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シナリオ詳細

<黒鉄のエクスギア>綱紀の司祭、或いは赫き誠剣

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鋼の唄が鼓膜を襲う。
 広大な漆黒に金属の階段が縫い止められている。
 無数の軍靴が打ち鳴らす甲高い行進曲は、仄暗い巨大構造物の中でわんわんと耳障りな音を立てていた。

 帝都スチールグラードのスラム、その地下に眠る古代遺跡『歯車城モリブデン』。
 鉄帝国の部隊は、そのただ中を奥へ奥へと進んでいた。
 無限に続くかとすら思える広大な空間は、どの時代の文明とも思えぬ様相であった。
 歯車城との呼び名通りに至る所で無数の歯車が絡み合い、もう二度と動くこともないようにも思える。
 巨大な扉がある。この向こうに広がる迷宮は、万人を拒絶しているとも思える。
 奥に眠る物には、誰一人たどり着けないと思える。
 だがそうは思わない者達も居た。

 先頭に立つ将校――クラインシュミット少佐が立ち止まり、おもむろに片腕を上げた。
 後続の兵士達はその場で一斉に二歩だけ足踏みし、直立不動の姿勢を取った。
「良いかね同士諸君。この作戦は帝国の誉れある歴史に栄光を屹立するものである!」
 足元でかつかつと鋭い音を二度鳴らして、少佐が振り返る。
「しかしだ同士諸君。偉大なるハイドリヒ将軍閣下の事業を邪魔立てせんとする、不埒な者共が居る!」
 あたりはしんと静まりかえっている。

「我等黒金機甲師団の敵はぁ!」

 ひとぉつ! 鉄帝国軽騎兵隊!
 ひとぉつ! クラースナヤ・ズヴェズダー!
 ひとぉつ! 忌々しき、イレギュラァーーーズ!!

 今や静謐に満ちた空間に、少佐の怒声がこだました。

「第八鋼鉄猟兵隊!」
 ――ダース!
 甲冑に身を包み、各々が高度な判断を下す裁量権限を持つエリート部隊である。

「第十一特殊機械化騎兵隊!」
 ――ヤヴォール!
 推進装置のついた甲冑を纏った、火力と耐久、機動に優れた主力部隊である。

「第十六蒸気空挺隊!」
 ――サー! イェッサー!
 特殊な装備を操り、連携と飛行戦闘を可能とする遊撃部隊である。

「第十七電子化魔導隊!」
 ――
 巨大なデバイスを抱え、長衣とマスクで身を覆った部隊は一心不乱に長尺の儀式詠唱を続けている。

 少佐は拳を振り上げた。
「同士諸君!」
 少佐は誓う。少佐は叫ぶ。

 我々が鉄槌である!
 我々が戦車である!
 我々が城壁である!
 我々が要塞である!

 自身は、ショッケンは。必ずや帝国の歴史に金字塔を打ち立てるのだと。


 イレギュラーズ一行は鉄帝国地下闘技場を抜け、その先へ続く通路を走った。
 地下へ地下へと進んでいくと大広間か、あるいは礼拝堂のような広場に行き当たる。
 ここまでは以前の作戦でイレギュラーズが確保した経路だ。
 その作戦中にここの場所までを解錠しており、一行の進軍効率を高めている。

「ここは任せてくれ」
 イヴァンは機械式のクラシカルなコンソールをタイピングし、手早くパスコードを入力した。
「ここまでの情報を繋げるなら、最短のルートになるはずだ」

 ――時はいくらかさかのぼる。
 海洋対鉄帝国の第三次海戦が終結した頃、鉄帝国帝都スチールグラードに横たわるスラム街モリブデンでは、一部の鉄帝陸軍による大規模作戦が発動していた。
 国にいち早く帰還し根回しを済ませていた鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒ手動のもと、モリブデン地下に眠る巨大な古代兵器を手に入れるという作戦である。
 介入当初、ショッケン一党は地域住民に『スラム再開発事業によって生活を向上させる』と説明し、古代兵器の存在が明らかになった段階からは暴力や拉致等の非道な強攻策に切り替えていた。
 しかしローレットの活躍で計画は著しく遅延し、しびれをきらせた彼等は持てる限りの兵力を投入して、古代兵器奪取に動き出したのだ。

 一方で、鉄帝国にとっては、一連の案件は厄介な政治の絡むセンシティブな問題になっている。
 ショッケンの行動は表向き、あくまで職責内であって、とがめ立て出来る材料は揃っていない。
 故に鉄宰相バイル・バルオンは部下のイヴァンに命じ、秘密裏に事件の調査を行わせているのである。
 そうした中で、軍が大規模に動いている以上、スラムは寄る辺を持たない状態に陥っている。
 そこでスラム民とスラムに拠点を持つクラースナヤ・ズヴェズダーは、最後の手段としてローレットへ、多数の救援依頼を発したのだ。

 イヴァンはと云えば。忠誠を誓う国家と、実のところ芽生えてしまっている信仰との板挟みになってしまった。
 元はクラースナヤ・ズヴェズダーの不穏を監視する役目を担って、教派へ潜入したイヴァンであったが、弱者救済を掲げる教理に賛同する所も少なからずある。
 彼自身も表裏の荒事や悪魔祓いといった仕事の他に、私財を孤児院へ寄付するなど精力的に活動を行っていた。
 そうして彼は結局この事態に対して、情報収集の一環であると自身への言い訳を決め込み、独断での行動――司祭として依頼同行を望んだのである。

