PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Octet melody

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●穏やかなる修道院
 幻想。街中からは少し外れた森の中には、ある修道院が存在している。
 その名はクォーツ修道院。
 シスター・アザレアを管理人とし、幾人かの子供達と共に穏やかに過ごしている修道院――だが。
「全く。寄る年波には勝てんようだな」
「やかましいね――私だって人間さ。偶にはこういう事もあるもんだよ」
 年配の男。ラジエル・ヴァン・ストローンズは眼鏡の位置を調節しながらそう呟いた。
 目の前にいるのは件の管理人、シスター・アザレア……なのだが、今彼女は床に臥せっている。その理由は単純で、ちょっとした体調不良。冬を超え、春へ至り夏を向かえようとしている昨今の変わり目に当たってしまったか。
 まぁと言ってもそれだけであり、特に重い病に掛かっている訳では無い。
 つまり数日もすればまた体調も回復する……筈……だが……
「じーちゃんせんせー! シスターをたすけてー!」
「シスターだいじょうぶー!?」
「じーちゃん、じーちゃ――んっ!! せんせぇ――!!」
「ええい! 黙れ黙れガキ共が! フンッ、さほど高くもない熱が出ているだけの話だ!
 こんな程度でそこまで心配するような事は……こら! 服を引っ張るんじゃない!」
 修道院にいる、まだ幼い子供達は大好きなシスターが倒れててんやわんやである。
 シスター! シスターぁ! と声を挙げて心配する有り様。全く、慕われているのは良い事だが……しかしこぞってアザレアの傍を離れない現状は色々とヤバイ。普段少ない人数で子供達の面倒を見ている事の影響が色々と出たか。
「クッ、これだからクソガキ共は……!」
「あんまり大きな声を出すのはおよしよ。子供達が怖がるからね」
「ぬ……分かっておるわ。しかしこう縋られてはたまらん……」
 ラジエルは深いため息を一つ。騒がしい子供達はあまり得意ではない――が。シスター・アザレアには昔色々と恩を受けた身。彼女がこのような現状、かつ講師としても時々訪れている修道院のこの事態を見過ごすというのは、まぁ、その。心に引っ掛かる部分もちょっとだけ、ちょっっっとだけあって。
「――まぁこんな事もあろうかとな。今日一日子供達の面倒を見る奴を探してきた」
「へぇ? 随分と根回しがいいじゃないか、ありがたい事だけどね」
「ああ心配するな。バルツァーレクの馬鹿を引っ張ってきただけだ」
 へぇ……今なんて言った?
 思わずベッドから起き上がりそうになったアザレア。
 追及される前にとラジエルは部屋の外に――出れば。
「と、言う訳で頼むぞ。私だけではあんなガキ共全員の世話は出来んからな。
 まぁ嫌でもやってもらう――この前のメリサスでの借りがあるだろう。有無は言わさん」
「ええ他でもない貴方の頼みですし、私に出来る事でしたら」
 そこにいたのはガブリエル・ロウ・バルツァーレク。幻想三大貴族の一人。
 温和な彼の対応は子供達にとっても悪くないものとなるだろう。少なくとも自分みたいなジジィが接するよりもよっぽど。使えるモノはなんでも使う。それにこの間ちょっとした『手伝い』をした一件がある故に、それを口実にして。
「じーちゃんじーちゃん、リアねーちゃんがどっかいったー」
「じーちゃんせんせー、クロバにーちゃんも追いかけて行ったー」
「ん? ああ。どうせいつもの発作だから放っておけ。すぐ帰って来るだろ」
 またラジエルの服を引っ張る年少組に適当に答えつつ、しかし大体当たってる。リアは『ほ、他にも手伝いしてくれる人を探してくる!!』などと飛び出したっぽいが、やれやれ全く……
「ハハハ。賑やかな場所ですね、ここは」
「全く。賑やかすぎる時もあるがな……」
 ともあれせめて今日一日、子供達の面倒をなんとか見るとしよう。飛び出した修道院のシスターの一人、リア・クォーツ(p3p004937)や兄妹たちの兄貴分たるクロバ=ザ=ホロウメア (p3p000145)もすぐに戻ってくるはず。
 さぁ今日はなにをして過ごすとしようか――

GMコメント

 リクエストありがとうございます!!
 皆でわいわい。頑張りましょう!!

