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シナリオ詳細

<Despair Blue>其の柘榴を食べるな(act.2)

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 こんにちは! ワタシ、キキモラ!
 大好きなのは、人を大好きになる事!
 昔はここにもいっぱいヒトがいたんだよ? でもネ、クサくなって死んじゃったの。
 かわいそうだよねえ。
 ワタシ、だーれも覚えてないんだけどね! ヒャハッ!
 気付いたら絶望の青とか呼ばれてて、誰も来なくなっちゃって、寂しいから、
 誰か遊んでほしいんだア!
 ていうか、誰のせいなわけ?
 誰が病を広げた訳?
 ホントは知ってる。判ってる。嫉妬の冠位、あのクソカマ野郎、いつか絶対殺す殺す殺す……

 ヒャハッ!
 アレ? 何を話してたんだっけ?
 まあいいや! という訳でキキモラ、頑張って戦うよ!
 といっても……黙っててもみんな全滅しそうだけど……
 ビョーキって怖いネ!
 アッハハハハッ!



「うわああああああ!!!」
 イレギュラーズは船員の悲鳴で叩き起こされた。
「なんだ、どうした!?」
 向かってみるとそこには、頭を振り回しながら喚く船員の姿がある。
「頭の中で誰かが喋って、俺を呼んで、う、うわ、うわああ!! 俺は嫌だ! 行きたくない! こええよお、助けてくれよお!」
「やめろおお! 俺の中で笑い続けるのをやめろお! うわあああ!」
「落ち着け! くそっ、一旦このバカ共を簀巻きにするぞ!」
「いやだああ! 俺は行かない! 俺は行かない! 帰りたい! 帰りたい! 助けてくれえ!!」
 ――かくして、喚く船員たちは毛布で巻かれて船室に放り込まれた訳だが……
 誰かが呼んでいる、とは、果たして誰なのだろう。
 どこか重苦しい気配がする。意識して息を吸わないと、呼吸を忘れてしまいそうだ。
 ……島の奥で、誰かが笑っているような気がした。

「……異常をきたした船員は、全員柘榴を食ったバカどもだった」
 船室にて。
 重々しく述べる船長は、苦い顔をしていた。
「船の修理にはあと一日はかかる。……このまま耐え忍んで島を後にするか……」
「後顧の憂いを立ち、再び出港するか、だな。だが、船員の中には操舵員も含まれている。爆弾を抱かせたまま出港する事は出来ない」
 船大工の提案に、船長が頭を振る。もし、彼が操舵しているときにまたあの“呼び声”が聞こえたら? 或いは、島に潜む何者かが追いかけてきたら?
「……イレギュラーズ、無理を承知で頼む。島を探索したお前たちなら、どこで何が起きているか判るだろう? あいつらが抱えている爆弾を……何とかしてやってくれねえか」
 頼む。
 船長は、船員全員の命を預かるものとして、頭を下げる事を躊躇わなかった。
 無茶は承知の上。傷付くのが彼らなのも判っている。けれども、けれども。適切な判断を下し、十全なバックアップをするのもまた、船団を率いる者としての使命なのだ。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 柘榴を食べるなって、言ったよね。

●!!!!注意!!!!
 このシナリオは2部構成です。
 act.1の参加者には自動的に、優先参加が付与されます。
 あらかじめご承知置きの程を御願い致します。

●目標
 魔種“キキモラ”を倒せ

●立地
 正体不明の影が島周囲を巡礼しています。
 その中心部に淀んだ湖があり、キキモラは其処でイレギュラーズを待っているようです。
 影は常に相手の死を願う呪詛を振りまいており(原罪の呼び声ではありません)、
 ストレスを感じずに通り抜けるには工夫が必要になるでしょう。

 湖は浅いですが、流れを止められているのか酷く淀んでいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●エネミー
 キキモラx1

 フクロウのような翼を持った元飛行種です。
 髪は伸びっぱなしで、服もぼろぼろ。まるで浮浪者のような見た目をしています。
 主な攻撃手段は下記の通りです。

・ひっかき攻撃(近)
・翼を矢に変えて放つ(中)
・衝撃波(扇)

 また、貴方たちがどんな幻影を見たかをすべて把握しており、
 関連して呼びかける事で原罪の呼び声を振りまきます。


 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <Despair Blue>其の柘榴を食べるな(act.2)完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月01日 01時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

