PandoraPartyProject

シナリオ詳細

解かれし蔵の封印

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 豊穣郷カムイグラ。
 和風の都市、高天京某所。
 その日、呉服屋宗兵衛の自宅では、蔵の清掃を行っていた。
 空いた場所に貴重な衣装をしまう為、そのスペースを作ろうとしていたようである。
「……ええ、それは不要です。処分しましょう」
「かしこまりました。奥様」
 蔵では、宗兵衛の妻おそめと、女中であるおあきが作業に当たっていた。
 この蔵はこの家に代々受け継がれているものらしく、彼女達すらその全ての品を把握してはいない。
 中には、出どころや縁が不明な怪しげな物品もあるとか……。
「それは……なんだったかしら」
 普段は触らない品々だ。おそめもすぐには思い出せずに脇に避け、処理を保留する。
 そこで、蔵の外から駆けこんできたこの家の娘、おきく。
「お母様、おあき、そろそろお昼にしませんか?」
 朝からずっと作業に当たっていた2人。気づけば太陽が高い場所にまで登っていた。
「また、大仕事ですのね。こんな仕事、店の下人達に任せれば……」
 それが危険と判断したからこそ、おそめは自分達で行っていたのだが、おきくは無遠慮に蔵へと踏み込み、無造作に手近な小箱へと手を伸ばす
「……! それを開けてはなりません……!」
 強い口調で娘へと叫ぶおそめ。
 だが、時すでに遅し。小箱の封印が解かれ、その中から黒い煙のようなものが噴き出し、巨大な蜘蛛を象る。
「ゲヘヘ……久しぶりの外だ」
 凶悪な顔をしたその蜘蛛がギロリとこの場の3人の姿を見回す。
 現れた化け物の姿に、おきくは腰を抜かして。
「あ、ああ……」
「お嬢様、お気を確かに……!」
 おあきがおきくへと駆け寄る傍らで、おそめは気丈にその化け物蜘蛛を凝視して。
「大蜘蛛の怨霊……こんなところに封印されていたものがいたのですね」
「おい、ババア。酒だ。酒を大量に用意させろ。あと食い物だ。この家に俺の巣をつくってやる。ありがたく思え」
 大蜘蛛と呼ばれた化け物は奇怪な笑い声を上げ、この場の3人を糸で縛り付ける。
 そして、そいつはこの場がどこかを確認しようと、女性達を抱えたまま蔵の入り口を破壊して屋敷の方へとゆっくり歩いていくのだった。


 豊穣の地へと訪れていたローレットイレギュラーズ達。
 彼らは依頼があればすぐに解決の為、各地へと渡っていく。
「皆さん、お疲れ様です」
 此岸ノ辺で今回の依頼を受けたメンバー達を待っていた『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)。
 彼女へと、ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が握手を交わす。
「早速だが、依頼について聞きたい。なんでも、屋敷の蔵から怨霊が現れたとか……」
「はい。大蜘蛛の姿をした怨霊が人質を取って、大量の酒と食料を要求しているのだそうです」
 現状、蔵から出た大蜘蛛は屋敷の広間に陣取って巣をつくり、家主である宗兵衛と直接交渉している状況にある。
 宗兵衛も一応と要求の品々を用意してはいるのだが、敢えて時間がかかるように振舞っている。
「で、俺達に助けてほしいってわけだな」
「化け物蜘蛛退治ですか……」
 カイト・シャルラハ (p3p000684)、シフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)の言葉にアクアベルは頷く。
 合わせて、宗兵衛は最近、豊穣に訪れたローレットに目をつけ、事態の解決を頼みたいのだそうだ。
「細かい状況は現地に向かいながら話しましょう」
 何せ、一刻を争う事態。大蜘蛛が癇癪を起こして人質の命を奪うことがあってはならない。
「蜘蛛如き、妾があっさりとのしてしまうのじゃ」
「興味深い相手です。喜んでこの物語も記させていただきましょう」
 アカツキ・アマギ (p3p008034)、リンディス=クァドラータ (p3p007979)が解決に意欲を見せる。
「呉服屋の関係者か、いい服あれば見せてもらえないかな」
 すでに、燕黒 姫喬 (p3p000406)は依頼解決後に思いを馳せているようだが、それはさておき。
「早くその人達を助けねえとな」 
「ええ、解き放たれた怨霊……ここで必ず倒すよ」
 新道 風牙 (p3p005012)、メルトリリス (p3p007295)が改めて、怨霊討伐に意気込みを見せた。

