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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>哄笑は高らかに響き

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●住居の破壊、妖精の捕獲
「HAHAHA――!!」
 妖精の街エウィンを、精悍な顔つきの白い巨人が笑いながら蹂躙する。巨人が拳を真っすぐに突き出すと、拳圧が衝撃波となって直進し、妖精達の家々を吹き飛ばした。
 衝撃によって昏倒したり慌てふためいて逃げ惑う妖精達を、黒くどろどろとした巨人達が四方八方に触手を伸ばして次々と回収していく。
 白い巨人は、『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)の体組織から培養した素体を用いた、アルベドと呼ばれる錬金術によって生成されたモンスターである。妖精達にとっては普通のイレギュラーズ達でさえ巨人であるのだが、二メートル半もの巨体である貴道のアルベドはより巨大であり、妖精達を恐慌状態に陥れるには十分だった。
 黒い巨人達はニグレドと言い、これも錬金術によって生成されたモンスターである。貴道のアルベドほどには大きくないものの、それでも妖精達にとっては巨人であると言えた。
「HAHAHA――!!」
 周囲一帯の家々を破壊しつくし、目についた妖精達を捕らえつくした一行は、高笑いする貴道のアルベドを先頭に次の獲物を探しに行くのだった。

(……ああ。何で、こんな……ことを。止めて……くれよ……。
 くそう……みんなが捕まるのを、ただ……見ているしか、できない、なんて……)
 精神に直接飛び込んでくる光景に、悔しそうな思念を抱くのはアルベドの核であり『電池』であるフェアリーシードに変えられた妖精だ。
 口を動かせれば、悔しさにギリリと歯ぎしりしたであろう。
 目を動かせれば、ボロボロと悔し涙を流したことであろう。
 手足が動かせれば、迷わず黒いモンスターどもを次々と殴り飛ばしただろう。
 しかしフェアリーシードに変えられた身では、どんなに願ってもこの体のわずか一部でさえ自らの意思で動かすことは叶わなかった。
 それでいて、家族や友人、知人や見知らぬ同胞達をこの体が捕まえていくのを見せつけられるのだ。その心中や、如何ばかりであろうか。
(それに……しても……、如何して、気が……遠く……なって、いくん……だろう。
 まるで……意識が……真っ黒に、塗り……潰されて……いくような……)
 さもあろう。フェアリーシードはアルベドの核でもあり『電池』でもある。アルベドが何かを行えば、それに応じて『電池』たる妖精の生命力は費やされていくのだ。
 『電池切れ』が訪れればこの妖精の命は永遠に失われる。それは、そう遠い未来のことではなかった――。

●妖精達を救出せよ!
「アルヴィオンの町エウィンが襲撃され、妖精達が捕獲されています!
 ――至急、妖精郷の救援に向かってくれる人はいませんか!?」
 ギルド・ローレットの中で、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)は息急き切ってイレギュラーズ達の前に駆け込んできた。
 折しも、妖精郷アルヴィオンから逃げ出した妖精フロックスから、魔種タータリスクによって妖精達の女王が捕らえられていることと、妖精達の『命』を使って人間そっくりの形をした白い怪物即ちアルベドが造られていることが伝えられたばかりだ。
 魔種の跳梁を許すわけにはいかないローレットとしても、既に女王を救出する電撃作戦の敢行が決定している。ましてや、この事態を放っておけばより多くの妖精達がフェアリーシードに変えられてしまうことになる。とても、放置しておける事態ではなかった。
「現在エウィンを襲撃している戦力は、郷田 貴道さんを模したアルベドが一、それに付き従うニグレドが現在十です。アルベドがエウィンの街並みを破壊し、ニグレドが住処を喪った妖精達を捕獲しています。
 今回は、ニグレドを可能であれば全て、最低でも六体以上倒して、そのニグレドが捕獲している妖精達を救出して下さい」
「最低でも六体以上? 少し、弱気すぎないか?」
 イレギュラーズの一人が、依頼の内容に口を挟む。勘蔵はふぅ、とため息をついてから、その問いに答えた。
「それがですね――奴ら、何らかの条件で逃げるらしいんです。
 ですから、とにかく半数以上のニグレドを撃破して、そのニグレドが捕獲している分の妖精を救出するのを最低ラインとしています。
 それに、ニグレドを倒そうとすればアルベドは当然その妨害に入るでしょう。しかもそのアルベドは、郷田さんを模しているのです」
 貴通を模したアルベドの存在を勘蔵が指摘すると、イレギュラーズ達は緊張からゴクリと唾を飲み込む。貴道とまともに殴り合って勝てる者など、イレギュラーズ全体の中でも果たしてどれだけいるだろうか。
「郷田さんを模したアルベドの妨害をかいくぐりながら、ニグレドを仕留めていく。
 決して楽な依頼ではありませんが――どうか妖精達を救出し、魔種の企みを阻んで下さい。よろしく、お願いします」
 イレギュラーズ達に向けて、勘蔵は深々と頭を下げるのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は全体依頼<月蝕アグノシア>のうちの1本をお送りします。郷田 貴道さんを模したアルベドの猛攻をかいくぐりつつ、ニグレドを倒して妖精達を救出して下さい。

