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シナリオ詳細

桜流離に花囃子

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●華燭
 銀の髪の乙女が姿を消したと言う。
 欲に塗れた乙女に訪れる筈であった細やかな幸せは潰えたと依頼人の男は泣いた。
 不憫であるとリュミエは胸に手を当て声を震わせる。実に、不憫で身に詰まされる思いであると。
 彼女が消えた場所へと、ペリカ・ロズィーアン達、探索隊を伴い訪れた大魔道は流れ込む映像を見た。

 美しき倶蘭荼華。その中で男が傅いている。
 傍に佇む男には旅人の如き角が額より生え、裾の広がる衣服に身を包んでいるのが見えた。

 ――けがれの巫女よ。よくぞやった。
 ――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!

 傅く男の言葉と共に、その映像は掻き消える。それは一体なんであったか。
 リュミエは直ぐ様にその場所を禁足地とした。その異様な光景が『混沌世界のもの』である確証が、『その時』の彼女には得られなかったからだ。

●天才かがりん アイドル陰陽師の占い動画
 夕刻――僅かに湿り気を帯びた大気は、空を茜色に染め上げている。
 スピーカーから響くガラガラと割れたメロディは古い唱歌で、帰宅を促す意味を持っていた。
 幼い頃から耳慣れた者は無性に焦燥と郷愁を誘われるとも云うが、さておき。

 晴香みとんはピンバッジだらけの通学鞄を片手に、校門を後にした。
 先輩達の卒業式も終わり、来年からは新学年となる訳だが。
 春休みとはいえ部活もあれば勉強会もある。みとんはこの日、部活動の帰りであった。
 歩調は早く、鞄がかちゃかちゃとリズミカルな音を立てている。
 時折スマートフォンをチェックして、流れるメッセージに相づちを入れながら。
 学校周りの閑静な住宅街を通り抜けると、徐々に緑が増えてくる。
 足早に向かう先は、自宅ではなかった。
 みとんが通う学習塾も、友人達と足繁く通うファーストフード店も、ここにはない。
 視線の先にあるのは、小さな――といってもみとんの背よりは遙かに大きい――朱い鳥居だった。

 みとんは周囲の様子を不安げにうかがい、胸の前で軽く拳を握る。
 それから決心したような表情で、細い石階段をゆっくりと登っていった。
 一歩、また一歩。石段をこつこつとローファーの底が叩いて。
 鳥居へたどり着いた時にはすっかり息が切れていた。
 頬をくすぐる桜の花びらを払った時。鞄から感じたのは二度の小さな振動だった。
 スマートフォンを取り出したみとんは、チャットアプリケーションのメッセージに目を通す。

  ひだりひだり 17:12 既読

 とん――と。左肩に感じた軽い衝撃に、みとんは背筋を跳ねさせた。
「遅いじゃん」
「びっくりしたよ、もー……」
 肩に手を置いていたのは、クラスメイトの多実月子(たみの・るなこ)であった。
 二人はここで待ち合わせしていたという訳だ。
 逢魔が時などとも云うが。夕刻の聖域というのは、どことなくこの世ならざる気配がある。
 肌寒さも相まって心細かったろう。
 年頃の子供達が神域と云えば、大抵が根も葉もないオカルトに関するいたずらか。
 さもなければその場所がアニメやゲームに登場していたとか、そんな理由が多いが。
 では。彼女等の場合は――

「かーがーりーん!」
「はあい♪ なにかしら?」

 二人の呼びかけに応じて。てててっと、社から降りてきたのは立烏帽子の小さな少女だ。
 お公家か、あるいは何かゲームやアニメの陰陽師のようにも見える。
「私がかわいい天才陰陽師、国府宮 篝よ」
「ほんものだ!」
 はしゃぐ少女達に
「それじゃあ配信はじめるから、貴女達は鳥居の前からね」
「はーい!」

 天才かがりん アイドル陰陽師の占い動画 スタート!

「今日の悩みをかわいく解決♪」
 動画のライブ配信が開始され、ぽつり、ぽつりと閲覧者が増えていく。
 閲覧者数は三十七人だ。
 この手の試みでは零細に過ぎるとも、比較的健闘しているとも言える微妙な所である。
 今回は二人の女生徒が、部活動について占ってもらうという企画であったようだ。

 篝が首を傾げる。
 二人が来ない。
 動画の『お約束』では、鳥居から社に歩いてきた二人が、篝の可愛さを讃える所から開始する。
 二人が来ない。
 待てども、待てども。
 これでは放送事故である。
 もう一度社から飛び降りた篝は、ひょこひょこと鳥居の前に立ち――

