シナリオ詳細
魔亀の血を欲す
オープニング
●美容商人のお願い
最近、ローレットが妙に慌ただしく感じる。噂では深緑へ向かったイレギュラーズが多いという話だが、それならそれでついでに頼まれて貰いたいものだが。どうにも今日は捕まえにくい。
「あらぁ珠緒はん。ちょおっとお願いがあるんやけど、ええ?」
そんな時に知った顔を見つけられたのは、この上ない幸いだった。
●魔亀を討伐せよ
彼女はリウェール・アスタリスタ。ハーモニアの商人で、主な取り扱いは化粧品。それも『神秘を帯びた生物の血液』を材料としたもので、品物は貴族相手の高価な物がほとんどを占める。「リウェールの品を一度使えば他は使えない」等と評する固定客がいるほどの高品質な化粧品は彼女自身のギフトによる製作であり、商品の質は当然材料の質に左右される。
「深緑の山奥に、えらい大きな亀の魔獣がいはってなぁ。これが凶暴な亀さんでなぁ、ちょくちょく人里に下りてきて暴れていくんよ。亀やから甲羅も硬うて、普通の武器では歯が立たんのやわ」
その亀が出現する辺りの集落では、亀は最早洪水や地震と同じく天災のひとつとして『襲われたら受け入れる』ものとして扱われているらしい。亀と言えど大きさは甲羅だけでも大岩の如く、そこから伸びる首と尾は大蛇のように長く、どちらも先端に口があるらしい。
甲羅に苔むして様々な植物が根付くほど長く生きている、凶暴な魔亀。放っておけば、これからも十年、百年と、人々の暮らしを喰い荒らし続けるのだろう。
「天災やぁ思おとしても、無い方が落ち着いて暮らせるんは確かやろ? 亀さんに別の場所に移ってもらうんは、もうあちらさんが『人の味』を覚えたはる。と言うか、大きすぎて色々無理やわ」
つまり、イレギュラーズの力で魔亀を退治して欲しい――と。了解しようとした所で、彼女をよく知る一人が確認する。
――退治は『ついで』ではないのですか?
「さすが珠緒はん、話が早うて助かるわぁ。
ウチなぁ、どうしても……その亀さんの血、欲しいんよ。天災言われるほどの魔亀の血……欲しゅうて、欲しゅうて……自分で採りに行きたいくらいやねんけど……」
血のように赤い瞳を伏せて、リウェールはとても残念そうにする。
「タダでとは言わへんよ、これも商売やからね。亀さんの血持ってきてくれたら、完成した商品ちょっとだけあげるわ!」
女性はともかく、男性諸君は化粧品を貰っても……と思うかも知れないが、そこはそれ。正規のルートならかなりの高値でないと入手できないリウェールの品なので、試しに使ってみるなり、誰かに勧めてみるなり、食べてみたり(?)するといいかもしれない。
いざ、人助けのため。
人々の暮らしを安らかにするため、商人に素材を届けるため。
魔亀を討て。
- 魔亀の血を欲す完了
- GM名旭吉
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月30日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●魔亀退治と化粧談義
リウェールの話を聞いたイレギュラーズ達の反応は、概ね快諾の方向で一致していた。
「天災扱いをされる様な相手では、油断も何もないが気を付けて行くとしよう」
純粋に、断る理由が無かったのがベネディクト=レベンディス=マナガルムだ。放置するのは間違いなく危険な部類であるし、報酬も約束されている。何より、人々の脅威を討ち果たす事こそ彼の本懐なのだ。
「討伐……仮にただ自然の摂理に従って生きていただけなのだとしても、人に害為す存在と蔑まれ疎まれる事がもう無いように……」
それを害だと思う事も、憐れに思う事も、人の――リンディス=クァドラータという個人のエゴでしかないとしても。せめてその『終わり』を綴ろうと、彼女も同行を決めた。
「しかし、あっさり退治はついでと肯定されると少々微妙な……」
依頼主とは既知である桜咲 珠緒は、彼女の性分もある程度は把握しているつもりである。ここは切り替えて、素材収集と魔獣退治という別々の依頼を同時にこなす心積もりでいこう。
「それに、自身の血以外で作って頂くのは珠緒も初めてですしね」
「高級な化粧品なんて縁が無いから、リウェールさんの商品には興味があります。一緒に試しましょ、珠緒さん」
