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シナリオ詳細

<虹の架け橋>世界で一番孤独な少女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●金糸雀の歌は届かない
 赤いものがちらつき、大きくなり、何もかもを巻き込んでいく、光景。
 『同族』らしき人物が笑いながらそれを為す。何度も何度も楽しげに。先程燃え落ちた『松明』には腕と足が生えていたように見えた。気の所為だろうか?
 分からない。そんなものが私に起きた事だったかも思い出せない。
「怖いのかしら? 辛いのかしら? それとも、悲しい?」
 同族は私の表情に何を見出したのだろうか。私はそもそも、それと会っているのだろうか。
 分からない、分からない、何故ならそれを記憶として覚えていないから。
「みんな忘れてしまえばいいの」
 そう聞いた覚えがある。
 忘れれば楽になれるのか。
 ひきつった笑みでそれを受け入れた私は、最後に、空の隅で悲しげに舞う小さい影を見た。

 そもそも、受け入れたのか、拒絶したのかも覚えていないままに声の出し方も忘れてしまった。
 おしえて。
 いまの私の『言葉』は、誰かに届くものなのでしょうか。

●伝承と悲劇の爪痕へ
「我々としては、この村の跡を何とか元の形に戻せないかと考えておりまして……それというのも、この村はかつて妖精郷に繋がる伝承や交流の記録が『あった』と近隣の村はいうのです。ある夜、燃え落ちてしまったのでその情報を持つ者が残っているかも疑わしいものですが……」
 年嵩の幻想種は、数名の若い者を従えてイレギュラーズと相対していた。
 迷宮森林の中で場所を指定される事自体が中々難易度の高い呼び出しだったが、エルシア・クレンオータ(p3p008209)の案内もあり、そこまでは問題なく辿り着けた。
 どうやら、妖精郷に親しいこの村は『虹の架け橋』と呼ばれる術詩、そして『ヘイムダリオン』に関しても一定の情報を持っていた可能性を秘めているのだという。
 だが、数年前の謎の火災で村は壊滅。出身者の殆どは見つかっても前後不覚に陥っていてどうにもならなかったというが、そんな中で一つだけ重大なヒントがあったのだ、と。
 その人物を保護するにあたって村の復興は急ピッチですすめており、復興を祝う祭りも催せたらと思っているが……肝心の本人が見つからなければ前述のヒントが見つけられない可能性まであった。
「村長の娘は遺体もなく、その後の行方も定かではないので、もしかしたら近くで生き延びている可能性が高いのですが……何分、情報が少ないのと、彼女自身がどこまで記憶を失っているか定かではないもので」
 記憶を失っているのは確定的らしい。今までの話の流れからするに、「村を燃やして記憶を奪った何某か」の影がちらつく。
「ただ探すだけならわしらでやるべきでしょうが、何分この辺りはジバクゲラが群棲しているのと」
 待って、ジバクゲラってエルシアのその場凌ぎのホラじゃなかったの? そんな顔をした数名がいたが忘れてほしい。
「……この辺りで、声とは言えないような音を聞いたと、比較的幼い子らが言っていたのを耳にしましてな。もしかしたらですが」
 村長の娘御は、もしかしたら言葉の発し方すら忘れているのではないか。
 そういって話を終えた幻想種の顔をまじまじと見てから、イレギュラーズははたと考え込む。
 言葉の通じない相手を探す手段。相手の声を声として聞き分ける手段、言葉を取り戻させる方法。
 そして、非常に業腹だがジバクゲラ達をなんとかやり過ごすか凌ぐか打倒するその方法を、どうするか。
 時間は十分にある。まずは考えることから、事は始まる。