 そこでは夕暮れの鳥居を囲むように、黒い彼岸花が咲いていた。

「こんなのあったかしら?」

●ローレット
 ノートパソコンなる練達の機械がパタリと閉じられた。
「噂の『神隠し』に関する依頼だね」
 集まったイレギュラーズに『黒猫の』ショウ(p3n000005)が説明を始める。
 先程の映像は、練達で流行している動画配信スイートキャストというやつだ。
 動画はアーカイブとかいう形で後から閲覧出来るようで、今のはそれを保存して特別に――って。
 そんなメカニズムはどうでもいいのだ。とにかくパソコンというのは怪しい装置なのだ。

 さて。練達のリトルタチカワという地域で、二人の少女が行方不明になるという事件が発生した。
 地元の警察――自警団のような組織だ――は行方を調べたが、手がかりは掴めなかったらしい
 練達上層部にも件の『神隠し』の噂を知っている者が居り、ローレットへの依頼に繋がったようだ。

 このところ、混沌各地では『人が消える』事件がちらほらと発生している。
 通常『空間転移』というのは非常に難しく、それそのものがレアケースである。
 といっても代表的なものはイレギュラーズは一度以上は経験している天空神殿への召喚。
 他には『果ての迷宮』における『セーブポイント』との行き来。
 後は原理は知れぬが、最近流行りの『妖精郷の門』といった所か。
 遺失級の神秘であることには間違いなく、おいそれと発生するものではない訳だ。
 いずれにせよ練達の研究者達が興味を持つのも頷ける所であろう。
 現場には『黒い彼岸花』が咲いているという共通点があり、周囲に魔物が沸くらしい。
 今回イレギュラーズに依頼するのは、この彼岸花の排除と、魔物の駆除という訳である。
 依頼内容そのものは、単純なものであった。

「気になるのは主の動向だよ」
「ぬし?」
「動画配信者、あの烏帽子の子」
 現場は警察によって立ち入り禁止にされているようだが、動画主が封鎖中の現場で目撃されたらしい。
「国府宮 篝。実はね、練達から監視されている人物なんだ」
 強欲と傲慢の赴くままに、何かを得るための力を求めているようで、結構危ない橋を渡っているようだ。
 最近は動画のライブ配信にはまっていたようで、監視の目も緩んでいたようなのだが。
 特に今回の事件では重要参考人でもあるのだが、足取りが掴めない。
 現場付近での目撃情報もあり、ショウの見立てではちょっかいをかけてくる可能性が高いようだ。

「それじゃあ、どうか気をつけて」
 さて、それでは不可思議な事件に向かおうか。

GMコメント

 pipiです。
 彼岸花って綺麗ですよね。

●目標
 黒い花の排除。
 魔物の駆逐。

●ロケーション
 練達にある神社。
 時間は事件翌日の夕方。
 練達における、いわゆる『現代日本風』の一角です。

 周囲には立ち入り禁止のテープが貼られ、警察とかいう人達が見ててくれます。
 皆さんは存分に戦って、草狩りして下さい。

●敵
 難易度相応ではありますが、サクっと退治しましょう。

『狐火』×4
 社に住む火の精です。倒して鎮めましょう。
 抵抗を中心にステータスが高いですが、HPは然程でもありません。
 識別付の厄介な範囲攻撃を持ち、火炎系のBSがあります。

『煙々羅』×4
 ステータスは平均的。
 煙の怪物で、物理攻撃のダメージが通りにくいという特性があります。
 窒息系のBS等を保有しています。

『かまいたち』×4
 俊敏な魔物で、反応と回避が高いようです。
 識別付の厄介な列攻撃を持ち、出血系のBSを多数保有しています。

●黒き彼岸花
 それがどうして咲いているのかは分かりません。しかし、そこに在るのです。
 魔物に影響を与えているのは確かなようです。
 神隠しに繋がるかモノかは分かりませんが、危険です。処分してください。

●『神隠し』
 神託の少女ざんげ曰く『神様の悪戯』。空中庭園に召喚されるのと類似の現象であると推測されており、『神隠し』に合った者は皆、『空中庭園ではないどこかに召喚されています』。
 その神隠しは『混沌世界』のあらゆる場所で純種、旅人、魔種、どのような存在であれど等しく行われます。

●国府宮 篝
 枢木 華鈴 (p3p003336)さんの関係者です。
 かわいさを追求して、色々危ない橋を渡っているようです。
 練達から監視されています。
 ショウが言うには「現場に現れるんじゃないかなあ」という話です。
 かわいさをアピールして動画のライブ配信をしにくるのかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 桜流離に花囃子Lv:10以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月18日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
銀城 黒羽(p3p000505)
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
雷霆騎士・砂牙
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ


 黄昏時。気温は例年より少しだけ肌寒い。
 春の斜陽が伴う仄かな風は、未だ微かな冷気さえ帯びて――
 靴底を滑る細かな砂利は、いつも変わる事のない足音を奏でている。
 濡れた溝蓋とアスファルトの合間に、蒲公英が硬い蕾を揺らしていた。

