PandoraPartyProject

シナリオ詳細

記憶と想いを込める瓶

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あなたの望む世界を
 1年に1度、大切なヒトへ自分の特別を贈ってみませんか?
 瓶の中に広がる世界があなたを、そしてあなたの大切なヒトを引きつけます。
 朝焼けも、黄昏も、満点の夜空だって思いのままに。あなたを表すモチーフも瓶に込めて、たった1つの世界を創りましょう。
 瓶の大きさは小さなものから、両手で抱えるような大きいものまで。持ち込みも歓迎します。

 依頼は瓶詰め屋『エアインネルング』へ──。


●ローレット
 その人物は、この絶望の青決戦も近いという慌ただしい時期にひょっこりやってきた。
「やあ。お久しぶりー?」
 へらりと笑った口元。ぞんざいな服装。間延びした口調はどう考えてもこの場にそぐわない。
「あ、ミーロさん! お久しぶりなのです、依頼ですか?」
 イレギュラーズへ情報をまとめた羊皮紙を配り、また新たな情報を整理してと動き回っていた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が束の間足を止める。ミーロと呼ばれた女性は気軽い雰囲気で片手を上げた。
「半分くらいはそんなとこー。忙しいみたいだね?」
「なのです! すみませんが、あちらでお待ち頂けますか?」
 ユリーカが示したテーブル席を見たミーロは頷いて足をそちらへ向ける。仕事をひと段落させたユリーカは羊皮紙とペンを手に、早足で彼女の元へ向かった。
 ミーロは待っている間、ローレットの様子を眺めていたらしい。視線をゆるりと巡らせ、近づいてくるユリーカを認めて目を細める。
「お疲れ様ー。悪いね、こんな時期に」
「いつ忙しくなるかなんてわかりませんから。それに、こんな時だって通常の依頼もバッチリ受けるのが敏腕情報屋なのです!」
 いつまでも新米じゃないのだと言いたげなユリーカに、ミーロはくすりと笑って。「じゃあ敏腕情報屋さんにお願いしようか」と口を開いた。
 彼女は『瓶詰め屋』という店を開いている。瓶という限られた空間に独特の世界を作るのだ。もちろんオーダーメイドで、特に贈答品として選ばれることの多いそれは平民から貴族まで幅広い客層から求められる。
 故にシャイネンナハトやグラオ・クローネといったイベントごとだと殊更忙しくしているのだが──。
「確か、多忙期は抜けたのですよね?」
「うん。ちらほらオーダーは来るけど、急ぎのものはないねー」
 お陰でクマもできてないよ、と笑うミーロ。その視線はユリーカから周囲で相談し合うイレギュラーズへ向けられる。
「彼らにねー、お守りを作ってあげたいんだ」
「お守り?」
「ほら、船乗りって航海の安全を祈ってお守りを身につけるみたいなー。ね、あるじゃん?」
 恐らくは船乗りの家族が作って持たせるようなものを示しているのだろう。彼女は自らの瓶をそのようなものとして持たせたいらしい。
「なるほど。ではそのオーダーを伝えることが依頼と言うことですね? ……依頼、と言うには少しヘンな感じですが」
「そーだねー。どっちかっていうとお願いかなー?」
 くっくっくと笑ったミーロは再びイレギュラーズたちの姿を見やる。
 もちろん、彼らは目の前のことに集中していてミーロのことなど見もしないけれど。それでも彼女はその中に、去年依頼を受けてくれた、誘いを受けてくれた何人かを見つけている。そして彼らが作った瓶詰めのことも、しかと覚えている。
「……君たちの色も景色も、覚えてるよ」
「? ミーロさん、何か言いました?」
「いーや、なんにもー。ささ、始めちゃいましょ」
 首を振り、足元に置いてあったリュックを開くミーロ。登山でもするのかと思わせるようなその中身は材料と、器具と、瓶と瓶と瓶と。
「あ、ここでですか?」
「もっちろーん。持ち帰ったら皆、海に出ちゃうでしょー?」
 出張もままあるのだというミーロは手早く準備すると、こちらへ興味を持ったイレギュラーズへ手招きした。

