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シナリオ詳細

<Breaking Blue>砲撃する幽霊船

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幽霊船
 帆は破れ、腐りかけた甲板には黄ばんだ骨が転がっていた。
 カタカタと音がする。
 錆びた刃物に指の骨が集まり、腕、肩、上半身から全身が組み上がってスケルトンが完成する。
 破れたままの帆が風を捕まえる。
 かつて絶望の青に挑んだ1隻の船が、今挑んでいる海洋船を邪魔しようと動き出した。
「なんだ、ありゃぁ」
 熟練の船長が冷や汗をかく。
 水平線近くに見えていた船の残骸が、今では黄ばんだ歯が見える距離まで迫っている。
 幽霊船の船首に立つ汚れた船長服のスケルトンが、こっちに来いと手招きをしていた。
「船長っ」
 生身の船員が怯えている。
「大砲に弾を込めろ。奴等は魔種ではない。壊せば死ぬただのモンスターだ」
 船長はなんとか部下を宥めようとする。しかし声がうわずっているので部下の恐怖を煽ってしまった。
 黄ばんだ骸骨達が、嘲笑うようにカトラスを振り上げゆらゆら揺らし、いきなり何かに吹き飛ばされた。
 骨と刃物がくるくると周り、ぽちゃんと間抜けな音をたてて海に沈んでいく。
「何を遊んでいるのです」
 冷たい声が斬りつけるような勢いで降ってくる。
 烏色の翼を広げ、大規模攻撃術の余波を空に撒き散らしながら、『気高き黒金』竜胆・ケイカが2つの船を見下ろしている。
「挑戦者を妬み足を引っ張る雑魚に怯えるとは何事です。それでも海洋の兵ですか!」
 傲慢ですらある。
 しかし単身で幽霊船に立ち向かう勇気と気高さは誰にも否定出来ない。
「お、の、れぇ」
 傷だらけの船長スケルトンから、呪詛が凝り固まった声が響く。
 亀裂だらけの幽霊船から瘴気が噴き出し、不定形の幽霊船員と、生き物じみた大型の大砲の形にまとまり実体化する。
「死ね小娘ぇ!!」
「恥を知らぬ男が船長をしていたとは、海洋の汚点ですわね」
 幽霊船員によって砲口が自身に向けられても、ケイカは気品と強気を両立させた笑みを崩さない。
 幽霊大砲から砲弾が放たれる寸前に猛加速して回避。
 サイドテールを風で激しく揺らされながら、生きている船を静かに見下ろした。
「船長」
 貴方はコレの同類ではないのでしょう?
 言外の意を察した船長が、気合いを入れ直して大声を張り上げる。
「面舵ぃ! 左舷砲撃用意!!」
 熟練の艦長に相応しい威圧感だ。
 怯えていた水夫から余計な思考が消え、この航海に選抜されるほど優れた技量が遺憾なく発揮される。
 敵前での回頭を開始。
 気付いたスケルトンが短銃による銃撃を行うが、水夫の分厚い筋肉で阻まれ現役海洋船を阻止出来ない。
 幽霊大砲が再装填を終える。
 だが、幽霊船を狙いをつけるよりも、海洋船の砲撃準備が完了する方が一呼吸早かった。
「撃ぇ!!」
 4門が大量の煙を吐き出す。
 反動で揺れる船体を、見事としかいいようのない帆の操作で抑え込む。
 4つの弾のうち1つが手前に落ち、2つが幽霊船の船首砲を潰し、最後の1つが船長スケルトンを砕いて幽霊船甲板に転がった。
 生きている船員が歓声をあげる。
 船長も安堵の息を吐き、しかしケイカが厳しい表情をしていることに気付いて緊張感を取り戻す。
「本体は船なのかしら」
 潰れた船首砲が、生物の歯の生え替わるかのように新しくなる。
 砕けた骨が、甲板から噴き出す瘴気で欠損部分を補われスケルトンとして復活する。
「一旦イレギュラーの船と合流しては」
 今の船長は怯懦とは無縁だ。
 彼我の戦力を冷静に評価し、このまま戦えばこちらが負けると判断した。
「幽霊船が勇敢に戦うと思う?」
「あぁ……そう、ですな。逃げられて輸送船でも襲われたら酷いことになる。」
 船長は己の意見を取り下げ、部下を酷使し敵船からの攻撃を防ぐ。
「貴族の義務とはいえ」
 金の髪をきらめかせ、鮮やかな黒の翼で加速しながらケイカが呟く。
「早く片付けてフェノア様の元へ戻りませんとね」
 復活した船長スケルトンが何かを言うより早く、その頭蓋を蹴り飛ばして腐った甲板へめり込ませた。

