シナリオ詳細
<マナガルム戦記>Non progredi est regredi.
オープニング
●
「成程――ならば、お任せください。
ええ、クライアントを悲しませることなど、我が社では在り得ぬ事ですから」
そう、新田 寛治 (p3p005073)は言った。
幻想王国の片隅、美しい海を臨み、その傍らには聖教国ネメシスが存在するその場所は王都の喧騒より離れた穏やかな場所であった。
ファーレル領――リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)の実家が治めるその一帯の話である事を寛治が口にすれば彼女は知った様に頷く。
「ファーレル領の隣接地ですと、ドゥネーヴ領でしょうか。
……確か、ドゥネーヴ男爵は流行り病に倒れたと聞いておりますが……」
「ええ。ドゥネーヴ男爵には跡継ぎが居ませんでした。実質的に今は統治する者がいない空白地帯です」
リースリットは頷く。情勢が幾ばくか良くなったといえども、ここは幻想王国だ。先代王と比べれば『お粗末』にも程がある放蕩王子が王となって暫く経つが辺境には手が回らず、『中央』と比べれば端に行くにつれて時折そうしたことが起きる――暫くすれば三大貴族が『何とか』するのがいつもの事だ。
「王都の使者を待って居ればその間に、かの領地は荒れ放題です」
「……何かあったとでも?」
椅子に腰かけていた、ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)の眉が吊り上がる。リースリットは寛治の言葉を待つよう、手にしていたティーカップをそっとソーサーへと戻した。
「最近は、賊がドゥネーヴ領を襲撃しているようです。その被害は近隣の……ファーレル領でも噂されるほど。
ドゥネーヴ男爵が斃れた今、賊退治を行う兵力も無く、民はされるがままが現状です。『仕事で、偶然』訪れた際に、ドゥネーヴの民より声をかけらたのです」」
寛治曰く、『支払える報酬は少ないが、義に厚い方に来ていただき、賊を退治してほしい』『王都のローレットであれば、こうした依頼にも対応してくれると聞いている』と民たちは声を上げたのだそうだ。流石に『大罪殺しの英雄』として名は轟き、それを擁する幻想王国の中では信頼に篤いのだろう。
「見過ごせないでしょう?」
「ええ……ファーレル領の民にも、不安を与えて居そうですし……」
リースリットの悩まし気なその言葉に頷いたベネディクトは「分かった」とゆっくりと立ち上がる。寛治は待って居ましたという様に眼鏡を煌めかせ、リースリットは緩く頷く。
「話は聞いていたか?」
「む? なんじゃっけ……あー、つまりは『悪いやつを燃やせばいい』んじゃな!?」
菓子を一つまみ、アカツキ・アマギ (p3p008034)の悪戯っ子の様な笑みを受けて傍らに座っていたリンディス=クァドラータ (p3p007979)が「燃やす!?」と瞬く。
「歴史書の中でも、そうした悪党は良く出てきます。ですが、無辜の民が虐げられる悪逆非道、許せません!」
リンディスが憤り、頷けばアカツキは「妾もそう言いたかった」とにんまりと微笑んだ。
「さて、紅茶のお変わりはいかがですか?」
穏やかにそう告げたリュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)へとソフィリア・ラングレイ (p3p007527)が「お願いします!」と微笑む。
「えっと……そうやって虐められる人たちはお菓子も満足に食べれないのですよね?
そんなの許せないのです! うち、弱い者いじめは卑怯だと思うのです!」
「ああ。仕事だって言うんなら受けよう。相手は少しでも報酬を、と言ってるんだ。立派な依頼だ」
ソファーに腰かけていたルカ・ガンビーノ (p3p007268)がちら、と給仕を行うリュティスを見遣り「リュティスはどうする?」と問いかけた。
「ええ、勿論。お供しましょう。メイドは影――命じられれば、応えるのみです」
決まったな、とそう言ったルカに頷いたベネディクトは「ドゥネーヴ領へ行こう」と堂々と告げた。
- <マナガルム戦記>Non progredi est regredi.完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
幻想王国、その辺境に位置する場所にドゥネーヴ男爵領は存在した。聖教国ネメシスとの国境を目前としながら、鮮やかな海に隣接する豊かなるその領土えを『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は良く知っていた。隣接するファーレル領の二女たる彼女は実家においても、そしてローレットの冒険者としても『ドゥネーヴの噂』は耳にしたことがあった。
「……男爵様が御健在の頃は、治安も良く領民も暮らし易い良い地だと評判でした。
先王陛下が崩御なされて、ここ数年で男爵様も病に伏せられて……気になってはいたのだけれど、こんな事になっていたなんて」
そう口にしたリースリットは隣接しているかと言え他領である都合上、近隣領主たちの手も及ばぬ儘に賊に領を荒らされているというその現実は痛ましく感じられる。
「かつて良い治世を敷いていたのならば……こうして襲われる民を何もできないのは、歯痒いものがあるでしょうね……」
善人として、そして、民たちの信頼厚い領主が現状を憂わぬ訳も無いのだと『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は目を伏せた。
「ああ。俺は正義の騎士でも無ければ、聖者でも無い。
だが、俺に助けを求めている者が居るというならば力を貸そう。――それが今の俺にしか出来ぬ事だというのであれば」
ドゥネーヴ領へ向かおうとそう告げた『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は笑みを返す。彼ならばそう答えると分かっていたとでも言いたげな余裕な笑みは敏腕マネージャとしての手腕か。ベネディクトが往くというならば『告死の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)が往かぬわけにも行かぬ。
「お供します。ご主人様」
スカートを持ち上げて、目を伏せった従者が纏う気配は『主人の敵』へと向けられる揺るぎない敵意であった。
●
「悪い人が悪い事し放題で、皆が困るというのは大問題なのです!