「すごい! あなた天才なんじゃない?」
 更に奥への通路を開いたイヴァンに、『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)は心からの賞賛を贈る。
 幾分かばつの悪そうな表情を浮かべたイヴァンは、あえてそれを『国家からの機密情報である』と告げはしなかった。
 眉唾ものの古い記録媒体に残されていたものだが、まさか役に立つとは。
 ともあれ。この場のイレギュラーズはおそらく内心、イヴァンの立場を『ある程度は察した』であろう。だが敢えて問いただす場面でもない。事態は刻一刻を争っていたのだから。

 鉄帝国の機甲師団は既に別口から奥へと侵入しているようだ。
 目的は最奥にあるとされるコアルームの制圧。そして――
「これだけは何があろうと、絶対に阻止しなければならない……」
 古代兵器へエネルギー源を供給するために行われる、『血染めの儀』を阻止することだ。
 儀式は大勢の人間――生命力の高い子供が望ましい――をコアルームで虐殺するという邪悪極まりないものである。

「当たり前よ。絶対にゆるさないんだから! みんなもいい?」
「ダーダダース!」
 力強く応じたのは鉄帝国軽騎兵隊。エヴァンジェリーナの部下達だ。もちろん軍の任務ではなく、イヴァン同様に各々の独断による行動である。
 今度の事態に対して、スラム出身者も混ざる軽騎兵の結束は固かった。
 この日は状況上、軍馬こそ伴っていないが、かなりの戦力として期待出来るだろう。

 イヴァンがふと遠くを見るように視線をあげた。
 つい先日のこと、ラウラという少女から不吉な夢を告げられた事を思い出したのである。
 ラウラは涙ながらに訴えたのだ。『歯車に近づくな』と。
 イヴァンは鉄宰相に事件の経過報告をする際に――夢を信じるのであれば――全容をつかみかけていた。
 ラウラと親しくする中で、イヴァンは彼女の予言めいた夢が本物であることを半ば確信しているのだ。
(ああ、頼むぜ神様)
 彼女の夢が未来予知であるならば、むしろ幸運だった。悲劇を回避することが出来る。
 それは為す義務を担うのは、己自身であると誓って――
 考えるのは止めだ。イヴァンは拳を握り、意識を集中させる。

 一行はここへ来る前に各々の作戦を詰め、役割を確認していた。
「では頼むぞ。イレギュラーズ。隊長もそれで問題ないな」
「もちろんよ!」

 作戦は、この先。縦横無尽に走る通路を通り、コアルームを目指す敵部隊に大打撃を加える事。
 それから敵が引き連れているらしい『生け贄』の安全確保となる。

 タイムリミットが迫っていた。

GMコメント

 pipiです。
 歯車事件もおおごとになってきました。

●目的
 鉄帝国軍の大部隊エルガーヴォルフに大打撃を加える。
 引き連れられている『生け贄』の出来る限りの生存。

 敵全ての撃破は非常に困難です。
 とにかく敵の作戦を継続させることが困難、あるいは不可能になれば良いのです。

 難しそうな状況なのですが。どちらかかといえば、そうですね。この国の依頼らしく派手に暴れてやりましょう。

●ロケーション
 歯車城『モリブデン』内部。
 イレギュラーズとは別のルートから奥を目指していた、敵の大部隊との交戦です。

 広大な空間の中に、高低差のある無数の階段や通路があります。
 手すりなどはなく危険です。
 通路や階段は無秩序に、縦横に交差しており、奥の広場へ続いています。
 所々にある踊り場以外は、幅が狭く一人しか通れません。

 パーティは別の通路でバラバラに進軍しても、まとまって進軍しても構いません。
 いずれにせよ、それぞれにメリット、デメリットがあるでしょう。

 終着点は、数十メートル四方の広場です。
 おそらくコアルームにかなり近いと思われる場所です。
 少佐はここで少数の直属部下の他、『第十七電子化魔導隊』と共に、指揮をしています。
 二十名の生け贄が、後ろ手に縛られています。

●生け贄
 二十名程居ます。
 いずれも子供です。
 おそらく全員ではありませんが、かなりの数です。
 出来る限りの生存が望ましいです。

●敵
 機甲師団に属する大部隊『エルガーヴォルフ』です。
 各隊には隊長と副隊長が一名ずつ居り、強め。その他は弱めです。

 通路のあちこちに少人数ずつ配置されています。
 イレギュラーズに向かってきます。
 作戦にあまり長い時間がかかると、徐々に増援が増えるようです。

 メタですが。敵とどんな場所でどう当たるかは、イレギュラーズ側が決めてかかって構いません。
 特に決めない場合でも、そこそこ有利な当たりになります。
 理由はイヴァンの有能さということで一つ。

『大隊長クラインシュミット少佐』
 エルガーヴォルフ全体の指揮官です。強いです。
 銃とナイフを使った軍隊格闘術の他、周辺の味方能力を底上げする指揮能力を持ちます。

『少佐直属兵』×6
 少佐の部下です。若手将校と、熟練の兵士に見えます。
 若手将校3名はピストルとサーベル。
 熟練の兵士はアサルトライフルとナイフで武装しています。

