シナリオ詳細
Curiosity killed the cat
オープニング
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――貴方の名は、
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鉄帝国軍部に所属しているElias・Tine・Meissenはラド・バウでもその名を轟かせたファイターであった。華々しい経歴は引退し、政携わる軍部勤めになっても変わらない。主に彼女が対応するのは外交やその他、各国の調査であった。ラサは首都のオアシス、夢の都ネフェルストに赴いたElias――エリアスは一つの噂を耳にする。
最近、サンドバザールにて噂される『占いの館』の話だ。細い路地の奥に露商を営む男が居るという。梲が上がらない男ではあったが、サンドバザールの『曰く付きの品』を手に入れてから占いを生業とし大成しているのだという。その成功にはある種の噂が付き纏っているのだ。
――曰く、『占いはよく当たる』『未来を知ることができる』。ただし、何かを失うのだという。
その占いは様々な尾鰭を付属させ噂を肥大化させている。話題性をあげたのは連続失踪事件であろう。
露天商の男は旅人であるという。エリアスと同じだ。吸血鬼であった事や鉄帝国のラド・バウで腕を磨いたエリアスと比べれば、日銭を稼ぐのもやっと出会った男はこの世界に召喚されたことを恨んだことであろう。突然の召喚に適応できない者は多数居ることを、この混沌に生きる者はよくよく知っている。彼の身の上などエリアスには関係ない。彼女が目をつけたのはサンドバザールと『曰く付きの品』であった。
ラサのサンドバザールにはそうした品が紛れ込む。それは外交官とも呼ぶべき彼女の職務上、よく理解していることだ。
(見過ごしていいものではないわね……?)
占いへと一人で乗り込むことを考えたが、そこで彼女は一つの結論に至る。
自国がグレイス・ヌレで起こした戦い。その時に敵国側の助っ人であったイレギュラーズ。
彼らに『依頼』をしてみるのはどうだろうか。外交官としてパイプを持っておく事は悪くはない筈だ。
そして、エリアスはラサの酒場へとイレギュラーズを呼び出すに至ったのだ。
「私はElias・Tine・Meissen。エリアスでいいわ。今は鉄帝軍部に勤めているわ。
各国を知るためにフィールドワークを行っているの。それで、奇妙な事件を耳にしたから協力して欲しいの」
これからの自分との友好的な関係のために、と微笑むエリアスのその姿はErstine・Winstein (p3p007325)とよく似ていた。宵の色のロングヘアーに、同じように存在する犬歯。エリアスはエルスティーネの姿を見て真っ先に『我が子である』と言うことに気づく。しかし、彼女がエリアスに名乗ったのは『エルスティーネ・ヴィンシュタイン』と言う名前であった。
(エルスティーネ・ヴィンシュタイン……? どうして名前が変わってるのかは知らないけれど……。間違いないわ。この子は、エルスティーネは私の娘、エルスだわ……)
エリアスは我が子との感動の再会を喜んでいる場合はないと、彼女に問いかけることはしなかった。
「簡単に説明するわね。『占い屋』と呼ばれる男がいるわ。狭い路地裏で商売をしているの。
彼には様々な噂が付き纏う。けれど、彼を一躍時の人にしたのは『人が消える』という事象ね」
占い屋のもとへ向かった者は失踪し続ける。その噂を真に受け、神秘的であるとまた人が向かう。その繰り返しだ。
「詳しく調べたところ、占い屋は『名前』を聞くらしいわ。それで、思い当たったのだけれど……『名前』は人を制御すると言われているの。本来の名を彼に教える事で何かが起こっているのだと、そう推測される」
それ以上は調査の使用がなかったのだとエリアスは告げた。一人で占い屋のもとへと向かい『失踪』してしまう事だけは避けたかった。事件の解決のためには『解決のための手』必要だ。
「うん、依頼をして良かった。貴方たちなら、失踪事件を解決することができるはず。
……どんな危険が待ち受けるかもわからないけれど……協力をお願いするわ」
柔らかに微笑んだエリアスはちら、と『我が子』を見た。緊張したように頷いた『エルス』――その名を告げて母だと抱きしめたいと願えども、彼女の側に居られなかった自分にその資格があるのかさえわからない。
自身が『去った』後、王国に何があったのか。彼女の名をどうしてそうも変えたのかは分からない。
「エルス――いいえ、エルスティーネさん。頑張りましょう?」
エリアスは母の表情をして、切なく微笑んだ。
断崖のその先、混沌と言う名の人生を歩む愛しい娘と共に仕事に取り組める喜びを噛みしめて――
- Curiosity killed the cat完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月29日 22時30分