リプレイ

●なにするものぞ
「う、……ッ、あ……」
「大丈夫? お水飲む?」
「大丈夫、っ、です……」
 『忘却機械』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は頭を抱えていた。さっきから頭の中で笑い声が鳴りやまない。これはきっと魔種が笑っているのだろう。“呼ばれない”だけマシとでもいおうか。
 ――けれど。其れの何かヴィクトールたちを邪魔するのだ? 行かなければならないのだ、病を駆逐し魔種を刈り取り行かねばならないのだ。先へ進め。其れこそが、全てを救う道標となるのだから。
「迷惑を、かけるかもッ、ですが」
 この笑い声の先に行けば、件の魔種に会えるはずだと。己が見た幻影――とも呼べない、不安定なもの――について話しながら、ヴィクトールは言った。
「……うん。ヴィクトールは一人じゃない。ボクたちがついてる。他の船員さんたちのためにも行こう!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)が力強く言う。だな、と『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)も頷き。
「影は最悪飛んでよければ良い。飛べる奴だけに限られるが……薄い処を通れば、精神的にもそんなに負担にはならねぇだろ」
「丁度同じことを考えてた。薄いところは僕が見極めよう。飛べる人は飛べる人で先に進んでほしい。いざとなったらギフトで影を遠ざけるよ」
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)がいう。剣は光るだけで聖なるを宿す訳ではないが、影が避けてくれれば儲けものだ。
「……ああ」
 言葉少なに、『死を許さぬ』銀城 黒羽(p3p000505)も頷く。呼び声を聞いた彼は現時点でキキモラという魔種を最もよく知っている。

 ――ワタシと一緒に来ない? きっととっても楽しいわ!

 あの声は楽しそうで、けれどどこか寂しく聞こえた。誰も見ちゃいない影に囲まれて一人、魔種が何を思うのか、黒羽は知らないが――
「まぁ、影に恨まれたところで何が、という話だけどね。言葉では獣は傷付かない。私たちだってそうだろう」
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は肩を竦める。己の前に現れた幻影の仔細は話していないし、然程気にする程のものでもない。敢えて何か言うとすれば――“あの味を思い出した”くらいか。
「そうだな。魔種討滅こそ私たちの存在意義。どの道討たねば先には進めない」
 『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)も同意する。彼女にとっての幻影は、彼女が宝箱にしまった大切な宝石を暴かれるような“無作法”だったが――怒りこそあれ、心は折れてはいない。
「ていうかさ、あいつ絶対性格悪いぜ。また嫌な手を用意して待ち受けてそうだ」
 うえー、と『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)は嫌な顔をする。死兆を得てなお彼の心は戦う準備が出来ている。こんなものは必ず跳ね除けられる。そう、信じている。
「疲れた時には甘いもの。ヴィクトール君、お菓子食べる?」
 少しは元気になるかも、と薫風糖を取り出して『雷雀』ティスル ティル(p3p006151)が言う。その申し出は正直ヴィクトールにはありがたかった。一つ貰って、口に含む。――甘い。其の甘さが、頭にわんわん響く笑い声を少しだけ遠ざけてくれる。
「ま、あの影がなんであれ……私は今を生きているし、此れからを征くのよ。過去だとか死んだかも判らないような人だとか、そういうのに囚われている暇はないわ」
 木枯らしがぴゅう。 ゼファー(p3p007625)は一言で切り捨てる。そう、幻影として出て来たから死んでいるとは限らない。ただ、死者の幻影を見たものが多かったというだけ。
 行きましょう。そう言ったのは誰だったか。
 夜明けはとうに過ぎている。イレギュラーズは影が巡礼する島の中心部を目指す事となった。

●キキモラ
 正直、影を抜けてしまうのは簡単だった。
 ぶつぶつと呟いている内容は不穏でしかなかったが、飛べるものは飛び越えて、飛び越えられなければ励ましあって進む。影の列はそんなに分厚くなく、幻想の人込みを抜けるのと同じような感覚で済んだ。
 森の中、誰もが確認した島の中央を目指して進む。段々と嫌な臭い、そして歌が聞こえてくる。