悪い事した人には、ちゃんとお仕置きをしないとダメなのです」
悪い事をする人がいれば「ダメですよ」としっかりと教え、皆が幸せになると言うのが『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527) の思う平和な世界だ。お仕置きをするのは通常ならば衛兵や騎士団なのだろうが――幻想王国は、現王の怠惰な毎日と違いを牽制し合う貴族たちの睨み合いが続き、辺境には手が届いていないのだろう。
「……でも、これから行くところはお仕置きする人が居ないから、うちらがしないとダメなんだとか……ううん、これもお仕事。お仕事として頼まれた以上、精一杯頑張るのです!」
やる気いっぱいのソフィリアの横で、むすりとした『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は「『かみさま』も行っておったぞ。屑でも燃やせば暖かい――つまりは屑は暖を取る為の資源じゃ」と呟いた。
「悪い奴は燃やすが、住民を怖がらせてもいかんので今回は我慢じゃ。
……残念じゃが、代わりに後で焚火を囲んでニヤニヤする会でも開くかのう」
「そりゃ誰にウケが取れる会なんだ」
賊の『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はそうため息を吐く。そこまで口にしてから、ちら、と目を向ければ――そこには『賊』の姿があった。
「捕縛すりゃ、『焚火を囲んでニヤニヤ』してくれるだろうよ」
ルカのその言葉に、アカツキは「そうかの?」と首を傾げ、ゆっくりと神秘の杖を掲げた。
イレギュラーズ一行は愛らしい少女の姿も多く、賊から見れば『可愛らしいお子様連れ』に見えたのかもしれない。彼らを脅威として認識せずに、くつくつと喉を鳴らす賊は「どうしやす?」と後ろを振り返った。
「どうも何も女は捕らえろ。お前らが好きにした後、適当に売っ払ゃ良い。男は殺して転がしとけ。金目のモンはブン捕れよ」
背後より顔を出した男は引き締まった肉体を質の良い衣服に身を包んでいた。その姿を見て唇を噛んだベネディクトは「その衣服は民より略奪した品々で誂えたのか?」と静かに問いかける。
「ああ、そうだな。その通りだ。けどよ、そろそろ『ダセェ服』にも飽きたんだわーーお前、良い鎧着てるな。寄越せよ」
にたりと笑った男――ルノーは獲物を見る様に目を窄めイレギュラーズに向けてナイフの切っ先を向けた。溜息を混じらせて、ゆっくりと前進するはルカ。死極の名を冠するその一刀を引き抜いて、彼はやれやれと肩を竦めた。
「調子乗るのは勝手だがよ……ちぃっとばかし引き時を誤ったな?
そうなりゃもうぜぇんぶご破算。お支払いは首から上でごぜぇますってなもんだ」
じゃらりとアクセサリーが揺れる。ルカの言葉に「何だと」と唸ったルノーが苛立ったように地を這う虫を踏みつぶせばソフィリアが「虫さんが! ひどいのです!」と非難の声を上げる。
「誰に口聞いてんだぁ? 旅人さんよ。ドゥネーヴは初めてかい?
