シナリオ詳細
<黒鉄のエクスギア>大聖堂崩落
オープニング
●大聖堂
「アナタスシアの行方はどうだ!?」
クラースナヤ・ズヴェズダーの集まりし大聖堂にて――かの教派を率いし大司教ヴァルフォロメイは声を荒げていた。彼が発した名は、昨今鉄帝で進められているスラムの再開発計画……モリブデン地域の件で会議が行われた際に『ある糾弾』によって姿を消した人物の名である。
クラースナヤ・ズヴェズダーの中でも過激な革命派を率いし女性――アナスタシア。
些か過激な面はあるものの民に寄り添う心は本物であり聖女とも謳われる人物だ、が。そんな彼女が過去に起こしたとされる『所業』が先の会議で突然暴露されたのだ。アナスタシアは過去に――
ある村の略奪に関わっていた事がある、と。
村民の身ぐるみを剥いだ一人だと。
「現状はまだ。恐らくスラムの……モリブデンのいずこかではと推察されますが」
「なんとしても探し出せ。くそ、俺としたことが……あの騒動の際に目を離さなければ……!」
大司教の言に返答せしは禿頭の男――司教ダニイール。
彼もまた会議に参列した一人であり教派の幹部でもある。
略奪の過去の真偽はともかく、今明確たる事実としては『アナスタシアがどこかへ消えた』という事だ。これに関しヴァルフォロメイは言い様の知れない不安をその心中に抱いていて……一刻も早く彼女を探し出さねば。
「取り返しのつかねぇ事が起こるかもしれねぇ」
クラースヤナ・ズヴェズダーには帝政派と革命派という二つの派閥がある。
穏健的な帝政派、行動的な革命派。
それぞれ主義主張の違いから派として分かれている――が。皆等しくクラースナヤ
・ズヴェズダーの教義の下に集った同志達であり、家族に等しい存在である事に変わりはない。『民の為』にと集った者達だ。
先のモリブデンに対する会議ではアナスタシアの過激な行動に些か感情的になってしまったヴァルフォロメイだが……それはそれ、これはこれである。叱り飛ばせど『いなくなってしまえ』などと思った事は一度たりとて無い。
――我が子を排除する親がどこに居ようか。大司教にとっては皆愛しい者達なのだ。
「無論です大司教。人員を派遣し、アナスタシアの行方は全力で捜索します。
奴もまた我々の同志たれば……当然の事です」
そしてそれはダニイールにとっても同様だ。
革命派の強引な主張は非現実的という考えを持ち、アナスタシアとよく口論する事もある彼だが……それは彼女が過激な言動や行動に出る場合の話。ダニイールが嫌うは彼女の、革命派の主張であり、その魂ではないのだから。
「頼むぞ。後は……モリブデンの事も考えねぇとな。皇帝陛下はまだグレイス・ヌレ方面の筈だ。和平交渉は纏まったって話は聞いたが、帰還にはもう少し時間がかかるだろうな……」
「……大司教、実はその件なのですが」
顎に手を当て悩む様子を見せるヴァルフォロメイ――に対し、ダニイールが紡ぐは。
「主力艦隊は帰還しておりませんが、ショッケン将軍は先んじて鉄帝へ戻っているという情報が」
「――なんだと?」
「奴めはアナスタシアが軍に所属していた時代のかつての上司。
もしかすれば糾弾に使われた資料は……ショッケン自らが『流した』ものでは?」
ショッケン帰還の報であった。しかしそれは大司教にとっては寝耳に水。
わざわざショッケンだけが先んじて戻る理由など何かあるのか?
そもそもアナスタシア糾弾に使われたかつての軍事資料は『本来なら表に出回る筈のない』物だった。そんな物が一体どこから流れた? いや『一体誰なら流す事』が出来るのか? そして糾弾によって教派が混乱した、正にこの時。この瞬間。
あまりにもタイミングが良すぎる帰還行動――
「まさかショッケンの野郎――ッ!」
至った結論に、ついに『本当』の意味で激怒したヴァルフォロメイ。
家族を、我が子らを惑わした男へ、会議で見せた顔色すら超える感情を発露させた――と同時。
聖堂に衝撃と爆発音が響き渡った。
「ッ、なんだ!?」
揺れる大聖堂。思わず自らの体勢が崩れる司教達。
混乱の声が響き渡る。痛みを訴える者達の叫びも発せられる中、爆発音は未だ連続。
一発や二発どころではない。複数、大量なる爆薬が――この大聖堂に!?
