シナリオ詳細
復讐の黒蜥蜴
オープニング
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これで何度目か。仮面倶楽部の面々は仮面の奥の目を好奇心で輝かせ、私が復活した過程を初めて聞く話であるかのように面白がってくれる。
彼らが感嘆のため息を漏らすたびに、お愛想だとわかっていても自尊心が満たされる。漆黒の野を舐めるように繰り返しこの身の内を焼く嫉妬の火も、このときばかりは勢いを失くし、白い煙を上げて燻るのだった。
「それは……自分自身が手掛けた作品であったからかもしれません。これが他の魔物の腹なら、私はいまここに座ってはいないでしょう」
艶然と微笑みながら、さりげなく視線を上座に座る男へ滑らせる。仮面倶楽部の創立者にして主催者、Dr.Mask Killeに。
Dr.Mask Killeはこちらの視線に気づいているのか、いないのか。隣の男と談笑している。
私は膝の上で拳を作った。
彼が倶楽部の規約を自ら捻じ曲げて、過去を探ったことは良しとしよう。だが、いかに私の記憶を取り戻すためとはいえ、コ・イーケを使って私のジェイクを殺したことは許せない。
色々と手を尽くしたが、いくら継ぎ直してもジェイクの魂は戻ってこなかった。魔種になってまで一緒になりたかった人、だけど魔種になった途端、愛とともに記憶の底に鎮めてしまった人。皮肉にも記憶を取り戻した途端、永遠に失ってしまったのだ。
イレギュラーズ、特に引き金を引いたあの銀狼は許せないが、この男も同罪だ。いずれはこの男を上回る力を得てみせる。その時、復讐するのだ。主催を殺して仮面倶楽部を乗っ取り、我が手足として使う。魔種としてさらなる高みを目指すために。
Dr.Mask Killeがこちらに目を向けた。
心の中を見透かされてしまわぬように、私はただ一つ、座るべき主を失った椅子へ目をそっと移す。空席になったままの冠位に思いを馳せながら。
「そうそう。この前の会合でお願いした例の件、さっそく動いてくださったようですな」
ずるり、とぬかるみを這うような声がした。
生理的嫌悪を押し殺して、かすかに顔を左の薄闇へ向ける。
「ご夫妻は深く感謝しておりましたよ。娘についた悪い虫を素晴らしい作品に作り替えてくださったことに。ダークリザードさまにお礼がしたいと申しておりました」
「それではお言葉に甘えて――」
私は黒い鉄扇を広げると、左の薄闇に唇を寄せた。
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「なんスか、これ!」
日向 葵 (p3p000366)が握りしめる手の中で、白い紙が音を立てて捻じれた。
「……ふざけやがって。二度と来るな、と言ったのに」
珈琲カップを片手に、サンディ・カルタ (p3p000438)はカウンター席に移った。
「落ちつけって。お前がそういってやったチビで天然パーマの魔種はオレたちが倒しただろ? これを送って来たのは依頼人だ。店長は大丈夫だよ」
この日、喫茶『ノワール』には、黒い招待状とともに深緑の古い西洋館に出向いた面々が集まっていた。『ノワール』に再び、ダークリザードからの招待状が届いたのだ。正確にはダークリザードに脅されたとある貴族からの護衛依頼とダークリザードの脅迫状だが。
サンディはまだ怒りが収まらない葵の手から二枚の紙を取り上げた。
「……でも、確かにふざけてるよな。殺害予告している娘の婚約パーティを開かせ、その護衛に俺たちを指定してくるなんて」
「これはリベンジですかネ、やっぱり。あのオバサンの大切なお人形を壊してしまったからデショウか?」
オジョ・ウ・サン (p3p007227)が触手でぶら下げたサクランボウの尻にかじりつく。
ジェイク・夜乃 (p3p001103)は片手で銀のロケットを開いた。
「ただのお人形じゃなかったからな、あれは」