- 参加人数12/12人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 12 人
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参加者一覧(12人)
リプレイ
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「鉄帝軍の依頼者か。役に立ちそうだしコネを持っておくのも悪く無いな。
しかし何というか、何処かで見たことあるような顔の気がするんだが。……初対面のハズだし気のせい、だよな?」
そう告げた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は此度の依頼人をまじまじと見つめていた。
此度の依頼人、エリアス・ティーネは穏やかな笑みを浮かべている。その濃紺の夜空を思わせる黒髪に知的な黒い瞳。凜とした立ち姿の鉄帝国の外交官をまじまじと見遣った後、『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)へとにんまりと笑って見せた。
「エリアス殿なんだかエルス殿と似てますねえ! 世界に3人は自分と似てる人がいると言いますから異世界込なら結構な人数になりますからね! そういう事もあるでしょう!」
「――え、ええ。そうね」
一瞬、戸惑いを滲ませたエリアスに『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は「突然でごめんね。でも、とっても似てるよね」と首を傾ぐ。混沌世界は様々な世界からの召喚がある――ルル家や焔が感じるように『他人の空似』という可能性は儘存在しているのだ。
(けど、偶然と言うにはあまりにも似すぎているし……エルスさんは兎も角、エリアスさんは何やら隠して居る雰囲気もあるわ。何だか何かあるように思えてしまうわね?)
ちら、とエリアスの横顔を見遣った『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)の視線の意味似気付いたように『未来に幸あれ』アイラ(p3p006523)は頷いた。エリアスとエルスティーネの髪は同じカラーリングだ――それにしても、まるで『家族』のように同じ色彩と顔(かんばせ)と言うのだから――
「今回の依頼人――エリアスさんはエルスティーネのことやたら気に掛けてたよな?」
そう問いかけた『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)にエリアスははっとしたように顔を上げる。そうした表情もエルスティーネに似ている物だと感じながら『展開式増加装甲』レイリ―=シュタイン(p3p007270)はどこか気まずそうなエルスティーネを見て首を捻る。
「似ている、か。うん、エルスティーネに心当たりは?」
『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)の言葉にエルスティーネの脳裏に過ったのは『家族』という言葉だが、リリスティーネやその父は親族と言えどもその色彩は似ては居なかった。
「いいえ……」と濁したのはタツミの言うとおり、エリアスが気に掛けて、そして此方を伺っていると言うことだ。
「エリアス・ティーネさんとエルスティーネちゃんか……。
名前も、外見もちょっと似すぎでしょ。生き別れの姉妹とかだったりしてね」
揶揄うように、そう言った『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。エリアスの肩があからさまに跳ねた――気がしたが、それ以上はない。
「まあ、詮索は無用かな。皆の言うとおり、他人の空似と言うこともあるだろうし……」
本人達が言いたがらぬと言うならばそれ以上はないかな、と告げる『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)にウィズィも頷いた。
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呪いという物は真名を識られてはならぬものだという。古来より、そうした呪いを避ける為に偽名を掲げる者が居た――というのは彼岸会 無量(p3p007169)も識るところである。占い屋を名乗る男が名を求めてくるのは彼が手にしたアーティファクトの効果を発揮するためなのだろう。
「……名前? 私はレイリー=シュタインよ。それ以外の名なんてないわ」
淡々と返したレイリーは視界に嫌な不快感を感じた。不審な存在であるが『現状』が分からない以上その問いに答えるしか無いと――その体は何かに引きずられた。
「占い屋さん。ボクも占って頂けますか?
