シナリオ詳細
ローレット・トレーニングVII<海洋>
オープニング
●青の先、その次は?
海洋王国、リッツパーク女王の間。
絶望の青攻略、新天地の発見。
海洋王国の悲願を達成した当代女王イザベラ・パニ・アイスは、新たな政務に追われていた。
「それで、大演習をしたいと申すか」
「はい、陛下」
ソルベ・ジェラート・コンテュールは慇懃に翼を折り、女王の前に首を垂れる。
「前人未到の悲願を叶えた、我らが偉大な海洋王国軍。しかしながら、リヴァイアサンとアルバニアとの戦いで我々が受けた打撃は、決して少なくありません。
……ひとたび夢をかなえたことで、次の航路を見失う者たちも。
交易路が拓かれた今。海賊も活発に活動を始めています。
このタイミングだからこそ、イレギュラーズたちとの合同演習をやる価値があるのです」
(つまり、気が抜けてるから、ちょっとイレギュラーズに鍛えなおしてもらいましょう、陛下、と申すのじゃな?)
ソルベの目が抜け目なくきらりと光る。
「そ、こ、で! 心を一つに、大演習というわけです」
「ふむ……」
無論、目的はそれだけではない。
事が成ったとみるや、共通の敵を見失った海洋王国。
鳥種と海種、二つの種族で席を取り合う貴族たちの動きはなおも活発になってきている。
「鳥種と海種、忌憚なく力を合わせ、我らの力を見せてやりましょうとも」
カムイグラの利権にうるさいですし。僕も商売の手を広げたいですし、とはソルベは口に出さないが。これもまた、ひとつの水面下での戦いか。
ソルベの妹、カヌレが兄が元気になってうるさいと、少しうれしそうに言っていた。
この感覚が、イザベラは少し懐かしくもあった。
ソルベもまた、同じであるのだろう。
「ふむ、分かった。合同演習の準備をするのじゃ!」
●海
あの海が、絶望の青と呼ばれていたのは。
まだほんの僅か、前のこと。
祝福は伝説へと変わり、英雄は歴史の上に永遠にその名を残すこととなった。
サンブカス=コン=モスカ辺境伯は、鋭い目で地図を眺めていた。
数多い生命が、絶望を超える祝福を受け、海に飲まれていった。
サンブカスは神に祈らない。
だが、それについて考える時間は増えたように思える。
この世界の、仕組みというものについて。
リヴァイアサンが眠りについてなお、残された責務に果てはなく。
だからこそ、サンブカスは今日も穏やかな笑みを浮かべている。
「やあ、ローレットの諸君。演習をするらしいね。僕も時間が許せば、見に行くこともあるかもしれないね」
- ローレット・トレーニングVII<海洋>完了
- GM名布川
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年08月17日 23時15分
- 参加人数107/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 107 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(107人)
リプレイ
●ロレトレ開幕!
船の上、ハンモックでのんびりと揺られるエイヴァン。
(優秀な部下たちもいるしな。オレの出る幕はない……)
と、そこへやる気満々の上官と部下がやってくる。
「準備しておいたぞ大佐!」
「やりましょう、大佐!」
「何、旗艦として動けだって? 将官も幾人か乗艦するだぁ? いやいや、他に適任がいるだろ」
これではサボるどころではなく……。
トレーニングの開催を告げる音は、エイヴァンの打ち上げたド派手な花火だった。
●射撃訓練、用意!
「なんだかんだあったデスけど、やっぱり海はいいデスね。
気軽に砲撃をぶっ放せるデスから」
潮風だけはいただけないが、と地平線を眺めるレミファ。
「うおおお! とーちゃーん! もっと強くなるためにトレーニングにきたぜー!」
「君たちもかい?」
晴れやかな顔でガトリング砲を担いでいるワモン。
メリッカは手ぶらだが、視線を見交わせばわかる。
マギ・インスティンクトで本能を開放する。右目が淡く光り、水宝玉の如く輝いた。
「これで『弾切れ知らずの魔砲』の基礎が完成ってわけだ」
レミファがパチンと指を鳴らせば、巨大なFFフリークスが姿を現す。
「それでは!
Fire!