●成功条件
 ニグレド6体以上の撃破(及び、そのニグレドが捕獲している妖精の救出)
 ※ニグレドを撃破すれば、括弧内は自動的に達成されるものとします。
 ※貴通・アルベドの生死は依頼の成否に影響しません。
 ※フェアリーシードにされている妖精の生死は依頼の成否に影響しません。

●失敗条件
 ニグレド5体以上の戦場からの離脱成功

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 家々が破壊されているエウィンの町、時間は日中で、天候は晴れです。
 妖精の家の残骸が至る所にありますが、戦闘には悪影響はありません。

 初期配置として、イレギュラーズ達は貴通・アルベドから40メートル離れた位置にいます。
 ニグレドは貴通・アルベドを中心に、側方から後方に5~10メートル離れた位置にいます。

●貴通・アルベド ×1
 郷田 貴道さんの血液から素体を生成された、錬金術によるモンスターです。
 命中が特に高く、回避、防御技術、特殊抵抗も高い水準にあります。
 HP、APはフェアリーシードによって、オリジナルよりも大幅に盛られています。
 移動が発生しない限り、必ず副行動に瞬・極みで自己を強化するため、APの消費は激しくなっています(=それだけフェアリーシードにされている妖精の死が近づいている、と言う事でもあります)。
 自我は特になく、ただ郷田 貴道さんのコピーとして「HAHAHA――!!」と笑うだけです。

・攻撃手段など
 拳(通常攻撃) 物至単
 瞬・極み(アクティブスキル) 付自単 【自付】【副】【瞬付】
 実戦ボクシング改(アクティブスキル) 物至単
  【弱点】【追撃25】【致命】【邪道20】【反動】
 デスサイズ(アクティブスキル) 物至単 【必殺】【恍惚】
 大蛇槍(アクティブスキル) 物超貫
  【万能】【ブレイク】【呪縛】【麻痺】【鬼道15】
 精神無効
 覇道の精神
 崩し無効
 反

●ニグレド ×10
 黒くドロドロとした人型の、錬金術によるモンスターです。
 最初は12体いましたが、イレギュラーズ到着までに2体が離脱しています。
 能力は命中以外は全般的に低く、攻撃力もそれなりに痛い程度です。
 一方、HPはそこそこ高く打たれ強くなっています。
 自我がないため、精神系のBSと怒りは無効となります。
 戦場から離脱する条件については不明です。
 
・攻撃手段など
 拳(通常攻撃) 物至単
 触手(アクティブスキル) 物中単 【多重影】
 精神無効
 【怒り】無効

●フェアリーシード
 アルベドの核であり電池です。妖精が姿を変えられています。
 妖精は辛うじて意識を残していますが、自分からは一切何もできません。
 アルベドがダメージを受けたりスキルを使う度、妖精の生命力はすり減っていきます。
 フェアリーシードを破壊すればアルベドは活動を停止しますが、それは同時に妖精の死を意味します。
 一方、妖精の生命力が尽きてもフェアリーシードは壊れます。

