シナリオ詳細
避けられぬ死
オープニング
●
慌ただしく動き回る研究員。此処は『実践』の塔。巨大なモニターの前には大勢の研究員の姿。けたたましい警告音が永遠に鳴り響く。
「おいおい、また、VRの中に存在しないものが……」
呟く研究員。一瞬だけモニターに映り込んだ怪物に彼は息を呑む。
「馬鹿野郎ッ!! んなこたぁ、どーだっていいんだ!! 早く、原因を探れ!!!」
大柄な男が唾を飛ばし、研究員達を睨みつける。
「ワックスさん!! システム自体に問題はありません!!」
「そんなわけないだろう!!!」
怒鳴るワックス。その声に研究員の一人がひぃ!?と悲鳴を上げる。爪を噛むワックス。不愉快な音が耳に触れる。モニターは既に暗闇だ。
「ああ、どうにかしてくれ!! 出来ないのなら、この音を早急に止めろ!」
苛立ちばかりが滲む。
「今、このVRの中にいるのは誰だ?」
白衣を優雅に揺らし、佐伯操がモニターを見上げる。穏やかな口調にハッとするワックス。
「佐伯さん……」
「怒鳴るばかりじゃ意味がないんだ。頭を使いなさいとあれほど私は伝えたはずだ。まさか、もう、覚えていないのかい?」
「も、申し訳ありません」
「そして、どうなっているんだ?」
操は冷静にアンサーを待つ。
「ええと、レプ研究員とネック研究員がいるようです!」
「ありがとう。彼らの位置を探れるかい?」
「や、やってみます!」
「佐伯さん!」
別の研究員が飛び出してくる。
「なんだ?」
「レプ研究員とネック研究員がいる部屋が開きません!!!」
「何故だ? その操作はこちら側で簡単に出来るはずだ」
「わ、分かりません!! 解除操作が書き換えられている可能性があります!」
「む、仕方がない。扉を壊せるかい?」
「え? や、やってみます!」
研究員はすぐに走り出す。操は息を吐く。
「ところで、今回は何が出たんだね? 異常を目にした者は私に説明して欲しいんだ」
「あ、あの!」
一人の研究員が手を上げる。
「見たんだね、教えてくれるかい?」
「は、はい。オレが見たのは真っ黒な生き物でした。それが周囲の小動物を呑み込んでいったんです……」
「ありがとう。今度は有害というわけだね」
操はふぅと息を吐く。最新のシステムに発生するバグ。最初は無害な生き物だった。
「報告はこれで四件目だ」
操は呟く。どういうことだ。何が起きているんだ。練達ではネットワーク空間にモンスターが出現するという異常事態が、じわじわ発生している。
「佐伯さん、は、両名とも発見しました!! こちら側から通信することは出来ません!」
「仕方ない。ログアウトも出来ない状況だね?」
「はい。強制的にログアウトさせますか?」
「いや、それは安易な考えだ」
操は左右に首を振る。強制的にログアウトをさせた場合、脳に影響が出る可能がある。
「分かりました。では、モニターに映してみます」
「!!」
ざわめく一同。そこには、真っ黒な怪物に呑み込まれ、ばたばたともがく両名。
「……な、なんということだ」
呟く操。何だ、この怪物は。此処にこんな生き物を生み出した覚えはない。
「ど、どうしますか!! ああ、二人が完全に呑み込まれて……」
「が、画面がどんどん、真っ赤に……」
「佐伯さん!! 扉が開きました!!!」
判断を迫られる操。
「両名の意識レベルを早急に確認するんだ。あの怪物はどうにか私が抑え込む」
操は素早く、怪物を檻に閉じ込める。研究員は歓喜する。ただ、操は知っている。これは長くて一分しか持たない。
「……」
もし、これが破られたら次はどうする? 心臓が高鳴る。
「佐伯さん!! 両名とも意識があります!! 記憶障害等はありません!」
「分かった。これから強制的デリートを行う」
操は安堵する。原因は分からないが、今日はこれでいい。
「だが、次は……」
操はモニターを見つめ、呟く。
●
「佐伯さん、此処のシステムはどうしますか?」
「ああ、ちょっと待ってくれるかい?」
「はい」
研究員達は忙しなく動き回る。操達は今、より精度の高いVRの開発に取り組んでいる。そう、投影された人を詳細にトレースし、リアルな戦闘等を可能とするシステムだ。今のところ、作業は順調だ。だが、大きな問題は精神に重篤なフィードバックが予想されていることだ。そのリスクを回避するためには膨大なデータが必要となる。息を吐き、操はローレットにメールを送信する。開発中のVRの中で戦ってもらいたいんだと──
それから、数日後。研究所には集められたイレギュラーズと有志の研究所の人間が操の説明を静かに聞いている。
「クレーム防止の為、もう一度、説明するから聞いてほしいんだ。このVRには強さが四段階のモンスターが存在して、君達はそのモンスターが持っている宝石をどうにか手に入れてほしいんだ。そう、研究所の人間と二人一組でね。そのモンスターは攻撃をすることもあり、状況によっては君達が死んでしまうこともあり得るんだね。まぁ、本当に死ぬことはないがその代わり、死ぬ感覚もリアルなんだ。では、準備はいいかい? そこにあるVR用のゴーグルをつけてそのイスに座ってくれないかい」
操の言葉に頷くイレギュラーズと研究員達。
「……」
すぐにVRの世界に落ちていく。潮風、そこには海岸が存在している。美しい光景。カモメが鳴いている。
「!?」
瞳に映る黒い靄のような何か。変わるステージ。
「ダマッテハナシヲキイテクレナイダロウカ」
響く声は誰のものでもなかった。身構えるイレギュラーズ。素早く、ログアウトしようとするがVRは反応しない。反響する、笑い声。
「イマカラゲームヲシヨウトオモウ。キミタチハフタリヒトクミナノダロウ? ソレヲワタシハイカソウトオモウンダ。ニンズウハオオクテモスクナスギテモイケナイ。ハヤク、3グループニワカレロ。ソウダイイゾ。マズハ、ワタシをタオセ! ソレカラコロシアエ。グループナイデ、ヒトクミダケイキノコッテネ? タダシ、ナカマのケンキュウインがコロサレタジテンデ、イレギュラーズモシヌヨ? コレハチームセンダカラサ?」
「……もし、皆が誰も殺さなかったとしたら?」
誰かが問う。
「ンー? ミンナダッシュツデキナイヨ。ココニズーットイルダケ!! ソレデモイイノカナ?」
- 避けられぬ死完了
- GM名青砥文佳
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月14日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●グループ1
ドラゴンは自分が何者であって、何故、此処に存在しているのか分からなかった。ドラゴンは三つに分裂していく身体を眺め、息を吐いた。私は一体、だれなのだろうか。
パッと瞳に映る、イレギュラーズ。私は雄叫びを上げ、炎を撒き散らし、白で統一された者達を瞬く間に隠してしまう。誰も何も言わなかった。イレギュラーズはこの状況を瞬時に受け入れていたのだ。
「ミンナ、シネ」
私は『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)を見つめ、滑稽な言葉を漏らした。広がっていく緊張感。ただ、それだけではなかった。
「正直、いきなりドラゴンとは驚きですが、倒させていただきますよ!」
凛とした声は四肢の長い女のものだった。柔らかな身体がしなやかに動き、長い髪がリボンのように美しく動いた。私はこの身体を動かせなかった。いや、私は彼女の舞に見惚れていたのだ。『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(p3p005208)が自らの腕を押さえながら、私の傷を見つめた。
「コロス」
吼え狂う私。
「ああ、でかい図体の割によく叫ぶ竜だぜ!」
凶暴な顔つきの男がふっと笑う。私は知る、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の元から飛び立つ、黒い鳥を。鳥は私の周りを飛び回る。
「引継ぎコード入力完了、データリンク!」