 ――まぬけなききもら おっこちて……つちすなだらけで おきれない

「……間抜け、だってよ」
「まさしく」
 シラスが肩を竦めるように笑う。確かに、身を隠すところは沢山あるのに、わざわざ島の中心でイレギュラーズを待っているのは間抜けともいえるかもしれない。
 其れとも、攻撃しに行く事すら考えなかったか。何にせよ、魔種の考える事なんて理解しようという方が無理だ。だって、狂っているんだもの。

 ――まぬけなききもら わらわれて……そんなことすぐに

「わすれちゃう」

 影を抜け、茂みを抜ければそこは広い湖だった。中央には大きな岩が立ち、そこに一人、ぼろきれのような魔種がいる。
 灰色の髪、ぼろぼろの布。其処から覗く目だけはぎらぎらと輝いて。
「あ! きた! いらっしゃい! いらっしゃい! 何もないけど、ゆっくりしていってね!」
「悪いけど、その暇はないんだ」
 リゲルが抜身の剣を持ったまま言う。そう、自分たちは此処で止まっている暇はない。
 えー、と残念そうに指――長い爪だ――を口元に当てるキキモラ。其の純粋さは子どものようで、けれど、纏う雰囲気は明らかに異常。
「そんな事言わないでさ、ずっとワタシと遊ぼうよ。此処は楽しいよ? 寂しくないし、会いたい人に会えるんだよ?」
「だったら一人でそうしてろよ。俺たちはお前を倒して、此処を出るんだ」
 睨みながらシラスが言う。こわあい、と翼で己の顔を隠したキキモラだったが、へへ、と再び腕を広げると、高く舞い上がる。
「じゃあじゃあ、ワタシと遊ぼうよ! ワタシが勝ったら、アナタたちは此処に残るの! アナタたちが勝ったら、何処に行ってもいいよ!」
「お断りする……といえる雰囲気ではないね」
「寧ろ好都合。さっさと倒して、ヴィクトールと船員たちの頭からノイズを取り除いてやらなきゃね」
「むぐ! もぐもぐむぐ! ごっくん。 そうだね、船員さんたちのためにも頑張ろう!」
 マルベートとゼファーが、そして誰もが構える。セララは何処からともなく取り出したドーナツを出来得る限りの速さでもぐもぐ食べると、其の美味しさでちょっと凛々しい顔つきになった。
「あ! いいなぁ、おいしそう……ねえねえ、其れはおじいちゃんと分けて食べたりしたの?」
 サンディが風を呼ぶ。彼には真上から叩きつけるように、他の仲間には追い風として吹き付ける気まぐれな風だ。ティスルとサンディは視線を交わし、合わせよう、と頷き合う。マルベートが其の眼差しでキキモラを誘う。くるくると回ったキキモラは、翅の雨を降らせて応えた。
「湖……か」
 汰磨羈は羽の雨を避けるように駆けながら、其の淀んだ水面を見る。
「気をつけろ! 柘榴と同じ効果があるかもしれんぞ!」
 この湖を水源として柘榴が育ったのならば、其の呪詛を呑み込んでいてもおかしくない。ならば、誰の呪詛だろう。キキモラだろうか。影だろうか。
「わあ、あなたたちも飛べるの? うーん、嬉しいような、妬ましいような不思議な気持ち!」
「雀と梟……鳥同志なら梟の圧勝でしょうけど、飛行種ならどうでしょうね!」
 ティスルが駆ける。其の速力を破壊力に変えて、一気に仕掛けた。
 更に後ろから援護するように、セララの斬撃が飛ぶ。相手に怒りを仕掛け、湖から岸辺へ引き寄せる作戦だ。
 二種類の斬撃を体に受けながら、キキモラは笑ってティスルに言う。
「あははは、あなたはお友達を見たんだよね? どう? 元気そうだった?」
「“そりゃあもう”!」
「そっかあ! ワタシにはお友達なんていなかったから、妬ましいな!」
 退くティスルを追いかけて、岸にキキモラが降りてくる。――黒羽がその前に立つ。あ、とキキモラは長い前髪越しに嬉しそうな顔をした。
「仔犬(パピー)! やっと会えた!」
