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シナリオ詳細

焼け落ちる村にて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日はなんて事のない一日だった。
 冬を超え、春風は少しずつ吹き始め、木々は生存のために活動を始めている。
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)を含む、8人のイレギュラーズは、ちょうどとある依頼を終えて帰還するところだった。
 村を抜け、ローレットのある王都メフ・メフィートへと帰還するために動き始めて数日。
 森の間を裂いて敷かれた街道を進んでいた8人は、不意に、音を聞いた。
 ガサガサと草木を踏みしめる音。
 徐々に近づいてくる音の速さを考えれば、動物の類であろうか。
 構えを取り、襲撃に備えたその時、左の方から一匹の馬が飛び出してきた。
 その馬の背に跨る――いや、どちらかというと括り付けられているというべきか。
 馬体と身体をロープで縛りつけた男は、半ば宙づりの状態だった。
 ぎょっとしたイレギュラーズが駆け寄ってみれば、男は虚ろな目で8人を見る。
「あ……ぁぁ……あんたら……冒険者か……?」
 男の様子を見れば、その体には無数の切り傷や銃弾の跡が見て取れた。
「頼む、助けてくれ……アンタらだけが頼りなんだ……」
 ロープを解かれ、崩れる様に地面に落ちた男は、イレギュラーズに縋るように近づいてくる。
「俺の、俺の村が……妹が……」
 しどろもどろにうろたえながら、男は最後の力を振り絞りながら、口を開く。

 ――小さな小さなその村で、悲鳴が響いていた。
 目覚めを告げるにはあまりにも悲痛な断末魔の直後、男たちの雄叫びが響いた。
 しかし、その雄叫びは直ぐに悲鳴に転じ、何処からともなくぱちぱちと木が燃えて落ちる音が鳴り始める。
「おうおうおう! 言ったよなぁ! 今日までに金と食料を用意しねえとここごと焼いちまうぞってよぉ」
 騒動の中心で、ガラの悪い大柄の男が初老の男性に声を荒げていた。
 男の手に持つ銃は、その口を男性の額にくっつけている。
「申し訳ございません! しかしながら、今はないのです! どうか、どうかあれだけでお許しください!」
 あれ、と言って指し示したのは、荷台に載った食料。
 その食料は見るからに量が少なく、10人ほどで分けてしまえば数日ともたないだろう。
「おい、ふざけてんのか? なぁ、俺は言ったよなぁ? 期日通りに寄越せってよ。
 別に俺達としてもお前ら根絶やしにするのは構わねえんだぞ? あの荷台に積めるだけ積めろ、ただそれだけだろうが」
「そ、そればかりはどうかお許しを! そのようなことをされては我々が生きていけませぬ!」
「あぁん? 何か勘違いしてるなぁおい。てめえらが死のうが知ったこっちゃねえんだよ。
 その時はここから別のとこに行くだけだ」
 男は男性の口に銃口を潜り込ませると、ちらりと後ろにいる男を見た。
「ベイル。あの女を連れてこい」
「はい……」
 ベイルと呼ばれた男が連れて来たのは、一人の少女。
 銃で脅されながら連れてこられた少女の所々には、抵抗の跡らしき痛々しい傷が残る。
「たしか、こいつはてめえの娘なんだったよなぁ?」
「は、はいそうです……まだ嫁入り前なのです。どうか、どうかお手柔らかに……!」
「何がお手柔らかにだ。てめえらが期日通りにブツを用意してりゃあこんなことにはなっちゃねえんだよ」
 初老の男性を鼻で笑って、男は少女に銃口を向け、躊躇なく引き金を引いた。
 悲鳴と共に、少女が倒れ、男性が開かれた口から悲鳴を上げる。
「……とはいえ、だ。あんた等が全員死んじまうと、俺たちとしても一から探すのは面倒だ。
 だからよぉ、10日後だ。10日後、俺たちはもう一度来てやる。その時にブツがなけりゃあ――わかってんな?」
 ぎろりと初老の男性をにらんで、男は身をひるがえし、各地で火をおこし、略奪を行なっている部下たちに声をかけ、その場を立ち去って行った。
「シェリー! 大丈夫かい! 我が娘よ!」
「ええ……ちょっと……傷を付けられただけです。
 それよりお父様! このままじゃあ村が!」
「分かっておる……わかっておるが……」
「ローレット……そうだ。ローレット。彼らなら何とかしてくれるかもしれない」
 初老の男性にそう声をかけた男がいた。
 その体には複数の傷跡があり、今の今まで戦っていたことが見て取れた。
「親父。俺、今すぐに都へ行ってきます!」
「都? ……昼夜を駆けて間に合うかどうかだぞ」
「あぁ。分かってる! だけど、このままじゃあ全員根絶やしだ!」
「それに比べればましか……よかろう。すぐに行け!」
 初老の男性の言葉に弾かれるように、男は近くにいた馬にまたがって走り出した。


