シナリオ詳細
終焉の色彩に
オープニング
●
幾星霜の時を超えて。
朽ちていく身体は、軋みを上げる。
空を見上げれば、アイル・トーン・ブルーに小鳥の鳴き声が聞こえた。
かつて守護者(ガーディアン)が守った王国の姿は既に無く。
栄華を極めた王国は。ただ、古びた遺跡と成り果てた。
それでも、この城壁の中に何人たりとも入れてはならぬと下された命令に。
ガーディアンは抗うこと無く、立ち続けていた。
傍らには煤けた槍。
柄の部分が折れて、かつての栄光は寂れてしまったけれど。
月の名を冠した相棒は、気高い美しさを失ってはいないのだ。
ああ。それでも。この身はそろそろ限界なのだろう。
ガーディアンは命が尽きるまでこの場を守れた事を誇りに思っていた。
けれど、手にした相棒を同じ運命に付合わせるには心が痛んだ。
この命が尽きる前に。
どうか、どうか。
託せる者が現れる事を――
●
ゼシュテル鉄帝国の技術大佐ルドルフ・オルグレンの研究所に呼ばれたイレギュラーズたち。
重厚な執務室の椅子に座る彼の眼光に。
『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)はぴぇっと肩を振るわせた。
刻まれた眉間の皺は幾重にも重なっている。
「来たか、ローレット」
ルドルフが執務室のテーブルに座るように促す。
重たいドアの外は何やら慌ただしく兵隊が走り回っているようだ。
「何か、あるのでしょうか」
赤い瞳で『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が問う。
リースリットの疑問にルドルフは頷いた。
「少し遠征するのでな。その準備よ。……であるから、お主らにはその間に遺跡の調査を任せたいのだ」
「遺跡の調査?」
小首を傾げた『帰ってきた牙』新道 風牙(p3p005012)はルドルフの言葉に考えを巡らせる。
自国の中にある遺跡を調べるのであれば、多国籍軍のようなローレットに頼むより、自身の信頼が置ける部下やなんなりに命令すればいいだけの話。
それを何故、ローレットを呼び出してまで調査をさせるのか。
「つまり、それなりの危険が伴うということですね?」
静かな声で『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が帽子の間からガーネットの瞳を向ける。それに応えるようにルドルフは目を伏せた。
「左様。遺跡の奥深く。かつて首都であったであろう場所に、守護者が居るのだ」
「古代のものがまだ動いてるってこと?」
俄には信じられないと『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)が疑念の眼差しを向ける。
その隣には『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が同じような表情でルドルフを見つめていた。
「その疑念は無理も無いだろう。古代遺跡に触れてこなかったお主らには想像も出来ぬかも知れぬ。だが、現地に行って確かめてみれば分かる事」
ルドルフはイレギュラーズの興味を試すかのように、丸眼鏡を光らせる。
乗るのか乗らないのか。
「ああ、勿論報酬は用意しよう。なぁに、簡単な遺跡の調査だ。戦い慣れたお主らならガーディアンなど立ち所に倒してしまえるのだろう?」
「分かった。その話受けよう。その代わり、必要な情報は寄越して貰う」
『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は青い瞳でルドルフに対峙する。
ベネディクトの応えに頷いたルドルフは遺跡までの地図と報告書を広げた。
赤い目を細めて、仲間のやりとりを見つめる『カーマインの抱擁』鶫 四音 (p3p000375)は楽しげに微笑んだ。物語の頁をめくる、その指は終焉の結末を思い描く。
●
ざらついた石の感触が靴裏から感じられる。
覆い茂るディープ・グリーンの草木が視界を遮った。
イレギュラーズ達から生じる音に怯えて逃げていく鳥達の姿。
放棄されて幾星霜。