私は左を向き、接近する『ハム子』主人=公(p3p000578)を見た。公は携帯ゲーム機をしまい、愛嬌たっぷりに微笑んだ。
「何があるか分からないし敵はすぐに倒さないとね!」
身構え、逃げようとする私に公は真鍮の指輪から強烈な一撃を伸ばした。一気に蓄積するダメージ。大きな身体は哀れな的となる。息を漏らし、私は高速で尾を振るう。避け、飛び退くイレギュラーズ。
「アア、アタラナイカ」
くつくつと笑う。イレギュラーズは私を見据え、動かない。
「ダガ、コレハドウダロウ──」
私は氷を吐いた。瞬く間にイレギュラーズの視界が霞んでいく。呻き声が聞こえた。
漂う冷気をガスマスクが守り抜く。
「イキナリ、寒くナって驚いたナァ……まぁ、VRで殺し合いッテのも驚いたケド」
冷えた指先をセーラー服のスカートで擦り、『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)はドラゴンの背に銃弾を撃ち込んだ。ドラゴンは驚き、振り返った。音は聞こえなかった。
「ダレダ」
怒気が弾け、ドラゴンの顔を歪む。下腹部に傷が刻まれている。
「手ごたえまで本物のようですね」
『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は切れ長の瞳を細め、冷静に言い放った。握られしは刀剣。舞花はドラゴンの身体を見つめた。やはり、硬い。反動で腕が痺れている。
「ふむ、どういうことか分からんが私も攻撃しよう」
『迷い狐』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が合法セーラー服を翻し、怠惰な呪いをドラゴンに浴びせる。悲鳴を上げるドラゴン。支配されたフィールド、ドラゴン、デスゲーム。趣味は悪いがとても興味深い。
「ドラゴンさん、ナーちゃんとアイしあえる?」
蒼白の肌、巨躯。無垢な少女のような口調で『『アイ』する決別』ナーガ(p3p000225)が駆け、機械戦斧を振り上げた。頬に火傷を負い、ナーガは足から血を流している。
「ヌッ!?」
傲慢に裂けていく胸元。
「わっ、ドラゴンさん、ナーちゃんのキズといっしょだね!」
ナーガは楽しそうにドラゴンの身体に刻まれた傷を見上げる。ドラゴンは見下ろし、「ツマラン」と吐き捨て、ぎょっとする。
「ああああああああ!! 死ね、蜥蜴野郎! トールハンマァァァ……クラッシャァァァーーーッ!」
『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)が踏み込む。焼けるような殺気にドラゴンは空を目指す。
「絶対に逃がさねぇ!」
鋭利な瞳をドラゴンに向けたまま、ハロルドは聖剣を全力で振り上げた。雷鳴が轟く。ドラゴンはのけ反った。貫かれる足。身体を左右に揺らし、地に落ちていく。
「やっぱり、宝石は見当たらねぇなぁ」
ジェイクは目を細める。ドラゴンを探る鴉。存在していたはずの宝石もモンスターも消えてしまったのだろうか。
「さっぱり、分らねぇな。ただ、今は!」
ジェイクは遠距離から、大口径の回転式大型拳銃でドラゴンを狙い撃つ。よろけ、雄叫びを上げながら、ドラゴンはハロルドの胸に反撃の爪を振るった。
「何もかもリアルじゃねぇか」
ハロルドは言う。この臭いも痛みすら現実だった。冷え、身体が鈍っていた。
「ハロルドさん!」
『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)が駆け寄ろうとする。丁度、ナーガの傷を治し終えたところだった。
「大丈夫だ」
怒鳴る、ハロルド。
「は?」
史之は目を丸くする。
「え、冗談だよね?」
大丈夫? 誰よりも酷い傷じゃないか。史之は真っ赤な身体を見つめ、困惑する。
「……アンタは俺に構わなくていいんだ」
ハロルドは言った。消耗は出来るだけ少ない方がいい。
「なあ? 全然、効かないな。本当に攻撃したのか?」
青白い顔でハロルドはドラゴンを煽る。
「生き残るイシがナイのカナァ」
ジェックは目を細めた。先のことを考え、ジェックは攻撃方法を絞っている。
「このまま、温存サセテ貰おうネ?」
ジェックは仲間の動きを観察し、また、銃を構えた。誰にも聞こえない銃声。ドラゴンの肉が飛び散っていく。
「そろそろ、終わりですか」
舞花が接近し、全力で幻影の剣技を叩き込んだ。
「ねね、こっち!! つぎはね、ナーちゃんのばん!」
ナーガが得物をぐるりと回転させ、強かに打ち付ける。ナーガは砕いた腰を見つめ、ころころと笑った。怒涛の攻撃。弥恵の舞い、明後日の方向から灰色の魔力がドラゴンを貫く。放ったのはメーヴィン。そして、公が強烈な一撃をドラゴンの顎先へと放った。
「ギュッギャ……!!」
痛み。史之がドラゴンの左目を攻撃したのだ。ドラゴンは史之を右目でねめつける。どんなに攻撃を与えても史之がすぐに状況を不利にしてしまう。
「だいじょうぶ?」
覗き込むようにナーガが技を放った。ひだりて。
「グア!」
吹き飛ばされ、目を丸くした。その瞳に血まみれのハロルドが映り込んだ。ぞっとするドラゴン。これが死なのだ。振り下ろされる何か。
「……」
ハロルドは聖剣をしまい、息を荒げている。傍には動きを止めたドラゴンの姿。
「残念だぜ、宝石は此処にはないようだな!」
ジェイクが呟き、イレギュラーズは彼を見つめる。
●
研究員は怯え、各々のパートナーを見つめる。研究員達が泣き叫ばなかったのは、これが本当の死じゃなかったからだ。それでも、恐ろしかった。死を読み慣れているはずなのに。
「ほーら行ってこーい! サンプル第一号!」
場違いな声、それは史之のものだった。舞花はびくりとした。赤い視線の先に自分がいた。だから、振るった。自分の身を守ろうと。僅かに判断が遅れたのは研究員に質問をしようとしたからだった。目を丸くする彼のバディ。史之が研究員を突き飛ばしたのだ。研究員は身体を痙攣させ、不気味な水音を吐き出した。その身に舞花が振るった刃が刻まれている。
「何故です?」
舞花は史之を見た。研究員は目を見開いたまま、死んでいた。
「うーん。俺あと一ヶ月ちょいで死ぬしいいかなって」
「そんな」
舞花は眉をひそめた。史之はふぅと息を吐き、研究員を眺める。その顔に恐怖は見えなかった。ただ、彼は驚いていた。
「これで良かったのかもね」
穏やかに笑い、史之は倒れこんだ。見えない。唾を飲み込む音だけが耳に届いた。こんなものなのだと思った。諦めも恐怖も後悔すら湧くことはなかった。いや、どうだろう。所詮、偽物だからだろうか。分からない。
(なんだ……意外に穏やかだね……予行演習ができてありがたいね、絶望の青攻略へ気合も入るよ……)
どうしようもなく、眠たかった。
「こんな時になんだけど、ボクの提案を聞いてくれないかな?」
公の言葉にぎょっとする研究員。何を言うのだと思った。公は敵意がないことを示しながら、ゆっくりと話し出す。そう、公の提案はこうだ。研究員を狙うことを禁止すること、皆の同意のもとで魔眼を使用すること。催眠で研究員が受ける死の感覚を回避できないか試したかった。
「どうかな?」
冷たい空気が漂う。研究員達は黙り、怯え切っている。一方でイレギュラーズは動揺することなく、公を見つめている。ただ、パートナーが頷かなければ、意味がない。
「キミはボクの提案を聞いてどう思った?」
仕方ない。公は研究員を見た。
「いい話だと思ったよ。ただ、この様子じゃ無理だな。俺もあんたの傍にいるさ。悪いが守ってくれ。あんたが頼りだ。あと、俺は死ぬのが怖い。だから、そのなんだ。少しでも和らげてほしい」
その言葉に頷く公。彼を守ろうと思った。
「おい、トム」
「へ?」
研究員はジェイクをまじまじと見つめる。
「今からおめえを俺はトムって呼ぶぜ」
ジェイクは研究員の肩を叩いた。
「わ、分かった。私は君をなんて呼べばいい?」
状況は理解出来ないが、この男を信じよう。
「ジェイクって呼んでくれ」
「ああ」
「二人でどうにか切り抜けるぜ」