デス!」
「うなるぜー! オイラのガトリングがうなりをあげるぜー!」
海に向かって一斉掃射。
「にゃーん!? ……はっ。つい理性が。」
浮かび上がってきた魚に、猫子は慌てて口を拭う。
「へへ、訓練もできてお腹もいっぱいに、まさにパーフェクトってやつだな! オイラの頭脳めーせきさが怖くなるぜー」
「ちょっとサメを齧ってくるなのー!」
チシャがぴょんと跳ねる。
「さぁ、氷の狼の遠吠えを聞くがいい」
マストに潜み、研ぎ澄まされたリーディアの射撃は、正確に兵士を射抜いていった。
「ほら、そこ。サボってるんじゃねぇよ。演習だからって手を抜くな」
「ああ! くそっ何で俺がこんなこと……あ、すみません今すぐ!」
ミーナの檄に、旭日が慌てて大型のボルトアクションライフルを構え直す。
「うわっ」
反動で大きくのけぞったが。
的は射抜いていた。
「おい、今笑ったやつ。実戦ではしっかりやるからいいだろって甘えた考えのやつから、死んでいくんだぜ戦場では。死神の私が証言してやるよ、そういったやつを腐るほど見てきたからな。
この海を乗り越える為に傷つき死んでいったやつがいる。
道半ばで身体を作り変えられ、無理やり敵対させられたやつもいる。
そんなやつらがいて、今のお前らは生きてんだ。手を抜いてそいつらの顔に泥塗るつもりか?」
●白兵戦、開幕
「海洋の大演習とはね。これはまた派手にやってるじゃないの。私はこういうの大好きよ?」
マヤは景気づけにラム酒を取り出し飲み干した。
「さぁ、派手に行きましょうか?」
銃とカトラスを抜き、威勢よく名乗りを上げる。
「私は海賊マヤ・ハグロ! 恐れを知らぬ者は、この無法者にかかってくるがいいわ!」
シルキィのチェインライトニングがあたりを照らす。
デボレアが大きく海から飛び上がった。
太陽を背に、目をくらませ一撃。マヤはカットラスで受け止め、シルキィのチェインライトニングをひらりと避ける。
「やるわね!」
「そちらこそぉ」
「あなたの強さは本物だけど、この私にはまだまだね。もっと私を満足させてみなさい!」
「わぁ……! この世界に、こんな海の国が有るなんて!」
カスミは感嘆の声を上げる。
(相変わらず綺麗だ。ここでたくさんの人が戦って……傷ついて。そしてカムイグラへと道が繋がった)
ドゥーは海を見つめていた。
「絶望の海って呼んでたのも、もう過去の話になっちまうんやなー」
水城は感慨深そうに言った。
「なんか、こう。伝説を目の当たりにした生き証人やっつー興奮と、……なんやろな、なんかわからんけど少しばかりの寂しさっつーか……」
朱鷺子は息を吐いた。
死にたくない。そう思ったのは生まれてこの方初めてのこと。
(私も、あの戦いで一番前を走っていた人たちのように。自分の意思を示せるように)
「トレーニング、します!!」
「うんうん。気迫は大事やね。だーいじょうぶやって、うちも最初は苦手やったけどすぐ慣れたもん。できるできる」
盾を構えるカスミの肩を、水城がぽんとたたく。
「ここは、皆さんの胸を借りて、おきましょうか……」
閠は、覚悟を決めて目隠し布を外した。
その瞬間。
閠は、目の前の全てを敵と認識する。
「そういうところが、嫌いなんだ……」
閠は素早くエメスドライブをたたき込む。
その迫力は、実戦さながらで。
自らの忌むものと向き合うのは、どれほどの決意か。
強くなりたい。
この場の多くが、同じ思いだ。
ドゥーは初めてこの世界に……そしてこの国に来た時よりも身体がよく動くのを感じた。
(もっとたくさんの人を守れるように、もっとたくさんの人を救えるように)
次なる戦いのために。
「さ、いらっしゃいひよっこ共」「さあ。かかってきなさいひよっ子ども!」
イーリンとウィズィは一度にゆうに十人を一気に相手取っていた。……それくらいの差がなければ相手にならない。
「騎兵隊の頭目と言えば少しは聞こえが良いかしら?」
「イーリンと息を合わせて戦ったときの戦闘力は2倍なんてもんじゃないぜ?」
イーリンは瞬天三段を繰り出し、返す刃で、落首山茶花を繰り出す。
イーリンから崩せ、と思えばウィズィは身を翻してイーリンをかばい、刃を向ける三人をのす。
イーリンのカウンターに合わせて、ウィズィが巨大なテーブルナイフを突きつける。
「OK? 個々人の力には限界があっても、味方と連携できればこれだけの力を出せるわけです。先の決戦でも、海軍の助けが無かったら我々はきっと負けていた。力を合わせたからこそ勝利できたんだ」
「わかった? 相手の能力を推し量り、適切に対処を組み立てる。当然崩された時の対処も考える。味方を生かすためには信頼と――」
「必要なのは。お互いへの感謝と……愛。だよね、イーリン?」
イーリンは、ウィズィの言葉にくすっと笑って、
「ま、愛ね。色々あるけど」
とウィンクを返す。
●探求者たち
「……ずうっと閉じこもっていたら、いつの間にかここにいた」
ハインは演習風景をにらむ。
「どうして召喚されたら弱くなってるんだよ……動かないでも今までは色々できたのに。誰だって倒せたし、なにもしないでも生きてこれたのに。混沌肯定? レベル1? 知ったこっちゃない。冗談じゃないよ……」
