PandoraPartyProject

シナリオ詳細

寒村に潜むgefährlich

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「やつらが国を統べるなど認めない」
「そうだ、我らこそ頂点へ立つに相応しい」
「だが各部族では数に負けるのも確か」

 鉄帝国北東部、ヴィーザル地方。貧しい大森林地帯が広がるこの地方には鉄帝の侵略を拒む3つの部族が存在していた。

 獰猛な戦闘民族であり、人間種や海種の多く見られる『ノルダイン』。
 勇猛果敢な高地部族であり、雷神の末裔を称している『ハイエスタ』。
 大森林地帯北部に住まう獣人族であり、悪知恵の働く『シルヴァンス』。

 彼らは揃いも揃って『鉄帝に侵略されてなるものか』とかの大国を突っぱねた。彼らからすれば鉄帝は侵略国。鉄帝は侵略国とすれば意外にも肝要な国体だと言うがそれはそれ。『侵略』という事自体が当事者たちにとっては既に深刻な問題だった。やがてその意思は絡み合い、1つの連合を結ぶに至る。
 その名も『連合王国ノーザン・キングス』。鉄帝国へと剣を取る者たちの勢力だった。



「……というわけでなァ、俺たちはあんなちっぽけな部族たちと戦わなきゃならんわけだ」
「はあ」
 目の前で訥々と話す鉄帝軍人にブラウ(p3n000090)は気のない返事をする。いやだって小一時間聞かされているんだぞこの話。
 この男はつい先日ヴィーザル地方対応へ配属されたらしく、これを閑職であると感じているらしい。もっと自らにはふさわしい戦場があるのだと。そのためにもさっさとおさらばしてやりたいところなのだが、それがそうもいかないと来た。
「シルヴァンスはなかなかにココが回る奴らでな」
 トントン、と自らの頭を指す男。脳みそ──悪知恵が働くと言ったところか。
「おかげで俺の部隊も負傷者続出だ。くそっ、あんな兵器なんぞなければこちらが圧勝だと言うのに」
 睨みつけられたブラウがぶるりと体を震わせる。ひよこを睨んでもかの敵は倒せないのだが、それを今この男に言うのは無粋というやつなのだろう。きっと。
「そ、それでイレギュラーズ、ですか」
「そうとも。やつらの兵器製作所を打ち壊し、その修繕をしている間にこちらが一門打尽という作戦だ!」
 どうだ! と言わんばかりに男がドヤ顔をする。彼なりに考えた結果と言うわけだ。
「敵の情報くらいは提供しよう。俺たちの方が交戦はこなしているからな」
「あ、助かります。僕はこの通り非力な身ですので」
 さもありなんと頷く男。彼も鉄帝の民だ、筋肉は備えている。その身を以てすれば30cm程度のひよこなど非力もいいところだ。
「ネコとウサギとキツネだ」
「は?」
「ネコとウサギとキツネだ。ああ、どいつも二足歩行だ」
「え?」
「何だ、他にもまだないのかって? 戦うのにこれだけあれば十分だろう」
 あと奴らの居場所くらいは教えてやる、とふんぞり返る男。
 ひよこは猛烈に心配になってきたのだった。



 一方、ヴィーザル地方北部。
「調子はどうニャ」
「万全だぜ」
「万全過ぎて何か起きないか心配だぜ」
 二足歩行するネコとウサギとキツネが顔を突き合わせていた。その背後には1つの小さな村──に見せかけた兵器製作所がある。
「あの能筋どもは暫く来れないはずニャ。いい実験させてもらったニャ」
 しししとあくどい笑みを浮かべるネコ。ウサギもうんうんとしたり顔で頷く。
「奴ら、自分たちの技術が盗まれたことにも気づいてねえからな。ま、放置してるんじゃしかたねえ」
 この技術を活用されなくて最も安心しているのはここにいる3匹だ。本当に鉄帝が──というかあの部隊を指揮している頭の脳みそが空っぽでよかった。
「だが安心するのは早いぜ。奴さんら、脳みそ空っぽと見せかけて何か仕掛けてくるかもしれん」
「あの真っすぐ突っ込むしか能のない奴らがニャ?」
「例え仕掛けてきたとしても、作ってるアレでこうよ」
 ウサギが首を掻っ切る真似をする。実験は終了した。あとは量産体制に入るのみだ──。