 アクアベルが案内したその屋敷はかなり大きな敷地の上に建てられていた。
 その敷地の入り口外には多数の野次馬が集まっていたが、討伐に当たるイレギュラーズ達は人の波をすり抜け、館へと入っていく。
「おお、待っておった。貴公等が神威神楽の外から参った神人達か」
 まだそれほど大きな実績を上げてはいないメンバー達だが、それでも情勢に聡い依頼者宗兵衛はイレギュラーズの働きをすでに聞き及んでおり、屋敷に現れた悪霊討伐の依頼に至ったのだ。
「あのような化け物、我等の家から出したとなれば、店の評判にも関わる」
 家族の命も大事だが、世間体、さらに周囲へと及ぼす被害を総合的に考え、彼はこの場で退治すべきと判断したようである。
 宗兵衛は屋敷内へと大蜘蛛が移動し、巣を張っていることをイレギュラーズ達へと伝えて。
「……妻と娘を頼む。女中の娘も頼りとしている。助けてやってくれ」
 最後に、彼はイレギュラーズ達へと本音で救出を頼んだのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 今回はリクエストシナリオのご依頼、ありがとうございます!
 蔵にあった封印が解かれ、出現してしまった悪霊の討伐を願います。

●概要
 鬼人種の屋敷の蔵において、掃除中に悪霊が入っていた小箱の封印が解かれてしまいました。
 大雲の姿をとる悪霊の討伐を願います。

●敵
○怨霊:大蜘蛛×1体
 人の顔を持つ蜘蛛を象っております。
 全長3m程度ありますが、その体躯に似合わぬ素早い動きで攻め立ててきます。
 相手にのしかかって牙を突き立てて強毒を流し込んでくる他、糸を発して縛り付けて動けなくしたり、強く締め付けたりなど多彩な攻撃でイレギュラーズを苛んできます。

●状況
 リプレイは敷地突入くらいから想定していただければと思います。
 大蜘蛛は鬼人種の屋敷へと陣取り、館の入り口付近の広間に糸を使った巣をつくり、お手伝いの女性と家主の妻、娘の手足を糸で縛りつけ、人質に取っております。
 要求は、酒と大量の食糧。どうやら、子供を産むのに大量の食料が必要なのだそうです。
 事態解決後はそれらの酒と食料を頂くことができます。食料はご飯、お味噌汁、漬物、焼き魚に野菜の煮つけ、ちょっと贅沢に馬肉や猪肉などをいただけます。
 なお、未成年の方にお酒を振舞うことができませんので、予めご了承願います。

