PandoraPartyProject

シナリオ詳細

願わくば、目覚めないで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夢売り
 キィ、と音を立てて開いたローレットの扉。顔を上げた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカは眠たげな表情を浮かべた少年におやと目を瞬かせる。彼は確か──。
「『夢売り』さん?」
「正解。お久しぶり、と言ったところかな」
 少年、いや夢売りはふにゃりと気の抜けた笑みをユリーカへ浮かべる。しかしそこは混じった苦いものに、ユリーカはまた目を瞬かせた。
「何かお困りですか? ボクたちで良ければ力になるのです!」
「ああ、うん……そうだね。僕がここに来てしまったのも、そういうことなんだろう」
 少し考えた夢売りは何かを自己解決したようで、頷くとユリーカへ座るように促した。
 彼は夢を商売道具とする者。時に夢を売り、時に夢を買う。彼が見たことのある夢は全て覚えているというが、その真偽は掴めない。
 少なくとも分かっていることはただ1つ──彼にその気があり、相手に対抗する気がないのなら夢を見せることも、それを抜き取ることすら思いのままだということだ。
「もちろん無理に夢を盗ろうなんて思っていないよ。それ相応の罰が下るからね」
 そう告げた夢売りは「でも」と声をひそめる。

 ──自分にその気があって、相手に対抗する気もない。だというのに『抜き取れない夢』があるのだ、と。

「……それをどうにかしてほしい、ということでしょうか?」
「そう、その通り。これは決して僕の力不足じゃない。夢を見る者に魔物が取り付いているのさ」
 夢売りがばさりとテーブルに投げ出した数枚の羊皮紙。そこには1人の少女に関する報告書と、とある魔物に関するデータが記されている。
 少なくとも前者は明らかにローレットへ依頼する際の資料ではない。彼の受けた依頼書、とでも言うのだろう。
 良いのですか? とユリーカが視線を向けると、彼は必要なデータだと言い放った。
「これを依頼するのなら、僕の請け負った依頼の話からしなくてはいけないからね」
 くれぐれも他言無用で頼むよ──彼はそう置いて、再び口を開いた。


●依頼内容
 夢売りの任された依頼はこのようなものだった。
『娘が眠ったまま目覚めなくなってしまった。
 医者に見せても異常はなく、何をしても目覚めない。誰も彼もがただ眠っているだけだと言う。
 とある占い師によれば、見ている夢が大変良いものなのだと。自分には見るまでしか叶わないが、世界には夢を売り買いする者がいる。その者に娘の夢を買ってもらってはどうか』
 貴族である両親は多額の金を用意して夢売りを見つけ、娘を助けてくれた頼み込んだらしい。夢売りにとっても特段断る理由がなく、娘の枕元に立って夢を抜き取りにかかった。
「途中まではいつも通りだったよ。けれど娘を捉える異物(イレギュラー)は、僕の存在にもいち早く気づいたらしい」
 突然目の前に垂れてきた赤い糸。夢売りは危険を感じ、早々に娘の夢から抜け出してきたというわけだ。
「それで、調べた結果がこっち。夢魔の一種でね、人間に良い夢を見せて、囚われている間に生気を吸うのさ。
 夢さえなくなってしまえば、夢魔は逃げ出すしかない。だから──」
 イレギュラーズには囮として、夢魔の餌食になってほしい。夢売りがイレギュラーズたちへ依頼する内容はそれだった。
「夢魔がイレギュラーズの方たちへ移ってしまう、ということになりませんか?」
「いや。あの感じだと夢魔は相当生気を吸ってる。夢との接続を断たれたら深追いはしないはずさ」
 なるほど、とユリーカは頷いた。イレギュラーズに大きな危害は加えられない。非常に良い夢を見て、ほんの少し生気を削られる程度。
 夢魔の元までは夢売りが導いてくれるのだろう。
「……そういえば、夢を見ている女の子はどんな夢を見ていたのですか?」
 その問いは、あくまで興味が向いただけ。依頼には何も関係ない。けれど夢売りは「そうだね、」と小さく視線を伏せた。