 フェアリーシードにされた妖精を救出すること自体は可能ですが、フェアリーシードの位置も不明であり、救出のための方法も不明であるため、妖精の救出は非常に困難です。
 もし妖精を無事に救出したければ、他のアルベドが出現するシナリオを参考にした上で知恵を絞り、プレイングにある程度の熱量を注ぐ必要があるでしょう。
 そこまでやるかどうかは、純粋に皆さんの判断次第となります。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <月蝕アグノシア>哄笑は高らかに響き完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
ニコラス・T・ホワイトファング(p3p007358)
天衣無縫
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者

リプレイ

●脅威のアルベドを前にして
 妖精達が襲撃されているとの報を受け、妖精郷の街エウィンにイレギュラーズ達は駆けつけた。そこで一行は、予め聞かされていたとおりイレギュラーズの一人を模したアルベドに遭遇する。
「HAHAHA――!!」
 しかし、オリジナルの『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)とは違い、そのアルベドは貴道を模した笑いこそ発するものの、自我があるようには見受けられなかった。
「ずいぶん面白そうなヤツがいるが……ケッ、ちょっかい出すにゃあ俺の方がちと弱すぎるか」
 ギリッ、と悔しそうに歯ぎしりをしながら、『天衣無縫』ニコラス・T・ホワイトファング(p3p007358)はアルベドの周囲にいるニグレド――黒い泥のような、人型の魔物――の一体に、音速の一閃を叩き込む。ぐちゃ、と言う手応えと共に、触手のようにうねうねしている腕が本体と泣き別れた。
(イレギュラーズの、それも貴道殿のコピーとはまた悪趣味な……)
 貴道のアルベドをちらりと見やりつつ、『筋肉最強説』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)はニコラスの一撃を受けたニグレドに肉薄する。今回の依頼ではブレンダはニグレドの掃討を担っており、アルベドへの対応を担う者の負担を減らすためにも、ニグレドを手早く片付けていく必要があった。
「数は多いが、確実に仕留めさせてもらう!」
 長剣二本を舞わせているような剣捌きは、たちまちのうちにニグレドを斬り刻む。黒い泥のような身体がベチャリと崩れ落ち、捕まっていた妖精達が中から出てきた。
「また捕まらないように、早くここから逃げるっす!」
「ありがとう」
 『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)は解放された妖精達に近いニグレドを目掛けて神聖なる光を放ちながら、この場からの待避を妖精達に促す。妖精達は衰弱こそしているものの、口々に礼を述べイレギュラーズ達に頭を下げながら、一帯から離脱していった。
「まずは、一体分っすね」
 捕まっている妖精達の一部ではあるものの、命を勝手に費やさせる外法から妖精達を守れたことに、ジルは安堵する。だが、解放するべき妖精達はまだいるのだ。すぐに、気合いを入れ直した。
「HAHAHA、ミーのパチモンか、そういや何か持ってかれたしな。
 オーケーオーケー、ノープロブレム!
 本物と偽物の違いってものを見せつけてやるよ、HAHAHA!」
 次に動いたのは、貴道だ。アルベドを作られたことを問題ないと断じつつ、聖なる光に灼かれたニグレドへと距離を詰める。偽物との対決よりも、まずは依頼の達成を優先したのだ。
「よぉ、ファッキンシットども、ゴキゲンかい?
 おっと、自我なんて無いんだっけか。ならさっさとぶち壊れな、HAHAHA!」
 疾風のような右ストレートが、ニグレドのボディを抉り貫く。まだ壊れるには至らないものの、ダメージは大きいのははっきりと見て取れた。
(皆を守りながら、誰かを助けるのは何度も経験あるけど、今回は郷田さんのアルベドでしょ? ちょっと……)
 貴道のアルベドの姿に、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は口に出しこそしないものの、依頼の困難さにわずかながらも怯んでいた。だが、こちらにはオリジナルの貴道がいるのだ。本物が偽物に負けるはずはない、だから大丈夫だと、ココロは自分に言い聞かせる。
「……望みがあるのだから、妖精さんをみんな助けたい。
 この日を、悪い日にしない為に」
 ココロは願いを込めて、手負いのニグレドに立て続けに神聖なる光を浴びせる。立て続けに攻撃を受けたニグレドはその場に崩れ落ち、中からは先程と同じく解放された妖精が現れた。
「もう、大丈夫よ。だから、ここから逃げていて」
 戦場からの退避を促すココロの言葉に、妖精達は感謝を示しながら次々と逃れていった。