ある者は好奇心に目を輝かせ。
ある者は呆然として、ある者は運命におびえ。
共通しているのは、この状況は複雑すぎるということ。
「わたしたちね、ここに来たばかりなの。
わからない事もいっぱいで。だから……もし良かったら、なのだけど
みんなであちこち見て回ってもいいかしら!」
ハリエットはくるりと回る。
「わたし? わたしはハリエット。どうかハリーって呼んで」
「……それなら僕も行く。連れてってよ。なんにもしないでぼーっとするには、あまりにここはつまらないよ」
次第に一人、また一人と増え。
【イレギュラーズ・エクスプロール】と呼称する。
「何にもできない、まるで生まれたての私たち。それぞれの“これから”を見つけにいくの。
剣戟を、魔法を、学問を」
「……面白い。何の装備もスキルの取得も行わず、ただ召喚されたままの姿でイレギュラーズの先達の訓練を見て回る、とは」
アルバは白兵戦を遠巻きに眺めている。
レベル1から始める、彼らの可能性は無限。
「新しい神話の生まれたこの場所こそが、我々の目指す可能性だ」
「ええ……あちこち見に行って、最後には海に行きましょう。これから巣立つわたし達の目標、伝説の海へ」
「どうして? こういうの、噂話じゃなかったの?」
火薬のにおい。容赦のない刃の競り合い。
呆然と非日常を眺める雨下。
「存在しないって教えられて、ずっと信じてたのに。家族と一緒にいて、学校に行って、それが当たり前だって思ってたのに。イレギュラーズってなんなの……?」
「気持ちは、わかるよ」
冬夜は、雨下を慰める。裏腹、それほど不本意でもない。
思い人とともにあるのだから。
「……わたしも、見つけなきゃいけないの? 戦うのね」
「楽しみだな」
強いね、という雨下。
(ううん、君を守る力が欲しいだけ)
(情報とは、価値でございます)
どうやら、自分は旅人と呼ばれる存在らしい。レリークは初めてそれを知った。
(いえ、それらは全てどうでもよろしい。ただ私はこの世界で財を築く為の足がかりが欲しい、それだけなのでございます。戦闘力を、地位を、名声を得、結果的にそれらを財へと変換する為の適法を探したいのでございます)
いるだけで場を高揚させる者。説得が巧みな者。そこにあるだけで、異常な信仰を集める者。
(……ふむ、非戦「スキル」ですか。それを強化する「アイテム」もあり、闇市なる存在もある、と。
まさしくゲームのようですね。ふふ、少しばかり定まりました)
そう、これはこの世界のチュートリアル。
「わたしはねぇ〜〜〜〜〜? おとこのことおとこのこがね? なかよくしてるのがみたいのよ〜〜〜」
オリーヴォエルは熱っぽく語る。
「訓練ともなればね? そりゃあ男の子同士特訓するものでしょう? 激しくなれば声も出るわ。わたしはね、それに合わせて手拍子しに来たの。ほら? 一緒の皆さんもどうかしら?」
「わーーーーーーい! たのしみ! イレギュラーズ すごい! すごい!
かっこいい! しゅぎょう! しゅぎょう! ろれとれ!」
りゅーははしゃいで、光景を目に焼き付ける。
(スキル クラス アイテム ギフト 全部 りゅー の おえかき のため!
しんいき へ かえりざく!)
「最悪。ほんと最悪。人酔いする……なんなのかしら……なんであんなにめっちゃ人いたのよ
イレギュラーズってそんなにポンポン増えるものなの?」
イドは額を抑えていた。
「全く……これからの参考? 知ったこっちゃないわよそんなの……」
ふと目に入ったのは、攻撃をすべてかわし、競り勝ったウィズィの姿だった。
「ふむ、ふむ……なるほどね? 誰にも触れられないのね? それで強いのね? ……いいじゃない、強くもなれて人避けもできる」
「どうかしら?」
首尾を訪ねるハリエットに、イドは返事を返すことができた。
「目標、決まったわ」
●海を制する者たち
「海! 海水浴! ついでにトレーニング!」
ダナンディールは、ウミヘビのようにシュバババと体をくねらせ泳いでいく。
「うわっ、何だ! 早いぞ!?」
「パイロキネシスどーん!」
「わぁっ!」
「なるほど、水中でのパイロキネシスの効果は……」
トーラは、ダナンディールの魔術を興味深そうに記録する。
「もらいっ!」
カイトの船が肉薄し、あっという間に船をひっくり返した。
「当然だろ! 鳥種勇者様ぞ? 水神様の加護を受けしものぞ?」
船体をつかったラムアタック。
かと思えば投網が投げられ、またもやボートがひっくり返る。
「またです! あの赤い羽根ぇーー!」
風はカイトに味方して、船はぐんぐん加速していく。
どこか誇らしげなカイトの父親の姿があったとかなかったとか。
「あれはまねできません。基礎から行きましょう」
マリナは、新兵に船の操船を教えていた。
縦横無尽のカイトの船を、少しまぶしそうに眺めながら。
「絶望の青越えも叶って、イマイチ目標を見失いがちですが……海の男として、弛まぬ鍛錬は大事ですね。まぁ私は女ですが」
「わあ、高波が!」
(まぁ、まぁ、慌てず、海のように広い心で事に当たるのです
冷静さを欠いては出来ることも難しくなってしまいます)
●研究日記!