『第八鋼鉄猟兵隊』×12~不明
 甲冑に身を包み、各々が高度な判断を下す裁量権限を持つエリート部隊です。
 ガトリングガンと巨大な手甲で戦います。

『第十一特殊機械化騎兵隊』×12~不明
 推進装置のついた甲冑を纏った、火力と耐久、機動に優れた主力部隊です。
 アサルトライフルとナイフで武装しています。

『第十六蒸気空挺隊』×12~不明
 飛行戦闘を可能とする人員で固められています。
 他部隊との連携を得意とする遊撃部隊です。
 スナイパーライフル、長弓等、飛び道具で武装しています。
 大変邪魔な動きをしてきます。

『第十七電子化魔導隊』×12~不明
 巨大なデバイスを抱え、長衣とマスクで身を覆った部隊です。
 周囲を近接を得意とする魔道兵で固め、その他大多数の人員は一心不乱に長尺の儀式詠唱を続けています。
 詠唱はおそらく強化付与の他、なんらかの儀式の精度を向上させるものです。

●味方
 軽騎兵隊と、イヴァンです。
 いずれも非常に友好的で、イレギュラーズの言う事は素直に聞きます。
 特に指示がない場合はイレギュラーズに合わせて無難に行動します。

『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)
 イレギュラーズと共に積極的に戦います。

『鉄帝国軽騎兵エヴァンジェリーナ隊』×12
 イレギュラーズと共に積極的に戦います。
 非常に精強。
 サーベルによる切り込みを得意とする部隊です。

『イヴァン』
 今回の依頼主。
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)さんの関係者。
 帝政派の司祭にして、その実クラースナヤ・ズヴェズダーに潜入し監視している鉄帝国軍人です。
 剣の使い手であり、かなり腕が立ちます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黒鉄のエクスギア>綱紀の司祭、或いは赫き誠剣Lv:15以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年01月29日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
クーア・ミューゼル(p3p003529)
めいど・あ・ふぁいあ
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
久住・舞花(p3p005056)
月花銀閃
すずな(p3p005307)
一人前
彼岸会 無量(p3p007169)
帰心人心
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ


 漆黒の虚ろは夜闇より尚暗く。
 広大な空洞の中を絡み合う白糸が無秩序に走っている。
 鉄帝国帝都スチールグラードに横たわるスラム街モリブデンの地下に、よもやこんな場所があろうとは誰が想像したであろう。

 そんな糸――間近で見れば金属質の道や階段と分かる――の上を一行は駆けていた。
「イヴァン、まさか貴方と肩を並べて戦うことがあるだなんてね。想像もしていませんでしたわ」
 靴底をコツコツと鳴らし、『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は高揚を隠そうとも想わない。
「それはこちらのセリフだ、ヴァレーリヤ」
 イヴァンとヴァレーリヤは共にクラースナヤ・ズヴェズダーという、貧しい民を救わんとする教派に属している。
 組織は帝国と足並みを揃え国家を内部から改善しようというイヴァン等『帝政派』と、帝国を打倒せんとするヴァレーリヤ等過激な『革命派』とに分かれていた。
 どちらの派閥も共に民のためを想い最善を尽くしているのだが、理想の違いからか実際の所は何かと剣呑とする場面も多い。ヴァレーリヤの言葉はそれ故に生じたのであろう。
「でも、今回は味方同士。頼りにしていますわね! 絶対に子供達を助け出しましょう!」
「ヴァレーリヤ、俺達は……帝政派も革命派も、目指す本質は同じはずだ」
「ああ……あのイヴァンから、そんな言葉が聞けるなんて!」
「おい、言い方!」
「私達だって同じよ!」
 得意げに振り返ったのは『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)ことリーヌシュカであった。
「ふふ、リーヌシュカもね!」
「軍もクラースナヤ・ズヴェズダーも、無論イレギュラーズも、だな。血潮の儀は絶対に止める、力を貸してくれ」
「水くさいですわ、イヴァン」
「当然よ! 私達が絶対に助けるんだから!」

 イヴァンとリーヌシュカを加えた一行は、重大な依頼を請け負っている。
 そもそもの発端はスラムの再開発計画であった。
 軍民一体の計画は鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒの元で、順調に進んでいた。
 そうした中で頻発したのは、地上げや暴力事件であった。民に犠牲を強いるような些か以上に強引すぎるショッケンの手腕は、主に民へ味方する宗教組織クラースナヤ・ズヴェズダーからローレットへの依頼を産むに至る。
 依頼をこなす内に見えてきた事がある。ショッケンの真の狙いはスラムに眠るとされる古代の殺戮兵器を手に入れようとするものだと判明したのだ。
 事態は政治の絡むセンシティブな問題に発展した。兵器の発掘自体は殊更とがめ立てされるものでもなく、また力こそ全てであるこの国において、荒事そのものは付きものでもある。
 こうして大量に舞い込む依頼の中で、最も大きな問題が浮かび上がってきた。『血染めの儀』と呼ばれる虐殺によって、この古代兵器を動かそうという恐るべき計画である。
 不確定な情報が錯綜する中、先の第三次海戦の後、皇帝不在の今。水面下で動く軍部別派閥とクラースナヤ・ズヴェズダーは再びローレットへの依頼を決めた訳なのだった。
 この戦域での目標は、ショッケン派の部隊へ大打撃を加えること。及び儀式の生け贄となる子供達の救出である。
 ともかく一行はこの巨大な構造物――古代の殺戮兵器である歯車城『モリブデン』の内部に潜入したのであった。