嗚呼、ええ。魔術を扱うものとしては、心が擽られるものですから。
え、名前? ……ええと。ボクの名前は、アイラです。Aira Laureate」
――其処まで告げてからアイラはぺたんと座り込んでいた自分に気付く。先程まで隣に立っていた無量やタツミの姿は存在していない。動けない、とアイラは感じた。喉奥は声帯という機能を忘れたように掠れた声を漏らす。
アイラは自身の蝶々をそっと指先に乗せた。氷精が合図するようにその指先に口づける。
「――どうか、ボクの為に飛んでくれますか?」
動けない自分の言ノ葉を届てほしい。怖い時も前を向いて、それが教わった戦い方なのだというように目を伏せる。
そして、動けないというのは佐那も同じでった。名というのは師に貰ったこの名が一つだけ。元々自身に名前が与えられていたとしても――識らぬ存ぜぬのならば本来の名と偽の名の区別はない。少なくとも佐那にとっては自身が名乗っている『緋道 佐那』が本名なのだ。
「失踪事件かぁ、もし攫われたりしてるならボク達もどうなるかわからないよね――って思ってたけど」
これこそが失踪の正体か、と言うように焔は溜息を吐いた。此処は何処であろうか。体が動かない。先程アイラがそうした様に名前を告げればこうなっていた。名前を告げてからの記憶が曖昧と言うことがこれこそが事件の真相と言うことだろう。
皆、ばらばらに『転移』させられた状態になっているのだろう。「くそ」と毒吐いたリウィルディア。体が動かないとなれば救出されるのを待つしか無い。匂い袋を手にしながら、目を伏せる。
(それにしても、本名の者の行動を縛る。薄気味悪いね、まったく。反吐が出る。……ああ、本当に)
目を、耳を。全てを生かして仲間との合流を図る無量。占い師に名を告げれば見慣れぬ町並みに立っていた事は些か驚きはしたが体の自由は効いている。
「よもや真名でない事がこの様な所で役に立つとは。
それにしても……失踪事件の真相はこういう事でしたか」
何があっても言いようにと方々で香水や匂い袋などの工夫をしたことは良かった。事前に『何かあった時に』と班を分けていたこともあり、ウィリアムは早々に無量との合流を果たした。
「名前を知った者を取り込むアーティファクトか。
お伽噺にも似たようなものが登場するけど、これがモデルなのかな。
悪事に使われているのは残念だけど、中がどうなっているのかと思ったけど……普通の街なんだね」
ウィリアムの言葉に無量は「ええ。それも、御伽噺と呼ぶよりもリアリティを伴った存在ですね」とぺたり、と壁へと触れた。その質感は紛れもなく現実世界と変わりが無い。ウィリアムは他の仲間を探すべく街の中を合流した無量と共に歩き出す。
「おっ、香水の匂いを辿ってきたら、っと」
ひら、と手を振ったのはタツミ。その後ろには彼が『美人』と称したエリアスの姿が見える。どうしたことか動けるという彼はエリアスと合流し、一先ずは匂いを辿っていたのだそうだ。
四人が最初に辿り着いたのは周囲をきょろりと見回しているレイリーだ。『それ以外の名前なんてない』と告げていたレイリーが動き回っている事に些か驚きながらもそれ以上を問いかけることはしないタツミは「見つけた」と笑みを零す。
「ああ……この箱庭は名前を名乗ったから『引きずり込まれた』場所みたいだけれど」
「ええ。そのようですね。それから、我々三人とエリアスさんの見解だと占い師に本来の名を告げた者は金縛りに遭っており動けないようです」
レイリーは無量の言葉に僅かに眉を動かした。本名を識られてなければ動ける。詰まるところ自身が名乗ったレイリー=シュタインの名が偽の物であると言うことを知らしめるようで彼女はどこか複雑な思いを抱えながら「仲間を探そう」とそう言った。
レイリーと同じように――いや、それ以上であったのかもしれない。呆然としていたエルスティーネを見つけ、ウィリアムは「大丈夫?」と問いかけた。
「え、ええ……」
「……何か、呆然としてるみたいだけど。どうかした?」
優しく問いかけたウィリアムへとエルスティーネは首を振る。「タツミさん達はどうして動けたの?」と不思議そうな顔で問いかけたエルスティーネに「本来の名でなければ、動けるようです」と無量が告げる。
「ええ……どうして……?」
そう、呆然と呟くエルスティーネにエリアスは不思議そうな顔を見せた。どうして、エルスティーネと名乗っているのか――そう問いかけたくなったが、それをぐっと飲み込んで。
(……考えてる暇は無いわよね。まだ見つかってない皆さんを探さなきゃ……!)