その殆どを自然と同化させた古代遺跡ラクシェルがイレギュラーズ達の行く手に広がっていた。
迷路のような回廊を歩いて行けば、古びた落とし穴。中には辛うじて原型が分かる程度の人骨。
小規模ではあるが、ラクシェルそのものが要塞のような作りなのだろう。
外敵を排斥するために仕掛けられた罠が無数に存在している。
しかし、そのどれもが朽ちて煤けた埃を被っていた。
イレギュラーズ達は視線を上げる。
「この先に……」
ルドルフが言っていた守護者が居るのだろう。
調査に来ていた鉄帝軍人が手酷くやられて逃げ帰ってきたというだけに油断はできない。
お互いの瞳を交し。頷く。
――――
――
煤けた銀の槍を持ったガーディアンがイレギュラーズ達の前に立ちはだかる。
「侵入者よ。今すぐ此処から立ち去るがいい。
さもなくばこのルナディウムの槍で一突きにしてくれようぞ。さあ、去れ」
重厚な声色と古めかしい言い回し。朽ちかけた鎧と折れた槍。
されど、隙は無く。百戦錬磨の騎士という風格。
アイル・トーン・ブルーの空に剣檄の音が響き渡る――
- 終焉の色彩に完了
- GM名もみじ
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月16日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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深い深い森の中。
ディープ・グリーンの色彩が視界を覆う僻地。
空を見上げれば、アイル・トーン・ブルーに小鳥の鳴き声が聞こえた。
鉄帝国『技術大佐』ルドルフ・オルグレンの言葉通り、遠くに見える城壁に一体のガーディアンが佇んでいる。その姿は今にも壊れそうな、傷だらけの装甲をしていた。
「古代王国……ラクシェルの防人、ですか」
『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の赤い瞳は城壁の前に立ち尽くす守護者へと向けられる。
その佇まいはまるで騎士のようでもあった。
永きにわたり守護者としての使命を果たし続けているであろう者。
「気は引けますけれど……」
自分達も使命を持って此処に来ているのだ。
「申し訳ありませんが、押し通らせていただきます」
リースリットは美しい音を響かせて魔晶剣を抜いた。
「うーむ」
腕を組んで眉をしかめた『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)はルドルフとのやり取りを思い出していた。その風貌。眼光。口調。どれを取っても『怖い』としか記憶に無い。
「あのおっちゃんが怖くて燃やしてもいい依頼なのか聞けなかったぞ……」
鋭い眼光で睨まれるだけで震え上がる程だったのだ。そんな事聞ける訳もない。
おそらく強い口調で罵倒されるに決まっている。考えるだけでも恐ろしい。
「ともあれ」
思考から目の前の風景へと意識を切り替えるアカツキ。
広がるは朽ちた王国と、その城壁を守る守護者。
「浪漫を感じる相手じゃ、張り切って行くぞ!」
アカツキは大釜を振り上げ走り出す。
それに続く『特異運命座標』新道 風牙(p3p005012)は守護者の後ろにある遺跡へと目を向けた。
「つまり、まだ誰も手を付けてないってことだよな?」
「そうですね。未知の領域になるでしょう」
風牙の言葉に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)が応える。
守護者は何人たりとも城壁の中へ敵を入れなかったのだろう。
だとすれば、どんな秘密やお宝が眠っているのか、想像するだけで楽しい気持ちになる。
風牙を満たす高揚感。
「あ、もちろん遊びとか思ってないぞ!」
弁解するように手を振った風牙に四音は微笑んだ。
未盗掘であり、先遣隊が追い払われているということは、かなりの戦力を有しているという証左に他ならない。気を引き締める思いで、風牙は真剣な表情を遠くに佇むガーディアンに向ける。
