シナリオ詳細
50ctの奇蹟。
オープニング
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人は其れを、呪われた奇蹟の石と呼ぶ。
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「貴方の故郷の御話を、聞かせてよ」
無色透明の美しいグラスに淹れられた蒼色のハーブティーを一口啜ると、リア・クォーツ (p3p004937)が唐突に呟いた。
テーブル越しに椅子に座っているシキ・ナイトアッシュ (p3p000229)は「故郷?」と首を傾げると、澄み渡った海の様に繊麗な瞳でリアを見詰める。
「赤茶色の大地が見渡す限り広がる、何にも無いところだったかな……。
あと、本だけはいっぱい在ったかな」
シキもリアと同じ色のハーブティーを一口啜ると「だから、おっきな森とか、海とか、砂漠とか。《混沌》に来て初めて見たから、全部新鮮だねぇ」と感慨深げに続けた。
「へ~、そうなんだ! あたしにはなかなか想像がつき難いけれど……。
砂漠がある事を除けば、《傭兵》(ラサ傭兵商会連合)と似たような所かもしれないわね、そこ」
「へぇ。それはとても興味深いね。俄然、行ってみたくなったよ」
シキがハーブティーを飲み干し、宝石の様な瞳を輝かせへらりと笑みを浮かべてそう言うと、リアの頭上で漫画ちっくに電球に光が灯り、何かを閃いた。
「ふふ、それなら話は早いわ!
――今からローレットへ行って、ラサ行きの任務を探しましょ!」
●
――五十カラットの奇蹟。
人々はその宝石の事を、敬意と畏怖の念を込めてそう呼ぶ。
採掘確率、一億分の一。
曰く、神験の結晶。
視る者すべてを蠱惑する貴石。
――“碧瑠璃のジェレメジェバイト”。
嘗てラサで採取されたと云うその宝石は、それが有する極めて高い稀少性が故に、渡り往く所有者達へ数多の災厄を齎してきたことから、“調伏の石”とも呼ばれている。
その価値と曰くは格好の取引の種となり、その後、《混沌》内各国の有力者達が挙って求め合った。
現在は、ラサの上得意でもある《幻想》(レガド・イルシオン)のとある貴族が所有している。
……正確には、“所有していた”。
“調伏の石”が有する絶望的な誘惑は、人の道徳などいとも容易く瓦解させてしまう。
碧瑠璃のジェレメジェバイトの最新の所有者も、嘗ての履歴に漏れず、厳重な警備を掻い潜った強盗に惨殺されてしまったのだ。
――それがつい三日前。何とか碧瑠璃のジェレメジェバイト自体の流出は免れたそうだが、“曰く”を目の当たりにした上位の所轄貴族はその宝石との関りを忌避し、その後紆余曲折を経て、結局はラサへと返還されることになった――。
●
ちちち、と可愛らしい声と共に、ルリビタキが泪 (p3p008278)の肩で鳴いた。常時泣き出しそうな表情の可憐な泪の相貌も、彼と触れ合う時だけは少し穏やかになる。
「……先輩、もうそろそろ目的の都でしょうか?」
ふと泪が隣に座るシキに尋ねると、彼女も「うーん」と唸りながら視線を移ろわせ、赤茶色の髪の小柄な少年に焦点を定めた。
「少年、ちょっと外を確認してくれるかい?」
「……だーかーら、“少年”じゃなくて“サンディ”だっつーの!
しかも、大怪盗の俺が何でそんな雑用みたいなことを……」
サンディ・カルタ (p3p000438)が頬を膨らませてぶつぶつと小言を呟いていると、
「え~、一緒に“盗賊擬き”を処理して、“デート”までした仲じゃないか。
少しぐらいお願いを聞いてくれたって良いだろう?」
「――――な」
へらりと蠱惑的な笑みを浮かべたシキの言葉にサンディが思わず絶句する。
「え? 何、その面白そうな話?」
リアがそれを根掘り葉掘りせんとばかりににょきっと首を出すと、慌ててサンディが立ち上がる。
「……お、俺、外を見てくるから!」
どたばたと外に出ていったサンディの背中を見詰め「ち、行っちゃったか。今度また頭でも撫でてあげよ。面白そうだし」とリアが呟く。
……彼女達は今、大きな幌馬車の中で心地よい振動に揺られ、ラサのとある都を目指していた。
時刻はちょうど陽が落ちた頃で、辺りは紫紺の夕焼けに包まれ始めている。
「好ましい反応で御座いますね」
その様子を眺めていた夜乃 幻 (p3p000824)がぽつりとよく通る綺麗な声で呟き、手慰みにタロットを手中で玩ぶと、現れたのは逆位置の奇術師。
「それにしても、本当におっきくてきれいな宝石だよね、これ!