誰の仕業だ。この大聖堂にはクラースナヤ・ズヴェズダーの関係者しかいない。
そんな所を誰が狙う? ここを爆破して、誰かを負傷させて何の意味が……いや。
「まさか、狙いは……!」
目を見開くヴァルフォロメイ。只でさえ糾弾により混乱している教派が、もし
もしその上でクラースナヤ・ズヴェズダーを実質的に率いている自分さえも今――
倒れてしまったら。
「大司教――ッ!!」
瞬間。ダニイールの叫びが聖堂に響く。その叫びの理由は単純明快ただ一つ。
ヴァルフォロメイの目前に突如として投じられた大型の手榴弾が炸裂したからだった。
●聖なる地は暴力に塗れ
「馬鹿な――なんだこの状況は!?」
クラースナヤ・ズヴェズダーの拠点となる大聖堂の前に居たは、司祭マカールだ。
彼もかの教派の一員であり帝政派に属する者である。
此度、モリブデンの事件とアナスタシアの失踪などに対しローレットの協力を仰ぐべく使者として彼はイレギュラーズの面々の所へ。詳しい話を大司教と共にすべく聖堂へ帰還――している最中だったのだが。
これは一体どういう事態か。
聖堂は各所から火の手が上がり黒煙が立ち上り、教派の者達の痛みの声で溢れている。
また一つ、内部で爆発の音が鳴り響けば状況は未だ続いている事をこれでもかと伝え。
「マ、マカール殿……! 貴方はご無事でございましたか!」
「貴殿! これは一体どういう事態だ!? 一体何があった!?」
「仔細は私にも……ただ突然として爆発が生じ犠牲者が……! 不逞の輩の仕業としか!」
「俺は見たぞ! 奴ら、教派の服を着ていた! 銃で子供を撃って……!」
正面入口より肩の傷口を抑えながら。這う這うの体で避難してきた教派の者達から話を。
爆発物を各所に仕掛けクラースナヤ・ズヴェズダーに被害を与えんとしている者が紛れ込んでいるらしい。既に起動した爆破により聖堂に大きな被害が出ており、消火活動を行っている者もいるようだが……
「中には、中にはまだ大司教様も……!」
帝政派のトップにして実質教派を束ねているヴァルフォロメイの安否が――不明であるらしい。少なくとも外への避難は確認されていない。まだ中にいる、もしくは取り残されていると考えるのが妥当だろう。
「くっ……これは俺一人ではどうしようもないな……! 悪いがイレギュラーズ殿、依頼の変更をしたい! ――頼む、どうか教派の者達の救出を!」
聖堂内部の構造はマカールから情報として聞く事が出来るので迷う事はないだろう。
しかし火の手が強く、どうやら崩れている所もありそうだ……まっすぐに目標地点には行けるとは限らない。その場合は迂回するなりの行動が必要だし、その上に――
「不逞の輩共がまだ存在している可能性は充分存在するだろう。
奴らは撃退しなければならないだろうな……!」
敵の存在もある。
助けを求める者達の中から奴らを見つけ出すは簡単ではあるまい……感情の探知や良き耳を持っていても、混迷している状況の中だ。ハッキリと見分けたい場合、通常の状況よりも工夫を要するかもしれない。
だが難しい状況と言ってもこの状況、放っては置けない。
マカールから正式に依頼としても受け持った身だ。一刻も早く大司教を――
「――いや、大司教の救出は勿論だが、それを最優先しないでくれ」
何を言っている? マカールの言に、訝し者もいたが。
「大司教様は、皆の身を案じられる方だ。他の者を見捨てた上での自分の救出など望まれまい……
無理難題を言っているのは分かっている。だが頼む!!
教派の者達を『必ず』助けていく中で――大司教の身を確保してくれ!!」
それがあの方の矜持なのだからッ――!
大聖堂からまた一つ鳴り響く爆発音。時間なく、余裕なく、状況は混沌。
それでも、いやだからこそ――イレギュラーズの力が求められるのだ。
- <黒鉄のエクスギア>大聖堂崩落Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年01月30日 23時00分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
クラースナヤ・ズヴェズダー。かの教派が発生したのは、民の為が故に。
そしてその『民』とは当然教派の者も含むのだ。
彼も彼女らも鉄帝国に住まう一人であれば。
「全ては家族の為に。信者もまた家族であれば……か」
良いものだ、と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はその心を尊重する。
誰しも護るべき者がいる。例えば家族が傷ついたならば――
己もまた、己よりも家族の身を案じるだろう。
「――急いで中にいる人たちを助け出そう。まだ間に合う筈」
「ああ行こう! 彼らを守り抜くんだ!!」
その気持ちがどこまでも分かるからリゲルの『家族』たる――『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)もまた共に燃え盛る大聖堂へと。彼と彼女、共にここに至っていたのは偶然であるが……
家族である二人がここに居たのも、どこか通じる心の縁があったからかもしれない。
――往く。躊躇は不要。炎など恐れるに足らず。
鎮火を促す消火器を持ち込み、勢い強き場所へソレを振るえば。
「祈りを求めよ!」
同時に敢然と響き渡る声があった。
『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)の――名乗りである。
祈りを求めるのだ。天へ、己が信ずる教えへ。さすれば神ならずとも。
「『ヒーロー』が助けに来るってな!」
救いの手は届くのだと。