GMコメント

●成功条件
 兵器製作所の破壊

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。情報が鉄帝人からのものです。
 不測の事態を警戒してください。

●エネミー
・ネコ
 二足歩行するネコです。獣種であり、人間と同じような手足の起用さを持っています。
 エネミーの中のトップ、取りまとめ役です。
 命中に長けており、攻撃力は低いです。また、号令で味方の立て直しを図ることがあります。

引っ掻き:めっちゃ痛くないですか。痛い。【流血】

・ウサギ
 二足歩行するウサギです。獣種であり、人間と同じような手足の起用さを持っています。
 兵器担当です。技術を盗み出してきたのもこのウサギです。
 回避に長けており、防御技術は低めです。近接攻撃を行います。

キック!:ウサギの蹴りは強いらしいですね。【体勢不利】

・キツネ
 二足歩行するキツネです。獣種であり、人間と同じような手足の起用さを持っています。
 最も3匹の中で現実的で心配性。偵察や諜報に長けています。
 HPに自身があり、特殊抵抗は低めです。

化け狐:それは偽物さ!【狂気】

・手下×10
 3匹より一回り小さめなネコとウサギとキツネです。あまりバランスは偏っていませんが、それぞれの正確な数が把握できていません。
 鉄帝より盗んだ武器を手に襲い掛かってきます。

フルボッコ:とにかくやっちまえ! ボコスカ範囲攻撃です。【識別】【乱れ】【出血】

●フィールド
 1つの寒村です。パット見た限りは。少し離れたところに森がありますが、寒村までは多少の距離があるでしょう。
 寒村の中、ボロい家屋内では鉄帝から盗んだ知識をもとに兵器が生産されているようです。詳細はわかりませんが、男によると『突然辺りが爆発した』とのことでした。
 これをすべて破壊し、今後の生産を一時的にでも困難にすることがイレギュラーズへのオーダーです。

●ご挨拶
 愁と申します。ノーザンキングスです。
 敵は気づき次第イレギュラーズたちを追い出すように襲い掛かってきます。また兵器の実情が知られていません(というか鉄帝軍人の男は盗まれたことにも気づいていません)。注意してください。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 寒村に潜むgefährlich完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
紅華禰(p3p008277)