かけらでもいいから、ボクにも分けてくれないかな~」
炎堂 焔 (p3p004727)が幌の中心に置かれている荘厳な“箱”を眺めながらそう言うと、耳をぴょこぴょこと揺らした。その箱の中には、碧瑠璃のジェレメジェバイトが格納されている。今はもうその“奇蹟”の姿を拝むことはできない。
「手を出しては駄目で御座いますよ。僕達は護る立場ですから」
「わかってるんだけどさ~!」
幻がくすりと冗談気に窘める。それに焔がだらんと床に脱力しながら返すと「本当にわかっているのか?」と錫蘭 ルフナ (p3p004350)が呆れたように云った。
「しかし、人間と云うのは浅はかなものだよね。稀少とは云え、只の石に狂ってしまうのだから」
「何時の時代、何処の国でも、同じようなものだ」
ルフナの横で目を閉じ、胡坐を掻いていたクライム (p3p006190)が静かに返した。
「だから剣客という生き方が成り立つ。私も、やっていることは今も昔も変わらんな」
傍らに立てかけた剣を撫ぜながらクライムが続けると「ふーん、そういうものなんだ」とルフナは呟いた。
馬車は昏い砂漠を往く。目的の都へと向かって――。
●
――大きなリスクを背負って幻想の貴族を殺した“彼ら”は、しかし《ターゲット》(碧瑠璃のジェレメジェバイト)を奪い損ねた所為で、組織の中での立ち位置を極めて危うくさせてしまった。
だから、彼らは為さねばならない。
傾き切った天秤を揺り戻さなければならない。
「油断するなよ。俺達に次のチャンスはない」
リーダーのギヨの言葉に、周囲の男達が無言で頷く。
その視線の先には、一台の大きな幌馬車。
調伏の石――五十カラットの奇蹟。
その災厄は、特異運命座標と荒くれの盗賊――、何方に降り掛かるのか?
- 50ctの奇蹟。完了
- GM名いかるが
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月22日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談11日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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(ふふ、ラサ楽しみだな~。奇麗なものや面白いものはあるかな?
……私の故郷の景色はあるかな)
『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が興味深そうに/無感情そうに、幌の外を覗く。
“楽しみだ”と形容した彼女の心底は、恐らく、本人以外の誰も知り得ぬだろう。
もしかすると、シキ自身でさえ、ただしく理解できていないかもしれない。
だが、その景色を見てみたいという気持ちは、嘘偽りのないものであろう。
人は異郷に生れ落ちる。
生きることは故郷を求めることだ。……そう謳ったのは、何処の世界の、誰なのか。
「ほんとのこと言うと、ラサって、昼が暑いからあんま好きじゃないのよね。
あたし、こんな修道服なんて着てるからホント暑くて……」
シキの横で『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)が自身の服を見下ろしながら呟くと、「だけど」と続ける。
「今日みたいな、こんな夜は好きよ。星空が、すごく綺麗に見えるもの。
――シキ、貴女の故郷もきっとこれくらい綺麗なのでしょうね」
リアの言葉にシキが頷く。
「そうだね。なんだか、少し懐かしい気分だよ。
でも、堪能する前にきっちり仕事をしなくちゃねぇ。
……ふふ。曰くつきの宝石とは、なんだか親近感というか、興味をそそるよね」
シキの視線が荘厳な箱へと移る。そこには、『碧瑠璃のジェレメジェバイト』が格納されている。
(美しい宝石で御座いました。
ですが、宝石が美しいことと、宝石の奪い合いで人が死ぬことに何の因果が御座いましょう)
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が手元の箱を見遣り、その貴石の評価を内心で憂う。
(況やそれを呪いなどと呼ぶとは笑止千万。
人の欲を宝石になすりつけるなんて、愚劣と言わざるを得ません)
幻がステッキを振るうと、本物と瓜一つの箱が現れる。
「お、サンキュー。俺は適当に、手元らへんにダミーを持っておこうかな」
『意志の剣』サンディ・カルタ(p3p000438)は幻がギフト/胡蝶の夢で現出させた箱を興味深そうに触りながら言った。
「承知しました。
それでは、途中で消えぬよう、継続してサンディ様のお手元に具現化しましょう」
「ふ、宝石の似合う男……。
まぁ、でも、あれだよな。大怪盗の標的と言えばやっぱ宝石だもんな!」
サンディがそう言って満更でもない様子で箱を持ち上げると、少し離れたリアがにょきっと顔を向ける。
「ん? 何か言った? 宝石が似合うとかなんとか……」
「う……! い、いや、何にも。きょ、今日は風が強いぜ!」
リアの知ってて詰めてくる感じの振りに、サンディは思わず話を逸らす。
「ごたごたに紛れて盗んだりしたら、駄目だよー少年?」
「いやいやいや、今奪うとか、そーゆーのじゃなくてな?!」
にへらと嗤いながらシキが追撃すると、サンディはいそいそと隅っこに退避していった。最近集中砲火を浴び気味だった(この二人から)。
「いくら綺麗でも石は石でしょ?
