PandoraPartyProject

シナリオ詳細

やっぱり神様なんていなかったね。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 助けてください。助けてください。助けてください。助けてください。助けてください。


 ――救世主はやってくるだろう。もはや必要ではなくなったときに。
 そう云ったのは何処の世界の、どの時代の、どんな哲学者であったか。
 何にせよ、その身に余る程の絶望が、その者に溢れていたのだろう。
 そうでなければ、こんなにも皮肉な言葉は出てこない。
 そして。
 今の、この時。教会で彼の信仰する神に祈りを続けている少年も、その哲学者と同じくらいの絶望を宿しているのかもしれない。

 ――神さま。どうか、お願いです。僕たちを、助けてください。

 言葉は宙に舞い、思いは地に落ちる。思いの籠らぬ祈りは、天には届かぬ。
 兄殺しの大罪に怯えたかつての王は、しかし、その祈りを以て神に罪を赦された。
 しかし。
 この少年の悲痛な――噛み締めた唇から朱が流れる程に悲痛な願いを、神は受け入れてはくれなかった。
「――アンジェロ! こんな所に居たのかね!」
 慌ただしい足音と共に教会内に、祈りを捧げている少年の名を呼ぶ声が響いた。
「村長、そんなに急いで……何があったのですか?!」
「また村に魔物が出たぞ! それに……」
 村長と呼ばれた男は、思わずそこで口を噤んだ。
 アンジェロは、村長のその態度に、すぐさま最悪の予感を頭に浮かべてしまった。
「まさか……」
 首を横に振ってくれ。
 思い違いであってくれ。
 そう思いながら口を吐いたアンジェロの言葉に、
「……落ち着いて聞いてくれ」
 村長はそう返して、アンジェロの肩に手を置いた。
「エレナが……君の妹が、魔物に連れていかれてしまったのだ……」
 その村長の言葉に、アンジェロの身体から力が抜けた。
「この村にはもう、魔物を追い払う人手も、況や攫われた者を助けに行く人手など残されていない……。
 ただ、このことを、君にだけはすぐ伝えねばと……」


 『煉獄篇第五冠強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテによる天義への侵攻で“コンフィズリーの不正義”の真実をイレギュラーズは知ることとなった。
 そして、ベアトリーチェを撃退せしめた代償として、《天義》(聖教国ネメシス)国内は瓦礫に塗れ、弱体化し、強国であった頃の面影を薄めてしまった。
 《特異運命座標》(イレギュラーズ)の支援の下、騎士団が中心となっての復興活動が行われているが、まだ道半ばである。
 そうした状況の余波なのか、天義内のとある村が魔物の侵略を受けているものの、騎士団の援護を受けられず、継続的に村民に被害が発生しているという情報がローレットへと伝わってきた――――。

