シナリオ詳細
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
オープニング
●
誰でも、1度くらいは恋をするでしょう。
誰でも、1度くらいは願い事を想うでしょう。
恋も想いもそれだけでは遠く、その欲に乱されるのは己ばかり。どちらも自ら動き出さなければ手に入れられない。
そんな『小さな勇気』はすぐさま出ないけれど、きっかけを得るための花があるのだとカムイグラの一部ではまことしやかに噂されていた。見つけたなら、持ち帰れたならきっと1歩を踏み出せるのだ、と。
しかし自身で取りに行くのか──と問われれば、それは必ずしも是ではない。
カムイグラ、高天京の外れに見える花畑。夏も近づくこの時期は、毎年多くのゼノポルタが訪れていた。それはヤオヨロズの使用人であったり、貧しい労働者であったりするのだが、彼らは皆一様にある花を探す。
皆が探し求めるその花は『ねがいばな(願花)』と言う。
花とついてこそいるものの、探すのは草、葉っぱである。崩れないバベルにかけて四葉のクローバーと言えば分かりやすいだろう。
あるともしれない、そしてあったとしても争奪戦が見えている願花に、しかしゼノポルタは必死であった。
まだ労働者は良い。けれども使用人たる彼らは主人の命令で赴いているのだ。『見つかりませんでした、争奪戦に負けて持ち帰れませんでした』は何ら言い訳にならない。
毎年熾烈な争いが行われる花畑は、しかし今年はその様相を変えていた。
まず人がいない。全く、1人として存在していない。そして何より目を引くのは中心に座す異様な存在である。
恐らくは植物だったのだろう。しかしもはや植物とは言い切れない──魔物と呼んでふさわしい存在だ。うねる太い蔦は近づこうとするあらゆるモノを威嚇し、咲いた花は酩酊させるような匂いを醸し出していた。
今やこの花畑に近づく者は、近づける者はいない。しかしこのままでは乙女たちが涙に暮れる始末。状況を打破せんとした白羽の矢は、最近訪れたばかりのイレギュラーズへ立ったのだった。
●
「願花、か」
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は呟きながらずんずん歩く。未だ薄着の彼女だが、京の外れへ向かえば向かうほど人もいないので不躾な視線も大した数じゃない。
後方にイレギュラーズが付いてきていることを確かめながらも、その足取り随分早い。それもこれも、課せられた依頼が至急果たさねばならないものであるからだ。
「なんというか、こう。その時じゃないとって言うのはわからなくもないんだけどさ」
憮然とした声音のシャルルはそこまで言ってから、いややっぱりわからないやと溜息を零した。恋だの愛だのはさっぱりだし、願いらしい願いも中々見つかるものではない。ヤオヨロズたちは異なるようだが、花畑に怪異が座している以上、ゼノポルタを遣いにやって願花を取ってこいとも言えない。なら討伐すれば良いと言っても容易い相手ではないようだ。
「見て、アレだ」
歩いて、歩いて──まだ少しばかり距離はあるが、もはや家らしい家はない。見通しの良くなった視界に、奇妙な怪物が映った。
- 風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「分かりやすく魔物ですわねー」
あらあらと『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が頬に手を当てる。眼前で──余りにも近いと危険なため、やや遠目だが──存在感を放つ異質な存在がうぞうぞと蠢き、時折苛立つように蔦で地面を叩いていた。
「これも『人の思い』が産み出したものですか?」
グリーフ・ロス(p3p008615)の問いにはまだ誰も答えられない。真相など誰1人として知らないのだから。
願花を求める者たちの願望が寄り集まったのか。
それともそれら願望に晒された草花の想いなのか。
(わかりかねます)
グリーフには理解ができなかった。それが一体どういうものであるのか。けれどだからこそ。
「……知りたい」
