シナリオ詳細
一意『千』心
オープニング
●人を呪わば
「一つ打っては我の為、二つ打っては奴の為、三つ四つは言うに及ばず、五つも十も……奴が為」
呪詛とは、最も『平和的な』加害行為である。
相手を傷つけることはない。相手に知られない限りは己も傷つくことはない。
それが相手を殺すなどとは、よほどの神秘が介在しなければ起き得まい。それがたった一人の手によるものならば。
そして、人が人を呪うなど、よほどの情念が介在しなければなし得まい。それがたった一人の過ちによるものだったならば。
率直に言えば、その地に駐留していた『ヤオヨロズ』は人でなし……神でなし、とでもいうのだろうか? 兎角、統べるものとしての情に欠けていた。
幾ばくのカネも残っていないところから絞り上げる。年頃の娘の祝言を前に『試し腹』を行う。逆らった者を吊るし上げる。そして何より、ヤオヨロズ……精霊種は長命であるからして、長らく人々を苦しめる。
ひとつ、ふたつ、呪いは募る。
十と百とはすぐ過ぎる。
それが千を数えれば、それは最早神秘とだけ呼んで済まされるものではなくなる。
果たして、それだけの呪いを『何が』受け止めたのか。
そして、それは『何に』成り果てるのか。
――呪いの話を始めよう。
数多抱えたそれを束ねた藁は、縋り付かれて注ぎ込んだ。
そして藁は、呪いを成した。それから、呪いを返し始めた。
●呪詛返しの藁
「とある地域に、官吏として一人の精霊種が駐屯していた。まあ、死んだのだがな」
アマツグラ、高天京にて。イレギュラーズを呼び止めた鬼人種は、とある村に現れた怪異の討伐を一同に頼み込む。その説明の発端が、これだ。
「奴はろくでもない男だったし、殺されるだけの謂れもあっただろう。それが村人なら、責任をとってそいつを吊るせば道義的には終わる。だが、殺したのは『呪い』らしい。正確には呪いを吸い上げた樹が化けたもの、と皆しきりに口にしている」
それだけの被害がもう出ている。彼はそう言って話を続けた。
「そいつに恨みを持つ者達が一本の樹に絶えず藁人形を打ち付けたのだ。その樹が官吏を殺し、そして呪いを成そうとした者達を次々と襲っている。……なんでも、殺して己に取り込んで、樹皮に顔が浮かび上がっているのだそうだ。悪趣味極まりないな」
それだけでも厄介だが、と次を話そうとした彼はしかし、その不快感ゆえか顔を顰める。
「……これ以上は現地で確認してもらったほうが早いだろう。兎角、ロクな思いはすまい。……それでも、道理を外れた呪いは断たねばならん」
呪詛返しにしては酷なものだな。男はそう言い、一同の反応を待った。
- 一意『千』心完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月12日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●呪いの神木は眠る
「呪詛と共に釘を神木に打ち付け、神域の結界を破りて常世より禍を喚び祟る……丑の刻参りの典型と似たようなもの、という感ですが……」
「……けれども人々の呪詛がそれを為すとは、何と惨い……」
『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は、眼前に聳える大樹が放つ妖気、その発端の呪法に似たものを知っている。そして、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は魔力が樹木に与える影響、その事例を聞き及んだことがある。……が、人の意思がこうも歪な存在を生み出した事例は、自身の人生でも初めてである。
「怒りを積み、嘆きを積み、それら全てを背負ってきた御神木か……代償は当然ですが、一族郎党は流石に酷い」
「だが、人を呪えば軈て自分に返って来るのは当たり前の話だ」
不快げに顔を歪めた『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)とは対照的に、『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は極めて冷静に事実を事実として認識し、割り切っていた。威降のいうように、報復としては過剰なのかもしれない。が、発端となった官吏を殺すために蓄積された呪いの程は、突き立てられた呪言の量は、そうまでしないと止まらないものだった……そう考えると悲しくも妥当な末路といえようか。
