シナリオ詳細
<虹の架け橋>移り気レイン
オープニング
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その日、空には雲が満ちていた。
「曇り空ですね〜。雨とか降るのかな」
「さあ。でもそろそろそういう季節だね」
ブラウ(p3n000090)と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は揃って窓越しに空を見上げる。どんよりとした雲ではないけれど、それでも晴れている時よりは薄暗い。
「これからはじめじめしますねぇ。そのあとは暑い夏かぁ」
嫌だなぁといった雰囲気の声音にシャルルは視線を向ける。うん、ふわふわもこもこだ。そりゃあこれからの季節が嫌にもなるだろう。
「……人間姿の方が体温調整しやすくない? わざわざひよこでいなくても」
そう告げれば彼はカウンターに座ったまま、くりりとした目をシャルルへ向ける。そして自らの体を見下ろして。
「でも、こっちの方が居心地良いんですよ。サイズ違い過ぎて」
もふんと丸まるブラウ。ひよこだと知らなければ黄色い毛玉のようである。
「それなら、まあ、良いけど。倒れる前に体調管理してよ」
肩を竦めたシャルルは手元へ羊皮紙を引き寄せる。妖精郷の件に関して書かれた依頼書だ。
先日は酷い目に遭ったシャルルだが、救援に来てくれたイレギュラーズたちのお陰で事なきを得て、かつ先へ進む道も拓くことができた。
ならば次はどうするか?
「……もちろん、次に行かなくちゃいけない」
「ぴ?」
「や、なんでもないよ」
首を傾げるブラウへ首を振り、再び羊皮紙へ視線を落とすシャルル。その瞳は真剣だ。
シャルルは気がついたらこの世界に生まれ落ちた、程度の認識だ。元々が意思なき精霊なのだから、混沌召喚によって生を受けたと言っても過言ではないだろう。
だからこそ世界のために──と言えば聞こえは良いかもしれない。けれど守りたいという思いは、しかとこの胸に。
醜態を晒した直後とあっては尚更だ。次で挽回しなければ。
「ブラウ、これ行ってくるよ。皆と一緒に」
「ぴ? あ、調査済みのものですね。ヘイムダリオンの」
ぱちりと目を開けたブラウが羊皮紙を見て頷く。彼の告げたヘイムダリオンこそが、今イレギュラーズの乗り越えなければならない壁だ。
混沌と妖精郷アルヴィオンはアーカンシェルと呼ばれる門で繋がっている。より正確に言えば、アーカンシェルを使うことで『ショートカットして』行き来できるのだ。
しかし現在、アーカンシェルは機能不能。ならば正規ルートを進むしかない。そのルートこそ大迷宮ヘイムダリオンである。
先日シャルルの踏み込んだ空間はにゃんことダメクッションの溢れるダメ空間だったが、その先に続いた空間では雨が降っているという。
迷宮と言えばトラップやモンスターなどの潜むダンジョンといった印象かもしれないが、この大迷宮は特殊だ。空間ごとに全く異なる様相を示し、時に現実ではありえないような姿も見せる。
故に、『大迷宮の中で雨が降る」状況もなんらおかしいものではないのである。
「シャルルさん、それ、大丈夫ですか?」
「……? 意図がわからない」
ブラウへ首を傾げて見せると、羊皮紙をよく見るように促される。そちらへ視線を落とせば書かれているのは深緑と妖精、ヘイムダリオンの概要。そして──。
「過去、です。調査に行った方が皆揃って『過去を見た』と言うんです」
思わずそれを眺めていたら、いつの間にかヘイムダリオンの外へ出されていた。ほんの少しも濡れておらず、まるで夢のよう。けれども夢ではないのだから、何かのアクションをせねばならないのだろう。
「過去、か」
どこまでのことを過去と言うのだろう。1年? 2年? もっと前だろうか。それより前となると、シャルルはまだ精霊だった頃になってしまう。
「……まあ、行ってみないとわからないよ。ボク1人ってわけでもないし」
過去を見られなければ帰ってくるだけ、というか帰されるだけなのだから。
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イレギュラーズを包み込んだのは、けぶるような雨だった。今にも上がってしまいそうな、移り気な雨。
その音は聞くものによって悲しげかもしれないし、優しげかもしれない。
その冷たさは感じるものによって心地よいかもしれないし、不快かもしれない。
雨はイレギュラーズを包んで、1人にして、独りきりにして。まるでこの世界には自分しかいないような、そんな心地にさせられる。
ふと雨の音が引いて、顔を上げると。