グリーフは呪花に呟いて手を伸ばす。届かぬほどの距離だけれども、伸ばしたら掴めるのではないかとありえもしないことを思考してしまう。掴めたら──何かが分かるだろうか。
「何がどうしてこうなったのやらー……けれど、このまま放っておくわけにもいきませんわー」
ユゥリアリアが戦旗を翻し、皆へ号令を下す。向かうは当然あの呪花だ。
『第二十四代目天狗棟梁』鞍馬天狗(p3p006226)はおそらく人を幸福にする花の、その末路を見上げていた。天狗の面の下には険しい表情が浮かんでいることだろう。
(呪いの花へ転じるほどに、人々の欲望から影響を受けたのか)
人の欲は様々な性質を持つ。そのうちの陰の気、負の感情に感化されてしまったのだろう。草花に罪はない。
「早く沈めなけれ、ば……、っ!?」
けれど射程まで駆け寄り矢を番えた天狗は、想像以上の猛スピードで迫ってくる蔦に動揺する。そこには避ける間も、誰かが庇う間すらもない。息を呑んだイレギュラーズたちは呪花の脅威を間近で感じることとなった。
束の間の沈黙、いや絶句と言うべきか。背後に天狗が転がっていき、慌てて駆け寄ればその脈はある。応急処置をすれば命に別状はないだろう。
「神様が怒ったって仕方ないよ……」
『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は手早く天狗の手当てをするなり立ち上がる。彼女は敬虔なる使徒というわけではないが、さりとて真っ向から神を否定するわけでもない。願いの為に争いが起こるのなら、神が罰を与えてもおかしくないと思うくらいには神の存在に肯定的なのである。
しかしそれとこれとは話が別だ。これ以上暴れまわってもらうわけにはいかない。
「さあ──ショウ・タイム!」
リリスの艶やかな視線が呪花を射抜き、二振りの曲刀を手にしたミルヴィは舞い始める。『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた刀を抜くと花畑を駆け始めた。
「実物を見ることは叶わなかったが……果たして、何が原因なのやら、だ!」
汰磨羈のほとばしらせた霊気が波紋のように広がり、睡蓮状の結界を跳弾した斬撃が蔦を切り裂く。それでもまだまだ蔦は這い出てくるようだが、手数の多さなら汰磨羈だって負けてはいない。
「毎年探されるという事は、実物が存在して願いが叶っている……ということでしょうか?」
決して荒々しい動きではないが、しなやかに駆ける『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は汰磨羈の言葉に疑問を漏らしながらも呪花へ肉薄する。この距離、回避も難しいだろう。彼女の攻撃が叩き込まれた直後──突然、地面が揺れた。
「地震!?」
「いえ、これは……」
ミルヴィの叫びに否定したグリーフははっと空を仰ぎ見る。そこから落ちる蔦が花を揺らし、地を揺らし、イレギュラーズの気も散らす。グリーフと『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は早く倒さねばと急かされるように走り出した。グリーフの手にしたアイアンメイデンが呪花の表皮を傷つけ、近づいたルル家はと言えば至近距離での攻撃手段を持たない。武器は瞬時に出現させられると言っても専ら超遠距離攻撃用だ。故に──ルル家が放つは出来る限り近づいて放つスーパーノヴァ!
一瞬の閃光、のちに爆発音が響く。ぐわんと花弁を揺らした呪花は怒ったように何かをぼふんぼふんと吐き出した。
「む、これは」
「吸ってはいけませんよー」
咄嗟に口元を押さえるイレギュラーズたち。それでも少なからず入り込んでくるのは、酔いそうなほど甘ったるい香り。酩酊とするイレギュラーズに呪花の牙が向く。痛みに我へ返った仲間へ、ユゥリアリアはすかさず天使の歌を響かせた。
「ここまで激しいと、おちおち集中もしていられないね!」
『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)は蔦を受け止め受け流しながらぱちりと静電気を弾けさせる。さあ──電磁加速最大!