●NPC
 いずれも鬼人種の一般人です。

〇家主:宗兵衛……依頼者。50前後。呉服屋を営みます。
 戦う力はなく、最近豊穣の地にやってきたローレット勢の存在を知り、家族の救出を依頼しております。

〇妻:そめ……宗兵衛と同年代の女性。助けを信じ、気丈に振舞っております。
〇娘:きく……10代後半女性。土蜘蛛に襲われ、恐怖のあまり泣き叫んでしまっております。
〇お手伝い:あき……20代女性。娘おきくを宥めながら、脱出の機を窺っております。
 宗兵衛の家族と、家に出入りする女中です。
 いずれも部屋着の上から両腕、両脚を糸で縛られ、巣に張り付けられている状態です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 解かれし蔵の封印完了
  • GM名なちゅい
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
燕黒 姫喬(p3p000406)
猫鮫姫
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 カムイグラのとある屋敷。
 多数の人が集まる中、ローレットから派遣されたイレギュラーズが依頼者である館の主人宗兵衛と接触する。
「おお、待っておった」
 家族の命の危機にあっても尊大な態度をとる依頼主に、没落貴族である『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は思うことがあったようで。
(世間体や立場に縛られてしまう、商いをする方にとって評判は重いですからね……)
 まさに今、依頼主が蜘蛛の巣に捕まって雁字搦めになっているようにもシフォリィには感じられて。
「頼ってくれたからには力を尽くします、絶対に助け出しましょう!」
 誓いを立てるシフォリィに、宗兵衛は些か安堵の表情を垣間見せる。
(むう、私鬼人嫌いなのよね)
 天義出身の『聖少女』メルトリリス(p3p007295)には、鬼人種が悪魔のような見た目に見えるそうだが、同じ混沌世界に住まう民と割り切りを見せて。
「このお力、誰かの笑顔のために使いましょう」
 すると、宗兵衛は顔を伏せ、イレギュラーズ達にだけ聞こえる声量で告げる。
「妻と娘を頼む。女中の娘も頼りとしている。助けてやってくれ」
 救出を約束するイレギュラーズ達はまず、彼に作戦の為の準備をいくつか頼む。
「屋敷の見取り図はありますか?」
 異世界の「文字録保管者」として活動する旅人女性、『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が要望した。
 救出後のルートの確認に使う為だが、この場はだいたいの配置を宗兵衛に地面へと記してもらい、確認する。
 深緑出身のポジティブロリッ子女性、『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は別途こんな要望を行う。
「後、女中の服装を借りたいのじゃが、大丈夫かのう?」
 幸い、こちらは店で使用している物もあり、すぐに用意できると宗兵衛は動いてくれる。
 その間、討伐対象が子供を産む為に要求した食料が積まれた荷車を触りながら、メンバー達は準備を進めて。
「豊穣郷では、怨霊などと言った存在も多く存在すると聞いている」
「御伽噺で聞いたねぇ。この世界にいたとは驚きだ」
 今回現れた化け物もその類に近いものなのだろうと、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は自らの考えを口にすると、ネコザメの海種である『猫鮫姫』燕黒 姫喬(p3p000406)がその存在に目を見張っていたようだ。
「封印を解かれた化け蜘蛛を退治せよ、か」
 改めて、茶髪をポニーテールにした『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)が依頼内容を口にすると、海洋出身である鷹の飛行種『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が大柄な身体を震わせて。
「蜘蛛!? あいつら鳥を食うから嫌いだ!!!!!」
 なぜか食材適性を持つカイトは、悲痛な叫びを上げていた。
「蜘蛛は益虫とも聞きますが……。確実に害虫ですね、この場合は」
「まったく、悪い蜘蛛もおったものじゃな。人質をとられておるようじゃし」
 辟易とするアカツキの元に、要望していた女中の衣装3着が届く。
「ほれ、リンちゃん風ちゃんもちゃんと着替えるのじゃよ」
 こういうのは形から入るのが大事だから、か弱い女中になりきるのじゃと、アカツキがその衣装を差し出すと、リンディスはそそくさと物陰で着替え始めた。
「まるでおとぎ話の妖怪退治だ」
 風牙は面白がって笑っていたが、人命がかかった依頼と彼は表情を引き締め直して着替えていたようだ。
「っし、やるぞ! 『人に仇為す魔を退け、世の平穏を護る』!!」
「バシっと救助して、大蜘蛛討伐と行くのじゃ!」
「未来綴りの章―蜘蛛の終わりと、救出対象三人の未来を記し綴りましょう」
「「「おおおおおおおお!!」」」
 女中の衣装を纏った3人が事態の解決に強い意欲を見せると、野次馬達が歓声を上げていたのだった。