食べられないし、重いし、……“こんな危険”を呼び込むし!
やっぱり、人の価値観ってのは難しいものだね」
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が呆れたように幻の抱える箱を人差し指でつつく。
彼の言う“こんな危険”とは――。
「はっくしゅん! うー、夜はだいぶ冷えるねー」
「ああ、ホラ、夜の砂漠は氷点下まで冷え込むんだ。女の子はしっかり着込んでおきなね」
リアの言った昼の蒸し暑さとは打って変わった気温に、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が思わずくしゃみをすると、ルフナが毛布を一枚かける。
「ありがと! まあ、自分で火を灯せって話なんだけどね……」
「どういたしまして。
……さて、僕は天幕の上にでも登って、周囲を警戒しておくかな」
ルフナはそう言って立ち上がると、座禅を組み瞑想しているクライム(p3p006190)の隣を通って幌の外へ出る。
焔が幻の持つ宝石箱を眺めながら、小さく頬を膨らませた。
「それにしても、確かにすっごく綺麗な宝石だったけど、そのために人を沢山殺すような人達には“お仕置き”だよ!」
焔が室内の火を少し強め暖をとる。気合は十分のようだ。
(うっ……見てよルリ。
僕の目が潰れんばかりの輝きを放つ先輩たちを……)
一方、泪(p3p008278)は同行するイレギュラーズ達の雰囲気にのまれ、既に涙を零していた。
(場違い感ハンパない……。
けどラサってところ楽しみだし……がんばろうね……うう……)
そう内心で切り替えた泪は、相棒のルリビタキ――ルリを幌の外へと放つ。
焔も同様に、旅の途中に発見した鳥を使役し、周囲を警戒に当たらせている。
……そう、イレギュラーズ達は既に、知っている。
(まぁ、災厄も何もかも全て斬り捨てて、無事に送り届けてみせるさ)
シキはユ・ヴェーレンの柄を握る掌に、力を籠めた。
幻が虚仮下したように、今宵。
……貴石の魅力に導かれた望まれざる客が、近づいてきていることを、感じ取っていた。
●
「……」
クライムが突然、瞼をあけたのと、リアがシキとのお喋りを唐突に止めたのは同時だった。
「――来るわ」
リアが呟き、敵の気配に立ち上がった直後、焔と泪が放っていた鳥たちも大きくはためきながら幌へと帰ってくる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛先輩たち敵ぃ! 敵ぃ!」
「出来れば目的地までのんびり馬車の旅が出来ればよかったんだけど、やっぱりそうはいかないよね!