「それにわたし、あなたたちと一緒に戦えてすっごく嬉しいんだから!」
「まさに昨日の敵のは今日の友というわけだ」
 大きな帽子を揺らし軽妙な足取りで跳ねるリーヌシュカに、『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)が応じる。別に嫌味を述べたつもりはなく、鉄帝国人の流儀に対する正しい理解であろう。
「もちろん!」
 故に反応も明快極まる。
「君は、とても可愛らしく愛おしい。食べてしまいほどには」
「愛無! 食べるのは、だめよ。だってこわいじゃない」
「冗談だ。緊張をほぐすための地球外じょーく」
「地球……!」

 愛無の言葉通り、第三次海戦でイレギュラーズは海洋側に参戦し、鉄帝国と矛先を交えている。
 脆弱な国土に苦しむ海洋王国が発した外洋踏破の大号令は王国の悲願であり、そこに一枚噛もうとやってきた鉄帝国に対して、『にげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は色々と思う所がある。
 だがだからこそ、このような内患のせいで鉄帝国に倒れてなどほしくない。そんな展開は面白くないという訳だ。歯車城なる胡乱な兵器、それを狙う胡乱な輩は全力で叩きのめすのみだ。
 刀に手を添え駆ける『月下美人』久住・舞花(p3p005056)もまた、言葉を交わす仲間達を尻目にふと想う。
 大闘技場ラド・バウのD級闘士でもあるリーヌシュカとその部下、それに対するショッケン派の鉄帝国兵士達。どちらもこの国の正規兵ではあれど、そのやりようは随分と違っているものだ。
 だがどちらが幅を利かせているかと言うならば、おそらく――

 ――侵入者だ!
 ――生かして返すな!

 さっそくお出ましのようだ。


「上だな」
 愛無の警告に一同が得物を抜き放つ。
 怒鳴り声と足音が近づいてくる。

 錯綜する道を駆け抜け、三名の兵士がロープで下りてきた。武装はアサルトライフルと推進装置。第十一特殊機械化騎兵隊であろう。
「生かすもなにも、全て燃えるのです」
 あどけない笑顔で、クーアは駆ける。
「なっ、はや――」
 言い切る前に、言葉は炎に飲まれた。瞬く間のうちに火だるまとなった兵達が叫び声をあげた。
(彼らも後が無かろうに。この気概。この気骨――)
 さながら獰猛な獣のように、けれど涼しげな表情を崩すこともなく愛無が小首を傾げる。
 追い込まれた獣ほど味が熟成されると嘯き。
「さぁ、狩りの時間だ」
「ええ、そのようです――」
 凜と鞘走りの音色、第三眼に見える必勝の線を捕らえた彼岸会 無量(p3p007169)は美しい貌、口角を三日月型につり上げる。
 殊更に想う所は、実のところ然程ありはしない。己が修羅道の定め、屍山血河を進むが如くすり足で一歩踏み込んだ。
 一刀。朱呑童子斬が鋼のロープを寸断し、兵士の一人が絶叫を放ちながら奈落へと消えて往く。足元で銃弾が弾ける音がした。

「こちら第十一隊二班、至急応――ガァッ!」
 懐に飛び込んだ愛無の背が歪み、生じた黒槍が兵を刺し貫いた。
 喀血する兵は応援を呼ぶ間もなく、舞花の放つ多重の斬撃に崩れ落ちる。
 戦棍を携えたヴァレーリヤは短く祈り、緒戦はあっけなく終わりを告げた。
「急ぎましょう」
 刀の血糊を払い、舞花が駆け出す。時間が惜しい。
 舞花は未だ子供達が犠牲となっていないのはタイミングか、なんらかのトリガーが必要だからであると踏んでいる。
 何時でも良い訳ではないのだろう。
 だから子供達が無事であるうちに、一行は迅速な進軍で子供達の居る広場へ到着せねばならなかった。

 ――

 ――――

 絡んだ糸のように錯綜する道の中央で。クラインシュミット少佐は脚をせわしなくゆすっていた。
 ふと視界に入った子供の一人が蒼白な顔で視線を逸らす。
「屑鉄のガキ共が……」
 弱者の集まるスラムに生まれた者をさげすむ視線がそこにあった。
 強くある事を尊ぶ――と当人は思い込んでいる――少佐にとって、子供達の弱腰な姿勢がまずもって気にくわない。
 とは言え少佐は反抗すれば手を上げるタイプの生き方をしてきた上に、そも軍人と民間人それも子供と大人では力量差は歴然としている。
 子供達に非などあり得ないのだが、少佐はそれを認めるタイプではない。自分本位な少佐にとって都合がいいからである。

「第十六蒸気空挺隊からの報告です! 侵入者を発見とのこと!」
「どうすればいいか分かるな?」
「サー! イェッサー! 直ちに排撃を行うべきかと具申します!」
「ならば今すぐやれ!」
「サー! イェッサー!」
 少佐は報告する部下を怒鳴りつけた。