「私達で……」
「おう! だから、耳を貸してくれ!」
「ほら、こっちに来るんだ。危ないだろう?」
メーヴィンは男同士の友情のようなものを見つめ、ぼんやりしている研究員の腕を引っ張った。まずは戦線から離脱すべきだ。そして、情報共有。メーヴィンは自らの戦闘スタイルを研究員に話し、問題点を提示する。漁夫の利を取れるその間、我々は生き延びなければならない、戦闘時に研究員は安全地帯にいなければならない、最後は必ず敵を倒さねばならない。言いながら、メーヴィンは笑っていた。奇跡が起きない限り、勝てそうにない。
「死ぬ覚悟をした方がいいのかもしれない」
「ちょっと、しっかりしてよ!」
研究員はメーヴィンの肩を拳で思いっきり叩いた。
「あ、あの宜しくお願いします。津久見・弥恵と言います」
弥恵はまず、自己紹介をする。
「は、はい、宜しくお願いします。僕はニコって言います」
大きな瞳が可愛らしい。
「ニコ様、質問があるのですか?」
「何でしょうか」
「なぜ、こんな事になったのでしょう?」
「分かりませんが最近、バグが発生しているんです」
「……戦わずに解決は出来ないのですか?」
「それは難しいかと思います……提示されたルールを無視することで何が起きるか、僕にはちょっと……」
「そうですか」
弥恵は息を吐き、イレギュラーズの位置を確認する。
「あ、あの大丈夫ですか?」
傷だらけのハロルドに研究員が声をかける。
「ああ、まだ、意識はある。ただ」
「ただ?」
「俺は自ら脱落するつもりだ」
「え?」
ハロルドは驚く研究員の顎を殴りつけた。瞬く間に気を失う研究員。
「これで死の恐怖はなくなったはずだ」
呟き、ハロルドは研究員をその場に座らせた。
「少しハ余裕があるカナァ?」
ジェックは気配を消し、端の方に移動する。その間にジェックは連携について話し合う。そんな中、すぐさま攻撃に移る者がいた。
「たんきけっせんでいく!」
駆けだすナーガ。後方には研究員。
「!!」
身を捻り、乱撃。瞬く間に傷を負う弥恵と研究員。血を流している。
「ニコ様っ!」
弥恵は研究員の身体を支える。その瞬間、ナーガと研究員に鋼の驟雨が襲う。
「わわっ!! だいじょうぶ?」
振り返るナーガの瞳に呻く研究員とジェックが映る。メーヴィンは様子を伺っている。
「攻撃するよ!」
公が目を細め、メーヴィンと研究員を真横から狙う。吹き飛ばされる研究員。メーヴィンは咄嗟に避け、研究員を眺めた。
「おい、死ぬのか?」
「……うっせぇ!! まだだわ! 早く攻撃しろ……」
研究員は怒鳴る。メーヴィンは感心し、灰色の魔力を公の研究員に撃ち込んだ。
「うあっ!?」
滑っていく研究員。公が驚き、喉を鳴らす。滑っていく研究員を待ち構えるようにハロルドが立っていた。だが、ハロルドは攻撃しなかった。ハロルドは転がっていく研究員を無視し、すぐさま、ジェイクに向かう。
「俺が蜥蜴野郎の指図を受けるとでも思ったのか?」
誰にも聞こえぬ呟き。ジェイクはハロルドを見た。
「ジ、ジェイク!!」
背後の研究員が声を震わせる。
「何のつもりだ?」
ジェイクはハロルドを見つめる。殺気は感じられなかった。
「……アンタには可能な限り万全な状態で生き残ってもらう。3組生き残った後であの蜥蜴野郎が何をしでかすか分からんからな」
ハロルドはジェイクを選び、彼のステータスを上げたのだ。その瞬間──
「ジェイク様、私もおりますよ!」
弥恵が攻撃を仕掛ける。両脚を振り乱し、連続攻撃を。
「おっと!」
ジェイクは僅かに攻撃を浴び、はっと笑う。トムとニコが弥恵のパンツを見たようで顔を真っ赤にしているが、弥恵本人は全く気が付いていない。
「おらよっ!」
すぐさま、弥恵とナーガを攻撃するジェイク。それを見つめ、トムが動いた。
「うあああああっー!!!」
雄叫びを上げ、ナーガの研究員に殴りかかった。飛ぶナーガ。研究員の代わりに腰を殴られる。
「私も攻撃していきますね!」
舞花が駆け、幻影の剣技をジェックに放った。
「ジェックさん!!」
咄嗟に肩を叩く研究員。
「ありがとウ」
ジェックは身を捻り、攻撃を僅かに受ける。
「死すべき運命に抗いますよ!」
幻惑のステップ。ジェックを攻撃する弥恵。変幻邪剣に顔を歪ませるジェック。
「反撃するヨ」
素早く、弥恵に曲芸魔射。そう、O'range kiss。弥恵は呻き、目を見開いた。間髪入れずに飛んでくる、公の攻撃。弥恵は歯を食い縛り転ぶ。すぐさま、メーヴィンの攻撃がジェックを貫く。
「先に帰るぜ、俺は……」
戦いあうイレギュラーズを見つめ、ハロルドが雷鎚で自害する。
「さぁ、俺のところに来い!」
ジェイクがナーガを見上げる。視界の端に自害するハロルドを見つめながら。
「うん、ナーちゃんがだれよりもアイするんだよ!」
ナーガはジェイクしか見えていない。ジェックが公のパートナーである傷だらけの研究員を見つめる。弥恵の状態異常が効果を発揮している。ジェックは公をさりげなく支援するように、メーヴィンの研究員を撃つ。転がっていく研究員。メーヴィンはジェックを攻撃しようとしたが、すぐに身を翻した。視線の先に横たわる研究員。
「悪い、負けた」
メーヴィンは頭を掻き、座り込む。
「そのわりには楽しそうだな」
「ああ、リアルな死の感覚ってのが楽しみなんだ。旅人でもない私がそれを感じることができるのならば、死んでも死にたくないなんていう人間の気持ちも少しはわかるかもしれない」
「へぇ。でも、どうだろう。死を恐れないのなら意味がないかもしれない。ただ、どうだったかあっちで教えてくれ……」
研究員はふにゃりと笑い死んでいった。メーヴィンは笑った。睡魔が広がっていく。
避けきれず、舞花の攻撃に沈みそうになる公にパンドラが力を与えた。
「やられっぱなしは嫌なんだよ!」
そのまま、ジェックの肩を貫く。びくりとする研究員。反応できなかった。
「やるナァ!」
ジェックは笑い、倒れこんだ。聞こえる、死の足音。
「ここでシんでも現実じゃ死なナイよね? 大丈夫?」
ジェックは覗き込む研究員に問いかけ、静かな闇に吸い込まれていく。
「公様、私の舞いに魅せられてください!」
声が聞こえるまで接近する弥恵に公は気が付かなかった。呻き、倒れこむ公。切り刻まれた身体。それでも、公は必死に顔を上げ、研究員を探す。公は安堵する。研究員に恐怖は見えなかった。
「意味はあったんだ」
公は目を閉じた。感情も痛みも消え、とろりとした眠気だけがその身に残っていた。
「あと少しだけ戦えるようですね」
弥恵に肉薄する舞花。パンドラによって引き戻された体力。
「倒れてください」
幻影の剣技が弥恵の意志を打ち砕く。倒れる弥恵。無言で手を伸ばす。誰かに見送られたかった。舞花は驚きつつ、弥恵の手と研究員の手をぎゅっと握り締めた。
パンドラを弾けさせるナーガ。
「アイせないそんざいはもう、いやだよ! めっなの!」
得物をジェイクに食い込ませ、返り血を浴びるナーガ。
「ジェイク!」
「──トム、おめぇ!」
トムに支えられ、カウンターのように魔弾をナーガに撃ち込むジェイク。
「あう……」
混濁するナーガ。身体は急速に冷え、何も考えられない。
喘ぐジェイク。もう少しだ。そう思った瞬間、視線の先に舞花が映り込んだ。
「ジェイク!!」
その瞬間、舞花が神速の斬撃をジェイクに放った。
「ぐっ!」
ジェイクはトムの悲鳴を聞きながら、震える手で舞花を撃ちぬいた。パンドラがどうにかジェイクを支えていた。
「電脳生命体……結局……なんだったのでしょうか……」
舞花は呟き、動かなくなった。痛みはまどろみに溶けていく。
●グループ2
ドラゴンは落ちていく、己の使命を果たすために。双眸にはイレギュラーズ。私はほぉと笑い、空間を一瞥する。鼻孔に触れる、甘い香り。ふと、上がるボルテージ。私は何かが起きていることを知った。『性的倒錯快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)と『聖少女』メルトリリス(p3p007295)が私をじっと見つめている。