●ローレットにて
「後半戦なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は真剣な表情で言い切った。
「『廃滅病』は知ってるです?」
 超人的な力の持ち主でも命が危ない感じの超すごいバッドステータスである。
「多分敵は時間切れを狙うです」
 だから攻めるのだ。
 『廃滅病』の原因であるアルバニアを引きずり出すため、アルバニアが嫌がることをする。
 イレギュラーと海洋が絶望の青を攻略してしまえば、時間切れ直前であってもアルバニアが姿が現す確率は上昇するだろうし、それ以前に現れる可能性だってある。
「今回の目標は、昔何隻か向かって消息を断った場所なのです」
 既に安全ならそれでいい。
 絶対に迂回する必要があるならそれでもいい。
 最悪なのは、この場所に移動可能な敵戦力が潜んでいる場合だ。
「海洋が2隻出してくれるです。……その、出来れば被害を少なく成功させて欲しいのです」
 今回派遣される2隻は精鋭であり士気も高い。
 だが魔種やそれに匹敵する強敵と戦える人材は少なく、士気の高さが大量の戦死者に繋がりかねない危険もある。
「あと、ドエ……じゃなくてちょっときつめの人が乗り込んでるかもです。喧嘩しないでくれると嬉しいのです」
 竜胆・ケイカ。
 海洋貴族オルトリンデ家の剣として知られる女傑であり、一部ではドS令嬢扱いされることもある(多分)少女であった。

GMコメント

●成功条件
 幽霊船の撃破。


●エネミー
『船長スケルトン』×1
 船長服を着込んだスケルトンです。
 カットラス【物近範】【必殺】と短銃【物遠単】を巧みに操る凄腕ではあるのですが、生前の筋肉が失われているため攻撃力は下がり防御技術も貧弱です。
 しかし指揮能力はなかなかで、『船長スケルトン』が甲板にいる場合は『幽霊船員』全員の命中が上昇し、『幽霊船』の大砲の命中もかなり上昇します。

『幽霊船員』×最大20
 朧気な姿をした幽霊達です。普通に攻撃が効きます。
 生者を呪う声【神中単】と接触【神至単】【必殺】が使えますが、命中も回避も他の能力も低いです。
 得意技は『幽霊船』の砲操作補助と【マーク】と【ブロック】です。

『幽霊船』×1
 スケルトンや幽霊の本体です。
 船首砲を2門、左右にぞれぞれ2門を装備。対空攻撃も可能ですが自身の甲板にいる相手は撃てません。
 全ての砲が甲板に設置されています。
 合計6門でそれぞれ別の目標に攻撃することも可能ですが、砲弾に特殊な効果は無く、攻撃力はありますが【物遠単】の攻撃です。
 砲はどれも脆いです。砲は破壊されると30秒で自動的に復活します。
 スケルトンと幽霊を1ターンで合計最大5体復活させることが可能ですが、復活させたターンは砲撃能力を失います。『幽霊船員』が操作しても砲撃出来ません。
 船の内部は不定形の瘴気で満たされ船室や船倉は存在しません。瘴気も普通に攻撃が効きます。
 この船が破壊されると、スケルトンも幽霊も自動的に全滅します。


●友軍
『竜胆・ケイカ』
 海洋貴族のオルトリンデ家から派遣されてきた増援です。
 スカイウェザー(烏)。超強気。
 強烈な挑発スキルと大火力を兼ね備えた精鋭……ではあるのですが、怖じ気づいていた味方船を庇うためAP大量消費スキルを多用したため、そろそろAPが0になります。

『精鋭船』×2
 船首砲1門、船尾砲1門、左右にぞれぞれ4門を配した大火力船です。
 1門あたりの攻撃力も射程も『幽霊船』と同程度。
 しかし命中が『幽霊船』の回避よりかなり低く、イレギュラーの助け無しで当てるのは困難です。
 耐久力は『幽霊船』より1桁低いです。

