PandoraPartyProject

シナリオ詳細

すてぃあすぺしゃる~ヴァークライトの試練

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「良いですか、スティア」
 エミリア・ヴァークライトは惨状に慄いた。
 彼女について説明しよう。エミリア・ヴァークライト。ヴァークライト家当主代行たる彼女はアシュレイ・ヴァークライトの妹であり、スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)の叔母にあたる。
 両親ともに亡くしたスティアにとっては親代わりであり、騎士として国家に仕えながらヴァークライトの再建に貢献してきた淑女でる。勿論、スティアにとっても素晴らしき叔母様であり、貴族の事、国の事、そして『ヴァークライトの事』を支え、教え、導いてくれる存在だ。
 その彼女が応接室の椅子に腰かえて頭を抱えている。頭痛が酷いのか奥歯を噛み締めるような苦々し気な顔をして、姪の名を再度呼んだ。
「良いですか? 貴女はヴァークライトの未来を背負うべきもの。聖職者の位を得るが為、学ぶ姿勢は評価しましたし世界を見ることは決して悪い事ではないとイレギュラーズとしての活動も私は支援していました。ですが、これは一体――」
 壁に突き刺さっていた鮫。
 大量に消費された食材。
 そして、倒れ伏したイレギュラーズ達。その中には、幻想貴族ファーレル伯二女の姿や、所縁深いロウライト家の孫娘まで存在しているのだ。
「エ、エミリア様……」
 満腹で動けぬというサクラ (p3p005004)が緩やかに手を伸ばす。助けを求めるようなその掌にそっと手を添えて「痛ましい事です……」とエミリアは呟いた。
「ええ、スティアが料理をすると『一寸』ばかし『事件』が起きる事は知っていました。
 『異界の者(サメ)』に好かれるというのも魔力の性質故であると私は理解しています。ですが――この惨状は……嗚呼」
 エミリアが頭を抱える。スティアは「えへへ」と笑みを零していたが、内心『どうしよーだれかーサクラちゃーん助けてー』という状態だ。
「兎に角、客人はさぞ辛いでしょう。今晩は泊まって頂きなさい。必要ならば薬も処方します。
 ええ……今は満腹で考えられないでしょうが、明日、茶会の席でお詫びをさせて頂ければ」
 エミリアはイレギュラーズ達へと申し訳なさそうに頭を下げた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。当シナリオは『すてぃあすぺしゃる~ががーんでぎゅいーんでごーん』のすぐ後&翌日時空です。

●成功条件
 エミリア様とお茶会を。

●状況説明
『すてぃあすぺしゃる』(めちゃくちゃな量の料理とサメ)と戦った皆さんは主に見えないパンドラが減少しました。腹具合の脂肪(誤字にあらず)判定です。
 当シナリオ参加者はすてぃあすぺしゃるをお食べになった扱いです。
 その状況のお詫びをするために、本日はヴァークライト家でお泊りを。(一時帰宅OKです。ですが翌日のお茶会はお詫びですので是非参加してほしいとエミリアさんが頭を下げてました)
 そして翌日はエミリアさんと茶会で同席してください。

 エミリアさんは言います。
「スティアには一度しっかりと言い聞かせねばなりません」と――ですので、行動可能なパートは3つ。

 ・ヴァークライト家にお泊り!
  客間が用意されていますが部屋割りはご希望に合わせます。スティアさんも客室に「一緒に泊まる!」もOKですし、自室に誰かを呼ぶのもOKです。
  尚、エイルさんは「スティア、早く寝なさい」と頭痛を抑える様に言って居ました。
(スルー可能なパートです。何かしたいことがあればこちらでどうぞ。胃薬も用意してます)

 ・ヴァークライト家のお茶会へ
 昨日はあれ程までにサメだった室内ですが、きちんと整えられてお茶会の席となっています。
 ヴァークライト家の皆さんが腕によりをかけてお茶会を準備しました。
 紅茶、珈琲、ジュースも完備。茶菓子、軽食も揃っています。
 こちらはお詫びですので思い思いにお召し上がりくださいね。

 ・スティアさんに説教をする。
 「一度きちんと言い聞かせなくては」と茶会の席でエミリアさんはスティアさんに説教をするそうです。
 皆さんも思うことがあればこちらで……ってスティアさんがリクエストしてきました。
 因みにエミリアさんは訥々と言って聞かせるタイプです。「良いですか、スティア」から始まり長々説教するタイプですが、お客様からお声が掛かればにこやかに応対します。
 また、武を以て言い聞かせた方が良ければそちらでも。スティアさんが逃げるようなら剣を抜くことも厭わない!
 エミリアさんからはサメは出ません。サメは、でません!