●千六百八十万色 VS 白一色
(は? 自我がないとかマジでありますか?
 こういうのは、知合いっぽい敵と戦うのがエモエモなのでは?
 これは何としても自我ってもらわねば。具体的には、怒りとかで)
 アルベドに自我がないことに不満げなのは、『ゲーミング』エッダ・フロールリジ(p3p006270)だ。先に受けた依頼の後遺症で、その身体は千六百八十万色が入れ替わり立ち替わりに輝いている。
「バーカバーカ脳みそ筋肉、拳しか攻撃に使わないドマゾー!
 ケツでもくらえでありますお尻ペンペン」
 狙いはアルベドを挑発してその攻撃を自身に引き寄せることであるのだが、その内容はあまりにも子供じみていた。しかも、その挑発を試みている当人は千六百八十万色に彩りを変えながら輝いていると来ている。酷い絵面であった。
「おっとこれはアルベドへの挑発なので、勘違いしないで頂きたいでありますな。
 自意識過剰でありますよ、プププ」
 どう見てもオリジナルの貴道を煽ってるとしか思えないのは、果たして気のせいだろうか。
 ――ともあれ、エッダの挑発は成功した。挑発の後、逃げるように距離を取るエッダをアルベドは追いかけて、拳圧の奔流を叩き付ける。
「意志無き拳に、何の面白味があろうと言うのでありますか。
 自分の知っている彼の拳は、もっと鋭く重いであります」
 しかし、エッダはリベリオンでのガードに成功する。身体に痺れこそ残ったもののダメージは微少であり、アルベドの拳はつまらぬとばかりにエッダは切り捨てた。

●アルベドと死合ってみたくはあるものの
「ゴウダのコピー、いや肉体情報を元にした人造生物か……少々喧しいが、ゾクゾクするな。
 妖精が動力でなければ率先して鍔迫り合いと行きたい所だが……」
 『彷徨う赤の騎士』ウォリア(p3p001789)は、残念そうに貴道のアルベドを一瞥した。貴道のコピーともなれば是非とも死合ってみたいところだが、妖精達との今後の関係を考えれば、フェアリーシードにされている妖精を死なせるわけにはいかない。「妖精も殺す」事しか出来ないウォリアに、それは無理な注文と言えた。
(だが、幸いにも「にぐれど」とやらは狩り尽くせばいいのだろう?
 いいじゃないか、望むところだ。此処にいる残り八匹……殺し尽くすとも。
 生まれる時を間違えた者を「送る」のも、「四騎士」の務めだからな)
 ウォリアは昂ぶる戦意をニグレド達に向けると、その一体に肉薄し、大戦斧『暴君暴風』を大上段に振りかざす。そして、渾身の力を込めて一息に振り下ろした。
「真っ二つ、とは行かなかったか」
 ぐちゃっ、と言う手応えこそ両手に感じたものの、両断までには至らなかったのをウォリアは残念がった。だが、畳みかけるように『椿落とし』白薊 小夜(p3p006668)が続く。
(郷田さんの偽物っていうのは少し死合ってみたい気持ちもあったけれど……
 ま、依頼の注文が優先ね)
 白杖を持つ視覚障害者とは思えないような思考と速度で、小夜はウォリアが傷つけたニグレドに肉薄する。そして白杖から抜刀すると、菊花を思わせる舞うような太刀筋で斬りつけた。斬撃が、幾重もニグレドを斬り裂く。だが――。
(く……足りない!)
 惜しくも、ニグレドを仕留めるには至らなかった。

 七体のニグレド達はそれぞれエッダ以外のイレギュラーズを一人ずつ触手で狙うが、ブレンダに多少のダメージを与え、ココロ、貴道、小夜に掠り傷を負わせるに留まった。
 残りの一体、ウォリアと小夜によって手負いとなっているニグレドは、イレギュラーズ達に背を向けて逃走を開始した。