リプレイ


 件の寒村へ向かう道すがら、イレギュラーズは揃って深く重いため息をついた。その原因はもちろん依頼人である鉄帝軍人である。
「此の様に精度が低い依頼は初めてです」
「流石の鉄帝っていうか、なんていうかぁ……」
 『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は頭を抱えるゼファー(p3p007625)にこういうものなのか、と何とも言えない表情を隠せない。こんな国民性なのか、鉄帝。
 少しは周りを見て欲しいというゼファーの言葉に『荒熊』リズリー・クレイグ(p3p008130)は全くの同意見。鉄帝軍人は脳味噌まで筋肉で出来ていると聞いてはいたが、いよいよ否定もできない状態である。
(シルヴァンスは頭が回る方ではあるけれど、ねえ)
 賢きシルヴァンスと、筋肉で生きている鉄帝軍人。ここまでやり込めることができる──いや、今のリズリーの立場からすれば『やり込められてしまう』か──とは思わなかった。
「何とも間抜け……ああいや、油断も隙もない獣たちだ」
 紅華禰(p3p008277)はこの状況に肩を竦めるしかない。兵器を奪われ返り討ち。依頼人側の落ち度としか思えないが、下手に煽って依頼の取り下げでもされたら困る。イレギュラーズたちは既にオーダーを達成しようと現地へ向かっているのだ。
「しかし、あの文書管理能力はどうしたものでしょうか」
 こめかみに手を当てる『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。これから戦闘が待ち受けているだろうに頭が痛い。
 依頼人は兵器を奪われたことすら気づいていないようだし、与えられた情報は爆発物らしいことと二足歩行する動物たち──シルヴァンスの存在のみ。子供のお使いレベルである。
「ともかく某達は依頼を受けた身、悪事を働く者に制裁を与えなければのう」
 例えどちらが間抜けだろうと、依頼を持ち込んだのはその間抜けな方なのだから。紅華禰はすんと鼻を利かせながら森を進んでいた。遠く、微かに香る煙は依頼人たちが戦った後のものか、それとも。
「それにしても、厳寒地帯の寒村か……そこに住んでいるのかな」
 マルク・シリング(p3p001309)はファミリアーの視界を借りながら、自らの故郷に思いを馳せる。それは鉄帝の北ではなく、幻想と鉄帝の国境にほど近い場所であったが──そっくりだ、と思わざるを得ない。既にあそこは廃村となってしまった。
(住んでいるとしたら、同じように……)
 理由は違えども、恐らくは誰も残ることはないだろう。
 イレギュラーズの頭上を、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の放ったカラスが飛んでいく。森の上空を、そしてその先にある寒村の上空を。獣人たちも寒村に箱詰め状態とないかないはずだ、と往来するルートも探す。
「パッと見たところ、罠らしいものはなさそうだけれど……」
 視界を共有するイナリは小さく眉を寄せる。罠どころか『何もない』と言うべきか。大砲らしきものも、擬態できるようなものですら見当たらない。隠せそうな建物はいくつかあるが、入口が狭そうだ。
(突然地面が爆発するような武器なら、砲撃かと思ったのだけれど……それなら、地雷かしらね?)
 地雷ならばいくら上空から見ようとも徒労に終わる。いや、砲撃でないと知れたことはひとつの収穫か。
「この辺りにも罠はないようです」
 未散も、そしてゼファーも。寒村の手前となる森を見渡すが、罠ひとつ見つからない。相手が引っかからないようなヒトの高さにすら仕掛けられていないのだ。
(首を掻かれる事は無さそうでしょうか)
 恐らくは──寒村の住民に害意がない事を示す、いやそう見せかけるためだ。予め罠を張っておこうものならば、寒村には近づかれたくない理由があるのだと勘付かれてしまうかもしれない。本来であればきっと見向きもされない場所なのだろう。
「……ああ、ここみたいだ」
 マルクは獣人らしき足跡の残る道へ出て、少しばかり安堵を滲ませる。決して油断はできないが、これから先の道もここを往けばより安全だろう。
「罠がないなら好都合。後方の火薬頭へ火が付く前に済ませるとしましょう!」
 後方の火薬頭──依頼人である鉄帝軍人をそう表した『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)。彼の言葉に一同は頷き、罠がないか引き続き警戒しながらも歩調を強めた。



 ──キツネ、調子はどうニャ?
 ──鳥が飛んでるぜ。あれはここらじゃ見かけん種類だ。

 ──鳥? 鳥のブルーブラッドじゃなくて?
 ──あー……ありゃあタダの鳥だ。ブルーブラッドにしちゃ小さすぎる。

 ──怪しいニャア。けれど、怪しい以上にはならないニャ。警戒はしておくニャよ。

 ──ウサギ、兵器の調子は?
 ──順調、と言いてえところだがそうでもない。運び方が問題だ。
 ──上から押さえようもんなら、味方諸共あの世行き。怖くてちびりそうだぜ。

