PandoraPartyProject

シナリオ詳細

新年花火に想いを込めて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●明けましておめでとうございます!
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
 ぺこり、と新年の挨拶をする『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。顔を上げた彼女はイレギュラーズたちへ今年の抱負を問う。
「1年の初めにはその年の目標を決めるんでしょ。ボクはね、色んなところに行ってみたいな。……出来るなら、アンタたちと一緒にね」
 賑やかなのも悪くないから、と告げたシャルルは羊皮紙をイレギュラーズへ差し出す。「手始めにこういうのはどう?」と。
 パッと覗いてみれば『海洋』の文字。依頼人は海洋国の住人らしい。
「花火師なんだって。年初めの月に打ち上げる花火を作って欲しいってさ」
 花火といえば夏の祭りで打ち上がる、というイメージが強いだろう。しかし花火師もそれだけではやっていけない。祝い事などの折には進んで売り込むのだそうだ。
 そんなわけで、新年を迎えためでたいこの時期。新年の抱負を込めて花火を作って打ち上げるのがここ最近の通例だ。
「問題なのがその『作る』って工程。募集した作業員が揃いも揃ってぶっ倒れたらしいよ」
 大晦日にハッチャケ過ぎたらしい。今は皆グッタリと力なく──身も蓋もなく言えば酷い2日酔いなのだが──働くどころではないとか。
 だがしかし、今年は大号令もあって容易に人が集まらない。ならば代わりにイレギュラーズを呼ぼう、となったのだそうだ。
 ここで誰しも、いや誰かは考えるだろう。──花火なんて作った事がないぞ、と。
 花火といえば職人が作るもの。適当にそこらの一般人を捕まえてきたって見せられるようなものができるはずもない。
 そうシャルルへ告げると、彼女はえ? と言うように目を瞬かせた。
「出来るものらしいけど」
 え?
「ほら」
 ここよく見てよ、と羊皮紙を示されるイレギュラーズ。シャルルが指差したのは募集要項だった。

『募集要項:
 新年の抱負、希望、願いがある者
 ※製作経験は問わないものとする』

 マジかよ、と目を丸くするイレギュラーズにシャルルは肩を竦める。どのような作り方をしているのか定かでないが、経験は問わないと言っているのだ──募集要項を満たせば構わないのだろう。
「……そんなわけだから興味があるなら申請してみれば? 
 あ、申請するならユリーカによろしく。今ちょっとブラウがいないからさ」
 どこ行ったんだろうね、とシャルルは首を傾げる。さて、本当にどこへ行ったのか。
 そういや姿を見ていないな、というイレギュラーズの鼻腔を串焼きの良い匂いがくすぐった。


●花火工房
「よく来たな! さあさこっちだ、座ってくれ!」
 イレギュラーズたちが訪れると、親方がにっかりと笑って工房内へと促した。10人ほどが囲めるだろうテーブルの周りに座り、持ってきた食べ物や飲み物を広げて。
「んじゃあどうすっかね、そこの嬢ちゃんから話すかい?」
「……え? ボク?」
 キョトンと目を瞬かせたシャルルは、周囲の視線を感じて気まずそうに小さく咳払いした。
「……え、っと。その、そんなに見られると恥ずかしいんだけど。
 ボクはローレットでも話したけど……色んなとこに行ってみたい、っていうのが今年の抱負だよ」
 去年もあちこち回ったけれど、じっくり回れた訳ではないからと告げるシャルル。各国を深く知りたい、ということだろうか。
「薔薇の嬢ちゃんは普段どこにいるんだい? 幻想国?」
「うん。旅人だから……出身国とかないし。ローレット近いし。あと、森にいるのが心地よくて」
 森? と何人かの声がハモる。シャルルの視線が小さく泳いだ。
「いや、ほら……もともと精霊だったからさ。自然が多いところっていうか、緑の多いところが落ち着くんだ。今は流石に寒いけど、去年の春頃とか、秋の初めはよく散歩したりしてた」
 だがそればかりではこの世界についての情報も限られる。銀の森で焔の精霊種が仲間となったことも世界への興味の一端となったのだとか。
「本人にはナイショだよ。絶対にだよ」
 しーっと人差し指を当てるシャルル。それを守るかどうかはイレギュラーズたち次第──と、それは置いておいて。
「他への興味か、良いね」
 親方は満足そうに頷いて、手の中にあった球をしっかりと抱え直す。どう見ても完成した花火球に手をかざした親方はむにゃむにゃと何かを唱えた。
「うし、こいつぁこれで完成だな!」
「……本当に? これで?」
 胡乱な表情を浮かべるシャルルへ親方が頷く。
「依頼した時に言ったろ? 必要なのは『新年の抱負がある奴』なんだ、職人じゃねぇよ。あとの残る工程は俺があんたらの話を聞いて、それを込めるってぇものさ」
「ふぅん……? ま、それでいいならいいか」
 水色の瞳がイレギュラーズへ向く。まるで──次は誰が話す? とでも言いたげに。

