PandoraPartyProject

シナリオ詳細

陽だまり色探し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●花の蜜を探しているの
 森の中は心地よい。
 木々のざわめく音、動物たちの息遣い。清廉なる空気に水の音。

 ──ぴちょん。

 雫の落ちる音に、池の水へ足をつけていた幻想種の少女が視線を向けた。一瞬だけ見えたのは小動物の後ろ姿。きっとひげについた雫が落ちた音だろう。
 視線を下へ向けると、小さく揺れる水面と同じように揺れる自分の顔。長命な幻想種は外見と実際の年齢が一致しないのもさして珍しいことではない。けれどそうでないことも珍しくなく──だから年齢の話題は『困る』のだ。
 これがもう少し大きくなった──一般的に『成人している』と思われるくらいの──風貌であれば年齢を問われることは少ないと思う。成人女性に「何歳なんですか」なんて問いは非常識も甚だしい。しかし子供だとそうはいかないもので。
(……もう少し大人に見えれば、面倒くさくないかしら……)
 水面に映る自分の顔をぼんやりと見下ろしていた彼女、ミーシャ・リディア・ハートフィールドは背後からの気配に後れを取ることとなる。
 咄嗟に結界を張ろうとするものの、それより早く、速く、飛び込んでくる。

「見っつけたーーーー!!!!!!」

 元気な声と共に背中へ走る衝撃。ミーシャは正面から池へ落ち、びしょ濡れになって張り付いた前髪を避ける。
 一体なんだっていうの──そんな疑問へ答えるように、目の前には小人が立ちはだかっていた。
「大きい人見っけ! ねえ手伝って、花の蜜を集めに行くの!」
「……面倒くさいわ」
 ミーシャがそう告げれば、羽を生やした小人はえぇと口を尖らせる。そもそもこの小人は一体なんなのか。
(……いえ、伝承にあったわね)
 『妖精伝承(フェアリーテイル)』。そう呼ばれる伝承は深緑の村のいくつかに伝えられている。この辺りでもそういった話はあったはずだ。その通りならばこの小人は妖精ということになる。
「ねえねえお願い! こっちじゃないと見つけられないの! ねえ!!」
「……はぁ。少し待って頂戴」
 ため息ひとつ、ミーシャは池からざばりと上がった。【水の巫女】たる彼女にとって水という存在は嫌なものではない。しかしそれはそれとして、濡れたままでいれば風邪を引くのだ。
 自らの住処へ向かいながらミーシャは口を開く。声をかけるのは当然、ちゃっかり頭の上に居座った妖精である。
「最近、魔物が活発化しているみたいよ。あまり飛び出していかない方がいいわ」
「そうなの? 怖いわ! あなたは優しいのね!」
 あまり怖くなさそうな妖精にミーシャは再びため息をつく。教えはしたのだからあとは本人の注意力次第だ。
(……魔物。私1人じゃ力不足ね)
 自宅へ戻り、着替えて髪を乾かしたミーシャは妖精と共に家を出る。どこに行くの? という言葉にミーシャは視線を前から外さぬまま「ローレットよ」と告げた。