紅の雷を纏ったマリアが突き抜けるように飛び出していく。勢いよく蹴りを食らわせたマリアはすかさずもう1発。負けず劣らず呪花は蔦で地面をたたき、イレギュラーズを打ち据えんとする。
「ああっ、もう! 戦いにくいなぁ!」
攻めたいのはやまやまだが、後衛へ手を出されるわけにはいかない。庇い立てするミルヴィから苛立ちの声が上がる。
「そこまで煽るのなら、相応の覚悟は出来ているのだろう?」
汰磨羈は刀でひたすらに蔦を斬り続け、全ての蔦を刈り取ってしまわんという勢いだ。実際、周りから攻撃されなくなるならばずっと戦いやすい。けれども土から養分を吸収したのか切り口からは新芽が生え、見る見るうちに再生している。
(怒りと、悲しみ)
グリーフは瞳が映すその色に、けれどどうしてそのような色を抱いているのか理解できない。意思疎通をするどころではなく、ただひたすらに自己再生力に頼りつつ攻撃へ打って出る他ない。
(ワタシは知りたい。興味を持ち知ること、寄り添うこと、それが看るということだから)
だからどうか、倒されてしまう前に──教えて欲しい。
「もう回復はさせませんよ」
沙月の美しくも鋭い攻撃が、養分を吸い上げるための管を潰す。暫くすれば緩やかに養分が通るようになるかもしれないが、暫くはこれで抑えられるはずだ。
「私たちを捉えられるかな!」
マリアは仲間たちと立ち位置を代わる代わる、入り乱れるように移動しながら雷撃を叩き込んでいく。しなやかな蔓も、ここまで近くへ来てしまえば強くは打てない。例え幻影を出す暇がなくとも、呪花が視覚を有しているのかわからなくともこれで比較的戦いやすい筈だ。
味方の異常を打ち払うのはユゥリアリアの背に生み出された光の翼。羽ばたくそれの煌めきが相手を斬りつけ、同時に味方を優しく癒していく。相手の動きを見ていた沙月は範囲攻撃の予備動作を感じるなり声を上げた。
(……いっそ、燃えてしまえば良いとすら思いますね)
呪花と戦いながらルル家は一瞬表情を暗くする。これは人の業が招いた事態だ。美しい話も欲が絡めば浅ましい話へ堕ちる。争いの種などなくなってしまえば良いと、或いは呪花をこのままにしてしまえば良いと頭のどこかで自身が囁いているかのようだ。
「けれど、」
自身にしか聞こえないほどの声量で呟き、ルル家は顔を上げた。
花畑に罪はなく。呪花を放置したとしても取ってこいと命じる者はいるだろう。真に欲しい者は安全圏でのうのうと待ち、命じられた者が命を賭して花を探しに来ることとなるのだ。そこに見えているのは確実な死。看過できるわけもない。
「申し訳なき事ながら……華と散って頂きます!」
全力の必殺技を叩きこむルル家。沙月によって養分が吸えなくなった今がチャンスだと、周りもここぞとばかりに畳みかけていく。
「呪うばかりじゃ悲しくないかい?」
「また願いを叶えられるようになるまで、お願い、休んで欲しいの」
マリアの声に続いてミルヴィの幻想的な剣舞が呪花を切り裂いていく。その呪いを削り取っていくように刃が煌めいた。嫌がるように花は暴れ、ぐわりと口を開く。
「案外、その口の最奥が弱点だったりするかもな。試させて貰うぞ!」
跳躍する白猫──否、汰磨羈。霊気が波紋の如く揺らめき、同時に呪花の口内へと飛び込む。仲間たちが息を呑む中、呪花は不意の硬直を経て内側から切り崩されたのだった。
●
呪花は花を潰すように倒れる直前、ぶわりと無数の花弁に変わった。咄嗟にイレギュラーズたちが腕を交差させて身を守る中、突風に舞い上がった花弁たちがふわりふわりと落ちていく。
それは束の間見惚れてしまうほどに幻想的な光景だった。
(何故、生まれたのでしょうか)
華やかに、それでいて儚い最期を遂げた呪花へルル家は冥福を祈る。その傍ら、落ちてきた花弁を拾ったユゥリアリアは静かに歌を歌い始めた。追憶のアリエッタは、しかしそこに最早強い感情が残っていないのだと歌い手へ知らせる。読み取るにはあまりにも弱く、小さなそれしかないのだと。花畑の各所に散った花弁を集めれば変わるのかもしれないが、数え切れないほどの花弁を集めることは難しい。それはグリーフも同様で、視線を向けた汰磨羈にグリーフは首を振った。
「少なくとも、こちらが弔うために何かをする必要はなさそうですわねー」
花弁から手を離したユゥリアリアは花畑を眺める。あれほどに存在感を放っていた呪花は花弁へ変わり、風に乗ってうまく花畑に分散してしまったらしい。あとは自然の流れに任せて土へと還るのを待つばかりか。
「願花、探してみましょうか?」
時間もあることですしと沙月が空を見上げる。天気は良く、呪花の存在があったお陰でイレギュラーズ以外の人影もない。滅多に見つかるものではないと言うが、探してみる丁度良い機会でもある。
もしも、願うとしたら。探していれば考えずにはいられないだろう。願いがあるからこのようなものを探すのだ。