そこには『苦しい過去』が待ち構えていた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/21873/4ddb6f74a1c9119602bc9053b5f2b4f3.png)
- <虹の架け橋>移り気レイン完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月07日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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雨は、移り気だ。
色も音も匂いでさえも移ろい変わりゆく。
ああ。けれど。
もしかしたら移ろいゆくのは、自身の心かもしれない──。
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『今を縛る過去があってはならない』
そう言ったのは紛れもない自身。ならば今、自身を縛り付ける”その時”は過去ではない。少なくとも自身の中では過去と呼べないのだ。
『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は──いいや、冬月黒葉は焦げた臭いと血の香りが充満する家屋の中で妹を探していた。
「どこだ……返事をしてくれ!」
名をいくら呼んでも応えはなく。家屋は未だ燃え続け、黒葉をも呑み込もうとしている。
空しさと無力さにどれだけ泣き出しそうになっても、立ち止まってしまったら終わりだ。兄である自身が、妹を助けなければ。
そうして妹の名を呼び続ける彼の前に現れたのは、破壊の限りを尽くす”黒い魔物”だった。瞳に映したそれが動き出し──衝撃。熱。そして激痛。
死んだと思っていた──いいや、即死だったはずだ。左半身を吹き飛ばされたのだから。
けれど生きている。それも、そして妹が”黒い魔物”であったことも、全てはクオン=フユツキという男が仕組んだことだった。そう、全て、最初から。
──君に殺してほしかったからなんだよ。”私の死神”(くろば)。
そうのたまった父である男に。抱いた感情はどう名付けたら良いのか見当もつかない。
この為だけに俺たちを生み出したのか。
これまでの日常は全部、演技だったというのか。
ただの道具として、この役割を果たすまでの、偽の感情言動だったというのか。
──俺たちは、なんだったの?
「あ”ぁ”ああああああ!!!」
異形と化した左腕、その鋭利な爪で過去を引き裂く。見ていたソレが幻覚だとわかっていても、偽物でないことは知っていた。
「そうだ……何物でもなかったんだ!」
吐き捨てるように、どす黒い憎しみを込めた言葉。
最初からただ生きていると思わされているだけで、クロバにとって当たり前で全てだった日常は”紛い物”だったのだ。あの男に認められたいと挑み続けた時間も、囲んだ食卓も。
何気ない挨拶のひと声さえも、全部。
「──だから」
前を見据えるクロバの瞳に燃える憎しみ。元の世界に戻ってでも、父を必ず殺すという決意。その手には虹の宝珠が握られている。
”何者でもなかった俺”が生きて来た、全ての理由を果たさねば。
彼はこの時まだ、知らない。
殺したいほどに憎いその男が、同じ世界にいることを──。
●
(雨か……終わったら武具のメンテナンスをしないと)
錆びると痛いのだと顔を歪める『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は、気が付けば1人であった。分断系の空間らしい。けれども妖精郷のピンチとあればたとえ1人でも進まねば。
そう前を向いたサイズの眼前には元の世界での記憶が投影されていた。
生きるために悪事を働き。そして自らの呪いの具現化という悪夢に悩まされ。そしてその悪夢では必ず自身が負けるのだ。
それらはサイズへ『目を背けることは許さない』と言わんばかりに迫ってくる。けれど。
(全てどうでもいい)
サイズがすべきは妖精郷に辿り着き、妖精たちを助ける事。そのためならばいくらでも過去を見てやるし、魔物にだって喜んで突っ込んでやる。
妖精を救えるのならば悪行でも泥でも血でも被ろう。それが妖精鎌『サイズ』なのだ。
そもそも呪いには勝ちようがない。仮に勝ってしまったら、それは自身の死を意味するのだ。何よりこの呪いは己の平穏を望み、同時に妖精の幸せを望む。妖精がピンチである今、呪いが、自身が邪魔をしてくるなどあってはならない事態でもあった。
「目の前にいる過去の記憶が邪魔してくるなら……妖精のピンチを救うのを邪魔するならお前は俺じゃない! 失せろ!」
鎌が一閃され、投影された過去が小さく揺らめく。この先へ向かおうとするサイズをあざ笑うように。
(何としても抜けてやる……妖精を救うために!)