その透き通る声は負傷せし信者達の耳に届き『救助者』達の存在を知らせる。横たわっていた者、崩落に巻き込まれていた者……それらに自らの存在を感知させ。
「う、うぅ……誰か、手を……!」
「大丈夫、安心して――必ず助けるから」
そうすれば『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が負傷者を発見し、治癒の力を通らせる。
先のグレンの声に加え、自らの感情を探知する力でも周囲に多数の負傷者がいるのは察知出来ていた。ならばそこからは目視で――傷の深き者をまずは優先。流れ出る血を、痛みを止めんと力を振るって。
「……」
さすれば目に映る数々の惨状――悲鳴と呻き声、鼻をくすぐる血と鉄の臭い。
命が失われようとしている世界の気配だ。
どれだけ癒しても、手の届かない所に誰かが行ってしまう……黄泉の入り口。
「……死なせるもんか。私の前で、絶対に……!」
だが、と。一人でも多くとスティアは握る手の力を強めて。
生きてと願う――心の底から。
彼女は強き決意と共に此処に在るのだ。
しかし……未だ入り口に入った程度ではあるが、どうやら被害は中々に深そうだ。
この状態から全てを救おうとするのは、些か欲張りかもしれない願いだが。
「でも――いいね。うん。そういうの本当に良いよ、実に結構! どれも大切な命だ!」
だからこそ『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の目に力が灯る。彼は――ひいては彼の種族自身が子を大事にする魂がある。自らにもある精神であれば、大司教の心の重みもまたよく分かる故に。
消火活動に用いられている水を被る。
頭の先から火の対策とすべく。
「僕達は負傷した彼らの救助を! ――奥の方は頼んだよ!!」
「うむ、お任せあれ。大司教殿の身柄は拙者達が必ず」
さすれば『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が返答をする。
イレギュラーズ達は依頼の意向を汲み、幾つかの『班』に別れる事としたのだ。グレン、スティア、ムスティスラーフの三名がまず突入後の周辺救助に当たる。
そしてリゲルやポテトと言った他のメンバーで目指すは大司教の下。大聖堂の内部へと。
全員が救助に当たれば当然救える教派の者は多くなろう。しかしそれでは大司教を救う事は出来ない。そこまでの手が回らない。数多く、では駄目なのだ。あちらもこちらも求められる――ならば。
「大司教の捜索『も』平行して急ぐべきです」
「同感だな。別れれば戦力的なリスクはあるが、そうも言ってられない状況なら『やる』しかねぇ」
駆ける『月下美人』久住・舞花(p3p005056)に『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)の両名もまた、奥を目指して。
「……これが計画的な攻撃で大司教を狙っているなら、トドメまで確実に遂行するのがプロの仕事でしょうから。時間をかければ確実に間に合わない。故に――マカール司祭、貴方はこちらで共に大司教の捜索に加わって頂きたく」
「うむ勿論だ! そこはイレギュラーズ殿の判断に従おう」
そして舞花の提案にマカールは賛同を。本人としても大司教を救う探索に異議はあるまい。
内部の事はやはり内部の事を知る人間がいるのが一番なのだから。
「しかし、こんなになりふり構ってられねぇ形を大胆に取って来るとはな……」
崩落せし大聖堂。その地を見て『死を許さぬ』銀城 黒羽(p3p000505)は眉を顰める。
ショッケンが――奴がクラースナヤ・ズヴェズダーの善良性を利用していたのだとしても、古代兵器取得に目途がつき、用が済めばこうまで大規模に事を仕掛けてくるとは。
気に入らない。容易く命を奪う事が。容易く死を齎す事が、彼にとっては――
「だが、こっちもここで大司教を失う訳にはいかねぇ――絶対に救出しねぇとな」
「ええ……今はとにかく、前に進まねば……!」
そして。
「大聖堂がこんな事になってしまうなんて、とても許せませんが……呆けている暇はありませんわねッ! マカール、道中の教派の方々の救助はお任せ致しますわ!」
クラースナヤ・ズヴェズダーに正に所属せし一人。『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は並々ならぬ決意を抱いて。
「私達は――大司教様の所に! 奥へと……行きますわよ!!」
往くのだ。変わり果てた大聖堂の中へ。しかし――
決して絶望は抱かずに。
●
複数の班として行動するイレギュラーズ達は『三つ』に別れていた。
一つが先述した様にスティア、ムスティスラーフ、グレンの三名による救助活動。
他の者は大きく別けると大司教の下へと向かう者達だが――この中に些かの違いがある。リゲル、黒羽、ヴァレーリヤ……そしてシラス。マカールまで含めて合計五名の人員はとにかく『大司教』の下へと目指す者達。そしてポテト、舞花、咲耶の三名が――
「大司教の下へ目指します、が。道中の救助活動は」
「拙者達が優先して向かうでござる。後程無論追うでござるが……暫し、時間は頂きたく」
途中の者らの救助を、だ。
なにも負傷者というのは入り口付近にだけいるものではない。当然大聖堂内部にも幾人かはいるだろう――オーダーをこなす為にはその時の者らの対処を決めておかねばならなかった。
咲耶はファミリアーを先行させ周囲の偵察を。エネミーサーチも用いれば敵意の警戒も行い。
同時に舞花とポテトが負傷者の治癒に当たる。