「こうした依頼が、後を絶たないな」
 ポテト=アークライト(p3p000294)がぽつりと呟いた。その言葉は横を歩く夫、リゲル=アークライト(p3p000442)を始め、同行する仲間にも聞こえていた。
 ポテト達イレギュラーズ一行は、今、件の村を目指して移動をしている最中である。彼女達は天義の復興活動の意義も兼ねて、魔物対処の依頼を請け負っていた。
「そうだな。
 ……この前は、ベアトリーチェの復活を目的とする教団による子供攫いだった」
 リゲルの返答に、ポテトが頷いた。
 帰る場所、大切な国を守るために。今は亡きリゲルの父の願い、遺言を叶えるために。
 ポテトとリゲルは今では強い絆で結ばれ、復興に尽力している。
 ……しかし、この国に残された傷跡は余りに大きく。
 未だに、無垢な犠牲が続いているのもまた、現実であることを二人は痛感していた。
「この国を、もう二度とあんな不気味な霧に覆わせない。
 そう思うのは簡単、けれど、成し遂げるのは決して楽な道程ではないのねぇ」
 ……それでも。やり通すしかない。のよねぇ。頬を僅かに紅潮させたアーリア・スピリッツ(p3p004400)がやや胡乱な眼つきで続けた。
 この旅路を持参の葡萄酒で景気づけている彼女も、ここ天義の産まれである。
 酔っぱらいの様に掴み処の少ない彼女も、思うところがあるのだろう。
「別に、何時であっても、やること自体は変わらない。
 平和な世になる様に、自らの能力を発揮するまでだ」
 ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が杖を肩に乗せ少し軽い調子で言った。ウィリアムも、リゲルやアーリア達と、先日謎の教団から子供たちを救っている。そして、グドルフ・ボイデル(p3p000694)もまた同じくであった。
「ハッ……! 魔物如き退治する力も無ぇのか、今の騎士団は!
 ナってねぇ――だが、そんな魔物如きの“山賊紛い”も気に入らねぇ!」
 グドルフは、アーリアから分けてもらった葡萄酒を嗜みつつ、大きな声で捲し立てた。
 “奪う”のは自分の仕事である。それを邪魔して、尚、自身の庭を荒らすというのなら、グドルフのすることは一つしかない。
 そしてそれは、
「天義という国の盛衰、人を拐かす魔物。その辺りの機微は吾にはよく解らん。
 が、其処に地獄の欠片でも在ると云うならば。――カカ、吾の出番よな。
 腹満たせるかは知らぬが、精々、手合わせ願おうぞ」
 魔物の撃滅に違いない。次第に艶麗さを増していく咲花・百合子(p3p001385)が腕を組み笑みを浮かべながら言った。
「……」
「……」
 各自の意気込みを告げる一行の中にあって、しかし。
 ――夜乃 幻(p3p000824)とジェイク・太刀川(p3p001103)の二人は、互いの間に妙な距離を感じさせながら、押し黙っていた。
 ……幻は無感情を装いつつジェイクの方が気になって仕方がない、ジェイクも居心地悪そうにガリガリと頭を掻いて落ち着きがない様に見受けられた。“バーでの一件”が尾を引いているのであろう。
(……おい、なんだよあれは。どう見ても空気がおかしいぜ。ナンかあったのか?)
 グドルフは肘で百合子の腕を突きながら声を潜めて問うが、
(ん? 何がだ? 何か変か?)
 百合子は一切その辺りの機微に疎く、グドルフは「聞く相手を間違えたぜ」と頭を抱えた。
「もうすぐ着くようだ――が」
 ポテトの眼前に小さな明かりが見え呟く。と共に、人影が一つ。
「――シャリテか!」
「久方ぶりだな、同志リゲル!」
 リゲルの声に、白髪童顔で法衣を着る青年――シャリテと呼ばれる青年が、微笑みながら返した。


「ここからは私が道案内しよう。村にも話は通してある」
 そう言ったシャリテを迎え入れたイレギュラーズ一行。
「……シャリテは海洋出身なんだが、今は天義へ移民し生活しているんだ」
 リゲルの紹介に、シャリテが頷き、口を開く。
「ええ。この国の性分が私に合うみたいでね。
 リゲルと私は、天義を復興させるという熱い情熱でもって共感を持つ、同志という奴だ」
 シャリテは今回の件も、ローレットへと情報提供をしてくれている。リゲルにとっても貴重な理解者だ――少し、熱血が過ぎるところもあるが。
 近況報告を交えながらイレギュラーズ一行が村に足を踏み入れる。……が、どうも雰囲気がただ事ではない様子であった。
「どうしました? 何かありましたか?」
 シャリテが丁寧口調で近くにいた村長に尋ねる。村長の顔色は良くなかった。
「――あ、ああ、シャリテさん! 来てくださいましたか……!
 実は、先ほど魔物が、また人を攫って行ってしまいまして……」
「……!」
 村長の言葉に、ウィリアムの視線が揺れた。
「そればかりか、攫われた娘の兄が、彼女を連れ戻そうと村を出て行ってしまったのです!
 並みの兵士では倒しきれない魔物を、いち村人である彼が倒せる訳など無いのに――」
 アーリアは葡萄酒の栓をしめなおし、口を開く。
「どうやら、一息つく暇は無いみたいねぇ」
「――ああ」
 ポテトがそう言って頷くと、リゲルがシャリテの肩を叩いた。
「すぐに、後を追おう――!」