「よう、来てやったぜ。少しの間だが、俺たちがアンタと遊んでやるよ」
「やったあ! 嬉しい! でもどうしてそんなに上から目線なの? ムカつく! ムカつくムカつく!」
 急に地団太を踏み出したキキモラに、イレギュラーズは容赦はしない。
「この島は、少し前までは普通の島だったようだね」
 キキモラを足止めしながら、リゲルが語る。彼は影を通り抜け、キキモラの場所にたどり着くまでに、小石や木からこの土地の情報を得ていた。
 彼らは語った。此処には悲劇しかなかったと。
 彼らは語った。此処には悲劇しか残らなかったと。
「街があって、森と共存していた。其れが病という災厄に襲われて、君以外の全員が死んだ。……どうして君だけが」
「ワタシだけが、アルバニア様の聲を聞いたから」
 星さえ凍り付きそうなリゲルの一撃を、キキモラは片手で受け止めた。其の腕力は通常の飛行種の比ではない。リゲルを剣ごと引き寄せて、鋭い爪を振りかざし――
「させるかよッ!」
 黒羽が割り込んで、血飛沫が舞う。引き裂かれた黒羽がふらつき、リゲルは彼の体を抱えるようにして数歩後退した。
「黒羽君! シラス君、治癒を!」
「ああ! 簡単に倒れるんじゃねえぞ!」
 シラスがすかさずメガ・ヒールで黒羽を癒す。退いていく痛みに黒羽は知らず知らず息を吐いた。
「ワタシは、街で虐げられていた」
 汰磨羈とセララが左右から挟み込むようにキキモラを狙う。汰磨羈は己の体を砲身と見立て、霊弾を放つ。セララの剣が十字を刻み、しかし――キキモラはふわり、と浮くように空を泳ぎ、挟撃をかわして見せた。
「乞食だったの。突き落とされたり、土をかけられたり、笑われたりした。悔しかった。お金を持ってる人が妬ましかった。そんなワタシに声をかけたのが、アルバニアだった」
 憎かった。
 町に住む誰もかも、家を持つ誰もかも、食事にありつける誰もかも、友達がいる誰もかもが妬ましかった。アルバニアは指先一つで、“みんなをワタシ以下にした”。
「とっても嬉しかった。そして、アルバニアが憎かった」
「相反する感情ね。其れも魔種だから?」
 ティスルとサンディが流れるような連携でキキモラを押す。サンディが呼んだ暴風がキキモラを翻弄し、ティスルが続いて神速の一撃を与える。
 仰け反ったキキモラに、ゼファーが烈火の一撃を与え、守るように前に出たヴィクトールが更にカウンターを仕掛ける。
 確実にダメージは蓄積している。けれど、果てが見えない。マルベートはルーレットを回すように相手に異常を施しながら、考える。
「あんなに力を持っているのに、ワタシを見ているだけで助けてくれなかった。憎かった。誰もかれも憎かった。でも、みんなだったものはもう何も言わないし、アルバニアも何処かに行った。憎かった。だから、」
 顔を上げたキキモラは、笑っていた。胴体を血と痣だらけにして、なお。
「アナタたちが来たとき、とっても嬉しかったの! ワタシが欲しかったのは、きっとアナタたちだったんだって! アナタたちの思い出は妬ましいけれど、きっと仲良くなれるって!」
 ひときわ強く、キキモラが羽ばたく。其の羽ばたきは見えない壁のような衝撃となって、イレギュラーズを襲った。
「くっ……!」
「うあッ」
「…… あれ? なんの話をしてたんだっけ」
 まるで其の衝撃で自分の記憶まで吹き飛ばしたように、キキモラは不思議そうな顔をする。何だっけ。何だっけ。そうだ、仲良くなれるって……? まあいいや。
「どうせ仲良くなんて出来やしないよね。アナタたちもワタシをみて笑ってるんでしょ? 貧しいキキモラ、可哀想なキキモラって、思ってるんでしょ」
 憎い。憎い。憎い。妬ましい。
 羽の雨を降らせ、イレギュラーズの肌に突き立てながら、キキモラの表情からは笑みは消えていた。

