「……悪さをするような子達ではないみたいだし、ひと汗かいて更に美味しいお酒といきましょ!」
 アーリアの声にこくりと頷くのは『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)。
「態々イレギュラーズを呼んだのだし、大層な何某かが来るのかと思ったけれど……」
 佐那は赤い視線を上げて目の前に迫る妖怪たちを見つめる。
「随分楽しそうな乱入者達ね?」
 管狐が花火の飛礫を弾けさせ、蜘蛛童子が糸を飛ばし、竹切狸は刃物を持っているが、どうやらこれがとてつもなくナマクラらしい。
 妖怪たちは佐那の攻撃に弾かれてころころと転がっていく。それでもめげずに起き上がってくるのだから健気というほかない。
「少々拍子抜けではあるけれど。でも、これはこれで……えぇ、楽しそうで良いと思うわ。賑やかで楽しいのは好きだもの」
 まるでごっこ遊び。されど、遊びであるからこそ駆け引きも損得も無い。
 彼らが遊び疲れるまで付き合うというのが、この戦場のゴールなのだろう。

「っと、やりましたね。ワルい魍魎どもめ」
『キシシ!』
 ウィズィを相手取った蜘蛛童子は悪戯が成功したと喜んだ。
 腕に巻き付いた糸によって彼女の動きが阻害される。
「いいでしょう、そう簡単にはやられませんよ!」
 されど、ウィズィはその繋がった糸を逆手に取って蜘蛛童子を手繰り寄せた。
『え、えっ!』
 凄まじい力で引っ張られる蜘蛛童子は、動揺してわたわたと手足を動かす。
「さあ、Step on it!! 踊りましょうか!」
『きゃっきゃ』
 子供の笑い声が戦場に響き渡った。

「宴会で振舞われる料理にお酒、楽しみですねぇ……」
 うっとりと目を細めた『呪い師』エリス(p3p007830)は背後の村人が、こっそりと宴会の準備をしていることを感じ取っていた。次々と運び込まれるお酒に料理は背中に感じるだけで美味しそうである。
 しかし、この村の人々は割と肝っ玉が座っているなとエリスは思った。
「ふふ、でも……無事に宴会を開く為にもなんとしても篝火を守りきりますよ!」
 全ては宴会の為。
 それを思えばこそ力が漲るというものだ。
 エリスは視線を上げる。戦場は篝火を遠ざけるように広がっていた。
 焔が上手く誘導したらしい。

「まずは挨拶代わりに……」
 アーリアは琥珀色の雷撃を戦場に咲かせた。
 ブランデーの香り漂う激しい雨は妖怪の意識を引きつけるには十分。
『わぁ!?』
「「ひゃわー!?」」
 アカツキと焔も妖怪と同じ様に肩を震わせる。
「ふふ、いきなりの雷はびっくりしたかしらぁ?」
 アーリアの隣に立つ彼岸会 無量(p3p007169)は黄金の瞳で妖怪を見据えた。
「妖でも斯様な者達も居られるのですね」
 普段は人々とどのような交流があるのか。疑問は尽きないけれど。
「さて、今宵は火祭り蟲葬り。宴に相応しい程度には騒がせて頂きます」
 沙羅と輪を鳴らし無量は鬼渡ノ太刀を引き抜いた。
「さあ、お相手致しましょう」
 盆の頃合いに行われる祭り。豊穣を願う以外にもおそらく戻ってくる先達を歓迎する意味があるのだろうと無量は考えを巡らせる。
 遊環を揺すり鳴らし。捧げる舞を身に纏う。
「ふふ、普通に手合わせするよりも祭り『らしい』でしょう? さあ、貴方達もご一緒に如何ですか」
『おもしろそう!』
 無量の優美に妖怪も踊りだす。


 アーリアの前に出てきた血気盛んな妖怪に囁くは魔性の呼び声。甘く深く。
 恋を語る言の葉は刹那の夢。
「ちょっと大人しく。ね?」
『ひゃー!』
 耳を抑えて飛び退く竹切狸にアーリアはくすくすと笑いを含んだ。

 血気盛んとはいえ、祭りの場を血で汚してしまっては神気が落ちると佐那は刀を握る。
 殺さぬ程度に力を抑えて。
「血の滾る死合いとは違うけれど……区別は付けないと、楽しくないものね」
 赤き炎をまとわせた一撃。染まる火の粉が空へ舞う。
「さぁ、熱く踊りましょうか? 私の剣は、少々熱が籠り過ぎているかもしれないけれど……!」
『あっちち!』
「今度はこっちだよ!」
 焔の声が戦場に響く。彼女の髪が炎に揺れて夜空にスカーレットを広げていた。
 この場に集まる村人や妖怪を楽しませるため。怖い思いでではなく、楽しい記憶として持っていてほしいから。焔は舞を躍るようにカグツチ天火を天に掲げた。
「もうっ! せっかくのお祭りなんだから暴れたりしたらダメだよ!」
『だって、楽しい!』
「だから危ないんだよお!」
 何度攻撃しても起き上がってくる妖怪たちに焔は言葉を掛け続ける。