 改めて、依頼内容は大蜘蛛として顕現した悪霊討伐。合わせて、依頼者の妻と娘、女中の3人の救出だ。
 この状況に、ローレット勢はこんな作戦で臨む。
「食料を運んできた人のフリして奇襲大作戦じゃ!」
 アカツキが明るく告げ、確認しとして風牙が繰り返す。
「『戦闘員を忍ばせた酒樽と食料などを積み込んだ荷車を供物として蜘蛛の前まで運び込み、不意打ちで蜘蛛を強襲&人質救出』だな」
 その為、女中衣装を纏った3人が大蜘蛛の要求した食料運搬役として突入する。
「相手を油断させて奴に近づく方法……、上手く行くと良いが」
 タルに入ったベネディクトが少しだけ不安も見せる。
 他のメンバーもタルや袋に木箱、米俵に入っており、窮屈そうかと思いきや。
「活きのいいサメに見えっかね。いっひひ」
「一緒に詰まっているりんごとか美味しそうだなぁ」
 姫喬は魚に変化させた下半身を動かして新鮮さをアピール。翼を折りたたんだカイトは一緒の箱の中の果物を注視して獲物との接近を待つ。
「なんだか荷物の気持ちになれて楽しいです」
「不謹慎ですけど、ちょっとわくわくしちゃいますね……!」
 運ばれる間に集中していたメルトリリスも上機嫌だったし、シフォリィもまたおとぎ話の怪物退治みたいと胸を躍らせていた。
 女中役となる3人も荷車の中に武器を隠し、怨霊の待ち受ける屋敷へと向かう。
「――お約束の食料をお持ちしました。入ります」
 リンディスが挨拶し、荷車を屋敷内へと押し上げる。
 入り口傍の広間には巨大な蜘蛛の巣が張られ、中央に全長3mもある大蜘蛛が鎮座していた。
「遅い……待ちくたびれたぞ!」
「ああ、恐ろしい。正面には化け物。奥の方には吊るされたおなご。まるで地獄じゃ……」
 口汚いその怨霊の言葉に、荷車を蜘蛛に近づける風牙が身を震わせる演技をしつつ、荷車に隠れる仲間に人質の位置を知らせる。
 巣の奥側に、糸で四肢を縛られた女性3人の姿があり、依頼者の妻と女中は黙ったままだが、娘がイレギュラーズ達に救いを求めて。
「た、助けて……!」
 すると、大蜘蛛が不快そうに顔を歪めて少女の枷となる糸をきつく縛る。
「あああっ……!!」
「これで、彼女たちを解放していただけますか」
 すかさずリンディス、風牙が荷車を移動させるが、人質に近づけるべきか、遠い位置に置くかでしばし手間取ってしまう。
「……なんだ、この臭いは」
 そこで、大蜘蛛は荷車に潜むイレギュラーズの気配に気づいてしまう。
「今です!」
「ああ、いくぞ!」
 リンディスと風牙の声に応じ、隠れていたメンバー達が一斉に飛び出す。
「封印から目覚めし、怨霊よ。これ以上、この家の者に手出しはさせぬぞ」
 奇襲して一刺しとはいかなかったが、ベネディクトを始めとしたメンバーが接敵して敵の抑えに回る。
 準備に自動演算化した思考能力によってシフォリィは戦闘能力を向上させ、仲間と共に蜘蛛へと近づくのだった。