GMコメント

●すること
 お守りをゲットする

●情報精度
 もはや疑いようなくAです。ローレットで何か起きたら一大事じゃ済まない。

●瓶詰め屋『エアインネルング』
 ミーロが店主をしている瓶詰め屋。オーダーメイドで瓶詰めを作ってくれます。お値段はピンキリですが皆さんは今回払わなくてOK。ミーロの好意です。
 贈り物にとても喜ばれ、イベント時は大変な依頼殺到率らしいです。

関係作:
瓶に込められしモノは(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1457)
瓶詰め屋『エアインネルング』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1550)

●ロケーション
 ローレットの一角です。テーブル席です。

●第1章
 瓶に入れるパーツを1つ選びましょう。自分で持ってきた、でもミーロが持ち込んだパーツから選んだ、でもご自由に。
 選んだものに関連するお話とかあれば盛り込みましよう。お守りに入れるものですから、それ相応に理由を述べておくと良いです。

●第2章
 瓶の中に流し込む色は何がいいか、ラメの有無、等。こんなイメージの色にして欲しいでも構いません。
 こちらも関連するお話があれば盛り込みましょう。

●第3章
 出来上がりました。あとは皆さんのひと仕事。
 もらった瓶詰めに想いを込めましょう。あなたたち自身が帰って来られるように。

●プレイング内容確定・章進行に関して
 今回は以下の進行ペースを考えています。全3章。

 全ての章において、抽選で6人~10人程度のプレイングを採用します。全体人数によって多少前後する可能性があります。
 各章のみの参加も歓迎致します。その場合は『最初から作っていたが、描写がそこからだった』という扱いになります。もちろん連続しての参加も大丈夫です。

・1章、2章、3章
 全ての章においてなるはやで書きます。すぐ見たりすぐ書いたりする可能性があります。後へ延ばすと私がスケジュールの関係上死んでしまうからです。死にたくない。
 そのため、一気にプレイングが来ない限りは先着のような形になるでしょう。同行者ありのプレイングは提出速度にお気をつけ下さい。

●ご挨拶
 愁です。
 死んだらそこまでなので程々に傷ついてほしいと思ってます。何でもないです。無事に帰ってきて下さい。
 『これを選びました、これが良いです』だけだと作業オンリーで終わってしまうので、がっつり心情を書いておくと良いです。そう、これは心情依頼といっても過言ではない。
 というわけで、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • 記憶と想いを込める瓶完了
  • GM名
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年05月12日 22時08分
  • 章数3章
  • 総採用数31人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

「──皆、できたね。それじゃあ最後のひと仕事だー」
 ミーロはイレギュラーズたちの手元にある小瓶を満足そうに見回す。そして「後は任せたよ」とも。
 最後のひと仕事はイレギュラーズたちの役目だ。こればかりはミーロでさえどうしようもできない。
「ここに込めるのは君たちの想い。決意。覚悟。
 もちろん私は皆に戻ってきてほしいと思ってる。私だけじゃなくて、他にもきっと、たくさん。でもね──」
 どれだけ他人が願おうとも。
 どれだけ知人が祈ろうとも。
 本人の意思なくして、叶うことはないだろう。
「だから、自分で願って。祈って。他でもない、私たちにはない可能性を秘めた君(特異運命座標)たちが」
 もしもここに『戻ってこない』つもりの者がいてもミーロは止めない。止められない。それはその者の想いなのだから。
 それでもいいとミーロは言う。他人の願いなど、その者からすれば身勝手なものなのだから、と。
「進みたい道を歩いて。君たちの手元にあるそれは、そのためのものだから」