「オーホッホッホ! 貴方の様なトカゲもどきなどこの私が相手で十分! 騎士見習い、ルリム・スカリー・キルナイト……推して参りますわ!」
その声は誇り高く美しい。さっきまでこの現実を否定し、喚いていた女とは思えない。『「姫騎士」を目指す者』ルリム・スカリー・キルナイト(p3p008142)は金色のアホ毛を揺らし、私を惹きつける。そうか、甘い香りはこの女から漂う。
「人を集めて殺し合いとは悪趣味な。一体何が目的なんです?」
桐神 きり(p3p007718)が問う。オッドアイの瞳、彼女もまた、茶色のアホ毛を揺らす。私は目を細めた。きりが向けた人差し指に火が点り、ゆらゆらと動いている。
「キョウフダ」
私の言葉にきりは怪訝な表情を返した。
「何もかも癪だが脱出の為故、我も貴様らの力となろう!」
美声にハッとする。弾丸のようなものが私の身体にめりこんだ。呆然とする。『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)が鎌を振るっていた。私は見た、目元の包帯は見せかけだろうか。
「クハハハハ! 鈍間めが! 我の攻撃で震えるが良い! バグ風情が!」
リュグナーはすぐに次の技を解き放った。重い衝撃。慢心と刈り取られる精神力。何かが奪われた気がした。それでも、私は動いた。緑の液体がほんのわずかに残った注射器を踏みつけながら。瞬きをするルリム。振り下ろされた尾が眼前に迫った。
「姫騎士を目指す私には生ぬるい攻撃ですわ!」
ルリムは飛び退く。尾が地を揺らす。私は笑い、今度は噛み付いてやった。
「うっ!?」
か弱き声。転倒するルリム。肩から血が噴き出している。
ドラゴンは興奮し、両鼻から炎を吐き、ルリムを見下ろしている。
「HAHAHA、デカいトカゲだな。薄っぺらいガワだけのドラゴンなんてのは、随分と情けないじゃないか!」
『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)が勇敢なルリムの前に飛び出し、傷だらけの拳を向け、傲慢な笑みを──
「!?」
ドラゴンの口から唾が飛ぶ。貴道が重いボディーブローを打ち込んだのだ。
「HAHAHA! レインにしては汚ねぇな!」
貴道は肘を曲げたまま下から突き上げるようにドラゴンの下がった頭部目掛けて拳を打つ。転倒するドラゴン。聞こえる、爆発音。同時にきらきらと星が飛び出した。ドラゴンはびっくりしている。
「なんで片言なんですかな? キャラ付けですかな?」
そして、パーティーグッズを持ったオールバックのやべー奴がドヤ顔で立っていた。アホ毛を揺らし、『正気度0の冒涜的なサイボーグ』ベンジャミン・ナカガワ(p3p007108)がドラゴンを見つめている。ちなみにベンジャミンは全く、今までの話を聞いていなかったが、目の前のドラゴンが敵であることだけは理解している。
「ふふ、一気にちゅどーんですぞ!」
ベンジャミンはライフルに似た銃を取り出し、信仰心という名の狂気を魔力に変換し、極太ビームを放った。よろけるドラゴン。
「イヤッフーーーッ! グッドタイミングですぞー!」
ゴキブリ走法で今度はドラゴンの顔を狙い、極太ビームを食らわす。
「さて、続こう。直接火力は心もとないので、こういう形で戦わせてもらおうかな」
自信に満ち溢れた笑みを湛え、尊大ともとれる態度で『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が全員の能力をぐんと上げる。ドラゴンは喘ぎ、色素の薄い金髪とオッドアイを見つめる。
「ありがとう、最高だ!」
『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)が笑う。目つきの悪さが笑うことで緩和されている。
「まずは観察するか……おっと!」
凛々しい顔をドラゴンに向け、利一は咄嗟に技を発動させる。ドラゴンが動き出そうとしたのだ。利一は反動を受け、呻くドラゴンを見つめる。肉体と精神をどうにか破壊できた。
「わたしはあなたを回復させる! 正直、VRとか分かんないけども皆と一緒にどっかーんして今度はどっかんどっかん言わせればいいんだよね!」
金色の長い髪を揺らし、儚げな少女がルリムの傷を癒していく。『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)だ。ドラゴンは水着姿のココロをちらりと見つめる。あの姿はバグだろうか。
「皆様、ありがとうございますわ!」
ルリムが大剣を握り締め、強かにドラゴンを叩く。
「VRデータを書き換えてこんなゲームを創り出せる存在……貴方は何者なんでしょう?」
きりがルリムを回復させ、ドラゴンに話しかける。
「ワカラヌ」
ドラゴンは横たわったまま、炎と氷をフィールドに吹き付ける。後退するイレギュラーズ。皮膚が焼け、身体が凍り付く。
「ちんけな攻撃じゃ、ミーのステップは止められないぜ?」
火傷を負いながら躊躇わずに踏み込んでくる貴道。髪が凍っている。ドラゴンの顎に伸びる腕。大胆なステップだと思った。視界がぼやけ、耳が遠くなった。脳が揺れている。
「見た目通り、うすのろですな! それに、ステージの装飾が安っぽいですぞ。デザイナーを雇ったらどうですかな? その炎と氷も一昔前みたいで恥ずかしいですぞ!」
ベンジャミンがアホ毛を燃やしながら極太ビームを伸ばす。
「あれは一体、どんなものなんだろう」
利一が震えながらドラゴンとフィールドを探るが、何も分からなかった。意図的に見つけられないようにしているのかもしれない。
「もっと苦しませてやろう。光栄だろう?」
リュグナーは大総裁オセの狂気でドラゴンを苦しめ、イレギュラーズを観察する。誰がどんな技を使うのか知る必要があった。
「このまま、押し切るよ!」
ココロが状態異常満載のドラゴンを見つめる。あっと驚くドラゴン。ココロから飛び出した複数の人形劇団がドラゴンを攻撃し始める。
「アア、ナゼ、タオレヌ!」
響く声。ドラゴンは回復する術がなかった。どんなにイレギュラーズを攻撃しても忽ち、ヒーラーどもに回復されてしまう。身体が重く、喉が枯れていた。何故か自らを攻撃することもあった。
「マタダ」
ベンジャミンが自己回復し、きりが貴道を回復する。
「あと、少しのようだな!」
利一が中距離から因果を歪める力を吐き出す。揺れるドラゴン。耳障りな笑い声が聞こえた。ああ、来たのだ。私にとっては彼の方が死より恐ろしかった。貴道が膝を打ち、ココロの人形が嘲笑う。何故、臆することなく飛び込めるのだろう。ルリムが剣を振るい、今度はリュグナーが狂気を植え付け、ゼフィラが仲間を回復させる。
「グゥア……」
声を漏らし、私は前のめりに倒れこんだ。世界は既に暗い。
●
「まずはこっちに来い」
利一が研究員の腕を掴み、安全な場所で研究員から情報を引き出そうとする。
「殺し合いをするなら勝手にやってください。私はそんなのに自ら参加はしませんわ!」
ルリムが研究員を連れ、逃げていく。命を守る騎士が嬉々として殺し合いをするはずがない。ゼフィラがルリムを一瞥し、怯える研究員を眺めた。
「悪いね。戦闘は専門外なんだ。悪いが、私が死ぬまで後ろで隠れていてくれたまえよ」
そう、無理に付き合わせる気は更々ない。涙目で頷く研究員。一方できりもまた、研究員を自らの後ろにつけ、囲まれる可能性を考え、端に立っている。
「生存重視で立ち回りましょう。痛い思いはさせたくありませんから」
きりの言葉に大きく頷く研究員。
「さあて、ゲームスタートってところかな!」
貴道はAPを大きく削り、ステータスを上げ、フィールドを見渡し、振り返る。
「HAHAHA、ぶっちゃけベリーベリー邪魔者なんだが出来るだけ守ってやるぜ?」
大きな声に驚きつつ、貴道の逞しい身体と振る舞いに研究員は落ち着きを取り戻す。
「はい、早く乗ってね!」
ココロは後方に位置し、相棒の赫塊に乗るよう伝える。
「え、俺、馬に乗んの?」