店内を静かに流れる音楽に耳を傾けていた夜乃 幻 (p3p000824)がぽつりとつぶやく。
「ツギハギのジェイク様は、ダークリザード様の恋人でした」
あの事件のあと、ジェイクと幻は屋敷近くの村々で、屋敷に住んでいた人々のことを聞いて回った。
薄々感づいていたが、あの屋敷はやはりダークリザードの生家だった。二人は若い恋人たちを襲った悲劇と、その後に続く家人の不幸――恋人を文字通り両親に引き裂かれた娘が、魔種に転ずる物語を知ったのだ。
「僕たちはそれとは知らずに、恋人たちを引き裂いた悲劇を再演させられてしまいました。二度も恋人を目の前で殺されなければならなかったダークリザード様の心中……察するに余りありあるものがございます」
あの時、なぜダークリザードが縛られていたのか。恐らく、ダークリザードはツギハギのジェイクを守ろうとして、コ・イーケの計画を邪魔しようとしたのだろう。あるいは、コ・イーケがダークリザードを縛っておいてから、計画を耳にささやいたか。
華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)はイチゴショートをホークで切り崩した。
「すべてはダークリザード復活のため……だけどあの小男一人が描いた絵とはとても思えないのだわ。去り際にいっていた『仮面倶楽部』が関与しているとか?」
ぱくり、とホークに乗せたイチゴショートを口に入れる。
長谷部 朋子 (p3p008321)が、そうそう、と生クリームのついたホークを顔の横で振った。
「あの小男、なんだか拍子抜けするぐらい弱かったよね。あたしの一振りで床に叩きつけられちゃったし」
「オメェの一振りはただの一振りじゃねーだろ」
キドー (p3p000244)がまぜっかえす。
「投げられる前にマジ切れしたダークリザードに頭を掴まれてダメージ受けていたとしてもだ、ゴリラ顔負けのバカ力であの岩みてぇな石斧を叩きつけられたら――ってててててて、いてぇ!」
朋子に耳を引っ張り上げられたキドーが悲鳴を上げる。
ふふふ、と笑って苺ショートケーキを平らげた華蓮が宣言した。
「ともかく、折角のご招待、もとい依頼なのだわ。お嬢様の安全と幸せをお守りするために全力を尽くすわよ!」
ジェイクは黙って銀のロケットを閉じた。
- 復讐の黒蜥蜴完了
- GM名そうすけ
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月30日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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仮面の下で笑いさざめく紳士淑女の間を、男装の麗人『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がシャンパンのグラスを片手に、優雅にすり抜けていく。
くつろいだ笑顔の裏では、パーティーを開いた貴族と襲撃を予告したダークリザードへの疑念が渦巻いていた。
(「仮面、仮面、仮面……。仮面倶楽部とダークリザード様。繋がって参りましたね」)
仮面倶楽部といえば『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)だけでなく、幻にとっても因縁深き組織。いずれ決着をつけねばならない宿命の敵だ。
(「ですがその前に。今宵はダークリザード様と決着をつけましょう」)
『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は、サーモンが乗ったものを避けて、トマトとクリームチーズのカナッペを手に取った。油断なく当たりに目を配りながら、口に放り込む。
「うんま!」
胸にこぼれたクラッカー屑を払い落しながら、正装の『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)にぶらぶら近づいて、小声で話しかける。