GMコメント

 エルシアさん関連よくばりセットみたいな内容ですが関係者がうろついてるんじゃそうもなりますよね。
 内容は極めて一般的な戦闘あり探索シナリオです。

●達成条件
・『声なき少女』の探索および発見
・捜索中のジバクゲラの積極排除

●声なき少女
 正確には「声の可聴域の概念を忘れた」少女。(「●金糸雀の歌は届かない」はPL情報であり、救出後に同様の話を聞くことができます)
 村の跡に残されている妖精伝承のヒントにより(委細描写はされないかもしれませんが)『ヘイムダリオン』踏破に貢献できます。
 か細い声で助けを求めながら森を放浪していますが、周囲の動物や予期せぬ魔物の襲撃を避けるため認識阻害系のスキルと気配を遮断する系統のギフトで所在を明らかにしていません。
 また、彼女が発する声は一般的な成人(種族問わず25歳前後~)の耳には聞き取れない音域で発せられています。
 救出後に声を取り戻す手伝いは可能ですが、見つけるとなると「視覚」「感情関係の探知ジャミング対策」「聴覚の何らかの工夫」もしくは複合要素により探索精度を上げる必要が出てきます(これだけだとナンノコッチャですが、少なくとも「聴覚」に絞って探索するなら若いほうがより有利です)。
 足跡や生活痕跡などを追う系統や、環境に左右される系統の非戦スキルも用意して無駄になるものはないと思います。創意工夫で有利になりますし、「不用意で闇雲に捜索」が「当てずっぽうだが用意を万全にしての捜索」を上回ることはまずありません。

●ジバクゲラ
 エルシアさんが過去に口を滑らせて話題に上った、存在の真偽が極めて怪しかった鳥の一種。だが証言と異なり
・超射程からの移・反動大・火炎付与・ブレイクの中~大ダメージスキル「自爆突貫」を持ち
・HP残量に反比例してEXAが上昇するパッシブスキル「死への疾走」を有し
・かなりの群れで行動する
 存在であることが明らかになっている。
 まあ数が数なので相対的に個体性能は高くないのだが。

●フィールド+状況
 迷宮森林内・失われた村近隣区画。
 対象範囲は広いですが、捜索に割ける時間はかなり長めです。
 慌てず探せば光明が開けます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <虹の架け橋>世界で一番孤独な少女完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

リプレイ

●少女はただ生きていたくて
 音は聞こえている。
 声が誰かに届いているのか、それはわからない。何故ならあの日から、誰とも会ったことがないのだから。
 迷宮森林は幻想種にとって生きるに苦でなく、あるき回るのに不便ない場所だ。そのはずである。
 だが、どこか奇妙な特徴を持った鳥や私を追いやった誰かのような、悪意に満ちた存在にはとても弱いのだ……少なくとも私はそう理解している。
 届くか分からない声を上げ、しかしなにものにも見つからないことばかり望んでいる。
 孤独であらねば生きてはいけぬ。生きるために、少女は自らと世界の間を断つ決意をし。
 ……そして、世界を捨てきれずにいる。

「もうずっと森の中を彷徨ってるってこと……?」
「誰かの仕業っつーんなら……そりゃあ随分気分が良くねえ話だ」
 依頼人からことのあらましを聞いた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の表情があからさまな不快感に歪む。故郷を焼け出された少女は逃げるしかなく、帰る場所がないのだから路頭に迷う。『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、それを行った『誰か』の影に強い不快感を覚えたに違いない。正義の味方を気取る気はない。彼は傭兵なのだから。しかし、そんな相手を放って置いて良いと思うほど人非人でもないという自覚はあるのだ。
「何だか、悲しい絵本みたいな話ですね……」
「妖精郷への行き方に関わってると聞くと尚更、物語じみているな」
 『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がしみじみとつぶやくと、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)もまた、小さく頷く。歌を忘れた小鳥というのは、責め苦を受けるものだと説く歌もあるが、果たして声を奪われた少女は如何な運命を背負えばいいのだろうか。不当に責められる謂れもないというのに。
「カッカッカッ! エルシアさん案内よろしくな! ……どうした?」
 『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)は陽気に笑いながら『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)を覗き込み、その表情がどこか混乱と少しの怯えが入り混じっていることに気づく。一般論でいうと『村を焼いた下手人』に対する感情と見えるが、実は違う。
「まさか、本当にジバクゲラが実在したとは……」
「……そんなに珍しいものなのかい?」
 エルシアのあまりのj表情に、『暴風バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は思わず聞かずにはいられなかった。彼女は知るまい。そもそもジバクゲラという鳥自体、エルシアの口から出任せに近いかたちで語られていた怪生物であるということを。
 説明に窮すエルシアを不思議な目で見る仲間、彼女のか弱さに俄然やる気の湧いているウィズィニャラァム、そしてその背景にある敵意を理解しようとする者。様々な感情が交錯するなか、『探究者』ロゼット=テイ(p3p004150)はしばし考え込んでいた。
「……『この者』はそう思う。だから彼女を助ける」
 ややあって絞り出した言葉にどれほどの重みがあるのかは分からない。だが、彼女の決意がより固くなったことは明らかだ。