……って、涙くんは落ち着いて!」
盗賊の襲撃が間近に迫った事実に咽ぶ泪を、焔が頭を撫でて宥める。
「……」
俄かに騒がしくなってきた幌の上では、ルフナが目を細め周囲を窺う。彼の横のサンディも同じく辺りを見渡すが、首を捻る。
「リアのギフトには反応してんのに……俺のエネミーサーチには掛かんないぞ」
「ファミリアーもいまいちみたい! 近づいてきてるのは確かなんだけど」
幌の下から、焔が首を傾げながらサンディに返す。リアも無言で首を傾げた。
三人の様子を窺っていた幻は口持ちに手を遣り瞬間、思案すると、
「索敵は無効化されているのに、リア様のギフトは効いている。
……ステルス、ですか」
ぽつりとそう呟く。その仮説に、クライムが横で無言で頷いた。
「少しは頭の回る相手みたいね」
リアがそう言って肩を慣らすと、シキが「でも」と続ける。
「裏を返せば、“リアのギフトは想定外”である可能性が高い、よねえ」
「ああ。いずれにせよ、“俺達に反撃の準備がある”とは考えていないだろう」
クライムがシキの言に首肯し、剣を手に取る。
「それじゃあ、そろそろ始める?」
ぴょこと天幕の上から顔を出して言ったルフナに、「そうですね」と幻が頷くと、他のイレギュラーズも首肯した。
リアがまず天幕上へと移動し、ルフナとサンディは入れ替わるように幌の中へ戻る。
「さあて、まずは……」
リアは目を瞑り、音の感覚を研ぎ澄ます。
敵は――――。
「――御機嫌よう。綺麗な夜ですね」
リアの口元に湛えられた微笑。
その瞳が開くと、構えた長剣の先から現出するヴァイオリン。
音はいつも、リアと共にある。
そして音は、彼女の――《能力》(ちから)だ。
「《堕ちろ》(降れ)、《八芒星の元に》(オクタグラム)――!」
リアが長剣を弓の様にしてヴァイオリンに宛がうと、現出する八芒星。
そして、そこから放たれる……眩い星のような軌跡。
「う……ぐおっ!」
そして、その軌跡が収束する地点には……、盗賊が居た。
どうやら不意打ちに近い形で被弾したようだ。
「二時の方向に敵だ!」
リアが固定砲台と化した隙に、耳を澄ましていたサンディが敵の位置に目星をつける。
「よーし! それじゃあ始めるよー!」
待ってましたとばかりに焔が、道中かき集めていた石にギフト/神炎で火を灯すと、幌の周辺へとばら撒く。……すると、瞬く間に、失われていた視界が復活していく。
続けて、カグツチを振るい炎の斬撃を飛ばすと、周囲に近づいてきていた盗賊達が足を止める。……リアと焔の牽制が有効に機能し、敵は思い通りに近寄れない様子だ。
「ひぃぃっ! せんぱぁい! はじまっちゃった~ううう!」
「泪様は“これ”を持って、後方支援をお願いしますね」
号泣する泪に、幻がダミーの宝石箱を渡す。
「ふふ、それじゃあ私は行ってくるから。背中は任せたよ」
「うう、不安すぎるよぅ……!」
シキとクライムが泪の肩を叩き、幌の外へと駆けだす。
「……しかし、間抜けな強盗で御座いますね。
肝心の宝石を盗めず、殺しだけするなど。
命の無駄遣いとは正にこのことで御座いますね」
幻はダミーの宝石箱をシルクハットの中へと隠しながら呆れたように言うと、ルフナが「ほんとだよね」と返す。
「じゃ、僕も前に出るよ。同じく、背中は任せたからね」
「僕は、自分の身は自分で守りますよ」
「ふええ人がどんどん減っていく~!」
ルフナがシキとクライムの背を追うように飛び出すと、幻も外へ出ていく。残された泪は涙目になりながら、マギシュートを放つ。
「う、ぐああ……!」
……そしてそれが命中するあたり、泪は“持っている”のかもしれない。
「サンキュー、泪! そんじゃ、俺もいっちょ暴れるぜ!」
サンディが泪にウインクすると、すぐに盗賊達を視界に入れる。
「お前らの気持ち、俺には分からないでもないけどさ……」
サンディも“盗賊”上がりの少年だ。彼らの動機は理解できぬわけでもない。
「でも、盗賊に二回目はないもんだぜ!