「脅迫について知ってるのは親だけか?」
「たぶん、そうじゃないっスかね」
「ま、当然そうだわな。ホントなら招待客も災難なこって」
二人して失笑する。
どちらも口にはしないが、ホストファミリーも招待客たちも、ダークリザードの仕込みではないかと疑っていた。
「にしても遅せぇな。奴はまだか」
「まさか、どっかの壁をぶち抜いて突っ込んでくるってのは……ありそうっスね」
そりゃまた派手な登場だ、とまた笑った。
『戒めを解く者』オジョ・ウ・サン(p3p007227)は、つまみ食いがてらパーティー会場を一回りしたのち、遠くから貴族の娘を観察した。
婚約者が話しかげるたび、娘は指の先に髪を巻きつけて媚びる。無理やり恋人と別れさせられた直後には見えない。
(「あのオジョウサン、大丈夫デショか……?」)
婚約者が離れた隙に娘に近づく。
「やァ! オジョウサン! オジョウサンはオジョウサンデス!」
黒髪が激しく揺れ、セルリアンブルーの瞳が大きく見開かれた。
貴族の娘はすぐに礼儀を思い出し、失礼を詫びた。
「ノープロブレムデス。それよりオジョウサン、お名前はなんというデスか!」
普通に考えれば非常に無礼な態度だが、子供のミスのように見せているところが、すでにオジョウサンの作戦だったりする。
「マリアンヌよ、かわいいオジョウサン」
我が意を得たり。ジョウサンは矢継ぎ早に質問を繰りだした。
今回の婚約は本意なのか。婚約者はどんなヒトなのか、等々。
「もちろん嫌々だったわ。彼と別れさせられてすぐだもの。でも父が連れてきたジョナサンが素敵な人だったから……。人生は短いんだし、いつまでもくよくよしていないで前向きにならなきゃ。あなたもそう思うでしょ?」
マリアンヌはアヒルみたいに唇を突き出した。ダークリザードに似た容姿でそんなことをされても……。
オジョウサンは婚約者の名前が「ジェイク」ではないことにほっとし、あることに気づいた。
庭師の彼が殺されてツギハギの魔物に作り変えられたことを、この娘は知らない?
「交代しよう」
耳元で『レディの味方』サンディ・カルタ(p3p000438)にささやかれて、体をぴくりと震わせる。
「ハッ! もしやこのパーティーは、食事も食べ放題なのでは……?」
オジョウサンは、仲良く料理を皿に取り分けている『後遺症の嫉妬』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)と『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)のテーブルに向かった。
婚約者が戻ってきたので、サンディは壁際に下がった。先ほど聞いていた会話を頭の中で反芻する。
(「あの親、何を考えてんだ」)
サンディたちはダークリザードの脅迫状を読んだので、マリアンヌの元恋人が彼女をさらいにくることを知っている。当然、依頼状に脅迫状を同封してよこしたマリアンヌの両親も知っている。
なのに娘に黙ったまま、魔種に脅されているにせよ、こうしてパーティーを開く神経がサンディには信じられない。
(「なんにせよ、世間知らずのお嬢ちゃんが駆け落ちした先が幸福、ってほど世間も甘くねーし。俺ぁスラムに行き着くパターンも見てるぜ、死ぬほどな」)
マリアンヌが魔物の彼を受け入れて一緒に逃げたとしても、やはり物語はハッピーエンドにはならない。不幸に不幸が重なるだけだ。
「ま、『レディの味方』としちゃあ守るっきゃないか。何があっても」
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ジェイクは楽しそうにお喋りする娘を見る。
本当に似ている。ダークリザードに。
ただ、マリアンヌにはダークリザードにない無邪気さがある。この世のすべてに嫉妬して心を黒くする前は、奴もああだったのか?