(私なら、誰かと争ってまで叶えようとする人達の願いを叶えたいとは思いませんけれど……)
沙月は勘と運に任せて花畑へ目を凝らす。そう、彼女とて乙女たちの心がわからない訳ではないのだ。だから願花も──本当のところはわからないが──叶える、叶えようとするのかもしれない。
願うことも叶えることも悪くはない。だからせめて、その争奪戦が起こらないように。
ユゥリアリアも彼女とともに探しながら、ふとぼんやり空を仰ぐ。
(あの人に会えますように……ですかねー)
その思いがどこか突き放したように遠いのは、叶わないとでも思っているからか。
願花は結局見つからなかった。イレギュラーズとてダメ元で探していたのだ、そのことに特段落ち込むことはない。
「まあ、呪花が消えてしまったのでは共通点を探すことも難しいか」
汰磨羈は何もなくなり広がった風景を一瞥する。呪花が消え、願花が見つからない今、ああなってしまった理由は推測するしかない。
「争われることを嘆いた為なのであれば……それほど悲しい事はありませんね」
「もしかしたら、奪い合う人の醜い心が原因かもしれないけど、実際はわからないね」
足元に落ちていた花弁を拾い上げ、ルル家はそっと目を伏せる。マリアはそっと胸に手を当てて花畑を見た。
もしも、自らに叶えたくて仕方がない願いがあったとしたら。その時は是が非でも、藁を掴むような思いで願花を探すのだろうか。
「どうしてすぐ独り占めしようって考えに走っちゃうのカナ」
花弁を拾い上げたミルヴィがそれを胸の前で抱きしめる。周辺のひとに掛け合ってみよう、無理でもせめて自身が吟遊詩人の話としてこのことを語り継ごうと心に決めて。
「ひとまずはその線で報告してみよう。刑部省あたりか?」
「出来るだけ中立の所が良いですわねー」
汰磨羈とユゥリアリアは考えこむ。贔屓があっては意味がない。ヤオヨロズの乙女たちは嘆くだけで、実害はゼノポルタに回ってくる。そうならないためにも、どこに報告することが最良だろうか、と。
「言葉だけで変えられるとは思いませんが……」
苦々しい表情のルル家も、しかしそう言って動かなければ変わらないことを知っている。行動せず繰り返すより、出来る限りはした方が良い。
「事態が再発すればイレギュラーズの信用問題にも関わるでしょう。何か行動は起こした方が良いですね」
「うーん……取りに行く数の制限とか、順番を決めるとか、でしょうか」
「花畑を管理する団体を作ったらどうかな?」
ルル家が、そしてマリアが発案し、皆で練り上げていく。少なくともこの場の危機は去ったとして、その会話は帰路につく間も行われることとなった。
去り際、グリーフは肩越しに振り返って花畑を見る。そこはつい先ほどまで戦闘があったなどとは思えないくらいに穏やかだった。
(願花にすがる思い、ですか)
もしも願花が願花でなければ。
もしも願花が珍しくなければ。
そうあれば摘まれることや争うことはなかったかもしれない。誰も──花さえも傷つく事態にはならなかったかも。
(……客観的に考察して、悲しい出来事なのかもしれません)
あの色の矛先は、あの色の意味はそういうことだったのかもしれない。グリーフは暫し瞑目し、仲間たちを追いかけるべく踵を返したのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
どのような形へ行きつくのかもわかりませんが、良い結果となるよう祈りましょう。
色を見るあなたへ、称号をお贈りしました。ご確認下さい。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
魔物『呪花』の退治
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。嘘はありませんが、不明点があります。
●エネミー
・呪花
人の背をも超える食人花の魔物です。蔦や茎は太く弾力があり、毒々しい花の中央に大きく開く口があります。ゼノポルタが複数集まっても倒せなかった相手です。
ステータスは不明ですが、その大きさ故に機動力はないでしょう。蔦は遠距離まで伸びるようです。通常攻撃に【万能】を持ちます。
蔦での攻撃他、噛み付いたりもするようです。また養分摂取によるHP回復技もあるようです。
煽り蔦:物超範:ビタンビタンして威嚇、煽ってきます。【怒り】【万能】
酔臭:神自範:花から出る匂いが感覚を麻痺させます。【魅了】【麻痺】
●フィールド
花畑です。野の花が集合した感じなので、様々な種類の花が雑多に咲いています。
見晴らしは良いです。
●ご挨拶
花を摘みにいくはずが花を倒す依頼になりました。愁です。
四葉のクローバーは見つけた折、押し花にした記憶があります。幸運が運ばれてきたかはわかりませんけれど。
ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
Tweet