「……で、長老に聞いた話が間違いねぇなら、洞窟みてーなトコはなし。川とか水源は幾つか。虫とかを避けてる可能性は」
「同じ幻想種としては、そこまで神経質じゃないと思うんだ。でも、水場を探すのは良いと思う」
 ルカとアレクシアは、長老から聞いた話を反芻しながら先行する。この辺りに詳しいエルシアが先行すべきかもしれないが、彼女は守られるべきか弱き少女だ。ウィズィニャラァムがしっかりと守らねば、今にも消えてしまいかねない。
「フッ、こんな美少女を庇わせて頂けるとはやる気が出まくりますね!」
「ウィズィさんに護衛いただけるなら励みになります! ジバクゲラ、怖いですからね……」
 この二人の間に漂う穏やかな空気は、よもや狂気一歩手前の推理合戦で培われた絆だとは誰も思うまい。エルシアの周囲に舞う契約精霊は、彼女と植物との対話を仲介し、より確かな記憶を引き出そうと促していく。
「目に見えない、聞こえない、匂いを隠してる、ってんなら探しづれぇのは当たり前だよな。『それぞれだけ』なら、俺じゃあお手上げだ」
 ボーンは冗談めかして両手を上げ、やれやれと首をふる。人間形態をとっている彼のシニカルな所作は、口ぶりも合わせ「それで終わらない」という確信を思わせた。……事実、彼の知覚能力は平均して秀でている。
「足跡はよく隠せてる方だが、匂い……いや、『香り』か? 自然じゃあんまり嗅がないようなモンが漂ってやがる」
「聞こえない音を感じ取れれば良いんだけど、ジバクゲラ? に無防備なまま襲われたくないんだよな」
 ボーンが慎重に歩を進める後ろで、モカは周囲に視線を飛ばしながら深く呼吸をひとつ。いつ、どこから襲われるか分からない以上、捜索にだけ注力するわけにはいかない。それは彼女とてわかっている。わかっているのと、納得するのとでは話が別だということも。
 だが、思い通りに行かないことは不幸とは限らない。聞き耳を立て、声の波長を拾い上げようと腐心していた彼女の耳は別の、もっと緊急性の高い音を拾い上げたのだ。
 上空を旋回していたサイズは、木々の間を舞うそれに気づくのが一瞬遅れた。だが、そんなものは誤差だと言わんばかりの数が、次々と枝から枝へと舞い、消えていく。
 鳥の声というには、いささか物騒な鳴き声をあげてジバクゲラが突っ込んでくる。モカは僅かに膝を曲げ、一瞬の溜めからするりと左足を持ち上げ、その嘴をへし折った。接触の衝撃はその身を揺らしたが、鍛え上げた体軸を揺らすほどでもない。
「覚えたぜ……テメェ等の匂い!」
 モカとの接触で飛び散ったジバクゲラの破片から視線を切り、ルカは上空を見ずに闘気の塊を打ち上げる。見ずとも、鬱陶しいほどに主張が強い匂いなど辿れて当然、とばかりに。
 そしてその自負は全くの誤りなどではなく。我先にと突っ込んできていたジバクゲラの集団は、闘気との接触で爆ぜ、その破壊力にのまれ、次々と落下していく。
「ウィズィさん、お願いします……!」
「フッ、いよいよですね……さあ、Step on it!!  私が通りますよ!!」
 エルシアの助けてオーラは、ウィズィニャラァムの庇護欲をもりもりと刺激した。ハーロヴィットを見せつけるように振るった彼女目掛けジバクゲラが殺到し、しかし彼女の一振りのもとに次々と墜落していく。爆散は形も残さず、思いがけぬ破壊と破壊の相乗効果は、本人ですら驚きを隠せない。
「可愛い子達は守らねェとな! ふたりとも俺の後ろに隠れてな!」
 ボーンはそう言ってエルシアらの前に立つと、なおも降り注ぐジバクゲラに身を晒す。
 本来の姿に戻った彼は、しかし先程までより数段男らしい雰囲気を醸し出している。腰を低く構えた彼は、迫る敵へと狙いを定めた。