 ──彼女は、母を亡くしているそうでね。
 ──ベッドに母娘で寝転がりながら、楽しそうにお喋りをしていたよ。

GMコメント

●すること
 良い夢を見る


●詳細
 目覚めたくないほどに良い夢を見てください。内容は問いません。
 死別した誰かでも、喧嘩した誰かでも、忘れられない故郷でも。

 場所は貴族邸、夢を見続ける少女と同じ部屋で雑魚寝します。夢へは夢売りが誘ってくれるでしょう。
 あなた達が良い夢に囚われている間、夢売りがこっそりと娘さんの夢を抜き取っていきます。それが終われば強制的に現実へ引き戻されます。

 夢を覚えているも、忘れているも、あなた次第。


●夢売り
 夢を商売道具にする少年。夢売りとか夢買いとか呼ばれ方は様々ですが、本人は特に気にしていない様子。催眠術のようなもので人を眠らせることができます。
 ちなみに、見たことのある夢は全て覚えているそうです(本人談)。
 以下シナリオにて既出。
『Short dream』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1702


●ご挨拶
 愁です。自分から縁を切った友人とお茶する夢を見ました。
 深く深く、溺れていたくなるほどの夢をお待ちしています。最も──あくまでそれはただの夢。最後には現実も待っていますよ。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 願わくば、目覚めないで完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年03月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
棗 士郎(p3p003637)
 
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ゲンセイ(p3p007948)
七星御剣
ヴィアベルト・ナズナ・ローネミネ(p3p007995)
普通の学生

リプレイ

●家族と過ごす、孤独でない時間が欲しかった。
(良い夢、か……)
 悪い夢しか見ることのない『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)には、どのような夢を見るのか想像もつかない。さあ、どんな夢を見るのだろう──。

「兄さま」
「お、体調は大丈夫か?」
 問うと少女はふわりと笑う。身体の弱い彼女は自分と血が繋がっているわけではないが、とても大切で目に入れたって痛くないくらい可愛い妹だ。
 そしてその後ろからやってくるのはニマニマとした笑みを浮かべ、厭味ったらしく話しかけてくる保護者。だいたいその内容は武勇伝や自慢で、それだけ喋れるのならもう少し人間関係も良いようにしてほしい。被保護者をそういうトラブルに巻き込んでくるのもやめて欲しい。
(あのクソナンパ男、何度関係のない俺が謝ればいいと思ってんだ!!?)
 額に青筋が立ちそうなクロバであるが、その手元に狂いはない。料理担当が取り柄の彼は明日の準備を恙無く進める。
「兄さま、明日のご飯はなんですか?」
「ん? そうだなぁ」
 手元で準備を終えたのはマリネだ。メインをどうしようか悩みどころである。
「俺の得意料理にしようかな」
「得意料理……あ、」
 何か思いついた表情の妹。けれど答えは明日までお楽しみ。
(あぁ、これを俺は求めていたのか)
 満たされる気持ちに、思わず目を閉じて──開ければそこは現実。小さく笑いが漏れて、夢売りが彼の目覚めに気づく。
 失くしたものばかりを追い求めても仕方ないとわかっていたはずなのに。それに、予想通りに碌でもない夢だった。
「あいつがいない夢なんか見たって今の俺は満足できないからなぁ……」
 惚気だと言われるだろう。けれど夢でこれだけ疲れたら、顔を合わせた時に少しくらい甘えたくもなりそうだ。いや、しないだろうが。
 小さく息を吐き出したクロバは、少女の様子を確かめるため立ち上がった。