 生きたいという願い。
 あの場所へ戻れるようにという祈り。
 この海で散っても構わないという決死の覚悟。

 さあ──自らの想いを、込めろ。



●すること
 ラストの章です。出来上がった小瓶に想いを込めましょう。
 決意、願い、覚悟、何でも構いません。海へ出る前に思い起こすことでも、もちろん。
 1.2章に不参加の方は『どんな小瓶が出来上がったか』を明記下さい。

 ここは心情重視の章となりますが、ミーロや同行者との会話も構いません。

●執筆ペース・採用人数
 最低でも6名程度は採用します。速度はこれまで同様『なるはや』です。
 また、3章に関しては上限人数を設けません。皆様が海に出る全体依頼出発日(5/12)の20時くらいまで受け付けます。最低人数に満たなくてもそこで終了とする予定です。
(※執筆中の滑り込みは余程来ない限りOKです)
 それではどうぞ、よろしくお願い致します。


第3章 第2節

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者

 『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は手元の小瓶を見つめた。そこに在るのは海だ。中央には赤い鱗が漂うように配置されている。
 海種の姿こそ美味しそうなたい焼きだが、そこからはがれた鱗はまさに鯛。いや、元から鯛なのである。見た目がちょっとアレなだけで。
(……普通になれない僕なんだから、せめてつくりあげるものくらいは普通でいいんです)
 どれだけ嘆いても生まれた境遇はどうにかなるものではない。努力しても『普通』になれないだなんて、なんて世界は酷なのだろう。

 けれど──絶望の青の、その先は?

 誰も知らない世界。もしかしたら、そこではベークが普通になれるかもしれない。ベークこそが普通だと感じられる世界があるかもしれない。
 淡い期待を勝手に抱いて、それを胸の内に突き進んで。では今はと言うと、死の呪いに憑りつかれて死にかけている。
 だけれど、ここで諦めるなんて冗談じゃない。
 どうせ後に引けぬのなら。死ぬ気で前へ突き進むしかないのだ。冠位魔種を押しのけて、絶望の青の、さらにその『先』へ。

 ──見ていろ、僕を弄んだこの世界。僕は生き汚いぞ。

成否

成功


第3章 第3節

ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで

 ミーロには可能性がない。それは悲しくも取れる言葉だが、事実でもある。そして『屋台の軽業師』ハルア・フィーン(p3p007983)たち──イレギュラーズたちにしかない何かがあることも、また。
 そう、誰も彼もが無知なわけではない。目の当たりにしたくない現実だって知っている。
(願いだってぶつかることもあるんだ)
 ハルアはそれをよく知っていて、きっとミーロにもお見通しなのだろう。彼女はずっとこうして瓶詰めの世界を作っているのだから。
 出来上がった小瓶を手に取ったハルアは、それをかざして見せて。
「みんなが自由に、好きなことを想って楽しく暮らせるように」
 目を瞬かせるミーロ。けれどハルアの想いは変わらない。
 魔種が憎いとか、そんな感情を持っているわけではない。ただ皆が幸せであるように。時にぶつかることがあっても、結末が良きものであるようにと願う。
「そのためならボクはけっこうがんばれると思うんだ」
 だから、大丈夫。
 ハルアはミーロに笑いかけて、1つお願い事をする。
「いってくるね。帰ってきたら、おかえりなさいって言って欲しいな!」
 それは自分たちに出来ない事。ミーロや、ローレットの情報屋や、待ってくれている人たちにしかできない事だ。
「……ふふ。任せてー、いの一番に言うからね」
 そう気が付いて嬉しそうなハルアに、ミーロは目を細めて頷いた。

成否

成功


第3章 第4節

ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

 『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)はぎゅっと小瓶を握りしめる。この世界に──あの日の空に込めるのは。
(あの日の夢を、忘れない。そして──

 ──必ず帰ってきて、魔術師を止める)

