PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:わたし、めりーさん。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



『わたし、めりーさん。今××にいるの』

 とある男子学生のaPhone(アデプト・フォン)に届いたメッセージはこれだけだった。丁度学園で昼食をとっていた学生は首を傾げる。誰かの悪戯メッセージだろうか、と。そんなことをしそうな知人はいただろうか、この場所を知っている知人は誰だっただろうか。そんな考えを巡らせながら、その画面をスクリーンショットしてメッセージ自体は削除する。証拠は残しても本物自体を残してはロクなことにならないとその青年は思っていた。
「おーい、そろそろ昼休み終わるぞ。食べ切れるのか?」
「え? あ、やべ」
 真向かいにいたクラスメイトに言われて時計を見れば、もう少しで鐘が鳴る時間。目の前にはまだ半分以上残った昼食がある。それを掻きこむように胃の中へ押し込み、次の授業が体育だったと男子学生が思い出す頃には悪戯メッセージのことなどすっかり頭から抜け落ちていたのだった。

 ──が、次の日もまた同じようなメッセージが飛んでくる。今度は授業中に来ていたようで、休み時間に気づいた。
『わたし、めりーさん。今△△△商店街にいるの』
 今度は画像付き。どうやら本当に書いてある場所から撮ったものらしい。昨日より近い場所だな、なんて思った男子学生はぶるりと身を震わせた。
「おう、どうした?」
「顔真っ青だぞ。保健室行くか」
 携帯を見ながらも駄弁っていた友人たちが男子学生を見て心配そうに声を上げる。青年は2人の顔を交互に見ると、そのメッセージをそっと見せた。
「昨日も来たんだよ。まるでこっちに向かってるみたいでさぁ」
「きっも」
「警察に行ったらどうだ?」
 昨日のスクリーンショットを見せれば1人は顔を顰め、1人は警察を進める。この世界で警察が役に立つのだろうか──そう思うかもしれないが、少なくとも日常を再現したこの東京内で『人間らしい事件』なら動いてくれる。それは再現性東京でなくても、彼らの元居た世界でだって同じだろう。
 不思議な怪異はただの悪戯としか見られない。
 けれどもそこに人の悪意と証拠があれば動いてくれる。
「……そうだな。続くようなら行ってみるよ。ストーカーかもしれないし」
 男子学生は冴えない顔色で笑って、携帯をしまう。もうすぐ次の授業だ。

 ──けれども。寮へ帰るはずだった男子学生はその後姿が見られず。行方不明として警察に届けが提出された。



「夜妖<ヨル>が発生したようです」
 そう告げたのはカフェ・ローレットの受付嬢であり、夜妖<ヨル>退治のプロフェッショナルである音呂木・ひよのだった。視線を向けるイレギュラーズにひよのは『メリーさん』なる存在を知っているか問いかける。
 メリーさん。メリーさんの電話とも呼ばれる怪談系都市伝説のひとつだ。けれどもこれは派生した話が多く、共通しているのは『何度も電話がかかってきて居場所を伝え、その場所がどんどん自らへ近づいてくる』という点である。
「似たような怪異がここで起こっています。アデプト・フォンに──」
 ──Pi。
 丁度イレギュラーズの手元にあったアデプト・フォンが通知音を上げる。視線が束の間そちらへ向かい、イレギュラーズとひよのは顔を見合わせた。
「……どうぞ?」
 ひよのに促されるままイレギュラーズはアデプト・フォンの画面を立ち上げる。新規メッセージ1件。差出人は『めりーさん』。
 その画面をひよのへ見せると、ほんの少しばかり眉を上げた彼女は小さく肩を竦めた。
「……飛んで火に入る夏の虫、ですね」
 これが件の怪異らしい。手元にメッセージが現れたということは、イレギュラーズ自身が標的になったというわけだ。
 このめりーさんの怪異はメッセージで自らの居場所を知らせるのだと言う。通知は不定期で、メッセージを返してもそのメッセージに対する返答はない。ただ一方的に居場所を知らせ、最後にはその人物を連れ去ってしまうらしい。
「連れ去られた被害者がどうなっているのかはわかりません。ですが、まあ……」
 生かしておく理由はないでしょう。ひよのは淡々とそう告げた。
「これ以上怪異を広げるわけにはいきませんからね。偶然にも……と言うには出来過ぎているように思えますが。呼ばれた同士と対処してみては?」
 ほら、と示された先には──同じようにアデプト・フォンを見て変な顔をするイレギュラーズの姿があった。