それから暫くの後、リウィルディアの姿を発見する。
リウィルディアは手招いた。仲間達の姿を見つけたからだ。ゆっくりと足に力を込めて、エリアスは護衛対象として重要人物だ。ここまで危険が無かったことに小さく安堵した。
「あと見つかってない仲間を探してからコアを探すんだったね。ガーディアン達が塞ぐ方向にありそうな気がする……のと、箱庭内に取り込まれた人を起こしながらできる限り有用に使えればと思っているんだ」
リウィルディアの言葉に無量は小さく頷く。ウィズィの匂いを辿る彼女は箱庭に住まう者に質問をしてきたのだと告げた。全員が集合してからその情報は共有すると告げたところに「ああ、やっと見つけた」と世界が手を振った。バラバラになった所を個別に叩かれるのもつたないと精霊達と共に仲間の元へと向かってきたそうだ。
佐那と焔は情報を収集しながら、コアの位置は『仲間が分布していない別方向に存在する』のではないかと考えた。楽しげに会話をするタツミは「此れどう思います?」とエリアスにラサビジョンを――そして、その間に挟まったメモを――見せた。
「あー……中々風光明媚なところだな。作り物のようで、少し恐ろしいが」
そう告げる世界は最初から自身は動けていたことを生かして仲間を探索しながら周囲を直感的に確認してきたと告げた。その直感も強ち嘘ではないだろう。さらさらと敵を避けて進んできた彼のことを考えれば安全地帯はきちんと存在してきたと言うことだ。
「ふふ。無量さんが私を見つけ出してくれるのってなんか、嬉しいな」
にんまりと微笑んだウィズィは待っていたとゆっくりと立ち上がった。その香りは無量が彼女に手渡したものだ。立ち上がって、愛馬ラニオンで駆けるウィズィは仲間達と共にコアと――見つかっていないルル家を探すべく駆け出した。
「エルスちゃんの事、何か識ってるんだなーって思うけど、細かいことは聞かないでおくねっ。
エリアスちゃんにエルスちゃんとボクの想い出の話を、って思ったんだけど……どうかな?」
「想い出?」
「そう! 一緒にライブして大人気だった話とか」
楽しげにそう告げる焔に教えて欲しいと身を乗り出すエリアス。その様子を見れば、やはり他人事ではないのだろうとウィズィは感じていた。
動けないとなれば仕方が無いとルル家は動じては居なかった。助けを待ちます、ときっぱりとした反応を見せるルル家はだからといってじいとしているのもと、耳と鼻を生かしての索敵を行い続ける。仲間との合流の為にも『匂い』は必要な要素だ。
(ふーむ、こうも動けないと暇と言えば暇なんですよね。まあ、動けたらさっさとコアを探して、それからさっさと、此処から出て占い師をドツいて、有力商人とちょっと良い感じのコネを得れたらいいなーとか思うんですが。ファレン・アル・パレストさんとか独身なんですかねー)
動じない。
まさに動じないルル家である。彼女の姿を見つけたように、手をぶんぶんと振って焔は「居た居たー!」と笑みを浮かべる。
「さて、此れにて全員――でしょうか。一先ず質問したのは血の匂いや時計の動く音はこの周囲には無いとのこと、それから……箱庭の外から現れた者は大体がこの世界に取り込まれて人形めいて動き出すのだそうです」
無量は「しかも、其れが普通だと思っているようです」と空を見上げる。晴れ渡った『作り物の空』を見ても何の感情も抱かずに普通に生活を送っていく様になってしまう――それがこのアーティファクトのこうかだというのか。
「さて、そうこうしているうちに敵の登場のようですよ」
「成程――さあ、Step on it!! 止まってる暇はないですよ!」
コアの時計の針だって――進んでいるのだから!