 ノースポールの──ポラリスの平穏で幸せな日常を壊した魔術師。故郷を滅ぼされたことで心身共にボロボロだった彼女は、過去の記憶を手放して生きることを選んだ。
 そう、選んでしまったのだ。どれだけ守れなかった自分を責めても、その価値を自問しても。悲しくても苦しくても、皆の元へ行きたいと願っても。生を手放すことはできなかった。
(悲しいことを忘れられたら、きっと幸せ)
 でもそれは偽りの上に作り上げられた幸せで、決して強くはなれないもの。強くなりたいと、悲しむ人を1人でも減らしたいと思う彼女はもう忘れない。
 どれだけ辛くとも、悲しくとも、胸の内が痛んでも──絶対にだ。
 ノースポールが目的とする魔術師は、今もまだ悪事を重ねている。それは海洋ではないどこかだろうが、まずは目の前のことから。
(今度こそ、あいつを止めなければならない)
 決意を秘めた瞳がミーロのそれと合う。彼女の頷きにノースポールは頷き返した。
「……絶対にこの戦いに勝ち、戻ってきます!」

成否

成功


第3章 第5節

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

 『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)は掌に乗った小瓶を見下ろし苦笑を浮かべる。ミーロが小首を傾げた。
「ああ、いや。……最後の最後に、こいつは中々の難題だ」
 込めるは想い、決意、覚悟。どれもこれも十夜がのらりくらりと避けて、隠し続けた”本心”だ。
(どれだけ抗って立ち向かって傷ついたって…報われねぇモンがある)
 十夜はそれをよく知るからこそ、期待しなかった。最初から諦めていれば、それ以上の底など存在しなかったから。
 ──結局のところ逃げ場など存在しなかったと言うのに。どこかで『逃げることを』諦めなければならなかったのに。
 傷つかぬように、苦しまぬようにと、真綿で首を絞めていた。そう気づくのに随分と時間をかけてしまった自分は、馬鹿でどうしようもない男だ。
(そんな俺が込めるとすりゃぁ……“戒め”が丁度いい)
 何があっても、目の前のことから逃げてはならない。
 どんなことが起ころうとも、現実から目を逸らしてはならない。
 手首で淡く光るブレスレットに、十夜はふっと小さく笑む。ああ、きっと大丈夫だ。この小瓶と、この光が導いてくれるなら。

 ──例えこの身体が青に溶けてしまうとしても……最期まで。

成否

成功


第3章 第6節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛

 船乗りは星を導とするのだと『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は聞いたことがある。常に傍らで輝き続ける星々は、たとえ遠いとしても見失うことはありえない。
 何でも起こり得る海において、必ず在る星がどれだけ心強いことか。
(だから、この瓶はそういうイメージなんだ)
 昨年の瓶詰めは旅立ちを見守るお守り。夜明けの、歯車を込めたそれがあったからどんなに大変な冒険も元気に帰還した。
 ならば今年は──戦いの最中から帰宅までを見守ってくれるお守りにしよう。リュカシス考案の『最強に心強いお守り』だ。
「ミーロ店長。海での戦いから帰ったら、これは友達にあげたいと思っているんだ」
「おや。去年みたいに?」
「そう、去年みたいに!」
 2人は笑い合う。その時が楽しみだねと。ちゃんと渡せるように、お守りに箔をつけるために、必ず成し遂げ帰ってこなくては。
「ミーロ店長、ありがとうございます! 行って参ります!」
「うん、いってらっしゃい。またお友達とおいでー」
 ああ、もうそろそろ時間かな。そうリュカシスが席を立ち上がって告げれば、ミーロは微笑んで手を振った。