 ビルの合間から覗く夕陽は目映く。
 不意の光へ向け、『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は、たおやかな指をかざして遮る。
 練達の風景は、この世界における『混沌』と呼び得るものを全て混ぜ合わせたかのような様相であった。
 光彩認証の自動扉を抜ければ、今度は改札なるものにカードをかざして電動式の列車に乗った。
 次に一行はモノレールに接続して幾ばくか揺られ――下車した後は郊外へとしばし歩いている。

「あれは信号機といって、通行を指示する機械です。あお……緑色の方が点灯すれば横断出来ます」
「なるほどね!」
 まるで異国の友人に生まれ故郷を案内しているようで、冬佳は少し可笑しみを感じる。
 見えるのは時折足早に過ぎてゆくスーツ姿の人、利便を追求した雑貨店(コンビニエンスストア)や飲食店(ファストフード)にたむろする若者達。ぺちゃんこの学生鞄を背に他愛もない会話を続ける子供達――
 このリトル・タチカワという地域は名の示す通り、所謂『異世界地球』『現代日本』等と呼ばれる文化様式を備えているらしい。その街並みも、神社と呼ばれる小さな木造の神殿も、炎と煙と風の怪物を妖怪と称する向きも――冬佳にとっては、ここが異世界であることを忘れそうになる一角なのだろう。
 練達とは高度で複雑で、そして歪な国だ。
 白ずんだ春霞の向こうに見える大空を覆う格子だけが、冬佳の故郷とこの世界とを隔てているようで――

 さておき。
 この日、一行は『神隠し』と呼ばれる事件に関する依頼を受けていた。
 内容は何かの気にあてられて沸いた魔物の退治、それから現場に咲いていた怪しげな花の駆除である。
(神隠しか……)
 旅人(異世界からの来訪者)である冬佳にとって、そうした現象はあり得ると思わなくもない。
 世界は違えども、同じく旅人である『流転騎士』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)も、先程「どの世界にも似たようなことはあるもので」と述べていた。
 思わずにはいられないのは、神隠しで消えてしまった少女達のことだ。
 少女達は無事に帰還できるか、或いはせめてアリーシャ達『旅人』同様の境遇であれば良いのだが――
 畢竟、これはイレギュラーズの半数程が当事者として『経験済み』の事態であるとも云えるのであった。
 焦燥がちりちりと胸を灼くのは無理もなかろう。

(また厄介な事件が起きようとしてんのか)
 歩みを進めれば石階段と警告テープ、それから白と黒に塗られた数台の車両が徐々に近づいてくる。
 情報屋によれば、この地域における自警団のような組織、警察の車だ。
 現場は目と鼻の先だ。先頭で風を切る『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)が鋭い支線を送った。
(……だが、捜索じゃなく彼岸花の駆除に魔物の掃討が依頼なんだな)
 黒羽の言葉通り、本件は『神隠し』そのものの原因追及や、対処を含んでいない。
 練達らしいとはまた黒羽の弁だが、さもありなん。この国は現場に疎いが、研究に関しては熱心なのだ。
 だが『そのうち深く関与することになるだろう』という予感は、誰もが抱かざるを得なかった。
 いずれにせよ一行は歴戦の冒険者であり、そう言った推測を抱くに相応しい経験を積んでいたのだから。


 現場に到着すると、警察の男は「どうぞどうぞ」と腰を折り、カラーコーンをどけて一行を招き入れた。
「わたくし刑事部捜査一課の加藤と申します。ローレットの皆様ですね! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
 突如、面と向かって挨拶された『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が応じる中。
 突然飛び出した『ローレット』という馴染み深い単語に、冬佳は現実に引き戻された――あるいは夢に引きずり込まれた――ような感覚を覚える。
 現場の警察官数名と挨拶をかわした一行は、ともあれ石段の上にある社へ向かわねばならない。

 はらはらと落ちる桜の花びらがココロの手のひらで踊り、風と共に去って行く。
 石段を登る『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)もまた、小さな薄紅の色彩を追ったココロの視線の先を見つめる。
 遠く、くすみ始めた散り際の桜はそれでも美しく、風に乗る髪が頬をくすぐった。
 風に乗って聞こえてきたチャイムは、郷愁を誘うどこか物悲しいメロディーを奏でている。
 夕暮れの時刻を示して、子供達の帰宅を促す為にあるらしい。

 この『神隠し』には、類似する事件が同時多発的に発生していた。
 或いは深緑の指導者リュミエが大事であると判断しただけの何某かが、ここにもあるのだろうか。
「黒い、彼岸花……」
 石段を登り終えた『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の視界に飛び込んできたのは、黒い彼岸花であった。まるで不吉の象徴であるかのように、鳥居を取り囲んでいる。
「昔、誰か此所に植えたのかしらね?」
 首を傾げた『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)は、先程一行に彼岸花は球根を分ける等、人為的な行為で増える植物だと述べていた。思う限り、種子からの育成はあまり一般的ではない。