困惑する研究員を急かし、ココロは胸を張る。
「そりゃあ、馬上だとなんとなく強そうに見えるでしょ?」
「え、いや、強そうというか目立ってますけど大丈夫っすか?」
「え?」
きょとんとするココロ。
「興味ないですぞ」
ベンジャミンはゴロンと寝っ転がり、脇腹を大胆に掻いている。
「まったく、演出が手抜きでVRのスペックを活かせてなかったですな……佐伯殿は海まで再現してみせたというのに……」
文句を言うベンジャミン。リュグナーはイレギュラーズと研究員を眺めている。そろそろ、始めるとしよう。
「怨み言は後で聞くが故、まずは終わらせようではないか」
リュグナーが攻撃の口火を切る。
「!!」
吹き出す殺傷の霧。研究員達はせき込み、イレギュラーズはリュグナーを見た。利一は誰を攻撃しようか惑い、リュグナーを狙う。有益な情報は得られない。ならば、戦うしかない。研究員は利一の後方、そう、距離を保ち震えている。
「ぐっ」
呻く、リュグナー。直撃し、肉体と精神が壊れていく。
「眠いなら、ミーが起こしてやろうか!」
ベンジャミンは威勢の良い声を聞いた。そう、貴道が寝転がったままのベンジャミンの腹部に拳を押し込んだのだ。衝撃に目玉が飛んでいきそうになる。
「ぐおおおおおっ~~~!!! 貴道殿、今度は俺のぶぁんですぞ!」
貴道に極太ビームを放つベンジャミン。揺れる貴道。その様子を伺うきり。積極的に攻撃はしない。ゼフィラもまた、攻撃はせずにフィールドの異変を探る。そう、この世界に侵入者がいないとも限らないのだ。
イレギュラーズは息を荒げ、状態異常によってじわじわと死に向かっていく研究員達を見つめる。リュグナーが幾度となく、攻撃を仕掛けている。ちらりと研究員を見つめるリュグナー。指示を守り、研究員は悲鳴を上げ、後方へ駆けている。それを見つめるベンジャミン。また、寝転がり、今度は肩を掻いている。
「余所見は禁物ですわよ!」
ルリムが口角を上げ、リュグナーに大剣を震い上げた。積極的にデスゲームには参加しない。あくまでもルリムは守るためにこの剣を振るう。よろけるリュグナーを心配そうに見つめる研究員。
「さあ、あなたは何が得意なの? あなたの強いところ、わたしに見せてください!」
ココロの声。雷撃がのたうつ蛇のように落ちていく。そう、何度も落ちていった。
「んぁっ!?」
巻き込まれるゼフィラの研究員。ただ、巻き込まれたのは彼だけじゃない。ココロは顔をしかめるイレギュラーズと研究員を見つめ、にっこりと笑った。イレギュラーズは焦らず、冷静に強みを魅せる。
「落ち着いてください、私が回復します」
きりが自らの傷とパートナーを治癒させる。ただ、状態異常は拭えない。
「ちょ、ちょっと!!」
ココロの背中をパートナーが強く叩く。
「何が起きたの? わわっ!」
視界に利一が映る。目を丸くするココロ。利一は飛んでいる。きらきらと光る靴。足元に広がっていく光の翼。利一が目を細め、ココロを射ち、貴道を見た。取り出す、ビーム銃。麗らかな潮騒を思わせる鮮やかに色づいた羽衣が翻る。撃ち抜かれる貴道。貴道は楽しそうに笑った。その身体は研究員を庇ったせいで傷だらけだ。
「良いアクションだったな、HAHAHA! だが、ミーはこっちを狙うぜ!」
巨躯を俊敏に捻り上げ、リュグナーを打つ。弾ける、パンドラ。リュグナーは後退する。
「ガール、ユーもミーの攻撃を存分に食らいな!」
跳躍。ココロを攻撃する貴道。
「わっ! やっぱり、郷田さんは強いね!」
ココロはその威力を肌で感じながら、自らを回復させる。
「これ以上、無意味に傷付く必要はありませんわ。敵は私が始末しますわ!」
ルリムは苦しそうな研究員を見つめ、リュグナーをねめつける。パンドラは既に弾けている。
「道連れにしますわ!」
吼え、瞬時に大剣を突き刺す。びくりと震えるリュグナー。独特な笑い声を発し、リュグナーはすぐに倒れこむ。世界が途端に静まり返った。身体が痛くて仕方なかった。ただ、それもすぐに消え、揺りかごのような深い眠りが手招きをする。それを見届け、倒れこむルリム。そこに恐怖などなかった。ただ、涙だけが溢れていく。
「……」
利一が振り返り、ルリムをじっと見つめ、また前を向く。
「やれやれ、出来ることなら最低限、非戦闘員は巻き込まないでほしいのだがね」
ゼフィラはふぅと息を吐き、ココロをねめつける。ココロはゼフィラを見た。後ろで研究員が背中を痛いほど叩いている。
「遅いよ、本当にね」
ゼフィラは呟き、ココロに攻撃を仕掛ける。
「えっ!」
爆発音と同時にきらきらと星が飛び出す。驚くココロ。音に怯えた赫塊が乗っている者達を振り落とす。そして、気が付いた時には──
「あう……」
大地から生じる無数の晶槍がココロの身体を貫いている。強引に晶槍から逃げ出し、血を流しながら反撃するココロ。チョコレイトを足元に投げ、意識を逸らし、ゼフィラを殴り、吹っ飛ばした。そう、必殺技だ。 コマンドは、 623+A or C(空中可)。
きりは転がっていくゼフィラを見つめながら、傷だらけのココロを見た。研究員は落馬し、腕を押さえている。折れたのかもしれない。
「狙いますよ」
呟き、ココロの研究員を狙う。一瞬、左目が眩い赤色に輝く。フィールドを覆う、絶叫。怒涛の連撃を浴び、ココロの研究員は当たり前のように倒れた。
「あわ……」
ごろんと倒れるココロ。力が抜け、ただ、眠りたかった。
弾けるパンドラ。戦い続ける、イレギュラーズ。笑い声。攻撃を浴びながら果敢に皆を責める貴道。利一はぜいぜいと息を吐きながら、ゼフィラを貫く。貴道の背中にベンジャミンが治癒を向け、回復したきりが崩れ落ちるゼフィラの影から躍り出る。くるりと回転し、利一を美麗な銃剣によって撃ち抜き、ベンジャミンがゼフィラときり目掛けて、体内に格納されている兵器を使い、攻撃を放った。
「んっ……!」
被弾するゼフィラ。倒れ、目を細める。痙攣が止まらない。終わった。終わってしまった。
「ああ……確かに、この感覚は懐かしいね、まったく……」
死がゼフィラを愛していく。
遅れて聞こえる声。きりだ。
「あ……あ……」
想像を絶する痛みとはこのことを言うのだろうか。研究員が駆け寄ってくる。
「え?」
きりの研究員はびくりと震えた。利一とベンジャミンが凄まじい勢いで転がってきたのだ。殴ったのは貴道。王者とは彼を指すのだと思った。震え、研究員は意識を失う。息絶えたのだ。
「無念ですぞ……」
ベンジャミンは呟く。痛みは消え、快適だった。目を閉じ、ベンジャミンは死に呑み込まれていく。
「……あ、あっ……」
利一は霞む視界に別れを告げ、笑った。わからなくなることがとても幸せに思えた。
● グループ3
吹く風は酷く心地よかった。ドラゴンは宙を舞い、氷を吐く。地上にはイレギュラーズ。私は目を細め、地を踏み締めた。
「おい、ドラゴン! 俺の攻撃が見えっか? まぁ、見えねぇだろうなぁ!」
嘲笑う声に導かれ、私は『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)を見た。その歯は尖り、サメのようだった。ただ、私は見惚れているわけではなかった。動けなかっただけだ。気が付けば、見えない刃が私を斬り刻んでいた。
「ゴミ以下に何故、私が従わねばならない」
ドラゴンに冷たい視線を向けているのは『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)だ。殺し合いという醜い思惑に鼻を鳴らし、徹底的に仲間同士の戦闘を避ける方針をイレギュラーズに告げると『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)と『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が僅かに反応する。ラルフは静かに頷き、すっと後方に下がった。彼らは何か思うことがあるようだ。
「……このバグを含め、操が何かを調べるためにイレギュラーズを利用したわけではないと思いたいが」