『精鋭水夫』×合計30人
 装備はナイフと短銃。イレギュラーの要請に可能な限り従います。
 特に指示がない場合は、帰還手段でもある船の生存を最優先します。


●船上
 1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。上が北。弱い西風。
 abcdefghijklmn
1□□□□□□□□□□□□□□
2□□×□□□□□□□□□□□
3□□×□□□□□□□□□□□
4□□×□□□□□□□□□□□
5□□×□□□□□□□□□□□
6□□□□□□□□□□□□□□
7□□□□□□□□□□□イイイ
8□□■■■□□□□□□□□□
9□□□□□□□□□□□□□□

 □=海。
 ×=海賊船。船首はc5。南下中。
 ■=味方船。船首はe8。東進中。『竜胆・ケイカ』はこの船の上空にいます。
 イ=イレギュラーズが乗り込んでいる船。西進中。イレギュラーの初期位置。
  3隻とも、1ターンに20メートルまで移動可能です。


●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信用できますが、不測の事態も起こる可能性があります。


●重要な備考
<Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <Breaking Blue>砲撃する幽霊船完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年04月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ

●海の上で踊る
「幽霊が後部マストにとりついたぞ。3体だ!」
 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)の自信に溢れた声が空から降り注ぐ。
 甲板にいる船長が身振りで応え、筋肉だけならカイトに匹敵する水夫が帆の向きと開き具合を調整する。
 幽霊船が急旋回して突撃を仕掛けるより2秒早く海洋船が進路変更完了。
 突撃を意味な行動へ貶め、舷側砲4門で幽霊船の甲板へ狙いをつけた。
「初めての外洋でこれとは……やるじゃないか!」
「うるせぇぞ若いの。喋っている暇があるなら翼と口を動かせ」
 老船長の言葉は荒いが表情は楽しげだ。
 カイトは海と船についてよく学びよく知り、勘所をおさえた情報を渡してくる。将来が実に楽しみで、ここが戦場でなければ口笛を吹いていたかもしれない。
 帆が強風を孕む。
 幽霊船の船首に立つスケルトンが、比喩ではなく顎を落として離れて行く海洋船を見ていた。
「所詮は過去の遺物ね! ヒドスギの鉢植え、その絶大な効果を見せてあげっ」
 へっくちゅ!
 朱色の和服を纏う上品な少女が、艶やかな狐耳と狐尻尾をぴこぴこ動かしながら胸を張り、可愛らしいくしゃみをした。
 原因は、船尾に固定された杉っぽい何かの鉢植えだ。
 花粉と風を盛大に撒き散らし、海洋船を加速はさせているが水夫にマスク(手拭いを顔に巻き付けただけ)着用を強いている。
「幽霊船、ですか」
 『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)の指先から清らかな水が真っ直ぐに滴り、冬佳と術と霊力に反応して一振りの氷剣に変わる。
 日の光を反射する様は蓮華を思わせる美しさで、それに威力も伴うことに気付いてしまった船長スケルトンが恐怖で震える。
「見つけた以上は撃破しておくべきでしょうね」
 混沌に召ばれるまでは妖退治をしていた冬佳から見ると、この種の化け物が自由に動き回る確率は高くない。
 だが今は絶望の青攻略の真っ最中で危険な要素は少しでも消してしまいたい。。
 精鋭船2隻とイレギュラーを危険に晒してでも討つ価値は十分にあった。
「おのれちょこまかとっ。構わん撃てっ。何まだ遠い? いいから撃てぇーっ!!」
 スケルトンが幽霊を怒鳴りつけ砲撃を開始させる。
 大量の煤と共に旧型砲弾が放たれ、海洋船に届く前に海に落ち吃水下に当たることもなく沈んでいく。
「隙有りよ!」