成否

成功


第3章 第7節

マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー

 『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)にとって、最後に課せられた仕事はとても難題なものであった。
(想い……うぅ、ボクの想い……)
 何があるだろう。自身の想い、決意、覚悟なんて。
 目線まで小瓶を持ち上げ、ランプの明かりに透かす。キラリと星をかたどった煌めきが、そして一等星が輝いた。その光はやはり、マギーにとって道導で。
「……恐怖で足を止めてしまいそうな弱い心から目を逸らさないこと、でしょうか」
 ぽつりと呟いたマギー。小瓶を下ろせば、ランプの光が届かなくなって輝きが失せてしまう。
 どれだけ大変で辛くとも、足を止めたらこのように曇ってしまう。そこでおしまいになってしまうのだ。
(『わたくし』は一度足を……歩みを止めてしまったから)
 今度は、今度こそ『ボク』はボクとして。子爵令嬢ではなくマギー自身の意思で、前に進みたい。そのための目指す一等星だから。
 だから、願う。

 どうか──ボクに1歩、踏み出す勇気をください。

成否

成功


第3章 第8節

エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

「では、私は……この瓶を、ミーロさんにお預けします」
「……えっ? えっ!?」
 『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)に小瓶を差し出されたミーロは動揺したように小瓶とエルシアの顔を交互に見る。彼女のための小瓶なのだから当然と言えば当然か。
 けれどエルシアとしては、折角作ってもらった小瓶。決戦の場で壊したり、無くしたりしてしまう訳にはいかない。
「必ずや、再び取りに参ります……良い品だとは思いますので、1ヶ月経っても取りに来なければ、管理料を賄うために売ってしまって下さっても構いません」
「い、いやいやいや。売らないよ? 絶対に売ら──」
 ミーロが途中で口を閉ざす。相対するエルシアの表情は死にに行く者のそれでも、売って良いという者のそれでもなかったからだ。
 もちろん売らせるつもりなど毛頭ない。これはエルシアなりの『必ずや無事に戻る』という誓いだ。
「……いいの?」
「戻ってきますから。……しばしの間とはいえ手放してしまうのは寂しくもありますけれど」
 でも、とエルシアは花が綻ぶように笑う。彼女の小瓶は『幻想種の永い時間をかけて育てるもの』だ。約半月程度の航海は永い時間のほんの少し。そのくらいの別れなら、寧ろ再会が楽しみになってしまうだろうと。
「そういうことなら……気をつけて、いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
 こうしてエルシアは、小瓶に暫しの別れを告げたのだった。

成否

成功


第3章 第9節

カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

(いやはやハッタリくらいは学んでおくべきだったか、我ながら酷いな)
 だがやはり優しい人だと『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)はミーロへ視線を向け、そして小瓶へ移す。
 明日より再び絶望の青へ。踏破すべき海へと皆で出る。海洋に恩義を返すためにも皆で生きて帰って──。
(……その後はどうするつもりだ? 目的……?)
 束の間、気づいてしまった見えぬ未来の姿にカンベエの思考が止まる。けれど雑念が混じってはいかんとカンベエは頭を振った。
 細かいことなどその時考えれば良い。今、願うべきは。心の内の大きな想いは。
「わしの想い、それこそ考えるまでもない! 海洋に、完全なる外洋征服を!」
 迷いなくカンベエは『海洋のための』想いを口にした。世話になった皆がずっとずっと──それこそカンベエがイレギュラーズになる前から──果たしたかった王国の悲願である。必ずや果たしてみせなければ。
 ここまで無数の亡骸が青の下に沈んだ。その意思を継いでさらに先へ。亡骸の上からようやく見える景色をこの視界に入れてみせよう。
 それこそ、死しても前へ。
「祝勝会にはミーロさんも来て貰いますからね!」
「おや。じゃあちゃんと皆を……もちろん君もだよ? 祝う準備しておかないとね」
 君だってローレットの一員なんだから、とミーロは彼へ微笑みかけた。