GMコメント

●すること
 新年の抱負を語ろう!

●場所
 花火工房です。親方が待ってます。
 テーブルを囲んで、何か飲食物を持ち込んだりしてワイワイ喋りましょう。
 新年の抱負を語ると親方がそれに合わせて花火を作ってくれます。

●NPC
・親方
 花火職人です。花火へ想いを込める、という業を先代より継承しています。
 彼が想いを込めた花火は人々の心に響くのだとか。

・シャルル
 元精霊の旅人。イレギュラーズに同行しています。
 紅茶の入った水筒とサンドイッチを持参しています。一緒に食べましょう。

●ご挨拶
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。愁です。
 某シスターくじでネギマが出るらしいですね。私好きですよ、ネギマ。
 それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 新年花火に想いを込めて完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年01月17日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
羽瀬川 瑠璃(p3p000833)
勿忘草に想いを託して
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
中野 麻衣(p3p007753)
秒速の女騎士

サポートNPC一覧(1人)

シャルル(p3n000032)
Blue Rose

リプレイ


 工房へ足を踏み入れたイレギュラーズたちは物珍しそうに、案内されるがまま足を進める。材料も機材も見慣れぬものだ。
「花火の制作現場だなんて初めて立ち会うわ」
「ああ、俺もだ。俺達みたいな素人が、こういう所に入るのも貴重な機会だな」
 『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)の言葉に頷いた『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)は本で見たことのある機材に目を留める。紙の上ではないそれは、本物はどうなっているのか。
(ようく目に焼き付けておきたい、けど)
 ここへ入った理由を忘れてはいけない、と彼は視線を前へ戻した。そう、イレギュラーズたちは仕事で来ているのだ。
 よく来たなと笑う親方に『絶巓進駆』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が同じくらい満面の笑みを返す。
「親方! 本日はよろしくお願いいたします!」
「おうよ、こちらこそ頼むぜ! 新年1発目はあんたらにかかってんだ!」
 さあさ座ってくれ、と促されるままに椅子へ着くイレギュラーズたち。『Blue Rose』シャルル(p3n000032)がいそいそとサンドイッチを出すと『不戦の職人騎士』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)がぱっと瞳を輝かせる。
「サンドイッチだ! ……もしかしてシャルル嬢が作ったの?」
「うん。ちょっと……いやだいぶ、不格好だけど」
 彼女が見下ろしたそれは確かに『手作りです』感が満載である。けれど美味しそうなサンドイッチだ。
「わたしは宿屋さんで、お客様にお出しするコーヒーを分けて頂いたの」
 アリス(p3p002021)はコーヒーの入った水筒をテーブルへ置く。少し濃い目でほろ苦いその飲み物は、甘い食べ物と相性バッチリだろう。
「あ、私は屋台でチュロスを買って来たわ」
「チュロス!」
 テーブルに乗せられた紙袋にアリスは視線が釘付け。その様子にくすくすとゼファー(p3p007625)は笑みを漏らす。
「はいはい、慌てなくたってアリスの分もちゃぁんとありますからね」
「そうだ、俺もチョコレートを持ってきたよ!」
 甘いものの登場にイーハトーヴがはっとして、手元から袋を取り出す。開いてみれば宝石のようにキラキラと包装紙が光って。
「ボクはフィンガーフードを! 甘いのとしょっぱいの、たくさんお召し上がり下さいね」
「すごいっす、お菓子がたくさんあるっす!」
 リュカシスの広げた菓子に目を輝かせる『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)の隣で、黒猫がぴょこり。すかさず大地が釘を刺した。
「ウルタール。皆の分のおやつも食べ尽くすなよ」
 声に振り返るウルタール。エメラルドのような鱗を煌めかせ、みぃと鳴く様子は可愛らしいが──はてさて、ちゃんと分かっているのだろうか?
 そんな様子に『勿忘草に想いを託して』羽瀬川 瑠璃(p3p000833)はくすりと小さく笑う。彼女が用意したのはドライフルーツとカモミールティーだ。
「親方さんやシャルルさんもいかがですか?」
「あ、ボクもらう」
 軽く手を挙げたシャルルの前へカップを用意し、丁寧に茶を注ぐ。ふわりと香った良い匂いにシャルルは目を細めた。
「カモミールティーにドライフルーツって、とても合って美味しいんですよ。それに、カモミールティーにはリラックス効果もあるんです」
 シャルルと隣に座っていたイーハトーヴは瑠璃の言葉に感嘆する。ちらほらと手を挙げた者へカモミールティーを提供すると、どことなく空気が緩まったような気がした。それを感じ取ってか、親方がぐるりとイレギュラーズを見渡す。
「んじゃあどうすっかね、そこの嬢ちゃんから話すかい?」
「……え? ボク?」
 キョトンと目を瞬かせるシャルル。こうして今年の抱負語りは幕を開けたのである。