 動き出すイレギュラーズに大蜘蛛は舌打ちし、すぐさま飛び掛かろうとする。
 しかし、そいつへとベネディクトが張り付き、人質を背にする位置へと回り込んだ風牙が大蜘蛛の動きを制限する。
「海の向こうからやってきた神使、新道風牙だ! 人の世を乱すあやかしよ、ここで成敗してくれる!」
 語尾になんつってと言いながらも、風牙は女中衣装のまま荷車に隠していた槍をひっ掴み、大蜘蛛を押さえつける。
「あなたが捕らえたおふたり、返して頂きますからね!」
 ともかく、敵の糸、毒の牙が厄介だと判断したメルトリリスは敵に簡易封印を施そうとする。
「こ、こんなもの……!」
 だが、敵もかなりの力を持っており、簡単には能力を阻害させない。
「私の力はわずかだけど、せめてリンディスさんたちが戻ってくるまでは必ず戦線を支えるのです!!」
 エスプリの加護によって敵の毒を食い止めながらも、メルトリリスは仲間の治療も合わせて立ち回り、戦線を支える。
 比較的早くに敵へと張り付いていたシフォリィは敵の糸に注意していたが、飛び掛かってきた相手を見て白銀の片刃剣を一閃させた。
 誇りを持ったメルトリリスの斬撃に見とれてしまう大蜘蛛へ、物質透過で潜んでいたカイトがイーグルマントをはためかせ、三叉蒼槍を煌めかせつつ現れる。
「何が雲だ、こっちは鳥だ! 天候読むのは俺の仕事だぜ!」
 ギフトによって気象を読む術を持つカイトは赤い翼を広げ、緋色の羽根を大蜘蛛へと浴びせかけていく。
「舐めやがってぇ!」
「そんなんじゃ俺は捕まえられないぜ」
 巻き起こる爆発にいきり立って糸を伸ばしてくる大蜘蛛を、カイトはなお煽るのである。

 その間に、姫喬は敵に背を向けて隙を見せるが、気にも留めずに走っていた。
(そんなんこの面子で不安がるのは野暮さ)
 大蜘蛛を抑える仲間を信じる姫喬を含むメンバーは、程なく人質の元へとたどり着いて。
「貴方達は……?」
「助けに来たのじゃ」
 アカツキが素早く依頼者の妻そめへと接して糸を外し、大蜘蛛の動きを警戒してカバーにも当たる。
「早く、ほどいて!」
「ギャーギャー泣きなさんな。あんただけだよ、騒いでんのは」
 悲鳴を上げていた娘きくには姫喬が解放に当たり、リンディスが女中あきの手足を自由にする。
「終わるまでは外で安全に――大丈夫です、家は取り戻してきますから」
 それまで待ってほしいと語るリンディスに、あきは分かりましたと頷く。
「必ず皆を助けてお家を取り戻して見せようぞ。安心して外で待っていて欲しいのじゃ」
 これでも戦いの場数はくぐっていると、アカツキが胸を叩くとそめはお任せしますと答えてくれた。
「さぁさ、御立会。海越えはるばる居並ぶは見目色様々化外の外様よ」
 そこで、威勢よく姫喬が歌い始める。
「獲物を振るうは人ん為! 朗々謡うは哀れな蛙、捌いて黄泉路へ導く為よ!」
 姫喬は大声を上げながら、リンディス、アカツキと共に館の外へと人質女性達の誘導を始めると、大蜘蛛も黙ってはいない。
「ふざけやがって!!」
 しかし、そこはベネディクトや風牙が邪魔をし、行く手を阻む。
 その間に、館の外へと送り届けたおそめ達に姫喬が胸を張って。
「安心しな。あたしらがちゃんと始末をつける。旨い飯を期待してるよ!」
 敷地外までとも思ったが、中で戦う仲間の為にと、メンバー達が駆けこむ。
 その勝利を信じ、助け出された3人は館側面に回りつつ、イレギュラーズ達が勝利するよう祈り始めたのだった。