「OK、ちょうど手が空いてるとこだし、手伝わせてもらうよ」
古代遺跡という響きは胸が高鳴るのだと風牙は笑った。
「ふふふ」
四音は意気込んで走って行く風牙を見つめ微笑む。
既に終わってしまった物語に思いを馳せるのも悪くないだろう。
「まあ、まだ結末を迎えてはいない方も居られるようですが」
この遺跡のガーディアンが何を思い過ごしてきたのか。
物語を紐解く手がかりがあれば、それは頁が増えると言うこと。
幾星霜もの間忘れ去られていた遺物に終わりを与えられるということは、どれ程楽しいだろうか。
「これで綺麗な結末を迎える事が出来ますね」
終わりが無い物語なんて面白くない。
締めくくられるからこそ、輝くことができるのだ。
ダークヴァイオレットの粒子と共に手の中に現れた本のページを捲った四音。
――さあ、物語を始めましょう。
「遺跡には何があるんだろう。そういうのを考えると少しわくわくするよね」
頬を染めて微笑む『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は目を輝かせる。
未知の領域への到達。遙かなる探究心は煌めきと共にスティアの瞳に宿っていた。
この先に居る守護者は何を守っているのか。
誰のために。何の目的で其処にいるのか。
「その答えを探すため私達は進むのだ~!」
拳を高らかに上げて、スティアは傍らの『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)に視線を向ける。
「……ってことで頑張ろうね、さくらちゃん!」
「ええ。頑張りましょう」
元気いっぱいのスティアの声に、優しく微笑むサクラ。
何処か危なっかしくて傍で見守らなければならないような。そんな儚さがスティアにはある。
双色の瞳に天真爛漫な笑顔を浮かべて。
スティアはサクラと共に城壁へと近づいていく。
――――
――
『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は舞台である遺跡を見渡していた。
城壁に近づくにつれ、この遺跡が壮大な勢力を誇っていた事が覗える。
崩れてはいるが、円柱にびっしりと刻まれた模様の数々。
それだけ意匠に凝ることができたということ。
「ふむ……」
感心してしまう。幾星霜も前の遺跡にこんなにも精彩な彫刻ができるとは。
此処で紡がれた物語はどんな色をしているのだろうか。
侵入者を発見し、ゆっくりと守護者が動き出す。
即ち、彼が守護する境界に入り込んだということだ。
「今は亡き王国の城壁を護るもの。……最後の相手として私たちが相対いたしましょう」
リンディスは手にしたレコードホルダーを開く。
そのペン先が紡ぐは空に焦がれ身を滅ぼす事が分かっていて尚、憧れを語った男の詩。
「紡げ――この手は語り部の言の葉。空の彼方を目指した渇望の軌跡」
リンディスの声に。空の青が駆けた。
アイル・トーンブルーの空色が戦場に広がり仲間を鼓舞する。
それ故の代償に、リンディスはぜぇと呼吸を乱した。
けれど、己の魔力を犠牲にしてもいいのだと。
物語の主人公が輝くなら。それで構わないのだとリンディスは微笑む。
「歴史の中に消え去った国を未だに守る守護者か……」
青い瞳を過去に馳せ、『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は左手のグロリアスペインを握りしめた。眼前の敵の有様に胸の奥が僅かに揺れる。
彼もまた国を守る為に必死に戦ったのだろう。
思い出に纏わり付く感傷がベネディクトの指先を駆けた。
「俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。守護者よ、国を守る騎士として倒れるが良い」
それが今、自分達に出来る最大限の手向けになるのだろうと。
ベネディクトは青い空にグロリアスペインを掲げた。
「今や貴方が守るべき者は滅びさった。それでも戦おうと言うの?」
サクラの声が戦場に木霊する。
「我はこの場を守ることが使命故に」
まるで墓守のような守護者の在り方に、サクラは眉を寄せた。