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「安心しろよ、レディにゃ傷一つつけさせねえ」
「ええ……けれど、私もそれなりにウデは立つのよ?」
タツミへとそう言ったエリアスは何かを気にする素振りを見せた。それがエルスティーネであることに気付き、タツミは先程の『メモを差し出したとき』の様子を思い出す。
――『あんたはエルスティーネの関係者か? イエス or ノー』
そのメモを見て顔を上げたエリアスはゆっくりと首を縦に振る。イエスの意志を受けてタツミは大きく頷く。彼女が――どのような間柄であれど――関係者であるというならば、エリアスはエルスティーネが傷つくことを許せないだろう。だからこそ、『そのときの返答』を受けてタツミの行動は決まっていた。
「OK! 心配いらねぇ、俺はしぶてぇぜ!」
「……ムリはしないで」
エリアスの憂うようなその言葉にタツミはにい、と笑った。事実、エリアスがエルスティーネに向ける表情には自身も両親を思い出さずには入れなかったのだから。
倒すのはキリが無いのは分かっている。ウィズィは堂々と自身を盾としてずんずんと前進していく。その背後よりその身を躍らせたのは佐那。この先に『コア』があることは分かっている。ちく、たく、と聞こえる音を辿るイレギュラーズ達を遮るように箱庭精霊<ミニチュア・ガーディアン>が踊る其れを一気呵成に切り裂いた。『緋道』を歩むが如く、感性が鋭くなくとも正しき道のために一刀両断振り下ろさんと佐那は進み続ける。
「……なにか、聞こえませんか? いえ、聞こえます……それにこの匂い……」
アイラのこと場にウィリアムは頷いた。前線でその身を挺するウィズィに癒やしを送ったウィリアム。その背後で踊るように蝶々を纏わせて、アイラはその羽ばたきの竜巻で精霊達を包み込む。
(此の儘――進んでいかなくては、)
狙うは最低限の戦闘、そしてさっさと『お人形遊び』を終わらせることだ。ルル家は蜂の如くの集中砲火で精霊達を狙い撃つ。
「ささっと片付けてズバっと解決しましょう!」
「そうだねっ! 此の儘真っ直ぐ進もう!」
火炎で出来た爆弾を投げつける焔は「いけーー!」と叫ぶ。どん、と爆発したその背後、精霊は何かを狙うように真っ直ぐに飛び込んで――
「エルス――!」
エリアスが手を伸ばす。母というのは子が少しでも危険な目に遭えば、そうしてしまう生き物なのだろう。『そうする』必要が無いことくらいエリアスとて分かっている。イレギュラーズ達は歴戦だ。それも、あの『竜』を眠りにつかせた者達なのだ。
「える、す……?」
それは――愛称ではない。懐かしい響き、と胸の奥底より沸き立ったその感情の訳が分からないまま。エリアスへと呼び掛けようとして「ママ」と滑り出す。唇は、きっと――『彼女を識っていた』。
義妹リリスティーネ。彼女の名義での呪いの一つ、『忘却の名前エルス・ティーネ』を思い出す。そして――千年前に襲撃を受けたその記憶が鮮やかなる色彩と化してフラッシュバックした。
「ッ――」
「エルスティーネ!」
振り向いたタツミが庇うように立つ。呆然としたままエリアスを見つめるエルスティーネの掌が震えた。
幼い頃の記憶――思い出していなかった片鱗。あの時、側で死んでいたのは乳母で。
ママは……『母様』は……あの時、跡形も無く消えてしまったんだ……。
「ま、ま……?」
呟くエルスティーネを庇うようにタツミが立ったその前に盾としてウィズィが身を投じた。リウィルディアはアーティファクトを壊すこと――そして、占い師の男についても懸念しながら癒やしを謳い、そして――敵に聖なる光を浴びせる。
その光とすれ違うように、無量は真っ直ぐに進んだ。世界が支援を送り無数に姿を現す精霊を見上げたその刹那、レイリーは堂々とそれら全てを集める。その身を盾とするように、しかと両脚に力を込めて精霊を受け止め続ける。
「此の儘進みましょう」
「そうだな。あー……まあ、コアを壊した後、占い師についてはどうする?」
レイリーの言葉に頷いた世界はふと思い出したようにリウィルディアと無量へと振り向いた。
「倒すよ」とリウィルディアは何の感情も宿さぬままそう言った。
「無論、切ります」と無量は静かにそう告げる。それでこそイレギュラーズだというように――エルスティーネとエリアス、母と子の再会を祝福しながらも世界は攻撃のための一手を投じた。
●
コアを破壊し、外へと飛び出したとき、アーティファクトは無残に壊れていた。それ以上は使うことは出来ないだろうとウィリアムが見立てれば。梲の上がらぬ男は頭を抱えて泣き喚く。その声を聞きながら、これ以上の悪事も出来ないだろうと焔は息を吐き、レイリーは「取り敢えず出すところに出せばいいんじゃない?」と無量を振り返る。
「ええ、そうしましょうか」
「じゃー……取り敢えず逮捕だね」
ウィズィがそういえば男は抵抗もなく連行されていく。その背中の何と小さな事かルル家は「そのまま偉い人に差し出してコネ(と言う名の報酬と財産)貰えませんかねー?」と冗談めかしてそう笑った。
「あー、ところでだな。
せっかく一つ厄介事を片付けたんだ。このまま別れるのも惜しいしこの後皆で食事でもどうだ?」
そう告げた世界が目配せを一つ。エリアスは茫と為たままのエルスティーネにそっと近づいた。
食事をしようと同意したレイリーにタツミは大きく頷いた。エルス・ティーネ。それが彼女の本来の名であるとしても――彼女が『Erstine・Winstein』であることには変わりない。彼女がどのような選択をしようとも、タツミはその選択を識らなくていいやと笑った。彼女が呼ばれたいと望んだその人にその名を呼ばせてやれば良いと、そう笑みを零して。
「積もる話はきっと沢山あるの……聞いてくれる、母様?」
そう、言ったエルスティーネをそっと抱きしめて、エリアスは「ええ」と微笑んだ。母の肩が震えていたのはきっと、気のせいではない。
「エルスちゃん……良かったね」
柔らかに、笑みを浮かべたウィズィにエルスティーネは頷いた。久方ぶりの母のぬくもりは――どこか、擽ったかった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
実は初めての12人通常依頼でした!此れも経験ですね。
緊張しました(そして楽しかったです)
それでは、またご縁ございましたら!
