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シナリオ詳細

<禍ツ星>来たれ呪いよ、冥府の辺に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●拡散する奇病、源は
 カムイグラ、高天京。夏祭りの賑やかさの裏で、こちらが静かである……と、いうだけならどれだけよかっただろう。
 静かであることは否定できない。だが、その「理由」こそが問題なのだ。
「騒がしい……お前達ときたらいつもいつもいつもいつも余の写し身を前にして騒がしい。お前達は自分で何かを成すことを知らぬ。頼り祈り何かを貶めることにしか興味を持たぬ。まこと不快の極みよ」
 尊大な声と態度の男は、しかしどこまでもみすぼらしい見た目であった。襤褸布を着物に整形しただけのそれは、或いは藁かなにかを編んだものにすら見える。
 ぼさぼさの髪は鼻先にかかるほどで、草履をつっかけただけの姿は祭りに沸くカムイグラでは爪弾きものが迷い込んだようにすら思えよう。
 ……だったら、なぜ彼を誰も見咎めないのか? その故は、足元に広がる皮を見ればわかるだろう。人の外皮だったそれは、骨すらも残っていない。。
「だが、我はなにもないからこそ無限にお前達の念を、そして今は血肉を吸い上げるに値する依代を得た。もっともっと、お前達の負の情念を余に寄越せ。さすればお前達とて『道』に至れよう……のう?」
 無論、被害者ばかりというわけではない。その男――世界に仇為す『肉腫(ガイアキャンサー)』、その純正たる存在を前に、存在を奪われる前に彼の影響を受けてしまった者もまた、いるのだ。
「然り、と」
「つまらぬのう、お前は。八百万であろう? 今少し余を楽しませる工夫をしてみせい!」
「然らば、主。この生皮どもを裡から火で炙り踊らせてやる曲芸は如何か」
「ははは……ははははは! お前の炎は捻れておるが悪くない色をしておる! さあ、この炎で以て余を理解できぬ不届き者共を残さず薪としてくべてやろうぞ!」
 斯くして、世界を害する二人は夜のカムイグラを往く。悪意をより広く、派手に広めるために。

●沙峨、窮状に立つ
「神使の御方々、何も言わずに俺についてきてほしい……巷間を騒がす疫病のたぐいが高天京を襲っている!」
 高天京に身をおいていたイレギュラーズ達を見咎めた一本角の鬼人種、忽那・ 沙峨(くつな・さが)は有無を言わさず一同を案内しようとする。
 曲りなりにも刑部省の役人である彼がここまで焦りを見せているのだ。尋常の事態ではないことは明らかである。
「神ヶ浜で祭りが行われているのは知っての通りだ。天香……様達はお前達を厭う顔を露とも見せず海洋王国、といったか。そちらとの合同での祭りを受諾した。ここまではいいな?」
 駆けながら、沙峨はイレギュラーズに問う。分かっている、と頷くと、彼は満足げに(口元は見えぬが)話を続ける。
「では、夏祭りに怪しげな呪具が出回っていることは? ……薄々勘付いているなら結構だ。それを手にした者達が狂気に駆られ、種々の悪事を行ってしまうのが厄介なのだ」
 沙峨は、さらに呪具が設置された場所からも『未知の疫病』やあやかしが発生しているのだと続ける。
「夏祭りを破談にすることが此度の騒動の目的なら、海洋王国との交流も水泡に帰す。それは晴明様と我々も本意ではない」
「……で、アンタがここまで焦ってる相手はなんなんだ?」
「わからない」
 沙峨の思わぬ返答に、イレギュラーズ達は唖然となった。が、一瞬間をおいてアーリア・スピリッツ(p3p004400)が言葉を発した。
「さっき『疫病のたぐい』って言ったわよねぇ。疫病に罹って暴れている相手と、『疫病より厄介な相手』がいるってことかしらぁ?」
「……鋭いな。相違ない。一人は疫病憑き、俺も知っている男だ。民部省の小役人たる炎の八百万で、いつも不満と怒りを湛えているような男だった。奴の側に、得体のしれない男を見た。
 ……俺は直感で、あちらに知られる前に逃げ切った。人皮の内側に炎をくべたような化け物を笑いながら使役するような男が、まともであろうはずがない……奴は、俺が知っている『種族』に値するなにかではない。神人でもない。あれは、『怪物』だ」
 身震いする沙峨を見れば、その驚異も理解出来よう。
 ――そしてイレギュラーズは相対する。この世界を蝕む新たな存在と。