●『氷の騎士』エミリア・ヴァークライト
 スティアさんの叔母。スティアさんの父アシュレイの妹であり、『ヴァークライト一家断罪』の際にその刃を持って『家』を守った張本人。現在はヴァークライト家当主ですが、家督はスティアさんが継ぐべきと『当主代行』を名乗っています。
 二刀流&体術を駆使した変則ファイター。騎士としての実力で『不正義があった貴族』の中では真っ当な地位に居ます。
 スティアさんの事はスティアさんの母エイルの忘れ形見として大切に育てなくてはならぬと考えていました。だというのに――――!

 周囲に恐怖心を与えるギフトを所有しています(魔眼と同様、意志の強さによりそれは左右されます)!
 そんな彼女が説教します! 怖ろしいですね!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • すてぃあすぺしゃる~ヴァークライトの試練完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月18日 22時10分
  • 参加人数9/9人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「あら、何時の間にやらベネディクト君が?」
 首を傾いだ『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に神妙な顔をして頷いた『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は「大変なことが起きてしまったな」と凄惨な現場を思い出して息を飲む。現場は天義、ヴァークライト邸、そして犯行を起こしたは――いや、それ以上を告げるのは無粋だ。
「皆も疲れただろう。今日はゆっくりと休ませてもらおう」
「うむ。油断も隙も無いサメ達じゃった……まさか妾の『えめすどらいぶ!』が見破られるとは……。
 あのサメちゃんたち噂に聞く通りイレギュラーズをも凌ぐ生物なのじゃな」
『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)はその体をぶるりと震わせた。「サメ、一体……!」と呟くアカツキのその傍らで『被害者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)がずるずるとソファへと沈んでいく。
「しまった! リンちゃん!」
「……迫り来るサメ……まだ、気を抜くとあの口の中の感覚が……うっ……」
 悍ましくもその鋭利な牙がぞろりと覗いている。一面の赤は一寸先に黒くなる。その生暖かさが一瞬でリンディスを包み込み――口を押えてその顔を蒼褪めさせる彼女の様子に『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は首を傾げる。
「どうかしたのかしら……? 私も何か……? 何故かしら……。
 お食事の時の記憶が、一部欠けているような……」
「いいえ、『和やかなお食事会』でしたよ。とっても……一部を除けば、ですが」
 その一部に該当するリンディスと『忘れてしまった』エンヴィ。世の中には忘れた方がいい事もあるのだと『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が穏やかに微笑めばエンヴィは「ええ」と頷いた。
「思い出せないという事は、思い出さなくても良い事なのよね、きっと」
「そうですよ。お水でも頂きましょうか。先ずは一息ついて……」
 そそくさと準備をするクラリーチェの背を見送ってからエンヴィはこれからお泊り会なのだと胸を高鳴らせた。楽し気なエンヴィとは対照的な雰囲気を纏うのは『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。先ほどまで、この応接室にはエミリア・ヴァークライトが立っていた。眉間に皺を寄せて氷の美貌に疲労を浮かべた彼女は慈しみ大切に育て上げた姪の『凶行』が信じられないと自室に戻っていった。
「あれが……エミリア様ですか。噂に聞く天義の『氷の騎士』」
 その異名は彼女の所有するギフトもあるだろうが、ヴァークライトの処刑にも関連しているのだろう。それ故に、亡き兄や義姉の忘れ形見である姪を大切にしていたのに、と『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はスティアを視線で追いかける。
「反省して」と『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)がぴしゃりと言ってのけた言葉に「ががーん!」と大仰なリアクションを返すスティアは「どうしよう」とサクラへ縋りついた。
「叔母様には今迄怒られたことはなかったから正直怖いなぁ……」
 ――誠心誠意謝ったら許してくれるのかな……しっかり謝らなきゃ、もちろん皆にも……。
 そんな決意をするスティアの横顔を眺めてからサクラは「それじゃ、部屋に行こうか」と仲間たちを連れて言いどうした。