エルスティーネさんは、母様と呼ぶけど気を抜くとママって呼ぶってメモしました。
GMコメント
夏あかねです。リクエストありがとうございます。
●成功条件
占い屋の持つアーティファクトの破壊(コアの破壊)
●占い屋
梲の上がらぬ男。旅人です。その種族や出自は不明ですが日銭を稼ぎなんとか生きてきたようです。
サンドバザールで手にしたアーティファクト『箱庭<ミニチュア・シール>』を駆使して居ます。
本人自体の戦闘能力は皆無と言って等しいですがアーティファクトが『彼を強化しているようです』。
●箱庭<ミニチュア・シール>
どこからか流れ着いた品物。箱庭はその名の通り、小さな世界を内包しています。
取り込まれた者は皆、箱庭で『新たな世界で占い師が思ったとおりに動いてしまう』ようです。
箱庭<ミニチュア・シール>の中で、『箱庭<ミニチュア・シール>のコア』を探し壊すことで失踪者の救出と脱出が可能です。
箱庭<ミニチュア・シール>の内部に存在する世界は小さな都市です。端から端まで歩いて30分程度。
都市は幻想王国を思わせる中世ヨーロッパテイストです。ただし、無機質であり時刻は昼間固定です。
●コア
鮮やかな血色の宝玉。箱庭<ミニチュア・シール>の中のどこかに存在します。
箱庭<ミニチュア・シール>内での探索が肝となります。
コアは『血のにおい』をさせ『時計が刻む音』を立てています。
・箱庭<ミニチュア・シール>に取り込まれた者への調査
・箱庭<ミニチュア・シール>のNPCへの聞き込み
・その他非戦スキルの使用
が有効でしょう。
●箱庭精霊<ミニチュア・ガーディアン>
箱庭<ミニチュア・シール>の中に存在するガーディアンです。
どこからか登場します。戦闘能力を有し、箱庭<ミニチュア・シール>の意図に背く者へと攻撃をします。コアを破壊するまでは無数に空を飛び交っています。
●特殊ルール
当シナリオには以下の特殊ルールがあります。
・アーティファクトに取り込まれた場合、参加者は箱庭<ミニチュア・シール>内の別々の場所に転送されます。
・ステータスシートの名前が『本来の名』ではない場合、効果が薄れ箱庭内で自由に動くことができます。
・『本来の名』である場合はアーティファクトの呪縛により動くことができません。
・『本来の名』である者へと『自由に動く事ができる者』が何らかのアクションを起こすことで呪縛が解けます。(例:叩く、ゆさぶるなど)
上記ルールのためにプレイング冒頭にステータスシートの表示名について、【本名】【偽名】の記載をお願いします。
(なかった場合は本名として取り扱います。また、エルスティーネさんを例にすると偽名にあたります。
この記載は【PL情報】で構いません。PCは「どうしてか動ける!」という体でプレイングを記載して構いません。)
●Elias・Tine・Meissen(エリアス・ティーネ・マイセン)
吸血鬼。旅人の女性です。Erstineさんと瓜二つの外見をしています。
Erstineさんは知りませんが実母であり、彼女の本来の名前を知る存在です。
元ラド・バウファイター。現在は鉄帝国軍部に所属しその頭脳を生かして外交等を担っています。
実力は折り紙付き。その『種としての共鳴』でErstineさんが実娘である事を認識しています。
Erstineさんが危機に陥った場合は彼女を庇います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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