特にポテトの治癒術は複数人を纏める事も可能で。彼女自身の活力の循環もあれば、それを紡ぎ上げる事の出来る回数は幾度となる事か。
「聖堂を爆破するなんて……ね。
精霊たち、この建物内で一番重傷な人がいる所を教えてくれないか?」
されば同時に行うは、疎通せし精霊との技を用いた語りである。
ここは大聖堂――本来であれば静かで、清く正しい場所であれば何がしかの精霊がいてもおかしくなく。それでも爆破の影響か、精霊達が慌ただしいようではあるが。
「大丈夫。落ち着いてくれ――大丈夫。私は、皆をおどかしたりしないよ」
ポテトは優しく語り掛け、大司教の位置を知れないかとする。
爆発が起きた奥の地点……そこの詳細さえ入手できれば捜索に役立つ筈だから、と。
しかし調査や救出ばかりに念頭を置く訳にはいかない。
大聖堂各所にて未だ生じる爆発……それを引き起こしている『者達』が紛れているのだから。
――眼前。騒ぎに慌てて動いている様子の信者が複数。
走れている故、傷はあまり深くないように見える……が。
「――クロだ」
呟きが零れた。
その口端から漏れた言葉を置き去りに、シラスが至るは極限の集中域。刹那の瞬きが永遠に至れば――跳んだ。狙うは一人。その服装はまごう事無き教派のモノなれど。
その『強さ』は決して一介の只人ではないと彼の目が見抜いたから。
「ぬっ!!」
反射的に防御の構えをする『曲者』だ、が。
間に合わない。シラスの高速なる移動から繰り出された蹴りが、奴の首元に叩き込まれて。
「身を偽り、隠れて潜み相対を拒むとは――それでも軍人か! 聞いて呆れる!!」
次いで間髪入れずにリゲルの剣が差し込まれた。
冷気の具現。伴う終焉を導いて、剣の閃光が二度。
されど曲者もそれだけでは終わらぬ。傷を抑えつつも取り出した銃の引き金を絞り、反撃と成す。誰でも良い。眼前の敵でも周囲を駆けるクラースナヤ・ズヴェズダーの信者でも誰でも当たれば――
「させねぇよ!!」
そこへ黒羽だ。曲者……いや『ブラック・ハンズ』だと判明したならば即座に行動。
死を許さぬ彼は、奴らの手で誰かが殺されるのは許容できぬと前へ出てブロックの構え。さすれば射線が限定される。銃弾が黒羽へと襲い掛かるが、彼もまた『柔』な身体をしていない。痛み走れど苦とはせず。
「私達の集いし大聖堂を、よくもこんな有り様にしてくれましたわね……!」
そうまで至れば後は逃がさぬのみとヴァレーリヤの一歩が距離を詰める。
念じるは聖句。大聖堂にて幾度と祈ったそれを言霊としメイスに宿せば――衝撃波。
「手加減はなしですわよ!」
「――御免!」
「ぬぅううおおッ!!」
ヴァレーリヤの撃の後に――マカールのハンマーの一撃が飛び、同時に咲耶の一閃が首を断つ。
倒れ伏すブラック・ハンズの一員。見ればその手はやはり黒。情報は正しいようで……
「むぅ、奴らめッ教派の者の服装をいつから用意して……! いやそんな事は最早些細か……とにかく、声が届く者は聞くのだ皆! 信徒に化けている者がいるぞ! 注意を怠るな!」
さすればマカールの言葉が飛ぶ。潜んでいる『敵』がいるのだと。
奴らを見破るのは中々に難である。この爆薬の臭いと騒ぎの中……鼻や耳も通じるとは限らず、優れた耳を持ちし者が近寄って来る者の靴音を判別せんと試みているが――やはり、難しい。
恐らく最適格と言えるのはシラスの使ったようなエネミースキャンである、が……それもブロッキングなどの技能により無効化される可能性もゼロではない。ブラック・ハンズは工作を得手とする者達。ならば様々な非戦を有している事も推察され。
「さて、なら後は直接の目視ね」
古典的ではあるが他が難しいならやはりコレかと舞花は言う。
直接見て看破するのだ。純粋に目が良いだけなら、隠された手を見る事は叶うまい。しかし身のこなし、演技の言動など……『視』るべき所は他にもある。擬態の為の負傷の可能性も考えれば、傷自体が本物かを看破する事にも価値があり。
故に警戒は怠らない。もしも奴らだと判別したならば――先んじて一撃を叩き込むべく。
そしてその動作は別れている――グレン達にとっても同じだ。
「お、らぁ! 覚悟しやがれよッ――!!」
呼吸一つ。グレンは怪しきローブの影へと剣を向けた。
彼もまた人々を誘導しながら看破の目を走らせていたのである。武器を隠せそうな不審な布のふくらみ、或いはローブは用意していても『靴』は違う可能性があると常に視て。怪しき影には先手を取って切りかかる。
寸止め目的だが……敵であるならば咄嗟に反撃にこよう。ソレをもって判別と成せる。
……ん、もし間違いで敵ではなかったら? なんのご安心をその時は――平謝りである。
なぜならば最悪は擬態したブラック・ハンズを見逃してしまう事であり。
「尤も、僕の目には君が随分と不審に映っているけどね」
されど『外れ』ではないだろうとムスティスラーフは言いながら動く。
向こうでシラスが敵を見破ったように、彼もまたエネミースキャンにて敵を視ていたのだ。事前に一般的な信者の力を、その強さを見ておいた。無論それぞれ個人的なレベルでの違いはあるだろう、が。
元々クラースヤナ・ズヴェズダー帝政派にはそこまで荒事に優れた者が多い訳ではない。
その中で紛れる様に潜んでいる『強き影』は中々に怪しい存在だから。
動いた。グレンが前面に、ムスティスラーフが告死たる一撃を背後より。
逃がさぬ紛れさせぬここで仕留めて混乱を収束させるべしと。
「くっ……! おのれ貴様らが噂のイレギュラーズか……!」
防御行動を取るブラック・ハンズが一員。振るう手榴弾が炸裂し、範囲的に周囲を焼けば。
グレン達のみならず負傷者をも巻き込む。いやむしろそれが狙いか?