藤野 蛍にも誘われれば、悪い気はしない。完成品をつけてみて、具合が良ければ、今後も同様の依頼を受けてみてもいいかもしれない……などと思い始める珠緒である。
「化粧品なあ……オレはつけたって笑い話のタネにしかなんねえし、貰っても困るっつうか……」
女子達の話にピンと来ない新道 風牙。自分に化粧の類が似合うとは思えないし、必要とも思えない。それでもリウェールの、そして近隣住人の人助けになると思うから。その為に風牙は行くのだ。
そして、一行は深緑の山奥を進んでいた。道中、近隣の集落に立ち寄って魔亀の討伐をすることを蛍が伝えると有難がられると共に無事を祈られる場面もあった。
「草深そうな山奥で捜索となると、見つけるのに一苦労かと思ったが……」
アカツキ・アマギの懸念が空振りに終わった事は、嬉しい誤算である。
まるで暴風でも吹き荒れたかのように薙ぎ倒された草原、足跡の残った地面。それらを辿る事はあまりに容易であると同時に、姿を見る前から魔亀の巨大さを想像させられる。
「変異して巨大化した生物というのは、一応見た事がありますが……ここまで巨大な亀、というのは」
尾を引き摺ったと思しき痕跡など、もはや川の跡だ。アリシス・シーアルジアは純粋な驚きで以て痕跡を辿ると共に、魔亀の性質に思いを巡らせた。
(これほどの生物が、自然に種として成立しているものなのか……錬金術の類で合成された魔獣のようにも……)
良くも悪くも、アリシアの興味は尽きない。
蛍を先頭に痕跡を辿り続けて、どれほど経ったか。倒されて間もない草が増えてきた頃、物音がして頭を上げてみた。
「おお……絶景かな、絶景かな。なかなか見れる物じゃないねえ」
「蛇と亀が合体したような形じゃのう」
「むしろもうドラゴンじゃねえ?」
思わず感心する伏見 行人に、アカツキと風牙がそれぞれの所感を付け足していく。
「珠緒さん、頼りにしてるわ!」
「ありがとう。そちらも気を付けてくださいね」
蛍からのエールを受けて、珠緒が微笑みを返した。
「古きものから、新しきものを――」
戦いの始まりを感じ取れば、リンディスの未来綴りの羽筆が新たな未来を綴り出す。はじまりに過去を今に映す『鏡』を、そして今立ち続ける為の『継』の章を。
「皆、準備はOKかのう? それでは魔亀退治、行くぞー!!」
木漏れ日が魔亀の甲羅に落ちる真昼の森にて。
アカツキが声をあげると、イレギュラーズ達は魔亀の頭と尾へと分かれた。
●頭を引き付けよ
頭部側へ回ったイレギュラーズ達は、正面近くからその形相を目にするにあたり改めて思う。
「でっけえよなぁ……首も長えし、頭でもフルスイングできそうだぜ」
「それは頭突き、になるのかのう?」
冗談交じりの軽口を交わす風牙とアカツキ。首が長い分顔の可動域が広く、直接頭部を狙うのは難しそうだった。
しかし、そこは歴戦揃いのイレギュラーズ。そのような想定も盛り込み済みだ。
「桜技(おうぎ)――狂咲!」
蛍が一足踏み込み、桜剣で魔亀の頭を指せば、艶然壮絶に咲いては散り行く桜吹雪が結界となって捕える。捕らわれた魔亀は結界の呪縛により満足に動けないものの、蛍から意識を逸らせなくなる。
意識を向けてはいるが動けない魔亀を好機とみて、風牙が目にも留まらぬ速さで地を蹴る。天をも駆けそうな速さは瞬間移動にも等しく、瞬きの後には風牙の槍『烙地彗天』が魔亀の首筋に突き刺さっていた。
響き渡る雄叫び。音速のソニックエッジは、速さを武器とする風牙の最大火力だ。
「へっ、どうだ! 分厚そうな皮膚でもこれは痛いだろ!」
「皮膚が分厚い……なるほど、それで」
風牙の体感を聞いて、回復役として状況を観察していた珠緒が零す。
「蛍さんの狂咲で、亀は完全に無防備だったはず。それにしては、風牙さんの槍がそこまで……」
「死角でも、全身の皮膚が分厚ければ同じか……天災扱いも納得じゃな。ならば、やはり頭か」
一撃を喰らって、自失状態から回復した魔亀が頭を振るのをアカツキが見上げる。見るからに強靭そうな顎を開いて威嚇し、再び蛍を狙っているようだ。
(感覚器が蛇なのか亀なのかわからんが、蛇は温度で獲物を感知する器官が備わっておるらしい。ご自慢の巨体が燃えてしまえば、狙いを付けるのに難儀したりせぬかのう?)