 『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)の中でアドレナリンが爆発的に増える。
 常人なら心身共に狂いそうな量だが、これまでの冒険である程度は力を取り戻してきたイナリにとってコーヒー一気飲み程度の効果である。
「ちょっとどころでなく勿体ないけど味あわせてあげる!」
 格の高い存在から力を借りる。
 意識が飛びかねないほど負担が大きいが、まだぎりぎりなんとかなる。
 金色の瞳を光らせ、急速接近する甲板の中央に、ピンク色の妖しい何かを大量に呼び出した。
「耐えろ、気合いを入れろぉ!」
 スケルトンが叫ぶ。
 ピンクの霧に触れた幽霊船員が麻痺して、あるいは呪縛され、あるいは狂ったように近くの同属に攻撃を仕掛ける。
 無事な幽霊も同属の混乱に巻き込まれ組織としての行動が全く出来なくなる。
 効果範囲はマスト1本分でも、幽霊船が晒した隙は致命的なほどに大きかった。
「ケイカおねーちゃんが見てる……」
 『木の上の白烏』竜胆・シオン(p3p000103)が緊張で唾を飲み込み、ついでに栄養満点キャンディを嚥下してしまった。
 胃が熱く感じられ、全身の感覚が鋭くなる。
「行きます!」
 揺れる甲板を飛ぶように走り、海洋船よりさらに揺れるぼろぼろの甲板へと跳躍し、着地した。
「小僧がっ」
 スケルトンがカットラスを引っ掛けるように突き出す。
 筋肉を無くし速度も力も衰えても技は生前と変わらず、身軽なシオンでも防ぎ辛い鋭い一撃だ。
「させるかよ。骨は骨らしく墓か海底で寝てな!」
 悠々と空を飛ぶカインの緋翼から、一見軽く牽制程度にしか役に立たないよう見える羽根が放たれる。
「ぬぅっ」
 スケルトンが攻撃を諦め後ろに跳ぶ。
 羽が致命的な毒の塊であるかのように、全神経を集中させた刃で羽の進路を変えやり過ごす。
「使い古された戦術だ。野郎共、奴を打ち落とせぇ!」
 反対側の砲2つと船首砲2つが幽霊によって空を向く。
 発射タイミングをずらせた、カインの回避を予測までした砲撃が連続する。
「『風読禽』、もとい『鳥種勇者』のカイトに当てるには足りないなぁ!」
 降下しながら右に動いて元の進路へ戻る。
 当たり所次第で翼を折る威力を秘めていた砲弾が、羽に触れることも出来ずにカインの左右数メートルで最高高度に達し落下を始める。
「防ぐために隙を晒しすぎだ。ほらよっ」
 船首に降下した瞬間、翼を大きく振るって炎と風を巻き起こす。
 どぎつい色の炎が、幽霊船の過半を覆い尽くし骨と霊を焼いた。
「ふんっ、威力は貧じゃ……なんだこれはっ」
 炎と毒が消えずに骨から存在するための力を奪う。
 幽霊船員はさらに被害が大きく、このままでは20秒ももちそうにない個体がかなりいた。
「本体は……」
 蒼い衣に身を包んだ冬佳が、幽霊船に乗り込んだ瞬間全てを察した。
 幽霊も骸骨も、甲板上の砲も大きな敵の一部でしかない。
「ふはははっ、我が船は貴様等程度にはっ」
 船内でうごめく大量の瘴気が敵であり、それ以外はただの末端だ。
 冬佳は片手の氷刃で陣を描いて無数の氷を生み出す。
 透き通るように清冽なそれは刃のようで、幽霊群を取り込む形で結界を形作る。
 朧気でも見た目以上にしぶといはずの幽霊が、体あちこちを切り裂かれて端から消えていく。
「さあ、闇に飲まれろ。その先こそがお前達の帰るべき場所だ!」
 常人で両手で持つことも難しい鎌を片手で使いこなし、『茜色の恐怖』天之空・ミーナ(p3p005003)は鎌を通じて闇の領域を甲板上に出現させる。
「――さあ、恐れ慄けそして食われろ。その闇は、貴様自身の闇である」
 何も見えず、魂まで凍えるほど寒く、目を逸らそうにも逸らせない存在感がある。
 周囲の幽霊船員だけでなく、カインを警戒するだけで精一杯だった船長スケルトンまで闇に囚われた。
 冬佳の斜め前に立ち幽霊集団を牽制していたシオンが急加速。
 闇の中の敵はシオンの気配には気付いたが冬佳を見失い、華奢な体を紅のヴァルキリードレスで包んだミーナを攻撃しようとしてことごとく防がれる。
「そこっ」
 深く踏み込み、剣で以て死の線を描く。
「な」
 無防備な背中側から背骨を上下に断たれ、ほとんど爆発四散する形で大小の骨が甲板に散らばった。