GMコメント

 お祭り? そんなことよりエグい戦いしよーぜ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●成功条件
・藁辺の王の撃破
・篝 英の撃破or戦闘不能
(焼火は英が戦闘不能になるとすべて焼滅します)
・(オプション)忽那・沙峨が無事な状態での戦闘終了

●藁辺の王
 藁(呪い)から生まれた【純正】の肉腫。
 対象の肉体を内側から融かし吸い上げ、皮だけにする恐ろしい能力の持ち主。
 英のことはその強い鬱憤を嗅ぎ取り、興味深いので殺さなかった。
 連鎖行動により英と同時行動をすることがある。
・HP、APは無論のこと、EXAと防技がとても高い。抵抗その他、『HARDの前衛ボスなりの数値』です。
・藁しべの吸気(物超単・万能・HA吸収大、CT大。虚無5)
・呪い撒き(神・自身より2レンジ。不吉・不運、スプラッシュ3)
・(連鎖行動時のみ)EX 万膿獄天(反動大、その他詳細不明。一発ゲームオーバーのようなチートではない)

●篝 英(かがり・はなぶさ)
 【複製】肉腫。もとは炎の八百万。
 民部省の小役人で、沙峨でもわかるほどの無能さと冷遇ぶりだった。自らを過大評価し、評価されないことに鬱屈した感情を抱いていた模様。
・神攻、反応が極めて高い。それ以外は『複製なり』の能力。基本的に前に出ない。
・焼き埋め(神中単、治癒)
・炎刀両断(神至扇・業炎、炎獄。高CT)
・焼火起こし(パッシブ。毎ターン2~4体『焼火』を発生。トータル最大20体)
・(連鎖行動時のみ)EX 万膿獄天(藁辺の王に準じる。こちらは反動なし)

●焼火(たきび)
 死んだ人々の皮の内側に炎が宿ったもの。
 能動的な行動というより反射による攻撃を行っているようなもの。
 通常攻撃(基本レンジ2)のみ、火炎が伴う。

●忽那・沙峨
 刑部省に属する一本角の青年。口元が見えないため何か密かに言ってもわからないだろう。
 神秘状態異常特化型。主に能力値減少系のBSを多用する。
 また、ブレイクフィアーも使用できる。
 ……なお、彼も状況によっては【複製】になる可能性を留意されたし。

●戦場
 高天京、大通り。
 すでに相当数の被害が出ています。早急な対処を要します。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <禍ツ星>来たれ呪いよ、冥府の辺にLv:15以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月06日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