海岸の洞窟。
天井の大きな水晶を、マリリンと那由多は見上げていた。
海の調査である。
「さぁ、この触れると結構溶けてしまう液体を……え~い!」
「いくよ、アタックオーダーからのフロストチェイン!」
「次は、うふふ、あく~いをぶつけてやろう。ファントムチェイサー!」
どかどかと攻撃を浴びる水晶は、悪意にきらめき、氷に光り。
「よしよし、なんか光ってて良い感じ……ってなんかこれめっちゃ震えてない!? ねえ大丈夫!?」
「助手よ記録しよう、なんで~こういう時に映像媒体ないんだよ~」
那由多は手帳を白衣から取り出し、メモをとる。
水晶は、しばらくしてどっかんと派手に割れた。
●知る
グリーフの技は兵士を翻弄していた。
「休憩にいたしましょうか……訓練とはいえ、大勢で水に濡れるというのは、非日常的であり……楽しいものなのかもしれません」
「わたし、いろんな方と話をしてみたいのです。
先の戦いを私は詳しく知るに叶わなかったのです。一丸となって戦ったあの戦い。そして、これからのネオ・フロンティア」
アリシアはぎゅ、と弓を握った。
「アニスもです。アニスは起動したばかりなので、まだ歴史のことはデータ上でしか知らないのです。この国にて、つい前まで大きな戦いがあったとお聞きしました。知っていますか?」
「ワタシが目覚めたのは先の一件が終息してから。
この海で、奇跡を起こして皆さんを守り、眠りについた方もいるのですね。
存じ上げませんが……ご冥福をお祈りします。安らかに」
「アニスが海を見るのは初めてです」
「……どこまでも、綺麗な青ですね。
……ワタシにはない色です」
それは、青。
●祈るものたち
サンブカス=コン=モスカに帯同したクレマァダは、そつなく海洋の貴族と挨拶を交わす父親に習っていた。
悔やみの言葉、あるいは激励するような言葉はどこか空虚だ。
(ただ術を磨くでなく。
技を研ぎ澄ますでなく。
今の我に必要なのは揺るがぬ心の礎。
揺るがぬ心と言うならば、父のほかに勝る者を我は知らぬ)
サンブカスの表情は変わらない。
(――父とて間違う)
それは、クレマァダがうっすらと感じていた『モスカ』への違和感に起因する。
(父は神を尊いものだと思っておらぬ。
人を護る為に効率の良いシステムだとしておる)
そして、万事上手く行き、クレマァダの姉は齢17にして命を散らした。
(……ほかの道は、本当になかったのですか? 父上)
サンブカスは、ただ凪いでいる。
「いつ来ても、海は、広いね……」
アクアは素足で砂浜の波打ち際に立っていた。
「みんながここで、必死に闘って、海の向こう側に、たどり着いて……凄いなぁ……イレギュラーズって」
アクアの気持ちは変わらない。
(この世界が嫌い。この運命が憎い。全部壊してなかった事にしたい。
……でも分かってる、そんな事したって、なんにも、変わらないの)
波はただ寄せて返すだけ。
(憎んでいる世界を、救わなきゃ、いけないなんて、変なの……。
復讐は、救った後でも、遅くないよね……?)
波打ち際を歩いて行く。
どこか別の世界で、救われたわたしがいるかもしれない、なんて。
心のどこかで思っている。
喧噪から遠く離れ。
首都リッツパークが見える小高い丘。
史之は、黙々と穴を掘っていた。
(しーちゃんは、ここでなければダメだと言った。
リッツパーク、イザベラ女王が見えるここでなきゃ)
「なんのために?」
「うーん、そうだね。ケジメみたいなものかな」
手を合わせ、黙とうをささげる。
(心中をもくろむほどに、あなたの陛下への想いは、忠節は本物だったと思っているよ。これからはここから陛下を見守るといい)
睦月は朗々と祝詞を唱える。
(死者を葬るのは生者のため。生きている人が再び歩き出せるようになるため。しーちゃんの心が静まるなら、僕は何度でもかみさまのふりをしよう)
「もし……」
「?」
「もし俺が反転するとしたらどんな理由なんだろう。やっぱり女王陛下かな」
「……」
「それはないな。あの方の笑みが曇るようなことがあれば、俺はきっと自分で自分が許せないから」
その横顔に。
ずきりと胸が痛む。
(しーちゃんの心は女王様のもの、知ってる。だけど僕がそばにいること、ねえ気づいて)
痛みを押し殺して、リッツパークを見る史之。
「こうして日常へ還れたのはおまえのおかげかもね、カンちゃん」
「しーちゃんが生きててくれて、僕はうれしいよ」
それは、本心だよ。
祈りを。
白い桜を髪に咲かせた少女……フルールはただ祈っている。
(きっとわたくしの花のように花開く瞬間がやって来ると、そう強く信じて)
フルールの心を占めるのは、月の姿。
(きっと遠くで微笑んで下さると信じているけれど
それでも遠くに感じていますから……とても寂しい)
ふとした瞬間にも、月の影を探してしまう。
(私が初めてこの世界に来てからの大戦、絶海の争い。あの日から今に至るまで、忘れたことはない)
郷はただ海を眺める。
あの日治療した兵士の方達も今は元気にしているだろうか。
あの日死んでしまった兵士達の心残りは解消されたのだろうか。
しばらくその場で祈りを捧げる。誰かが傷つけば、郷はまた手を差し伸べるだろう。
「大召喚のあの日、僕は幻想の方へ飛ばされて、色々あって帰って来れなかったね、本当にごめんなさい。神社の方も荒れてしまっているだろうね。
うん大丈夫。身体には気を付けてるよ」
故郷にて。レイランが祈っていた。
「さぁ、奉納の準備だよ。八百万の神様を奉る向こうの国があるのなら、こちらの国でも祀らなきゃ。英霊たちに捧げましょう。未完成でも踊るのさ」
藻屑と消えても、海と果てても、たとえその血肉が啄まれても歩んでいった先人を、あなた方は今を作った神だ。
レイランは寿ぐ。
(この先の未来を、どうか、お見送りください)
●たゆたう者たち
「よーし! たくさん泳いで体力つけるぞー!」
シグルーンはざぶんと飛ぶ。
ガヴィがたゆたっていた。
波間に、『海』を、アクアを見るものがいたかもしれない。
すいすい、すいすい。ティルは泳ぐ。
迷っているから、泳いで、色々な人が何をやってるか、見て。
(わたしがどうしようか、どんなことしようか、って決めるの)
うさぎのうさこが訓練を見守っている。
「追いかけっこしーましょ!」
三又の槍を構えた瑠璃の呼びかけに仲間が集まってきた。
「さあ、どんどん捕まえるわよ! しっかり逃げなさい!」
「水中訓練、水中訓練しますよ!」
ラビアの呼びかけに、イルカさんと魚さんとクジラさんが寄ってくる。球体型魔術媒体、マリンドライブを構える。
「いくよっ、せーの」
「きゃーーーー!」
ラビアは咳き込んで、ぷかぷかと浮かび上がる。
「は、はしゃぎすぎました……」
「みんなシャーワセだと、あーしもシャーワセっす!」
クォリエルは言った。
●走れ、心の赴くまま
「ふんっ、ふんっ」
危魔道士キンタは、海にスーパーボールをたくさん浮かべて、不規則に揺れる球体を握る訓練をする。来たるべき日に備えて……。
「砂浜!