「そんなわけで……お泊り……なのですけど、お泊り会。……女子会?」
 首を傾ぐリースリットのその視線の先には遠い目をしているベネディクトが隅で鎮座していた。ベッドの上で皆で会話と言うのも中々オツなものなのだが、淑女の寝所に立ち入るのもと距離置いて居たベネディクトは「男は此処に混ざるものではないのでは……?」と胡乱に問いかける。
「え? 折角なのでみんなで集まって女子会feat.ベネディクトさんって思ったけど、ダメなの?」
「ダメ――ではないが」
 にっこりと微笑んだサクラにベネディクトは頭を振った。こういう時には可愛らしい女子力高めのスウィーツや紅茶がお供になり易いが『凶行』があった為に、そう言ったオプションは今日はなしだ。
「それで……女子会というのは……?」
 首を傾げたリースリットにスティアとサクラは顔を見合わせてにまりと笑う。詰まる所、『コイバナ』だ。
(なぜかベネディクトさんがいるけど突っ込んだらいけないやつだと思ったけど、違うね。私のご飯一杯食べてくれてた!) ←決めつけ。
コイバナ、と言う言葉を唇に乗せてからクラリーチェは自身は宗教上の事情で神に身を捧げていると前置きをする。そうした愛や恋に縁のないクラリーチェはお菓子は入る余地がないからと暖かな飲み物の用意をする。
「……満腹感が消えません。眠る前に少しストレッチをと思いますが……体が重たいです」
「……重たい、ですよね」
 けぷ、と小さな声を漏らしたリンディスはついでに水を一杯とリクエスト。彼女は胃薬片手に皆の話を書き留めようと言うのだ。
(心なしか、ベネディクトさんが所在なさげにも見えるけれど……)
 女子会と言う場所では中々に苦しいものがあるのだろうかとエンヴィは視線を送った後、手にしていたマグカップをゆっくりと見下ろした。
「えっと……こういう時、自然に話題が振れたら良いのでしょうけど、私には難易度が高いわ……」
 エンヴィも聊か所在なさげではある。「コイバナ」と首を傾いだリースリットにアカツキが大仰に頷く。
「先日サクラちゃんとはお茶会をしたが、皆でわいわい騒ぐのもよいものじゃ。
 で、コイバナをすると。妾、長生きではあるがあまりそういう経験はないのう」
 アカツキが唇を尖らせてそうやって口にすれば所在なさげなベネディクトは女性の考えは想像するのは難しいが、愛や恋を語る様子は特異運命座標と言う運命を背負っていたとしても、普通の少女なのだと感じ、つい唇に笑みが浮かぶ。
(彼女達だけではない。或いは――あの人もそうだったのだろうか……)
 其処まで考えてから、詮無き事かと首を振る。それ以上の事を考えても何にもつながらない。皆の様子を微笑まし気に眺めるベネディクトをよそにアカツキは「うむむ」と唸っていた。
「それなりに長い記憶を辿ってみるも、自身にそういう思い出がないかもしれぬ……
 妾まさか寂しい系女子……!! いや、なんとなーく昔憧れておった知り合いがおったような気が?」
 コイバナをできる話題が見つからないアカツキなのである。サクラはうーんと小さく唸る。
「みんな好きな人とか、いないなら好みのタイプとかどうかな! ドラマちゃんはレオンさんだよね!」
「ひえ」とドラマが声を上げた。それは皆の中では共通の話題だったのだろう。直ぐ様に顔に熱が登っていくが仲間たちは気にする素振りもない。
「好きな人とかタイプ……ああなるほど、そういう……。
 ううん。恋愛……あまり……そういうものを考えたことは無かったですね