 神を信仰せよ、と皆が言う。
 だから、アンジェロとエレナの兄妹は、村の中で誰よりも敬虔に神を信仰し、人々に親切にして生きてきた。

 ――それでも神は、助けてくれなかった。

 アンジェロは、日が沈み昏くなりつつある森を、一人で駆ける。
 手には斧を。目には“不正義”を。

 ――神は自ら助くる者を助く?

 それなら、ああ。やっぱり。

「――神様なんていなかったね」

GMコメント

■ 成功条件
・ 魔物『サテュロス』の撃破

■ 情報確度
・ B です。
・ OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。

■ 現場状況
・ ≪天義≫(聖教国ネメシス)内にある村の外れ。時刻は日没頃。森の中に魔物の住処(巣)があります。
・ 巣自体は少し奥行きのある、小さな祠の形で5つ程度あり隣接して存在します。
・ 会敵自体は、その巣の外、深い森の中で行われます。

■ 味方状況
● 『『正義の鉄槌』シャリテ』
・ 天義所属。海洋出身で飛行種(スカイウェザー)の青年。
・ 鉄製の杖を用いた打撃系の攻撃や、魔術を用いた神秘攻撃が可能です。
・ リゲル=アークライト様と面識があり、イレギュラーズの友軍と成り得ます。
・ 指示を出せば、ある程度は動きます。

● 『アンジェロ』
・ 天義に住む少年。
・ 極めて敬虔な信仰者ですが、村人や妹を魔物に連れ去られ、信仰を失いつつあります。
・ 粗末な斧を一本だけ手に取り、魔物の巣がある森へ向かってしまっています。
・ イレギュラーズが魔物の巣に到着した時点で、既に魔物の攻撃を受け重傷を負っていますが、生存しています。巣の外で横たわっており、特に何もしなければ、そのまま死亡します。(依頼成否には無関係)

● 『エレナ』
・ 天義に住む少女。
・ 極めて敬虔な信仰者ですが、魔物に連れ去られてしまっています。
・ イレギュラーズが魔物の巣に到着した時点での生死は、不明です。居るとすれば巣の中ですが、特に何もしなければ、そのまま行方不明となります。(依頼成否には無関係)
・ エレナ以外の連れ去られた数名の村人も同様ですが、エレナよりも死亡の確率は高いでしょう。

■ 敵状況
● 魔物『サテュロス』×10体
【状態】
・ 森に巣食う亜人型の魔物です。
・ 人間よりも一回り大きい人型の体躯と背中に翼を有し、一見すると天使の様ですが、容姿は醜いです。
・ アンジェロ達の住む村の近くにある森に巣を作り、騎士団が満足に動けないのを良いことに、村人を誘拐し餌にしています。
・ 人語を理解し、会話することが可能です。
・ 巣に近づく者には、徹底的に反撃をします。

【能力】
・ 並みの歩兵程度であれば返り討ちに合う程度に、強い魔物です。
・ 弓や剣を用いた物理攻撃だけでなく、楽器の様なものを演奏し神秘攻撃も仕掛けてきます。

■ 備考
・ 『『正義の鉄槌』シャリテ』様は、リゲル=アークライト(p3p000442)様の関係者です。

皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • やっぱり神様なんていなかったね。完了
  • GM名いかるが
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