水着で!
ランニング!」
「一緒に「足」を鍛えよう。ヒレでなく、翼でなく、人化した時に現れる足だ。せっかく付いてるんだから地上でも身軽になろうぜ!」
「走り込みはやっぱ基本っしょ!」
エルディン、至東、グレイシアが砂浜に集まった。
「そこ! 飛んだらだめだぜ!」
サボった兵士は、罰として休憩用の水運びだ。
(とにかくボクとしては実力が全っっっっっ然! 足んないから、この「わけわかんない規模と密度で訓練してる集団」ってばすごく便利なんだよ)
「うおおおおボタン連打で燃えろ青春!」
ゴールしたあとの日陰では、しっかりと水分と塩分補給を!
●机上の戦い
貴族コロリョフ家のクラサフカは、静かに集まった人間を見渡した。
「さて」
瑠璃は机の上に海図を広げる。
「先の海戦のような、圧倒的な脅威――魔種ならまだいいほう、などとはとても思えませんが――に遭遇した際、あたら戦力を浪費せずに防衛、あるいは遅滞戦術なり撤退なりを行えるようにできれば理想です」
くるりと羽ペンを回す。
「たとえば散兵戦術や、的を絞らせない機動戦など……竜に有効かどうかはちょっと悩ましいですが、あらかじめ考えておけば応用は効きます。たまたま魔種に遭遇してしまった場合などですね」
「海上の罠はどうでしょう?」
礼久が手をあげ、意見を述べる。
「いいですね。今回の訓練で、行動の選択肢はいくらか増えたはずです。もっともこれだけでは机上の空論に過ぎず。
他の皆さんのなさっている訓練で、考えたことを実際に行動に移せるよう、積み重ねていくものです」
「これが新しい航路だね」
「光鱗のアトラクトス」の娘たち。イリスとエリスタリスは図上演習に参加しつつ、その顔ぶれにも注目していた。
(航路が出来たという事は)
(滅海竜の被害が大きい今こそという感じがしますね。恐らく父様とか稼ぎ時だと思ってますよ多分)
何かと耳聡いのはその血筋故か。
●空へ、空へと
「……二頭の、竜……」
嘗て"絶望の海"と呼ばれた蒼海を見つめる影が一つ。
目元までローブで覆い、大弓を肩に担ぐその人物をレイヴン・ポルードイだと気が付く人物は少ないかもしれない。
ただそのギフトで何となく"知っているような気がする"程度で。
「求めねば……」
リヴァイアサン。
その力の前に、自分は正に塵芥だった。
ばさり、大弓をつがえて空へと飛びたつ影。
「……飛行隊構想、形にしてみても良いのかもしれんな」
竜を、その力を、やがていつかは……。
自身も。
(おーおー、合同演習か……なるほどなるほど。まぁ楽しそうで良いことだ)
フレイは、空から海を見下ろしていた。
アルバニアは絶対に倒すべき敵だったが、それでも平穏を望んでいたのかもしれないと思うときもある。
(こちらの正義は絶対ではない、魔種と手を取ったこの事実は視点を変えるのに充分過ぎる要素だろうな……)
目にとまったのは、やはり青い海。
(よし、絶望の……静寂の青まで飛んでみるか。一日でどこまで飛べるかな)
訓練用のペイント弾を軽々と避けるアクセル。
「? なんだろう?」
奇妙な気流を見つけて、飛び込んでみる。
「懐かしいッスね、故郷の島の周りに渦巻く乱気流……この中を飛ぶのはやっぱり楽しいッスよね」
リョーコだ。
闖入者にリョーコ驚いたように少し目を開き、それから、笑って加速する。
「空がアタシを呼んでいるッスー! 疾く……もっと疾く飛び抜けてやるッス!!」
「負けないよー!」
空へ、空へ。もっと早く。
漆黒の羽と、純白の羽が空中で交錯する。
「姉貴、手加減はしねぇぜ!」
「あうー……なんでこんな……いいですよもう!」
逃げるフォルテシアに、エレンシアが矢を射かけている。
「さぁ、とろとろしてたら即撃ち落とすぜ! 逃げて逃げて逃げ回って見せろ!」
「私だって今まで通りじゃないんですから! って、いや、ちょっと、まってぇぇぇぇ!!」
すれすれを矢が飛んだ。
「ううう、もう怒った。反撃しますよ、弓でえいえいって行きますよ!」
「って、いってぇ!」
エレンシアが高度を落とす。やりすぎたか……。
「やるじゃねぇか! 楽しくなってきやがったぜ!」
「ってなんでそんなテンション上がってるのもうやだぁぁぁぁ」
「ほらリヴ、しゃきっとして! 海行くよ、海!」
「んんー……しゃきっと……? しゃきっと……」
マリネの声でリヴは心持ちまっすぐになる。
「……リネも。しゃきっと……だよ」
「もう」
リヴはまぶしそうに目を細める。
「……ん。あの時の、大荒れが……嘘みたい。穏やか」
「こーいう日は……泳ぐぞー!」