なら、教えてやんぜ。この領はよ、俺らが仕切ってんだ。分かったなら身包み剥がれて命乞いする前に帰りな」
「だ、そうですよ? 『黒狼隊』の皆さん」
静かに、眼鏡の位置を正した寛治に頷くように前線へと躍り出たのは折れた槍――魔を宿せど、宿命づけられた様に未来を請うた栄光<グロリアス>
「この領はドゥネーヴ男爵が物だ。お前らの好きにはさせない。
俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。此処でお前を打ち倒そう」
地面踏みしめ前線へと飛び出すベネディクトの前へと賊の配下が滑り込む。前線へと飛び出すことなく腕を組んだままのルノーを片眉を上げて、ベネディクトは業とらしい言葉を吐いた。
「――どうした、我々に臆したのか?」
「言ってくれるねえ! 野郎ども! 掛かれ!」
動き出した賊を見て、寛治は小さくため息を吐く。仕事を斡旋した者として傍観を決めたいが此処で、そうしているのも何とも居心地が悪い。
「では『黒狼隊』の皆様の実力、拝見させていただきましょう」
そう言葉にし、自身も戦うんですがと穏やかに紳士用の傘をステッキの様に握りなおした寛治が顔を上げる。至近距離まで迫らんとしたそれを打ち払う様に感寛治の眼前を過ぎ去ったは破壊的な魔力。
「男爵領に逃げ込んでも意味は無いのだ、と知りなさい。私達は――貴方を許しません」
澄んだクリスタルにはリースリットの魔力が宿る。炎が如き魔力の揺らめきを視線で追って、にいと笑ったアカツキは焔に魅入られたように杖に魔力を宿らせた。
「他者から奪うことしか考えられん奴というのは本当に……卑しさが滲み出ておるぞ?」
くす、と笑みを浮かべる。ヒール役を庇うタンクというのは『想定のうち』だ。ならば、邪魔立てする魔術師から瓦解させんとするアカツキが生み出す焔の疑似生命はその心の臓が埋まる部分に赫々と命を揺らし、キャスターへと襲い往く。
「ッ――なんだこいつら!?」
「英雄という者は一市民より生まれる事もある。そうした英雄譚を読んだことは? ……本は人の叡智ですよ。読まぬならば、その知恵を得ることが出来なかったという事。
賊たちよ、こうして皆さんが来たからには悪逆の徒は成敗されるが世の運命。――こういう時、決まり文句があるのです。『やっておしまいなさい』と、散らされてしまいなさい」
穏やかな口ぶりとは裏腹にそのペンは物語を励起する。魔力を伴うインクが描いた書物の名前は少女の中にため込まれた知識<キオク>そのもの。
「――『この翼でならあの空の彼方まで辿り着けよう』」
そして、その物語が仲間の背へと翼を授ける。迫り来るルノーなど、すぐに退けんと言う確固たる意思を乗せて。
ソフィリアは毒を周囲へと展開する。可愛らしい少女の小さな翼を揺らし、祈るように彼女は口にした。
「弱い者いじめはいけないのです!」
それこそが彼女の原動力だ。誰もを巻き込むように広がった毒の気配は強い決意を揺らしている。
「かかってきな、三下共。ラサの傭兵、ルカ・ガンビーノ様のお出ましだ」
前線で暴れるルカの唇が吊り上がる。ルノーの相手もやぶさかではないが、傭兵は『与えられた仕事』をこなすのみだ。前線を掻き回す様に、そして、狙うはキャスター。
癒し手をも巻き込むその一撃の儘、ルカが飛ぶように一撃を放てば、その背後より踊るは告死の蝶。その黒き翅が揺れている。流れるような仕草でその身を敵前へと投じたリュティスが目を伏せる。
その仕草に気付いたように彼女の背後へと飛び戻ったルカが「やっちまいな」と告げれば、リュティスはゆっくりと目を開いた。
「降伏するなら今のうちですよ」
最前線まで飛びこむように驚異的な魔力が飛び込んでゆく。その身その内に備えた魔力が前線を焼き払わんとするそれにアカツキは「良い勢いじゃの!」とにんまりと微笑んだ。
「ハッ、そうしてるうちにフザケタ奴も出て来るもんだぜ。
おう、悪いな。ちぃと殺して欲しそうな背中に見えたもんでよ」
ルノーの援護へ行こうとする賊を叩きつけて、ルカが唇を釣り上げる。ルノーを倒すがために刃を交えたベネディクト。そちらへ視線を送ったルカが唇を釣り上げた。
「どうするよ、お前らの親分は随分苦戦しているようだぜ?」
「ええ。――ご主人様が賊に負けるものですか」
淡々と告げるリュティスの声に「違いねぇな」とルカは笑う。援護するリンディスの声を聞きながら、リースリットはその魔力をその身に纏わせる。
「おや、弱いものを狙うという脳はあるのですね。確かに、私は明らかに戦えなさそうなビジネスマンですが――当てるだけなら少し得意なんですよ」
寛治の静かな一言と共に賊がその身を地へと横たえる。「あわわ」と声にしたソフィリアは「狙われているのです!」と首を振り、至近距離に接近した賊へと聖なる光を放った。
「そ、それでも、弱いなんていわせないのです!」
声を発するソフィリア。か弱い少女に見える彼女は慌てたように首を振れば、『この場に弱い物』などいないとベネディクトが小さく笑みを浮かべる。
ルノーとの戦いは続いている。だが、優勢に転じている事は誰が見ても明らかだ。ルノーは見誤っていた。特異運命座標を――黒き狼たちの事を。
「どうした、俺はまだ此処に立っているぞ……!