「……可哀想だなんて、思っちゃいねぇよ……」
「!」

 答えたのは、黒羽だった。
 最前でひたすら仲間たちを庇い続けた彼は、傷だらけになってもまっすぐにキキモラを見ていた。
「確かにアンタは昔は笑われてたかも知れねぇ。だからって町の人たちをあんな影にしちまうのは違うだろう! アンタがした事は、アンタが願った事は可哀想って感想が吹っ飛ぶほどの悪だ!」
「悪……」
「そうだ、アンタは哀れだ」
 シラスが黒羽の体力を回復しながら言う。は、と鼻で笑って。
「幻だかなんだか知らねぇが、そんな思い出しか残ってないアンタの方がよっぽど哀れだぜ」
「哀れ……? ワタシが?」
「そうだよ」
 同じように庇いに入っていたマルベートが言う。
「私たちの記憶は掘り起こせるのに、君自身の記憶は消えてしまうようだ。其れを哀れといわず何というんだい。……まあ、余り興味はないから、そろそろ消えてくれるかな」
 マルベートがそっとキキモラに触れ、更に致死毒を叩き込む。
「畳みかけるわよ!」
 ゼファーが旗を上げるように言い、愛槍を構える。一の手、何かを求めるように伸ばしたキキモラの腕を砕き。二の手でキキモラの縋る心を砕く。
「私たちも!」
「ああ!」
 ――私たちの冒険は終わらない。アンタも、絶望の青も越えてやる!
 ティスルとサンディが流れるように一となってキキモラへ確実な一撃を叩き込む。
「俺達は強欲の冠位を砕いたローレットだ……! 魔種はもう元には戻せない! なら、この剣でもって貴方を解放する!」
 くの字に折れた其の体に、今度こそはと凍てつくようなリゲルの斬撃が降り注いだ。
 そこに汰磨羈が今度こそ、己を犠牲にしてでもと己を砲身とした霊弾を撃ち込み。セララが雷を身に纏い、雷光ともども斬撃をキキモラへ贈った。
「いやだ」
 其れは老爺の聲だった。ゼファーのよくしる人の声だった。
「いやだ、しにたくない」
 それはセララのおじいちゃんの聲だった。
「いやだよ、いやだよ、しにたくない、こんな、こんなみじめなままで……」
 ティスルの友人、リゲルの父親、様々な影を纏い死を拒みながら、キキモラはその場に倒れ伏す。どく、どく、と赤黒い血が大地にしみこんでゆく。
「……」
「……アナ、タは」
 ヴィクトールが、じっとキキモラを見下ろしていた。
「ボクは、あなたの愛しい人にはなれない」
 ぽつり。死を前にした魔種に、ヴィクトールは静かに語り掛ける。
「それでも、あなたの名前を呼ぶ事は出来ます。貴方が眠るときに、ボクが眠る時に、其の名を呼んで思い出しましょう」
 だから、眠っても良いんです。
 ヴィクトールの言葉に、はくはくとキキモラの唇が動く。
「………わたし、の、……なまえは」
「……」
 風が吹いて、魔種の言葉ごと命をさらっていく。
 己の本当の名前すら言えないまま、全てを忘却する嫉妬の魔種は、死んだ。


「簀巻きにしていたバカ共からも、不気味な呼び声は消えたようだ。助かった、礼を言うぜイレギュラーズ」
 影はキキモラと一緒に跡形もなく消えていた。船に戻ったイレギュラーズを出迎えた船長は、晴れやかな顔で彼らに言う。
「船も直った事だ、さっさと出港しようじゃないか。絶望の青は、まだまだ先まで続いているんだからな!」
 船大工がピースサインをする。しかし直ぐに手を下すと、寝かせてくれと自室へ戻っていった。

「……彼女は、救われたでしょうか」
 ヴィクトールが船から島を望み、ぽつりとつぶやく。
 判らない、とリゲルは頭を振った。
「けれど、君の想いに応えて名前を教えようとしていたのは事実だ。きっと其れが全てなんだろう」
「……そうですね」
 淀んだ湖、柘榴の実る島。
 其処にただ一人ぽつねんと残っていた魔種は、もう何も忘れる事はない。

 ――忘れねぇよ、キキモラ。アンタの事は、記憶と一緒に連れていく。

 黒羽もまた遠ざかる島を眺めながら、そう誓うのだった。
 もう彼女は、忘れる事も、忘れられる事もない。

成否

成功

MVP

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 無事に魔種は討伐され、柘榴の効果は消え去りました。
 正直狂気というものを描くのはとても苦労するもので、うーん、どうやったら魔種っぽく見えるかなあと悩んだ執筆期間でありました。
 MVPは柘榴を食み、飲み干したアナタへ。
 ご参加ありがとうございました!

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