物憂げに呟くのは『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)だ。
「まったく、極限状態での人間の性質を調べるテストか、コレは……」
現代日本生まれの狼男は溜め息を吐く。
「まぁ、不快で仕方ないが戦おう」
見上げ、駆けていくカナタ。速度を保ったまま、拳を突きだしドラゴンの腹を思いきり、打つ。渾身の一撃に、濁ったあぶくを飛ばすドラゴン。ぼやけた視界に銀色の美しい人狼を映した。
「悪趣味な催しだ」
マナガルムは眉を顰め、軽槍を構える。マナガルムがいた世界ではドラゴンは神に等しい存在だった。それに、避けられぬ死。死ぬのが怖いわけではなかった。戦場に身を置いていたマナガルムにとって死は特別ではなかった。だが、此処は戦場ではない。鮮明に思い出す、記憶。恩師とかつての仲間がマナガルムを見つめていた。
「……俺達の世界の竜とは違うとはいえ、やるしかないだろう!」
マナガルムは踏み込み、突く。慈悲を帯びた一撃が胸元を赤く濡らす。のけ反るドラゴン。マナガルムは跳躍し、今度は顎先を貫く。
「ジャマダ!」
ドラゴンの声に目を見開くイレギュラーズ。瞬く間に視界を覆う灼熱の赤。波のようにうねり、イレギュラーズを襲そう。
「はっ、凄まじい威力じゃのう!」
箒に乗った『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)が大きな帽子を片手で押さえ笑う。
「──じゃが、覚えたぞ! ドラゴンよ、儂の攻撃を食らうのじゃ!」
クラウジアは自身の精神力を弾丸に変え、ドラゴンの足を撃ち抜く。吼え狂うドラゴン。歪んだ双眸に『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047) が映り込んだ。
「ねっ♪ アタシ戦い嫌いだから今回は見逃して、ねっ♪」
ミルヴィはにっこりと笑う。ドラゴンはハッとする。サファイアを思わせる美しい瞳。
「ああ! 見惚れてるなんて良い度胸でしょ!」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が集中力を高め、宝石の剣から迸る一条の雷撃を放った。痺れ、のたうち回るドラゴン。
「見た目からして頭の軽そうな竜ですね。僕のいた世界でドラゴン……龍と呼ばれるのは水神であり、位の高い存在でしたよ。あなたにはそんな価値など微塵もないようです」
『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)が皮肉交じりに呟き、ドラゴンの死角に回り込み、式符より生み出した致命の毒蛇を這わせる。悲鳴を聞きながら、睦月は幼馴染の史之を想った。今頃、しーちゃんはドラゴンと戦っているのだろうか。
「おいおい、アンタはもう、へばっちまったのかい?」
『荒熊』リズリー・クレイグ(p3p008130) は豪快に笑うとドラゴンは翼を広げ、威嚇する。
「はっ! でかい図体してる割に考える事は幼稚っぽいんだね」
「ダマレ!」
「可哀そうに。アンタ、そればっかりなんだよ。それに正直ピンと来ないんだけどさ、ここじゃ死んでも死なないってコト……でいいのかい?」
「ソウダ」
「なら、この死もアンタにとって何になるのさ?」
「……」
詰まる言葉。リズリーは答えを待った。だが、ドラゴンは答えなかった。
「──タイムリミットだよ。攻撃するよ」
大戦斧が光る。リズリーは憎悪の爪牙をドラゴンに食い込ませ、間髪入れずに傲慢な左がドラゴンの意志を破壊する。にっと笑うリズリー。かなり、効いている。
「分かっていると思うが、まずはドラゴンからだ」
声の主は『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734) 。そう、稔だ。黄金の爪をドラゴンに向ける。
『んなこと分かってる!!』
大声を出す虚。その声は震えていた。
「──そうか、ならいい。それにしても、俺は今日も美しい」
稔の呟きに虚が反射的に溜息をつく。
『また、それだ……』
虚はうんざりし、稔はドラゴンを見上げる。人間は利益と恐怖で動く生き物だ。中でも失う恐怖は絶大で、否応無しに彼らを突き動かす。誰しも死にたくはない。焦燥、怒り、すべて、コントロールできるものではない。
「壮大な話が書けそうじゃないか」
白紙の魔導書を優雅に広げ、稔はドラゴンを撃ち抜く。大技に地を滑るドラゴン。
「アアアアッ!」
ドラゴンは尾を振り回し、フィールドを氷で覆う。
「燃やしたり凍らせたり忙しい奴じゃ!」
体勢を整えたクラウジアが精神力の弾丸を放ち、ドラゴンの肉を弾く。
「へっ、トラウマを抉ってやろうじゃねぇか。ほら、俺の攻撃を食らいな! 美味いぜ、きっとな!」
ペッカートを見つめ、ドラゴンは驚く。ペッカートの状態異常は消えていた。放たれる、見えない悪意。かぶりを振るドラゴン。瞬く間に追い詰められている。
「イヤダ」
ドラゴンはかぶりを振り、がむしゃらに右爪を振るった。
「良い攻撃だな」
ふっと笑う声が聞こえる。見下ろせば、カナタが顎を引き、両腕を構えている。目を丸くするドラゴン。カナタは目を凝らし、振り下ろされる爪を魅せるように弾き、身を捻った。
「コロス!」
ドラゴンは咬みつこうともがいた。それでも、涼しい顔をするカナタ。
「──此処だろう」
冷静にドラゴンの攻撃を避け、邪剣をドラゴンの胸に振るう。
「ウギャァ!」
直撃するドラゴン。避けることすら出来なかった。
「何か良いものあるかな♪」
ごそごそとミルヴィは道具袋の中を探っている。
「あ、これはいいかもしれないね!」
ミルヴィは眩しく笑い、胡椒の瓶と紐を見つめる。
「この紐を胡椒の瓶に巻き付けちゃうよ!」
紐をきつく結び、ドラゴン目掛けてぶんぶんと胡椒の瓶を振り回す。驚くドラゴン。くしゃみをし、すぐに咳き込む。
「あたしは出し惜しみしないよ!」
躍り出る、リズリー。打撲で重くなった身体を引きずりながら、ドラゴンに襲い掛かる。
「はあっ!」
大戦斧をドラゴンの膝に打ち込む。全身を染める返り血。リズリーは笑い、くしゃみを一つ。
「──ん? ああ、此処で行き止まりか」
ラルフは戦闘から離れ、フィールドを歩いている。今のところ、何も見つからない。上手く隠しているのだろうか。ラルフはしゃがみ、土を調べ始める。
「空っぽなんですね……」
睦月は目を細めた。覗き込んだドラゴンの瞳から見えたのは分裂した三つのドラゴンだけ。
「それでも、僕が憐れむことはないですよ」
「!?」
ぎょっとするドラゴン。身体が浮き、転がる。睦月は後退し、素早く、呪いを送り付けた。飛び上がる、ドラゴン。苦し紛れだろうか。炎を撒き散らす。
「なんて炎だ……だが!」
マナガルムは目を細め、垂れた尾目掛け、軽槍を何度も突く。
「アア」
痙攣し、落ちていくドラゴン。
「よかろう。俺が最高の演出をしてやろう」
Stars。そう、稔が白紙の魔導書に触れ、ドラゴンに痛みを贈る。
「このまま、立てなくしてやるわ!」
メリーが魔力弾をドラゴンの腹部に放つ。悲鳴とともにドラゴンがのたうち回る。ふと、視界にぼんやりと光る黒い石。ドラゴンはじっと見つめた。見たことのないもの。ドラゴンは腕を伸ばし、そっと握り締めた。その瞬間、ドラゴンの鼻先が裂け、石を落としてしまう。それをすぐに拾うカナタ。目を細め、カナタは飛び退く。鳴る、ベル。ドラゴンは反射的に音の方向を見つめ、よろける。稲妻が起き、鼻先が焼けただれた。ドラゴンは笑った。最期に得意げなメリーを見た。
●
世界にドラゴンは消えた。研究員はイレギュラーズを見つめた。ドラゴンの戦闘で彼らは傷を負っている。
「大丈夫だ、俺達は全力で君を守るつもりだ」
Stars、稔が研究員の真横に立った。
『ああ、絶対だぜ! むしろ、俺達に向かってきた奴は全員、敵だぜ。すぐに殺してやるんだ……!』
憎悪と殺意を剥き出しにする虚。一方、マナガルムは研究員の顔を見ることはなかった。いや、見ることが出来なかったのかもしれない。