成否

成功


第3章 第10節

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

 小瓶の中には深い海と、煌めく光が差していた。いいや、宙と瞬く星かもしれない。淡い色の花びらがその中を揺蕩うように封じ込められている。
「込める願いは──見る、事だ」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の言葉にミーロが「見る?」と聞き返す。
「そう、何でもだよ何でも。未来、現在、過去、全てを見るように考えるようにってね」
 普通のことに思えるかもしれないが、これが意外と難しい。言われた事をこなせば良かったこれまでを考えたら尚更だ。
 だからこそ『見つめる未来』を込めて、願ってみようと思った。
(……何だか照れるな)
 これまで願ったことは、全くとまでは言わないが決して多くない。『願う』と意識することは存外気恥ずかしいものだったのか。
 それを誤魔化すかのように、ランドウェラはミーロを誘う。
「なあ、今度さこの願いが叶っているか確かめに来ておくれよ。こんぺいとうでもごちそうするよ?」
「こんぺいとう? いいねー、甘いもの好きなんだー」
 ぜひとも、と頷くミーロにランドウェラは笑みを深めた。

成否

成功


第3章 第11節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

 本当に良かったのかと問うミーロへ『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は頷いた。その手にあるのは──空の小瓶。
 夢も希望も絶望の青にかけている。だから形あるものはこれで十分。代わりに想いを沢山込めるのだと彼は言った。
 ──全ては女王陛下の御為に。
(ああでも、俺の幼馴染はふくれっつらするんだろうな)
 後追いするぞと既に言われている。実際にされたくはないけれど、だからといって立ち止まれないのも事実だ。こんな小瓶で納得してくれるとも思わないが。
「……タグでもつけようか。俺の名前書いてさ」
 そうすれば、これはちゃんと史之を示す物になるから。
 空の、想いばかりが溢れてしまいそうな小瓶。これが彼の嘘偽りない気持ち。自らに課した使命を遂げるための決意でもある。
 自身を奮い立たせるための二つ名は、いつしか海洋の民からも呼ばれるようになって。だからこそひたむきに願うのだ。

 この二つ名に恥じない戦いを、と。

 この名で少し変わった自分を感じられたから、今ばかりは心を無に。目指し遂げるは自らの使命だ。

成否

成功


第3章 第12節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

 背伸びをした鹿の小瓶たち。片方は『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)の優しい森の夜を。もう片方は『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の星々輝く藍色の夜を込めて。
「お月さまを頼りに、夜のふたつを繋ぐから。とても、仲良しの瓶になるわね」
「ええ。きっときっとこの子達も、素敵なお友達になれるわ」
 揃えて並べて、顔を見合わせて微笑んで。ねえ、とポシェティケトが柔らかく微笑んだ。
 これから海での戦いが待っている。厳しく辛いものになるだろう。けれど──ラヴならとびきりの『おはよう』を告げられる。
「だからきっと、無事に帰ってきてね」
「……ええ。必ず、無事に帰ってくるわ」
 ミーロの言葉を思い出してラヴは瞳を閉じ、そして開く。『おはよう』は近くにないかもしれない。まだ遠くにあるかもしれない。
 けれど友人に願われたから。皆を守って、『きっと』ではなく『必ず』無事に帰って来なければ。
「私、この優しい一瓶に……戦への誓いは籠めたくないの」
 ラヴは視線を鹿たちへ向ける。この瓶たちを見た時に、思い出すのは戦いではなくて──今日だとか、素敵な友人の笑顔でありたいのだ。
「だから、ねえ。ポシェティケトさん」
 ぱちりと目を瞬かせたポシェティケトをラヴはまっすぐ見つめる。今この時、誓うのはたった1つだけ。
「これから幾千夜の後も、ずっとお友達でいてくれるかしら」
 ぱちぱちと幾度も瞬かせた目の前の彼女は、それはそれは嬉しそうに微笑んで頷く。そしてラヴの手をそっとすくい取った。
「ねえキュウリ。誓いと聞くと、こそばゆい気持ちでフワフワするわね」
 それは誓いだからというだけではなくて。言葉は形にすれば、より一層はっきりと残るものだから。形にすれば力を持つものだから。
「だからワタシもしっかり口に出さなくちゃ」
 ね? と小首を傾げてみせて、ポシェティケトはぎゅっとラヴの手を握った。
「もちろんよ。これからも、ずっとお友達でいてちょうだいね。
 鹿はね、ほんとうは、あなたがお返事をしてくれる前から、お友達になりたかったの。だから。お願いは、こちらこそ」
 握られた手は、まるで『よろしくね』の握手のようで。胸に響いた答えにラヴの言葉がぐっと詰まる。代わりに溢れ出たのは透明な雫だった。
 す、と出されたハンカチはポシェティケトのもの。小さな苦笑とともに、ハンカチを受け取って。眦に当てながらラヴはそっと息を吐く。
(でも、その通りね。言葉にしなきゃ……この涙の意味も伝わらないわ)
 ヒトは、言葉を交わさなければわからないことだらけ。けれど言葉を交わせば、わかることも──わかり合うことだってできてしまう。
 だから伝えよう。この涙の意味を、ちゃんと。
「……ありがとう」