――さあ、こいつが“お宝”だ!」
サンディがダミーの宝石箱を掲げて盗賊達の気を惹く。
「――相変わらず元気だねえ、少年は」
シキがにへらと嗤いながら視線を“一際後方で佇む男”に切り替える。
後方からはリア、泪、焔たちの援護を受け、会敵する敵をそこそこにやり過ごし、シキは敵陣を斬り進む。
「お前たちの事情は知らん、これも仕事だ」
シキとバディを組むクライムもそう吐き棄て、敵のリーダー、ギヨを目掛けて駆ける。
「ふふ、倒れないでおくれよ。私の唯一?」
「……誰に向かって言っている」
クライムは刀身に塗っていた油に、火をつける。ギヨはもう目の前であった。
●
「まったく、みんな無茶するね……!」
乱戦模様を呈する中で、ルフナは高い防御力と療術を両立した万能型の性能を活かし、冷静に場を整えていく。
「マナよ――力を貸してくれ……!」
彼が強く祈れば、その身からは薄緑色の風が周囲へと溢れ出す。放たれた強力な『澱の森』の魔力は仲間たちの傷を癒し、そして、彼らに活力すら注ぎ込んでいく……!
「私も暴れるよ!」
牽制に動いていた焔も前衛へと加わる。頭上には数多の流れ星が――リアが放つ魔術が、まるで彗星の様に輝いている。
「ふふ――、塵にしてあげるわ!」
「ううう、上から凄い音がしてるんだけどぉ……!」
……正しく砲台となったリア。こんなものが後衛からドンパチしてくれば、盗賊達でなくともひとたまりも無いだろう。そして、泪の放つ魔弾も敵を打倒するに十分な威力を有していた。
(この人達って盗賊団の一部なんだよね?
色々聞けるかもしれないし何人か生かして捕まえておいた方がいいかな?)
焔がカグツチを振るうと、現出したのは札……それは敵目掛けて飛び出すと、焼かぬ炎で以てその身を縛り上げた。
「ぐう、く、くそ……!」
「ふふ、あとでいろいろとお話し聞かせてもらうからね?」
焔が不敵にほほ笑むと、周囲では敵の盗賊の困惑の声が上がっている。
「宝石箱が何個もあるぞ?! どういうことだ!」
「ダミーだ! くそ、どれを狙えばいい?!」
サンディのダミーに加え、幻が隠しているものに、幌からちらちら見える泪のもの。盗賊達は見事にその攪乱に影響されていた。
「真贋を見抜く眼も無いのに、宝石強盗とは……。ほとほと哀れな方々ですね」
冷たいまなざしの幻から放たれる蝶の群れが、敵を覆い尽くす。
そして、
「――っ!」
シキがギヨの眼前へと躍り出る。
「あいにく、斬ることしか能がないもので。ごめんね。
ほらだって私……“処刑人”だもんさ?」
ユ・ヴェーレンが振り下ろされるとそれは、途轍もなく重い一撃。それを何とか受けたギヨは、しかし、受けるだけで精一杯で――。
「――散るがいい」
クライムが抜刀する――それは高速の斬撃で。
「か……はぁ……っ!」
ギヨは自身が斬られたことに気づく間もなく、血を噴出し倒れた。
「さあ、頭は倒れたぜ! それでも続けるってんなら、俺がまだまだ相手してやるけどな!」
サンディが大立ち回りを行いながら盗賊達に告げる。
幾らか戦意を喪失した盗賊達は、何名かが戦線を離脱し、残る何名かはそれでもサンディらへと果敢に攻め込んだ。
(……盗賊さんたちもその情熱を違うところにぶつけられたらいいのに……。
それが出来ない境遇ってどんなだろ……ふええええ可哀そう)
盗賊達のその姿に、泪は本日もう数え切れない涙を零したのだった。
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――その後、盗賊達を無事退けたイレギュラーズ一行は、ラサの都を散策していた。
「へぇ、ここがラサかぁ! 砂漠は見慣れないけど、確かに少し故郷に似てるね」
きょろきょろと辺りを見渡すシキ。リアの言った通り、やはりこの辺りは彼女の故郷と似ている様子であった。
「シキの故郷は、ここと景色が似ているの?」
ルフナがシキに問いかける。
「うん。でもまあ、故郷よりは遥かに色々あって、見慣れないものばかりだけどねえ」
「そっか。それなら、晴れた空が綺麗なところなのだろうね」
「確かに、空は綺麗だったかな。何せ、なにもないところだから」
ルフナの質問にシキがにへらと笑って答えると、焔が先頭で元気よく手を挙げる。
「折角だし、皆でお店とかを色々見て回ろうよ!