「恨むなら恨んでくれ、仮想現実という概念は理解出来ている。だが──俺は仲間に殺意の矛先を向ける事は出来ない」
マナガルムは槍を両手で握り締め、あっという間に自らの胸に突き立て、倒れこんだ。
「ひゃあっ──!?」
「んん?」
ペアの研究員の悲鳴を聞き、ペッカートが目を瞬かせた。
「あ、あれ……」
研究員は怯えている。
「おー、自害か、派手にやったなぁ!」
ペッカートがマナガルムを見つめ、「まぁ、お前もすぐにああなるから大丈夫だぜ」
意地悪く笑う。
「ええ?」
「理由は沢山だけど、そもそも、俺、悪役だから」
「わ、わたしは!」
「ん?」
「わたしは悪役じゃありません!」
「へぇ? なら、頑張れよ。この状況の打開策が見つかれば英雄だ」
ペッカートはカラスを飛ばし、イレギュラーズから離れ、探索を始める。慌ててペッカートを追う研究員。
「腕が鳴るな」
カナタは動き出すイレギュラーズと研究員を見つめ、歩み寄る。驚く研究員の前で両手を広げ、イレギュラーズに研究員を狙わぬよう提案する。
「……」
黙り、互いを見つめる研究員達。その顔に広がる疑心暗鬼。カナタはやれやれと肩をすくめる。フィールドを支配する恐怖心を超える話術を持ち合わせてはいない。そんな中、研究員の愚痴を聞いてあげるミルヴィ。
「えー、嫌な上司がいる? わぁ、それは大変だねー……ケドアタシがめっちゃ応援すっからファイト♪ それにさ、疲れているときは好きなもの食べて好きなことしてよく寝るといいね! ということで、これ!」
ミルヴィは持ってきていたトルティーヤを半分にし、研究員に手渡す。震える手でトルティーヤを受け取り、そっと口に含む研究員。
「あ、美味しいです」
「うん♪ その笑顔、素敵だよ!」
ミルヴィは笑い、イレギュラーズを見据えた。
睦月は大きなため息をし、怯えている研究員を眺める。
「いいですか? 自己紹介を聞いている暇はありません。自衛してください。それもできないなら大人しく僕の後ろに隠れてください」
「は、はい!」
そして、睦月は素早く、練達上位式で研究員の身代わりを作り、驚いている研究員に「万全ではないので、屈伸でもして咄嗟に動けるようにしてください」
そう告げ、身構えた。
「うむ。まぁ、楽しくやるのが一番じゃろ。おらおら、どうせぶいあーるなんじゃし、かかってこぬか!」
クラウジアは研究員をその場に伏せさせ、ふと、首を傾げる。ラルフが研究員を引き連れ、フィールドを調査しているようだ。
「あ、あの、戦わないのですか?」
不安そうに研究員はラルフを見た。
「いや、まだだ。そして、先ほどの質問に答えるのならば、私は単に自意識を持ったプログラム如きの良い様にされるのは腹が立つし研究者なら何故を解き明かすのは当然だろう?」
その瞬間、研究員は顔を真っ赤にし、頷く。研究員は生き残ることだけを考えていた。
「お手伝いします!」
「ああ」
ラルフは言い、遠くのミルヴィを一瞥し、ミルヴィもまた、ラルフに視線を送った。
「うーん。さっさと帰ることにするわ」
「は?」
研究員はぎょっとし、メリーを見下ろす。
「な、何を言って? 嘘ですよね? 死ぬんですよ!」
「え? だって強い相手と苦労して戦うより、弱い相手を一方的にブチ殺す方が好きだもの。それに、本当には死なないわ」
メリーは研究員を眺める。
「え、ちょっと!? まっ!?」
ぎょっとする研究員にメリーは魔力弾を放った。転がる研究員。死に怯え、のたうち回る。メリーは研究員の苦しみを聞きながら、あの時の痛みと同じものを味わい、目を閉じた。もう、怖いものなどなかった。
「あっはは、いやー、消耗したねえ!」
リズリーがメリーと研究員の遺体をちらりと見つめ、顔色の悪い研究員をすっと下がらせる。
「さぁて、どうなるかね」
正直、気は乗らない。だが、戦士として戦わずに自殺して終わるのはそれ以上に抵抗感があった。
奇妙な緊張感が漂う。ハッとするイレギュラーズ。カラスが鳴き、旋回する。
「そろそろ、動くぜ!」
ペッカートが強力な呪符を構える。さぁ、一番に狙うべきは──
「リズリー、お前にするぜ!」
全てを蝕む深き闇が呪符から飛び出し、リズリーを攻撃する。勿論、研究員は狙わない。そう、あとで恨まれたくないもん。
「ぐっ! やるねえ!」
リズリーはよろけながら、大戦斧をくるりと回し、ペッカートの胴に押し込む。
「うへっ!?」
転がるペッカート。
「――失せよ、むしろ、楽になりたいだろう?」
探索を終え、ラルフが呟く。はるか後方には研究員。研究員は震えている。何も見つからなかった。それこそ、不自然なくらいに。ラルフ曰く、何も見つからないことが成果だ。研究員は震えながら思い出す。
「はっ!」
超速で飛来する光線が無慈悲にリズリーと研究員を貫く。即死する研究員。リズリーは息を吐いた。
「あーあ、やられちまったねえ……」
途端にリズリーは四肢を投げ出し、飛び回るカラスを見つめ、息絶えた。痛いのは一瞬だった。
「──さあ、楽しもうじゃないか」
唸り、カナタは研究員を狙ったラルフを狙う。
「!!」
只者ではないオーラがラルフに迫りくる。気が付けば、身体に食い込む、カナタの渾身の一撃。
「死なばもろともです!」
睦月の声。目を見開くラルフ。痛み。見れば、脇腹に咬みつく致命の毒蛇。
「あ、目が合ったよっ! 研究員サンは隠れてるし、よーし♪」
ミルヴィは視線が合ったクラウジアを僅かに魅了させ、刀を振り上げる。月光を想わせる幻想的な剣舞。クラウジアは目を奪われていた。
「いたたたたじゃ……さぁ、今度は儂の番じゃろ!」
クラウジアは呻きながら、ミルヴィの研究員を見た。
「バレバレじゃ!」
本当はラルフの研究員を狙うつもりだったが、作戦を変更し、狙いを定める。
「!!」
当たった。魔力の弾丸がミルヴィの研究員を吹き飛ばす。ミルヴィはすぐに研究員に走ろうとしたが、クラウジアの状態異常を知り、攻撃を仕掛ける。
「アタシの本気見せたげる! ただ、殺さないよっ!」
全力で二刀の剣で唄う様に舞い、駆け抜ける様にクラウジアを斬った。膝をつくクラウジア。反動で傷を負うミルヴィ。ぱっとクラウジアから離れていく。その途端、呪術とすれ違うミルヴィ。睦月が瀕死のクラウジアを討ったのだ。
「あ……う……」
遠ざけていた死がクラウジアを呑み込んでいく。笑う。それは痛くも寒くもなく、穏やかなものだった。
地を踏み、駆ける。
「今度こそ、やられな!」
ペッカートが吼え、傷だらけの睦月を狙う。
「ぐっ!」
間に合わない。
「睦月さん!」
研究員がなれなれしく叫んだ。漏らす吐息、睦月は倒れこむ。睦月が身を捻るより先に魔性を帯びた強力な呪符がその身を蝕んだのだ。
「し、死なないでください!」
駆け寄る研究員。身代わりはラルフに吹き飛ばされていた。喘ぐペッカート。
「……死ぬ感覚なんて、ええ……死ぬほど嫌いなんです。何度も体感してきたから……」
震える睦月の手を無意識に握り締める研究員。
「勝手に……触らないでください」
睦月は顔を歪ませ、すぐに息絶えた。鮮明な痛みの記憶が身体を支配し、闇を誘う。
「ああ……」
見届け、ペッカートは顔を上げた。尖った殺気がその身に触れる。Starsだ。
『反撃だ! 殺してやるんだ』
獣のように唸る虚。
「落ち着いてくれ、分かっているさ」
稔は呟き、破滅的威力を叩き出す大技をペッカートに打ち込み、自らを回復させ、ミルヴィを見つめる。
「これはきついぜ……」
ペッカートは顔をしかめた。その身はパンドラでどうにか立っていた。
ラルフはカナタを見つめている。カナタは研究員を狙うことはしない。ラルフは喘ぎ、「それでは勝てないだろう」と不敵に笑い、カナタへと手を伸ばした。目を見開くカナタ。あろうことか、ラルフは構造組織を破壊し、カナタの魔力を素早く、吸収する。口角を上げ、攻撃態勢に入るラルフ。身構えるカナタ。身体がふらついている。
「今日は運がとてもよいようだ」