「頼む……もう、間に合わないかもしれない……頼む……」
 そう言って縋る男の手には、もうほとんど力は入っていなかった。
 ずるりと落ちた男の手が、地面へと落ちていく。
 そっと首に手を添えてみると、もう脈は感じ取れなかった。

GMコメント

 リクエストいただき誠にありがとうございます。

 それでは、さっそくですが詳細をば。

●オーダー
 村を襲撃する山賊団の討伐。

●戦場
小さな村です。
皆様が男からの依頼を受諾し、町に到着した時点で2度目の山賊団の攻撃は翌日の早朝となります。

一夜分は時間があるので、何らかの罠を作ることは可能です。

村には複数の家屋と路地が点在しています。奇襲や遮蔽物として利用可能です。


●敵戦力

【ファルーク】
銃を装備する山賊団の頭、大柄の男で皆さんよりもやや格上です。
ある程度頭は回るので、何の対策もしてない場合は数がある程度減った時点で退却を試みます。

<スキル>
・猛毒弾 物遠単 威力中 【猛毒】
・麻痺弾 物遠単 威力中 【麻痺】
・貫通弾 神遠貫 威力中 【万能】【出血】

【ゲイリー】
片手剣を装備する山賊団の参謀、線の細い細目の男です。
基本的に自らや仲間に付与スキルを与えてきます。
<スキル>
・効率攻勢 レンジ2以内の味方の命中と攻撃を強化
・防衛体勢 レンジ2以内の味方の防技を強化
・適正号令 物自範 BS回復
・剣撃魔術 神近単 威力中 【弱点】

【ベイル】
賊の副将。銃を装備しながらも近距離戦闘も出来る男です。
<スキル>
・銃術格闘 物近単 威力中 
・支援防護 自付与 自分の防技を強化
・砲火魔術 神中単 威力中 【麻痺】

【ファルーク山賊団構成員】×9
剣使い、槍使い、魔術士がそれぞれ2人ずつ、銃使いが3人。
それぞれのスペックは大したことはありません。

剣使いは近距離戦闘を行ないます。
反応と物攻が強めです。

槍使いは中距離戦闘を行ないます。
防技とHPが高めで、所謂タンクのような動きをします。

魔術士は2人ともヒーラーです。

銃使いは遠距離戦闘を行ないます。
命中が高めです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 焼け落ちる村にて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
四矢・らむね(p3p000399)
永遠の17歳
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「お、おぉ……旅人様ですかな? であれば、すぐに出ていかれよ。
 明日、この村は消えてなくなりましょう」
 イレギュラーズが村へと訪れると、初老の男性がそう言って迎え入れた。
「いえ、わたくし達はローレットの者です。
 ある方にこの村を救ってほしいと依頼を受けて参りました」
 真摯に答えながら『「国の」盾を説く者』エト・ケトラ(p3p000814)は視線を微かに後ろに向けた。
「……事が済んだ後、手厚く葬ってやってくれ」
 男性の遺体を抱えて『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は初老の男性の方へ向ける。
「……おぉ、おぉ」
 初老の男性が目を見開いて、恐る恐るマナガルムに――彼が抱える男性の遺体に近づいていく。
 その表情は、近づくにつれてくしゃくしゃに歪んでいく。
「あぁ、間違いなく我が息子よ……」
 ホロホロと涙を流し始めた男性に、『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が近づいた。
「村長さんね? 協力をお願いしたいことがあるの」
「え、ええ……我々がお手伝いできることがあれば」
「今回、彼からお聞きした敵の人数が少しばかり多いので、罠を仕掛けたいと思うのよ。
 そこで、村の人々にもお手伝いをしてほしいの」
「ええ、ええ。もちろんです。私達としてもあれらがいなくなってくれるのならありがたいことです。
 お役に立てれば……ただ、もうこの村に健常者はほとんどおらず……」
 そう言って初老の男性はやや視線を下げて申し訳なさそうに首を振った。
「私は聖職者であって、断罪者ではありません……ですが彼らには相応の罪を」
 目を閉じて、静かに祈るようだった『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が静かにそう告げる。
「……彼の死を無駄にしない。
 でも貴方達は何より自分を、大切な人を守って……それが彼の望みだから」
 エトは初老の男性にそう続ける。
「今は憎しみを堪え、稲穂の如く耐え忍んで必ず、報いは与えるわ」
「はい、はい。もちろんですとも……」
 涙ながらにそう答えながら、村長はしきりに頷いた。