「……? 泳ぐ、の? 気持ち良さそう……だけど。……訓練は?」
「そーだったわ、ごめんごめんご」
二人はゆっくりと空へと飛び立つ。
(……飛びながらだと。矢の撃ち方も……色々、勝手、違う)
「飛びながらだと踏ん張れないから、その分威力出すにはコツがいんの」
マリネがびゅんと、矢をかいくぐって飛んでいく。
「あ」
「……! リネ……っ」
海風にあおられ、……とっさにリヴはマリネをかばっていた。
バランスを崩して海に落下する。
「──つめた! 海冷たっ!」
海水まで上がってぷはーっと一息。
二人は小さく笑った。
「鍛錬、なんて柄じゃねぇが……もう逃げねぇって腹括っちまったしなぁ」
縁は海洋の復興に尽力しようと、人知れず鍛錬をしていた。
(………やれやれ、俺が堂々とサボれるのはいつになるやら)
目を閉じれば、瞼の裏にリーデルの姿が浮かぶ。
泣き叫ぶ声と悲鳴の幻聴。
(一生消えねぇ罪と罰)
受け入れて、腹を据えて――目を見開いて抜刀一閃。
音もなく、二つに割れた流木。
(国のためとまでは言えねぇが、せめて、あいつが還ったこの海を護るくらいは戦ってやるさね)
●これも仕事のうち
「夏! そして海! とくれば、水着であそ……じゃなかった、特訓に決まってるじゃない☆ミ」
「ローレット・トレーニング。それは、イレギュラーズの訓練の場……なんですよ。聞いてますかタルト!?」
タルトはふんっと胸をはる。
「えぇえぇ、ボクもたまには真面目に準備してきたわ! 見なさい! このしっかり膨らんだ浮き輪とビーチボール! 頑張って膨らましたから割と疲れたわ!」
「はぁ……」
「それをこうして!」
高くはねあげ、ベークにダイレクトアタック!
「いてっ、いやこの程度全然痛くはないndフガッ」
連撃である。
「……畜生! いつもいつも無抵抗で食べられる側だと思わないでくださいよ!!!!」
ざっぱんと波間から這い上がるたいやきベーク。
「んっふっふっ、身体を動かすのも立派な訓練なのよ☆ミ 疲れ果てるまで思いっきり楽しもうじゃないの♪」
「いっひひ、こうしてうろちょろしながらお小遣いもらえんだからいいもんだねぇ」
「しっかりと身体を休めるのも、仕事のうち、ってことかな?」
姫喬と樹理はのんびりと浜辺で過ごしていた。
「海が落ち着いてるねぇ。いいことだ」
「うん。海が豊かな証拠だねぇ。
こうしてのんびり出来るようになって、本当に良かったよ」
「……あっ、見てみて。フナムシ。ほらフナムシ。こっちにもフナムシ」
石の上にはうぞうぞとフナムシがいた。
「海にいる昆虫なんだね」
樹理は目を丸くして、動じない姫喬にさすがだと思う。
「こいつらが魚に食われて、そんであたしらが魚とって食べるわけだね。そういうこと考えてるとこうなんか……眠く……Zzz……」
かくりと寝落ちしそうになって、空に伸び。
「ん、んっ! んん、んんんーーー!」
飽きたのだった。
「よっしゃ樹里ちゃん、海入ろ海!」
「ふふっ。じゃあ、遊ぼっか!」
「ほーら海水ばしょーいっ!」
「ん! やったね。私もお返し!」
「せっかくだしあっちの浮島まで泳ごうか! いくぞー!」
「受けて立つよ。私も敗けないから!」
「はぁ~~い! 大勢の人ある所にかるらちゃんあり!」
青い海! 夏の空! 眩しい太陽!
(って事でぜ~~~ったい海の家とかあると思ったんだけど……)
周りはかなりマジな感じである。
「なぁ~~んだよぉ~~折角水着着て来たのに!」
「前の戦いの時も思いましたけど、皆さん凄いですねぇー……」
四音は遠巻きに訓練を眺めつつ、浮き輪でぷかぷかと浮いていた。
そうと羨むのは只の実力ではなく、戦う為の勇気その物である。
「あれだけの死闘を繰り広げた後、すぐに新天地に渡ってあれこれ活動した挙句に皆でトレーニングとか、割と頭おかしい気がせんでもない」
ニアがぼそりと言う。
「安全だと分かっている今回みたいな時こそ、チャンスなんだけどねー」
見様見真似で神秘の力をこねこねと練って自主練中の四音であった。
「あ、でもコレ去年? 一昨年? の水着なんだよね。……まだばっちり着られるって事は体型は変わってないね! よし!」
かるらはニアの隣にパラソルとリクライニングチェアを置いて、寝転んだ。
「トロピカルジュースは外せんな」
「あ、いいじゃん。かるあちゃんも飲も。皆頑張ってね! 応援だけはしてるよん」
ひたすら訓練で泳ぎ、泳ぎ。
射撃訓練をこなし。
ざぱりと陸に上がってきたエレオノーラ。
「……地味!」
ニアとかるあにパラソルに招かれるまま、日陰でゆっくり休むことにした。
(本当に鍛えられたのかしら?)