 考えないようにしていた、している、という方が正しいかもしれません」
 リースリットは貴族だ。即ち、ファーレルの民と家の為にその身は在るのだと認識している。
 神の徒として、と考えるクラリーチェも同じであろう。リースリットは自身を貴族の淑女としてしっかりと認識しているのだろう。貴族において娘は時に道具となるのだから。
「……貴族に生まれ、育った身として。自由な恋愛など余地も縁も無きもの……と、そういう所です
あくまで私は、ですけど。……お父様を信じておりますから。
 ……、……ドラマさんとレオンさんの事は、少々気になりますね……」
「ええっ!?」
 リースリットさんまで、とドラマの唇が戦慄いた。助け船が出て来ることはない。
「好みのタイプはあれじゃな、年上でマッチョな感じだと思うのじゃ、多分。
 普段考えないようなことじゃから改めて、となると難しいのう」
 アカツキはうんうん唸ってそれを口にしたのち、「リンちゃんは?」と問いかけた。
「好みのタイプが色々と居て素敵だと……え、私ですか? ……ええと……。
 古い紙とインクの匂いが似合いそうな方……でしょうか……?
 レコーダーを目指して駆け抜けてきたので特にそういう方向は考えたことがなかったですね……」
 あまり慣れた話題でもないのだろう。記録する手を止めてあちらこちらに視線をやったリンディスも何処から気恥ずかしげである。
「……え、好きなタイプ? あまり考えた事が無いから難しいわね……格好良くて、優しくて、一緒に居て楽しい人……かしら……駄目ね、こう話してるだけで恥ずかしくなっちゃう……妬ましいわ……」
 そう呟いたエンヴィにクラリーチェは優しい微笑を返した。自身は何も言えないのだと、その目線は柔らかだ。
「私は……そうだねーやっぱり誠実で実直で、強い年上の人がいいかなー? レオパル様とかすっごく素敵だよね!」
 サクラの言葉にスティアは「えっ」と小さく呟いた。「レオパルさんのこと好きなの?」と言いたげな顔をしているが、サクラはそちらを見ないようにした。
「好みのタイプ……私は頼りになる人かな~? 少なくてもサクラちゃんぐらい!。
 あ、私もドラマさんの恋バナ聞きたーい! いいかな? ちょっとでいいからー!」
 スティアの期待の視線を受けて、ドラマは「え」や「あ」と何度も繰り返す。顔の熱は、もう暫くは引くことはないだろう。
「そ、そんな面白い話は出来ないのですが……この胸の高まりは、いつからでしょうか。
 決して好みのタイプ、と言う訳ではなかったはずなのです。
 初めてデートをするってなった時も、薄々色々な方に声を掛けているとことは分かっていたのですが……今までは故郷の書庫に籠りきりでしたから、そう言う機会もありませんでしたし、興味本位と言いますか、今後の勉強のつもりで……。
 でも、いつの間にか楽しんでしまっている自分がいて……そこから気持ちが大きくなっていって、去年のシャイネン・ナハトでは……」
 折角なのでドラマちゃんの早口恋バナはしっかりと皆さんに見て頂こう。あの軽薄そうな男、と言う者も居るかもしれないが乙女は悪い男にときめきを感じるのだ。
「も、もう! 私ばかり喋っても仕様がないのです。皆はどうなのですか!?」
 そうは言われようともない――アカツキはないと首を振ってリンディスのメモを覗き込んだ。
「しかと記録されたようじゃなあ」
「ッーーー!?」
 夜更かししすぎはエミリアに怒られる。皆はそそくさとその場を後にしたのだった。