 腰に手を当てた『ゆるっと狐姫』枢木 華鈴(p3p003336)が可愛らしい声でむむっと唸る。
「この『黒キ華』が何か関係しておるなら、神隠しへの予防や対策が立てられそうなんじゃが……」
 華鈴としては気になることがもう一つ。
 それは現場に姿を現していたらしい『国府宮 篝』なる人物のことだ。
 不仲とは言え、元の世界の顔見知りがいるというのは、不思議な気分でもある。
 所で、なぜ練達に居るのだろう――

 こうして一行が黄昏の神域に一歩足を踏み入れた、その時。
 蝋燭に火を灯すように。ぽうと青い炎が浮かび上がる。
 宙を駆ける炎はずる賢い獣を思わせる所作で、一行を睨め付ける。数は一つ。二つ。四つ。狐火だ。
 足元の草が燃え上がるほどに膨れ上がる熱気は、否応なしに権能の威力を示唆していた。
「やあ、来ましたね」
 早速のお出ましに『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は不敵な笑みを浮かべて。

 ほぼ同時だったろうか。一行の中心をつむじ風が舞い、桜の花びらが渦を巻く。
 突如、粉みじんに消し飛んだ儚い色彩の中央で、大気を滲ませる無色の化生は、かまいたちであろう。
 都会の風に転げるビニール袋に見えたものは、実のところ在ろう筈もない夕霞――煙々羅ではないか。
 徐々に姿を見せる怪異達へ、ゼファー(p3p007625)は愛槍『run like a fool』の切っ先を突きつけた。
 数はやはり、いずれも四ずつだ。情報通り、数においては敵が僅かに優勢か。

「どことなく懐かしいのぅ」
「信仰があるのね……」
 華鈴とイナリ――どちらかと言えばここに祀られる側――は方や楽しげに、方や複雑な表情を浮かべる。
「やはり、よく似ていますね」
 眼前の怪異は、やはり『日本』のものと余りに酷似している。
 呟いた冬佳――こっちは祀る側――は、論理からとも感性からとも付かぬ奇妙な一致に首を傾げて。
 同じか、或いは似て非なるものかは定かでないが。
 ここに現れたものは、おそらく世界に満ちる精霊のようなものであろう。
 必ずしも邪悪とも言い切れないが、さりとて降りかかる火の粉は払わねばなるまい。
 殴って死ぬような手合いでもないのだから、やるべきは力を示して鎮めるのみだ。

 神域に膨れ上がる妖気を前に、一行は果敢な面持ちで得物を構える。
「やーれやれ、どこの国でもけったいな事件ばっかですねぇ……」
「自分が居なくなるのも、カノジョに居なくなられるのも勘弁でしょうからねぇ」
 ウィズィとゼファー。二人の軽口は朗らかに。されど視線は真剣そのものに。
「おちおちカノジョとデートもできないなあ。ねえゼファー?」
「まっ。だからこそサクっと解決しに来たってもんでしょ?」

 ――違いない。


 瞬きと共に涙が弾けた。
 社へ続く石畳を疾く駆け抜けて。
 きらきらとこぼれ落ちる光と共に。タンと靴底が鳴る。
 敵陣の中心で、誰よりも速く。
 可憐で儚げな笑顔を湛えたラヴは、拳銃を十字に構えて狐火を見据えた。

 ──夜を召しませ。

 こぼれ落ちた小さな言葉と共に、解き放たれたのは夜の重圧。
 夜空が落ちてくるかのような天地逆転の幻像に青炎の怪異は戦き、ラヴをゆっくりと取り囲み始める。

 僅かな静寂を裂いたのは鋭い鞘走りの音であった。
 瀟洒な紅の鞘から白炎剣を抜き放ち、アリーシャは駆ける。
 黒い剣で空に紋を斬れば刀身に白炎の刻印が浮かび上がり――
 瞬く間に大剣へと姿を変えると同時に、アリーシャのしなやかな肢体を魔獣装甲・砂牙が覆って往く。
 今正にラヴに飛びかかろうとする狐火の一体へ、流麗な一閃が舞い踊り戦いの火蓋を切って落とす。
 こうしてイレギュラーズと怪異共は入り乱れながらも苛烈な攻防を繰り広げ始めた。

「よっしゼファー! そっち任せた!」
「はいはい、任されたわよー」
 炎と風の刃を避け。構えながら背を合わせたゼファーとウィズィは互いに一つ頷き合って。
「さぁ、Step on it!! お前らの相手はこっちだ!」
 巨大なナイフを風の怪異へと突きつける。
 抜き身の刃を思わせる風がウィズィへと殺到し――速い。
 突風。身をかすめそうになる、何か。
 大気を切り裂く音から半身を捻り、ウィズィはその全てをかわしきることが困難であると直感する。
 尤も――この程度『慣れれば』どうということはない筈だが。