お前達も最初から畜生だったとは俺も思わない、誰もが平凡には生きられないのは俺もよく解っている。それでも、何の罪もない人々を一方的に搾取する様な事は俺は許さない!」
叫ぶように、ベネディクトが一撃を振り下ろす。ルノーのその手からだが―が零れ落ち、その体が地へと叩きつけられた。
「――終わりにしよう、互いに譲れぬ信念があるなら刃を交える他無いのだから」
喉近くに向けられるグロリアス。その意味を察したようにルノーは「降参だ」と静かに言った。
「おい、お前らの親分は投降した。まだやんのか?
やるっつーんなら付き合うけどよ。見ての通り、俺ぁ手加減は下手なほうだぜ?」
ぐん、と前線へと飛び込むルカにおびえたような声が上がる。これにて沈静化であろうか。ルノーに関しては王都の騎士団に身柄を引き渡せば無用な殺生は避けられるだろうと寛治は静かに提案した。
「さて、それでは往きましょうか」
寛治の言葉に、ベネディクトが顔を上げる。向かう先はルノー達が荒らしたこの領地の領主――ドゥネーヴ男爵の許である。
●
捉えた賊の傍に座ったアカツキはその掌に焔を揺らす。金の瞳は悪戯っ子の様に細められ、楽しげな声音はまるで『いいのか? やるぞ?』と言いたげだ。
「ほれ、髪がちりちりの焦げ焦げになりたくなければ吐くのじゃ、何なら爪の先から炎を灯していってやっても良いのじゃぞ?」
目的は賊が略奪した物資の場所だ。粗方売り払われてしまっているだろうが、まだ取り返しがつくものもあるだろう。
そっと、囁くようにリュティスは『傍らで礼』をする。その仕草は従者が恭しくも首を垂れているかのようだが――実のところスカートの中に仕込んだナイフを賊の喉元近くに突き付けているのだ。
「話す気分になりましたか?」
その雰囲気は只ならぬものだ。
「あの子たちは……」
「あれも仕事なのですよ。お気にせずに。それで、何か困った事はありますか?」
『御用聞き』を行うリンディスに領民達は『此度の動乱で子供たちの元気がない事』『貿易港が機能していない事』、そして『領内に存在する他の賊やモンスターの撃退』等を口にする。
「他にもまだまだあるだろうけど……」
「ええ、困ったことがあればベネディクトさんへ。彼の先導の下、私たちもお手伝いしますので」
領民達はああでもない、こうでもないと自身らの抱える問題を口にする。ふと、傍らを見遣れば領民の言う通り幼い子供たちは怯え竦んでいるのがソフィリアの視界に入り込んだ。
「こんにちはなのです。最近の悩みや何か困ってる事、欲しい物は無いか、ご飯はちゃんと食べれてるか……そういうのを教えて欲しいのですよ」
「いっぱい、わるいひとがくるから……」
「じゃあ、それで元気がないのですね? お菓子食べますか? こっちへいらっしゃい」
バスケットにお菓子を詰めてきたのだとにんまりと微笑んだソフィリアに子供たちが着いていく。領民達と親交を深めるのも大事なのだと感じたリュティスは「これからの不安も私達にお申し付けください」と穏やかに言った。
「ご主人様――ベネディクト=レベンディス=マナガルム卿はとてもお優しく、素晴らしい方です。
私たちもそうですが、皆さんの暮らしがより良いもので会ってほしいと願っているのです」
「どうして――見ず知らずだろう?」
リュティスは主人は困っている人は放っては置けないのですよ、と柔らかに(そしてアピールする下心を胸に)口にした。
「男爵様、お久しゅう御座います。ファーレルの二女リースリットです」
穏やかに笑みを浮かべたリースリットは幼き日に見た男爵とは随分様変わりしたものだと息を飲んだ。
「ああ……ファーレルの。大きくなりましたな」
「ええ。ええ。そして――連れの者もご紹介させていただきます」
そう答えたリースリットに寛治は常の如く身に着けたビジネスマナーを披露するように男爵に挨拶を行い、傍らに立っていたベネディクトは己の礼儀作法を生かす様に穏やかに頭を下げる。
「初めまして、ドゥネーヴ男爵。俺は、ベネディクト=レベンディス=マナガルムと申します」
そしてベネディクトは自身がローレットの特異運命座標であるという事、そして、寛治が民の声を聞き『依頼』として男爵の断りもなく領での動乱を鎮めに来たことへの非礼を詫びた。