リプレイ

●プロローグ
(家族が攫われたなら、命を懸けて取り返しに行くのも当たり前……か。
 無謀だけど、そうしてしまうものなんだろう)
 ウィリアムが此度のアンジェロの動きをそう分析した。
(――俺は神様なんて大して信じちゃいないが。……でも、そうだな。
 此処に俺達が来れたなら、そして、間に合ったなら――それこそが“神様の思し召し”なんだろう)
 昏き森を往くウィリアムの碧眼が、明確な意思を以て煌めく。
「――絶対に助けてやりたいな」
 ぽつりと漏れたウィリアム言葉に、ポテトが頷いた。
(私にとって“神”と呼べるのは、元居た世界の女神様のことだから、明確に居ると言えるが。
 何を神と思い、心の支えの一つとするかはその人次第だ。
 アンジェロは神様を否定したが――。今はアンジェロの信じる神様に、彼らの無事を願おう)
 ポテトの横を駆けるリゲルも、彼女と同じく神を信ずる者だ。そして、
(神様は居ない……。
 俺も父上が魔種となった時に、神を恨んだことは否定はできない。
 その辛さが解るからこそ――)
 一度は否定した神を、彼は見捨てない。
「アンジェロもエレナも助けてみせる……!」

(――私の世界に、神はいません。
 “神と呼ばれるもの”が産まれる様を、夢の世界で見てきたのですから、間違い御座いません)
 一方、幻は、リゲル達とは異なり“神”を否定する。
(ですが神を信じられなくなれば、天義という国で生きにくくなることは間違い無いでしょう。神を信じなければ生きていけない場所でしか生きていけない人々もいるのです。
 ……ですから、アンジェロ様には)
 散々と見てきたこの混沌世界の業に、幻は一つ息を吐き、
「――せめて救いはあるということを身をもって知って頂きたいですね」
 と独り言ち、――それにしても、と。
 幻がちらと隣を歩くジェイクの横顔を窺う。
(何故ジェイク様が同じチームなのですか……)
 ……慎重に、決して気取られないように、極めて自然を振舞って。
(僕のことはお嫌いなのではないのですか……。
 僕はこんなに、あなたをお慕いしているというのに……)
 ――駄目だ。任務に集中しなくては。無意識に、腕を擦る。服の下には、彼の事だけを考えて編んだミサンガがある。
 幻は努めて自らの視界からジェイクの姿を外す……そして、そんな幻の努力も空しく、当のジェイク本人は、彼女の視線に気がついていた。
(……クソ。幻とは色々あって一緒に行動するのはやりにくいが……)
 ジェイクは無意識に手首を撫ぜた。
 一度は着けたそのミサンガは、今は、もう無い。
(――今は村人や兄妹を助ける事に意識を集中させよう。
 何せ俺たちゃー―プロだからな)
 お互い交じらわない様に視線を逸らしているのにお互い、考えることも、結論も同じなのだから――ああ、余計にタチが悪い。
「まぁ、信仰など吾には縁の遠い事よ、神を憎むも信ずるも好きにするがよい」
 ――そも、神の存在非存在にすら興味が無い、と百合子は微笑む。
「吾に分かるのは――死ぬ事と生きる事だけよ」
 カカ、と嗤った百合子の横で、菫色の神を揺らすアーリアの表情は、何処か冴えない。
(私は《天義》(この国)で生まれて、小さい頃は神様の為に生きて、真白な服しか着られなくて……)
 アーリアは道中で想いを馳せた、嘗ての自分を頭に思い浮かべていた。
(大人になった今、「神は居るか」って聞かれても、……正直、答えが出ない。
 けれど、私達があの子達を救う事は出来る)
 断定とも無関心とも異なるアーリアの心情。
 そして、
「……」
 ――グドルフが無言で往く先の暗闇を睨む。

 かつて妹を失い。
 “神は居ない”と憎んだ己と、彼を同じにしてはならない――。

「――さあ行くぜえ! おれさまについてきな!」
 振り切るようなグドルフの豪気な咆哮。
 このロザリオに懸けて――。
 ――今度こそ。必ず“間に合わせてみせる”のだから。