「両脇が封鎖できる、人が3,4人程度通れて35mほどある通路とかありますか?」
「そのような場所は……ええ、そうですね。ここが一番良いかと」
「一本だけ通れる道を残すのがポイントです。
 全部塞ぐと破壊して逃げられそうですからね」
 村人に作戦の要綱を伝えた『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)は村長に教えてもらった最適な場所にてバリケードの作成に従事していた。
 そんならむねに罠の作り方を聞きながら、『アデニウム』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)と『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は黙々と準備を進めている。
「趣味でキャンプファイヤーとか組んだことがあるからして、妾この手の木工は得意じゃ」
 とんとんと撃ち込みながら『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)がいう。

 作業を終えたイレギュラーズは囮となる2人を除き、事前に決めた場所に隠れてほんの一時だけ眠りについていた。
 既に多くの人々が避難を終えている。村の近くには避難できる場所はないため、最終的には比較的広い物件に分散して息をひそめてもらうことになった。
 その結果、人の気配はほとんどない。
 きらきらと輝く夜空の輝きと静寂は嵐の前のようだった。
「私たちはしばらく待機ですね……」
 エンヴィの飛行で屋根へとたどり着いたクラリーチェはほっと息を吐きながらそう呟いた。
「そうね。一応、これを被っておきましょう」
 そういってエンヴィが取り出したのは屋根の色にも似た暗い色のマント。
 それを二人で羽織って隠れる。
「明日の朝に来るということは、ひとまずは少しだけ仮眠した方がよさそうでしょうか」
 クラリーチェがつぶやけば、エンヴィもそれに頷く。
「妾、一度山賊を燃やしてみたかったのじゃ、協力感謝じゃぞ」
 アカツキはリュティスと一緒の屋根の上に隠れながら、ぽつりとつぶやいた。
「ええ、山賊達にはきついお仕置きが必要ですね」
 そう言って二人は頷きあう。