●陽だまり色の花
「あら、あなたは私とおんなじサイズね! でもあちらでは見たことないわ!」
「当然でしょう、僕は幻想国出身ですよ」
 私の方が背が高い、いやいや僕の方がとどんぐりの背比べをしている妖精とブラウ(p3n000090)。ミーシャが小さくため息をついて「いいかしら」と問うとその黄色い体が跳ねた。
「は、すみません! こちらの妖精さんを手伝う、というのが依頼内容ですよね」
「ええ。花の蜜を集めたいそうよ」
 フーシュと名乗る妖精は、陽だまり色の花を探しているのだと言う。その花の蜜は妖精にとって薬になるが、妖精郷《アルヴィオン》では見つからないらしい。
「たしかに最近、深緑は魔物の出現報告が多いですからね。フーシュさんは何にもおそわれませんでしたか?」
「ええ、バッチリ!」
 満面の笑みで頷いたフーシュは、しかしブラウの「門を壊す魔物もいるらしいので、早く帰った方が良いですよ」という言葉に目をまん丸くした。
「それは大変! 早く帰らなきゃ! じゃあ早く探さなきゃ!」
 早く早くと急かすフーシュに何度目かのため息が零される。もちろん、ミーシャから。その姿からは『面倒くさい』という感情が滲み出るようだ。
 けれどもじゃあこれでと帰らないあたり、彼女はなんだかんだと面倒見の良い性格なのだろう。
「黄色いあなた、早く探しに行きたいの……あら、あなたふわふわね?」
「ぴよ?」
 翼へ触れられたブラウは首を傾げる。その間にもフーシュはブラウの体をぺたぺたもふもふ。かと思いきや別方向からも手が伸びてきてブラウは目を白黒させた。
「ぴ、ぴよ? ぴよ???」
「……本当。ふわふわなのね」
「でしょう! あ、そっちにも!」
 フーシュが他のふわふわを見つけて突撃。もふん、と埋まったのは焔宮 鳴(p2p000246)の大きな尻尾で。
「なのっ?」
「もふもふ~!」
「……私も触っていいかしら」
 すりすりと尻尾を堪能する妖精と、何やらウズウズしている幻想種に鳴は状況を掴めない。わかるのは自分の尻尾が狙われていることだけである。
 尻尾を右に揺らすと、視線が右へ。
 尻尾を左に揺らすと、視線が左へ。
(ちょっと面白いの……)
 ミーシャの反応を見て鳴が密かに瞳を輝かせていると、不意に視界へ黄色いひよこが。彼は何とも気まずげに鳴へ──正確にはその尻尾へ引っ付いている妖精へ声をかける。
「……早く帰らなくていいんです?」
「はっ、そうだった! 花の蜜を集めて帰らなきゃ!」
「……? もしかして依頼なの?」
 小首を傾げる鳴へ頷き、ブラウは「鳴さんも聞いていかれますか?」とソファを示したのだった。

GMコメント

●成功条件
 妖精を護衛し、妖精郷へ無事に帰す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●エネミー
・ポイズンスネーク×12
 人の子供ほどの全長がある毒蛇です。群れでの行動はしていますが、リーダーがいるような動きは見られないようです。
 命中回避に長けており、弱そうな者から進んで攻撃する傾向が見られます。反応はそこまで素早くありません。

 毒牙:至物単:毒を含んだ牙で噛みつきます。【毒】【猛毒】
 拘束:近物単:長い体で締め付け、同時に拘束してきます。【体勢不利】【麻痺】
 共食:同種族が死んだ時のみ、その体を食らうことでHPを回復します。【溜1】

●ロケーション
 深緑の森林。お目当てである『陽だまり色の花』は少し奥まった場所に群生しているようで、ミーシャに心当たりがあるようです。
 しかし、その花畑周辺では魔物(前述のエネミー)の出現情報が多く寄せられています。
 天気は晴天、木々以外に視界を遮るものはありません。

 陽だまり色の花は花弁が黄色く、中心にほんの少しの蜜が溜まっているそうです。
 混沌の住民にとっては『ただの甘い蜜』ですが妖精には薬になります。

●NPC
・ミーシャ・リディア・ハートフィールド
 焔宮 鳴さんの関係者。【水の巫女】と呼ばれる幻想種の女性。年齢の話題は禁句です。
 防衛に向いた力を持ち、今回は戦闘中に妖精が危害を与えられないよう守ってくれます。

・フーシュ
 妖精郷《アルヴィオン》から来た妖精。全長30cmほど。元気がよく飛び出しやすいです。
 今回は妖精郷で採取できない花の蜜を集めに来ました。彼女の持つカバンには瓶が入っており、そこに蜜を溜めるそうです。

●ご挨拶
 愁と申します。関係者さんをお借りしました。
 妖精を無事に帰すため、毒蛇をやっつけて花の蜜を集めましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 陽だまり色探し完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
讐焔宿す死神
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ

