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シナリオ詳細

おほけなく うき世の民に おほふかな

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「先生!」
「せんせぇー」
 ぱたぱたと子供たちが駆けてくる。先生、と呼ばれた男は振り返ると困ったように眦を下げた。
「こらこら、走ってはいけませんよ。何故か教えましたね?」
 怒気を孕んだわけでもなく、ただただ優しい声音。けれども先生を追ってきた子供たちはぴたりと止まり、ごめんなさいと素直に謝る。
「でも、走らないと先生に追いつけなかったよ?」
「そうですねぇ。じゃあ走らないで、どうやったら追いつけますか?」
 先生の言葉に揃って首を傾げる子供たち。真剣に頭を使っている姿に男はくすりと笑い、子供たちへ背を向けた。
「試してみましょう。いつもの勉強部屋まで、先生と競争です」
 勿論走っては駄目ですよ、と念押しして歩き出す男。その後ろを子供たちがちょこまかとついて行く。
 この場所では毎日、村の子供たちが集まってくる。最も集まるのは働くにも体力がないような小さな子ばかりで、もう少し大きくなった子供は村の手伝いにかり出されていた。当然だ、働かなければ食事にはありつけない。働けない子供老人以外は働かなければ、働けない者たちまで養えないのである。
 そんなまだ働くまでに時間のある子供を対象に男は塾を開いていた。文字を知れば大事な知らせを読むことが出来る。数字を学べばぼったくられることもない。何より知識を得ることでより良い職へ就くこともできるだろう。
 決して親戚などがこの村にいるわけではなかったが、男は大恩があるのだと言う。誰にといった詳しい話は微笑みで濁され、村人たちはどこか気味が悪いとも感じていたが──村の識字率が上がってきたのも事実。何か悪さをしたということもなく、村と男の関係は良好とまでは言わずとも続くと思われていた。

 そんなある日の事である。子供たちが──男の元へ姿を現さなくなったのは。



「化け鴉がいるのです」
 自らの家へと神使──イレギュラーズを招いた男は隈の濃い顔で告げる。寝ていないのか、それとも眠れていないのか。
 塾を営んでいた男は子供たちが時間になっても現れない事に不信感を抱き、働きに出ていた村人を捕まえて子供たちはと問うたのである。しかし村人たちはいつもどおり塾へ向かう子供たちを送り出したと言い、男が何かしたのではないかと詰め寄る始末。仕方なしに独りで子供たちを探しに出た男は、とんでもない大きさの鴉が影を落とし、村の西へと飛んでいく様を見たのだそうだ。
「なんでもあれはここ最近現れたモノのようで、ヒトを攫って行くのだとか。恐らくあの子たちは化け鴉の群れに連れて行かれたのでしょう」
 連れて行かれた末路はどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。化け鴉が運んでは喰らうか、集めてから一気に喰らうかはわからないが──手遅れという可能性も十分にあり得る。
「お願いします、どうか、どうか、あの子らを助けに行って欲しい! 私では力不足で助けられない」
 深く頭を下げる男にイレギュラーズたちは顔を見合わせる。その願いが依頼内容なのだから、受ける以上は達成を目指すのがイレギュラーズの仕事だ。けれども子供たちの親でもなく、村の住人でもない男がどうしてここまで心を砕くのか。
 そんな問いかけに男は顔を上げると、やはり「大恩があるのです」と微笑みで返したのだった。



 ばさばさという羽ばたきに小さく肩が震える。けれど少年は自身より小さい子たちを背中で庇うように隠していた。
(みんなを守らなくちゃ。だってオレはこの中で最年長なんだから)
 大の人ほどもある鴉の群れに恐怖を感じないわけがない。けれど自分が怖がっては他の子たちを心配させてしまう。そんなことはさせてなるものか、と年上の矜持が危ういながらも少年を鼓舞していた。
「せんせぇ」
「しっ」
 泣き言を漏らした子へ静かにするように促す。けれどもやはり考えてしまうのは親や、村の人や、何より先生と慕う男の姿。怒ったところなどみたことがないけれど、こればかりは怒られてしまうかもしれない。母ちゃんのゲンコツも痛いけれど、怒ったことがない人の怒り顔は想像できないからより怖い。
 けれど──そんな想像できない怒り顔を見せられる方が、こんな場所で喰われるよりずっと良い。
 少年は来るとも知れない助けを待ち、ぎゅっと目を瞑った。