ラサは商人さんも多いから、面白いものとか変なものとかもいっぱいあるから見てるだけでも楽しいしね~。商売上手な人も多いから、ついついいらないものまで買っちゃわないように注意も必要だけど!」
「そうだね。どうせならシキが故郷を偲べるような土産物を見繕えればいいんだけど、何かあるかなあ……」
焔の提案にルフナは首肯して考え込む。その後ろでは泪がげっそりした顔でとぼとぼと後をついてきていた。
「大丈夫ですか? お水でも飲まれますか?」
幻が泪の背を擦りながら気遣うと「うん、もらうよ……」と生返事が返ってくる。
「こういう生活をずっとしてるわけですね先輩たちは……。
た、耐えられるだろうか僕……ぐすん……」
「とか言いながら、私と同じくらい砲台やってましたけどね、泪さん」
リアがさらっと言うと「役に立てていたなら良いのですが」と泪は零した。
「あーでも俺は腹が減ったぜ。なんか面白いもん食べたりしたいよな」
無言のクライムの横でサンディがお腹を鳴らすとシキがくつくつと笑う。
「少年のリクエストにお応えして、まずはご飯を食べに行こっか」
「さんせー。生きた蠍はちょっとトラウマあるけど……」
そう言ってきょろきょろ辺りを見渡すサンディ。と、ある露店で視線を止め、近づくと、ひょいと“揚げた蠍”を手に取る。
「揚げてあればちょっと味見してみ……」
「「「……」」」
リアと焔と泪がサンディの様子を無言で見つめる。
「……あれ、これ食ったらドン引きの気配?」
「いや、私はむしろもっとやれって感じの意味で」
「そっちかよ!」
リアにつっこむサンディだが、その横で「蠍は食材としての歴史は古いですからね」「僕もイけるけどなあ」と幻とルフナが呟いていた。
各々が都を見回り、気づけばシキとクライムは二人で装飾細工の店へ来ていた。
「ふふ、この世界では“宝石”って言うんだよね。なんだか変な感じだ」
シキは宝石が加工された装飾を見ながら言う。それは、彼女たちの世界では“瞳”と呼ばれるものだった。
「私の“瞳”も、災厄を齎したりするのかな? どうだろう、私の唯一~」
話を振られたクライムは、少しだけ表情を険しくする。
「俺としては災厄だの運命だのということはどうでもいいし、石ころなんて興味もない。
……が、“その石にとって相応しい”という心掛けが奴らの運命を位置付けたのだろう。
幻の言う通り、それは石の本質ではなく、評価する人間の問題だな」
「あ、話を逸らした。でも興味深いねその話! 続けて続けて」
そう言ってにへらと笑ったシキに、クライムは頬を掻く。
「……何が正しくて正しくない、そんなものに正義も糞もないだろうが。
そういう事をしたらそういう風に返ってくる、それだけだったって事さ。
さて、《シキ》(おまえさん)はどんな運命をこの先歩むんだろうな……」
その言葉に、シキはただ口角だけを上げた。
――ただひたすらに、感情を殺し、罪人を処刑するだけの日々だった彼女には。
この“未知”は、まだすこし――眩しすぎる。
そんなシキの様子に、クライムは敢えて何も言わない。シキはクライムの腕をつつく。
「ふふ、そういうクライムはどうなのかな?」
「俺か? ……俺は」
クライムは、陽が昇り始めた透き通った空を見た。
「ただ悠久の空の様に、蒼く遠く……だな」
そのアクアマリン色をした空は美しく。
シキは思わず、その光に翳した。
――手元で淡く光る、《碧瑠璃のジェレメジェバイトの欠片》(奇跡のかけら)を。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
当シナリオのリクエスト、誠にありがとうございました。
宝石に纏わるOPを作成するにあたり、色々と宝石・鉱石の勉強をしました。貴金属や地学にあまり興味の無かった私ですが、勉強してみると存外に奥が深く、とても楽しくOPを作成させていただくことができました。
馬車の旅、戦闘、街の散策と、盛りだくさんのリプレイになってしまいました。皆さんとても生き生きとしたプレイングで、描写が楽しかったです。あとは、リアさんや幻さん、焔さんなど、皆さんのギフトが非常に効果的に活かされていたと思います。ダミーを作る発想はなるほどなあと唸りました。
特に優れたプレイング内容のPC様にMVPを差し上げます。
また盗賊を退けたうえ、一部を生け捕りにし、その組織的な動きを解明した皆様の仕事ぶりを、《傭兵》の豪商が高く評価したため、皆さんにお土産をくれましたのでお受け取りください。
ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『50ctの奇蹟。』へのご参加有難うございました。
================================
称号付与!