「昨日壁から生えていたサメの痕跡も、床の血だまりも綺麗になくなっています。
 お掃除大変だったでしょうに……。流石は天義貴族、なのでしょうか……」
 クラリーチェは血だまりのあった場所を眺める。あそこにエンヴィが倒れていた気もするが――気のせいだっただろうか。いや、気のせいではない。
「昨日の食事会の様子が嘘のように、綺麗でおしゃれなお茶会の席になってるわ……突然サメが出たりは……しないのね?」
 エンヴィのその言葉に『作り笑いの美しい』エミリアは「安心しなさい」と言った。その声が僅かに硬い事を誰もが気づいて居ただろう。用意された紅茶は質のいいものを使用しているのだろう。馨しさが心地よい。
「昨夜はお世話になりました。おかげさまでよく眠れました」
 微笑んだクラリーチェ。
「(量はとんでもなかったですが)お料理、一つ一つとても美味しかったです。
 作るのにはかなりの手間と時間がかかりましたよね。私達のために、ありがとうございました」
「えへへ」
 スティアの料理が酷かったのは確かだが、それでももてなしの為であった事には違いない――サメだって湧いて出てきただけだ。スティアはクラリーチェのその言葉ににんまりと笑みを漏らす。
 使用人のようにしっかりともてなす側に回っているスティアにエミリアは少しは反省したのだと姪の姿に小さな笑みを漏らした。そうして殊勝に振舞う様子がエミリアは可愛くて仕方がないのだ。
「お招きいただきありがとうございます、エミリア様。――改めまして、ファーレルの二女リースリットと申します」
 貴族としての淑女の礼を一つ。リースリットは穏やかに笑みを浮かべる。
「本日はお招きありがとうございます、ヴァークライト卿」
 微笑んだサクラは騎士として恥ずかしくない挨拶を心掛ける。気心の知れたヴァークライト家であれども、今日は招かれる立場だ。
「先日は無様な姿をお見せしました、改めて。ベネディクト=レベンディス=マナガルムと」
 ベネディクトはお誘いに感謝をと礼儀作法を交えて穏やかに頭を下げた。丁寧な彼にエミリアは「それ程気を張らずにゆっくりなさってください」と美しい笑みを返す。
 挨拶を一つ、そして周囲を見回せば片付けもしっかり整っているとリンディスは紅茶とスコーンを選ぶ。シンプルなスコーンにはジャムも用意してあると使用人の至れり尽くせりの茶会にリンディスはこうした場所で読書と言うのもよさそうだと想像して小さく笑んだ。
「どんな切欠にせよ、このように良いお茶会を開いていただける……
 エミリア様がこうやって守っているもの、家や使用人さまたちを含め、とても素晴らしいものと思います」
「それは有難いお言葉です」
 エミリアの微笑を受けてから、アカツキは菓子や紅茶は何処のものかを聞いていいかと問いかけた。
「ええ、メイドに確認してください」
「うむ! そこなるメイドさん、このお菓子と紅茶はどこのやつかのう?」
 最近はスイーツや紅茶がマイブームだというアカツキにメイドは直ぐに購入店や産地について解説する。スイーツの一部は茶会の為にメイドたちが準備したものらしい。
「遠く深緑の大樹、ファルカウから参りました、ドラマと申します。スティアさんには……えぇと、いつもお世話になっております。この度はお招き頂き、ありがとうございます!」
 しっかりとした挨拶を交えたドラマは昨日の惨状が脳裏に浮かんだことで僅かに言葉が濁る。
 今朝も鍛錬はしっかり済み腹の調子も整った。ゆったりと、と用意されている品々もある程度は腹に負担が掛からぬものばかりだ。
 エンヴィがそっと、ティーカップを手にして一口口に含んでから「美味しいわ」と頷いた。
「……後で、淹れ方を教えて頂いても……? それに、フルーツケーキも、美味しいわ」
「紅茶かぁ……」
 そういえば、サクラは思い返す。アカツキがベネディクトの家に紅茶を淹れるのが得意なメイドが居ると聞いた。そのお茶が気になると感じながらカップを持ち上げればどこか懐かしい味が喉の奥へと滑り込んでいく。幼い頃に遊びに来ていた時とは『あの事件』があった事で人員も入れ替わったはずだけれど――とエミリアを見れば、どこか優し気な笑みを浮かべたエミリアがサクラに視線で応じた。
「昨日はとってもサメってたのにのう、この部屋。頑張って片付けてもらったんじゃな」
 非難がましい視線をちら、と向けたアカツキ。何時もの調子で行くのは流石に気が引けたのだというアカツキはサメが怖くて『スティアスペシャル』を味わっている時間も無かったのだというが料理自体の質はよかったという礼をスティアへと告げた。
 アカツキが確認していた紅茶の産地を聞きベネディクトも自身の邸でリュティスに淹れてもらおうかと呟いた。
「妾も!」
「じゃあ、私も」
 アカツキとサクラが共に、と言う言葉にベネディクトは小さく笑ってから、エミリアに向き直った。
「茶会の話題には向いていないかも知れませんが、実は幻想のドゥネーブ領の領主代行を引き受ける事になりまして」
「それはよう御座いますね」
「私を選んで頂いた事は光栄ですが、何分若輩者の身。何れ、エミリア殿にもご助言を一つ頂ければ」
「――私で良ければ。力になりましょう」
 他ならぬ、スティアの友人なのですから、とエミリアは力強く頷いた。