「動ける人は――傷ついて動けない人を連れて逃げて!」
だが、そうはさせじとスティアが往く。
紡ぎ上げる癒しの術が、致命傷になりかねない一撃から取り戻さんと治癒し。
さすれば影より現れた新たな敵が――スティアの脇腹に刃を突き刺した。
「ッ……!」
被害を抑える……いや、回復する癒し手故にこそ狙われたのだろう。
お前は邪魔だと。即刻死ねと、ブラック・ハンズの殺意が襲い掛かるのだ。
「させるかッ……!」
二度目の斬撃。振るわれる前に、グレンが割り込んだ。
決死の盾になる心意気の彼の今の動きは、複数の対象を庇う事も可能であり。であれば、敵の位置が判明した今味方の盾となるべく動くのが――己の役割だろうと即座に。
防ぐ。守護の聖剣を割り込ませ、敵の刃を防ぎ。
「おまたせ。むっちーの到着だよ!」
瞬間。ムスティスラーフの一撃が襲い掛かるブラック・ハンズの頭部へと直撃。
馬鹿な、距離が離れていた筈――そう思い込んだ時にはもう遅い。ムスティスラーフの機動力は尋常ではなく、常なる者の倍は近い距離を移動できる力を持っている。距離の優劣など、彼を前にした時程アテにならないモノはなく――思考している間に二撃目が直撃。
ふらつくブラック・ハンズ。それでもまだ倒れるに至らないのは流石軍人と言うべきか。
グレンの防御、スティアの治癒も間に合えば崩れぬ限り中々安定している布陣である。
……それでも。ムスティスラーフ達だけでなく大司教の下へと向かっている者達も含めてだが――どうしても傷が多くなるのは状況の複雑さが故か。
単純に言って、戦闘に己がリソースを裂き辛いのだ。今の、この大聖堂の戦いは。
もしこれがブラック・ハンズと戦うだけの状況であったのならば、イレギュラーズはもっと万全に戦えていた事だろう。十人で一塊となって彼らに対抗は出来ていた筈だ。その能力は充分に存在している。
だが状況の複雑さが、やるべき事の多さが彼らに苦難を強いていた。
班を別け潜む敵に注意を向け、奥へと急ぎ、その上で発生したならば戦闘を……
これではたして誰ならば十全に戦えようか。戦いにリソースを割けぬのは仕方なき事である――
「こっちは火の手が広がっています! 出口までの印を残していますので、避難はこちらに!」
しかし、それでも。
誰しもがその中で奮戦していた。己のやるべき事をやるのだと死力を尽くして。
――戦っているのだ。この状況に、理不尽に。
リゲルは声を張り上げる。己がチョークで記した目印が、避難の信者を導き。
「失礼。マカール殿から犯人が信徒に化けているとの話があるので一応確認させて貰うが宜しいでござろうか。何、時間は取らせませぬ……すぐに終わります故」
「怪我の具合を見せてくれ! ……ッ、これは酷いな、治癒をすぐに……!」
避難の民で手が確認出来ぬ者へと声を掛けるのは咲耶。
敵でないなら良し。そして怪我の具合も確認して、移動させるが危険ならばむしろ共にと。
あるいはポテトの治癒に任せても良い。
人数が多くなれば彼女も――循環せし活力があると言えど――消耗は避けられないだろうが、最早彼女もそんな事に頓着していない。今は只目の前を。救えるべき者に救いの手を。
優しき心の恩寵を。
「皆、大丈夫ですわよ……! 下を向かないで!」
そして。彼らにとっての同志たる――ヴァレーリヤの言葉も飛べば。
「私達は苦難を乗り越える為にクラースナヤ・ズヴェズダーに集っているのです!! その私達が下を向いてはなりません、赤い十字に祈りを刻んだ日を! その日の心を思い出すのです!!」
鼓舞となるものだ。透き通るような声が、皆の耳に……いや心へと届く。
傷在りし者の心を保たせ、負傷浅き者の歩を早め。
進む。
崩落が進みし大聖堂。とはいえここは軍事施設の類ではなく、回り道をすると言ってもそもそも構造が複雑ではない故に、極端に時間が延びる訳ではない。であれば脱出も決して難しい訳ではなく、そして奥へと辿り着くのもまた――
そう、遠くない事なのだ。
「ッ……! いたぞ、ヴァレーリヤ! あれが――大司教か!?」
些か歪んでいた扉を強引に黒羽はぶち破って。
中を見る。広い空間。皆が祈りを捧げる大広間の――隅にて。
倒れ伏している、法衣を纏った老練なる男性がそこにいた。
●
ブラック・ハンズによる破壊行動が行われ始め、やがて大司教ヴァルフォメロイの身すら手榴弾によって狙われた時――炸裂によって大司教は傷を負った。幸いにして死にこそ至らなかったが、とても素早い動きは無理な程度の傷で。
その彼を司教ダニイールが素早く確保していたのだ。
彼は当初大司教を狙った手榴弾の範囲からギリギリ逃れており無事であった故に。危機を悟り、追撃の一撃から護るべく大司教の身を、肩を貸して移動させ続けていた。
「ぐぅッ!!」
だがそれにも限度がある。ブラック・ハンズも『死んだだろう』と中途半端には終わらせない。確実に死んだかの確認をするべく向かい――そしてまだ生存を見つけたのなら今度こそと凶刃を向けるのだ。
ダニイールは無事とて、負傷者を連れて彼らから逃げきれる程早くなく。
肩を抉った一撃が届いて、もはやこれまでかと覚悟を決めた――その時!