リプレイ

●長い夜の舳
「ここかなぁ、祭りの場所は? ガイア……あー、肉……しゅ?」
「ガイアキャンサー……でしたね。恨みで何もかもを燃やし吸い尽くすなんて、傲慢が過ぎます!」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は記憶をたどりながら、探り探りで藁辺の王へと問いかける。怪訝な顔をするそれに対し、『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が指を突きつけ挑戦的に呼びかければ、篝は苛立ちを隠さぬように、周囲へと炎を放つ。それらは皮だけに成り果てた死体を乗っ取ると、そのままヒトガタとなって立ち上がる。
「夏祭りでお酒……って思っていたのに、おちおちお酒も飲めやしないじゃないのぉ!」
「炎を使ってこんな風にたくさんの人を……こんなことをする人はボクが許さないよ!」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の怒る理由は異なれど、本質としては大きく変わるまい。どちらも、人命がないがしろにされたことを黙っていられる質ではない。それに、アーリアは事前に鳥を使役し、逃げ遅れた人々を誘導して逃がそうとしていたのだ。……尤も、対処が十分に整う前に篝が燃やしてしまったのだが。
「……残念だけれど、起こってしまった事は変えられませんわ。一刻も早く貴方達を排除しなければいけませんわね」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の言葉は、彼女を知らぬなら酷薄にすら聞こえるだろう。だが、内奥で滾る感情は恐らく他者に負けはすまい。ちらりと沙峨、そしてアーリアを見た彼女は、僅かに口の端をゆがめる。
(それに……あの鬼人種の御仁は生きていて頂いた方が何かと面白そうですものね)
 彼女が何を考えたのかは、敢えて語るまい。
「ハッ、バケモン退治ならおれさまの本分だぜ。手早く終わらせて、飲み会の続きと行こうやあ!」
「これがカムイグラでの初仕事、油断せず頑張っていこー!」
 山刀と斧とを構えた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)、そして銃を手にした『緋色の翼と共に』リトル・リリー(p3p000955)の両者は敵意や義侠心とはまた違う感情を以て、肉腫達へと向き合っていた。焼火がグドルフへと歩み寄るが、無造作な一撃はその皮を盛大に切り裂き、動きを大きく鈍らせる。……彼の手でもってしても、撃退ならず、か。
「テメェら……やっちゃあなんねえ事をやりやがったな……関係ないやつを殺して、おまけにその死まで汚しやがった……」
 『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は腹の底から湧き上がる怒りをそのまま吐き出し、藁辺の王を射貫かんばかりの勢いで睨み付けた。イレギュラーズ達の怒り、敵意は恐らくは彼らに正しく届いていることだろう。……だからこそ、相容れぬ。
「心地よいのう、篝! 聞いたか彼奴等めの声を! 戦(おのの)くか、この快楽(けらく)に! 祭りだなんだと楽しんでおる連中が、余が楽しむのを許さぬと申すぞ!」
「……然るに、愚昧傲慢の所業と思う次第で。主の思う様に」
「篝、お前は足りぬ男ではあったが道理を知らぬ男ではなかっただろう。そこの襤褸を着た輩に何を吹き込まれた」
 藁辺の王と篝の会話に、黙っていられぬとばかりに沙峨が割って入る。獲物を見る目で彼を見る王と、不快感を隠さず鼻で笑う篝。何れも、尋常の感性の下にはなさそうだ。
「うだうだグチグチ古臭ェ言葉で囀るじゃねえか三下が。つまらねえ手駒ばっかり寄越すのは、俺様に敵わねえって気付いちまったか?」
 がはは、と豪快に笑うグドルフの挑発が果たして無策であった試しがあっただろうか。
「人々まで利用して、絶対に許しません! シフォリィ・シリア・アルテロンド、参ります!」
「何が目的かは知らないけど、そんなの斬ってから考えるよっ!」
 シフォリィと秋奈は藁辺の王を挑発すると、仲間達と視線を交わす。
「沙峨くん、まずは治療に専念してちょうだいねぇ。余裕があれば攻めていいけど……そんなこと言ってられないわよねぇ」
「…………ああ」
 沙峨は、アーリアの声にややあって小さく応じた。不思議に思ったアーリアだったが、状況はその言葉への逡巡を許さない。
「心得違いをするなよ篝。貴様に一端の感性など無いと思え」
「御意に」
 どこか脅すようでもある藁辺の王の言葉に応じ、篝は両手に炎を宿す。その全身から伸ばされた数多の藁はイレギュラーズ達を押し包み、次の瞬間、篝の炎が舞い踊る――範囲は長大、扇のように広がったそれは焼火すらも巻き込みつつ襲いかかる。幸運にして範囲から逃れ得たのは、無造作に前進し、藁辺の王を横合いから殴りつけんとしたグドルフぐらい。
 そして、避けられたのはシフォリィと焔だけ……幸いにして傷は浅いが、呪いの波長が一同を苛み、その運を絞り上げようと蠢く。
「何かしたかよ? 花火にしちゃチャチいもんだったけどよ」
 血を吐き捨てて前進したルカは当たるを幸いに焼火達へ得物を振るうと、いきおい、篝のもとへと向かおうとする。が、生き残った個体がそれを許さぬと縋り付く。
「君達の相手はボクだよっ! まさか、火が怖いなんてことはないでしょ?」
 焔はそれらを引き剥がすべく挑発を仕掛け、そして何体かは見事にそれに引っかかる。
「英さん、ちょっと痛いけど……我慢してよね!」
「チッ」
 リリーの放った式符が英へと襲いかかると、さしもの彼の避けきれぬとみえ、舌打ちと共に身を払った。それで十全とは行かぬだろう。憎々しげな目はしかし、未だ一同を敵としては認識していない。
「どっせえーーい!!!」
 地響きすら生みかねぬ勢いで立ち塞がった焼火を蹴散らしたヴァレーリヤは、そのままメイスを掲げて聖句を口ずさむ。殺しはしない。死ぬほど痛めつけはする。それが相手に対する戒めとなるのなら、幾らでも叩き付ける。
「痴れ者めが……八百万たる俺に楯突くかァッ!」
「呵々、面白くつまらぬ男よなあ篝! その調子よ、もっと余を楽しませよ!」
 藁辺の王は笑う。グドルフの猛攻を凌ぎつつ、つまらないことを笑う童の如くに騒ぎ立てながら。嗚呼、この存在はやはり――相容れぬ。