(「しかし、あの娘も哀れだな」)
サンディから件の会話を聞き、ジェイクは既視感に襲われた。
どうやらダークリザードは、己が魔種となったきっかけの物語をここで上演する気らしい。わざわざ自分たちを呼んで、見せつけようとする意図は分からないが。
「だがよ、折角のお誘いだからあえて乗ってやる」
刹那、悪寒が背中を駆け下りた。
シャンパングラスをテーブルに戻し、視線を飛ばして幻たちとアイコンタクトをとる。
万事、抜かりなく。幻は頼もしく微笑み返してきた。キドーや葵たちも感が働いたのか、招待客たちの間を縫って、裏庭に面した壁へ移動していく。
娘に警告しようと思ったが、彼女の両親と婚約者が傍から離れないのであきらめた。
招待客も含めて、彼らはみなダークリザードの……仮面倶楽部のメンバーだ。危険を察知する狼の本能はごまかせない。依頼を受けてからずっと、頭の中で警報が鳴り響いている。
彼らがこのことに気づけば、パーティーが中止になる。そうなればいよいよ娘が危ない。が、確たる証拠がない今の状況では、両親から彼女を引き離して保護するの無理だ。
ジェイクは苦々しい思いでマリアンヌたちから目を離した。
瑞稀と朋子は美味しそうなケーキをあきらめなくてはならなかった。
二人で同時に深々とため息をつく。
多分もう、ケーキは食べられない。ドンパチのあとで無事に残っているとは思えないからだ。
(「まったく、もう」)
ジェイクに目配せされるまでもなく、瑞稀たちも肌で魔種の気配を感じていた。
皿の上にホークを置く頃には、はっきりと会場内がざわつきだした。面白いことが始まりそうだという期待が、ざわめきの中に感じられる。
(「完全に隠す気がないだわね。それにしても、護る対象まで怪しいって、精神的にきついものがあるだわ……」)
朋子も同じことを考えていた。
(「なんだかろくでもない予感しかしないよ!」)
まったくもって怪しい。怪しすぎる。なんだ、この全部が全部、胡散臭い状況は。
朋子は肩を怒らせながらテーブルを離れた。
ダークリザードの事情とか、依頼人の事情とか、一切合切頭の中から締め出して、戦闘モードにスイッチオンする。
(「あたしの役目は、襲ってくるとわかってる敵を返り討ちにすることだけだ!!」)
やってやろうじゃない、と原始真刃の大斧を構えたとたん、目の前の壁がはじけ飛んだ。
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衝撃でドアや窓が震え、ガラスの割れる甲高い音が室内に響き渡ったが、朋子は瞬きしなかった。その目は壁を壊して入ってきたツギハギのケンタウロスもどきと、その背後にいる黒いドレスの女へ向けられていた。
信じられないことに拍手が起こる。招待客たちだ。
浮かれ気分の馬鹿どもにキドーが怒声を浴びせる。
「パーティーの余興じゃねえ。死にたくなかったら逃げろ!」
「はいはい、屋敷から出ていくっス。警告を無視するとアンタたちも一緒に蹴り倒すっスよ」
招待客たちは葵の避難勧告を笑って無視した。
キドーは肩をすくめると、壁の穴の前できょろきょろしているツギハギの魔物に封印をかけた。
(「クソ、全員真っ黒じゃねーか。一緒にぶち殺しちまってもいいんだが……」)
盗賊の感が働いた。こいつらは絶対、もっと大きな『何か』知っている。生かしておくほうがいい、と。
「朋子、こいつらの心配はいらねえぞ。俺と葵で放り出す」
「ありがとう、キドー君。葵君も。よし、じゃあ……相変わらずB級ホラーみたいな見た目だけど、まずはお前から倒すね!」
ツギハギの魔物は愛しい女を見つけると、一直線に駆け出した。
朋子の後ろでマリアンヌが悲鳴をあげる。壁を突き破って表れた化け物が、かつての恋人だと気づいたらしい。