 ──やめてくれニャ、ガキでもあるまいし。

 ──ではキツネ、引き続き周囲の警戒を。ウサギは監督をよろしくニャ。運び方は考えておくのニャ。



 森が切り開ける手前、イレギュラーズたちは木立に隠れながら寒村の方を見やる。少しばかり距離があり、人影などは良く見えないが──いや、1人だけ見えるか。
「獣の姿はあまり見られないようだ」
 紅華禰は優れた視力で寒村の入り口まで見通す。ここまで距離があるとは思わなかったが、やはりやり過ぎに越したことはない。
「今の処は、罠の類も」
 未散は見える範囲で罠を探すが、やはりここにもないらしい。あるのはぽつり、ぽつりと辛うじて建っているような小さい廃墟ばかりだ。寒村は更にその先である。
(もしかして、本来ならこの辺りも村だったのだろうか)
 マルクは想像する。あれらの廃墟が民家として建っている様を。空いている土地には畑や田があり、寒さに強い植物が風に揺れる様を。
 全ては想像かもしれないが可能性のひとつだ。縮小していった果てこそがあの寒村なのかもしれない。
 廃墟には武器らしい武器も爆発物らしい何かも見つからない。ならば進むしかないと一同は森を抜ける。途中には実験の痕だろうか、陥没した地面と金属破片、石などが転がり落ちていた。
「埋設式の爆弾みたいですねえ」
 ゼファーが視線を向ける。その他に不自然な土のふくらみはなさそうだが、より気を付けて見た方が良さそうだ。
「あまり大きな爆発ではない様ですが、過信も禁物──」
「キツネだ」
 未散の言葉にかぶさったリズリーの言葉。その間にも小柄な影は廃墟の影に隠れ、よくよく見れば死角となる場所から寒村へと向かっていく。
 一同は瞬時にピンと糸を張ったような警戒態勢を取った。あのキツネが寒村へ辿り着くと同時、いやそれより早く向かって畳みかけることもできた。しかしこの地雷が踏めば瞬時に爆発するものなのか、それとも敵がスイッチを握っているのかもわからない。そして遠隔操作型だった場合、発動する前の罠が罠対処の勘に引っかかるのかどうかもまた然り。
 もはやさほど遠くもなかった寒村から、わらわらと動物の影が出て来る。一体どれだけの数が姿を隠していたのか。
「──僕の出番ですね」
 仲間たちの中心にいた幻が動き出す。それは風のよう──いや、一瞬のまぼろしのような軽やかさと共に。後に続いたリズリーが思いのままに敵陣へ突っ込み暴れだす。
「なんニャこの女!」
「皆でボコボコに──」
 吸い寄せられるがままリズリーへ攻撃の手が向く中、ゼファーの名乗り口上がそれらを乱す。特にキツネの群れは顕著に彼女へ向いた。
「あの女が先だ!」
「先だ!」
「倒せ! 我らの未来のために!」
 人数差を考えれば袋叩きという表現が正しい。しかしその表現をするにはゼファーの傷はあまりにも浅かった。そしてゼファーに引き寄せられなかった者たちは弱き者を見定めんと向かってくるイレギュラーズを観察している。
(鉄帝もこれくらい判断できれば良いんですけれど)
 きっとできない、できてもしないだろう。彼らは最終的な勝利こそ求めるが、結局力の誇示がしたいのである。まあ、今回もそのおかげで仕事が回ってきたのだが。
 こちらを見定めてきた──と未散は動き始めた敵を見て、悪意の花を相手の元へ散らす。花弁は霧散し、有害なる霧へ。
 紅華禰はネコの元へ駆けながら妖刀をすらりと抜く。他の種には変哲もないただの刀にしか見えないだろうが───。
「──惑い蕩け、木天蓼の錆となれ」
「そ、それは……!」
 リーダーたるネコは戦慄した様子を見せる。どうやら何か知っているらしい。ネコが「おい、まずはあのネコ娘が先ニャ!」と号令をかける。そこをイナリの斬撃が襲い掛かった。はっとそちらを見たネコは、遥か遠くにいるイナリに驚愕の眼差しを向ける。今のは確かに刃を感じた。そう、至近距離──せめて近距離ほどにいなければならないはずだ。しかしイナリは動くタイミングすらなかったというのに後方で剣を構えている。
 嗚呼、これはあの鉄帝と比にならない。嗚呼、何だこいつらは!!
 マルクは味方の危機を打ち払い、その傷を癒していく。彼を守るように立ちはだかりながらカンベエは叫んだ。
「頭が働くなら鉄帝と戦う以外の方法を考えてみろ!