「イレギュラーズ、忌々しいやつらめ……」


「今回の戦は僕達が君達と共に在りてこそ勝ち得る。
 鉄帝の国の旗を無辜の民の血で汚さんとする逆賊を討ち倒すとしよう!」
「ヒュー! 任せとけ!!」
 力強く叫んだ『観光客』アト・サイン(p3p001394)に、鉄帝国軽騎兵エヴァンジェリーナ隊の面々が喝采を浴びせた。
 柄ではないようにも見えるが『勝つためには幾らでも舌を回す』と言えば、より『らしい』とも思える。
「今回の君達の気骨ある判断に敬意を表す、全力で共に戦おう」
 述べた『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)に、軽騎兵達が一斉に敬礼した。
 彼等は軍属であり、政治的にはギルド条約に守られたイレギュラーズとは立場が違う。
 ショッケン一派が正規の軍事行動である以上、場合によっては処罰もあり得るのだ。行動原理はただの義憤であり、それをアトやラルフ達イレギュラーズ一行に買われた軽騎兵達の士気は一気に高まった。
「みんな頼りにしてます!」
「あんたもな! なんだかウチの大将みてえだが!」
 あちら側も含めて、一人一人に挨拶を述べた桐神 きり(p3p007718)は――リーヌシュカと比較するならば若干大人びてはいるのだが――幼く見える。
 この世界で外見とそれ以外とが釣り合うとは限らず、頭脳の面では遙か上を往くのだろうけれど。
「無辜の民――其れも子供を犠牲にする。如何に大義があろうと容認など不可能です」
「あたぼうよ!」
 怒りをあらわにする『妹弟子 』すずな(p3p005307)のまっすぐな瞳もまた、軽騎兵達の歓心を買った。
 いかに力が正義と言えど、子供を狙うのはさすがに大人げないとはきりの言葉であるが、荒くれ揃いの軽騎兵達も同じ感想を抱いているらしい。
 ましてや軍がそれを行うなど言語道断、すずなに言わせるならば「ふざけるのも大概にして下さい」である。
 ともあれ一行は僅かな間に軽騎兵達の信頼を得ることに成功したようだ。
 後は『カッコいいところ』を見せるため――きりは鋼銃剣・零式を抜き放つ――頑張らないといけない。

 イレギュラーズ達は潜入にあたり、班を二つに分けていた。先ほどの面々がA班とするならば、こちらはB班である。
 B班の役割は、可能な限りA班の交戦回数を減らして力を温存させることだ。
 更に、行軍はあくまで敵との交戦を極力避けるように進められている。それはおそらく、功を奏しているだろう。
 だがやはり、ゼロとはいかない。

 ――眼前に迫る十名程の兵士達へラルフは鋭い視線を送った。
(儀式は知らぬが幼子を犠牲にして築く物が正しい訳が無い)
 その心境は仲間達と同様に。
(手段を選ばなくなるのは鏡を見ているようで反吐が出る)
 されど些かの複雑さを孕んではいるのだが――

「すみませんが、押し通らせて頂きます……!」
 通路を塞ごうとする敵部隊に向け、すずなが凜と啖呵を切る。
「貴様等イレギュラーズだな、これは警告だ。今すぐここを立ち去れ!」
「警告!?」
 敵の傲慢な言葉を受け、すずなは愛らしい眉をつり上げた。
「受ける謂れはありません……っ!」
「殺れ!」
 こうして激突が始まった。

 抜き放たれた三尺五寸の長尺刀。
 清廉と妖禍を併せ持つ竜胆の間合い。一足一息。その剣界に踏み込んだ兵の胸を光が駆け抜け――僅かに遅れて咲き乱れる血花。
「油断をするな! 敵はイレギュラーズだ! 並の冒険者とは思うなよ」
「イェッサー!」
「ヤボール!」
 漆黒を切り裂くマズルフラッシュに、だがラルフは一歩前へと踏み出した。
「イレギュラーズ! やつら正気か!?」
「さて、見たままだろうね」
「攻撃を集中させろ!」
「じゃあお見せしますね!」
 踏み込みと共に、きりの左目に紫電が宿り、一刀。
 舞い踊る血霧を切り裂く二刀。続く炸裂音。華麗な斬撃と銃弾の乱舞に、兵はその身を浮かせて踊るのみ。

 敵味方は共に飛行や機動力を駆使する格好で戦闘を継続しているが、戦力はイレギュラーズ側が――ほぼ一方的に――優勢であった。
 こうした比較的手狭な通路での交戦は長くなく、踊り場と呼ぶべき多少の広場に至った時、その戦力差は特に顕著となる。
「血気盛んなだけが、彼等の取り柄なのでせう」
 述べた『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の言葉通り、そしてラルフの狙い通りに、敵はラルフへと攻撃を集中させている。
 そしてラルフの極めて均整の取れた戦闘スタイルから生み出される驚異的なタフネスと、ヘイゼルの絶大な回復力に気付く頃には、各個撃破されているという流れだ。

「まあ、順調ってことでいいんじゃないかな」
 僅か一分の緒戦を終え、アトが振り返る。
「やるじゃねえか、あんたら! ウチの大将が増えたみてえだぜ!」
「あちらも順調だと良いのですが」
「だいじょぶだと思います!」
 すずなにきりが答える。道は複雑に入り組んでおり、高低差も激しい。あちらの班の様子は俄には見て取れなかった。
 だがおそらくこちらがより多くの戦力を引き付けているであろう実感はある。