■依頼達成条件
 シスター・アザレアの代わりに修道院を切り盛りしよう!

 信望あるシスター・アザレアが病気で倒れ、子供達が彼女から離れようとしません……しかしそれでは色々と困るので、今日一日子供達の面倒を見て欲しいのです。その為にラジエルはガブリエルを引っ張ってきました。何してんだこの人?

 しかし一人増えただけでは何人もいる子供達の世話が足りようはずもありません。ガブリエルにしろラジエルにしろ子供達の面倒を普段から見るプロでもないですしね。なので皆さんで協力して子供達と一緒に過ごしてあげてください。

 子供達と遊んだり美味しくご飯を食べたり……その他にも修道院としての業務もあるかもしれません。いずれにせよアザレアさんは動けない状態ですので、手伝いになればなんでもOKです。

■クォーツ修道院
 森を結構進んだ先にある湖畔のその片隅に立つ修道院。
 集会場があったり、懺悔室もあったり、奥に宿泊施設があったり。
 建物の周囲には、家畜小屋や畑もあります。

 全体的にそれなりの広さを持っている様です。
 周辺も穏やかな空気の流れる場所ですので、のびのびと活動する事が出来るでしょう。

■アザレア・クォーツ
 クォーツ修道院管理人。シスター・アザレア。
 今回偶々熱を発してしまい、ベッドで安静中。
 特に重い病気ではないようなのでしばらくすれば元気になるだろう。

■ラジエル・ヴァン・ストローンズ
 元政治家にして、一応だがバルツァーレク派に属する人物。
 今回、アザレアの病気に伴って修道院がピンチの状況にガブリエルを連れてきた張本人。
アザレアとは昔に色々と恩を受けたらしく、彼女には頭が上がらない所がある。偶にだが、子供達への講師としてもクォーツ修道院を訪れているようだ。その為子供達とも面識が。

■ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 幻想貴族の一人にして『遊楽伯爵』とも言われる緑髪の人物。
 今回、恩のあったラジエルに呼ばれて修道院へ。
 温和で寛大。子供達とも楽しく接している模様。

■修道院の子供達
 低ければ四歳、高ければ十五歳の年少の子供達。
 アザレアが倒れて非常に心配しているのか、傍を離れようとしない者が多数……このままでは色々とピンチなので、子供達とワイワイしましょう! シスターも安静にしないとね。
 https://rev1.reversion.jp/guild/755/thread/11173

  • Octet melody完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月22日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