彼を打ち倒し、墓標を暴くのは気分が良いものではない。
しかし。それでも今を生きる人達の糧にする為には必要な事だから。
鯉口を切って僅かに露出した刃が光を反射する。
絵画の如く美しい剣士に。ガイアは神話の戦乙女を重ねた。
とうとうヴァルハラに召される時がきたのだと。
脈打つ筈の無い胸が燃える。
「『守護者』ガイア、天義の騎士見習いサクラがお相手仕る!」
「承った。良き戦いをしようではないか!」
剣檄が戦場に鳴り響いた。
●
サクラの放った神速の閃光は自律走行型の戦車ユニット迎撃システムβの装甲を切り裂く。
「シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョ、ハイジョ」
機械的な言葉が戦車から発せられ、一斉に砲台がイレギュラーズを向いた。
ガラガラと摩擦音を響かせながらイレギュラーズを補足した守護者とβが移動を開始する。
桜花閃より射程の短い攻撃しか持っていないβは、こちらに近づかねばその手段すら実行することが出来ないと踏んで。サクラ達は射程の外側から撃って出た。
サクラの後方、近づきつつある守護者を見据えるリースリットの赤い瞳。
イレギュラーズの作戦の胆。城壁に配置されている壁面搭載型の砲台ユニット迎撃システムαの射程外に守護者とβをおびき出すというもの。
「動かない砲台相手なら、その射程外で戦闘すれば安全そうですが……」
「接近してくるならそれでよし、釣られずに堅守する構えなら此方から敵の陣形に踏み込むしかありません」 四音の声にリースリットが応える。
守護者と戦車ユニットが近づいてくるのを見遣り、事前情報であるαの射程距離外まで彼らが出てくるのかどうかを見極めるのだ。
「うまくいかないなら、いかないで」
頑張るしかないのだと四音は頷く。自分の仕事はどういう状況であれ癒やす事なのだと微笑んだ。
近づく敵の射程を見つめ、ジリジリと後退していくベネディクト達。
「策を弄さねば此方も危うい」
ベネディクトの声が戦場に響く。先遣隊である鉄帝軍人が苦戦した相手ならば全力で挑まねば、此方も危うくなるかもしれない。押し切る事も出来るかもしれないが、念には念を入れる。
それほど、守護者を強敵と見なし此処まで来ているという証左だ。
「ほほう。城壁より距離を取るか。今までの愚かな侵入者とは異なる様だ」
ガイアのボロボロになった兜の中で青い光が灯る。
「――我を壊すか、侵入者よ」
「その為にここに来たんだよ。もう、アンタの時代は終わったんだ!」
剣を振り上げ威勢の良い声を上げる風牙。
挑発するような言葉を選ぶ。それも、戦闘を有利にするため。
「掛かって来いよ!」
「良い気概だ。戦いとはそうでなくてはな」
己の全てを出し切り死闘する。国を守る事に一生を費やした守護者の矜持。
「望むところだ!」
風牙の萌黄の瞳が守護者を射貫く。
――――
――
スティアはアガットの赤が散った石柱を見つめ、ぐっと眉を寄せた。
これは前線に立った風牙とサクラの血。
イレギュラーズの作戦は正解であったのだ。
城壁の前で戦って居たのならば、これよりももっと多くの血を流していただろう。
上空に飛び回る自律飛行型のドローンユニットから黒い雨が降る。
ジリジリと仲間の肌を浸食していく毒の霧。それを一瞬にしてスティアは払いのけた。
「大丈夫? サクラちゃん」
「ええ。問題無いわ」
二人の視線の先に守護者たる威厳を放つガイアが居る。
「γは自爆攻撃が厄介じゃからの」
空に浮かぶ飛翔体を見上げるアカツキ。
こちらから攻撃しなければ毒霧を発生させるドローンユニット自体に脅威は無い。
だが、ひとたび残存体力が少なくなれば、己の身を捨てて敵を排斥する行動に出る。
それ故に、アカツキたちはドローンを攻撃しない戦法に出た。
「この分だと、ひとまず成功ってところかのう」
毒霧を降らせるだけのドローンは、上空に留まったまま静観していた。
ならば、心置きなくβとガイアを相手取れる。
アカツキの瞳に魔導刻印が浮かび上がった。
掌の炎は空中に投げ出され、クリムゾンの魔法陣へと変異していく。
「元素司る我の呼び声に応ずる者此処に」