そんなサイズの前で──雨も、過去も、未だ消えてはくれない。
●
泣いている。
彼女が、泣いている。
(嫌な雨だ)
まるで彼女の涙のようだと『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は苦々しく空を見上げる。未だ、雨の止む気配はない。
過去の色々を、重荷を取り除いてくれた彼女。恋人”だった”青い蝶。常に寄り添ってくれていた彼女を切り捨てたのは、他でもない自分だった。
(あの時は、ああするしかなかった)
否。それはただの言い訳だ。本心はただ怖かったのだ。彼女を失う恐怖に怯えるくらいなら、いっそ自分から──と。
本当は今でも彼女を愛している。だからこそ守りたい。死なせたくない。悲しませたくない。
廃滅病で長くないジェイクの命は、間もなくして尽きるだろう。そんな男など忘れてしまった方が彼女のためになる。
……などと自らへ言い聞かせる辺り、これもまた”言い訳”の1つなのだ。
愛しており、守りたいという思いは事実。だからこそ『守る余力がない』という現実を痛感していて。廃滅病が自らを苦しめる中、冠位を相手取り且つ彼女を守ることなどできようはずもないと思ったのだ。
守れないくらいなら、傷つけてしまうくらいなら──忘れて、離れてくれ。
(全くもって俺は大嘘つきだ)
顔を上げれば雨が頬をうち、滑っていく。まるで涙のように。
死ぬのが怖くてたまらない。
抱きしめてくれ。
温もりを分けてくれ。
今更後悔なんて、嫌になる話だけれど──彼女が恋しくてたまらなかった。
(俺に足りなかったのは、覚悟だ)
いかなる状況に置いても彼女を守りぬく覚悟。このような場所で足踏みなどしていられない。
彼女と共に在るためならば、何人たりとも──アルバニアであっても容赦はしない。狂王種だろうが魔種だろうが、冠位でさえもまとめて全部ぶっ倒すだけだ!
ジェイクはカッと目を開け、正面へ向かって吠える。その手に虹の宝珠を握りしめて。
「──てめえらそこを退きやがれ!」
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眼前にまず映ったのは、家族だった。私設兵団へ怒号を飛ばす父と兄、泣き崩れる母。そして──その先には、焼け落ちた家。
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は辺りを見回した。両親と兄と、兵たちと。ここにいるはずの、いなければならないはずの、双子の妹はどこにもいない。
双子で共にある幸せを、穏やかな日々を、2人は突然に奪われたのだ。
(守るどころか、近くに居てあげることすらできなかった)
悲しんでも、後悔しても、過去は帰ることができない。賊を討ち、妹を救うために組まれた後の討伐隊は妹を見つけられなかった。無理を言って同行したアルテミアもまた、足を竦ませて安全な後方から見ていることしかできなかったのだ。
今も夢で見る過去。変わることなく、姿の見えない妹を探すのみの光景。
(でも……もし、『今の私』がこの場所に居たのなら)
アルテミアは動き出す。過去が変えられなくとも、今のこの光景を変えるために。
焼け落ちた自邸に目もくれず、賊たちの拠点へ駆ける。腰に愛用の細剣があることを確かめればあとは迷いなどない。
(間に合うかなんてわからない)
過去と同じように、結局妹の姿は見つからないかもしれない。
だから? 諦めるのか? ただ同じことをするのか?
答えは否。今のアルテミアはあの時と違う。護身程度の剣術しか持たなかった只の小娘ではない。確かな力を身に着けるイレギュラーズだ。
「少しでも、希望があるのなら、私は……!」
もう少しで賊の拠点。剣を持たぬ手にはいつのまにやら虹の宝珠を握りしめているが、気づくのはもう少し後か。
過去を切り開くように、アルテミアは拠点へ飛び込みざま細剣を抜き一閃した。
●
見たくない過去。
会いたくない過去。
──本当に?