ラルフは超速で飛来する光線をカナタの研究員に何度も浴びせ、始末したのだ。カナタは咄嗟に手を伸ばし、倒れる研究員を抱き留め、ともに崩れ落ちる。終わったようだ。死の恐怖を感情封印で抹殺したお陰か、カナタは何も怖くはなかった。次に目を開ければ、温かな日常に戻っているだろう。その時は喫茶店でケーキを頼もうじゃないか。
「アタシの本気見せたげる!」
ペッカートを守るようにミルヴィが容赦のない剣の嵐にラルフを巻き込む。
「う……!」
弾ける、ラルフのパンドラ。歪む表情。ラルフはいったん、後退し、揉めるStarsを見た。
『おい、避けないとやられんだろ!』
「黙ってくれないか、俺の気が散るだろう?」
『どうにかしろよ!!』
「無理だ、色々と分が悪すぎるだろう」
研究員を庇い続けている、そろそろ限界だ。パンドラで繋いだ命が尽きかけている。
『──俺の幸せは誰にも奪わせない』
ハッとする。気が付けば、入れ替わっていた。
「虚」
『黙ってろ』
感情を剥き出しにする虚。だが、その威勢は続かなかった。虚は目を見開き、研究員を庇った。倒れ、虚は瞬く間に怯える。光線がその身を貫いていた。
『あっ、あっ……あああああッ──!?』
絶叫する虚。燃える身体。双眸にうねる炎が映り込んだ。稔は呆れ、溜め息を吐く。これは本当の死ではない。簡単に死ぬわけが。稔はそう言いかけ、言葉を止める。
「分かっ、た……一緒に、居る……だから……もう、泣くな」
お説教は後だ。稔は虚に寄り添い、闇に寝ころんだ。
「お前と一緒に地獄に行くぜ!」
ラルフに決死の覚悟で攻撃を仕掛けるペッカート。魔性を帯びた強力な呪符をどうにか放ち、ラルフを吹き飛ばす。
「なんだと──」
驚くラルフ。避けたはずの攻撃に沈み、気が付けば空を見上げていた。髪が乱れ、息が詰まった。
「ああ……」
やがて、苦しみは消え、意識すら消えていった。ミルヴィはラルフに目を細めた。そして、振り返った。音がする。そこには横たわる、ペッカートの姿。
「スゲェー、残念だったな……でもま、死ぬ前に予行練習が出来て良かったな!」
研究員を見つめ、ペッカートはにっと笑う。悪魔は痛みに耐え、静かに死んでいった。
●合流
気が付けば、白い扉があった。その扉が少しずつ、開いていく。
「よく頑張ったな。おめえはこの世界で二番目に最高のバディーだ」
嬉しそうにトムの肩を叩くジェイク。その言葉に笑みを浮かべるトム。
「HAHAHA、これでハッピーエンドだな! あー、楽しかったぜ!」
貴道が明るい声を出し、研究員は貴道の言葉にびっくりしている。見れば、まだまだ戦えそうだ。
「さあ! 笑って出ていこう!」
号泣する研究員に声をかけるミルヴィ。
モニターが反応を示した。操は立ち上がり、息を呑んだ。宝石が煌めいている。操は安堵する。元に戻ったのだ。操は駆け、イレギュラーズと研究員のもとに向かう。
「これが死の感覚か」
目覚め、呟くマナガルム。青ざめ、冷たい汗が身体を覆う。両手が震えている。
「俺は、なぜ生き延びたのだろうな……」
生々しい感覚。肉を断ち、骨を砕く感触。加減など出来る筈もない、そう、あれは戦争だったのだから。鈍い痛み。無意識にマナガルムは涙を零していた。
「おい、操」
「なんだ?」
頭を押さえ、よろよろと操に近づく利一。大きな成果はないが見てきたものを彼女に伝えるべきだと思った。
「ちょっと暴れないでください!!」
必死に叫ぶ研究員。視線の先にはクラウジアが暴れている。
「で? 今回のこの妙ちきりんな……なんじゃっけ、ですげーむ? みたいなことをやらかしたのは誰じゃ? とりあえず一発殴らせろじゃ!!」
研究員が必死に取り押さえる。
「アンタには悪いことをしたな」
研究員を見つめているのはハロルド。自害したことに正義感や善意は一切ない。ただ、筋を通し研究員に謝罪すべきだと思った。研究員はぼんやりしながら、「じゃあ、ジュースでも奢ってください」と笑い、ハロルドを驚かせた。
「ドラゴンの言動からバグはなんらかの意図を持っていると考えられるよ」
話し終えた操にそっと近づく史之。
「意図だと?」
「うん。それに何だか生きているようだったよ」
黙り込む操を見つめ──
「ねえ、そういえばさ、俺のバディ役どうなった……死んだ?」
「いや、意識は混濁しているが生きてはいる」
「ふぅん。混濁してるんだね。あのさ」
「なんだ?」
「俺は誰かの為に戦う人は惜しく感じるけれど、研究って好奇心だよね、我欲だよね? でなきゃ死ぬ感覚をリアルにしないよね」
史之の言葉に首を振る操。
「いや、それは誤解だ。あくまでネットワーク上の脅威に対抗するため、現時点で出来る限り、リアルなVRの開発を目指していたんだ。だから、感覚の詳細なフィードバックも必要だった」
「それによって苦しむ人達がいるとしても?」
「ああ、痛み等がリアルなのは本意ではなかったんだ……本当に申し訳なかった」
頭を下げる操。
「そっか。理由が分かって一応、良かった。それとさ──」
「ん?」
「塔とこの区画の接続を切ってすぐに廃棄した方がいいよ。きっと、もう棲みついてるだろうし。これ、再開発に使ってよ」
差し出す小切手。その瞬間、操はふっと笑い、「考えておこう」
そう、呟き、史之に背を向ける。史之は目を細め、小切手をしまい込んだ。
外は晴れ、柔らかな風が吹いている。イレギュラーズはそれぞれの居場所に帰っていく。地獄はもう、終わったのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
オカエリナサイ。ソシテ、MVPハ、ケンキュウイントノユウジョウヲミセタアナタニオクリマス。
GMコメント
ご閲覧いただきましてありがとうございます。何やら、練達で異常事態が起きているようです。皆様にはドラゴンを倒した後、VR内で殺しあってもらいます。
●目的
デスゲームに参加し、VRから脱出すること。まずはドラゴンを皆で倒した後、各グループ、最後の1組になるまで殺し合うこと。30人いますので、3組残る形です。
●デスゲームのルール
1.イレギュラーズと研究員は二人一組である
2.イレギュラーズまたは研究員のうち、どちらかが死んだ時点で脱落(強制的に死にます)
3.何でもあり
4.VRでも通常の戦闘と同じルールですが、現実世界で傷跡が残ることはありません
5.死の感覚はリアル
6.ドラゴンに集中してもらうために、ドラゴンを倒すまで研究員達は消えています
7.ドラゴンを倒し終えたあと、研究員達は皆様の隣に現れます
【グループについて】
左から縦に数えていきます。
1 6
2 7
3 8
4 9
5 10
6 1
7 2
8 3
9 4
10 5
1 6
2 7
3 8
4 9
5 10
このような形で3グループに強制的に分けます。他のグループの動きを把握することは出来ませんが、生き残った3組はラストに合流します。
『下記、補足です(追記)』
PC(スマートフォンなら横にした)表示
1 f
2 g
3 h
4 i
5 j
6 A
7 B
8 C
9 D
10 E
a F
b G
c H
d I
e J
スマートフォン(PCならブラウザ幅を縮めた)表示
1
f
2
g
3
h
4
i
5
j
6
A
7
B
8
C
9
D
10
E
a
F
b
G
c
H
d
I
e
J
●研究員
特に能力に差がありません。残念ながら何もしなければすぐに死ぬでしょう。
ただし、研究員の行動で皆様が不利になることはありません。研究員達は皆様の指示に従い、何も指示されなければ、立ったままです。
●モンスター
1グループに1体。巨大で凶暴なドラコン。爪や尾、牙、咬みつきで攻撃。口から氷と炎を吐く。これがVR内のバグ。知能があるのでカタカナですが、話せますが、戦闘中は無口です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●場所
VR内 障害物は何もない。足元は硬い土でお互いを目視出来る広さ。
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