「呪い等という手段を用いれば、よろず上手くはいかぬものですね。人を呪わば穴二つとはよく言ったものです」
『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は憐れむでもなく、ごく当然な出来事のようにその事実を理解する。彼女の言葉が示す通り、たとえどのような経緯があったとて呪いに助けを求めた人間の末路など概ね決まっているのである。……そうならぬように政治が真っ当であれば。喉まで出かかった言葉は、それこそすぐには解決出来ぬ話だろう。今ここで、場当たりであれ救いを示さねばならない。
「呪い、ですか。どれほど強い感情が込められているのでしょうか。ワタシにはまだ理解できません」
「誰かを殺す為に込められた感情は、強弱関係なく悲しいものです……知らなくても大丈夫ですよ!」
グリーフ・ロス(p3p008615)が『呪い』について理解を深めようとしたのを、『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は静かに手を添えて押し止める。
彼女の優しさから自然と漏れた言葉ではあるが、それは概ねにおいて事実である。ふとした言葉、他者への後ろ暗い感情の蓄積は『呪い』という単語を知ることで行為として変換されてしまうもの。
それを魔が根ざした混沌で、常ならざる身であるイレギュラーズが学ぶ。その意味は、無辜の民が邪な祈りを捧げる行為よりはるかに重い意味を持つ。
「俺から見て…一番哀れなのはこんな姿になった御神木だな。酷ぇモンだ」
「森の木なら。ボクのギフトでお話も出来るけれど……きっと言葉は届かない。可哀想……」
樹と意志を交わそうとし、すぐさま手を離したレイチェル。その言葉に首肯した『雷虎』ソア(p3p007025)は、自分もと木の幹に伸ばそうとした手を引っ込め、表面に泡立つように現れた人面疽に顔をしかめた。
それは次の瞬間、現れた時同様に泡のように消え、再びどこかに現れる。それが普通の樹木なら、ソアの耳になにがしかの感情が届いたかもしれない。が、それは既に多くの人の呪いと襲った者達の命を吸った『木の形をしただけの怪物』。なんらかの形で呪いを発散させれば或いは救いの道もあろうが、それは決して容易な道ではないだろう。
「この樹も、自分では止められないのでしょう」
「御神木がこれ以上罪を重ねずに済むよう、私も微力を尽くす所存です」
威降は樹へ歩み寄り、至近距離で戦闘態勢に入る。他方、エルシアは十分に距離をとった上で木々の影に隠れ、仲間達に累が及ばぬ位置で祈りを捧げんと手を組む。
不気味に蠢動する樹の幹は、周囲に打ち付けられた藁人形と人面疽により薄汚い瘴気を撒き散らすがごとく。
「私たちで負の連鎖を断ち切りましょう!」
ユーリエはスイーツを口にし、その足で樹の至近まで歩を進める。
イレギュラーズの殆どは樹の四方を抑え、逃さぬよう、そしてその呪いを仲間諸共受けぬように布陣する。
グリーフがブーメランでもって樹の幹を斬りつけると同時に、幹から藁人形が落下し、すぐさま膨張する。沈黙を保っていた常呪樹から溢れ出した呪詛と怒りの感情は、レイチェルが試みた意思疎通のチャンネルを容易にオーバーフローに至らせ、幹に数多の人面疽を生み出し、広げた。
「さぁご照覧あれ! まばゆき光にて御身を浄化しましょう!」
ルル家は閃光と共に苛烈な一撃を叩き込み、激戦への嚆矢とする。樹の目覚めよりなお速く放たれた一撃は、続くソアの肉球による殴打をより強烈なものとした。
渦巻く呪詛の重みは、即ちその樹が抱えてきた呪詛の量。エルシアは胃の腑からせり上がる不快感を必死に押し留め、藁人形達へ向けてただ、祈る。
●悪意は芽吹く
「普段は壊すばっかりだが……焔には浄化の役割もあるンだぜ!」
レイチェルの右半身が赤い光を纏い、指先から吐き出された血が幹へと術式を刻みつける。一拍おいて燃え上がった血はそのまま全体を舐める様に燃え広がり、幻のように溶け消える。
焼き焦がし炭化させる意図はない。敵意を剥がし、浄化させんとする意志から生まれた一手である。
藁人形達がルル家と威降へ取り付くと、樹の表面を不気味な光が走り、枝がざわざわとゆらめく。……続けざまに放たれた放射状の呪詛の波はエルシアの身を打つが、弱々しくもイレギュラーズたる彼女が耐えられぬ威力ではない。仲間達が極力、樹へと悪意を及ぼさぬように立ち回った結果でもある。
「これが……この樹が受けてきた呪い、悲しみ、怒り……嗚呼、こんな悲劇がこの世にあるだなんて」