心に渦巻く想いは今もずっと、複雑にねじれたまま。『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は小さく苦笑を浮かべた。
「まあ、でも、迷宮にとっては関係ない事なんだよね」
懐かしい光景。懐かしい人。会いたかった、もう会えぬ友。
(また、会えたね)
異界の服を纏った青年。彼の名を──『ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ』と言う。
木々は悠久の時を生きる。それは何か起こり得ない限り変わらない。
その何かは──突然やってくるものだ。
へし折れた木々。めくれ上がった大地。穏やかな森の風景は今やどこにもなかった。
巨獣だったものは動くたびに森を傷つけ、今もまだ進もうとしている。
その傍らに──2つの人影があった。片方は幼い姿の幻想種。もう片方は我が友『ウィリアム』だ。幻想種の子供は『ウィリアム』の服の裾を掴み、止めようとしている。ほろほろと頬を零れ落ちるのは涙だ。
行かないでと。ここにいてと。
訴える子供の頭を撫で、『ウィリアム』は笑みを浮かべていた。
「……そして、君は行ってしまう。あれが僕達の最期の会話だったね」
見送ることしかできない子供──ウィリアム。彼を1人で戦わせてしまったあの時。けれど今は、今なら一緒に戦える!
ウィリアムは彼を追いかけた。巨獣であったものへ立ち向かう彼の隣に立ち、魔法で彼を支援する。
『ウィリアム』は強い。魔術の反動によって命を落とすほどに強力なものを操るのだ。彼を支援できる者があの時いたなら、きっと彼は。
「……少しは強くなれたかな」
子供の元へ戻っていく彼を見ながら、ウィリアムは小さく呟く。その視線は彼らの姿が薄れていくまでずっとその場所へ向けられていた。
今はまだ、君の名前で勇気を貰っている。
けれどもし、いつか。本当に君の仇を取れたその時は。
握りしめた拳の中には、いつのまにやら硬い感触があった。
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『勇気は勝利のために』ソニア・ウェスタ(p3p008193)は英雄と名高い将軍の四女として生を受けた。
長女ソフィアは他家へ嫁ぎ、家を継ぐのは残った二女から四女の誰か。男児を設けられなかったのだから、いる内から選ぶしかない。
そんな折、ソニアは家臣たちの話を盗み聞いてしまった──元よりそんなつもりはなかったが、聞こえてしまったのだ。
「次女のフレア様は体調に不安がある。三女のソラ様は当主というには素行が良くない。しかしソニア様では凡庸すぎる」
「しかし他にいないだろう」
そっとソニアはその場所を離れた。彼女にとって姉は自慢の姉たちで、それに自分が凡庸なのは確かで。相対的に『無能』だと言われても事実だと認めるしかない。
──認めるしかないと理性が分かっていても、感情はついてこないのだ。
辛いと心が悲鳴をあげる。どうか貶めないで、と。けれど家臣たちも生活があるのだから、このようなことで父に処罰を願うわけにはいかない。
(ウェスタ家のために頑張ってくれていて、ウェスタ家の将来を憂いての発言で)
仕方ないことにしないでと心がまた悲鳴をあげる。けれど──我慢するしか、なかった。
やがて二女が病没し、三女はソニアに将来を託して家を出た。内乱を起こさないためだ。
もう残るは凡庸と言われた四女しかおらず、さりとて家族から託されたものを自身が終わらせるわけにはいかない。
(今はこの世界に呼ばれているけれど、情けない姿は見せられない)
ぎゅっと握りしめた手に、冷たく硬い感触。過去から現実へ戻される感覚。
ソニアを指名した父に。
嫁いでいった長女に。
病で亡くなった次女に。
託して家を出た三女に。
あの時の家臣たちに。
前を向いて歩いているところを、弱いままでない事を、ウェスタ家を栄えさせることを──成長した自身の姿を見せるのだ!
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(お気に入りに傘が欲しゅう御座いますのに)
『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)が見下ろした手には、一丁のリボルバーだけ。周りには誰もいない。
嗚呼、嗚呼。ひとりは、ちょっとだけ寂しいかな。
本当に? と内から自身が問いかける。最初からひとりだったのではないか、と。
近づく者には誰しも思惑があって。甘い汁が吸えないと知れば離れていく。言動がほんの少し癪に障ったというだけで容易く切り捨てられる。
(本音を言えば、何時だってぼくはひとりぼっちで寂しかった)
青い鳥にならんとした誰しもが、独りだった。
不意に現れたのは玉座。誰よりも恋して病まなかったその前で、王足らぬ自身は腕を切り落とされたのだ。
せめて痛まないよう、切れ味が良ければよかったのに。そんな小さな願いは踏みにじられ、無情に、抉り、削って。
けれど何よりも悍ましいのは、恐ろしいのは、それを見て『誰もが笑っていた』ことだった。
しまいにその腕は、大きな斧で──。
(嗚呼、支えが無ければ起き上がる事すら叶いませぬ)
誰かの青い鳥になる事すら叶わない。
嗚呼、痛い。
嗚呼、苦しい。
「結構。安心おし、あなたさまはもうすぐ生まれ変われるから」
未散はリボルバーを撃鉄を起こし、銃口を自身のこめかみへ向けていた。
戻れないけれど、思い出した。
地続きの日々が悪くないことを。
もうひとりではないことを。
「理由としてはそんな物でもう十分すぎる程でしょう?