興味と実利を兼ねて、アカツキは両手を高らかに掲げてダブルクリメーションの業火を生み出すと、命中させるには十分すぎる巨体にそれらをぶつけた。
耳を劈く雄叫びが再び。自らも悪夢の炎に焼かれながらアカツキが見たのは、風牙の傷跡から焦げるように燃え広がる炎だった。
●尾を沈黙させよ
頭側での戦端が切り開かれた頃、尾へ向かったイレギュラーズ達は興奮して暴れる尾の様子を見ている所だった。
「皆様、私の方でも努力しますが……あまり私から離れすぎないように」
あらゆる回復の基点となるリンディスの術は広い範囲をカバーできるが、それにも限度はある。なるべく全員を範囲内に捕捉しておきたいのだ。
「体力の回復なら、私もお手伝いできますよ。しかし……あの尾」
「口はあるけど、目は無い……視覚に頼らない、別の手段で外界を認識してるんだとは思うけど」
アリシスと行人は尾の先端を見つめて考えていた。
「尾の長さと可動域から考えて、顔の目では見えない全範囲を感知可能と思っていた方が良さそうですね、一先ずは」
「ならばどう攻める。甲羅を砕く術はあるが、尾に襲われながらというのは些か厳しいぞ」
二つの『グロリアス』を手に、マナガルムが問う。
「あの顎に食われるのは流石に痛そうだからな。尾を叩き付けられたり、足で踏み付けられるのも、そう何度も受けたくはない。こちらでも回避できるよう努力はするが」
「そこでこのカンテラだ」
行人が取り出したるは、炎が灯ったカンテラひとつ。外見上は特に何の変哲も無いようだが、彼が丁寧に掛け合って協力して貰った火の精霊が入っているのだという。
「もし、温度で外界を認識しているとしたら。自分より温度が高い物を認識するかもしれないだろう? 更に怒らせて気を引く事ができれば……多少なりとも、そちらの手助けにはならないかい?」
「では、私は様子を見て尾の付け根を狙いましょう。それで大丈夫でしょうか?」
アリシスからも尋ねられれば、マナガルムはそれで十分だと頷く。
「あの尾を引き付けるのは、危険が伴うでしょう。甲羅も気になります……どうか気を付けて」
リンディスが尾から距離を取ると、尾が獲物を探すように左右へ揺れた。
「さて……目の無いお前には聞こえるのか、この熱が感じられるのか。見せてくれないか!」
行人が前へ出てカンテラを翳しながら、声をあげて魔亀に呼びかける。亀からの反応はすぐには返らない。
「ならば、こちらから行きましょう。告死の刃よ……!」
アリシスの宝珠から巻き起こる告死天使の力が、呪いの刃となって魔亀の尾の付け根へ次々と刻まれる。炎獄の呪いが皮膚の僅かに柔らかい所へ及ぶと、尾は釣り上げられた魚のように打ち付けられて悶えているように見えた。
皆に気力回復の術を綴っていたリンディスが突如あがった雄叫びに視線を向けると、頭部でも炎が首に放たれたようだった。おおかた、炎使いのアカツキによるものだろう。
「その防御、貫かせて貰うぞ!」
黒狼の遠吠えの如き音を響かせて、ガルムと名付けられた技で投げられる魔槍『グロリアスペイン』。付け根をマナガルムの短い魔槍に貫かれたまま、尾はついに動いた。
(さあ、どれほどの威力か……!)