GMコメント

●成功条件
 夜妖<ヨル>の退治

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●前提
 このシナリオに参加した8名は須らく『めりーさんに目を付けられた』者たちです。
 故に狙われた瞬間を返り討ちにするため8人でそれとなく一緒に行動することとなります。

●めりーさん
 aPhoneを持つ者を標的とした怪異です。『わたし、めりーさん。今──にいるの』というメッセージを不定期に発信し、その居場所は段々とaPhoneの持ち主へ近づいて行きます。どうやら近づくほどメッセージ発信の頻度は上がっているようです。しかし肝心の実態は被害者が全て行方不明になっていることから全く分かりません。
 そのため、以下には異世界(混沌以外)で知られる似た都市伝説の一部を記載します。
・メリーさんは捨てられた金髪少女のお人形である。
・メリーさんは車という大きな機械に惹かれて死んだ女性の霊である。
・最後に発信するメッセージでは、居場所が『あなたのうしろ』である。
・最後に発信するメッセージのタイミングでは、不思議とメリーさんに目を付けられていない者が傍にいない。
・上記メッセージで振り返ると刺される。この話では被害者が生存している。
・上記メッセージで振り返ると殺される。殺されたあと仲間にされるという話もある。

●フィールド
 再現性東京の希望ヶ浜内であれば自由です。学園でも、寮の裏手でも、近くの公園でも。
 めりーさんの実態が掴めない代わりに、メタ(PL視点)的にフィールドを選べるとします。注意すべき点は以下の2つです。
・人が集まる場所ではめりーさんが登場しません。そのような場所を選んでもめりーさんは出現せず、依頼失敗となります。
・あくまでPL視点で場所が選べるだけであり、PC視点では『偶然』のタイミングとなります。よって特定の場所での事前準備はできません。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●ご挨拶
 愁と申します。
 こうした怪異を書くたびに自分は同じような目に遭って死ぬんじゃないか妄想するくらいにはホラーが苦手です。じゃあ何故書くかって? 思いついてしまったからさ……。
 というわけで怪異を蹴散らしてください。切実に、よろしくお願いします!

  • 再現性東京2010:わたし、めりーさん。完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月14日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
鐵 祈乃(p3p008762)
穢奈