●柔らかな新芽
 深緑の森の前に到着した一同。散見される小さな変化が春の近さを感じさせる。
 ──が、しかし。『救世の炎』焔宮 鳴(p3p000246)はふるふるっと体を震わせた。不思議そうな視線を集めた鳴は「寒いわけじゃないの」と首を振る。
 そう、彼女の尻尾では。
「ふわふわ〜!」
「フーシュさんにたっぷりもふられてるの……嫌じゃないけど、くすぐったいの!」
 此度の依頼人、妖精のフーシュが鳴の尻尾を──しかも現在進行形で──これでもかと堪能しているのである。
「可愛らしい依頼者ですね」
「話は聞いてたけど会うのは初めてだよ、小さくてお人形さんみたい」
 リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は鳴の尻尾に引っ付く妖精へ興味津々。けれど『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はそうでもないようだ。
「あまり驚かれたりしないんですね?」
 『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が問うとドラマは「初めてではありませんから」と妖精を見る。
 ドラマが深緑にいた頃──いいや、幼少の頃から。本の妖精たちと触れ合って交流したという過去が彼女にはある。多少の差はあれど、妖精は深緑にとって馴染み深い存在だ。
「ミーシャさんにフーシュさん、ですね。この度はローレットの一員として、お手伝いさせて頂きます。
 幻想種のドラマと申します!」
 2人の元へ寄り、ぺこりと会釈したドラマ。その視線とミーシャのそれが交錯する。
 ──何歳なんだろう。
 互いに疑問を持ちながら、けれどそれを追求するようなことはしない。同族(ハーモニア)の年齢事情は大変分かりにくく、毎度聞くわけにもいかない。それにミーシャはどうやら、それを気にしているようだから。
「道中の魔物は私たちで対処しますから、たくさん花の蜜を集めてくださいね。
 ミーシャさんも、今回はよろしくお願いいたします」
「面倒くさいわ……でも、頼まれたもの」
 『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の言葉に視線を逸らしてしまったミーシャ。面倒くさいと口では言いつつ態度はそうでもないようだが──まあ、追求しないでおこう。
 いつまでも森の前で立ち止まっているわけにもいかないため、一同はミーシャの道案内を聞きながら森を進む。
「それにしても、戦う力が無い割に狙われる事が多いよな……難儀すぎやしないか?」
 すでに何件か妖精絡みの依頼を受けた後である『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は、小さく眉根を寄せて一同の中心にいるフーシュを見遣る。妖精は彼の視線に目をパチパチと瞬かせた。
「どうしてかしら? 不思議、不思議ね?」
 狙われる理由はよくわからないようで、妖精は仕切りに首をかしげる。クラリーチェは彼女を見て小さく目を細めた。
(ゲートを通ってこちらに現れる妖精さん、最近増えたような気がします)
 以前までは全然見なかったのに。そう同じことを考えていたドラマが口を開く。
「ここ最近は妖精郷《アルヴィオン》からのお客様が多いのですねぇ」
「そう? そうかも! いえ、そうかしら?」
 ドラマの言葉にフーシュは頷いたり、かと思えば首を傾げてみたり。つまるところ、フーシュ自身がそこまで他の妖精を気にしているわけではないのだろう。
「元々定期的に現れていたけれど、私たちが気づいていなかった……ということのかもしれませんね」
 クラリーチェは可能性の1つを口に出してみる。今は魔物の存在があるために深緑を通してローレットへ依頼が舞い込むのだ。そうでなければこれまでと変わらず、妖精たちはこっそりひっそり遊びに来ていたのかもしれない。
「ねえ、妖精郷ってどんなところなの?」
 焔が問うと、フーシュがそれはそれは嬉しそうに自分の居場所を語り始める。
 花が咲いていること。お城があったり、切り株の家があったりすること。話を聞けば聞くほど『いかにも』な場所のようだ。
 森の中はいくらクロバとリュティスが耳を澄ませても、ありきたりな自然の音ばかり。フーシュは歩くたびフリフリ動く鳴の尻尾に付きまとい、輪の中からはみ出そうとするたびに鳴が尻尾を内側へ振って連れ戻す。
「そんなに鳴の尻尾、気持ちいいのー? 」
「とっても! 黄色いあの子もふわふわだったけれど、あなたのふわふわもとってもふわふわ!」
 あとでまたもふらせてくれと頼むフーシュに鳴は快く諾と返し。そして後ろから刺さる視線へも目を向ける。ぎくり、とあからさまに逸らしたのはミーシャだ。
「触りたそうにしてる……ミーシャさんだっけなの。ミーシャさんも触って元気になってなのー!」
 鳴の言葉にミーシャは目を瞬かせ、ウロウロと視線を彷徨わせる。
 触りたい、けれど良いのか。こんな誘惑に負けて良いのか。
 そんな葛藤も決着は比較的早くついたようで、ミーシャは小さくあとで、と告げたのだった。