GMコメント

●成功条件
 子供たちの保護
 化け鴉の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●エネミー
・化け鴉×8
 大の人ほどもある鴉。食べやすそうな子供を攫って巣へ集めています。
 巣に近づく者を見つければ餌を横取りしにきたと判断して襲い掛かってくるでしょう。
 攻撃力に優れており、命中はさほどでもありません。常に飛行状態にあります。

舞風:翼による強風。かまいたちがともに襲いかかります。【飛】
叫声:不気味なそれは薄ら寒いものを感じるでしょう。【不吉】【呪い】

●NPC
・子供×6
 4~7歳程度の子供たち。村の子供であり、塾へ向かう途中に攫われました。
 五体満足ですが、酷く怯えています。また自力で木を降りることが難しい子供もいるようです。

●フィールド
 村の西にある森の中。大きな木の上に化け鴉の巣があります。枝葉が伸びていて下から見上げても見つけにくいでしょう。
 巣のある木の周辺は程よく開けており、障害物などはありません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 村の、男のためにも子供たちを助けてあげましょう。今ならまだ間に合います!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • おほけなく うき世の民に おほふかな完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月31日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
ただの死神
トラオム(p3p000608)
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
闇討人
イアン・ガブリエル・ニコルソン(p3p006415)
小さな仕立て屋
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き

リプレイ


「とりあえずは鳴き声とかでっかい木を目印にするとか?」
「ああ。あとはそうだな、何か痕跡の類があれば絞り込めるだろうか」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の言葉にトラオム(p3p000608)が頷く。相手は人に慣れた化け鴉だ、その行為を繰り返す最中に付いた痕もあるだろう。
 例えば、飛ぶ最中に落ちた羽根。
 例えば、枝に留まる時食い込んだ爪痕。
 例えば──想像したくないが──攫った者の血痕。
(……まだ甘いな、俺も)
 トラオムは動いてしまう自身に内心小さな溜息をこぼした。依頼だから、なんて取ってつけたような理由で。結局のところは見殺しにできないだけなのだ。
「少しでも情報が欲しいね。君は何か知ってる?」
 木の幹に手を当てた『小さな仕立て屋さん』イアン・ガブリエル・ニコルソン(p3p006415)は緑茂らせるそれを見上げる。木々が感じたそれが件の化け鴉なのか、それがいつであるのかも明瞭にはならないが『ないよりマシ』なのだ。
「うーんと……日の沈む方に向かったのかな?」
「ふむ? 見てみよう」
 小さく眉根を寄せながらも問いを重ねるイアンの言葉に『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が空を見上げる。まだ日は高く、この明るさならば探すこと自体は難しくないだろう。
 咲耶の足が軽やかに地を蹴り、木の幹を蹴る。高い跳躍能力を後押しするのは背負ったジェットパックだ。あっという間に上空へと舞い上がった咲耶は、鴉の発する音を拾い上げようと耳を澄ませる。
(巣に連れ去ったのであれば、必ず周辺を飛んでいる筈)
 獲物をすぐ食べてしまわないのであれば、威嚇して逃さないようにしなくてはならない。その為には鳴き声を上げるなり、翼を広げて羽ばたくなりするだろうという予想だ。
 ──カァッ。
(さらに西か。あそこに大きな木も見える)
 まずはあの木まで行ってみたほうが良かろうと目星をつけ、咲耶はジェットパックを止めると軽やかに着地する。どうだったかと問う仲間たちへ大きな木の存在を告げ、一同はそちらへ向かう方針を固めた。
「人さらいもするんだし、ヒトには慣れてるっしょ! 堂々といくわよ!」
 意気揚々とした秋奈を先頭に森の中を進み始めるイレギュラーズたち。木の元へ近づけば近づくほど、咲耶でなくとも鴉の鳴き声が聞こえ始める。
「当たりか」
 『不退転の敵に是非はなし』恋屍・愛無(p3p007296)は自らの馬車を操りながらちらりと視線を上げる。黒い影。木々に隠れてこちらはまだ見えていないのか、襲ってくる様子はない。巣の方角を気にしているのは獲物を逃さないためか、それとも──。
(弱きを。そして家族を守っているのか)
 いずれにせよ、すべき事は変わらない。ハイ・ルールに則りオーダークリアへ尽力するのみである。