リプレイ


 再現性東京2010街『希望ヶ浜』は、練達に作られた再現性東京の1つである。旅人(ウォーカー)の言うニホンのトーキョーを模して造られたそれは、ウォーカーの中でも混沌という異世界を、非現実を受け入れられなかった者たちが辿り着く場所となっていた。そういった者がこの街に来ると、なんだか日常に戻ったようで安心するらしい。
(あたしからすると、この街の方が非日常って感じなんだけどね)
 『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)は開けられた窓から吹き込む風に束の間目を細めた。例え異世界のような街にいたとしても、風は変わらない。どこでだって吹いて流れるのだとニアに感じさせる。視線を手元に戻したニアは、握ったソレを見て小さく眉根を寄せた。
 aPhone(アデプト・フォン)と呼ばれるこれは、希望ヶ浜でのみ使用することが出来る機械らしい。練達ならではと言うべきか、それとも異世界凄いと言うべきか。ニアからすれば使い方も分からないような箱である。
 使い方教えて、と通りがかった年頃の近そうな少女に声をかけるニア。相手も彼女が最近多い編入生であると気づいたらしく、aPhoneの使い方を丁寧に教えてくれる。ぴこぴこ、と震える猫耳に気にした風もないのは学園内でそれらの理解があるからであった。
 この学園では本来のような教育の他、悪性怪異<ヨル>に対抗するための人材育成も行っている。故に、この場所では獣種や海種、幻想種といった『彼らにとっては非日常な存在』も受け入れられるのである。それは必然的に、ヨルに関しても認知されているということだ。
「最近、めりーさんの噂があるみたいだね」
「ああ、ヨルね」
 少女は少なからず噂を聞いたことがあったらしい。というのも、この希望ヶ浜学園内でも行方不明者が出ているからだと言う。この街の者が狙われるとするならば、学園に通う者もまた例外ではないということだろう。
(参考になりそうな話も聞けるかも)
 話が通じる相手にニアはほっとする。学園生活もどうなることかと思っていたが、これならばどうにかなりそうだ。
 一方、『Ephemeral』ハルア・フィーン(p3p007983)と『心は昔よりも燃え上がる』節樹 トウカ(p3p008730)は苦戦していた。この街の警察なる存在にめりーさん関連の行方不明者を聞いてみたのだが、逆に不審な表情を浮かべられてしまったのである。
「メリーさんなんてただの都市伝説なんだ。行方不明となるには必ず誰かの意思が介在しているんだよ」
 都市伝説が本当になるわけがない。それを純粋に信じきっている顔だった。トウカはけれどと困ったように言い募る。
「友人がめりーさんの正体を掴んでやる! って意気込んで無茶しようとしてるんです。これだけ行方不明者が出てるって教えてやれば、そんな無茶を止めてくれると思いまして……」
 トウカの言葉にさしもの警察官も同情せざるを得ないのだろう。しかし相手は頭を振り、協力を固辞した。メリーさんなどという存在を主張する者は数人いたようだが、誰もそんなものは信じていない。調査の記録に残るものでもないのだ、と。
「うーん……街に出ちゃうと難しいね」
 警察署を出たハルアはまだ陽の高い空を見上げる。希望ヶ浜学園を始めとして学校は夏休みという長期休暇に入っており、外には出歩く人も多い。けれど通行人にめりーさんの話をしても『ああ、あのメリーさん?』と同じような都市伝説の話しかされないのだ。実際に起こっている行方不明事件に繋がるものはない。
「ネットのオカルト板も同じようなものだなー」
 aPhoneを開いたトウカは検索でヒットした情報を流し見る。誰それが行方不明になった、メリーさんだというものも多少はあるが、大多数は似て非なる都市伝説の集合体と言うべきだろう。
 ──Pi。
「「あ」」
 2人の声が被る。顔を見合わせた2人がaPhoneを開くと、そこには1件のメッセージだ。