リプレイ


「お初にお目にかかりますシスター・アザレア。この度は体調を崩されたとの事で……
 教会の事は我々がお手伝い致しますのでご自愛下さい」
「ああ、すまないが頼むよ」
 想定外の客もいるみたいだからね、とアザレアは『莫迦な子ね』夢見 ルル家(p3p000016)へと言葉を紡ぐ。想定外とは勿論、かの伯爵の事である。
「大丈夫なのかこの国の三大貴族って? 伯爵が来るとか何事なんだよ」
「ふふ。いいじゃありませんか……ほら、伯爵さまは子供と接するのがお好きなようですし」
 こんな気軽に訪れて大丈夫なのかと『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は呟き『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は微笑みを携えながら、子供達と戯れる遊楽伯を見ている。
 まぁ本当に問題があるのならば伯爵自身此処に訪れてはいないだろうし大丈夫なのだろう。多分。
「あ、そーだ、ねぇシキ! ちょっと畑から野菜引っこ抜くの手伝ってほしいんだけど、いい?」
「ああ勿論。元々力仕事をしようかなと思っていた所でね……こう見えても力持ちだから、任せておくれ。ただその前にちょっと屋根の方を見てきていいか? どうも古くなっている所がありそうで――」
 『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)と『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は一度外へと。すべき事は山の様にあるのだ。故にリアとシキはまず外の方へ。クラリーチェは教会に訪れる常の来訪者の対応へ回り、クロバは元気よく騒ぎ立てる子供達を――
「よーしよーし、サンディ様だぜ。俺が来たからにはもー大丈夫だ! これからちょーっと大事な儀式が始まるからな。ひとまず俺達は離れないとな! 外行くかぁ外!」
 『意志の剣』サンディ・カルタ(p3p000438)と共に連れ出していく。
 アザレアは安静にする必要があるのだ。あぁまるで彼らの兄貴分の様に――アニキカゼを吹かして先導し、指差し外へと。
「あー。寝かせてあげれば良くなるから大人しくしようぜ。
 外行くの苦手か? なら代わりに本を読んでやるよ」
 しかし子供達の中には――例えばラシードなど――読書好きの者もいる。
 であればと『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)が持ち出したのは、本だ。
 それは勇者王が幻想国を建国するに至ったお話――夢や浪漫に溢れた冒険譚である。十歳前後の年頃の子供達にとっては眩しき本となろう。そうして子供達もそれぞれ散っていく。ようやくにもアザレアから皆が離れて。
「まぁ、まぁ……とっても、賑やかな所ですね」
「ははっ。うるさいと言うだけかもしれないがね」
「とんでもない。それより、御安静にくださいね……?」
 アザレアへの挨拶を手短に。一度お辞儀をしてから『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)もまた子供達の下へと歩いていく。
 修道院。今まで全くと言っていい程に縁が無かったのだが。いざや訪れてみればなんとも温かき場所。静かな所だという想像をしていたのだが、子供達も多く、声があちこちから響き渡り賑やか。
「さ。本日は存分に休んでいただきましょうか」
 だからこそ今日は存分に手伝おう。
 朗らかな雰囲気に包まれる、この修道院の日常を……


 シキの手が振るわれる。その手には工具。いるは修道院の屋根の上。
 太陽の光を存分に浴びながら老朽化の見える場所へと手を入れていけば。
「ふー……むっ。ここがちょっと痛んでるな。大雨でも来ていたら危なかったかもしれない」
 額の汗を拭って息を一つ。
 見れば青空。周囲には木々が広がり、緩やかな風が首筋を撫でる。
 下へ視線を寄こせば子供達の喧騒。あれは――サンディだろうか。
「いいチャンスだ。
 お前ら、アザレアばーちゃんが心配なら、ちょっと遠くまで一緒に花を摘んで来ようぜ!」
「お花ー?」
「おおそうだぜ。お見舞いと言えばお花、あるいは果物にそれから葡萄酒……はねーけど、ま、とにかくそれが鉄板ってもんだ。覚えとけよ?」
 ここの皆でアザレアの為に摘んだという達成感――恐らく、こういう時こそ大事なのだと。
 幸いにして近くに花畑がある。お見舞い用の花に事欠く事はないだろう……それに修道院から離れれば騒げようもの。散歩がてら花畑まで冒険だと、子供達ともに駆け出して。
「……さて。これは中々、大事に使われている様ですね」
 そしてミディーセラはシキとは違う所――普段使いの道具の修理に勤しんでいた。
 大雑把だが使いこんでいる『品』の事については聞いておいた。実際に見てみれば……なるほど、特によく使っているのであろう箒や椅子にガタが見える。数や状態をまとめたリストを作り観察してみて。
「そうそう。他に何か使っていておかしいな、と感じる様な所はありませんか?」
「えっとねー。お部屋の扉がね、ちょっと」
 そしてミディーセラは子供達から聞く事も忘れない。彼らの目線は大人と違う。
 彼らだからこそ気付く事もあるものだ――直すべき箇所が分かればこちらもの。
「ふふ。そうです、今からちょっと直すんですよ。こう見えて箒だって自作しているのです。騎乗用の。ですのでそれなり手先は器用で……なんです? まあ……改造なんてしませんよ? ちょっと手を加えるだけです、ちょっと」
 ふふふ、と含み笑い。
 直す為の道具や材質は潤沢にある。さぁ取り掛かっていくとしましょうか。
「はい。お昼のお祈りの時間はもう少ししてから……ああ。それでは、こちらへどうぞ」
 同時刻。クラリーチェは来訪者の対応を行っていた。
 修道女としてクラリーチェにとっては慣れた職務である。
 普段やってることとほぼ同じ事。客人が訪れれば案内し、問われた事に応えたり。
「え? ああ、はい。実はシスター・アザレアが体調を崩されまして……私はクラリーチェと申します。ここに務めておりますリアさんと同じシスターです。今日はよろしくお願いいたしますね」
 普段見ない方ですねと問われれば丁寧に自己紹介を。
 子供達にも初めて会った時は似たような事を言ったか――そうしたら子供の誰かが、リアねーちゃんよりずっとシスターっぽい……などと後で怒られそうな言動もしていた。思い出し、微かに笑みを。
「と! 有難う、クラリーチェ。外の人の対応をしてくれてたのね――
 貴女が居ると本当に助かって楽だわ。また何かあったら、呼んでくださいね」
「いいえそんな。折角お手伝いに来ているんですから」
 そんなクラリーチェの所へとリアが顔を出す。
 当たり前の事ではあるが最も『此処』に慣れている人物である。アザレアが倒れた以上、一番動くべきは自分であると考え、常に小走り。外を見て内へ戻り。また外へ。
「さて、まずはファラと手分けして洗濯と掃除……馬とかの世話も、あ、ミディー、こんなところに? あ、動物の世話もしてくれてるんだ、有難う助かるわ」
「なんのなんの……時々やんちゃな子がいますけど、可愛い子達ばかりですよ……ええ。でもリアさん。時折此処へ訪れて伯爵への愛を語る練習をするのは、動物さん達に不審がられておりますので止めたほうが……」
「そんな事してな――いッ!!」
 動物と意志を疎通させる術をもって何をしているのだ。してない、本当にしてないからね!?
「はぁ全くもう……! って何よ、ファラ……あの男の人は誰か……?」
 と。修道院の子が一人、ファラが指差した先を見たリアの視界に居たのはシラスだ。