「元は駆け落ち寸前までいっていた恋人同士……なんだか複雑だけど、ごめんね!」
大気摩擦を起こして炎の尾を引く岩の大斧を、突進してきたツギハギの獣の胸に叩きつける。
ドドーンという轟音がした瞬間、会場内にいた者は落雷を受けたような、痛烈な衝撃を感じた。招待客の多くが吹き飛ばされた。朋子も反動でひっくり返る。
「マ……マリあ、ヌグぅ!」
体を傾けたツギハギの前に、黒い血と肉片でできた小さな池が現れた。
サンディは気絶したマリアンヌを安全な場所へ連れて行こうとした。
「今のうち――ぐっ?!」
何者かが後ろから腕を回してサンディの首を絞める。他にも二人、視界の外から足を押さえる者たちがいた。
「ひょ!? ジョナサンサン、何してるデス! ご両親も。頭おかしくなりましたデスか?」
慌てて戻って来たオジョウサンの言によって、サンディはいま体に纏わりついているのが誰なのかわかった。
「クソったれ」
ジョナサンの腕を両手でつかみ、勢いよく腰を跳ね上げて背負い投げる。とたん、両足に纏わりついていた腕が離れた。
夫婦が娘を起こしにかかる。
「起きなさい、マリアンヌ」
「アレを見ろ、あの庭師の成れの果てを!」
オジョウサンと瑞稀がそれぞれ、父親と母親を娘から引きはがす。
「やめなさいよ、娘を魔種にするつもり?!」
「そうとも。娘は魔種になって、倶楽部の空席を埋めるのだ。そうなれば我々の地位も……ささ、ダークリザードさま。早く娘に呼びかけてやってください!」
「呆れた、とんだ毒親なのだわ!」
立ち上がったツギハギが走り出す。
ブロックに入った朋子が弾き飛ばされる。
ジェイクと幻が遠距離攻撃で魔物の足を鈍らせている間に、サンディがナイフを構えて迎撃態勢を整えた。毒親たちの対処を瑞樹に託したオジョウサンが、バックアップに入る。
戻って来たキドーと葵を確認したサンディは、名乗りを上げて、刃の嵐でツギハギを迎えた。
「俺はサンディ・カルタ。マリアンヌは渡さねぇ。失せろ!」
嫉妬に震える牡牛の角が、乱舞する刃の間を潜り抜けて、サンディの腹に突き刺さった。が、後ろにいたオジョウサンには届かない。
キドーによって攻撃は封じられ、威力が半減していた。
「代わって、前に出るデス!」
ジェイクと幻が弾幕を張り、二人の入れ替わりをフォローする。
毒親を気絶させた瑞樹が、嫉妬で黒く固めた棘をツギハギの目に打ち込んだ。魔物が一瞬、怯む。仕留められずとも、足止めるつもりだったのだが。
「まあヒーラーな私では大した火力にはならないのだけども……あぁ、強い仲間達が妬ましいのだわぁ」
すぐに暴れだした魔物に本気で悔しがる瑞樹を、葵が慰める。
「十分っスよ、瑞樹さん。おかげで俺もキドーさんもベストな位置につけられたっス。気合いを入れてこいつを倒すっスよ!」
葵はツギハギの魔物めがけてバナナシュートを放った。激しく回転する銀球は銀の弧を描いて飛び、ツギハギされた庭師の背骨をへし折った。
朋子も大斧をぶんぶん振るい、四つ足を切り崩す。
生ぬるい風と共に、ダークリザードが放った無数の悪霊が会場内に入り込んできた。悪霊たちはイレギュラーズの体に取り憑き、さらには気絶しているマリアンヌたちにも襲いかかる。
瑞樹が天使の声を響かせる中、ジェイクは二挺の銃を顔の前で十字に重ねると、エクソシストよろしく悪霊たちに吼えた。
「関係ねぇ奴に八つ当たりするんじゃねえ! お前達の無念は俺が晴らす! 奴は俺が殺してお前達の元に送ってやるよ! だから、テメエら退きやがれ!」
十字を解くと、ジェイクは魔弾を乱れ撃ち、悪霊を繰るダークリザードをけん制した。
悪霊から解放されたキドーは、ツギハギの横ッ腹にてのひらを向けて衝撃波を放った。