●いってきます。
 見覚えのあるタンポポ畑。すっかり大人になった血の繋がらない息子とやってきた『守護の獣』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は、変わらない光景に目を細めた。
 ウェールがパンを作れるようになったことに驚いた息子の梨尾は、もう家事を任せっきりにしないという言葉に「頑張れば?」なんてそっけなくて。けれど少し視線を落とせば黒い尻尾は喜びに溢れている見事なツンデレである。
 幼い頃は可愛らしい犬獣人であった梨尾は、成長して格好良さも兼ね備えるようになっていた。そんな彼と家の前まで来て、ウェールはふと立ち止まる。視線が留まったのは『夜船』の表札だ。
 今、この先には行けない。今の彼は『夜船 春』ではないから。そして、現実で梨尾の元へ帰ると決めているから。
「なあ、梨尾」
「何、春さん」
 送り出してくれないかと問うと、梨尾は変な顔をした。パパと呼んで欲しい気持ちはあるが、今はまだ胸を張って『父親だ』とは言えない。だからこれまで通り、普通に。
「……いってらっしゃい、春さん」
 梨尾の言葉にウェールは頷き──視界が暗転する。
 過去をどれだけ振り返っても、夢が現実になることはない。この夢が現実になったかどうかも、定かではない。
(後悔は尽きないが……今は前に進んで、明日に多くの誰かや仲間が笑えるよう頑張り続けるんだ)
 夢よりも現実を。ウェールは夢の中で目を閉じ、現実へ意識を戻されたのだった。


●君は今、どこに。
 鉄帝にほど近い幻想の辺境。マルク・シリング(p3p001309)の故郷はそこに『あった』。
 小さな村に冬の寒さは厳しく、けれどだからこそというべきか、春の訪れに対する喜びはひとしおだ。
 雪解け水が小川を流れ、慎ましやかな野の花が咲く。村人たちはささやかな自然の恵みにより、穏やかな季節を迎えることができるのだ。
 村人たちは喜びに笑顔を浮かべ、そうしてくれる季節がマルクも大好きだった。
 小さな村だから子供の世界もそう広くはないもので、年頃の近い幼馴染とはいつも一緒。春には花冠を作って交換することが毎年の常で、子供たちにとっては大切な儀式だった。
 顔を見合わせて浮かべた彼女の笑顔は、どんな花よりも印象に残るほどに素敵で──きっと、無意識の初恋だった。

 嗚呼、と小さく溜息をついたのは現実。天井を見上げたマルクはそっと目を閉じる。
 あの村は、故郷はもうなくなってしまった。国境近くの村なんて、戦争が起こるたびにすり減っていく。そして何より寒さが厳しくて──とてもとても、お腹が空いていた。
 あの時、ほんの少しの運が味方をしなければ自分も彼女も凍死か餓死していたことだろう。最も彼女が今どこにいて、何をしているかマルクには知る由もないのだが。
「良い夢、か……」
 マルクの脳裏に浮かぶのは、夢の最後に焼きついた彼女の笑顔だけだった。


●2人で穏やかな時間を、
(これは……ワシが元いた世界の夢か)
 『ウロボロスの魔術師』棗 士郎(p3p003637)の視界に入ったのは咲き乱れる桜。この公園を見間違えるはずもなく、そして彼の体も20代の姿を取っていた。
(目覚めたくないほどに良い夢、か。さて、ワシにどんな夢を見せると──)
 視線をあげ、目を見開いた士郎。目の前を歩いていた女性は、振り返って不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの? 急に立ち止まったりして」
 彼女の瞳に、自分はどう映っているのか。気になるけれどこの瞬間ばかりは取り繕えるものでもなく。
 ──『良い夢』なんて、1つくらいしか思い浮かんでいなかった。
 士郎の人生が最も輝いていた、愛する妻と歩く桜の園。忘れられるものでもなく、忘れようもない記憶。
 これは彼女の、妻の死病が発覚する前のこと。ただただ幸せだった時間だ。
「……何でもないさ。共に行こう」
 妻の隣へ歩み寄ると彼女──綾は士郎の腕を取った。その微笑みに胸が暖かくなると同時、つきりと痛む。
(なんて良き夢だろうか)
 良い夢は残酷だ。それでも、夢から覚めてしまうまでは、このまま。