 ちゅんちゅんと鳥の音が聞こえ始める。
 陽光が微かに照らし出され始め、空が白く霞んで現れつつあった。
 囮役を務めるマナガルムとエトは人気の失せた村の入り口辺りで馬車を引いて打ち合わせをしているような様子を見せていた。
「……てめえら、ナニモンだ?」
「と、盗賊?! 妙に人が居ないと思ったら……に、逃げるんだ!」
 ずらりと居並んだ12人の人影を見た瞬間、マナガルムは大げさに叫んで馬車を捨てて走り出した。
「おい、そこの荷物を探れ」
 ファルークが指示を出す。
「団長。どうやら行商のようです。宝石やらなんやらがいくつか」
「へっ、行商か……いいねえ。さっきの女もいい顔してたしな。
 てめえら! あいつを追うぞ! 行商ってこたぁもっと金目のもんもあるかもしれねえ」
 山賊団の雄叫びの声が、村の中へと響き渡った。
 マナガルムはその様子を超聴力でしかと耳に入れながら、ちらりと横にいるエトへと頷いて見せた。
「てめえら! ぶっぱなせ! 多少傷つけても死ななきゃいいんだ!」
 山賊の声が響いた。
 マナガルムが振り返るその瞬間、銃声が響いた。
 不意打ちともいえる一撃に、マナガルムはとっさに反応してエトと共に動く。
 弾丸はエトとマナガルムを掠めながらも、大した威力ではない。
「ちぃ……行商のわりに動きが慣れてやがる」
 山賊の言葉を聞きながら走り続け、決めていた場所へと走り抜ける。
「へっ……ようやく止まったな。おい、あんた。アンタの荷物、他にもねえか?」
 男の言葉に対して、マナガルムは静かに振り返る。
 そして――音が響いた。
 ぎょっと目を見開いたのは、敵の方だ。
 複数の音が響く。ぷつん、ぷつんと音が鳴り、複数の路地がふさがっていく。
 最後には、黒き極光が爆ぜるように突き進み、複数の山賊を巻き込んで闇に溶かす。
「罠か……てめえ、ほんとにナニモンだ!」
「俺は、マナガルム=レベンディス=マナガルム。貴様らを、殺す!」
 行商風の衣装をはぎ取り、自らの普段の姿を現して、マナガルムは堂々と答えた。
(父よ、俺はこの名は嫌いだ。忌々しいとすら思った事もある。
 だが……今は、戦場にて無敵を誇った貴方の名を名乗らせて貰う!)
 その両の手に果てなき栄光に包まれた槍を構え、静かに男は宣戦を告げた。
 至近と共に双槍を力任せに幾度となく薙ぎ払う。
 漆黒の軌跡を描く槍は複数の剣士を中心に複数の敵を切り裂いた。
「聖なるかな、独善たるかな――」
 Memento moriを媒介に、魔力を高めるエトは、敵の後ろの方にて布陣している2人の魔術師らしき本を携える男達に視線を向ける。
 それは裁きの光。それは運命を関する異界の神聖なる力。
 降り注ぐ光は、魔術士の一人に聖罰を与える。
「――ようこそ。売り物は貴方達の終焉です。いらっしゃいませ」
 リンディスは退路を失った敵の前へと、ふらりと姿を現した。
「文字は力。行くよ私の文字録(レコード)たち!」
 魔力らしきものにより形成された写本を手に、リンディスは魔力をつむぐ。
 励起されしそれは、かつて身を滅ぼしてでも空にあこがれた男の物語。
 己が身を――生命力を代償に仲間たちへを導く加護を齎す力である。
「落ち着いて対処しましょう、頭。見るに敵の数はすくない。
 総員、武器を構えろ。着実に一人ずつ潰せば問題はない」
 一方、イレギュラーズの罠にはまったことに気づいたらしき敵のうち、細目の男がそう指示を出した。
「それもそうだ。行くぞてめえら!」
 それに応じる様にして、敵の頭らしき男が指示を出すとともに、自らの銃をイレギュラーズへと向けた。
「私のステージを見てってくださいね! なんて」
 ポーズを決めながら言ったらむねの足元から、小さな人形らしき何かが出現し、一斉に敵の魔術師に向かって飛んでいく。
 それは魔術士へとぶつかると同時に衝撃を放つ。
「焼かれるのは村ではなくお主ら自身であったな、あの世で反省せよ」
 アカツキはそれを見るや魔力を高めると、敵陣の後ろ当たりを中心に据えて、魔力を放つ。
 連なる雷撃はうねり、のたうち、蛇のように――あるいは、鎖のように自在に蛇行し、敵の身をその雷撃にからめとる。
 エンヴィは自らの魔力を再装填済みの魔銃を息をひそめながら構えていた。
 一見すると狙撃するには向かなさそうな中折れ式リボルバーも、一般的の範疇で言えばの話。
 静かに、引き金を引く。音もなく走った不可視の弾丸こそは思念の渦。
 領域を包み込んだ渦にのまれた敵が、うめき声を上げ、頭を抱えながら膝を屈していく。
 クラリーチェはそんな友人の隣にて祈るように手を結んでいた。
 自らへと降り注いだ2種の加護が万全であることを確かめながら、静かに祈る。
 ぼんやりと、どこからともなく現れた闇が、一人の敵を抱え込んだ。
 身動きを取ることができなくなった敵が、発狂の声を上げる。
 それは終わり。身体を守る鎧も溶け落ちてしまう呪いに包まれたその敵兵の耳には、いつまでも続く笑い声だけが響くのだろう。
 リュティスはやや高めに弓を構え、弦を引いた。
 魔力で出来た黒い屋は天へと走り、その姿を黒き蝶へと変質させ、敵の後方に向かって降りていく。
 美しき蝶に魅せられたそいつは、動くことも出来ずにいた。