「この辺りが魔物の巣の在り処だな」
 シャリテが足を止めリゲルに告げた。
 幻は其処で馬車を停める。ウィリアムは「それじゃ、後で」と告げると、木々に姿を隠し精霊疎通を試みる。
「……ハッキリとは分からないが、あっちの方角の祠が怪しそうだ」
 ウィリアムの言葉に、グドルフを筆頭にして歩を進める。
 ポテトの発光とリゲルの剣が帯びる煌めきが、陽が落ち暗く成り往く視界を十分に確保する。
「――! あれは!」
 ポテトが何かに気づいた様に呟くと、その視線の先には流血し横たわっているアンジェロの姿があった。
 駆け寄り状態を確認する。まだ息はある。すぐにポテトが療術を施す――と。
「……出てきたか」
 リゲルがその気配に気が付く。
 視線の先には、サテュロス。
 ――醜い天使が、イレギュラーズ達を見遣っていた。
「よく聞け! いいかあ、クソ雑魚ども!
 おれさまはてめえら全員ブチ殺しに来たんだよ。
 チンタラガキに構ってっと、その首まるっと叩ッ斬っちまうぜえ――!」
 グドルフがサテュロスを激しく謗ると、その表情には明確に怒りの感情が籠るのが、見て取れた。
「それでは、此処は俺たちが引く受ける。サテュロスの注意を引き付けるから、救出へ向かってくれ」
「分かった。作戦を始めるとしよう」
「シャリテ、君は祠へ向かう魔物の抑えを頼む」
「承知した!」
 ジェイクとシャリテがリゲルの言に頷いた。
「……幻」
 ジェイクが幻を呼び止める。ぴくりと肩を振るわせた幻が、ジェイクへと振り返る。……視線は外したまま。
「……はい」
「この鼠を召喚しておいた。先行偵察に使ってくれ。
 祠の中の情報を伝えてくれる」
「……はい」
「俺も後からそっちへ向かう」
「……はい、わかりました」
 幻はジェイクから手渡しで鼠を受け取る――瞬間、触れ合っただけの掌の体温すら、限りなく熱く。
「では吾たちも祠へと参るかの」
「はあい、行きましょ」
 幻に続いて百合子とアーリアがその場を離れる。ウィリアムは既に周囲の茂みに身を隠し、祠への突入機会を計っている。
「――貴様らも我が餌にしてくれるわ」
「わざわざ獲物が舞い込んでくるわ!
 返してもらおうぞ、その小僧も活きが良くて美味そうだ!」
 グドルフの立ち回りでサテュロス達が集まってくる。ケラケラと醜く嗤うその様子に、
「うるせえっつってんだよ、雑魚がぁ――!」
「……っ!」
 赫い闘気を身に纏うグドルフが大気を震わす程の勢いでサテュロスへ殴りこむ。
(アンジェロも、エレナも。可能な限りの村人も救出する。
 例え、救えぬかも知れずとも――!)
 グドルフの覇気に、サテュロスは明確に慄いた。そして、
「不正義は正しく糺す――!」
 ――暗闇に煌めく、閃光。
 軌跡として放たれる切っ先――其れに追随して発現する火焔が、魔物へと星降る。
 壮絶な両者の攻撃にサテュロスが意識を移したのを確認し、ポテトがアンジェロを引き離す。
「……っ。ここは……あなたは……?」
 ポテトの療術で傷が回復したアンジェロは目を覚ます。
「君を助けに来た。もう大丈夫だ。君の妹達も、私の仲間が探しに行っている」
「……え」
「――ちゃんと助け出すからここで待っていてくれ」
 そういって立ち上がったポテトの姿は。
 ――アンジェロには、紛れもなく神さまに見えた。