「そうか……あの賊共を撃退してくれたか」
「ええ。彼と――そして、仲間たちのおかげで盗賊の鎮圧が為った事をお伝えしたくて参りました。
……もしかして、男爵は此度の事を把握していらしたのですか」
リースリットの表情は痛ましく変わる。良き領主として民の声を聞いていたというドゥネーヴ男爵は重く頷き自身の命が長くない事、そして、このまま何もできないであろうことを告げた。
「……もし、今後俺に何か出来る事がありましたらご用命を。出来る限りの事はしたいと考えております」
「……そうか」
もう先は長くない――そして、このままではこの領はまた荒れてしまうだろうと憂う。
寛治はそっと、病床の男爵へと歩み寄った。その顔は痩せこけ、彼の言う通り命はもはや長くはないのだろう。
「…… 男爵。こちらのマナガルム卿に、この地の代理統治、代官を任せるのはいかがでしょう?」
主要な目的は領地の治安維持、そして住民の慰撫。近隣貴族への根回しなどは必要となるだろうが、そのあたりもローレットと寛治がバックアップすると告げた。
「それは――」
男爵の眼がベネディクトを捉える。寛治は男爵の視線の意図を読み取った様に大きく頷いた。
「大事な事は、男爵がそう望まれるか。そしてマナガルム卿がそれを受けるか、です」
男爵は言った。
もしも、君たちが良いのならば、ドゥネーヴ男爵領を任せたい。この命先は長くない、自身が亡くなった時に、この地を守る者が居らぬことはとても恐ろしい事でしかない。
どうか――この領土と領民を、守ってほしい。
その言葉を胸に、屋敷から出ればルカが三人を出迎える。
「よぉ、ベネディクト。必要になるならうちの傭兵団から人は出せるぜ。もちろん、報酬は貰うけどよ」
どう転ぶかは分からないが何となく必要になりそうな気配がするとルカはそう口にした。
御用聞きに走る仲間たちの事を思えば彼の予感は正解だろう。賊によって荒らされた村々では男手もずいぶん減った事だろう。
「あ、お兄さん。さっきはありがとねえ!」
遠くより手を振る女と小さな子供にルカはふん、と鼻を鳴らして小さく笑う。
「俺は雇われだからよ。礼ならベネディクトに言ってくんな」
「だ、そうですよ。ベネディクト卿」
囁く寛治の声にベネディクトは頷いた。
ドゥネーヴ領の明日は――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でしたイレギュラーズ!
ドゥネーヴ領をこれからもどうぞ、よろしくお願いいたします!
GMコメント
リクエストありがとうございます。
オーソドックスな戦いですが、今後の事も考えた方がよさそうな土地ですね……。
●成功条件
ドゥネーヴ領の賊を撃退する。
●賊*10名
リーダーが1名。その名を『ルノー』、その他9名が彼に付き従います。
自身らに虐げられる民は搾取される物であり、抵抗できぬのが悪いというのが彼らの考えです。
ドゥネーヴ男爵が斃れた事を知り、ドゥネーヴ領で得れるものは全て得てやると暴れまわっています。
・ルノー
前衛型。ダガーナイフを獲物として戦います。非常にすばしっこく狡猾です。
特に女性を甚振るのが好ましいようです。其れなりに脅威です。
女子供は資源扱い。男を邪魔者だと先に『処分』しているようです。
・手下9名
ルノーの手下たち。タンク型2名、スピードファイター2名、剣士2名、キャスタータイプ1名、ヒーラー2名。
ルノーには忠実であり、民を甚振る事に罪悪感はありません。
●ドゥネーヴ領
天義にほど近い幻想王国領。海が美しく資源が豊富です。
ドゥネーヴ男爵が病い臥しており、彼には妻や子もいないために実質的には指導者を失っている空白地です。
もう先は長くないと考えており、王都での療養を切り上げてドゥネーヴ領に帰ってきましたが賊への対処を行う程の余裕はないようです。
民たちはドゥネーヴ男爵を慕っていましたが、彼亡き後にこの領地がどうなってしまうのかと不安を募らせています。戦闘時は避難しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Tweet