 巣の周りを飛んでいた化け鴉たちは、突如巣の下に現れた小さな人間の姿に威嚇の声を上げる。いつの間に接近したのかと言わんばかりにガァガァと鳴き、彼らをも巣の上へ引っ張り上げようとして──その爪は宙を掻いた。すぐさま消え去ったそれに『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)が再び幻を見せようと集中するが、彼女に気づいた鴉たちが勢いよく接近してくる。
「おっと、」
 叩きつけられる強風。飛ばされるほどの直撃ではないが、マリアの肌に赤いものが滲んだ。
「戦神たる私を……見ろ!」
 その前に立ちはだかった秋奈が自らの存在を誇示する。その役目は救助班が子供たちを逃がすまで鴉を引きつけること。
(てか、全部まとめてぶちのめした方が簡単じゃん!)
 手加減などいらないのだと気づいた秋奈は、好戦的な視線を向けた鴉ににまりと笑みを浮かべる。彼女へ近づいてくる鴉たちを見据えた『讐焔宿す死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は、ソウルイーターの力をその刃に乗せて。
「死神クロバ=ザ=ホロウメア──参る」
 力強い跳躍。鴉に与えた傷口からは魂のカケラとも呼ぶべき力がクロバへとこぼれ落ちた。
 ギャアギャアと鳴く鴉たちは秋奈へ敵意を向けながら、しかし攫ってしまおう喰らってしまおうという姿勢ではない。あくまで邪魔者の排除といったところか。
「成る程、子どもであれば何の苦も無く喰えるという魂胆か」
 小さな子どもは力を持たない。抵抗などできるはずもなく──だとするならば、気に入らないにも程がある。
「まあ自然なことなんだろうね。弱肉強食だ」
 『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)は秋奈の傷を癒しながら「けれど」と呟く。自然の摂理は承知の上で、それを黙認するかどうかは別問題だ。
「まだその子達を自然に還させはしないよ」
 人は自然を切り開いていく生き物。故に──この窮地さえも切り開いて見せようではないか。
「狙った獲物は逃したくないんだろうけれど。僕も狙った獲物を逃さないって点は、君たちと似てるかもね」
 イアンは手にした魔力銃を発砲する。羽ばたく翼を翻弄する銃の使い手は、例えどれだけ気にしていても巣の方へ視線を向けない。万が一自らの方へ向かってこられても子どもたちが安全に逃げられるようにと立ち回っていく。
(あの人は素性が良くわからないけれど)
 思い浮かべたのは依頼人。村に在留する理由はわからないが、恐怖を抱えているであろう小さな子どもたちに居ても立っても居られないのはイアンとて同じだった。
 だからこそ、より確実且つ安全に救出できるように。マリアはそちらを見ないまでも、子どもたちへ届くように声を張り上げた。
「今とても強いお姉さんの仲間達が君達を助けに向かっている! 鴉から出来るだけ離れて、静かに小さくなって身を守るんだ!」
 絶対に守る、諦めるなと言う声は響き渡る。子どもたちへ聞き届けられたと信じ、マリアは鴉へ雷撃を打ち込んだ。
「皆、まだ無事でござるな」
 一方の救出班は、囮となった仲間たちのおかげで邪魔をされることなく木の下まで辿り着いていた。中でも最も早く巣へ到着したのは、身軽かつジェットパックという補助を持つ咲耶だ。
 唐突な他者の登場に一瞬子どもたちが固まるも、彼らを背へ庇うようにしていた年長らしき少年が「だれ?」と問う。
「イレギュラーズ……神使でござるよ。『先生』に頼まれ、皆を救出に参った」
 先生が、と子どもたちの表情が明るくなる。彼がどれだけ慕われているか、この顔でわかるというものだ。
「騒ぐと鴉が来る。助かりたいなら静かにすることだ」
 後から追いついてきたトラオムは子どもたちを一瞥する。彼らを一刻も早く下まで逃してやらねばならない。
「鴉は全てあちらが引き付けていた。今のうちだ」