『獨在異郷為異客』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
『天剣』クライム(p3p006190)
『涙の理由』泪(p3p008278)
アイテムドロップ!
名称:『碧瑠璃のジェレメジェバイトの欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
サンディ・カルタ(p3p000438)
夜乃 幻(p3p000824)
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
炎堂 焔(p3p004727)
リア・クォーツ(p3p004937)
クライム(p3p006190)
泪(p3p008278)
GMコメント
この度は、シナリオをリクエストいただき、誠にありがとうございます。
■ 成功条件
・ 『碧瑠璃のジェレメジェバイト』を盗賊に奪われないこと。
■ 情報確度
・ B です。
・ OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。
■ 実質難易度
・ Normal程度 の難易度になります。
■ 現場状況
・ 《傭兵》(ラサ傭兵商会連合)内にある、とある都のはずれ、砂漠地帯です。時刻は夜で、頼りになるのは三日月の少々弱弱しい月明かりだけで、障害物はありませんが、周囲の視界はやや悪いでしょう。
・ PCは、大きな幌馬車の幌の中で滞在しながら、目的の都を目指して移動中です。幌馬車は、二頭の馬が引いており、雇われた馬使いが運転をしています。馬使いはPCの言う事を忠実に守りますが、戦闘能力は有しません。幌の中はとても広く、食料や居住スペースが確保されており、快適に過ごせます。戦闘に有利になりすぎない程度で、プレイングに書かれたものは、幌の中に存在することとして良いです。
・ PCは、荘厳な箱の中で厳重に保管されている『碧瑠璃のジェレメジェバイト』を、その目的の都へ護衛する任務をローレットより受けています。この箱は、両手で持つことが出来る程の大きさです。
・ シナリオは幌馬車を強襲する盗賊達との会敵時から開始することとします。事前自付与・他付与は不可としますが、プレイング内容によっては、盗賊達の強襲を事前に察知したり、できなかったりします。
■ 敵状況
● 盗賊×15名
【状態】
・ 『碧瑠璃のジェレメジェバイト』を狙う荒くれ達。《幻想》で『碧瑠璃のジェレメジェバイト』を所有していた貴族を殺害し、盗みを企てた張本人達です。
・ 《幻想》でヘマをしてしまった所為で、盗賊団の中での立場が危うくなり、その挽回を期してPC達が護衛している『碧瑠璃のジェレメジェバイト』を強奪しようと、文字通り決死の思いで向かってきます。
【能力】
・ 戦闘に手慣れた荒くれ達であり、警備の厳重な《幻想》での貴族殺しから類推すると、かなりの手練れの様です。体力と機動力が優れる特徴があります。
・ 斧、剣、槌といった近距離系の武器を所有する者が大半ですが、一部の盗賊は、火焔瓶や銃などの遠距離武器を用いて攻撃を行います。
● 盗賊のリーダー『ギヨ』
【状態】
・ 『盗賊』に準じます。
【能力】
・ 概ね『盗賊』に準じますが、全体的に能力が底上げされています。また、唯一神秘系魔術の攻撃を有し、『痺れ』系BS(防御技術への負補正)、『窒息』系BS(毎ターン毎にAPへの負補正)をPCへ付与する可能性があります。
■ 味方状況
● 馬使い
・ PC達の乗る幌馬車を運転する、ローレットの協力者の男です。
・ PC達の言うことを忠実に守りますが、戦闘能力は一切有しません。
● 『碧瑠璃のジェレメジェバイト』
・ 碧瑠璃色の五十カラットの奇蹟。神験の結晶。視る者すべてを蠱惑する貴石。
・ 荘厳な箱の中で厳重に保管されています。PCにも開けることが出来ません。
・ プレイングを圧縮する場合、文脈上の不確定さを与えない範囲で、適宜略称して頂いて構いません。(宝石、ジュレメ 等)
■ 備考
・ 無事に盗賊達を退けた場合は、夜明けごろに目的の都へ辿り着きます。
・ ご希望があれば、道中または都での日常シーンの描写が可能です。その場合は【日常パート】等の表記で区切ってプレイングを記載ください。(戦闘シーンの描写は短くなります)
皆様のプレイング心よりお待ちしております。
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