 確かに! 結構! かなり! アレな国だが!」

 アレな国である。それはシルヴァンスもイレギュラーズですらも疑いようがない。だがそればかりでないことも事実だ。力こそ全てという鉄帝の側面だけを見て、憎むだけでは破滅の道しか残されない。
 幻が近づいては離れ、その一瞬の間に奇術を魅せて敵を翻弄する。引き付けなおしたゼファーは雷鳴が轟くような一線を放ち、ひっかき傷を作りながらも小さなネコたちを屠っていった。
「まだだ。まだ──倒れぬぞ!」
 紅華禰は自らへ吸い込まれそうな敵の爪を受けながらも木天蓼でネコを切る。ぐらりと崩れ落ちかけた体は、しかし刀を支えに立ち上がった。
 マルクの分析によって流れる血は止まり、崩れかけていた体勢は戻る。カンベエは変わらず味方への注意が漏れた敵の攻撃を彼に代わって受け、名乗り口上でこれ以上分散しないようにと引き付けた。そこを一網打尽にせんとイナリの迦具土連砲が一直線に焼き払っていく。
(ウサギとはちょっとばかし相性が悪いねえ)
 ひょいひょいと身軽な相手は面倒だ、とリズリーは軽く眉を寄せた。先に小さなネコたちを殲滅させてしまった方がよさそうだ、と暴れ熊の如く大戦斧を振り回す。
「戦いの多い場であれば、怨霊の1人もいるでしょう」
 未散の声が邪悪に染まった怨霊を顕現させ、彼女の指令のままに敵へと執拗に襲い掛かった。兵器を作り出したウサギはゼファーへの注意が逸れ、敗北の色が濃いことに気づく。
(これはまずい、まずいぜキツネ!)
 身を翻し撤退を扇動しようとしたウサギは、目の前に現れた麗人にぎょっとする。さっきまでかなり遠くにいたはずなのに。
「逃がしはしませんよ」
 さあ、ご覧あれ──奇術『昼想夜夢』。
 青き蝶が飛び回り、ウサギへ想い人の夢を見せる。作戦のため遠く離れる事となったヒト、いやウサギの姿だ。
 ああ、なぜここにいるんだ。いいやそれは良い、お前は無事だろうか──。
 現実と夢が混濁したウサギへ、ゼファーは無情に槍を振る。速く、鋭く。切り裂いた空も嘶くほどの一閃を。
 どう、とウサギの体が地に伏して。キツネははっと辺りを見回す。いるのは体力自慢なばかりのキツネが多く、さらに言えば共に計画を進めていたネコとウサギは気を失って倒れているではないか。
「くそっ、撤退! 撤退だ!」
 キツネが残った手下へと声を上げる。まとめ役たるネコが倒され、主力部を担うウサギが倒され。臆病な自分に指揮ができるわけもないが、臆病が故に『生』の貪欲さは随一だった。
 そんなキツネの背後を幻が素早く取り、逃がさない。しかしキツネの声に従って寒村の奥──村を抜けて更に先へと逃げていく小さき部下たちを、イレギュラーズは多少の追撃こそすれ追いかけはしなかった。
 彼らの殲滅はオーダーに含まれておらず、むしろこれから予定している建物の破壊という作業を考えれば立ち去ってもらう方が被害も少なく好都合だった。
「慎重に解除して、バラバラにしてしまいましょう」
 未散の言葉に一同は頷き、寒村の建物を調べるため散開する。紅華禰が踏み入った建物はどうやら兵器のガワを作っていた場所らしい。
(火薬庫とか存在していたら大惨事ね)
 どこかにはあるはずだ、とイナリは順番に建物を見回っていく。危険物が無いのであれば迦具土神の炎で全て燃やし尽くしてしまおう。
 一方のカンベエは、何もない『ように見える』室内をぐるりと見回す。何も無いわけがない、ここまでしっかりと建てられた場所ならば居住区──あるいはそう見せかけた隠し倉庫とか。決して多くない建物を無駄にするとも思えなかった。