●船vs船
 幽霊船甲板の戦いは、イレギュラーズが圧倒的に押している。
 けれど視線を少しずらしたなら、全く別の光景が見えてくる。
 イレギュラーズが1度壊したはずの砲が復活している。
 1度消えたはずの幽霊船員が、帆と舵を巧みに操り海洋船2隻を追い詰めようとしていた。
「船尾に来るぞぉ!」
 海洋の兵が奥歯を噛みしめ必死に走り、しかし幽霊船の砲が彼等にぴたりと狙いをつけた。
 轟音。
 そして異音。
 船が破壊される音とも、砲弾と装甲が衝突する音とも違う、しかし凄まじい力を感じさせる音が戦場全体に響く。
「こんな所で」
 船尾の隅っこが煙で包まれている。
 ヒドスギの鉢植えが力を失い煙が薄くなり、三叉の武装がちらりと見えた。
「躓いてるわけにはいかないんだから」
 堂々と船尾に立つのは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)。
 一見人間種の少女にも見えるが、戦士としての気配と、強靱な海種としての気配を兼ね備えた精鋭だ。
「溢れだした濁流を押し留める事ができないように、勢いに乗った我々を食い止めるのは不可能!」
 止められるものなら止めてみろ。
 長い間この海域の支配者であった幽霊船に、真正面から挑戦状を叩き付けた。
「船長!」
「持ち場へ戻れ。イレギュラーズにあわせて砲撃を行う」
「了解です!!」
 物理的には小さいイリスの背中がとても大きく見える。
 船長以下全員が精神的にも物理的にもイリスを頼りにして、速度の低下を最小限に抑えて砲の狙いを念入りにつけた。
「大したものね」
 『気高き黒金』竜胆・ケイカは、もう1隻の既にぼろぼろの海洋船に降りてから、感嘆と戸惑いが入り交じった表現し辛い表情になる。
「ケイカさんは少し休むのだわ。息を整えて……あっ、髪が乱れてるのだわ。いいの、私が手伝うのっ」
 気付かないふりをしていたのに、天使を思わせる白翼を持つ『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が飛び乗ってくる。
 船と船の間に結構な距離があったのに平然と跳び、軽々と着地し、本心から気遣いながらケイカの身なりを整え並行で水夫達に声をかける。
「皆さんよく頑張ったのだわ。後少し、浮沈丸と私達と力をあわせて、あの船をやっつけちゃうのだわ!」
 瑞稀の仲間には廃滅病の罹患者がいる。
 とても心配で、治療のために何かをしてあげたくて、だからこそこの戦いに全力を尽くす。
「私は大丈夫なのだわっ。ケイカさんほどの火力はないけど体力はあるの」
 ぐいぐいくるわねこの子……と精神的に押されているのを自覚するケイカ。
 どうにも強気に出られない。
 言葉は多くても決して余計な手出しはせず、けれど何時も見守り少しだけ背中を押してくれる愛を感じる。
 まるで、母のようだ。
 ケイカは降参するかのように小さく息を吐いてから、酷使した体に力に染みこむ力を享受するのだった。
 風が吹き船が揺れる。
 砕けた波が飛沫と化すが、『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)は冷静に戦場全体を見つめている。
「未練、悔恨、憎悪。私達の目の前に幽霊船として立ちはだかるそれら。悉くを斬り捨て、更なる先へと進みましょう」
 幽霊砲が水平を向く。
 反対側からイレギュラーに破壊されているのに、強引に砲撃を決行し自壊と引き替えに弾を撃ち出す。
 紗夜は反撃するより防御に集中すべきと判断して、海洋船側からの攻撃を止めさせた。
 海洋船が回避に専念しても、実に3発が命中コースだった。
 イリスが舷側を駆け、魔法と言うよりほとんど奇跡じみた体術と盾術で弾2つを受け止める。
 体が揺れ唇から血臭混じりの息が漏れる。
 だがそれだけだ。
 人体が砕け散ってもおかしくない打撃を2回受けたのに、イリスは治療なしでまだ戦える。
 残る1発は船尾を掠めて海へと消える。
 かなりの被害が出てもおかしくなかったが、ミーナと水夫が陣地構築じみたやりかたで増強した守りによって許容出来る範囲に収まっていた。
 瑞稀が顔をあげて声を張り上げる。
「船長さん!」
「負傷者は鉢植えの前に走れっ」
 包帯から血を滲ませた水夫が理由も聞かずに甲板を走る。
 戦闘能力ではイレギュラーの足下程度の力しかなくても、揺れる甲板を危なげなく走れる程度には水夫として優れている。
「全ての生命に光あれかし、なの!!」
 救いの音が甲板を撫でる。
 痛みと傷がいきなり消えたことに築き、水夫達がぽかんと口を開けた。
「次はケイカさんなのだわ」
 水夫の治療を終えた瑞稀が振り返る。
「いいえもう十分」
 ケイカは言葉の愛想のなさとは対照的な、心のこもった一礼をしてから大きく翼を広げた。
 瑞稀によって回復した力が溢れて翼と髪を美しく照らす。
「私は貴方方の力もやり方も知らない。ですから」
 あわせなさい。
 傲然と言い切り、凝縮させた力を幽霊船へと叩き込んだ。
 復活途中の幽霊とスケルトンが消し飛ばされる。
 幽霊船が激しく揺れる。
 甲板上のイレギュラーズはそんな状況でも攻撃を継続して艤装を破壊した。
「速きこと、戦の理想です。迷わず揺れぬこと、これも同じく」
 紗夜は揺れる甲板で幽霊船甲板を注視する。
「5秒後に角度が最大になります」
 それを聞いた船長が獰猛に笑う。
「まだ撃つなよ。まだ待て、よし、撃ぇ!!」
 4門の砲が球形の弾を放つ。
 速度はあまり早くはなく、しかし重さと固さは十分以上だ。
 垂直に着弾して甲板を押し破り、4つの大きな穴を幽霊船に開けた。