ツギハギの獣部分が吹き飛んで、背骨が折れた庭師の体だけが残った。
幻が作り上げた幻想の中で庭師は至福の笑みを浮かべ、愛しい人の影に腕を伸ばす。
「マリ……アンヌ!」
自分を呼ぶ声に、マリアンヌが目を覚ました。
それは言語に絶する冒涜的な光景であったが、マリアンヌは目をそらさなかった。圧倒的な苦闘と恐怖、悲しみが混ざり合った表情が顔をよぎり、小さな唇から美しくも悲痛なため息が長く細く吐き出される。
「ねェ、辛イデスか。オジョウサン。……デモ、あのヒト、もっと辛ソウデス。ねェ、オジョウサン」
問いかける声は優しく。
「楽に、さセテあげテもいいデスか?」
狂気に染まるマリアンヌの目に涙が浮かぶ。
オジョウサンはありったけの魔力を込めた一撃で、彼と彼女の悪夢を終わらせた。
●
「お前とのパーティーはこれで何度目だ? いい加減にケリをつけようぜ」
ようやく室内に入ってきたダークリザードを、ジェイクと幻が美しく光る青い蝶とともに出迎える。
「ダークリザード様、貴女が記憶を取り戻したときと同じようなシチュエーションを用意して何のおつもりですか?」
「……決別」
「あ?」
ダークリザードの体から黒いオーラが腕のように長く伸びて、ジェイクと幻の上を越え、イレギュラーズの間をすり抜けて、気絶しているマリアンヌの両親をつかみ上げた。
「テメェ!」
サンディがナイフで黒いオーラに切りかかる。瑞樹とオジョウサンも、腕や触手を伸ばして二人を助けようとした。
「連れて逃げようって魂胆か!」
ダークリザードが、にぃぃ、と赤い唇を歪めて笑う。
「いいえ。仮面倶楽部につくダニはこうしてやるのよ」
次の瞬間、マリアンヌの両親は黒いオーラにずたずたに引き裂かれ、うめく間もなく肉片と化した。
血の雨がマリアンヌと瑞樹たちの上に降り注ぐ。
「超最悪なのだわ!」
ヒヒヒ、と壊れた笑い声がマリアンヌの口から流れた。
「テメェの思い通りにさせるか。魔種にはさせねえ!」
ジェイクが攻撃の口火を切ってダークリザードに銀弾を叩き込む。幻がステッキをタクトのように振るい、青い蝶が魔力の蜜を求めて魔種の周りを乱舞する。
葵とキドー、朋子も加わり、苛烈な攻撃で会場内が白赤色の光に覆いつくされた。
白い光の中に黒い人影がゆっくりと浮かび、出てくる。
驚くべきことに、あれだけの攻撃を浴びながらダークリザードはほぼ無傷だった。わずかに体に残る傷も、見る見るうちにふさがっていく。
「言ったでしょ、これは『決別』だと。その娘はもう一人の私、別の未来を選んだ私なの。あの時、ああすればよかった。こうすれば違ったかも……すべてを切り捨てて、私は魔種としての高みを目指す!」
ダークリザードは朋子が腕をあげる間も与えず、頭の横に鉄扇を叩きつけた。
すかさず瑞樹は自身の力を癒しの光に変えて、倒れた朋子を手当てする。
「止めて! マリアンヌを殺す気なのだわ」
葵が至近距離から放ったシュートを腹でまともに受け、キドーが振るった小鬼の懐鎖で背中を打たれてのけぞりはしたが、ダークリザードの足は止まらない。
「ダークリザード様、貴女は仮面倶楽部を憎んでいるのではありませんか? 情報を頂ければ、僕達が仮面倶楽部を潰すこともできますよ?」
葵の頭を砕こうとした鉄扇が、空で止まる。黒い仮面の奥で瞳が泳ぐのを幻は見逃さなかった。
「なにを根拠にそんなたわごとを……」
「ダークリザード様、僕達は憎しみ合うより、協力関係を築いた方が有益だと思うのですが、如何でしょう?」
鉄扇で口元を隠すしぐさから、幻は微かな好奇心と戸惑いを感じとった。ここぞと畳みかける。
「恋に引き裂かれる想いを知るからこそ、ダークリザード様、僕は悲しいのです。このような戦いをしなければならないことを」
否。否、否、否!!