「――こうして彼の活躍が今の俺たちが暮らす幻想国の礎となりました、とさ。
 すげぇよな勇者王はよ。果ての迷宮に挑み続けて、最後には国まで造っちまったんだぜ?」

 年少の子供達に物語を聞かせ、面倒を見ている。普段ああいうのは勉学の範囲においてラジエルが行っていたりするのだが……年相応か。シラスの話の方が面白い様だ。なにより子供達の反応を見ながら興味のありそうな所を盛って聞かせている所が良い点か。
 しかしファラはどうして行かないのだろうか。気になるなら自分も行けば……
「……はぁ? なんて? 『カッコイイから声かけたい』……?
 しらねーよ、そんなの自分で……あー、くそ、分かったわよ!
 シラス! ちょっと悪いけど、ファラの勉強でも見てもらえないかしら?」
「ん? あぁ、いいぞ。今から歴史やら地理をやろうと思ってた所なんだ」
 リアの服を掴んで後ろに半分隠れるファラ。い・け・よ! とばかりにリアは押し出して。
 子供達はシラスの弁に興味を持ったようだ。勇者王の物語で掴みが良かったのもあるだろうか……そのまま彼らに教えるべきものを教えていく。それは――どれも自分が今になって必死に頭に叩き込んでいるモノ。
 その整理も兼ねて噛み砕いて説明していく。生まれが例えなんであろうと。
「やっぱさ、その日暮らしより先をみていたいじゃん?」
 明日が欲しいのだ。少なくとも『その日暮らし』の果てにいる己は、そう思う。
 だから学んでほしい。意欲があるなら己も一生懸命やる。まぁ尤も……
「伯爵のいる場で歴史を語るのも流石に恐縮するけどな。釈迦が近くにいながら説法てか」
「ふふ――いえ。どうぞお気になさらず。勉学はとても大切な事です」
 シラスの視線の先には遊楽伯が。
 外で子供達と戯れていた様だが、休憩がてら中に戻ってきたのか。
 時間もそれなりに経っている。まだ夕暮れには少し遠いが――シキは。
「よし、そろそろリアにも頼まれていた畑の方を見に行こうかな。
 水やりもそうだが……収穫もしておいた方が、後々楽になるだろう」
 屋根の修理に片を付け下へと降りていく。肥料を纏め、増えた草を毟って綺麗に。
 畑仕事というのは想像以上に体力を使うものだ……アザレアの年齢でコレをやっていたのだろうか? 働き過ぎでは?
「ま、その助けになる為の動きが今回、か。おっ、青い花見っけ!」
 と、道端に見つけたのは綺麗な色をした花。
 部屋の一角に飾れば華やかと成るだろうか。ああ、まったく。
「早く良くなっておくれよ。そしたらみんな喜ぶ。
 ……いやまぁ、私も一応、ちょっとは。うん、本当にほんの少しだが」
 決して『心配』の類ではない! 多分! と心の中で呟くシキ。
 笑みと言う名の仮面を常に被る彼女だ。『配る心』なんてのはなく、心配などあろうはずもない。
 それでも思うものだ。心の片隅、どこかにあるのだ――
 ほんの少しは。元気になってくれたらいいなぁ、なんて。
 青い花を撫でながら、思うのだ。