●彼らはただ救いたい
「流石は幻想種、と褒めるべきなのか判断に悩むな。ここまで人工物と縁がないとは……」
 地面に降りてきたサイズは、半ば呆れともつかぬ言葉を残しつつ首を振った。構造物、人工物のたぐいがあれば彼の能力が役にたったのだろうが、無いものから情報を引き出すことは難しい。だが、それは同時に。道具で代用できる雑務を手作業で行った分、余分に手間がかかっている可能性を示唆していた。
「草をかき分けるのも、水を汲むのも、ご飯を食べるのも。沢山苦労して生きているってことだよね」
「なんて辛く……苦しい話なのでしょうか。草達をかなり丁寧に避けているのも含めて、心優しい方なのですね」
 アレクシアは、使い魔から得た情報と植物との対話で、少女の移動経路を探ろうとする。手間がかかれば痕跡もより濃く残る。少しずつでいい。確実に彼女を探し、助けてあげたいと願っている。
 エルシアとてそれは同じことで。植物達との対話に加え、言葉に表されぬ植物のあり方、踏まれ方などによる僅かな差異まで見落とすまいとしていた。
 そうすると、必然的に見えてくるのは「少女が植物を酷く大事に扱っている」という事実。幻想種だから、という域で説明がつかぬほどに、慎重な足取りなのだ。
「――え?」
 一同が少女の足取りを求めて右往左往する中、ウィズィニャラァムが突如として足を止めた。困惑の表情と耳に手を当てた所作は、一同に『それ』を気づかせた。
「聞こえたのかい? 声が」
「しっ……本当にギリギリ聞き取れました! 申し訳ありませんがお静かに……」
 ボーンの驚きの声を手で制すと、ウィズィニャラァムは目をつぶる。彼女が耳を傾けたことに合わせるように、ハーロヴィットが微振動を繰り返す。先程までうんともすんとも言わなかったのに、今になって。
「草を避けようとしているのだろうか。この者には声は聞こえないが」
 声は聞こえずとも、不自然な動作音なら聞こえる。ロゼットの言葉は言外にそう告げていた。そして草花を気遣う少女の足取りは確実にロゼットの耳へも届く。
 少女は近い。ほんのわずか、助けを求める声が聞こえてくる。ウィズィニャラァムの持つ音感と、アレクシアが使い魔を通して拾える声がやっとのレベルで。
 ボーンはやがて、視界の端に違和感を覚える。慌てて向き直ったそこには、僅かに歪んだ輪郭が映っている、ように思えた。
 意識を集中させ、テレパスで語りかけるが、壁に反響したような感触が返ってくる……心の声をも遮断しているのか。そこまでの感情に至るまで、どれほどの苦難があったのだろう。
「俺達は君を助けに来た者達だ」
 近づかず、そこにあるであろう視線に己のそれを合わせるべく腰を落とし、ボーンはゆっくりと語りかける。輪郭は少しだけ震えた後に、少しずつ形を取り戻していく。
「…………。……」
「色んな事、無理に思い出さなくても大丈夫だよ」
 アレクシアの耳には、声は届かない。だが、彼女が何を訴えようとしているのかは伝わってくる。同じ女性として、幻想種として歩み寄ろうとした時、傍らから駆けていく影があった。ウィズィニャラァムだ。
「よかった!声、聞こえたよ!やっと会えた!」
「…………?」
「うん、うん、分かるよ! 大丈夫、あなたのいた村へ連れて行ってあげるから!」
 ウィズィニャラァムは少女の手を掴み、引き寄せるように肩を抱いて背中を撫でる。ぱくぱくと口を開く少女に合わせて言葉をかける彼女を見れば、会話が成立していることは明白だ。
「無理に思い出す事ぁねえ。ゆっくりで構わねえんだ」
「ええ、大丈夫です……あなたの村も、あなたももう大丈夫です」
 ルカとエルシアも、少女の泣き顔へと優しく声をかける。ここで無理を強いて彼女の心を閉ざす必要はない。時間を許されるのだ。
「一度、村に返してやろう。あとはあっちの連中と……俺達の役目だな」
 ボーンは、少女達の交流をひとしきり眺めてからようようと声をかける。目を瞬かせた少女の手を引き、アレクシアが村の方へと一歩を踏み出した。