魔法陣は赤く染まり雷の精霊が雷鳴と共に現れた。
漆黒に染まる黒狼の外套が風に翻る。
「穿て――のた打つ大蛇の如く、苛烈に轟け!」
赤い雷が轟音と共に戦場に響き渡った。
「気づいていますか?」
リンディスは本を開き守護者へと対峙する。
城壁の中に大事に守ってきたものはもう無くなっていることに。
「勿論だ」
知っていて尚守っている。それが、存在意義と誇りであるならば。
「――あなたの物語を刻んで、私たちは先に進むために」
正々堂々の真っ向勝負では無いかもしれないとリンディスは唇を噛む。
けれど。
策略を張り巡らせてでも全力で戦う。
「これが、私たちの流儀と受け取ってください!」
「応とも!」
激闘に意識を失っていた風牙が目を覚ます。
肩で息を吐いて、緑の瞳を上げた。
「ベネディクトさんも言ってたけど……」
長い間、自分の使命を果たしてきた守護者に感じるところがあるのだろう。
自分自身も使命に生きる者だから。
忠義を尽くしたガイアへ『尊敬』を向ける風牙。
「だからこそ!」
右手の得物を握りしめ。守護者へ駆ける。
流れる鋒。
切れ目の無い刺突。
「全力で、オレの持つすべてをぶつけるぜ!」
耳を劈く金属の摩擦音が戦場に木霊した。
●
激しい攻撃の応酬。
風牙の奮闘により守護者の装甲が徐々に崩れていた。
「……っ」
膝をついた風牙をスティアが支える。
深い傷を負っている所を集中的に癒やしていく。
前線で戦う仲間が立っていられるのもスティア達が的確な回復を入れるから。
「さんきゅ」
支えてくれる仲間が居るのならば、立ち上がる力が湧いてくる。
ルドルフ・オルグレン大佐がこの依頼をローレットに投げたということは、鉄帝国にとってそれほど重要なものではないのだろうとリースリットは瞼を伏せる。
けれど、目の前の守護者にとってはこれが最後の戦いになるかもしれないのだ。
片時も気を緩めることなど出来はしない。
誇りと己の正義のために。
全てを賭けて戦わねば後悔する。
「使命に恥じぬ戦いを」
赤い炎を宿した魔晶核が色を増した。
呼応するように、リースリットの身体が仄かな光輝に包まれる。
「揺れる――赤き炎。冥界の門を解き放ち」
緋炎の制御は未だ難しく、じわりとリースリットの身体を灼いた。
「地の底に咲く炎の花よ、咲き誇れ――赤の円舞曲!」
リースリットの放った剣舞はヴァーミリオンを纏い守護者の身体を破砕する。
「貴方は騎士の鑑だよガイア」
サクラは刃で攻撃を弾き言葉を紡いだ。
戦場に響く摩擦音。
「永遠にも思える時の中で、ずっとこの場所を守ってきてたんだから」
剣檄と息づかい。靴底が地面を滑る音。
在りし日の思い出。遙かな古の記憶に想い馳せ。
朽ちかけた身体を引きずって。尚、使命のために。
だが、見習いとはいえ、騎士であるサクラにも負けられない意思がある。
「私は、私の守るべき者の為に、貴方を蹂躙する――!」
怒濤の連撃。
バラバラに砕けていく装甲。露出していく人工筋肉。
「ああ、素晴らしい。なんと強い者たちか!」
感情というものを殆ど見せてこなかったガイアが歓喜の声を上げる。
サクラとの剣檄に酔いしれているようにも見えた。
「ふむ。朽ち果てる寸前という感じでしょうか?」
動きが大きく隙だらけになってきた守護者を見つめ四音は口元に指を当てる。
ここに自分達が来なくとも、近い未来に停止していたのかもしれない。
けれど。何処か楽しそうではあるのだ。
それはまるで線香花火が落ちる寸前のような煌めき。
「数も良し質も良し槍も良しで苦戦したが」
四音の前にアカツキが躍り出る。
「……これで終いじゃ!」
アカツキの魔法陣から放たれた雷撃は的確に守護者の身体を打ち抜いた。
ガイアの身体が不自然に傾ぐ。
それを四音は見逃さなかった。
物語に傷が付くのは耐えられない。
だって、それでは面白くないから。
だから。
――――
――
喉の奥からゴポリと血が地面に零れた。
視界が明滅して、腹に熱湯を掛けられたような感覚がある。
四音は肩で息をしながら、いつもの含み笑いをした。
「くふ、ふ。少なくとも、私達は……っ、その槍の一撃だけで、倒れる程やわでは……っ、ないですよ」