 しかしそんな軽いやりとりも、目的地が近づいてくると少なくなってくる。焔は近くの木にいたリスを使役し、花畑の偵察へ。鳴は鳥を空へ放って五感を共有する。クラリーチェがあたりの草花に『魔物がいたら教えてほしい』と願うと、草木を思いやるその心に彼らはさわさわと小さく葉を揺らして答えた。
「この辺りは大丈夫そうです」
「ええ。にょろにょろしたものはいないみたいですね」
 リュティスとドラマが木々に問いながら、視界の悪い場所を進んでいく。その先に──。
「ホントに陽だまり色だ……」
 わぁ、とウィズィが小さく声を上げた。その傍らで『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)は自分の出番だとフーシュへ向き直る。
 自分の匂いが付いたものを欲された妖精は「これでも良いのかしら?」とハンカチを出す。帰れば代わりはあるということなので、イナリは有難くそれを使うことにした。
 変化させた式神は妖精らしく、小さな姿と花を持って。どうにかこうにか人の高さまで飛び上がった式神は、しかしそれ以上は飛べなさそうだ。
 だがそれで十分。焔の炎を懐に仕込んで懐炉とすれば、偽の体温を持った囮の出来上がりである。

 さあ、ここからはお静かに。

 イナリに命じられるがまま花畑へ向かう式神。花のそばに立つと、蜜を取るように花へ手を伸ばす。その姿は群れから無防備に外れてしまった子ヤギのよう。
(野性味満載の蛇畜生なら絶好の獲物ってものだわ)
 にんまりと笑みを浮かべるイナリの予想通りに、それは──。
『──来ましたね』
 花畑からほど近い木々の影へ身を潜めた一同は、クラリーチェの言葉に頷いた。
 ざわざわ、ざわざわ。木々が不安げに揺れている。ドラマやリュティスのように自然の言葉がわからなくとも、何かの予感を感じさせるには十分で。
 不意に焔が肩を跳ねさせる。視線を向けると、ごく小さな声で「リスさんがやられちゃったみたい」と告げた。花畑へ向かう途中の蛇と遭遇してしまったらしい。

 ああ、ほら、その間にも。魔の手は式神へ近づいて。式神の背についた羽を、無残に咬みちぎった。

 容易く食い破られた式神はボロボロのハンカチとなって地面へ落ちる。その間に飛び出してきたイレギュラーズたちは蛇の頭がこちらを向くと同時、戦闘態勢を取った。
「毒蛇の群れなんておっかないですよね! ここは任せて下さい、すぐに倒してみせますから!」
 神の加護を得たウィズィが堂々とした姿で蛇たちを挑発し、同時にミーシャが自身と妖精を包み込むような水の膜を形成する。
 さあ──Step on it!!
 自らが想う者のため、守りの態勢を取るウィズィ。クロバが走り出し、ガンブレードへ全力も魔力を込めて蛇へと振るう。爆炎が辺りに流れ、花畑を彩る陽だまり色が宙へ舞った。流れるように鳴が追随して炎の大太刀を一閃させる。
「鳴が──私が。しっかり守って差し上げます!」
 それは無邪気な『ローレットの得意運命座標、焔宮鳴』から当代の『焔宮家当主』へと変わる瞬間。纏う衣が翻り、同じように風へ乗る花弁が彩を加える。そこを突き抜け、ミーシャたちのいる方向から焔は炎の斬撃を飛ばした。
(お花畑はあんまり荒らしたくないけど、そうも言ってられないかな)
 イレギュラーズと蛇たちが交戦するたびに舞い散る陽だまり色。焔はそれから視線を外し、敵をしかと見据える。オーダーは妖精を護衛する事。花畑を壊滅させるわけにはいかないが、ある程度は仕方ないと割り切らなくてはならない。
 度重なる攻撃に蛇は次第に追い詰められ、さらに畳みかけるようにドラマは写本をはらりと開く。書が謳うはかつて混沌に存在したと伝えられる暴威の一端。
「嵐の王の威光を存分に、味わっていただきましょう」
 吹き荒れる風の中、イナリが身体へ宿した異界の神が熱の光線を遠くへ飛ばす。神と謳われるに相応しい圧倒的な力は、当たればただでは済まないという畏怖を蛇たちに刻み込んだ。
 後方へと下がったクラリーチェは魔力を増幅し、黒の囀りを蛇たちへ聞かせる。掴まってはいけないもの。見つかってはいけないもの。それから逃れるようににょろにょろと這う蛇たちは、ウィズィの周りを取り囲み毒を含んだ牙を剥く。ウィズィへ近づくそれらを牽制するように──いや、牽制にしては威力が半端ないのだが──リュティスの魔砲が突き抜けていった。