 さて、任されたゼファーの視線が追う先、煙の怪異もまた素早く、捉えどころが難しい。
(……案外、油断ならなさそうね?)
 俄に緊張を感じるが、どうあれやる他ない。
 第一、敵がいかに素早かろうが、後れを取るゼファーではないのだ。
 その分野には自他共に認めて良いだけの、一角の自信とてあって然るべき能力を持っている。
「さあさ。遊び相手は此方」
 大槍を回して宙を切り、高らかな宣言を見舞ってやる。
 言葉など通じるかも分からぬ相手ではあるが。
 果たして――次々に襲い来る煙の怪異をゼファーはかわし、槍でいなして。
 なるほど『そこそこナメられている』ことは、きちんと通じたらしい。

「二人は俺の後ろだ」
 飛び回る炎に風、そして煙。いずれも猪口才に素早いときたものだ。
 とりわけひどいものは――たった今黒羽の頬に赤く糸を引いたかまいたちであろうか。
 確実に注意を引くことが出来るかと問われれば、首を横に振らざるを得ない。
 ならば黒羽は身を挺して後衛を守り抜くのみ。
 己自身を聖域と化し、吹き上がる黄金の闘気が大気を揺らした。
 左右を囲むのは煙、風の怪異がそれぞれ一つずつ。
 ただ無軌道な憎悪に満ちた立て続けの脅威を黒羽は次々に打ち払う。
 その身に刻まれていく無数の傷は、されど闘志を幾ばくも揺るがせることはなく――
「どってことねえよ。何度死線を潜らされたと思ってやがる」
 黒羽はその身に纏う闘気と共に、仲間を守り抜く意思を金色に燃え上がらせた。


 作為無く襲い来る敵を、そのまま受ければ乱戦となるのが道理である。
 だが十二体の敵の内十体は既にラヴ、ウィズィ、ゼファーによって張り付けになっている。
 残り二体もまた黒羽が受け止めることで、全てを想定の範囲に収めることに成功した。
 イレギュラーズは事前に打ち合わせた作戦通り、瞬く間のうちに戦場を完全に制御しているのだった。

 ならば後は攻めるのみ。
「手早く行きましょう」
「そうですねー」
「確実に減らすわ」
 瞳を細めた冬佳の言葉に、ユゥリアリアとイナリが応じた。
 イナリが天にかざすは神剣。天叢雲剣のレプリカとされる一刀。
 分霊か贋作か――真偽はさておき、それでも神器は爆炎を纏う。
「行くわよ!」
 どこかあどけなく愛らしく、されど凛とした声音と共に振り抜かれた一閃。
 刀身は触れぬまま、燃えさかる刀身から放たれた獄炎は大気すらも焼き焦がし。
 渦巻く紅蓮の炎はさながら竜の顎が如く、狐火を丸呑みにする。

 狐火は燻るように震えて火の粉を散らすが、その形は早くもおぼろげになり始めた。
 氷剣を舞わせた冬佳が紡ぐ術陣が、戦場――聖域を俄に光で染め上げる。
 大気すら凍らせんばかりに大地を覆い、吹き荒れる無数の清冽なる氷刃は白鷺が舞うが如く。
 美しい騎兵槍に御旗を掲げ、海の果ての絶望を歌うユゥリアリアの美しい声音が狐火を蝕んで往く。
「気になることばかりじゃが、まずはこうじゃな」
 石畳を蹴りつけた華鈴は、その意思抵抗力を刃へ伝え狐火を一気に貫き――
「いいね、このまま行こう!」
 飛びかかる怪異をナイフの柄で打ち払い、低く構えたウィズィが渾身の力で得物を振り上げる。
 僅か一瞬だけ両手を添え――全身の膂力を受けた強大な重みが炎を縦一文字に駆け抜けた。

 猛る狐火の二体がその熱量を増し、うねるようにラヴへと迫る。
 風に乗るラヴの軽やかなステップは、僅かに間に合わない。仮に観客が居れば、そう思えた。
 その身を焼き焦がさんとする圧倒的な熱量の螺旋へ、だがラヴはその可憐な足を一歩踏み込む。
 石畳に弾ける高い音。
 風になびく長い髪、空に溶ける涙と――
 刹那、風と共に姿を消したラヴは、狐火の後背で身を翻し銃口を突きつけている。
 唸り尚も迫る炎がラヴを焦がすには、もう遅い。
 乾いた破裂音と共に。向かう一弾は夕陽に煌めく光の軌跡を描いて、迫る炎を真正面からこじ開ける。
「もう、おやすみなさい。あなたが眠る夜が来たわ……」
 軽やかに舞うラヴは、ささやきと共に狐火の炎心へ――接射一弾。
 次いで放たれた三弾に、既に幾度かの攻撃を受けていた狐火の一体は、形を失い宙空へ溶け消えた。