●船長
「オオオノレェ!」
 4つの穴から空間が歪むほどの瘴気が噴き出す。
 巻き込まれた骨の怨念が主導権を得て、下半身が船の巨大スケルトンへと変わっていく。
「その首、その魂」
 紗夜が幽霊船甲板に降り立ち緋色の大太刀を鞘から抜く。
 扱いは非常に難しいはずだが、紗夜の心技体が太刀の力を引き出し疾風の如き剣閃を実現する。
「露と散る御覚悟を」
 巨大スケルトンの胸から腰にかけて大きな切れ目が入る。
「フハ、効カヌワァ!!」
 船長が嘲笑う。
 脳のない空洞の頭部では、知覚してから反応するまでの時間が数割増しになってしまっていることに気づけない。
「既に負けているのにも気付かないか」
 紅い翼がゆらりと動く。
 高速で甲板と空を飛び回っていたミーナの動きがぴたりと止まり、死神の鎌に凄まじい力が集中した。
「ナニヲイッテ……」
 喫水線と甲板までの距離が縮まっている。
 これまでの攻撃で幽霊船のあちこちが壊れて海水が入り込んでいる。
「もう休め」
 鎌が甲板ごと分厚い瘴気を裂いた。
 巨大骸骨が絶叫の代わりに歯と歯とぶつける。
 骸骨の眼窩から、古ぼけた大砲がにょきりと生えた。
 装填されているのは砲弾の形に固められた瘴気であり、直撃すれば平凡な並の船なら一撃で沈む。
「ジネェ!!」
 斜め下へ撃つ。
 甲板にいる戦士達では防ぎようのない、海洋船の喫水線を狙った嫌らしくも致命的な2連撃だ。
 海の神秘を感じさせる鱗の連なりが光を反射する。
 イリスの本来の姿である、光沢のある鱗を持つ大きな魚が、瘴気をものともせずに尻尾ではたき頭突きを食らわせ2つの砲撃を左右へ弾く。
 海洋船は、一切ダメージを受けずに幽霊船から離れていった。
「おお!!」
 海洋船から歓声が。
「ウソダロォ」
 幽霊船から呆気にとられた間抜けな声が。
 そんな音を右から左に聞き流しながら、瑞稀は丁寧に丁寧にイリスの体を治療する。
「みんな頑張り屋さんなの」
 常人なら腕1本分に相当するかもしれないダメージを1度に癒やしているのに、瑞稀は疲労した様子もない。
「しぶとい」
 頭蓋に痛打を浴びせて骸骨と船の姿勢を乱すという大戦果をあげているのに、カインの表情は深刻だ。
「皆っ、沈没には巻き込まれるなよ」
 いざというときは担いで運ぶつもりではあるが、沈没時に生じる流れの強さを考えると、可能な限り避けたかった。
「海って怖い」
 きりっとした表情のイナリの耳が縮こまっている。
 沈没に巻き込まれたら死ぬと本能が感じている。
「だから海に潜るのはそっちだけなの!」
 幽霊船は大きく、甲板は広く、範囲攻撃術に仲間を巻き込む危険はとても小さい。
 神々しい炎の一撃が、甲板という守りを無くした瘴気を大量に蒸発させ幽霊船を震わせた。
「俺ガ沈ム前ニオ前タチヲッ」