「祭り囃子に誘われて来るとは、中々ノリが分かっておる相手じゃのう」
 アカツキは口の端を上げて狐火に向き直った。
 勝負は勝負。真剣に対峙するのが礼儀。
「そこなる狐火よ、炎の幻想種であるこのアカツキ・アマギと尋常に勝負じゃ」
『わー! 勝負ー! やるぞー!』
 先手必勝赤き炎が狐火に炸裂する。
「燃やすという分野に於いて遅れを取る気はないぞ、妾は……何、炎など効かぬ?」
『僕狐火だもーん!』
「ほほう……ならば本当に燃えぬかどうか、妾の全力で試してやろうではないか」
 アカツキの炎獄。狐火の蒼き炎。二つの炎は燃え上がり夜の空を焼く。
「ぐぬぅ、お主の火も中々の熱さじゃな」
 疲弊した二人は視線を躱す。きっとこれが最後の勝負。
 闘志は燃え上がり緊張感が駆け抜けた。
「この威嚇術でトドメの一撃を喰らうがよい!」
 一瞬の業炎。
「わはは、妾の勝ちじゃぞ!」
『くそお! 負けたぁ!』
 妖怪の悔しがる声が戦場に響く。

 この戦いにおいて、ある意味で最も真剣な面持ちで挑むのは無量だ。
 彼女が重きを置くは『手加減』だった。
 それは無量にとって超えねばならない壁。
 無量の剣は殺す為にあり、殺さない事は難しい。
 されど、このままでは何れ殺してはならないものを殺してしまう。
「次は此処を狙いますよ」
『わ、わ!』
 大ぶりの太刀筋と、斬る直前に一瞬だけ留まることで敵の意識をそちらへ向けさせる。
 こうする事でしか加減は出来ぬけれど。
 嘗ての無量は手加減とは相手を侮辱することだと思っていた。
 けれど其れだけでは無いことを今の無量は知っている。
「だからこそ」
 殺さぬように、全力で刀を振るうのだ。

「よっし、お前の相手はこの私ですよ!」
 蜘蛛童子に鍛え上げた腕の筋肉をパァンと叩いてみせたウィズィ。
『ぼ、僕もあるよ!』
 それに対抗してみせる妖怪。中々にシュールである。
 巨大なテーブルナイフを叩き込み、相手の様子を伺うウィズィ。
『わぁ! や、やるなぁ!』
「勝負なんでしょう? ほら、行きますよ!』
『やってやらぁ!』
 この蜘蛛童子。物凄く御しやすいとウィズィは頬を緩めた。
 殺すつもりは毛頭なく。殺されるつもりもない。
 きっと、妖怪たちもそうなのだろう。
 猛者と戦いたい。打ち負かしたいという思いは誰にだってある。
 されど、それは村人たちのような弱き者にとっては脅威になりうるだろう。
 ナイフを叩きつけられ転がる蜘蛛童子にウィズィは言葉を投げた。
「まだやるかー!?」
 その覇気は有無を言わさないオーラが放たれる。

『ひぇー! 参りましたー!』

 その言葉と共に、他の妖怪たちも戦いの手を止めた。
 仲間が殺されるならそちらを助けなけれなならないと思ったのだろう。
 けれど、ウィズィが差し出した手に妖怪たちは安堵した。
 何故ならそれは友愛の証。握手を求めるものだったからだ。
『つ、強いなぁ! お前達』
「当たり前でしょ!」
 にっかりと笑ったウィズィに妖怪たちも笑い出した。

 大人しくなった妖怪たちにルアナは包帯を巻いていく。
「応急処置ならできるもん。ずっと痛いままじゃ嫌だよね」
『ありがと』
 素直に礼をする妖怪に、ルアナは頭を撫でて笑顔を見せる。
「ここからはお祭りだー! やったー!」
 ルアナの声に、わっとイレギュラーズや村人達が湧き上がった。


「参加するなら、あばれちゃダメ。分かった?」
『はぁい!』
 エリスの声に妖怪たちが手を挙げる。彼らはもう戦闘の事なんて興味がなくなり、目の前の料理に釘付けだった。その様子にエリスはくすくすと笑う。
「良い子たちには回復してあげるね」
『わぁ! 痛くない! すごい!』
 妖怪達を見送って、エリスは料理に向き直った。
 豊穣の料理やお酒は前々から気になっていたのだ。
 またとない機会。思う存分堪能するべく酒坏を取る。
「かんぱーい! 皆さん飲んでますかー!?」
 エリスの音頭に村人が快く応えた。
「いやぁ、姉ちゃん達すごいね! ありがとな」
「そんなそんな。それよりこの料理とっても美味しいですけど、どうやって作るんですか?」
「ああ、それはな……」
 この独特な匂いと味は、豆から作ったソースが使われているらしい。
「しょうゆ、みそ」
 エリスは興味津々で村人の話に頷いていた。