 愛無もまたジェットパックで鴉に見つからないよう上がってくる。けれどもこれではもう1人を抱えるほどの推進力は出なさそうだと、愛無は下で子供たちを守るため降りていった。
 トラオムが自力で降りられるかどうか問うと、半数ほどが自力で降りられると言う。村の子供とあれば木登りなどもするのだろう。トラオムは高いところが苦手だという少女を抱え、地上へ向かって跳躍する。
「っぐ、」
 着地にかかる圧は1人のそれより高い。子供には傷ひとつとしてつかないが、トラオム自身は多少の負担がかかるようだ。
(だがやらないわけにはいかない)
 1人で降りられないのなら、多少の無理を覚悟でこちらが手助けする他ないのだから。
「安心召されよ子供達、この紅牙斬九郎がいる限りお主達には爪一本触れさせぬ」
 咲耶は子どもたちを安心させるよう笑みを浮かべながら、トラオムが帰ってきたタイミングで1人を抱え飛び降りる。ジェットパックの推進力を補助に──2人の重さがかかれば、気休めになるかもわからなかったが──地上へ着地した咲耶は、下で待ち受けていた愛無に子どもを託した。
 そうして救助も終わろうとしたところで、ようやく鴉の1羽が獲物の脱走に気づく。そしてそれを手助けした忌々しい『大きな人間』のことも。いち早く気づいたトラオムが子どもを守るため庇う態勢になり、朱を散らす。
「後顧の憂いを残すわけにはいかぬゆえ──掃討する」
「うむ。子どもたちには触れさせぬ、その凶爪を奮うのならば斬九郎を倒してからにせよ!」
 朗々と響く咲耶の声。注意が子どもたちから逸れたことを感じ、咲耶は刀を握りしめた。
 子どもの守りに達しようとトラオムが彼らを庇い、その後ろでは年長の少年がさらに小さな子らを守らんと立ちはだかる。小さき勇姿に悠は微笑んだ。
「後は大人の僕らに任せてね、お兄ちゃん」
 少年は自分に言われたのだと最初こそ理解していないような顔をしていたが、やがて飲み込んだらしくこくりと頷く。悠
「願いは聞き届けて叶えるよ、僕がね」
 悠の強化で送り出された仲間たちが鴉を掃討していく。運命力を消費した小さな奇跡の数々は、何としても子供たちを助けようと言う決意の表れだ。
「奴等も空から落とせば唯の鳥よ」
「ああ! さぁ、墜ちてくれたまえ!」
 咲耶の鴉羽による幻術と、マリアの雷撃が鴉を翼ごと撃ち落とす。翼をもがれた鴉は爪で地面を掻いていたが、間も無くして絶命させられた。
(生きるために仕方なくなのかもしれない。けれど……私たちも譲れないんだ!)
 子は誰かの、家族の、国の宝だ。食わせてやるわけにはいかない。
 秋奈は鴉の首を落としながら「焼き鳥って見かけない」と──食料を見る目で。
(あれ? 聞かないってことはもしかしてメシマズ?)
 食料候補から除外された鴉。秋奈の脳内ではただただ切り刻む敵にシフトしていた。
 1体、また1体と倒されていく。鋏のようになった腕で鴉を捕らえ、握りつぶした愛無は視線を巡らせた。
「逃げる様子はないか」
 引けぬ状況か、それともそこまで思い至っていないのか。何はともあれ、憂いを残さないためには願ったり叶ったりである。
 イアンの射撃に翻弄され、ひらりとクロバの射程に入った鴉。クロバはソウルイーターの力でその魂ごと吸収せんとする勢いで迫っていく。
(──思い出すんだ)
 子どもが好きなわけではない。けれど、重ねてしまう。あの時手が届かなかった妹の存在が、ブレて見えるようだった。
「俺たちは文字通りの”理不尽”だ」
 "傲慢なる人間"は、ただ自らのエゴを通す。"クロバ"は、今度こそ命を救わんと手を伸ばす。
「お前らの腹が空いたままか満たされようが関係ないんでな──!!」
 魂の、最後の一欠片がクロバへ吸い込まれていく。最後の1羽は血走った目で地上を見た。その視線に留まったのは攫ってきた──しかしイレギュラーズにより奪還された──小さな人間。最後に喰ろうてやろうと突撃する鴉を、しかしトラオムが易々通すはずもなく。
「終わりだ」
 妖刀に憎悪を乗せて、鈍重な一撃が鴉を勢いのままに切り裂いた。