 ――さて、時間は経過し、お待ちかねのお説教タイムである。
「お、叔母様、ごめんなさい。こんな騒ぎを起こすつもりはなかったの!
 気づいたらサメがいて凄い騒ぎなってしまったの! 私は頑張って止めようとのだけれど駄目でした……」
「ええ」
「お、お料理の方は皆食べてくれるから嬉しいのかなって思ってつい……」
「そうですか」
「うぅ、これからは気を付けるようにします……」
 叔母様は恐ろしい。氷の騎士と呼ばれる理由がわかる。流石はエミリア・ヴァークライトである。
「うぅ……すてぃあすぺしゃるはやりすぎると駄目だったんだ……
 喜ぶ人ばっかりじゃなかったんだね。加減するようにします……。
 サメはどうしたらいいかわからないけど……どうしたらいいのでしょう」
 がっくりと肩を落としたスティア。そんな彼女を見かねたように仲間たちが助け舟を出そうとそっと声を掛けた。冷やかなエミリアの気配は流石に恐ろしい。恐ろしいが、彼女は食事を用意してもてなしてくれたことには変わりない。だが、サメである。
「えぇと、味はとても、とっても美味しかったですよ……? ――ですが、しっかり、反省してください!」
 量が多くて色々と酷い目に遭ったのは否定できないとドラマは指し示す。頑張ってと小さな応援を交えるクラリーチェの背後からそっと顔を覗かせたエンヴィはやんわりと助け船を出す様に呟いた。
「スティアさんも、私達を歓迎しようと頑張っていたのだから……サメは……サメだけど……」
 ――忘れられないサメ。
「サメ……そうですね。サメは色々と……余罪があるんですよね……訓練(ロレトレ)だとか……ローレットでも壁から……ああ、いえ――余罪と言ってしまうと酷く聞こえますがエミリア様にはお伝えするべきかと思いまして。それに……サメは訓練することでスティアさんの能力の一つになるのかもしれませんし」
 寛大なご処置を、と願うリースリットにリンディスも「サメ、そうですね。サメ」と繰り返した。
「サメに関してはご本人に悪意があってされているわけではないと思いますのでどうか、ご温情を
こうして私たちは無事生きているわけですし……というか……止めるすべがあるのでしょうか……?」
「……」
 エミリアは黙った。そして、熟考してから「訓練ですね」と呟いた。
「良いでしょう。スティア。そのサメを『どうにかできるよう』私も手腕を振るいます」
「え、特訓……? 叔母様自ら……? それはちょっと遠慮したいかな……ほら、叔母様忙し――」
「いいえ、良いのです。スティアの為ですから」
 怯え竦んだスティアを見かねたように、そっとサクラがスティアの肩を抱く。
「エミリア様、差し出がましい事を申し上げて申し訳ございません。ですがスティアちゃんももう反省している事ですし、そろそろ……」
「そうですね。ですが、スティア」
 サクラの助け舟にほっと胸を撫で下ろしていたすてぁいがびくりと肩を跳ねさせる。氷の美貌、美しき騎士、エミリア・ヴァークライトはそのかんばせに一層の笑みを浮かべていた。

「――理解しろ、と言いました」

「は、はい。わかりました」
 これにて、スティアにとっての『ヴァークライトの試練』は終了……したのだろう。後はのんびりとお茶会を、と振り返ったエミリアは「良ければ冒険の刃話を聞かせていただけませんか」と姪の辿った軌跡を求める様に微笑んだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 エミリア様なら、サメが突然襲い掛かってきても
 「スティア、此処は任せなさい」と勇敢に戦いそう――だと、そう思います。
(だが、事後であった!)

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