 グドルフ達の大立ち回りで手隙になった祠へ、ウィリアムと幻が先行して到着していた。
 ジェイクが幻に帯同させた鼠、そして、アーリアも栗鼠を使役して動物疎通を介して祠の情報を入手していく。
「ここだな」
「はい。まいりましょう」
 どうやら祠の中にサテュロスが居ることはなさそうだ。今、リゲル達が惹きつけているサテュロス五体と――あと五体が、彼らの巣の外に居る、ということになる。
 祠の奥に進む二人。すぐにその奥へと辿り着くと、其処には横たわる人影。
「おい、大丈夫か!」
 ウィリアムが駆け寄る。酷い傷で、けれど、――まだ息はある。
「この方達は――厳しいかもしれません」
 幻が言う。周囲に村人と思われる者も居るが――数名は既に、真面に四肢が残っていなかった。
「くそ……見捨てる訳にもいかないだろ、やれるだけはやる!」
 ウィリアムが聖杯を振るうと、彼を中心に蒼色の魔術陣が浮かび上がり、エレナと村人達の傷を癒していく。
「アンジェロの祈りを、決して無駄になどしないぞ――!」
 祠の一面が次第に、夥しい無数の魔術回路で満たされていく。
 ――嘗て、星を堕とす為に磨き上げられた至高の魔術。
 ウィリアムはそれを惜しげもなく、目の前の命を救うために注ぎ込む――!
「――――かはっ……」
 エレナが吐血と共に息を吹き返すと、周囲の村人の内何名かも呻き声をあげた。
「助かったか……?」
 遅れて祠へとやってきたジェイクがウィリアムに尋ねると「……ああ、なんとか」と頬に汗を滴らせて答えた。
「でかしたな。後は任せろ、俺が外へ運び出す」
 ジェイクがエレナを背負うと、出口へと歩き出した――その時。
「貴様ら! 我等の餌を……!」
 祠の外に立る百合子とアーリアの前に、残るサテュロスが立ちはだかっていた。
「あらぁ、元気な天使ちゃん。私の方が美味しいわよぉ? ―――なんてね」
「――クハッ! まこと不細工なオウムであるな!
 鳥語でよいぞ! ……”人の言葉”はさぞ難しかろう!」
「愚弄するか、人間如きが……!」
 アーリアと百合子は、グドルフ達がやったのと同じように、サテュロスの気を惹く。その間に、ジェイク達が祠から村人を運び出し、まだ村人が残っていると判明しているもう一つの祠へと移動する。
 サテュロスの巨躯が猛烈な勢いで斧を振り被りアーリアを襲う――が、百合子の細腕がそれを白羽取る。
「――児戯であるな!」
「……なに!」
「あなた達には自滅がお似合いよぉ」
 そして返す刀にアーリアから放たれる甘い菫色の囁き――直撃した五体のサテュロスの内、数体の表情が恍惚を浮かべ、仲間を攻撃し始めたのだった。


「幾ら救っても、人はまた死んでいく……。
 けれど、それが例え――幾ら掬っても、掌から零れ落ちる砂の様なものだとしても。
 ――私は、この手の届く範囲の全てを」
 ポテトが二対のタクトを振り上げる。
「――救ってみせる!」
 瞬間。昏き森を一面に張り巡る規格外の魔気が、リゲル達の傷を癒していく。
「おらぁ――っ!」
 ポテトの強力な援護を受けたグドルフは斧を高く振り上げる。
 そして、そのまま――目にも止まらぬ豪速で駆け抜けた刃が、眼前のサテュロスを縦一文字に一刀両断し、
「坊主──神なんざ居ねえとほざくなら!
 このグドルフさまがてめえのカミサマになってやらあッ!」
 激しい返り血を浴びながら、何処かで戦いを見届けているだろうアンジェロを鼓舞する。
「気合入ってるなグドルフさん……!
 俺達も負けてられないぞ、シャリテ!」
「ああ!」
 シャリテが抑えたサテュロス二体に、リゲルが狙いを定める。
 平時は穏やかな蒼い瞳が――細まり、敵を睨む。
「俺の前に立った不運を呪え――」
 ――瞬間、時が止まる。
 永遠の様な一瞬。
 抜かれた凄絶な断罪の剣戟が――肉眼で追えぬ神速の軌跡となり、