目の前で繰り広げられる悲劇、目を覆いたくなる争い、理解の追いつかない喜劇のたぐいですらも彼女の精神には重くのしかかったことだろう。
だが、今の彼女はこれらの悪意を受けて終われと祈り、逃げたいと震える足を押さえて立つだけの手合いではない。足を地につけ、自分が終わらせるのだと前を向く姿は正しく一人のイレギュラーズとして、誇りある姿である。
「この人形があなたを苦しめてきたのでしょう。……悲しい話です」
威降は脇差を樹に突き立て、表層を覆う悪意の塊を引き剥がす。それが形を保ったままイレギュラーズの猛攻を受ければ、待ち受けるのは更に苛烈な呪詛の行使。
背後で自らを打つ藁人形の一撃は軽くはないが、目の前の樹に安らぎを与えるためなら如何程の苦痛も感じまい。
「人形はお任せください。樹への対処は皆さんにおまかせします」
冬佳の周囲を舞う氷刃は、樹と、そして人形たちをも苛むものだ。
既にエルシアの祈りを受けて弱りきっていた人形がその敵意を受け止められようはずもなく、一拍の間をおいて人形は力なく地に伏す。
グリーフは戦闘の激しさを理解しつつ、しかしイレギュラーズ達が纏う意志が敵意ではないことを感じ取っていた。
「神木に対する……なんでしょうか、あの感情は」
「……敬意でしょうか、哀れみ、とは違いますね」
グリーフのブーメランが戻るタイミングに合わせ、ユーリエの放った光の矢が木の幹に突き立つ。が、突き立った矢は瑞々しい生命ある幹ではなく、折れた枝の跡へ。極力傷つけまいとする彼女の意志がそうさせたのだろう。
敬意や哀れみという言葉と、それに付随する感情のありようをグリーフは理解できていない。だが、イレギュラーズが『敵に対する破壊』ではなく、『神木の鎮守』という行為を目指していることは理解できる。
「拙者こそが勝利の女神! 御身を想えば――その呪い、いくらでも受け止めましょうや!」
ルル家は初手と変わらず、全霊を以て一撃を叩き込む。閃光とともに身を切って仕掛けたそれは、速度と勢いを殺さず二度目の閃光へと至る。
「やっつけるしかないのは悲しい……けど、この樹をそのままにしておくほうがもっと悲しいことだと思う!」
ソアは高々と跳躍し、落下の勢いを込めて爪を突き立てる。樹に取り付いた彼女は、その肉球による追撃を叩き込むとくるくると回転しながら着地。直後、呪いを籠めた敵意が波となってイレギュラーズを襲うが、彼らは陣容を崩さずそれに耐える。
エルシアは祈りを捧げることしか出来ない。或いは、彼女の行為は非力な者の無為なおこないに見えようか。だが、イレギュラーズとしてここに立ち、退くことなく立ち向かうその姿が無為であると誰が断じることができようか。
樹が纏う妖気がいや増し、周囲に対する敵意が噴き上がる。纏った不調の数だけその身を強化する術式は、想定し対策しても抗いきれぬ部分が生まれるが、それに対しての対策は、通常なら絶対に至らぬ行為であった。
「……言っただろ、何とかするって」
レイチェルは、樹に手を添え破邪の治癒術を行使する。その身を苛んでいた不調を取り払い、力を取り戻させる行為。呪詛返しによる破壊を抑える方策として、彼らは『敵をも癒やす』ことを是としたのだ。
「呪い返しという形でしか発散できないのは悲しいことです。それで元の神木に戻れるなら、俺達の命を賭ける価値は十分にあります」
威降は増え続ける藁人形を切り裂き、その動きを止める。エルシアも強く祈りを捧げ、藁人形に降り掛かった呪いを弱めんと試みる。
グリーフは自分なりに仲間の戦いを学びつつ、自分のやり方で樹の動きを止めんと立ち回る。或いはレイチェルと同じように、仲間達の不調を含め癒やすことも視野に入れる。限られた魔力を使いこなし、果敢に立ち向かう姿は一端のイレギュラーズであることを納得させるに値する。
「ワタシに感情はわかりません。ですが、苦痛であるかそうでないか、その区別はつくつもりです。……アナタは苦しんでいますね」
「ええ、だからこそ――その神体を侵す不浄なる穢れ、幾らでも吐き出しなさい」
グリーフの声に、冬佳の言葉が重なる。
樹から吐き出される呪いが積年の、千を超えて積み上がった人々の無念だとするならば、ただそれを倒しただけではまだ足りぬ。
「その呪いを光の力でかき消す! ガーンデーヴァ!!」
ユーリエのはなった矢が再び樹へと突き立ち、その位置へとソアの一撃が叩き込まれる。
(母なる神木よ、あなたの呪いを解きたいと思うことは奢りでしょうか……?)