 ふわりと跳んだ紗夜が、緋色の切っ先で巨大な首骨を狙う。
 骸骨は慌ててのけぞって回避したものの、眼窩から突き出す砲を斬り飛ばされて武器を1つ失った。
「まだ気付いてないのか」
「ナンダト?」
「砲と幽霊がそれぞれ別に動いていた時の方が強かったって言ってるんだ!」
 甲板すれすれを滑るように飛び、大きな黒翼持つ少女のような少年が、大きな剣で骨を抉って瘴気を断つ。
「ガキガ囀ルカァ!!」
 怒りはしても最低限の冷静さはある。
 かつて熟練の船長であったそれは、幽霊船から力を引き出し部下達を幽霊として再現しようとした。
 シオンの目が細められる。
 瘴気の中から這い出てきた幽霊全てに狙いをつける。
「天国の黒光よ、響け!」
 刀身に黒雷を帯びさせ、問答無用でなぎ払い、消滅させた。
「柔らかな下腹を自ら晒したようなもの。生前であればまともな判断が出来たのでしょうけど」
 冬佳が飛翔する。
 追って来た巨大腕骨を穢れ無き水で一閃し、甲板近くまで上がって来た海面を一瞥した。
「さらばだ」
 ミーナが最後の攻撃を仕掛ける。
「ヤメロォ!」
 巨大骸骨が実をよじっても、船の崩壊を早めることにしか繋がらない。
 威力だけはある巨大骨拳を回避しつつ攻撃。
 死神の鎌が竜骨を切り裂き、圧力に耐えられなくなった竜骨に無数のひび割れが生じた。
 幽霊船が崩れていく。
 激減した瘴気もぼろぼろの巨大骸骨も船の残骸と一緒に海の中へと引き込まれていく。
 2隻の海洋船が全力で逃げる。
 生じた渦は予想以上に大きく、戦いの痕跡全てを海の底へと導くのであった。


 穢れ無き水が凪の海に注がれ、2隻の船長と水夫が黙祷を捧げる。
「かつて消息を絶った部隊を沈めた相手か、或いはその部隊の成れの果てか……」
 海では死は身近にある。
 気の荒い水夫達も今だけは真剣だ。
「何れにせよ、海に彷徨う還らざる魂。その無念、我が神水を以て洗い浄め祓い鎮めます。――どうか、安らかに」
 儀式が終わってからしばらくして、海洋に戻るのに向いた風が吹き始めた。
「ふふん、どーケイカおねーちゃん……俺だって成長してるんだから……」
 胸を張ったシオンの頬を、整えられた爪がつんつんする。
「見たままを報告するわ」
「あの……俺が頑張ってるってフェノアおばちゃんに伝えて欲しいなって」
 上目遣いをしても通用しない。
 ただ、ケイカの翼は機嫌良く静かに動いていた。

成否

成功

MVP

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫

状態異常

なし

あとがき

 幽霊船を撃破しました!
 傷ついた船の修理にも成功し、戦死者無しで帰還出来たそうです。

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