「――散れ!」

 斬、と。横一文字の血痕が入り、後。噴出する鮮血。
 サテュロス二体の上半身と下半身が分かたれた。――彼らは、自分が斬られた事にも気づかずに、逝った。
 ぼう、とポテトらの周囲を、別の療術が覆う。――ウィリアムの錬成する魔術陣である。
「遅参許されよ。こちらの仕事は終わったのであるよ」
「悪い、遅くなった! 挟撃するぞ!」
 駆けつけてきた救出組。百合子が口の端を歪めて云うと、、ウィリアムが続けた。
 此処からは――思う存分に、闘える。
「さて、僕も不肖ながら援護いたします」
 幻は後退しながらステッキを振るう。その先からは――無数の夢幻なる蒼き蝶が舞う。
「――夢現の境界なく。無粋な客人には、滅びていただきましょう」
「ああ――、残ったゴミ共を片付けちまおうぜ――!」
 戦いに意識を取られているのか、気が付けば背中合わせで戦う《幻狼》(ふたり)。
 平時の気まずさを忘却して、ジェイクが銃を構える。
 右手には狼牙、左手には餓狼。
 ――交差する二丁拳銃が、蒼き蝶に玩ばれた得物をに、照準を合わせた。
「覚悟しな――獲物は追い詰められて、喰われるだけだ」
 ――お前達がよく知っている様にな。そう言って引かれたトリガーに――放たれし一弾一殺の魔弾。
「ぐ……があ……!」
 サテュロスの額に空いた風穴。そのままサテュロスは倒れる。

「よし! 残りあと少しだ!」
「気を抜くなよ――俺達もお前らの傷は癒すからな!」
 ポテトとウィリアムが叫ぶと、非凡なる魔力で味方を癒していく。
「――クハッ、滾ってきおったわ!」
 周囲の熱戦を受け、百合子が破顔する。そして眼前のサテュロスを、
「受けてみよ、吾が――美少女ぢから!」
 ばちこーん! と異常に力強い百合子のウインクのその迫力に怯んだサテュロス。その体を謎の毒が巡り苛むと、
「美少女のウィンクの後は美女のハニートラップ――ふふ、まったく贅沢ねぇ」
 アーリアが妖しく微笑む。美しい宝石の様な、翠色のアーリアの虹彩が――次の瞬間。
「……ああ、一度逃れても二度目に注意よ。しつこい女は嫌いかしら?」
 ――金色に輝き、サテュロスを狂わせる。そして、其れだけで終わらない。
「おいで――、愛しきふたつ星ちゃん」
 アーリアが艶めかしく小指を噛むと、滴る鮮血――その甘い罪の香りに誘われ、
「ひ、――ひいっ……!」
 サテュロスが恐怖に慄く。眼前に現れた二匹の紅き豹がそのまま喉元へ喰らいつくと、
「――仕上げよ、百合子ちゃん」
「うむ!」
 頷いた百合子が地面を蹴り上げ、一刀一足の間合いを――刹那に殺す。
 百合子の拳は、既に敵の眼前にあり――。
「かはぁっ……!」
 サテュロスは激しく喀血し、息絶えた。
「いやはや、まったく以てアーリア殿は敵には回したくない方よ」
 ぱんぱんと手を払いながら満面の笑みで百合子が言うと、
「あらぁ、そんな寂しいこといわないでぇ~」
 アーリアは微笑みながら百合子の腕を握り、
「……俺はどっちも嫌だけどな」
「……ああ」
 その戦いの様子を見ていたウィリアムとポテトは、小さく呟いたのだった。

●エピローグ
「――もう大丈夫。村に帰ろう」
 ポテトの言葉に、アンジェロは静かに頷いた。妹の容体が気になっているようだが、回復するのも時間の問題だろう。
「では、馬車を出す準備をしますよ」
「もう全員乗せたな? 道中も治療はするから、俺のスペースを空けてくれ」
 幻が救出した村人達を乗せた馬車の準備し、ウィリアムがそこに乗り込む――と。