 館内ではイレギュラーズが大蜘蛛を抑え込む状況が続く。
「蜘蛛といっても所詮は怨霊、野にいる奴らより弱いな!」
 主にカイトがヘイトを稼ぐべく相手を煽り、素早い回避力で逃げ回る。
 ただ、一度糸に捕まった彼はそのまま食らいつかれてしまって。
「やめろ、食うな!!」
 パンドラを使いつつカイトが悲痛な叫びを放つと、シフォリィがその糸を外してしまう。
「火打石を使う必要はなかったようですね」
「やめて、焼き鳥にしないで!」
 シフォリィにその意図はなかったのだが。丸焼きにされるとカイトは過敏に反応してしまっていた。
 さて、そこに駆け込んでくる人質救出班。
「あの方たちは大丈夫です――。さあ、終わらせましょう!」
 リンディスは自らに加護の力と、鏡の如き負担を軽減する力を励起し、すぐさま癒し手達の記録を紐解いてカイトの傷の回復に当たっていた。
 前線では暴れる大蜘蛛を、メンバー総出でねじ伏せようとしていて。
「お前はここから動かさねえ! 人質には指一本触れさせねえからな!」
 速力を活かして風牙が愛用の槍で切り裂いて敵に痺れを与え、さらに凍り付かせていくと、ベネディクトもまた槍を振り抜いて体格が幾周りも大きい敵を威圧し、人質が捕まっていた方向へと吹き飛ばす。
「大蜘蛛よ!! 女性を人質として悪行をするならば言語道断!!」
 そこで、メルトリリスが再度簡易封印を施すと、見事に大蜘蛛の能力を封じてしまって。
「クソッ! 毒が……糸も使えねぇ!!」
「四肢ならぬ八肢切断ってね!」
 悔しそうに喚く大蜘蛛の足を狙い、姫喬は距離を取って飛ぶ斬撃を放つ。
「手前ぇみたいな畜生がここの人らを嘲るんじゃあないよ!」
「さあ、ここからが本番じゃ!」
 接敵するアカツキは敵の糸を燃やし尽くす構えだったが、一時的に糸を出せずにいたそいつへと連続して業火を放ち、直接その体を焼いていく。
「グギャアアアアッ!!」
 叫ぶ敵へと、イレギュラーズ達は苛烈に攻め入る。
 攻撃を再開したカイトが緋色の羽根で大蜘蛛の胴体を傷つけていく。
 変わりに、今度は一番前の脚2本で掴みかかろうとする大蜘蛛だが、もう食われないとカイトは全力で逃げ回る。
「一気に勝負を決めにいきましょう!」
 身体能力を飛躍的に高めたシフォリィは己の剣に白銀の刃を纏わせ、一閃させる。
 シフォリィの付けた傷からは血の代わりに黒い靄が噴き出し、悪霊であることを再確認させた。
「その身体、その思考、その醜悪、この世界の神々に変わって断罪します!」
 メルトリリスが慈悲の一撃を大蜘蛛の腹へと叩き込む。
「グガアアッ!!」
「恐れ、そして、あの世で貴方が災いを被せた全てに詫びろ!!」
 だが、大蜘蛛はすぐさま力を取り戻し、毒の牙で食らいてきたが、リンディスが仲間をすぐさま癒す。
「皆さんの戦いを記録し綴り、戦術を―未来に、繋げます!」
 仲間達のこの戦いも記録するリンディス。
 しぶとく糸を吐き掛けて抵抗を続ける大蜘蛛だが、ベネディクトがアクロバティックに躱して。
「我が全身全霊の槍、その身に受けるが良い!」
 全身の力を雷撃へと変えたベネディクトは空中から雷槍を突き出し、敵の体を貫いてしまう。
「ガ、アアアアッ……!」
 傷つく全身からは力が失われ、徐々にその姿を保つことができなくなってきていた。
「次に生まれんなら、糸でもたらして衆生に仕えるんだね」
 敵の正面に立った姫喬が厚い刃を持つ宝刀でその巨躯を全力で捩じ伏せ、頭部を切り裂いてしまう。
「グギャアアアアアアアアアッ!!」
 断末魔の叫びを上げた大蜘蛛は爆ぜ飛び、黒い靄となって消え失せていったのだった。