●宴の縁
「呪いだかなんだか知らねえが、クソつまらねえ悪事働いて喜んでるようじゃ、てめえのお門が知れるなあ!」
「挑発にしては程度が低いぞ、鈍間め。貴様の意気ひとつで余に真っ向から刃向かうなど不遜の極みであろうが」
 グドルフはしぶとく粘り、藁辺の王の動きを邪魔しにかかる。全身から放散される呪いは、しかしグドルフにとってはそよ風と何ら変わらない。次から次へと叩き込まれる痛撃を容易いとはいうまい。言うまいが、今のグドルフに膝を付かせるには今一歩といったところか。
「しつこい女は嫌いかしらぁ? 逃してあげるつもりはないけれど」
「思い上がり甚だしい女など雌犬のそれと何が違う? その鬱陶しい目は冗句のつもりか?」
 アーリアの視線を受け止めた――ように見えた篝は、しかし彼女の挑発を受け流してみせた。効いていないのか、そもそも「いなした」のか。何れにせよ、今の一手は篝にとって「脅威ではなかった」のだ。返す刀と放たれた炎は、火の手こそ上げなかったものの、アーリアの体力を少なからず奪っていく。
「それじゃあ、これはどうかなっ? ……次は任せたよっ」
「ありがとよ、遠慮無くブチ込ませて貰うぜ!」
 が、アーリアの一手は篝に反撃をさせるだけの隙を生んだ。イレギュラーズにはそれで十分。秋奈の高速の斬撃に合わせ、ルカが魔性の一撃を放ったのだ。さしもの複製肉腫たる篝でも、無事で、とはとても行かぬ。
 苦悶に震える篝の眼前に現れたのは白狐。九尾をたくわえたそれは彼に噛みつくとしぶとく食い下がり、その肉体に毒と不自由を流し込む。
「ヴァレーリヤさんっ!」
「十分ですわよリリー! 一気に叩き潰してしまいましょう!」
 九尾を生み出したのはリリー。それに続けてメイスを振り上げたヴァレーリヤは、篝の胴を強かに打ち据えた。
「――痴れ言を!」
 篝は炎を生み、新たな手駒を生みだそうとした。だが、人皮はhごけぬ程にズタズタに切り裂かれ、手駒にするにはあまりに無残だ。彼に近づくべく猛威をふるったルカが、巻き込む形でそれらを破壊していたのがここにきて奏功したというわけだ。
(悪いな、全部終わったら供養するから許せ……!)
 無論、彼とて平気な顔でそんなことをしているわけがない。強い葛藤だってあるはずだ。それを押してなお行使するだけ理由が、意志が彼にあったということでもある。
「炎から生まれた八百万なのに、こんな使い方をするなんて……こんなの間違ってるってなんで気づけないの!」
「今この国には崇拝が足りぬ! 信仰が足りぬ! 我ら八百万を奉り敬意を払うという意志が足りぬ! 天香様のご意向も聞かず面従腹背を続ける者共が好き勝手この国を食い潰そうとしているではないか……なあ、忽那よ!」
「盗人猛々しいな、篝。彼女ら神人が現れた程度で揺らぐのなら、信仰(それ)は元より手の内になかっただけだろう」
 イレギュラーズの身を蝕む毒を、炎を癒やしながら、沙峨は低く息を吐いて応じる。彼とて浅からぬ傷を負いながら、しかし手を止めることはない。
 篝も、沙峨も、それだけの意志の強さを持ちながら……こうも道を違えてしまうというのか。
「グドルフさん、あとは私が!」
「畜生が……王様気取りのクソ野郎のツラにクソ塗りたくってやったぜ、ざまあみろ」
 シフォリィはグドルフの手を引いて代わりに前に出ると、サーブルによる直突きでもって藁辺の王の喉元を狙いに行く。
 修羅の如き形相をした藁辺の王は、喉を突かれるがままにシフォリィ目掛け藁と化した左手を叩き込む。二度、三度と。
 だが、明らかにその勢いは削がれている。グドルフが運命の力を駆使してまで稼いだ時間は、同時に藁辺の王へと己の傷を返すことで相手の負傷をも広げた格好となる。
 何より、繰り返し受け止めたグドルフの手練手管が無駄に終わるなど、誰が思うだろうか?