 さて――当然だが時間というのは経つモノである。
「やれやれ。大貴族様が相手だと、下手なモノは出せそうにないな」
「なーにを仰いますクロバ殿! これはむしろチャンスではありませんか! グルメで知られる伯爵に拙者……達の料理の腕前を披露するところですよ! さぁ手伝ってください是非是非!」
 故に夕食を見越して台所へと至ったのはクロバとルル家だ。
 クロバは常より修道院にも至る身。いつも通り素早くテキパキと家事をこなし、シスターのやっていた分の負担を此処に。フル稼働で雑事をこなし掃除洗濯色々やっていた――が。
「ま、伯爵の舌はともかく……そうだな。
 シスターがいないとだめか? なんて思われない料理にしてみせるさ」
 笑みを携え腕を捲る。料理となれば得意分野なのだ。が、メニューをどうした物か。
「ふっふっふ。こんな事もあろうかと深緑から取りそろえたモノがあります!
 いでよ魔力コンロ! シスターのお腹にも優しき料理を生み出す礎となるがいい!」
 と、ルル家が大仰に叫ぶなり取り出したのは――深緑魔力コンロである。
 火を使わずに熱を生み出す魔法陣を宿した一品。特殊な温め方で、材料を芯より熱す。その過程により料理としてグレードも上がろう……目指すのは焼き物や煮物、スープと言った種類群である。
「そうだな。シスターの事も考えればあまり消化に悪いモノは宜しくないだろうな……俺はシチュー、ホワイトシチューのクリーム煮でも創ろうか。大人数に対応できるし、栄養面も豊富で食べやすいだろう」
 ちらりと、横目で扉の方をクロバが見据えれば子供達がいる。
 やれやれ食事の気配を嗅ぎ付けたのか。だがまだ途中なので、後でまた来い。
「――手伝うなら、味見の権利ぐらいはやるぞ。そら、皿運びだ」
「わーい! クロバにーちゃんありがと――!」
「走り回ってはいけませんよ! 火や刃物があるんですからね!!」
 現金な子達である。走り回る子供達を優しく注意しながら火加減には気を付けて。
 そうしていれば外に出ていたサンディも子供達を引き連れて戻って来る頃合いだ。
「おーす。はぁ、やっぱり予測通り子供達が疲れ果てて寝ちまったぜ……
 モルダーにGRNDを連れさせてて正解だったな」
 と。噂をすればなんとやら――サンディは両手に子供を抱え、帰還する。
 夕暮れにまで至れば来訪者ももう来ない。クラリーチェも戻り、シキにシラス、リアにミディーセラ……皆も段々と中へ。されば皆食卓へ集おう。皆で並べた食器に料理を。
「はぁ……漸く落ち着いてきたか……ガキ共め、なんで今日は二倍増しぐらいで元気なのよ……」
「――これは、お疲れのようですねリアさん」
 同時。戻ってきたリアへと掛かった声は――遊楽伯爵のモノ。
 途端に背筋をほぼ反射で正せば。
「って、は、伯爵!? あっあっ折角足を運んでいただいていて、まったくお構いもできず!」
「お世話になっているラジエル殿からの頼みでもあった次第。どうか、気を楽に」
 喉が、口内が渇く。それでも、まだ言葉を紡がなければならないと。
「そ、その伯爵……もし、良かったらお夕飯、ご一緒に如何ですか?」
 いつも伯爵が食べているようなモノではないだろう。
 でもきっと、美味であるし。それに、それに――
「ええ。むしろこちらからお願いします。是非、一緒に」