「そうは――させないッ!!」
「ここで大司教を失う訳にはいかねぇんだよ……失せな!!」
刃との間に割り込む影が存在した。
――リゲルと黒羽である。司教らの代わりにと深く、脇腹に刃がめり込み。或いは銃弾がその身を抉るが――彼らはそんな痛みに頓着しない。押し返す。これ以上の暴力はもう許さぬとばかりに。これ以上の死は許さぬとばかりに。
「な、なに……これは……!!」
「大司教様! 司教ダニイール!! ご無事でしたか!!」
「御二方共――お待たせいたしました!!」
思ってもいなかった援軍に驚愕するダニイール。されば更に現れるのはヴァレーリヤにマカールだ。聞いた事のある声に振り向け、ば。
「う、うう……ぐッ! そ、その声は……ヴァレーリヤか……?」
「ッ! 大司教様、その傷は……!!」
同時。ヴァルフォメロイは傷により意識が淀んでいたが――少しずつ鮮明となってきたようだ。
家族の声が聞こえれば意識の糸も手繰り寄せられるのか。
いずれにせよ傷が深い。祈りを捧げるような形でヴァレーリヤは己が魔力を大司教へと。
その身を癒さんとする。しかしブラック・ハンズもそれらを黙して視ているに非ずんば。
「――!」
一斉に往く。声を発さずハンドサインにて。
イレギュラーズだけでなく奴らの戦力もここへと集中してきている様だ。用済みたるクラースナヤ・ズヴェズダーなど滅すべし、とでも考えているのだろうか。聖女アナスタシアがかつて軍籍時代に所属していた部隊が――『此処』を滅ぼすべくやってくる。
それは皮肉か運命か。しかし過去がどうあれ現在がどうあれ!
「この場は俺達に任せ、御身をお守り下さい! 貴方にはまだやるべきことがあるはずです!
マカールさん……大司教と司教の身の護衛をお願いします!!」
「承ったイレギュラーズ殿!!」
罪なき信者達を殺戮せんとする奴らを是とする理由は無し!
リゲルは剣を構え、向かい来るブラック・ハンズの面々へと立ち塞がる。最早ここに至りて彼らも正体を隠して近付いてくるような事はしない故か、随分と分かりやすく『敵』がいる。
――同時に見据えるは『壁』だ。より正確にはその奥。潜む敵。
透視の力にて奇襲を警戒。あわよくばこの力が衣類を透けさせて『隠す手』を確認出来れば道中のブラック・ハンズ見破りにも役立ったのだが、衣類として認識されるモノには効果が働かず。されどやる事には変わりなし。力をもって悪を討つ!
放たれる流星の輝き。衝撃、刃が交差する金属音。
投じられる手榴弾が大司教を諸共爆殺せんとするが、それはマカールの鉄槌が防ぐ。打ち返し、これ以上の傷はつけさせんとして。遠くで爆破すればダメージは無く、爆風だけが皆の頬を撫ぜて。
「――焦げ臭い」
と、その時。届いた火薬の臭いに顔を歪めたのはシラスだ。
同時に思考するはショッケン派の事。ああ、古代兵器とやらにそんなに価値があるなら何でもやればいいさ。あるだけでも汚らしいゴミ溜め(スラム)とどちらが役立つかなんて誰だって分かる。
「でも……ここまでやるのか?」
要らないからと。
不要だからと――火を放つ。
肉の焼ける臭いがどこからか鼻に、届いた気がすれば。
己の何かが『焦げた』気がした。
「――!」
だがシラスは、抱いたその気を払う様に。跳躍し――黒き手の集団へと。
放つ拳。繰り出す蹴り。自然と籠る力の圧の正体は一体なんなのか。
ああ――クソ。胸が悪いのは煙の所為だと。歪めた表情が怒りを宿していた。
大司教の周囲で展開される戦闘――ここへ至っているイレギュラーズはリゲル、黒羽、ヴァレーリヤ、シラスの四名である。とにかく奥へ、大司教の下へと目指し先行したメンバーによる戦い。
戦況としては些か苦戦していた。その理由は、やはり状況故だろう。
大司教を護る為には遠くには離れられない。結果として布陣が限定され、その上でブラック・ハンズは容赦なく大司教を狙ってくる。手榴弾、銃弾の雨あられ。弾くにも限度があり、身を挺せば防げるが無論傷は増えて――
だが、しかし。
「成程。やはり誰しも信者の服を着ているとは……
工作員による内偵が随分と前から進められていたという所か」
イレギュラーズ達は――決して今ここにいるメンバーだけで来た訳ではないのだ。
襲い来るブラック・ハンズの横っ面に一撃を。振るうそれは舞花の斬撃。
ここに至るまでに救助を優先していたメンバーがついに追いついたのだ。
「……ッ! ポテト!」
「ああ任せてくれ――」
察したリゲルが声を飛ばす。されば阿吽の呼吸でポテトの術が紡がれて。
癒す。傷を負っていた者を、怪我人を。本職の癒し手が現れれば戦線が安定し。
「ほう。もはや信者のフリを……取り繕う事も止めて、ついに正体を現したでござるな。
そろそろ貴様等の首魁の目的を吐いて貰うでござるよ。でなくば――」
その命に価値なく、即刻死すべし。
影から出でる様に咲耶の術が放たれる。無数の鴉が聖堂の中を駆け巡り、敵と定めた者達へと襲い掛かるのだ。彼女の忍術が一つ、黒翼災禍ノ術。黒き手の持ち主を啄む様に黒き羽が舞って。
事ここに至りて形勢は逆転し始めた。
ブラック・ハンズは工作などの『裏』を専門とする者達。無論戦闘力が無い訳ではないが、正面からの戦い合いに近い形となれば彼らの長所も減じるモノだ。
「行けるぞ……このまま皆を連れて、脱出しよう!」
声を飛ばすポテト。さて、戦いは何とかなりそうだが――大聖堂の崩落は続いている。
柱にヒビが走り、嫌な音が内部から。ここもいつまで保つものか……!