『わたし、めりーさん。今■■■にいるの』

 同じメッセージが同時に、個人のチャットへと流されている。メリーさんが複数人いるのか、それとも怪異の力で以て物理的な障害などものともしないのか。
 続いて同じ通知音が鳴り、今度は学園にいるニアからのメッセージ。やはり学園の方が情報は集まるらしい。遠くに居てもこうして希望ヶ浜にいれば使える連絡手段は有難い。何より──。
「自分だけの『めか』ってわくわくするねっ」
 こうしたものに触れる機械などなかなかあるものではなく。しかも自分専用となれば高揚感も抑えがたいとハルアはキラキラした瞳でaPhoneを眺めた。
「そうしたら、ボクは学園に行ってみようかな」
「ああ、それなら先にカフェ・ローレットでもいいか?」
 学園にはニアもいるし、カフェであれば学園外だとしても関係者が多い。もう少し情報は集められるだろう。まだめりーさんからの受信メッセージは頻度も低く、接近はまだ先だと思われた。
 そうして情報収集にあたった一同は残りの面々と合流する。『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)はぐるりと見渡し、8人揃ったことを確認した。
「とりあえず動かんといかんばい」
 学園内とはいえ、ここでは人が多い。皆が集めてきた都市伝説のひとつには『他者がいない時に襲ってくる』という内容もある。何よりもまず会えなければどうすることもできず、オーダークリアにも届かない。人間種とは異なる外見のイレギュラーズもいるため、場所は学園にほど近い廃ビルの屋上となった。そこならば余程の用事が無い限り人が上がってくることはないだろうし、移動距離としても街の住人に気付かれることはないだろう。
 ──Pi。
「ひっ」
 新たな通知音に『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が肩を跳ねさせる。同じタイミングで全員のaPhoneが鳴っているのだが、仲間たちは特段驚いた様子もなく廃ビルへ向かっていた。
(ひえぇ……皆随分冷静じゃないのよぅ……)
 カンカンカン、と階段を上がる音が響く。仲間同士でなるべく背後を気にするようにはしているが、それでも移動中であればどうしても意識の届かない部分はあるだろう。故に──怖くて後ろ向けない。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないのだわ……」
 『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)の問いにげっそりとした声が返ってくる。よく皆普通にしていられるわね、とも。
「オレにとっちゃ本業再開だからな」
 風牙は元居た世界を思い出す。不思議な縁もあるもので、風牙もまた『現代ニッポン』と呼ばれる世界から召喚された者であった。彼のいた世界でも異生たるモノがおり、師匠について彼らを退治すべく研鑽を積んでいたのである。
「それにしても、返事はなしか」
 屋上へ着いた『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はaPhoneの画面を見るが、そこに新着通知はない。ダメ元でめりーさんへメッセージを送ってみたが、やはり不発か。
「アデプトフォンを破壊したらどうなるかな?」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はしげしげとメッセージの浮かぶ自らの端末とビルの下を交互に見る。この端末を出現する座標を知り得ているのならば、仮にどこかへ置いてきたり壊したりしたらどうなるのだろう。
 ゼフィラは仲間たちの何とも言えない視線に気づくと苦笑を浮かべ、冗談だと告げる。学園から貸与されている物を壊してしまったら出禁をくらうかもしれない。あくまで可能性の話、ではあるが。
「試すのも危ないし、ここはこの目で確かめようじゃないか」
「めりーさん、きっと可愛らしい子なんやろな。名前が可愛いもん」
「怪異だか妖怪だかしらねぇが、歓迎してやろうじゃないか」
 ──Pi。
 再びの通知音が鳴り、各自の背中に注意を払いながらメッセージを確認するイレギュラーズ。そんな中でも朗らかな様子に華蓮は思わず気が抜けかけるが、いやいやと頭を振る。メッセージが指標になるとはいえ、何が起こるか分からない。
(そもそも何で連絡先知ってるの……何で急に後ろから来るのよ……)
 何でも都市伝説『メリーさん』は不意打ちのように背後から襲い掛かってくるのだと言う。華蓮としては視界に入る場所から朗らかに「やあ」と片手を上げながら挨拶してほしい。それくらいに心の余裕を持たせてほしいと切に願っている。そんなことをする怪異がいたら、それはそれで不気味ではないか──なんてツッコミは置いておいて。
 そんな間にもだんだんとめりーさんからのメッセージは多く送られてくるようになる。画像付きで商店街、学園前、そしてビルの下。階段を上ってくる音はしないが、緊迫感が張り詰めた。
 ──Pi。