「「おおおおおお!!」」
 大蜘蛛を討伐したイレギュラーズ達が人質となった3人を連れて外に出ると、野次馬達が大声を上げて沸き立つ。
 その脇で、リンディスは外で待っていた宗兵衛へと状況説明を行う。
「ご苦労だったな」
 見た目は気丈に振舞う依頼主ではあったが。
「お父さん、うああああ……!」
 大声で泣き出して泣きついてくる娘に、宗兵衛はしばし言葉を失う。
「怖かったじゃろうが、悪霊は妾達がしかと退治したのじゃ。もう大丈夫じゃぞ!」
「え、ええ……」
 アカツキの言葉に大きくは反応しないが、内心では動揺もあった妻そめ。
「…………」
「無事で、良かった」
 彼女も夫へと無言で寄り添うと、宗兵衛もまた本音を漏らさずにはいられなかったようだ。
 女中を含めたケアに、リンディスがそのまま当たり、アカツキは使用人と合わせて家屋内の片付けの手伝いへと動き始めていた。

 事後処理が進む間に野次馬も去っていき、日が沈んでいく。
「存分に楽しんでくれ」
 落ち着きを取り戻した宗兵衛一家は感謝の意を示すべく、広間で豊穣の料理でもてなしてくれる。
「お招きに預かり、感謝を。もう一度あの蔵を整理する際は、気を付けた方が良いかも知れませんね」
 ベネディクトは出された日本酒を一献頂き、有難くそれらの料理を頂く。
「うん、此方の米はやはり美味しいな……」
「んふんふ! 美味しいですね! いくらでも食べられる気がします」
 その味に大きく頷くベネディクトの傍で、メルトリリスも出された料理は全て食べきる構えだ。
 なお、そんな彼女でも未成年とあって、お酒だけは辞退していたようである。
 美味しそうに食べながらも、もてなしてくれる家人達に……特に、娘のきくへとメルトリリスは気を回し、豊穣の外の話をしてみせる。
「怖いことを超えれば、善い何かがきっとある。そう信じましょう」
 リンディスもまたきくを励まし、目の前の料理を口にし始める。
 見た目も育ってきた文化も違うメンバー達に励まされ、少しずつきくは元気を取り戻していたようだ。
「それにしても、豊穣の海の幸山の幸は本当に美味しいですねえ」
 豊穣の美味しい料理に舌鼓を打つシフォリィ。
 山盛りで盛られたご飯や程よく焼けた魚をカイトが美味しそうに口にしていたが、どことなく使用人達が彼を丸々太らせようとしているようにも見えて。
「うう、そうはさせんぞ!」
 食べながら、食材扱いされぬよう距離を取るカイトである。
 姫喬は唯一、宗兵衛と彼の扱う和服の話をしていて。
「なぁ、旦那。あたしゃ海ん向こうで着物着てんだけど、ここの反物はどんな具合だい?」
「うちの商品に興味を示すとは。……いいでしょう」
 それならと宗兵衛も商売モードで丁寧に姫喬へと接する。
 女中の衣装でも質は悪くないが、やはり裕福な者達が纏う反物は質が違う。
「神威神楽の珍品だ。よく売れるだろうなぁ、なんてね。いっひひ!」
 伝手ができたと言わんばかりに、姫喬は喜んでいた。
「またいつか困ったことがあっても、我らイレギュラーズになんならとお申し付けください」
「神人……実に頼りになる者達だ」
 何時でも如何なる時でも、飛んでまいりましょうとメルトリリスが約束すると、宗兵衛は満足げに酒を煽っていたのだった。

成否

成功

MVP

燕黒 姫喬(p3p000406)
猫鮫姫

状態異常

なし

あとがき

リプレイ、公開です。
MVPは人質の救出、トドメと活躍を見せたあなたへ。
今回はリクエスト、並びにご参加、ありがとうございました!

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