 事が済めば宴会とアーリアは手元の酒坏に日本酒を注ぐ。
 お米のお酒は大陸にもあるけれど、この豊穣の日本酒はまた格別だとアーリアは口の端を上げた。
「いきなり吹っ掛けて来るからびっくりよぉ」
『ごめんな、楽しそうだったから』
「ふふ、いいのよ。一緒に楽しみましょ」
 妖怪の持っている酒坏にアーリアは日本酒を注ぐ。
 焼きもろこしのいい香りと、冷やしたきゅうりにアーリアは目を奪われる。
「この、味噌つけると美味しいよ」
「まあまあ! どんな味なのかしら」
 お勧めされた味噌をたっぷりと付けて頬張れば、口の中に香ばしい味噌の味が広がった。
 ふくよかな旨味と甘み。それを上回る塩分。
「こ、これは……! お酒が進んでしまうじゃない!」
 目を輝かせきゅうりを頬張り、そして日本酒を流し込む。
 引き立て合う美味しさがアーリアの胸を満たした。
「絶望を越えた先で見つけたこの場所で過ごす、希望に溢れた夜……お酒がとっても美味しいわぁ!」
「豊穣ご当地のお酒、一献どうぞなのじゃ」
 アーリアの酒坏にアカツキが日本酒を注ぐ。
「あらぁ、じゃあ私も」
「おっ、返杯感謝なのじゃ、美味そうなお酒じゃのう」
 透き通る酒。芳しき香り。磨かれた米の匂いは独特の色香を纏う。
「あまり呑んだことのない感じじゃが……おお、これは美味じゃな! もう一杯行くのじゃ、うへへ」
 とくとくと酒坏に注がれる透明な酒。

 戦いが終わればお祭りを楽しもうと焔はルアナと佐那を呼んだ。
「ほら、ルアナちゃんと佐那ちゃんもこっち!」
 まだ年齢的に飲むことが出来ないメンバーはジューズを片手に料理を楽しむ。
「んー……お酒を楽しむには少しばかり歳が足りないのよね。残念」
「もう少しすれば飲めるようにはなるけれど」
「わたしも、子供の身体だから」
 お酒を飲んでいる周りの大人達を羨ましそうに眺める三人。
「ほんに、そないな顔してどうした? この桃水居るか?」
 優しそうな村人が寄越したのは、桃を浸した蜜と氷の入った杯。
 これを冷たい水で割れば美味しい桃ジュースの完成である。
 三人は差し出された桃水に目を輝かせた。一口飲めば、冷たい甘さが舌を滑り落ちていく。
「美味しい!」
 上質な甘味はまるでカクテルの様なのだと気づくのは、もう少し後なのだが。
 ルアナは涼しい風に身体の熱が抜けていくのを感じる。
 視線を上げれば。
「わぁ……」
 夜光蟲のほのかなあかりと、見上げれば満点の星空。
 圧倒的な美しさにルアナは心を奪われる。
「自然って、すごいねぇ」

 元の世界では催事があれば神楽の奉納をしていた焔は、せっかくだからと舞を見せる。
「皆も一緒にやってみない?」
「……たまには、剣舞なんて披露してみようかしら ?性に合わなくて滅多にやらないから、こればかりは少し自信がないのだけれど……でも、こんな機会だしね?」
 焔と佐那。二人の舞に村人や妖怪たちも目を細め大いに湧いた。
「皆盛り上がっておるようじゃし妾も一発芸を披露しちゃおうかの!」
 そこへアカツキの炎が混ざる。
 ギフトを使って。
「……火球蹴鞠からのーー火球曲芸じゃーー!」
「「おおー!」」
 やいのやいのと祭ばやしも大きくなっていった。

 夜光蟲が空へと舞い上がる。蝶の羽ばたきの様にひらひらと青い光を放ち美しくのぼっていく。
 篝火の暖かさも和らぐ位置に無量は静かに座っていた。
 ふと近づいてくる気配に振り向けばウィズィが酒瓶を持って近づいてくる。
「どう? 手加減。うまくできた?」
 丸太に腰掛けた無量の隣にウィズィは座り込む。
 相手を殺さない剣筋。無量にとってそれはとても難しいものなのだろう。
 けれど、人の愛を知りたいと思うのならば、必ず覚えなければならないもの。
「加減をする、相手を慮る事が斯様に難しいとは思いませんでした……」
 僅かに視線を落とした無量は、舞い上がる青い光が視界の外へ出ていくのを見つめていた。
 この戦いが無ければ命を奪わずに戦いを終える事は叶わなかった。
 そんな事は出来ないと首を振って、一歩が踏み出せなかっただろう。
 真の意味で衆生を救う為、愛を知る為。
 無量は殺さぬ事を身に刻まなければならないのだ。
「活命剣、会得にお付き合い頂けますか。ウィズィニャラァムさん」
 黄金の視線はウィズィに向き直る。真っ直ぐに。青い瞳を見つめている。
 本当はこんな事を聞かずとも答えなど分かっている。それ程までに心を預けているのだ。
「……人を助ける剣。一緒に練習しようね」
 はにかむように笑ったウィズィに、無量は僅かな安堵を覚えた。
 分かりきった応えを貰えることは。其れだけで嬉しいものだから。

 紺の夜空に篝火の爆ぜる音が木霊する。登る青い命は天の川に身を注ぐ――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。如何だったでしょうか。
 またのご参加をお待ちしております。

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