「…………篝。燃え尽きてみせよ」
 藁辺の王は、心底つまらなげに言い放った。一瞬、篝は逡巡したようにみえた。親に見捨てられた子供のようにさえ見えた。
「分からぬか。我の糧になれと、言うた」
「王、しかし……俺はまだお役に立ちます、何卒、慈悲を……!」
「ならぬ。貴様が此奴等の慈悲に涙する様な所など想像するだけで虫唾が走る。そうならぬと誓えまい?」
 抗弁する篝の目は、明白に濁りを湛えていた。イレギュラーズが現れた時点で、【純正】の肉腫が【複製】に向けられる慈悲を許さぬという可能性は考えられたことではあった。後衛に類する篝を倒すには十分すぎる布陣だと、恐らく10人いれば10人が口をそろえたやもしれぬ。――救うという一点だけを捨てれば。
「余の分身(わけみ)を薪としてやろう。燃え上がれ、篝。余はそこな生意気な獄人を預かろうぞ」
 自らの身を藁に変え、あたりへと伸ばした王の肉体は遭遇した当初より大分弱々しく思えた。が、未だその気力は衰えず、それどころか、沙峨に照準を定めて向かってきたではないか。
 燃え上がる視界の中、シフォリィはそれでも王を押しとどめた。グドルフと彼女とが彼を前に進ませなかったことの意義は大きい。
「炎は、そんな風に使うものじゃない――!! 藁辺の王、ボクは君を許さないッ!」
 最早、篝は救えまい。救わせぬとばかりに放たれた悪意に怒りが頂点と達した焔は王を全霊の炎で殴りつけ、ルカやヴァレーリヤがそれに続く。
 猛攻を耐え凌いで息を吐き、横綱相撲よろしく前進しようとする藁辺の王。伸ばした手に悪意を湛え、彼は沙峨に悪意を植え付けようとした。
「あらあらぁ、いい女を前にして沙峨くんに浮気なんて妬けるわねぇ」
 が、それを遮ったのはアーリアの魔眼だった。一度はいなされたそれは、しかし今度こそ藁辺の王を、捉えた。
「お前――」
「こんな所で倒れたら、貴方もこの国の疫病となってしまうのよ! そんなの御免でしょう!?」
「…………!」
 アーリアは沙峨の目を見て、訴えかける。
 互いの目の色を見たままで。……その、美しい目を見た一つ角の鬼人種は雷に打たれたように身を揺すった。
「困ってる時も誰かの為なんて、沙峨くんはどんだけお人好しなのかな! そんなときの私だけど!」
 鼻歌交じりに笑った秋奈の得物、その先には両断された藁辺の王の腕が残っていた。藁で作られたそれの「腕を切る」ことがどれほどの有利になるかは分からない。
 が、確かに沙峨を襲おうとした悪意を、一手分遠ざけたのである。
「テメェ…さては『穢れ』だな?」
「否。我らこそがこの腐った世を浄化する福音よ」
「……認めませんわ、少なくとも、私達は」
 ルカの怒り心頭の言葉に、しかし藁辺の王は悪気も見せずに笑みをこぼす。所々燃え落ち、ボロボロであってもだ。
 が、ヴァレーリヤはその戯れ言を切って捨てた。振り上げられたメイスは、福音ですらない絶叫と共に振り下ろされる。
 耐えて、耐えて、それでも打ち据えられ。呪いと敵意をぶちまけて、藁辺の王は――燃え尽きた。

「……お前は……いや、人違い……なのか……?」
 激戦と多くの被害が残る街道で、沙峨は独り言のように呟いた。
 その視線の先にあったのは。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]

あとがき

 お疲れ様でした。
 皆さんの誠意と善意は決して悪いものではないですし、むしろ素晴らしいとすら思いました。
 ……まあ皆さんレベルの火力がなかったら正直助ける方に舵を切って無事じゃ済まなかったんですけどね! MVPはそんなわけで耐えに耐えた貴方に。
 ところで沙峨君、何を言いかけたんでしょうね。

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