 それから流れた時は、いくらであろうか。
 恐らく一分には満たない筈だが、依然として戦闘は続いている。
 イレギュラーズの作戦は敵を引き付け各個撃破し、傷つけば癒やすというオーソドックスなものだ。
 攻守一体となった堅実な戦術は、手慣れたものである。
 怪異が連携もなく無軌道に攻める以上、それは極めて有効な戦法であった。

「煙々羅は、そのまま、武器をまっすぐに、叩き付けてください……っ!」
 戦況を注視して分析するココロが、仲間全員へ届くように精一杯の声を上げながら戦場の中央に駆ける。
 言葉に従い武器を振るえば、数名の身に巻き付き呼吸を阻害していた煙々羅がたちどころに解かれた。
 イレギュラーズは幾度か大きな打撃を受けることもあったが、敵の引き付け役である三名の能力がいずれも高いこと、なにより戦況を注視して着実に力を注ぐココロによって未だ一人も倒れていない。
 こうした中で、イレギュラーズは一体また一体と狐火を順調に撃破している。
 力の天秤は徐々にイレギュラーズの側へと傾き始め――それは丁度そんな時だった。

「見えるかしら。あの木の陰」
 イナリの警告に、一同の視線は鋭さを増して。

 ――あああ……やっぱり。
   いつみても、かわいいじゃない……。

 今、来たか。
 正味な話をするならば、ぶっちゃけ割と困る。
 けれどこの上なく『らしい』タイミングであるとも思える。
 そんな時に駆け寄ってきたのは、ローレットの情報屋が示していた小さな陰陽師。国府宮篝であった。

「篝か。篝も此所に来てたのじゃな……ってなんじゃ」
 華鈴は風刃をいなし、ついでにわたわたと駆け寄ってくる篝をかわす。
「て積もる話もあろうが。見ての――通りっ。
 終わるまで……っ他所に行ってくれんかのぅ?」
「減るものではないのですから?」
「そういう問題ではないのじゃがっ。皆すまんのう」

 この篝。どうも元の世界では華鈴を式神にしようと散々執着していた人物らしい。
 こちらの世界に来ていたこと自体が初耳だが、どうにも何を企んでいるのか分からない御仁である。
 情報屋が言うにはかなり危ない橋を渡っているらしく、練達では監視されている危険人物であるようだ。
 普通に考えれば、特に華鈴にとっては関わり合いになりたくない相手だろう。そもそも不仲だったのだ。
 とはいえ同郷のよしみと云えなくもない節もあり、華鈴は複雑な心境を強いられていた。

「なら、一緒に配信すればいいのではないかしら? 急急如律令!」
 篝は足の生えた機械――付喪神か――に命じると、カメラが一行を映し出す。
「天才かがりん アイドル陰陽師の占い動画 スタート!」
 こうも強引に動かれると、華鈴としてもさすがにしんどい。
 華鈴が述べた訳ではないが、誰にとっても有り体に『空気読んでくれよ』という話である。
「あー……もーぅ少し、離れてくれんかのぅ……」
 いっそ殴ってしまおうかとも思ったが、まだ相手から手を出された訳でもない。
 何かの拍子で三つ巴の戦闘になっても厄介である以上、ここは安全側に舵を切る他なかった。

 華鈴の様子に目配せした一行は、戦闘を継続していた。
「ごめんっ、ちょいと元気ちょーだい!」
「はい、ウィズィお姉様っ」
 ウィズィのマイラブリーシスター・ココロちゃんが放つ柔らかな魔力。
 静謐を湛えた調和の力に、最前線で身を張り続けていたウィズィの傷が跡形もなく消失した。

 戦況自体はイレギュラーズ圧勝の気配を見せており、堅調そのものである。
 打ち合わせ通りに推移であり、想定通りだ。
 とは言え状況は真剣勝負ではある訳で、舐めてかからずとも怪我はする。
 命を落とす危険こそないとされているが、別に相手が紙面の評価を理由に手加減してくれる訳でもない。
 第一に少なくとも現地の自警団(けいさつ)が交戦を諦めて、イレギュラーズを雇う相手ではあるのだ。

 そんな危険な戦場で篝が始めたのが『動画配信』である。
 篝は明るく元気に、自身の可愛さと、どこか憮然とした表情の華鈴を讃えるトークを繰り広げていた。
 そんなことで戦場をばたばたとされるのは邪魔極まりない。
 なにより誰もが薄々感じてはいたが、篝にはかなりの狂気が垣間見える。正気の沙汰ではないのだ。