 一行は虚空を繋ぐ鋼の道をひた走り、再び遭遇した数名の部隊を蹴散らした。更にもう一部隊。
 こうして進軍とごく短時間の戦闘とを継続する中で、見えてくるものもある。
 現状は、人数の多いB班が派手に戦う事で敵の目を上手く惹き付けていると言えた。
 仮に班分けを行わなかった場合、おそらく道中の交戦は過剰戦力となったであろう。進軍のペースが落ちた可能性がある。
 三班にまで割った場合は、あるいはより進軍のペースを上げることも出来たかもしれないが。後の本戦でより大きな危険が生じる可能性も否めない。
 今のところの観測上では、おそらく最善の作戦であると思えよう。
 そうした中で最も多くの血を流したのはラルフではあるが、可能性の炎を燃やすにはいたらず、未だ至って平然としている。
 鋭い自然の奥に眠るのは『ワイルドハント』――狩った獲物の記憶をため込んでいるに違いない。

 それにしても変わった遺跡だ。
(この異様な通路群はいったい、何のために作られた物なのでせう?)
 ふと想うヘイゼルの足元、その材質すらも不明な金属状の素材で出来ている。
 幅の広さも様々に這いめぐらされた様子は、どこか人体構造めいても見え。
「血潮の儀から流された魔力が駆け抜ける回路」
「そのあたりは僕も気になるね」
「血に例えるならば、この道は血管といったところでせうか」
「なるほど、そうかもしれない」
 ヘイゼルとアトは遺跡自体にも興味を覚える。この構造物自体の極端な大きさを考慮するならば、殺戮兵器として扱われた際の被害は想像を絶するだろう。
 ともあれ――駆けるヘイゼルは道の先を見据える。自国民を犠牲にしてまで、古代遺跡等と言う他力に縋るような性根の相手が、軍人面をしているのは実に気に入らないところであった。

 ――叩き潰してくれませう。
   私以外の皆が!

 脳裏によぎる些か冗談めいた言葉を飲み込んで。


「状況を報告しろ!」
 部隊を束ねる大隊長クラインシュミット少佐が怒鳴りつける。
「サー! イェッサー! 敵はおそらく二手に分かれ、こちらへ迫っている模様!」
 第十七電子化魔導隊の一人がマスクを外した。
「増援はまだなのか!」
「直ちに手配を急いでおりますが、その、申し上げにくいながら」
「言ってみろ!」
「サー! イェッサー! 援軍がこちらへ進むのと同時に、相手も進んでおりまして」
「……」
 沈黙する少佐に向け、魔道兵が眼鏡のブリッジに指を立てる。
「サー! イェッサー! 例えば家を出たたかし君を、お兄さんが十分後に自転車で追いかける時、二人の遭遇は」
「それを説明にしてどうなる」
「な、ならば。移動する点Pに置き換えるならば――」
「そんなことは分かっていると言っているのがわからんのか! このバカ共め!」

 ――敵襲! 敵襲!!

「貴様等は詠唱を続けろ!」
「ハッ!」

 突如。轟音――爆炎が迸る。
 炸裂した熱と光に、数名の兵士が飲まれた。
「何事だ!」
「おい! 鎮火を急げ!」
 燃えさかる炎の中から現れた影。

「赤黒く麗しい終幕の、これはほんの一端なのです」
 現れたのはクーア。続いてイレギュラーズA班の面々であった。
 兵士達がいきり立つ。
「撃ち方用意!」
「まあ待て、賢明なる同志諸君」
 一際大柄な男が片手を上げて歩み出る。
「我等エルガーヴォルフの攻勢を掻い潜りここまでたどり着いた勇敢な! だが哀れな者共にいささかの時間をくれてやろうではないか」
 どっと笑いが起きる。勝利を微塵にも疑わぬ姿勢だ。無理もない、少なくともその数は敵方のほうが圧倒的に多いのだ。
「クラインシュミット少佐ね――」
「いかにも! 我こそ貴様等に引導を渡す者! 誉れ高き機甲師団がエルガーヴォルフ隊長! ゲブハルト・クラインシュミット少佐である!」
 少佐が胸を張る。
「さて。遺言があれば聞いてやるぞ!」
 舞花は怯える子供達を一瞥し、少佐に向けて斬魔刀を向ける。その構え――鏡花水月。
「武力で勝る鉄帝国が何故、天義にも……幻想にも勝てないのか。貴方達を見てその理由がよく分かった」
「なんだと――もう一度言ってみろ!」
「貴方達のような輩、その思想が蔓延っているからだ。奪う奪う奪う――自国の民からすら奪うだけ。その愚かさ、幻想の貴族にすら劣る。勝てなくて道理というものね」
 少佐の顔が赤黒く色を変え、額に血管が浮かび上がる。
 おそらく少佐は舞花のロジックを理解しまい。理解はしても共感は出来まい。出来るのであればこのような生き方はしなかっただろう。
 だが痛烈に罵倒されたことだけは理解出来る。特に『幻想の貴族に劣る』の下りで、怒りに火が付いた。