●さかなへん
「今日のテーマは~じゃじゃ~ん!
いわし漁なのじゃー」
デイジーの船から大漁旗があがる。
「うむ? 何故いわしなのじゃかと? 特に意味は無いのじゃ!」
魚群に向かって、魔光閃熱波(オーバーキル)。
「いわ死兆」
「え?」
「ううん、なんでもないよ。気のせい気のせい。いわし集まれーー!」
アンジュの号令の元、いわしの名の下に集まった者たちがここに。いわしの数が減って……はいない。たぶん。きっと。
「海に平和、もどった。よかった」
「仲間にい~れ~て~!」
ルルゥとペルレがやってきた。
「いわしと遊ぶ……ふふ、こんなことも混沌にはあるのね。知らなかったわ」
フィオーレは穏やかな笑みを浮かべる。
「こんなにいっぱい集まってくれたんだもん、何するか迷っちゃうね」
「……食べちゃだめなのかな。おいしいのに」
「だめ」
アンジュの声が低かった気がする。
「そっか」
「そうよね、こんなにも可愛いんだもの、そんな日だってあるでしょう! いわしにそれぞれお名前はあるのかしら……あ、あるのね? 伺ってもいいかしら?」
「ワタシ、スカイフェザーですし~、泳ぐのそこまで得意じゃないですけど~」
「いわしは泳ぐのめっちゃ早いからトレーニングになるよ。たぶんね。わかんないけど」
のんびり浮いているペルレをすいすいといわしが追い越してゆく。
(夏は海が気持ちいい季節。ぷかぷか)
今日が演習なのは気のせいだろう。
「つぎなにしよう」
「花いちもんめ……? します~!!」
ペルレはぱあっと顔を輝かせる。
「勝って嬉しい花いちもんめ
負けて悔しい花いちもんめ」
歌うことは、大好きだ。
「なんだか不思議な状況だけど、いわしと手を繋げるのって、なかなかないわよね!」
「どのいわしさんがいいかな、えーと……見分けがつかないから一番大きいきみ」
●響くサウンド
「月の舞姫、華拍子、天爛乙女の参上です。皆様、盛り上がって行きましょう♪」
休憩所となっていた場所。
舞姫、弥恵のステージである。
「おおーっ!」
一方で、人気のない海岸では。
(俺がこの世界に来てもう一年以上たった気がするが、一体いつになったら帰る事が出来るのだろうか)
クラシック歌手のジオドリクは人知れず歌っていた。
透き通った重低音があたりに響き渡る。
(わざわざ呼び出された以上何かを成し遂げる必要があるんだろうが、戻る事が出来ても仕事、あるのか……?)
「~♪」
ローブを頭からすっぽりかぶったミュリエルが、小さく聞こえてくる音に合わせていた。
一方で、海の中では。
(絶望の青を乗り越えようとした人たちが、何を思い、何を見、何をしたのか。
あたしはそれを、話や記録でしか知らないんだ。悔しいな……)
メルは喧噪に目を閉じる。
(あたしも昔は海で生きていた)
かつて人魚だった頃のこと。人の足を手に入れたこと。
「でも今はもう地上で陽の光を浴びて生きてる」
メルは深く深く、海へと潜ってゆく。
(思いのほか難しかったりするね……。
人の足ってこんなに動かないものなの……)
歌どころか、息をするのも一苦労。
息を吸えば、水が言葉をせき止める。
(この海に歌を響かせるのは難しいだろうね。でもこんなに広くて大きくて自由なら)
メルは、のびやかに歌い出す。
●CEO:A
「俺は風の噂で聞いた……。
『海洋』はその名の通り海に面しており港は勿論、日差しと街は輝いていると……」
きゃっきゃうふふのばれぇぼぉるを期待して、鉄進はここへやってきた。
しかし……。
「クソガ!! なんだこの硝煙と飛沫は!? 畜生!! 美女は居ても戦闘モードで口説きどころじゃねぇ!! ていうか模擬戦じゃねぇ!!
何処のどいつだ楽園なんて抜かしたのは!! ああああああ許せん!! 許さんぞオラァ!!」
気迫で兵士が海に落っこちる。
「次はどいつだ!! 出てきたらその服裂いてやラァ!!!!」
「演習で疲れた者達の労をねぎらい、心と体を癒すために連れ添ってどこかで休憩を……」
ミカエラははっと我に返る。
「……イカン、妄想が突っ走ってしまったわい」
ミカエラと鉄進のいた場所は、砂浜の対岸だった。
●見回りヨシ!