血をまき散らし。それでも四音はその槍を放さない。
「たまには、こんな泥臭い、事だって……っ、するんです、よ」
物語が美しくなるのならば。どんなことだってしてみせる。
幾星霜の時が経っても、使命を果たそうとする矜持に応えるため全力を尽くす。
ベネディクトは左手のグロリアスペインを強く握った。
「敵国が滅び、文明が潰え、それでもなお守護者として立つ者よ。その任、今日限りで解かせて貰う!」
ルナディウムの槍の記憶をベネディクトは知っている。
妖精の迷宮で己の記憶として追体験しているのだ。
だからこそ、守護者に対して真正面から挑まねばならない。
全力で。ただ我武者羅に。
前へ。前へ。
穿ち。進むために。
頬からアガットの赤が散り、装甲の破片が飛んでいく。
ベネディクトは人工筋肉に守られたコア目がけて、黒き槍を突き立てた。
「心残りは俺が連れて行く、もう、眠れ」
傾いでいく視界に。
相棒と同じ内なる輝きを持った者を認めて。
守護者は満足したように、地に身体を沈めたのだ。
●
崩れ落ちた守護者を囲み、リンディス達は祈りを捧げていた。
「どうか、安らかにお眠り下さい」
機械といえど、剣を交えた者を送る弔いは必要なのだ。
サクラは飛び散った部品を揃え、形を整え墓と成す。
ここに守護者が居たのだと残すために。
アイル・トーン・ブルーの空が広がるのを四音は赤い瞳で見つめる。
彼等の満足する終わりを迎えることが出来ただろうかと、戦いの記憶を反芻した。
口果ててでも残る物語があるのなら。自分は幸せなのだと四音は思う。
「ええ、貴方達の死は無駄ではありません」
くふふと含み笑いをして、四音はこの物語の頁を閉じた。
「遺跡調査の時間だー!」
努めて明るくスティアは声を上げる。
守護者が長い年月をかけて何を守っていたのか。
機械仕掛けの遺物だったとはいえ、そこに想いはあったのだろうから。
大切なもの。大切な場所。流石に伝説の武器は無いだろうけど。
「次に繋いでみせるから」
「そうそう。こういう遺跡には古書とかもありそうじゃし、お土産にいいかもしれんのう」
スティアの声にアカツキも笑ってみせる。
自分の周りには読書好きが集まっているから。
祈りを終わらせた後は、城壁の門を開けるのだ。
古の王国の都。守護者が守り続けたものを探して――
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
守護者は相棒を託し、思い残すことなく旅立ちました。
MVPは身体を張って仲間を守った貴女へ。
GMコメント
もみじです。遺跡の守護者との闘い。
●目的
遺跡の守護者を討伐する。
●ロケーション
古代遺跡ラクシェルの城壁を守護するガーディアンと戦います。
城壁の前は岩や瓦礫が散乱していますが、戦闘に問題ありません。
日中なので明るいです。
●敵
○『守護者』ガイア
幾星霜の時間、この場所を守ってきたガーディアン。
身体は朽ちかけています。
・刺突(A):物至単、ダメージ中
・なぎ払い(A):物至範、HA吸収、ブレイク
・パイルバンカー(A):物至単、ダメージ特大(※一度しか使用出来ない)
・毒無効(P)
○迎撃システムα×5
壁面搭載型の砲台ユニット。城壁についている。
・砲弾(A):物超範:業炎、流血、ダメージ中
・レイ(A):神超貫:ダメージ大、万能
・移動不可(P)移動しない
・毒無効(P)
○迎撃システムβ×5
自律走行型の戦車ユニット。戦場を走り回る。
・連弾(A):物近扇:氷結、連、ダメージ中
・マグナム(A):物遠単:ダメージ特大
・毒無効(P)
○迎撃システムγ×3
自律飛行型のドローンユニット。飛行している。
・毒散(A):神遠域:毒、猛毒、ダメージ無し
・バースト(A):物自範:ダメージ大、反動特大(※残りHPが少なくなった時に自爆する)
・飛行(P)
・毒無効(P)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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