●菊花、乱舞
「逃がしゃしねえ……間に合え!」
 逃走を試みるニグレドに、ニコラスは追いすがっていくつかの爆弾を放つ。爆弾は意志を持つかのようにニグレドを追い、その身体に衝突すると次々と爆ぜた。地面に崩れ落ちたニグレドの残骸から囚われていた妖精達が姿を現すと、ニコラスは退避するよう促した。
「HAHAHA! そういうことか。
 このファッキンシットども、ある程度ダメージを食らうと逃げ出すんだな!」
「それなら、一体一体に攻撃を集中して、逃げ出す前に確実に倒していかないとっすね」
 ニグレドが逃走する条件に気付いた貴道が、大声で他のイレギュラーズに周知しつつ、ニグレドの一体に左ストレートを見舞う。ニグレドの身体の半ばが弾け飛んだところで、ジルがその傷口を聖なる光で灼いていく。
「貴様らに妖精たちは連れていかせんぞ! その首ここに置いて逝け!!!」
 そこにブレンダが、舞うような二刀流で猛攻を仕掛けて、ニグレドを仕留める。ニグレドの体内からはやはり解放された妖精達が現れ、戦場の外へと逃れていった。

 エッダに追いついたアルベドは直接拳で殴りかかるも、その拳は空を切る。一方、エッダはアルベドが平静を取り戻しているのに気付き、再びアルベドの注意を引こうとする。だが、今回は通じなかった。
(……何とか、次で先手を取って引き付けないとまずいでありますね)
 ごくり、と緊張した面持ちでエッダは唾を飲み込んだ。

 また一体、ニグレドが崩れ落ちる。小夜の仕込み刀が瞬時に三度閃いてニグレドを倒したのだ。小夜の攻勢はそれだけに留まらず、別のニグレドに肉薄すると、袈裟懸けの一太刀でその生命力を半ば近くまで奪い取った。
 半死半生のニグレドは、ウォリアの大戦斧と、ココロの聖光に畳みかけられて仕留められた。

 残り四体となったニグレドは後退しつつ、逃走個体の追撃のために突出していたニコラスに触手で集中攻撃する。その様は、戦線を下げつつ、逃走の障害となる存在を排除しようとしているかのようであった。幾度も執拗に迫り来る触手を避けきれず、ニコラスは強かにダメージを受けてしまう。
「ちっ、出過ぎたか!?」
 ニコラスは味方の側へ下がりつつ、攻撃してきたニグレドのうちの一体に向けて、自律行動する爆弾を放つ。爆炎がニグレドを包むが、撃破には至らなかった。そこに、エッダから踵を返してきたアルベドが拳圧の奔流を叩き込む。
「ぐうっ!! ……ああ、やっぱコピーと言えども強えよなぁ」
 攻撃の隙を衝かれて拳圧が直撃したニコラスは、大地に倒れ伏す。だが、可能性の力を費やしてゆらり、と立ち上がってきた。
「今、回復するっすよ」
「ありがてえ!」
 ジルは大天使の祝福で、ニコラスの傷を癒やす。満身創痍という態だったニコラスの身体に、かなりの活力が戻った。
「……『四騎士』の名にかけて、一体たりとも逃がしはしない! しかと、『送って』やろう」
「フェアリーシードの確保に動く者たちの手助けはできないが、その分私にできることは全うする!」
 ニグレド達の存在は許さないとばかりに、手負いのニグレドをウォリアが戦斧で叩き斬り、次いでブレンダが二刀で斬り裂く。また一体、ニグレドはただの黒い泥となって崩れ落ちた。
「自分に来ないのはビビってるからでありますか? 相手するでありますよ」
 エッダは攻め気を見せてアルベドを引き寄せようとするが、今度はアルベドは一瞥したのみだった。アルベドは腐っても貴道のコピーであり、各種状態異常への抵抗力もほぼオリジナルに遜色ない。エッダの技量では、安定してその注意を引くのは厳しかった。