己はここだと、寸前までカンテラを翳し続けた行人が、その瞬間だけ防御態勢を取り叩き付けられる尾を受け止めた。
かなりきつい。意識ごと景色が揺れる。骨が軋むようだ。折れたかも知れない。
――が、一度や二度くらいなら何とか立っていられそうだ。
「大丈夫ですか! 今回復を……!」
「伏見様が耐えられるとは言え、あまり時間をかけるわけにはいきませんね……」
魔亀が特に苦しんでいた所――尾の付け根の柔らかい箇所を集中的に狙おうと、アリシスは攻撃を重ねていく。リンディスが懸命に回復を続けたため行人はそこまでの重傷には至らないものの、尾でこれなら頭の苦戦ぶりも想像できるというものだ。
「これで、決めよう……なるべく、血は出さないようにしたいが……!」
蔦纏う刀を抜くと、行人は燃え続ける尾の腹側から斬り上げた。
「マナガルムさん、甲羅に炎が燃え移る前に!」
甲羅に生える植物が燃える事で、何が起きるかわからない。リンディスが急いで伝えると、マナガルムが投げた栄光の槍『グロリアス』がついに尾を地へ縫い止めた。
「頭は……まだ決着はついていないか。合流しよう」
二手に分かれたもう片方の仲間達は、いまだ苦戦している様子だった。尾を沈黙させたイレギュラーズ達は、マナガルムの提案に否を唱える理由もなく頭部へと走った。
●魔亀討伐
桜舞う魔亀の頭部。
一見風雅な光景だが、この桜は蛍が必死に維持しているものだ。
「そらっ、持ってけ!!」
風牙の槍が首の付け根でも柔らかい所を的確に突く。攻撃を繰り返す内、より効果がある箇所を見つけ出したのだ。
「蛍さん、大丈夫ですか」
「ボクはまだまだ大丈夫! 珠緒さんがいてくれるから!」
桜吹雪の結界の中、魔亀の首に自らの血を飛ばし、似て異なる花弁を散らして生命力を吸収していた珠緒。戦いの初めに蛍からかけられた信頼の言葉が、珠緒を強く支えてくれているのだ。
しかし、蛍はあと何度『狂咲』の結界を展開できるかを考え始めていた。
「アマギさん、今です!」
「喰らえぃ、アカツキ流目潰し穿光じゃー!」
蛍へ十分に引き付けられた顔面に、アカツキが掌底から光の槍を生み出し魔亀の片眼へ叩き付ける。それでも魔亀はその身を焼かれながら、蛍へ噛みつこうとした。
「告死天使よ――!」
アリシスの呪いが飛び、ついでリンディスが駆けつけ疲労が見える仲間達をまとめて励起していく。
「藤野、一旦休むといい。引き付け役は一時引き受けよう」
「ありがとう、すぐ戻るわ」
マナガルムに前衛を任せ後方へ下がると、蛍は珠緒の元へ向かった。
「今回復しますからね」
「珠緒さんの声を聞けるだけで、もう癒やされてる……」
恐らく本気であろう蛍の言葉に小さく笑いながら、珠緒は彼女に大いなる祝福を与えた。
「合流できたなら、きっとあと少しよ。頑張りましょ!」
癒やしてくれた彼女に、もう一度エールを送って。蛍は前線へ戻っていく。
一方、前線では。
「流石に、この重量は飛ばせんか」
『グロリアス』による剛撃で、魔亀の怒りを引く事はできた。しかし、弾き飛ばすには物理的に大きすぎたようだ。マナガルムもその結果は予想できていたようで、さして驚きは無い。
「のうベー君、大抵の生き物は真上が死角と言うのじゃ。あの甲羅、飛び乗って割ってみんか?」
「だそうだが。乗って大丈夫そうか?」
アカツキに誘われ、マナガルムはリンディスに確認してみる。
甲羅の上の植物分布は多岐に渡っている。リンディスは尾側で戦いながら、それらの植物を確認していたのだ。
「あの苔は、触れると痺れます。燃えると胞子を飛ばしますね。粘液は浴びると火傷を――」
「大分無理ではないか!?」
「甲羅の中央の木、あれを足場にできれば……」
リンディスが言うように、まるで甲羅上の世界の主のように若木が根を下ろしている。丁度良く甲羅の下の方から根を辿って行けそうだ。
「甲羅を割れば、急所にトドメをさせるかも知れないね」
「頭の方は私達に任せて下さって大丈夫ですよ。目が潰れても元気そうですから」
行人とアリシスが見上げると、片目になった魔亀がマナガルムを睨み付けていた。
「お待たせ! ボクも戦線復帰するよ」
蛍も復帰したのなら、戦線が崩れる事は無いだろう。マナガルムとアカツキは甲羅の頂を目指す事にした。
堅い甲羅と皮膚でイレギュラーズ達にほとんど満足な攻撃をさせてこなかった魔亀も、多くの攻撃を受けて元から鈍かったその動きを更に鈍らせていた。
「最後の悪あがきに人里へ突っ込むって事もある、なるべく人里とは逆の方向へ誘導とこう」
行人の提案で、魔亀は更に山奥へと誘導されていく。
「リンディスさん、回復をお願いしてもいいですか?」
「どうぞ、存分に」
彼女から気力、体力共に全快まで回復した珠緒は、蛍の少し後ろに並び立つ。
「珠緒さん?」
「ふふ……攻撃でも蛍さんと連携できるのは、心が躍ります」
珠緒はどちらかと言えばサポートに回る事が多く、同じ攻め手として蛍と肩をを並べられるのはあまり無い事で、単純に嬉しかったのだ。