 ふと目を覚ました士郎は起き上がり、少女の眠るベッドへ近寄る。夢売りがしぃ、と人差し指を口元へ当てた。
「まだ、もう少し」
「夢魔は」
 その言葉に夢売りは首を振る。もう逃げてしまったと。今眠るイレギュラーズたちも、自ら夢の余韻に揺蕩っているだけだと告げられた。
「そうか……」
 少女を現実に立ち直らせるのは父親の役目。ならば自分は夢魔を追うつもりであったが、逃げられてしまったとなれば仕方がない。
(夢魔よ、次はないと思え)

 大切な記憶を勝手に利用し、自らの糧とする外道の所業。このまま捨て置くと思うなよ──。


●母はどのような人だったのだろう。
 『砂漠の冒険者』ロゼット=テイ(p3p004150)は頭を撫でられ、織物をやめて顔を上げた。
 『母』が微笑んでいる。上手ね、と娘の織ったそれを見ながら。同じ年頃の少女たちも母親から織物を習ってはいるが、母の教え方が1番上手くて綺麗だ──なんてひっそり思って。
 彼女たちは広大な砂漠の、とても小さいオアシスの1つ。そこを集落にする部落の者だ。テントは粗末なものだけれど、母は何でも教えてくれた。
 料理や織物、生活用品の作り方。父がいない中で育ててくれる母は立派だと子供ながらに思う。
 そして13歳になると母がロゼットへと繕ってくれた花嫁衣装をもらって。部族の中の誰かと結ばれるのだ。
「大丈夫、貴女は私の自慢の娘よ」
 この先を不安がることはないと、いつかのように頭を撫でてくれた母の眦には光るものがあって。けれど母はそれを溢すことなくロゼットを送り出した。

 ──そんな、夢。

(この者は、母など知らない)
 自身が生まれてくる代わりに死んでしまった母。残された娘は山賊の子であるが故に認められなかった──いいや、彼女が自身を許せなかったのだ。
 けれど現実へ戻ってくれば、夢の中の人生では得られなかっただろうものを持つロゼットがいる。戦いで得たものも、得られなかったからこそ鍛えられたものもある。ロゼットの手の中には決して少なくない『形にならない財産』があった。
(……それでも)
 瞼を閉ざせば、今しがたの夢を思い出さずにはいられない。
 今より粗末で苦しくて、それでも暖かな生活。孤独ではなく親娘の情を感じた生活がひどく愛しく思えて仕方がなかった。


●これが幸せだなんて、あるわけがない!
 ──本当は目覚めさせない方が良いのかも。
 そう思っても『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の意識は少女を助けるため、夢へと誘われていく。

 けれど彼女は知っている。自分に幸せな夢などありはしないのだ。

 空気の変化を感じ、ミルヴィはそっと目を開けた。そこにいたのはずっと探していたはずの母。
「おかあ、さん……!」
 小さい頃から変わらない微笑みが向けられている。何も、寸分とも変わらずに。
 起き上がると父親が呑気に朝食を取っていた。そのとぼけた姿はいっそ憎たらしいほどに幸せで、彼が世間から隠していた憎しみや怒りなんて欠片ほども感じない。
 たまらずに外へ飛び出したミルヴィはよく知った姿を見て瞠目した。
「アル兄さん……!」
「顔色悪いぞ、パン食うか?」
 微笑みかけてくるその人は、ミルヴィを救ったヒト。そして2度もミルヴィが殺したヒト。
 1度目は、妖剣に囚われたミルヴィを救うため。
 2度目は、魔種となった彼を自らの手で。
 これが理想か。望んだ幸せか。
「やめて……もうやめて!」
 ミルヴィは叫ぶ。もうこんな夢はいらない。あるはずのない未来なんて必要ない。早く、早く目覚めさせろと。
「ミルヴィ、」
「どうして……ううん。もう、いい」
 案じた表情を浮かべる彼も、両親も。全ては弱い自分の妄想に過ぎない。未来も過去も必要はなく、自分にあるのは鍛え上げた剣と力──現実だ。
「──斬る」
 私しかいないのなら、いくらでも殺してみせよう。こんな夢、弱い妄想ごと斬り捨ててやる!!