 気づけば、空は薄っすらと赤みを帯びていて。先程見た光はあまりにも夏を思わせるものだから──。
「あづいー……溶ける。マジ溶ける」
 溶けそうな顔をした秋奈がぺたんとその場に座り込む。熱を持った地面がモヤモヤとしていて気持ち良くない。
 すっかり気の抜けた秋奈の姿に、子供たちは「もう大丈夫?」と言わんばかりに木々の後ろから顔を覗かせた。
「怪我はないかな? 君も大丈夫?」
 マリアが1人ずつに声をかけ、優しく抱擁する。暖かな人の温もりに、子供たちはぐずぐずと泣き始めた。
「うん、うん。もう大丈夫だよ。帰れるからね」
 ぽんぽんと頭を撫でれば本格的に泣き始める子供たち。その中にイアンはどこかまだ顔の強張った少年を見つけた。見る限り彼が最年長だろう。木々の中へと避難する間も、イレギュラーズに従い小さな子たちを誘導させていたように思う。それでも最後まで涙を見せる事はなかった。
「君」
 イオンが呼ぶと、遅れながらも自身が呼ばれたと気づいたらしい。顔を向けた少年へイオンはえらかったねと微笑みを浮かべた。
「君だって強張ったっただろうに、良く皆を落ち着かせて待ってたね」
 もう大丈夫と彼にも声をかければ、少年は糸が切れたように泣き始める。
「にーちゃんいたいのー?」
「いたいのいたいの、とんでけー!」
 彼の様子に子供たちが気づいた。群がって慰めようとする子供の姿に、マリアとイアンは顔を見合わせて笑う。愛無はその輪から外れ、鴉の巣があった木へ登っていた。
「まだ孵っていないか」
 愛無が覗き込んだそこにはつるりとした硬い殻を持つ卵がいくつか。どれもおおよそ普通の鴉が出てくるサイズとは思えない。その危険性は現在皆無に等しいようだが。
「回収しておこう」
 野放しにはできない、と愛無は手を伸ばす。それはやはり有精卵であるようで、触れると思いの外温かい。
(来世は普通の鴉に生まれてきてくれ)
 監視か、それとも始末か。何れにせよ親鳥もいないのだから良い生活を行えるとも思えない。愛無はせめてと願うと、木からするする降りていった。
 子供たちを近くに留めてあった馬車へと促す。村から離れたこの場所から戻るのも、子供たちの足では過酷な道のりともなろう。ここまではどうにか馬車を向かわせられたのだから復路も通れるはずだ。
「それじゃー出発っ!」
 秋奈の元気な声とともに村へ戻る一同。その入り口では依頼人である男がウロウロと所在なさげにしていた。その瞳がイレギュラーズを映し、大きく見開かれる。
「子供たちはっ」
「ここー!」
「ばぁ!」
 子供たちもまた先生と慕う男の声に気づき、馬車から顔を出す。愛無が馬車を止めると、男は中へと飛び込んで子供たちを抱きしめた。
「ああ、ああ、よかった……!」
「せんせえくるしー」
「あついー」
 しっかりとした抱擁に子供たちから思わず不満が漏れる。男はごめんよと抱擁を解いたが、そんな彼らの姿には微笑ましいものを覚えた。
「ねえ、おじさん」
 イアンはそっと男に声をかける。向いた視線に「言葉が足りないと続けると、男はきょとんと目を瞬かせた。
「大恩があるって言っても、理由のない親切は時に誤解を生むものさ」
 彼の言葉に『素性の知れぬ人物』と思っていた咲耶も頷く。男はああ、と納得したように苦笑した。
「申し訳ない。けれども軽々しく口にはできないのです」
 イレギュラーズたちに対してはもちろん、恩義を感じている村人たちにも。そう告げる男にイレギュラーズたちは肩を竦める。
 本人がそう言うのであれば致し方がない。あとは彼と村人たちの間で丁度良い距離を測っていくしかないだろう。
「ひとつ聞きたい。その大恩とはもしや、子ども達に対してか?」
 クロバの問いかけに男が微笑みかける。そこに言葉はなく──肯定もなければ、否定も存在しなかった。

成否

成功

MVP

マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 村人たちと彼の関係がこれから良くなると良いですね。

 またのご縁をお待ちしております。

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