「その、なんだ。守られてるほうが可愛いし、視聴者も増えるんじゃねえのか?」
 篝の目を見据えた黒羽の提案だ。
「そ、そうね!?」
 あっさりと篝が後ろへ引き下がり、視線を外した黒羽は微かに苦い表情を浮かべた。
 篝は要求に従った、だが黒羽の『魔眼』そのものは弾いていたのだ。
「狐に貝に涙の子……これ、いいんじゃないかしら……」
 篝の視線はまたラヴやココロといった可愛い小柄組。中でもとりわけ小さなイナリを追っている。
 ひょっとしてかなりの興味を持ったのではないだろうか。

「えへへ、かわいいでしょ! わたしを推してね!!」
 意を決したココロがカメラの前に飛び出す。
 可憐で儚げな印象とは裏腹に、天真爛漫な笑顔でポーズをキメた。
 さながら目立ちたがり屋の悪ガキのノリである。
 画面の向こうで『いいね』や『コメント』が飛び交った。
「ちょっ、おいてめ。っと……あー、でもやっぱり。貴女はかなりアリよ。アリアリのアリisアリ」
「うれしー! みてみて。えへへ」
 くるりとターン。思いも寄らぬココロの行動だが、実のところはしゃいでいる訳ではなかった。
 篝が何を企んでいるか分からない以上、とにかく阻止する方向に動いたのである。
 この可愛い横ピースは、そうと悟らせぬ為の演技に他ならない。

 そうした最中。
 立て続けに打ち込まれた冬佳の氷撃、ラヴの銃弾、イナリの炎にかまいたちが風へと溶け消えた。
(どう出るのでしょうねー)
 怪異へと切ない旋律の魔曲――哀切のソネットを刻んだユゥリアリアは、着実に戦いながらも篝の様子を注意深く観察していた。
 篝の身柄は依頼の要件には含まれず、また交戦にも至っていない。
 故にユゥリアリアもひとまずは静観を決め込んでいるが、何かあれば即座に対応するつもりで居る。
「……どうも、些かやりにくいですね」
 アリーシャの声音は硬いが。迫る風刃を高く跳び、かわして。
 上空から。その剣の重さ全てを一点に集中させる。
 ユゥリアリアの歌声によって隙を作ったかまいたちへ、戦乙女の神槍を思わせる一撃が突き刺さった。
 白炎剣の切っ先は透き通った獣型の怪異を穿ち、貫き。その身を大気へと還す。

 残る敵は煙々羅のみとなっていた。
「そろそろいいよね」
 ウィズィが背中越しのゼファーへ送る、総攻撃の合図。
「ま、そうでしょうね」
 飛来する煙の怪異へ、ゼファーは槍の柄を強かにぶつけた。
 相手は布きれじみており、手応えは強くない。
 だがその一手は骨――その支柱を打ち砕くための一撃だ。
 風へと衝撃を流した怪異だが、即座に槍を引き抜き翻したゼファーは、その拍子でくしゃくしゃに丸まった怪異へ鋭く踏み込み、本命――裂帛の二撃目を打ち込んだ。
 幾重にも折れ曲がり串刺しとなった怪異が、そのまま夕霧へ還り風に流され消えてゆく。
「これ、ほぼほぼ私一人じゃないの」
 最初の煙々羅を鎮めたゼファーが大きく息を吐き出した。

 こうして戦闘の趨勢は完全に決着した事になる。
 覆る要素は、最早一つもありはしない。


 更にいくらかの後。
 戦闘を終えた神域には、どこかぴりぴりとした空気が流れていた。
 篝はよくわからない『動画配信』とやらを終えたようで、じっとこちらを伺っているのだ。

「それにしても、此方でも可愛さを追求しておるようじゃな。感心なのじゃ」
 少なくとも、その一途な所は偉いとも思える。だから華鈴は愛らしい笑顔で労って見せた。
「そうねえ、どうしようかしら」
 考え込む素振りを見せた篝が、徐々に後ずさっていく。
 仮に何かを企んでいるとしても多勢に無勢であるはずだ。
 篝の狙いは、わからないにはわからないのだが。知れたものとも言える。
 未だに篝は『可愛い』を追求しており、まずは華鈴を手中に収めたいのであろう。
 あわよくばラヴやココロ、イナリ辺りを狙っているに違いない。篝の視線と表情を追えば分かる。
 手を出すチャンス自体はずっと伺い続けていたのだろう。
 だから功を奏したのは、きっとイレギュラーズが戦闘を鮮やかに集結させたことだ。
 警戒されていることは伝わっている以上、篝にとって『何かを仕掛けるにはリスクが大きすぎる』という状況を構築出来たことが良かったのである。

 ともかく。
 篝の思惑がどうあれ、イレギュラーズにはもう一つ仕事が残って居た。
 それは黒い彼岸花の処分である。
「まずは調べませんか」
 冬佳としては『どこまでやれば』徹底的に処分出来るのかという点の他に、花そのものについても調査を行いたかった。