「バカ野郎ッ、死ぬ気かガキが! 余計な仕事増やしやがって!」

 響き渡る怒声に続いて、グドルフがぽこんとアンジェロの頭を小突いた。声の大きさの割に威力が加減されているのは、彼なりの優しさだろう。
「駄目よぉ、こんな子供を殴っちゃ!」
 アーリアがアンジェロを抱き寄せ口を尖らせると「――いいンだよ」とグドルフが静かに返す。
「──だがな、その気概は嫌いじゃねえ。
 おめえがちっとでも時間を稼いだから、被害は最小限で済んだ。……少なくとも、おめえの妹はな」
 そう言いながら、グドルフの胸元でロザリオが揺れるのをアンジェロは見た。きっと、大切なものなのだろう。
「誇れよ。――おめえが助けたんだ」
 ――俺とは違って。言葉に成らぬ言葉は風に溶けた。予想外に優しい声色に、アンジェロが不思議そうに首を傾げた。
「……え」
「神様は、直接お前を助けてくれないかもしれない。
 だけど、アンジェロの祈りが届いたから私達は間に合ったんだ」
 グドルフの言葉にぽかんと呆けるアンジェロへポテトが言うと、リゲルが首肯する。
「君の願いは、確かに俺達に届いたんだ」
「……」
「アンジェロの信仰心や大切なものを思う気持ちがみんなを助けたんだ。
 ――よく頑張ったな」
 ポテトがアンジェロの髪を撫ぜる。
「でも神様だって、万能ではないんだ。
 大切な者を護る力は――誰かから与えられるものじゃない。
 自分自身で努力を重ね、身に付けなきゃいけないんだ」
「……僕、強くなりたいです!」
「もし良かったら、君が強くなれるよう稽古に付き合うよ」
「本当ですか?!」
「ああ。ただし――怪我が治った後に。だけどな!」

 馬車は森を出る。手綱を預かる幻は、
「私の世界には、神はいません。
 でも神を信じなければ生きていけない世界があるのも真実です。
 貴方はどういう生き方をしたいですか?」
 アンジェロに問う。少し困ったような彼に、
「神や仏が居なくても、俺達イレギュラーズが居る。
 ……困ったことがあれば、いつでも頼れ」
 ジェイクが助け舟を出した。
「戦いに身を投じる心意気やよしである!
 鍛錬に励め、貴殿が――これから村を守るのだぞ」
 ――カカ、と百合子は内心でも嗤った。それは、祠の前で聞いていた、犠牲者の残した“遺言”でもあるからだ。
(――なに、ただの酔狂よ)

 ……やがて、村の明かりが見えてくる。
 沢山の村人達が、イレギュラーズの帰りを待っていたのだ。
(神様は――やっぱり私にもわからないけれど)
 ぼうとその明かりを眺めるアーリア。美しい灯だ、と感じた。

(運命を手繰り寄せるのは――、自分しかいないのよねぇ)

 恐らく今夜飲む葡萄酒は――きっと最高に美味いのだろう。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

当シナリオへのリクエスト、誠にありがとうございました。

成功条件はあくまで“魔物の撃破”であり、エレナたちの探索・救出は成功度を上げるためのオプションであり、そこにリソースを割くぶん当然攻略の難易度も上がる訳なのですが、皆様の素晴らしい連携プレーにより、それらが達成されました。その結果を受けまして、大成功と判定しました。

それぞれの役割分担が明確かつ効果的で、かつ、スキル運用などのステータスシートの面でも、とてもシナリオにマッチしており、良かったと思います。

神はいないが、イレギュラーズが居る――そんな大変素敵なプレイングでした。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『やっぱり神様なんていなかったね。』へのご参加有難うございました。

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