「力の差と言う物を思い知れ!」
 鉄がひしゃげる音を立て、少佐の姿が舞花の眼前に迫る。
「終わりだ」
 突き出された至近のナイフに刀の間合いは長すぎる。腹部に迫る刃は、しかし虚空を貫いた。
「ええい! 殺れ!」
「サー! イエッサー!」
 返す舞花の一刀から辛うじて身をかわした少佐は怒声を張り上げる。

「知っているかね?」
 だが少佐の前に兵士が割り込むよりはやく、愛無はその懐に飛び込んだ。
「何かを背負っている奴は強い。そして、強いやつは。美味いんだ」
 愛無はおもむろに小さな固ゆで卵を口の中に放り込み――その姿がぐずりと歪んだ。
「なんだ貴様!」
 擬態の解放、漆黒の怪物はぞろりと生え揃う歯を剥き出しにして嗤ったように見えた。
「この面妖な化け物めが! 鉄帝国軍人に脅しは効かない!」
「そう、僕は正真正銘の『化け物』だ。脅す? 一体何をだ」
「貴様を殺してやる」
 食らい付く。噛みちぎる。鮮血が舞い散り、少佐の腕の装甲がひしゃげる。
 だが少佐は強引に腕を引いた。愛無は跳ね飛んだ部品を咀嚼して飲み込む。
 少佐は機械構造が剥き出しになった腕で愛無を強かに殴り、蹴り飛ばす。床にたたきつけられた愛無が哄笑した。こうでなければ面白くない。
 守りたいものも、狩りたいものもはっきりとしている。分かりやすい戦場だ。分かりやすい敵だ。子供達を見殺しにしたとあれば、愛無自身が『団長』に殺されてしまうではないか。

 ――主よ、天の王よ。

 紡がれる聖句。燃え上がる戦棍を振り上げたヴァレーリヤの瞳を怒りが彩る。
「この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え!」
 濁流の如く押し寄せる炎が機械化魔導兵を飲み込み、一気になぎ払う。
「詠唱中断! 散開!!」
「イエッサー!」
 爆風のただ中で兵士達が叫ぶ。これ以上の密集は危険だと判断したのだろう。
「善い判断でしょうが――些か遅いのでは」
 朱呑童子斬が閃き――それは果て無き業の行きつく先、壱拾弐業之壱・無量業――あたかも優美な殺陣を想わせた無量の眼前で、数名の機械化魔導兵が胸元から鮮血を吹き上げた。

 機械化魔導兵数名が杖型のデバイスを一斉に向ける。
「撃てー!」
 魔弾の嵐が一行を襲い、その身に僅かずつ、けれど多量の傷を刻んで往く。
「無事かヴァレーリヤ!」
「なんですの、イヴァン! この程度でくたばるわけありませんわ!」
「お前、それ誰の影響だ」
 イヴァンが将校の一人と斬り結ぶ。
「覚悟しなさい!」
「D級闘士風情に何が出来る!」
「じゃあ、教えてあげるわ!」
 白刃の群れを操り、リーヌシュカが軍人の一人と相対し――


 幾ばくかの時がたち、けれど激闘は続いていた。
 個の戦力に優れたイレギュラーズと数で勝る敵方との戦いは、自軍零に対して敵方が一という無慈悲なキルレシオを突きつけている。
 あくまで、今のところは――
 目立ち始めたのは無双にも近いイレギュラーズに、徐々に徐々につきはじめた無数の傷痕だ。
 また個の戦力で優勢であっても敵方とて数名の強者がおり、とりわけ少佐の戦闘能力は目を見張るものがある。
「なるほど……力を妄評するだけはあるということか」
「よくぞ持ちこたえた! 感動した!」
 舞花がこうして少佐を抑えぬき、膝を折っていないのは正に彼女の高い戦闘能力の賜であろう。
 無数の傷と長い闘いは、されどあたかも勝利の運命を引き寄せるように彼女を戦場に踏みとどまらせている。

 他の面々もまた、極めて高度な判断と戦闘能力を両立させ、激闘を戦い抜いていた。
 故に問題は、あくまで数であろう。
 数名を倒せば新手に数名が現れるといった状況は、いかにも歯がゆいものだった。
 とはいえ最優先とする『目的』はあくまで『エルガーヴォルフに大打撃を与えること』であり、そう言った意味ではA班とB班を合わせた上で、その目的はある程度達成されたと言える。
 仮にこのまま逃げ帰ったとしても、機械化魔導兵の動きを大きく毀損したであろうことに違いは無い。作戦はおそらく一応の成功と見なされよう。
 だが――イレギュラーズの『目標』は、そうではなかった。
 子供達を救出できるか、できないか、そこに勝敗を見定めているのである。
 そしてその到達に向けた道筋は――イレギュラーズ一行の行動には何一つ瑕疵はないのだが――極めて厳しい状況となりつつあった。

 ――この時までは。

「さて」
 美しく穏やかな、けれどどこか乾いた声音と共に、舞花の身を暖かな心身調律の魔力が満ちあふれる。
 流れた血が、傷が、光と共に消えて行く。
「もうひと頑張りといきませう」
 表情一つ変えぬまま、ヘイゼルが述べた。
「ええ……これで全てが揃った」
「あの女から殺れ!」
 数名の兵士がヘイゼルへ殺到する。
(舐められているのでせうか)
 ナイフと銃弾のことごとくをかわし、ヘイゼルは癒やしの術を紡ぎ続け。