●フェアリーシードは何処
(ここで帰せば、どっちみち妖精は死んじまうかもしれねえ。だったら、勝負だ)
 依頼の条件を満たしたところで、貴道は自身の偽物への対応に移る。
「死んじまったら悪いな……恨み言くらい残してくれて構わねえぜ?」
 まずは拳で殴りつけるも、アルベドには堪えた様子はなかった。
(それなりに手応えはあったんだが……こいつ、相当タフだな)
 とは言え、アルベドが死ぬまで殴り続けるわけにもいかない。何とかその前に、フェアリーシードの位置を特定する必要があった。
「あなた、このままこいつの動力にされたまま死んじゃっていいの!?
 生きたいと思うんだったら、何か音くらいだしなさいよ!!」
 ココロは超聴力でフェアリーシードを特定しようとするも、音で位置を特定することは出来なかった。何とか妖精自身に声なり音なり出させるべく、必死に訴えかける。
(……う、あ……この、まま……死ぬのは、いや、だ。助、けて……よ……)
「……胴体の上の方、か。だが、その中の何処だ?」
 ココロの訴えは、意識を失ってただアルベドの動力にされていた妖精を覚醒させた。音を出すまでには至らなかったが、その声ははっきりと貴道の意識に届く。だが、惜しくもピンポイントで部位を特定するまでには至らない。
(妖精の生命力を核として動いているのなら……気の流れの始点、きっとそこに核があるはず)
 一方、小夜はアルベドの身体に触れて、魔力の流れからフェアリーシードの所在を探る。視覚をほぼ喪っている小夜がイレギュラーズとして活動出来るのは他の感覚が鋭敏であるからであり、その感覚は魔力の流れにも及ぶのだ。
 既に、胴体上部にフェアリーシードがあることはわかっている。そこに集中して小夜は魔力の流れを探り、フェアリーシードの位置を特定した。
「……見つけたわ! 胸の真ん中、中丹田よ!」
「HAHAHA! サンキュー、助かったぜ!
 あとは、パチモンから引っ張り出すだけだな!」
 小夜の叫びに、貴道は快哉を叫んだ。これで、妖精を救出する目処が付いたのだ。

●拳を解き、命を救う
 その後の流れは、もう決まったようなものだった。
 再度アルベドとニグレドの集中攻撃を受けたニコラスが戦闘不能に陥ってしまったものの、十体のニグレドは一体も逃走することが出来ずに全滅。囚われていた妖精達はイレギュラーズ到着前に離脱した二体が捕まえていた者を除いて、残らず救出された。

「私の刀では傷付けることしかできないけれど。
 貴方の拳なら助けてあげられるでしょう? 任せたわよ」
 貴道がフェアリーシードを上手く抜き取れるよう、小夜はアルベドの中丹田の左右を仕込み刀で切り裂いてアシストする。
 貴道は精神を集中し、アルベドの動きがスローモーションに見える超集中状態に入る。そして、両手の指を真っ直ぐに伸ばして貫手を作ると、アルベドの両腕のガードを弾き飛ばして小夜が作った中丹田の左右の傷にズブリと突き立てた。
(プライドを曲げて、拳以外を戦いで使ってんだ……頼むぜ、オイ)
 救出成功を願いながら、指を曲げてフェアリーシードを周囲の組織もろとも力強く引き抜く。直後、フェアリーシードを引き抜かれたアルベドは白いドロドロとした泥となって崩れ落ちた。
 貴道の掌の中には、白い泥に塗れた一個の透明な丸い宝石が姿を現す。その宝石はぐにゃりと形を歪めると、意識を失いぐったりとしている青年の妖精へと姿を変えた。その胸が微かに動いているのを見て、命に別状はなさそうだと貴道は安堵し、次いで信念を曲げただけの結果を得られた達成感が胸に満ちるのを感じていた。

 「助け得る者は全て助けた」と言う成果を、貴道のみならずイレギュラーズ達全員が喜んだ。特に、頭を悩ませたフェアリーシードの確保が成功したことは、その歓喜を一層強くした。フェアリーシードにされていた者を含め、妖精達からたっぷりと感謝の言葉を受けたイレギュラーズ達は、意気揚々と帰途に着くのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ニコラス・T・ホワイトファング(p3p007358)[重傷]
天衣無縫

あとがき

 この度はリプレイ返却が遅れまして、大変申し訳ございません。慎んで、お詫び申し上げます。

 さて、フェアリーシードにされていた妖精達も、ニグレドに囚われていた妖精達も無事に救出されました。本文でも書いていますが、助け得る者は全て救出した、最高の結果と言えるでしょう。これも、皆さんのプレイングのお陰です。

 それでは、シナリオへのご参加、ありがとうございました。

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