●こんな日が続けばいいのに。
「……起きろ寝坊助!」
 その言葉とともにごろんと落とされる。頭を摩りながら『七星剣の使い手』ゲンセイ(p3p007948)が目を開けると、今しがた落ちた寝台と人の足が見えた。
 ああ、これはゲンセイと名を授けられる前だ。
「朝ご飯! 皆も起こしてきて!」
「……あいあい」
「返事は1回!」
 燃えるような赤髪に金の瞳を持った幼馴染、ヨルハから手刀をくらいながら立ち上がる。
 朝食の用意された席に全員が着くと、白絹の旗袍を纏った女性が現れる。ゲンセイを始めとした6名の門下生を持つ師匠である。
「おはよう、私の子供達」
 愛おしそうに微笑む様は柔和で、母のようでありながら──修練は外見に反して苛烈な師匠。その日も十分に扱かれたゲンセイは時を見計らい、崖の上へこっそりと向かった。
 今回が初めてというわけでもなく。サボっているわけではないから咎められもしないだろう。
「意外と上手いのね、それ」
 気づけばヨルハが傍らに。座った彼女へ二胡の音を聞かせながら口を開く。
「剣は才能が無いみたいだからな」
「私に勝てた事ないもんね」
「るせーよ!」
 笑いながら彼女が肩へ持たれてくる。視線をあげると薄霧の向こうに桃華島の神樹《万古桃樹》が見えた。
 空と同様、茜色に染まりながら散る花弁を2人で見つめ──。

 柔らかな音が去っていく。疼痛に手袋を外すと、爪を失った指先から黒い血が滴っていた。
 それを霧散させたのは、重ねられた小さな手。
『忘れるな。私が要る意味を』
「……ああ」
 わかっているともと、暫し目を閉じて。
 少女はまだ眠っているようだが、夢売りによればもうすぐ目が醒めるらしい。
「夢売りさん、だっけ。とても……良い夢だったよ、ありがとう」
「見せたのは僕でもないけれど……ま、それなら良かったのかな」
 夢の前まで案内しただけさ、と夢売りは小さく肩を竦めて笑った。


●どうしてこの夢は終わってしまうの?
……初めての依頼、ですね
(いきなり戦うとか、そういうのじゃないから、つい受けてしまいましたが)
 『普通の学生』ヴィアベルト・ナズナ・ローネミネ(p3p007995)は色々な意味で緊張していた。初めての依頼ということもあるし、『赤の他人と並んで寝る』という状況にも。しかし、依頼は依頼だ。

 ──目覚ましの音。どこに置いたっけ?
 目を開けずに手探りでアラームを止め、もそもそと起き上がる。着替えてリビングに行くと家族がすでに揃っていて。
「ギリギリでも朝ごはん食べるのよ!」
 口うるさい母の隣で兄が嫌味ったらしい言葉を投げ、その中で父は黙って新聞を広げている。
(……召喚、されなかったら)
 こうしてただの日常が続いていて、けれど彼らの言動を深く考えることもなかっただろう。

 母の言葉は心配している慈しみがあって。
 兄は忘れがちな事を教えてくれていて。
 父の視線は見守る優しさが込められていた。

「ちょっと、どうしたの?」
 蹲って泣き始めてしまったヴィアベルトは、けれどかけられた声に返すことができなかった。
 なんて幸せな夢なのか。これから暫く、もしくは一生再開できないかもしれないのに。ああ、会わないうちに顔を忘れてしまったらどうしよう──。

 眦を伝った冷たさにヴィアベルトは目を覚ました。
(……現実)
 これが夢だったら良いのに。そう思うほど夢に溺れていたかった自分がいる。皆はすでに起きていて、少女の方を見ているようだけれど──ヴィアベルトは例え顔を合わせても、何も言えなかっただろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様です、イレジュラーズ。
 苦しくても、悲しくても、ままならないと思っても──こちらが『現実』です。おかえりなさい。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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