そして珠緒の喜ぶ顔は、蛍を更に奮い立たせる。
「行くぜ! こっちも畳みかける!」
仲間達の感情が、明るく温かな色で彩られているのが『視える』。見ていて気持ちのいい色だ。
その色を背に、風牙はいま一度――今度こそ引導を渡すつもりで、『烙地彗天』を手に地を蹴った。
「悪いけど、殺させてもらうな」
二度と人里に近付かないと約束できる相手なら逃がしてもいいと思っていた。だが、この亀は無理だ。初見でそれは悟った。そして風牙は、あくまで人間の味方だ。
「――ソニックエッジ!!」
渾身の一撃を、亀の首へ突き立てる。
「咲かせませ、血束の蝕花。命を侵して咲き誇れ」
「珠緒さんと咲かすこの桜は、死出の旅路の送り花よ……!」
蛍の桜の結界の中で、血の桜が再び綻び、そして散る。
(あとは、甲羅を割る事ができれば……)
告死天使の力を宝珠に込めながら、アリシスはマナガルムとアカツキの成功を願っていた。
苔を踏まないように若木の上へ登り、甲羅を割る。率直に無茶振りである。
「じゃが、妾言い出しっぺじゃからな……やるぞー!」
思い切って助走をつけて毒苔を飛び越えると、件の樹へよじ登った。
「ゆくぞ、これこそアカツキ流亀甲羅割り――!!」
アカツキが生み出した光の槍を撃ち込む。杭のように突き刺さった槍は、やがて甲羅に亀裂を生みついに砕いた。
「手向けだ。これが全力――ギガクラッシュ!」
砕けた甲羅の下の本体へ、マナガルムが全ての力を雷撃へと変換した一撃を叩き込む。
ふと、乗っていた亀の背中が大きく揺れる。
魔亀は地響きをたてて斃れると、二度と起き上がる事は無かった。
●素材回収とエトセトラ
「ふぅ……強敵だったが、これで依頼も達成か?」
魔亀が起き上がらない事を確認して、出立する際にリウェールに調達して貰った容器にマナガルムが血の採取を始める。あとは彼女に持ち帰れば依頼は完了だ。
しかし、それで終わりにするにはあまりにも、この魔亀は色々と『大きい』。
「この甲羅、村へのお土産にできないかしら。しっかり退治した報告にもなるでしょうし」
「奪った命、無駄なく使いたいですからね。治水対応の相談もしておきたいです」
蛍と珠緒が命を満遍なく使おうとしているのを見て、一度は化粧品などいらないと思った風牙も容器に魔亀の血を採取する事にした。
「ただ殺すよりは、やっぱ意味のある『狩猟』にしたいしな」
「また、自然へと還っていく身。私達のエゴで奪った命を、きちんと送って差し上げましょう」
リンディスも容器に血を採取して、静かに祈った。
「ところでこれ、どんな化粧品になるんだい?」
「妾もちょっと気になるのじゃ。普段はほとんど化粧とかせぬが」
行人とアカツキが珠緒に尋ねるものの、彼女も困ったように首を傾げるばかりである。
「質だけは確かだと思うのですが……」
それなら、自分よりも誰かへの土産にしよう、と密かに決めたリンディスだった。
それぞれが血の採取をしながら命の大切さと化粧について盛り上がる中で、アリシスは魔亀の骸を観察する。
めぼしいものはほぼ無かったが、ひとつだけ――自然発生の生物には有り得ないものが、潰れた眼から見つかった。
(小さな黒い欠片……戦いで刺さった物ではないですね。何でしょう……?)
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
長らくお待たせしました。
リウェールさんからの報酬という設定でのアイテム作成はご自由にどうぞ。
化粧水でも美白美容液でも口紅でも、大体作ってくれると思います。
最後に見つけた黒い欠片についてはこのままでも、調査を進める事も可能です。
(放置しても何か事態が悪化するということはありません)
GMコメント
旭吉です
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
●目標
山奥の魔亀を捕縛、もしくは討伐し、血を一定量採取する。
●状況
深緑の山奥。
巨大な魔亀が通った跡は木々がなぎ倒され、草も踏みしめられているため魔亀の居場所はわかりやすいです。
実行する時間は皆さんで決めて頂いてOKです。
●敵情報
魔亀×1
デカい。小さな川なら座るだけで堰き止められそうなほど。
大岩のような甲羅を持ったゾウガメ+頭と尾に口がある大蛇のキメラのような姿です。
甲羅は苔むして、様々な植物(雑草・毒草~若木)が生えています。頑張れば登れるかもしれませんが滑りやすいです。
甲羅越しの攻撃は届きにくいようですが、露出している皮膚もそれなりに硬いです。
目があるのは頭側のみ。
口は一般人なら胴体を食い千切る強さです。
尾をフルスイングする時もあるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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