 ぽつり、ぽつりと敵が倒れていく。
 罠にはめることで圧倒的な優位に立つことができたイレギュラーズは、敵の支援役と回復役を続けて打ち倒していた。
 数の有利が消えた山賊たちは、逃亡をすることも出来ず、徐々に追い詰められつつある。
 なにより、盾役を除いて多くの仲間が遠距離からの広範囲への攻撃であることも優位に働いた。
 一方的な殲滅は確実な戦果であり、同時にこれまで彼らがやってきたことでもある。
「何故、この村を襲った」
 マナガルムは敵の頭へと近づくのに際して邪魔をするように立ちふさがっていた男に問うた。
「なぜも何もないでしょう。私達にゃあ食えるもんも何もねえ……
 だから、そうしただけですよ」
 ぽたぽたと仲間たちと自分の手で穿たれた腹部を抑えながら笑った男へぎゅっと槍を握る。
「その代わりに、ここの村の人がどうなっても構わないというのか」
「はっ、まさか。だから私たちは――お頭は最初、全部じゃなくていいって交渉したに過ぎない。
 だが――それを断られるなら、仕方がないでしょう」
 こんな理不尽はよくある話で、どうしようもない理由で命は容易く喪われていく。
 確実に止める手は少なくて、救いきれないものははるかに多い。
 マナガルムは静かに槍を握りなおすと、今度は疾風の如き踏み込みと同時に、細目の男の心臓を貫いた。
「ゲイリーが死んだか……くそったれ! おい、ベイル!」
 細目の男――ゲイリーから視線を声のした方に向ければ、銃を持った男がこちらにライフルを構えていた。
 その銃口に魔力が集中していくのを見て取るのとほぼ同時――その砲撃がマナガルムを襲う。
 身をひるがえしてそれをなんとか躱した直後――もう一発が腹部を刺した。
 自らの身体が少しばかり震えた。
 その直後、輝きが自らの身体を包み込む。
 そうすれば、身体に齎された痺れるような感覚が、じんわりと溶けて消えていく。
 賦活術を齎したエトは、家屋の陰に隠れながら、前に立つ勇敢な騎士への支援を絶やさない。
「……ちくしょう、まずいな逃げるしかないが……」
 どことなく冷静なさまを見せる敵へリンディスは静かに視線を向けるのだ。
「――あら、逃げるのですか? では。『10日後、私たちがもう一度追い詰めてあげましょう。』」
「あぁ? はっ、いいやがる。あんた等がそこまでする義理があんのか?」
「ええ、怒っていますから。それに、貴方のプライドが、かつて自分の放った傲慢な言葉を言われる側に立った時に何も思わない程のちっぽけなものなら」
 静かにそう告げながら、まっすぐに敵を見据える。
「けっ、素晴らしいこって。だがよぉ、俺たちゃあ自分で言うのもなんだが、賊やってんだぜ?
 そんな騎士様らしいプライドも何もあったもんかよ!
 そう言って笑えば、銃を構える。
「行くぜてめえら! 逃げ帰ったもんが勝ちだ! ちょうど人数も減って食うもんに余裕もあるしな」
 そういって静かに引き金を引いた。弾丸はまっすぐにリンディスへと突き進んだ。
 直後、強烈な痛みと共に引き裂かれた皮膚からの血液がとどまることなく流れ続ける。
「槍兵ども、てめえらが前へ進んで俺達を守れ! じっくり逃げんぞ!」
 切り捨ての素早さに反比例して、兵たちの動きは驚くほど従順だった。
 槍兵はそのままイレギュラーズの方へと近づいていく。
 らむねはその様子を見ながら、魔力を術式へと注ぎ込むと、祝福となってリンディスの体力を回復させていく。
 逃亡を図ったファルークの前へと、一人の女性が立ちふさがった。
「ここから先は行かせません」
 立ちふさがったクラリーチェは両手を広げて敵をにらむ。
「そこをどけ、女ぁ!」
「どきません!」
「ええ、助かるなんて、思わない事ね」
 ぽつりとつぶやいて、エンヴィは魔力を高め、引き金を引いた。
 禍々しい魔力が迸り、ファルークの足元に着弾し――その足元から無数の黒き影が顕現し、ファルークの身体をがんじがらめにしていく。
 急速にまとわりついた邪霊がファルークの魔力を奪い去る。
「逃がすわけなかろう!」
 そう言ってアカツキは魔力を籠める。
 強烈な魔力と共に迸った鎖の如き雷霆が、イレギュラーズを防ごうとする敵を丸ごと薙ぎ払う。
「これで終わりです」
 リュティスは魔力を高めると、射角をファルークとベイルが縦に揃うように調整する。
 引き絞った魔力を放射すれば、敵2人を漆黒の輝きが包み込んだ。
「ぐあああああ!!!!」
 砲撃は両者を貫通し、瞬く間に大地に沈めた。


 その翌日、イレギュラーズはまだ村にいた。
 視線の先には土葬される一人の男の遺体があり、周りには村の住民たちがこぞって集まっている。
「おぬしがおらねばこの町は滅んだじゃろう……
 おぬしは、イレギュラーズの皆様に次ぐ、英雄であった」
 そう、ぽつりとつぶやいて、そっと村長が手を合わせた。
 その姿を見据え、イレギュラーズ達もそっと各々の思いに馳せるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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