●その顛末
「妖精郷の伝承が残っていたのは幸いだった。石版や木彫りのものがメインで直す必要もなさそうだけど……妖精郷の情報があるのは助かるな」
 サイズは、村長の家があった場所を掘り返すことで、村に残されていた伝承などを手に入れることに成功する。
 少女の声を根気強く聞き取ったウィズィニャラァムら若い面々の功労があってこそだが、彼はその文章を読むにつれ、表情を固くする。
「どうした? 読めねえモンでもあったのか?」
 ルカがその様子に気付き問いかけると、そうじゃない、とサイズは首を振る。
「文章の意味は通ってるように見えるんだが、暗号? なんだろうか。所々違和感が……」
「あの娘が何か思い出せば……か。無理強いするワケにもいかねえ、根気強く待つしかねえか」
 話を聞いていたボーンが息を吐くと、残り二人も揃ってため息をひとつ。少女が助かったからといって、それで終わりともいかない。かといって、彼女が記憶を思い出したショックでより声を失うことになれば目も当てられない。
「記憶は、自分がそこにいたという証明だ。それはもとより不確かなのかもしれないけど、『私』達の手にあると本当に言えるのはそれくらいだ。悲しくても苦しくても、誰かの自由にさせてはいけない。記憶は、君のものであるべきだ」
 ロゼットは、モカが入れた茶の湯気越しに少女に語って聞かせる。逡巡はあった。苦痛を思い出すことがいいか、悪いかは彼女が決めることではない。だが、向き合ってほしいと思ったのは確かだ。
「あなたの声が聞きたいと、待ち望んでいる人はたくさん居ます。全部は思い出せなくてもいい。私達と話すために、皆と話すために、少しずつでも声を思い出しましょう。急ぎません、待ってますから」
 ウィズィニャラァムも、噛んで含めるように言い聞かせ、少女の反応を待つ。小さく、こくりと頷いた少女はエルシアの方を向き、少しだけ怪訝な表情を浮かべてから口を開いた。

 村の少年達と、イレギュラーズの若い面々がまず反応した。
 それから、かすれたような音に年嵩の面々が眉根を寄せた。
 ……しばらくして、その場にいた全ての面々が目を瞠った。

 『それ』が歌であることに気づくまで、一同はしばしの時間を要した。
 それから、その歌がサイズの見つけた伝承を形にするための符号であることに、少ししてから気づく。

「あなた……に、よく、似た人。村を、燃やした人……」
 少女は歌い終えてから、エルシアに憐憫と憎悪の混じった表情とともにその言葉を残し、糸が切れたように倒れ込んだ。
 幸いにして、少女の命に別状はなかったが……エルシアの心には、僅かな蟠りが残るのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)[重傷]
Pantera Nera

あとがき

 お疲れ様でした。
 少女はなんとか声を取り戻し、伝承の解読もいい感じに進みそうです。
 ……さて、最後に謎が残りましたが、こちらはいずれ何らかの形で日の目を見ることでしょう。

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