「いまさら遅い! 私はもう戻れない、私が愛したジェイクとはもう――お前たちのように結ばれることはないのだから!」
ダークリザードの目が切なく燃え上がる。
全身から悪霊を解き放ち、黒いオーラをマリアンヌへ伸ばした。
「ああ、そうかい。結局、お前は俺にとって狩られるための獲物に過ぎなかったんだな。もう終わりにしようぜ。あばよ、黒蜥蜴」
お前の思いは俺が一生背負って生きていく。それがお前への贖罪だ。
『狼牙』と『餓狼』の二口より飛び出した直死の魔弾は、空で合わさり膨張して黒の大顎を形作った。ダークリザードに頭から食らいつき、貪り喰う。
「最後はみんなでお送りいたしましょう。Au revoir、ダークリザード様」
攻撃に攻撃を重ねる。二度、三度、四度……いま持ちうるすべてを捧げて。
青白い閃光が弾けた。
●
燃える屋敷を見つめながら、ジェイクは幻の手を握った。
「これから新緑に行く。付き合ってくれるか」
「もちろんでございます。ダークリザード様のお墓はやはりあの場所に?」
「ああ、ほかに思いつかなくてな」
幻はジェイクの手を強く握り返した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
みなさん、お疲れさまでした。
ダークリザードの物語はこれにて終わりです。
彼女の本当の名前は……。
ジェイクさんと幻さんが調べて、二人の手で墓碑に刻みました。恋人の名とともに。
マリアンヌはローレットの口利きで、とある修道院に身を寄せています。
婚約者のジョナサンはじめ、婚約パーティーの招待客たちは全員捕まえています。
彼らの口から何を得られたか……おいおい明らかになるでしょう。
ですがそれはまた別の物語。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼条件
・『蠱惑の華』ダークリザードの撃破
・ツギハギの魔物の撃破
※貴族とその娘および娘の婚約者、招待客、使用人たちの生死は問いません。
●時と場所
・夜
・とある貴族の屋敷 大広間
貴族の娘の婚約パーティーが行われています。
●敵
・魔種/『蠱惑の華』ダークリザード
武器は鉄扇。攻撃とともに防御にも使用します。
【原罪の叫び声】…ウォーカー以外、聞くと魔種に転ずる可能性があります。
【悪夢再来】…死霊を呼び出し苦しめ、生者にとりつかせて身動きを封じます。
【嫉妬の影/近列】…体から出した黒いオーラで捕獲、締めつけたり投げたりします。
※復活後に得た能力
【リジェネレイション/パッシブ、毒無効】…少しずつですが受けた傷が再生します。
・つぎはぎの魔物
ダークリザードの最新作品。
鉄騎種の青年とバッファローの組み合わせの半身半獣の魔物。
バッファローの肩に鉄騎種の青年の上半身が乗っている。
機械の腕は継がれて長く伸ばされ、砕けた頭蓋骨を鉄板で補われています。
もとはなかなかの美青年でしたが……貴族の娘の家庭教師をしていました。
執拗に貴族の娘を狙ってきます。
【鉄の拳/近単、連撃】……鉄の拳を振るいます。
【ホーンアタック/貫2】……突進して大きな角で突き刺します。壁をぶち抜く威力。
●NPC
・貴族の娘とその両親
イレギュラーズに一人娘の護衛を頼んだ貴族と娘。
両親はなぜかダークリザードの指示に従い、婚約パーティを強行。
イレギュラーズに護衛を依頼しています。
黒い髪を腰まで伸ばした娘は、魔種に転ずる前のダークリザードとどことなく似ているとか。
娘は家庭教師の男と駆け落ち寸前でしたが、両親の説得を受け入れて別れました。
・婚約者
タキシード姿で黒いビロードの仮面をつけています。
・招待客……10組
なぜか男も女も仮面をつけています。
・使用人……複数。
婚約パーティで食事や飲み物を配ったりしています。
屋敷の者だけでは人手が足りないので、臨時のお手伝いを入れています。
騒ぎが起これば勝手に逃げだすでしょう。
●その他
リプレイはダークリザードが屋敷を襲撃する『少し前』からスタートします。
みなさんはボディーガードとして婚約パーティに呼ばれています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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