「チィ――逃がすな殺せ!」
「残念ね。これ程の襲撃、急な作戦ではなく……周到に計画された攻撃だったでしょうに」
だが、と。未だ追撃を行おうとするブラック・ハンズへ舞花は。
「でももう貴方達の手は届かない。諦める事ね」
「マカール殿! ここを出ても周囲の警戒を怠らず! 奴らはまだ幾人いる事やら……!」
斬撃を繰り出しつつ、撤退を行う。
されどまだだ。まだ安心は出来ないと咲耶は大司教らの近くに布陣しているマカールに声を。ブラック・ハンズがこれで全部とは限らない――大聖堂各地に散っている者がまだどこかに潜んでいる可能性もゼロではないのだから。
依然としてファミリアーの調査も駆使しているが、油断は出来ず。
しかし、その時咲耶は見た。
ファミリアー越しに。別地点でブラック・ハンズと戦う――『彼ら』を。
ムスティスラーフ達を!
「やれやれ、どれだけ数がいるんだか……! こうあちこちに居られると流石に面倒だね!」
「ああだが――そろそろ大司教の方も手が届く頃だろ!」
首を刎ねんとする一撃を放つムスティスラーフ。救助者を見つけ、それがブラック・ハンズであれば迎撃し。グレンは相手が敵か救出対象かで素早く動きを変えている。
救うべき者ならば言葉を。誓いの言動で安心を与えて。
そこへ至るのが依然としてスティアの治癒術だ。
彼女も時として前面に立つことを厭わない。それにより傷を負う事もあるが、彼女の感情探知で捉える殺意や悪意の点が潰えない限り、安心出来ようもないから。
それに。
「私の傷なんて、大したことはないよ」
自らが傷を負う事は構わない。
だが倒れる訳にはいかない――ポテトやヴァレーリヤなど癒しの術を放てる者と別れた以上、こちらで今すぐ誰かを治癒できるのは自分だけだ。自らが倒れれば、もしかしたらどこかの誰かに手が『届かない』事があるかもしれない。
――それだけは嫌だから!
「大司教とかもだけどさ皆してさ。
自分より他を優先する精神あったりするよね――僕はそういうの好きだけど」
「ハッ、そうだな。だがそれを果たす為にももうちょい……踏ん張ってみるかな……!」
戦う。彼らもまた戦っている。班を別けたのがここで活きて来たのだ。
勿論、班を別けたのは救助活動のオーダーも達成する為であるが、スティアらが大司教の下へと向かうのとは別箇所を巡り、そこにいたブラック・ハンズの撃破を行った故に。大聖堂の奥から出て来た救出班へ回り込む戦力が削がれていた。
大聖堂の外へと向かうに至る道に、ブラック・ハンズの戦力はもう十分には無い。
「大司教様、もう少し。もう少しです! 間もなく外に……!!」
「あぁ、ぐッ……! 随分と、迷惑を掛けちまったみたいだな……」
外へと急ぐ救出班。石の埃が落ちて来るのを手で払い。
何を仰られますか――そう言葉を続けようとしたヴァレーリヤに、ヴァルフォメロイは。
「ヴァレーリヤ……アナスタシアを探せ……!」
言う。胸を毟る様な痛みが大司教に走れど、彼は厭わず。
「アレは、いつも糸を張り詰めていた……心のどこかに何かがあったのかもしれねぇ……
それが軍での出来事か――いずれにしろ、俺の言葉では届くまいよ……!」
伝える。今ならまだ間に合うかもしれないと。聖女、アナスタシアへ追いつけと。
「主は……主は希望がある限り誰をもきっと、見捨てる事は無い……
奴を、アナスタシアを決して見失うな! 手を伸ば……ぐ……ッ……!」
「大司教様!!」
「ヴァルフォメロイ大司教!!」
瞬間。大聖堂の奥にて一際大きな爆発の音が鳴り響いた。
まるで連鎖するかのような――いや実際に連鎖している。ありったけの爆薬を詰め込んだ場所でもあったのか分からないが、その音を皮切りに大聖堂が文字通りに『傾いて』
「まずいぞ……走れ! あと少しで、出口だ!!」
「皆、駆け抜けるんだッ――!!」
危機を敏感に感じ取ったシラスとリゲルが声を張り上げ。
外へと続く正面入り口の光。そこへ半ば飛び込む様に――抜け出した。
「ッ……! 全員無事、か!?」
「――おっと、そっちも脱出出来たか! 怪我人はどうだ、いるか!?」
黒羽がまた滑り込む様に崩落の手から免れて、後ろを振り返る様に皆の確認を。さすればグレン達も無事に脱出出来たようで少し離れた地点に三名共に集っていた――どうも見る限り、イレギュラーズで崩落に巻き込まれた者はいないようだ。大司教も意識は失っているが命はあるようで。
「……なんたる事か。大聖堂が、このような……」
しかし、司教ダニイールの表情は些か暗い。