『わたし、めりーさん。今あなたのうしろにいるの』



 メッセージを見たと同時、仲間の背後に黒い影が現れる。風牙は声を上げると同時に自らの背後へ槍を振った。
「メッセージを『見た』瞬間に成るんやね」
 運命(パンドラ)の欠片がいくつか煌めき、その軌跡を描いて消えた。
 祈乃は獄相を露わにすると後ろへ振る。その手ごたえを感じながら距離を取り、イレギュラーズたちは各々の背後に現れためりーさんを囲むように立ち回る。華蓮とゼフィラはすかさず天使の歌を響かせ、不意打ちの攻撃で崩れかけた戦線をすぐさま立て直す。風牙はにっと好戦的な笑みを浮かべ、彗星の如く駆けた。
「夜妖<ヨル>退治、始めるぞ!」
 敵方の奥まで踏み込み、周囲の敵を薙ぎ払わんと一閃。続いてブルーブラッドの勘で不意打ちを回避したニアが風を操る。
「獣種に不意打ちが通用すると思ったかい?」
 彼女へと誘う風がめりーさんの注視を集める。けれどもめりーさんは都市伝説にあったような金髪でも、女ですらない者さえいるようだ。
(もしかして、めりーさんの被害者……?)
 ハルアは掌底を向けながらめりーさんたちの様子を見る。表情の浮かばない淀んだ瞳はどこを見ているのかもわからず、けれども確かにニアへ注意は寄せられているようだ。
「仲間に任せてばかりじゃいられねぇな」
 ニアと同じくブルーブラッド故の危機回避をしたエイヴァンもまた、彼女同様に敵を引き付けんと声を上げる。その屈強な体では被害者の身体を壊さずして止めることは難しいが、そこは適材適所──仲間の出番だろう。
「一番怖がってるもんば狙って現れそうな予感がしたんやけど」
「……えっ私!?」
 ちらり、と祈乃に見られた華蓮が動揺するが、残念ながら(?)めりーさんは全員の後ろに現れた。予想外れ、ということになる。
「同時に8人狙ってきたのも、こういうことだからだろうな」
 祈乃の拳が肉薄した直後をトウカは狙う。相手の力をも利用したカウンターだ。モロに喰らっためりーさんが地面を転がり、しかしすぐさま起き上がる。
 めりーさんたちの一撃は充分な脅威であり、回復手の要ともなる華蓮と攻守両方の術を持つゼフィラが、そのリソースを回復の為にすべて回してもやや足りないと言う程。けれどもめりーさんたちは常に一撃で相手を屠る短期決戦型なのだろう──その体は反応が良い代わり驚くほどに動きが鈍く、脆い。
(なら仲間が倒しきれるまで、きっちり時間は稼がせてもらうさ)
 ニアは全力で防御態勢を取りながら時折その気を逃さないように風を吹かせる。そう、そのままこちらを見ていると良い、と。
「めりーさん、今キミの後ろにおるよ」
 祈乃が巨大な左手を握り、殴って昏倒させる。エイヴァンがサポート体制で自らの体力を底上げした横を、風よりも早く走る影が過ぎていった。風牙は槍を手に自らの使命を思い出す。『人の世に仇為す『魔』を討ち、人々の平穏を護る』という、元いた世界で掲げていたものを。
「──その使命を、今果たすぜ!」
 組技で地面へ落ちるめりーさん。1体、2体と数が減っていく中ハルアは残っている内の1体である『最初のめりーさん』らしき個体へ口を開いた。
「……さびしいの?」
 その言葉にめりーさんはピクリと反応した。どうやら言葉は理解できるらしい。トウカの放った鬼血が蛇腹剣へと変化し、その刃は峰打ちの威力で他のめりーさんを昏倒させる。やはり犠牲者が操られているようだが、
「全員、」
「ああ。死んでいるな」
 トウカが途中まで呟いた言葉にエイヴァンは頷いた。これは死人の身体を操る何らかの術が行使されているのだろう。
「ハルア、任せて良いかい?」
 自らでトドメがさせないと判断したゼフィラがめりーさんの前へ立ちはだかり、思う様には移動させない。応じるようにハルアはめりーさんへ向かって駆け始めた。
「ボクは見てるよ。出会うみんなのこと」
 もしもそれが誰にも見られなかった『誰かの心』が作り出したのなら。ハルアはそんな心が確かに在ったのだと覚えていよう。他の誰が忘れてしまったとしても、必ず。
「だから、安心して──おやすみ」

 めりーさんの身体が屋上の床へ転がる。全員倒したことで、ようやく緊迫の糸は緩められた。
 けれども廃ビルの上は惨状だ。夕暮れの光がその色身を多少誤魔化しているが、流れ出たモノがなんであるのかは想像に難くない。殺さないようにと撃たれた最後の一撃も、既に死んでいては意味のないものだった。
 物言わぬ骸となった被害者に黙祷したハルアは、顔を上げた正面に第三者が現れて目を丸くする。咄嗟に武器へ手をやったイレギュラーズだが、フードを目深にかぶったその人物は「掃除屋です」と告げた。
 掃除屋──カフェ・ローレットのアルバイターに身をやつし、非日常の痕跡を消す者である。
「お疲れ様でした。あとは私が掃除しておきましょう。皆さんは降りて頂いて構いませんよ」
 柔らかく、しかし有無を言わさない語気。イレギュラーズは頷くと階段をゆっくり降り始める。ニアは横目に倒れためりーさんたちを映した。
(こんな魔物、いったい何処から)
 その問いに解はない。あったとするならば、怪異の大本たるそれは既に根絶しようと動いているはずなのだから。
 ハルアは階段を降り切ると廃ビルをを見上げる。人に見つからないようにと高い場所を選んだビルの屋上は、地上からではとてもではないがその様子を伺えない。掃除屋もまた、誰にも見られない状態でめりーさんの残滓を消しているのだろう。
 ──どうか、安らかに。
 ハルアはめりーさんへ祈りを捧げると、aPhoneに残っていたメッセージを削除したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ──わたし、メリーさん。忘れないでね。

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