 柔らかな体で時に花畑へもぐり、時にウィズィの足元を這って逃れんとする蛇たち。しかしイレギュラーズの攻撃はそこまで甘くない。少しずつ蛇の数が減っていき残った敵はかつての仲間を食らおうとそちらへ狙いを付けた。
 ──もう1度言おう。イレギュラーズの攻撃はそこまで甘くない。
「させるかっ!」
 クロバがすかさず的確な刺突と斬撃で蛇を追い詰めていき、クラリーチェが簡易封印を敵へと放つ。焔と鳴が放つ炎の斬撃は食べようとしていた死体を燃やし、リュティスの黒蝶がひらりと舞う。ウィズィは大きな大きな感情をオーラのナイフへ変えて。
「当たって──砕けろ!」
 心を力へ変えたそれが一直線に飛んでいく。回復せんがために集中攻撃を食らった蛇は焦げ付いた目当ての食事(死体)へ食らいつくが、体力も傷も回復するわけもなく。燃やされたそれは栄養にだってなりはしない。
「さぁ、Step on it!! 弱い敵から狙うなんて狡っ辛いこと、この私がさせませんよ!」
 まだまだと声を張り上げるウィズィ。時間が経てば経つほど身軽に、的確に動き出す彼女の原動力は未来だ。
(恋人と生きる未来を思えば、幾らでも力が湧いてくるさ!)
 だから負けるわけにも倒れる訳にも、もちろん死ぬわけにだっていかない!
 ウィズィが耐え抜く間にもドラマが彼女へ治療を施し、抜けてミーシャやフーシュの元へ向かおうとする蛇たちへ焔が進路を妨害する。ドラマも自らの毒耐性を生かすが如く前へ飛び出し、魔力を起爆剤として一撃を叩き込んだ。クラリーチェが誘う囀りは蛇を捕えようと纏わりつくように響き、イナリもまた近づいてきた敵の足元で爆発を起こし炎上させる。
 ひらり、ひらりと花へでも止まりそうな黒き蝶は蛇たちの元へ。飛び回る美しさは魅入られてはならぬ魔性の呪いだ。
 外三光からすぐさまガンブレードへ魔力を込めたクロバは蛇へ向かってにっと笑みを浮かべる。
「蛇らしく随分とすばしっこいみたいだが……悪いな、食らいついたら離さないのはお前らだけじゃないって事だ。
 ――殺す事に尖らせた死神の剣と炎、最期にその身にしかと刻ませてやる」
 大失敗と大成功は紙一重。彼の女神は後者に微笑んだ。
(私の力は炎ですし……草木や花、周囲に燃え移らない様気を付けないといけませんね?)
 混戦になっていく中、鳴は焔宮家に伝わる呪術で呪詛の炎を呼び出す。形取るは矢。勢いよく射出されるそれが蛇たちの動きを次第に狭めていく。執拗なまでの攻撃へ畳みかけるのは焔だ。
「これで──終わり!」
 烈火業炎撃を叩き込み、蛇を地へ沈めた焔。残る蛇たちへ再びイナリの軻遇突智砲が放たれる。さらにドラマが彼らを暗い運命で照らし出して。
 イレギュラーズたちより多くいたはずの蛇たちは、しかし今では半分にも満たない。ようやく全滅の危機を感じ取ったか──蛇たちはじりじりと距離を取り、勢いよく踵を返したのだった。