成否

成功


第3章 第13節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 知人たちとの空気感を込めた小瓶。キラキラしていると言われるのは『想心インク』古木・文(p3p001262)にとって気恥ずかしくも嬉しいもので。
 願いを叶える結びに、オレンジとミルク色。手元に置いておけば、たとえ海でそれらを見失ったとしても思い出せそうだった。
(平穏が戻ってきますように)
 変哲もない、ありふれた日常。この小瓶に込めたものは文にとって平穏の1つだ。
 この世界を訪れた時は、なんて恐ろしい場所に来たのだろうかと思わざるを得なかった。けれど店に来てくれる者や、こうして親切にしてくれる者との出会いもある。
 よく知れば失った時の恐怖も増すけれど、それでも──新たな、良い出会いは面白い。
「ありがとう、おかげでとても素敵な瓶ができたよ」
「それは何よりー」
 へらりと笑うミーロ。彼女が声をかけてくれなければ、このお守りはできなかったことだろう。
(……彼女が瓶詰め屋になろうと思ったきっかけは何だったのだろう)
 差し支えなければ聞いてみたいし、さりげなく聞いてみようか。そんな思考に至った文はふと目を瞬かせた。

 ──さりげなくってどうやるんだ……?

「どしたの?」
「え、いや、何でもないよ」
 思わずそう返してしまった文。言ってから今こそ『さりげなく聞くタイミング』だったのではと思い至るが──もう時すでに遅し。
 彼女へその理由を聞くのは、また次の機会となるようだ。

成否

成功


第3章 第14節

 ミーロは各々が小瓶に想いを、決意を、覚悟を込める様子からそっと視線を移した。
 ローレットの大部分を張り詰めた空気が満たしている。別件も相談が行われているようだが、今ばかりは絶望の青に向けたものが多い。
 明日──いいや、明後日か。多くのイレギュラーズが海へ出る。ミーロたちにはどうしようもない運命を覆すために。『あの』魔種を倒すために。
「……どうか、無事で」
 ミーロは小さく呟いた。彼女がイレギュラーズと関わったことは少ないけれど、誰も彼もが興味深くて。自分が見たことのない景色を常として生きてきた者もいて。何より、彼女にとってイレギュラーズという存在は好ましいものだったから。
「ミーロさん、終わりました?」
「ん? んー、うん。終わりかなー」
 ユリーカの言葉にミーロは頷いた。まだ続けても良いが、相談の終わった者たちは自宅へ帰ったり、依頼直前の何気ない時間を過ごすだろうから。長いことが良いというわけでもない。
「皆さんが帰ってきた時に、おかえりなさい! って言いましょうね」
「うん、そうだね」
 それが待っている者たちの務めだから。
 ユリーカとミーロは視線を交わして、小さく微笑んだ。

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