エルシアは樹へと語りかけ、その言葉が受け止められないか試みる。戦闘に入る前であればただ渦巻くだけの邪念が響くのみだった。今は、邪念の隙間から伸ばされる助けを乞う思念がある。
「……御神木は神の依り代。苦しむ民を見ていたから、縋られたから。呪いを受け入れ、願いを叶えたンだろ? 今、何とかしてやるからな」
レイチェルは樹が纏った不調を癒やすと、ちらりと冬佳に視線を向けた。最後は譲る、しっかり頼む……そんな感情が垣間見える。
「その呪詛の、禍の全て。我が神水の術法を以て洗い浄め祓い鎮めましょう。x.x.取り込まれた全ての魂よ、御霊安らかなれ」
冬佳が生み出した穢なき水は、樹の幹に纏わり付くとその全体を駆け巡り、呪詛をなぞって消していく。噴き上がる邪念は次第に薄れ、周囲を覆っていた気配は徐々に弱まり……そして、残された藁人形達は動きを止め、樹に張り付いたそれらも地面に落ちる。
「……激しい戦闘でしたが、周囲が無事で何よりでした」
「グリーフ殿、周囲の設備が壊れぬよう気を配っていて下さったのですな! グッジョブです!」
ルル家は、グリーフが密かに保護結界で戦場周辺を保護していたことを知っていた。なにせ神木だ。祀る設備の2つ3つ、破損してしまってもおかしくなかった。……成程、グリーフは戦いに挑む前から『イレギュラーズ』としての心構えをしっかり持っていたのである。
「まだ樹は生きています……もう呪いを見に受けないといいのですが」
「藁人形はこちらで供養してしまいましょう。もう、これ以上呪いを打たれることはないでしょう」
ユーリエは傷ついた樹をなんとか修繕しようと立ち回る。威降は、邪気がすっかり抜けた樹の幹を撫で、どこか確信にも似た言葉を紡いだ。
……そう、復讐の意志があるならば、たとえそれが豊穣郷で後ろ指刺される行為であろうとローレットが請け負うことだってできる。この国を根底から変えるなど出来る、とは奢らずとも、それくらいは引き受けても良いはずだ。
「この樹が生きてくれるなら、木の精も立ち直れるはずだから。今度は死んでいった人達を慰めてくれるといいなっ」
ソアは樹の幹をそっと撫で、精霊種として覚えた親近感を口にする。果たしてその願いが届いたのかは定かではないが……少なくとも、当面の間は同じ悲劇は繰り返されぬことだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
超扇・万能とかいう凄くアレな能力に、これまたアレ(褒め言葉)な対策を打ってきた皆さんの勇気は敬意を表します。それと、神木であるということに多大な敬意を払っていただいたことも。
今回は戦闘そのものというよりその決着の付け方を拘ってくれた貴女にMVPを。
正直、その地に敬意を示すという立ち回りで二人まで候補を絞ったりしたのでした。
GMコメント
腐敗した政治というのは凄いソソりませんか。
●達成条件
『常呪樹』の撃破
●常呪樹
数百、数千に及ぶ呪いを叩き込まれ続けた樹齢数百の樹。根で歩き、関わった者とその一族を殺して取り込むべく動く。基本昼は動かないが、樹を傷つけられた場合は対象を襲う。
HP・APが高く、防技もそこそこに高い。
・人形生成(パッシブ。ターン開始地2~3体の呪い人形を生成)
・呪い喰らい(自付。瞬付・副、抵抗超低下、【BS無効】)
・呪い返し(神超扇・万能、Mアタック、ブレイク。常呪樹の被っているBS数でダメージ、Mアタック値累加)
・奪枝(物超単・HA吸収中)
●呪い人形(初期2体)
藁人形に既に吸われた人間の魂を籠めて生み出される人形。
通常攻撃(呪いor不吉付与)を繰り返す。
●戦場
村外れの神社。樹はもともと神木であったという。
戦闘領域は広く、自由な戦いが可能。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
さあ、呪い呪われましょう。
ご参加お待ちしております。
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