「絶対に、儀式は止めます。容赦はしませんので、覚悟して下さい……!」
 声を張り上げたすずながわずかに腰を落とし、愛刀竜胆に手をかける。
「居合か、だがこれならどうだ」
 兵が構えるガトリングの銃口が牙をむき――神速の抜刀。
「ちゃんばらが銃に勝てるわけn――」
 虚空を切り裂く刃の一閃に断ち割れた重火器と共に、兵は得意満面の表情を張り付かせたまま吹き飛んだ。
「勝てますよ、あなたたちにぐらい……!」

「殺す、殺す殺す殺す殺す」
 ――食い殺す!
 躍りかかった黒い影――闇色の粘膜を放ち、愛無が兵の喉笛を食いちぎる。笛のような音を最後に、その身体を一息に飲み込む。
「ば、ばけものめ!」
 どいつもこいつも、みな同じ事を言うものだ。
 掻き消えるように跳ねた愛無は次の犠牲者にのしかかり、その粘液で身体をずたずたに引き裂いた。
「……俺がやる」
 決死の覚悟で立ちはだかったベテランの兵に怪物は舌なめずり一つ。

「もう一押しってところかな」
 飄々と述べたアトが拳銃を抜き放った。とある世界の西部に『平和』をもたらした銃――その模倣品。
 魔力の火花と共に放たれた無数の弾丸が、機械化魔導兵達を次々に撃ち貫く。
 焼け付く痛みに無視を決め込み。
「観光客流剣術奥義『盜火線』ってね」

「ずいぶん遅かったじゃない! 待ちくたびれたんだから!」
 肩で息をするリーヌシュカが振り返ることもなく声を張る。
「すまなかった、リーヌシュカ、隊員を返そう」
「ダーダダース!」
「それでお礼は何をくれるわけ?」
「今度また、面白い試合を」
「それ絶対に約束よ!」
 ラルフの言葉に頬を紅潮させ、リーヌシュカが歓喜する。
「軽騎兵隊!」
「ダース!」
「セルゲイとヒョードル以外は、全軍突撃よ!」
「ダーダダース!!」
 サーベルを振り上げ、軽騎兵達が敵陣に殺到する。
「あ、あの!」「俺は!」「俺たちは!」
「二人はあっち!」
「ダース!」
 リーヌシュカの切っ先が向いたのは。

「イヴァン、頼めるか」
「ああ。ラルフ……だったな。無理はするなよ」
「見捨ててもかまわんさ」
「二度と言うなよ、そんなこと」
 ラルフの言葉にイヴァンは剣をひき、軽騎兵のセルゲイとヒョードルを借り受けて子供達の元へ駆け出す。
「頃合いですね、もう大丈夫です」
「おねええじゃあああん!」
 きりもまた、子供達の元へ駆け寄った。幼い少女の一人が泣きじゃくりながらきりの胸に飛び込む。
「仕方ないですね」
 少女を片腕に抱きしめ、やや気おされながらも、きりは剣で子供達をつなぐ鎖を次々に切断していった。
「急ごう」
「そうですね」
「おうおう、お子さんども、俺達にまかせときな!」
 イヴァンときりが子供達を連れて離脱する中、イレギュラーズの猛攻は続いている。
 殲滅速度が敵の増援を上回った形だ。
 広場の兵達がいなくなるのは時間の問題で、もはや儀式どころではない。

「貴様等ぁ! 邪魔をするなぁっ!!」
 叫ぶ少佐は、しかし。
「ああ、それじゃあ駄目だ」
「このッ! 離せ!!」
 肩に食らいついた愛無をしこたまに殴りつける。強烈な膂力にひしゃげ、それでも愛無は離れない。
「このまま分解(バラ)してやる」
 少佐はナイフを抜き、その背に何度も刃を突き立てる。切り裂く。
「少佐!」
「こいつを殺せ!」
「じゃ……死んでもらおうかな」
 突き飛ばすように飛び込んだ若手将校の頭を、愛無は食いちぎる。
 肩のパーツを粉砕された少佐はそのまま踵を返して走り出し、敵軍の撤退が始まった。
 これで勝利は揺るがない。

 だがイレギュラーズにはもう一仕事あった。
「イヴァン達を追いましょう」
 ヴァレーリヤの言葉に一同が頷く。
 帰路が安全だとは限らないのだ。
 合流した一同は一路地上を目指す。各々の疲労を癒やしに、あるいは次の戦場へ向かうために。

 イヴァンがふと口にした言葉。

 ――ヴァレーリヤ、お前にだけ言っておく。
 ――なんですの、改まって。
 ――いや話してくれても構わないんだが、そうだな。
   おそらく荒唐無稽な話に聞こえるかもしれない。孤児院のラウラの夢についてだ。

 イヴァンの口から語られた、その驚くべき内容をヴァレーリヤは胸に秘め。
 こうして一行は――すくなくともこの戦域においては――全ての目標を無事に達成したのである。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
祈りの先
久住・舞花(p3p005056)[重傷]
月花銀閃
彼岸会 無量(p3p007169)[重傷]
帰心人心
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
獏馬の夜妖憑き

あとがき

依頼お疲れ様でした。

ただただ一言。お見事です。
全ての読みが当たっていたのではないでしょうか。

それではまた皆さんのご参加を願って。pipiでした。

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