 もう少しだけ、一緒に居たいから。

 皆が集う。いつもの食卓の場所に、いつもより多い人数で。
「では皆さん……お祈りを」
 そしてクラリーチェの一言から始まり祈りを捧げる。
 料理人に、食物に。
 今日と言うこの日に――感謝を捧げ。

「いただきまーす!!」

 食卓を囲むのだった。
「おやおやこれは中々……絶品ですねぇ。私も作れなくもないんですけど、時折だいぶ酷いのが創れてしまったりするのです。後片付けはやりますからねえ」
「ふふ。お代わりもありますよ」
 ミディーセラが一口食せば口の中に芳醇な味わいが広がる。
 子供達にも好評なようだ――お代わりを担当するクラリーチェの下に、幾つもの皿が。
「これ! はしたない事はおよし。お客様もいらっしゃるんだからね!」
「はは、ほら。シスターもこう言ってるんだ。お利口に出来た子にはデザートもあるぞ!」
 はしゃぐ子らへ、休んで立ち上がるほどには元気になったアザレアの声が飛び。事態を予測していたクロバが眼前に抹茶プリンを。やったー! と言う声と、えー抹茶ー!? という二種の声が響き渡って。
「ふふ。ご飯がこんなに賑やかなんてねぇ……大勢で食事を囲むって初めてだけど、良いね」
 シキも折角だからと夕飯に参加を。人数が多くて大変だとは思っていたが、なんともこれは。
「っていうか、リアの所ってこんな大所帯だったんだな? しかも皆元気一杯じゃん」
 まぁ、なんというか。ねぇ……とリアは額を抑えてシラスに返答する。
 ……もし。もし自分も昔、こんな場所に拾われたら何か変わったろうか。
 雨の中で凍える夜を過ごす日が無ければ――いや。
「……意味のない空想、か」
 どうであれ今自分は生きて、此処に居るのだから。
「さ――! ところで伯爵この料理どうですか――ッ!」
 瞬間。シラスを尋常ならざる力で押しのけ素早く伯爵の横にくっ付いたのはルル家だ。
 目を金色のGOLDマークに輝かせ煌めくオーラと共に。
「正しく絶品ですね。これはシスターの事も考えられたのでしょう? 身体の中から温まるモノで構成されています……実に素晴らしい」
「そうでしょうお目が高い! 伯爵お抱えの料理人に比べれば劣るかも知れませんが中々と自負しております! つきましては超優良物件の拙者と生前贈与を前提に結婚……」

 その時。背筋に感じたのは恐怖。心臓を鷲掴みにされるような、絶対零度。

 それ以上言葉を弄してみろ――命はないと――
「はて、ルル家さん?」
「な、なんでもありません! このお話は無かった事に!」
 直感が告げていた。これ以上踏み込めば、死ぬと。
 跳躍一転。ご飯を食べ終わった子供達と共に奥へと逃げる。さすれば今日と言う日もついに終わりが来そうな事か。
「全く。今日は本当に世話になったね」
「……ちゃんと休んでてよ、シスター。
 もういい歳こいたババアなんだから、あんま心配かけんじゃねーわよ」
「なぁにお迎えなんてまだまださ」
 ババアと言うなとリアは鉄拳貰い。
 変わらぬ痛みに安堵する。それは彼女が健康である証でもあるのだから。
 空を見上げれば星が点々と。ああ、目まぐるしく過ぎ去った一日であったが――
「ふふ、私も今日は一日『楽しかった』よ! ――ありがとうね」
 何かあればまた呼んでほしいと、シキは言葉を紡ぎ上げる。

 夜の、眠るまで賑やかな――修道院を目にしながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ!

子供達に慕われるシスター・アザレアも、時々は疲れるもの……
皆さんの優しさでまた体力と元気を取り戻した事でしょう。
いつまでも元気で、平和な修道院であってほしいものです。

この度はありがとうございました!

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