(あー、演習なぁ、外から見てたらなんかこう、ウズウズしてきたな)
かき氷をしゃりしゃりと頬張っていたトウゴ。
崖下の砂浜に走り出そうとしたのであるが、飛行装備を忘れていた。
「……あ、オフだからって装備外してたの忘れて」
「外はちょー暑いからなー、ぜっこーの海日和な!」
浮き輪でぷかぷか浮いているコッコ。
「ん?」
誰かが困っている気がする。
ペンギンの様なシルエットが、物陰から翼をぱたぱたと応援している。
シルエットがざばんと消えてみれば、スクアーロがトウゴを引き揚げていた。
「じゃあ、俺はもう行くぜェ」
コッコに託して、スクアーロは激流へ去って行く。
「あ、ありがとな」
「これで良い子ポイントも貯まるってすんぽーな!!!」
●海の生物たち
「ははあ、まあこりゃでっけえなあ……湖のように端っこがあるのと違うのけ?」
研究船に乗る珪化樹。
「魚群の動きから異変の察知、魚影から見る戦術的な見解……こういったところを海洋国家やローレットギルドで共有してぇべな!」
ニーヴァ・ジグリの指南書を片手に、魚、海蛇、イルカ、クラゲ……試みる対象はいくらでもいる。
「さあ! おいでおいで海の獣たち、おめぇらの声を聞かせてけれ!」
ふと、海鳥が、珪化樹を呼んだ。
「ん。土産もんさがしてんだな。ほれ」
麦わら帽子をかぶったクロエが、シーグラスを光にかざす。
「お家とかに飾ったらきっと素敵ですよね」
「こんにちは。いい天気ですね。
この辺りで珍しい貝殻とか見かけませんでした?」
海鳥は少し考えたように立ち止まって、くるりときびすを返し、一鳴き。
小さな貝殻を持ってきた。
●救護班
「……よく考えたらわらわ、そもそも戦うのあんまり得意ではなかったのじゃ」
「まぁこれも一種の訓練かもね」
しょんぼりするエメリアを、リョウブが慰める。
曰く、「いやいや、自分はもう年だから体力も気力も続かないんだよ」と。
「武器や術振るう戦いだけが、戦いとは言えないだろう?
こうやって手当するのも戦いだし、心を癒やすのも、ぼろぼろになった住処を直すのも、形は違えども戦いと言えるんじゃないかな。戦い方は人それぞれ。これが私の戦い方でもあるのだろうさ」
たぶんね? と茶目っ気たっぷりに笑みをこぼす。
「……しかしこれ、意外と疲れるのう……」
「休み休みで大丈夫だよ」
●腹が減っては訓練もできぬ
「生き延びる為に戦闘訓練もまあ大事ですけど同じぐらい大切なことがあるのをお忘れでないかしら」
「そうそう、食わなきゃ始まらないってね」
アリスとゼファーは、炊き出しの準備をしていた。
「腹が減ってはなんとやら。って云うでしょう?
そう。戦うということに食べるということは必ずついて回るのよ!」
「……で……何作りましょうねぇ?
老若男女が食べられて適度に好き嫌いを回避出来るヤツ。そんな都合の良いメニューがあるのかしら」
「あら、ゼファー! そんなの、決まっているわ、カレーよ! カレーを作るのだわ。
季節に依って入れる野菜が変えられて、お肉でも海の幸でもいけるもの。其れに、大鍋で作るのに適していますし」
ひとつめの鍋には、普通のカレー、そこからお鍋を分けて、大人向けのはスパイシーに味付け。
(ちびっこちゃんには林檎の摺り下ろしや蜂蜜よ)
「あらあら。いつの間にこんな料理上手さんになったのかしら。これなら屹度、いつでもお嫁さんになれてしまうわ。ね? 蜂蜜ちゃん」
アリスはスプーンをゼファーのもとに持っていく。
「お味は如何?」
「おいしいわ、もちろん」
「ふふ、此れの隠し味は何かって? 内緒、かなあ 恥ずかしいもの!」
何時か、旅をやめる日が来たら、暖かい此処で余生を過ごそうと約束した二人。
「わたし、この世界の食べ物にはまだまだ疎くて。それに海洋を訪れるのも初めてですし」
レシピノートをめくり、シェフと料理談義を交わすミエル。
「やはり身体を動かす職業ですしボリューミーな物を好まれるんでしょうか? 兵士さんに人気のメニューは? 成程です……」
シェフたちははじめは教えてやろうと言う姿勢だったのだが。モカの包丁さばきを見て、ただものではないと感じとったようだ。
Stella Bianca店長である。
「いやぁー終わった終わった」
肉体労働を怠惰にこなし、一日を終えたティフォンは、カレーを片手に、遅く開店したStella Biancaで。キンキンに冷えた麦酒を煽る。
兵士たちも訓練が終わって、それぞれ打ち上げとなっている。
(訓練が目的なのか麦酒を煽るのがどちらが先かなんて、鶏が先か卵が先かの不毛な議論だ)
大義名分、正義いろいろあるが苛烈な戦いを経て、この居場所を勝ち取った勝利の宴といえる。
(生きとし生ける皆に賛辞を)
「あ、その焼き串俺が育ててたんだぞ! 先にとるんじゃねぇよ!」
「麦酒おかわり! あとつまみもおかわりお願いします!」
さあ、「乾杯」!
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ローレットトレーニング、お疲れさまです。
連日あっつい! 水浴びがしたい!
そんなことを考えながらリプレイを書きました。
みなさまも水分補給はしっかりと。
MVPは、演習に乗り込んだ剛毅な海賊見習いさんにどうぞ。
白紙以外は描写したはずと思うのですが、抜けがありましたら、お手数ですがお知らせください。
GMコメント
Re:versionです。三周年ありがとうございます!
今回は特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングVIIは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングVII<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って『ローレット・トレーニングVII』全シナリオ合計で1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●注意
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●GMより
ごきげんよう、布川です。
舞台は大号令を成し遂げて沸いている海洋です。
水中戦なり、白兵戦なり砲撃戦なり、お好きにじゃんじゃんやっちゃってください!
水着を持ってきても構いません(描写する余裕がない気もしますが…)。
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