クラースナヤ・ズヴェズダーが集う聖堂が、ほとんど崩壊していたのだ。全く面影がないとまでは言わないが、内部は滅茶苦茶になっている事だろう。それを見て嘆く信徒もいる。
「……シスターナーシャ」
それでも、まだ立ち止まる訳にはいかないのだとヴァレーリヤは赤い十字を腕の中に。
『聖女』の名を告げ天を仰ぐ。
鉄帝国で巻き起こる、この動乱がどうなるのか――主へ祈りを捧げながら。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでした。
分散せざるを得ない依頼であった以上、中々どれに注力すべきか悩ましい点もあったかもしれません。
しかし大司教の身柄は確保に成功しました。
クラースナヤ・ズヴェズダーの指導者が生き残った事で、後々に響いてくるかもしれませんが、とにかく今はお疲れさまでしたイレギュラーズ!
GMコメント
■依頼達成条件
1:大司教ヴァルフォロメイの生存。
2:道中で発見した動けないクラースナヤ・ズヴェズダー全員に『救出活動』を行う。
両方を達成してください。
2ですが『生存』が条件ではありません。『救出の活動』が条件です。
後述の敵戦力に救出の途中に殺害されても失敗ではありません。
■戦場:クラースナヤ・ズヴェズダーの拠点『大聖堂』
クラースナヤ・ズヴェズダーの活動の拠点となっている中々に広い聖堂。
現在、未だに各所で爆発と崩落が相次いでおり非常に危険な状態となっている。
爆発・崩落に巻き込まれればダメージが発生するので注意。時刻は昼。
マカールからの情報により『通常時』の内部の情報は取得出来ているモノとする。
ただし崩落・火の手により『通れない場所』が発生している可能性はある。
また中には多数の人間が取り残されている模様。
■大司教ヴァルフォロメイ
現在のクラースナヤ・ズヴェズダー主流派『帝政派』を率いる者。
皇帝が戻り次第ショッケンに対する直訴を行う予定だったが、その動きを察知されたのかもはや用済みとショッケンに先手を打たれ、謀殺の対象となる。現在の安否は不明である……
ここからはプレイヤー目線の情報ですが現在『生存』しています。
重傷を負っていますが、生きています。ただし具体的な状況は不明です。
また生存は『現在』の状況であり時間が経てば危険となるでしょう。
■司教ダニイール
『帝政派』に属する司教。
内政的な活動の多くを司り過激な革命派には苦い感情を抱いている。
爆発時、大司教の近くにいたようだが現在の安否は不明である……
ここからはプレイヤー目線の情報ですが現在『生存』しています。
ただし大司教同様に具体的な状況は不明です。
■司祭マカール
『帝政派』に属する司祭。
荒事と宣教を担当している人物で本人にもそれなりの戦闘力が存在する。
イレギュラーズのメンバーと共に大聖堂に突入する模様。
基本的には突入後、救出活動を優先して行うでしょう。
他に何か具体的にやらせたい事があれば指示してみてください。
場にそぐわない、余程妙な内容でない限りは率先して協力してくれるでしょう。
■クラースナヤ・ズヴェズダーの者達
主流派の『帝政派』に属する者達が多い教派の者達。
爆発、崩落に巻き込まれ多数の人員が負傷している。
火の手が上がる大聖堂内部に取り残されている者も多い状況である。
内部では比較的負傷の少ない者が重傷者を運び出したり消火活動を行っている。
帝政派は穏健的なメンバーで構成されているからか荒事に特化した者は少ない。
後述の敵戦力に出会った場合、戦力としての意味では叶わないでしょう。
■敵戦力:ブラックハンズ(黒き御手)×不明数
クラースナヤ・ズヴェズダーの者に扮するショッケン配下の軍人達。
工作を得手とする彼らは教派の者に扮し破壊活動、教派の者の殺害を繰り返している。
メンバーは『手が黒い』という特徴を持っている。(元々の身体的特徴、そういう風に染めたなど理由は様々)ただし隠している事も考えられる上に『手が黒い』=『必ずブラックハンズ』とは限らない事に注意。普通の教派のメンバーにもそういう特徴を持つ者は存在する。
直接の戦闘というよりも潜み、暗躍する事に優れている。
正体を見破られてもマトモに戦おうとはしないことが想定される。
■備考
ヴァルフォロメイが生存するかどうか。
もしくはその重症具合によって今後の『クラースナヤ・ズヴェズダー』の活動に影響がある事が考えられます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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