「ワシなら武器や隠し戸……この辺りに隠しますが、どれ」
 ひょいと覗き込んだカンベエはにんまりと笑う。大当たりだ。しかし先ほどの使用方法を見る限り、どこかへ移動させるのは大きな危険を伴うだろう。この建物自体を倒壊させ、その重圧で自爆してもらうか。もしくは仲間に報告して安全な距離から爆破してもらう、ないしは解除してもらうか。
 さっさと終わらせて帰らねば、置いてきた火薬頭が代わりに爆発してしまうだろう。
 さてどうしたものか。そういえばとカンベエは懐から手頃な石を取り出した。変哲もないただの石だが、これは道中で拾った爆発物の欠片である。程よく重く、投げて当たれば十分な重さとみなされるかもしれない。
 安全な距離まで後退し、カンベエはそれを地雷めがけて勢い良く投げた!
 コンッと子気味良い音に次いで爆発音が響き、建物がミシミシときしむ。服のたもとで口元を覆ったカンベエは爆発による風を背中に受けながら外へと脱出した。
 マルクもまた、大量に作られていた地雷もろとも建物を潰す。かなりの距離を取ったはずだが、風が流れてくるということは相当の火薬を仕込んでいたのだろう。
 これを使いこなせれば、間違いなくシルヴァンスは鉄帝軍人へひと泡吹かせられた。一矢報いることも容易だっただろう。
(……でも。そんな風に戦争を続けるから、貧しいままなんじゃないのか)
 戦うことでしか、争うことでしか路を切り開こうとしない。その余波を受けて餓死していくのはいつだって……そのような力を持たない、弱き者たちだというのに。
「さてさて──捕まえたあんたらの処遇だけれど」
 リズリーはお縄についたネコとウサギ、キツネを見下ろす。彼らもまたリズリーを見上げていた。
 この女傑をどこかで見なかったか。いや、聞きはしなかったか。『蛮愚部亜(ばぐべあ)』という山賊団の元頭領にして、荒熊たる異名持ちを。
 けれども。
「……今のあたしは『ローレットの』リズリーだからね。手心は期待しないでおくれ」
 彼女は小さく目を細める。あの頃を知っていようとなかろうと、今のリズリーを表す言葉はローレット所属、あるいはイレギュラーズ。私情など挟むものか。

 そして幻は1人、ひときわ大きい建物の中にいた。その手に握っているのはデスクへ広げられていた書類──兵器の設計書。盗まれたことにも気づいていないのなら渡したところでどうにもならないだろうが、それでもあるべき場所へ返すべきだろう。
(……本来、僕が口を出すのも憚られるのですが)
 幻はつと目を伏せる。鉄帝の現状はあまりにもひどいのではないか。『あの程度』が鉄帝軍人なのか。力こそ強いのかもしれないが、本当にそれだけではないか。
 国分裂の危機も良く理解していないのだろう。ノーザンキングスの方がよほど鉄帝より国らしい。このまま甘く見ているのならば彼らは遠くない内、痛い目を見ることになる。
(今回は鉄帝に味方致しましたが──)

 ──さて。次はどちらにつきましょうか?

成否

成功

MVP

マルク・シリング(p3p001309)
軍師

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 鉄帝軍人がポンコツ過ぎ問題。もうちょっとまともな人材を派遣してほしいものですね?

 それでは、またのご縁をお待ちしています。

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