●陽だまり色の花
 戦いで花のいくらかは散ってしまったものの、それは花畑の一角に過ぎない。
「もう良い? もう良い?」
 ミーシャの結界を解かれ、ウズウズとしているフーシュ。リュティスがしゃがみこむとフーシュは「何をしているの?」と興味を持って近づいてくる。
「花と会話をしているのです。あちらに蜜をたっぷり蓄えた花があるそうですよ」
 その興味を引きつけたリュティスは、フーシュが飛び出していかないようにとさりげなく誘導した。
「こんなこともあろうかと! なの!」
 じゃじゃーん! と鳴が取り出したのは空の瓶。ウィズィもまた瓶を取り出す。
「私達も集めて持ち帰れるでしょうか?」
「ええ、きっと! こんなに沢山の花だもの! これらは誰かのものではないもの!」
 生態系を壊しさえしなければ、そして自然へ感謝の気持ちを忘れなければ良いのだと言うフーシュ。蜜を採取するために屈んだ鳴は、花へ優しく触れながらウィズィへ口を開く。
「誰かにあげるのっ?」
「折角なので、えへへ。ブラウさんにお土産持って帰れたらなーって」
 ウィズィが笑みを浮かべる。情報屋であるあのひよこは依頼に基本同行しない。けれど『こんなものを取りに行ったんだ』と見せて話せば、喜んでくれるだろうから。
「蜜って甘いんだよな?」
 興味深げなクロバの視線に妖精が首を傾げる。この人は甘いものが好きなんだろうか? というように。
「……いやぁ、菓子に入れたらどんな感じになるんだろうなって」
 ハチミツに近いものなのだろうか。それとも全く別のそれか。
「クロバさんも持ち帰ってみると良いの! 瓶も余ってるの!」
 はい、と鳴から小瓶を渡され、クロバは1輪の花に触れる。ほのかな甘い香りが漂った。
「安全に、定期的にこうやって集めることができればいいのですが……」
 自身も蜜集めの手伝いをしながら、クラリーチェは小さく呟く。
 イレギュラーズという力で守ることはできても、それはその場限りのことだ。またいつ妖精たちが、彼らの出入り口であるアーカンシェルが襲われ壊されるともわからない。
(……杞憂で終わりますように)
 漠然とした不安のようなものを抱え、クラリーチェはそっと胸の内で祈ったのだった。
 そして逃げた蛇たちが戻ってこないか、と周囲の安全確認を終えたイナリはと言えば。
(……こう日差しが良いとウトウトと眠くなるわね)
 天気は快晴、強い風が吹いているわけでもなくお昼寝日和である。イナリがごろんと花畑へ寝転がると、花の甘い香りがふわりと鼻孔を掠めて。
(ほんの少し……ほんの少しだけ……)
 敵はもういない。妖精にはイレギュラーズが何人も傍にいるから大丈夫。
 さあ、と優しい風がイナリの顔を撫でていった。

 そんな穏やかな時を経て。

 蜜が集まった一同はフーシュのやってきた妖精郷の門(アーカンシェル)へ向かう。幸いモンスターに遭遇することもなく、再び蛇に会うこともなく、イレギュラーズたちは池のほとりにかかる小さな虹の前までやってきた。
「……こんなところから出てきたの」
「ええ、大きい人! こちらへ来てすぐ貴女が見つかって良かった!」
 にっこり笑顔を浮かべるフーシュに、ミーシャは無愛想ながら満更でもなさそうな表情で。
「忘れ物は大丈夫なのー?」
 小首を傾げる鳴を見て、妖精は肩掛けカバンをポンと叩いてみせる。そこには自分とイレギュラーズたちが集めた蜜の小瓶がぎゅうぎゅうに入っているのだ。
「そうだわ、そうだわ。黄色いあの子にもよろしくね?」
 フーシュの言葉に任せて、とウィズィが小瓶を振る。ブラウへのお土産もバッチリだ。
 ドラマは別れの時間だと妖精へ一礼して。
「それではフーシュ様、今後ともローレットをご贔屓に」
「もちろんよ、大きい人たち──イレギュラーズ! ありがとう、ありがとう!」
 フーシュはイレギュラーズたちの周りを、そして最後にミーシャの周りを跳ねる。ぴょんと虹の方へ飛び込むとその姿は途端に見えなくなってしまった。
 まるで幻か。夢か。そう思ってしまうくらい一瞬のこと。
「んじゃ、帰りましょうか!」
 ウィズィが小瓶を小さく振りながら踵を返す。向かう先はローレット。

 ミーシャとの別れ際に鳴の尻尾がもふられまくり、イナリのもふもふも狙われたのは──まあ、また別の話である。

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371) [重傷]
私の航海誌

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 共食いしようとする蛇に対しての殺意が、ええ。凄かった。

 体を張った貴女に、今回のMVPをお贈りします。傷はしっかり癒してくださいね。

 それでは、またのご縁がございましたらよろしくお願い致します。

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