──其れではさようなら、過去のぼく」
目が覚める。痛い。けれど過去はもう前にない。リボルバーを持たぬ手には虹の宝珠を握りこんでいて、開いたそれに雫が落ちた。
「あ、れ」
ぽたり、ぽたり。落ちる其れは雨ではなく。
「何で、泣いているんだろうな」
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「──あれ? 皆さん?」
『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は辺りを見回す。一緒に来たはずの仲間はおらず、打ち付ける雨は酷く冷たい。思わず心細くなりそうなその瞬間、リディアの眼前に現れたのは懐かしい面々だった。
レオンハート家の嫡女、それがリディアだ。女であるというだけで兄と自身には越えられない大きな大きな壁が存在していた。
兄は武芸を磨き、帝王学を収め、いずれは民を率いる者として周囲からの期待を受けていた。その期待を裏切らず、応えるため成長した兄は──これが『普通』なのだろう。リディアから離れて行ってしまったのだ。
同時に隣に在りたいというリディアの想いは『普通』ではなかったのだろう。決して許されず、自身が考えるべきはいつか友国に嫁ぐことだと。
それがリディアの幸せなのだと──両親も、皆も、”心からの笑顔”で言ったのだ。
悪意があってのことではないから、例え嫌がっても困らせてしまうだけ。操り人形のように、自身の思うような人生を歩まず過ごすしかないのだと痛感するしかなかった。
こちらへ召喚され、自由な生き方を知り。あそこに帰りたくないと思ってしまうほどに、あそこは不自由過ぎた。
「──ですが」
リディアは笑顔を浮かべる彼らを見て、そっと髪結いに使ったリボンへ触れる。
『面倒な事は、ボクに任せて』
そう笑って贈ってもらったリボン。人生にレールを引かれた、不自由な境遇は兄も一緒だっただろう。けれど彼の背中は迷うことなく、ただ前へ進み続けていた。
あの決意と強さが、離れ離れになった今とても愛おしい。
(私が我儘だったのです。自分の使命から、逃げていただけだったのです)
思い出した今、逃げられない。
リディアは手の内に現れた虹の宝珠を握り、胸に当てて毅然と前を向いた。
「待っていてください、お兄様。私は必ず、自分の戦場に帰ります……!」
●
雨が、止んだ。
イレギュラーズの手には不思議な色合いをした宝珠がある。それがすっと溶けるように消えれば、辺りの様子が一変した。
雲間から光が差し込み、けぶるようだった先は見通しが良くなり。
消えた宝珠のような色合いの紫陽花が道を作って先を示す。
──行こう。この先へ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。イレギュラーズ。
移り気な雨は止みました。妖精のために、あなたのために、進みましょう。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ヘイムダリオンの先へ進む
●情報精度A
このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。
●ヘイムダリオン
混沌と妖精郷を繋ぐ正規ルート、大迷宮。幻想にある果ての迷宮同様、おおよそ迷宮とは思えない空間が広がります。
この空間はずっと雨が降り続けています。この中にいれば皆さんは『苦しい過去』を見ることになるでしょう。周りには誰もおらず、頼れるのは自分のみです。
ただ見ているだけではどうにもなりません。さあ、どう打開しますか。どう前へ進みますか。
プレイングにはどのような過去を見るのか、対するリアクションまでお書き下さい。
皆さんが見事苦しい過去を抜けたのなら、その手には虹の宝珠が握られていることでしょう。これを集めるとヘイムダリオンの先に進むことができます。ただし、1人につきチャンスは1度のみ。心してかかってください。
●NPC
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
元精霊の旅人。同行していますが、基本的にリプレイへ登場しません。
●ご挨拶
愁と申します。とても心情寄り依頼です。こういうの大好き。精神ダメージでパンドラが削れる可能性があります。
戦闘はありませんが難易度はNormalです。しっかりプレイングを書いて道を切り開きましょう!
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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