「そうですねー……」
 情報の少なさにユゥリアリアは首を傾げる。
「先程の敵も、見た目以上に手強かったですしー」
 例えばこの花がより多ければ、より強かったりもしたのだろうか。
 見た目で言うならば、敵の外見も『出来すぎている』とも思える。
 海には海の、森には森の魔物というものが居るが。
 たまたま練達に、たまたま『日本』を模した街があったとして。
 生じた怪異が、たまたま『日本文化』に沿う妖怪であるものだろうか。

「調査に賛成です。けど。んー」
 ウィズィとしても排除の前に調査はしたいが、その手の専門技能は持ち合わせていないと肩をすくめる。
 とは言え推測自体はいくつか立ててみてもいいかもしれない。
 例えば、神隠しに遭った子らが、この彼岸花に閉じ込められているとか――まさか。
 例えば、何かのゲートになっているとか、まさかこの花がその子ら本人だとか――いやいやまさか。
 ゲートと言えば、深緑の妖精門との関係は――これも考えすぎと思える。
 だがさすがにオーダーの意図を考えれば、花を持ち帰る訳にも行かない。
 どうしたものか。

 冬佳が観察する限り、その花はとても自然の産物とは思えなかった。
 そも本当に彼岸花か。
 曼殊沙華……倶蘭荼華、天上或いは黄泉に咲く花。
 この世界で死せる魂の行く末、冥界の概念は未だ聞いたことがない。
(手がかりと見るなら、消えた先は……
 常若の国やニライカナイの如く黄泉の国……という事も有り得そうだけれど)

「何か知っていることはないかしら?」
 単刀直入に聞いたイナリに、篝の瞳が輝くが。篝が注視しているのは単にイナリの容姿だ。
「なにかしら、その気味の悪い花。可愛くないじゃない?」
 花については素っ気ないものだ。おそらくこれは篝の本心だろう。分かりやすい所もあるものだ。
「離れていたほうがよろしいかと」
 そのままなにやら首を突っ込んできた篝を冬佳が引き下がらせる。これ以上は場を混乱させたくない。

「どうだろうな。けどやらねえよりはマシか」
 そう言った黒羽が花に近寄る。
「間って。念のため」
 イナリが懐から布を取り出し、自身の顔にあてる。
 なるほど。黒羽もそれに習うことにした。
 臭いは、よくわからない。普通の花とも思える。
 触れた感じもまた――後は掘り起こすしかないだろうか。
 魔物の調査を行いたかったが、おそらく精霊のようなもので死骸は残って居ない。
 いずれも自然の気に還ったのだろう。

「ま、処分を勧められてるからには片付けるしか無いわよね」
 鍵か、目印か、あるいは案外単純な道具であろうか。
 神隠し事件とこの花が、少なくとも全くの無関係とは思えないのだ。
 考えても埒があかないが、どうにもこうにも不安を煽る不吉さしか感じない。
 槍を担ぎ上げたゼファーはその焦燥を「柄ではない」と笑い、けれど瞳の奥は真剣なままに。

「念のために試してみたいことがありますー」
 ユゥリアリアは花びらに美しい指を添え、可憐な歌声を響かせた。
 それは追憶のアリエッタ――強い想いを追体験する歌声で――

「――ッ」

 脳裏に何かが刺した気がして、ユゥリアリアはその指を離す。
 神域を歪ませる波動は、しかし触れた花から感じられたものではなかった。
 触れたからではない。何かが起ったのだ。たった今。

「後ろ!」
 誰かが叫んだ。
 歪む大気に社がねじれて見える。
 一行が垣間見た白昼夢は、紫の髪をした巫女装束の少女で――

「彼岸花の彼岸って死後の世界の事ですよね! もう触っちゃダメです!」
「はいー……」
 決死の覚悟で割り込んだココロが、ユゥリアリアの身を花から引き剥がす。
 これでも医者のタマゴなのだ。皆の安全が第一、神隠しなどに遭わせてなるものか。そんな強い決意だ。

「彼岸花は、球根もあるんだったかしら……?」
 ラヴの言葉に一行が頷く。総意は同じだった。
 これが何かは気になるが、最早焼き払う他ないだろう。
「周りの地面ごと、根を掘りましょう」
 アリーシャの言葉に一行が頷き、イナリは延焼させぬよう細心の注意を払って火を放つ。
 イレギュラーズはしらみつぶしに黒い彼岸花を探し、根ごと掘り起こして燃やしていく。

 ところで。まさか。
 一行の心に燻るわだかまりを誰かが代弁する。
 あれほど騒がしかった篝は、一体どこにいったのだと。

成否

成功

MVP

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。
うーん、あざやか。

MVPは動画配信スイートキャストで『いいね』を最も獲得した方へ。

それではまた、皆さんのご参加を願って。pipiでした。

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