「花火って、こうやって作られてたんだねぇ」
 シャルルの抱負が花火に込められた様子に、イーハトーヴは興味深げだ。これまで花火の製作過程など知らなかったけれど、もしかしたらこれまでの花火もこうして作られていたのかもしれない。花火を見る時は今日のことを思い出して、幸せな気分で眺められそうだ。
(俺の抱負も、素敵な花火になるといいな)
 夜空に咲く大輪の華を思い浮かべ、イーハトーヴは口を開いた。
「俺の抱負は、この世界についてもっとちゃんと知ること、かな」
 シャルル嬢と少し似ているかも、と苦笑いを浮かべるイーハトーヴ。そんな彼へ瑠璃は首を傾げる。
「どうして、そう思ったんですか?」
「ええと、そうだね……俺、混沌に召喚されてからの1年、ずっと綺麗なものに囲まれていたな、って思うんだ」
 可愛いものを可愛いと愛でられる世界。綺麗なことばかりではないはずの世界だけれど、イーハトーヴはそれらとは無縁の場所にいたと思う。いつもフワフワ幸せで、まるで夢のような日々だ。
 特異運命座標は何をしてもパンドラを溜められる。勿論そのまま停滞していても問題はない。
「けれど──」

 ──これは、夢じゃないから。

 真っ直ぐに言い放つイーハトーヴ。この宣言こそが、前に進むための1歩目。
「ここは俺の大切な人達が生きる世界だから、きらきらしていない部分もちゃんと目に映したい。
 ……あとは、武器の使い方も、訓練くらいはし直してみようかな、とか」
 少し考えて再び口を開いたイーハトーヴに、ずっとお菓子を摘んでいたリュカシスがあっと声を上げる。
「イーさん、訓練なさるということは……筋トレだね! その時は、ボクもご一緒させて! トレーニングプランも考えてきますから!」
「……へ?」
 キョトンと彼を見て、そして自分の体を見下ろすイーハトーヴ。確かにこちらへ来てから──つまるは1年ほど──体を全然使っていない。筋力も落ちていそうだ。
「次はボクでもいいデスカ!」
 はい、と元気よく挙手したリュカシスに皆が頷く。彼の抱負は強く、勁くなることだ。
「ボク、ラド・バウのチャンピオンになりたいんです」
「ほお、それは中々大変じゃねぇか?」
 リュカシスは親方の言葉に頷いた。だからこそ、心身ともに強くならねばと思う。
 先達の戦いから学ぶこと。もっと背を伸ばすこと。筋肉も沢山つけること。そうしてA級ファイターとだって1人で渡り合える強さを持つのだ。
「もちろん、チャンピオンになるのが簡単じゃないのは分かっているけれど……小さい頃に憧れだった、ええと、スーパーヒーローみたいになってみたいって、思っていて」
 えへへ、と苦笑するリュカシス。欲張りかもしれない。けれど何もないよりはずっと良い。
「俺ね、絶対叶うと思うな。だって君は、初めて会った日からずっと、俺のヒーローだもの」
「ヒーローですか! じゃあイーさんのヒーローであり続けられるようにも頑張りマス!」
「うん。トレーニングの時もどうかよろしくね、俺のヒーローさん」
 微笑み合うイーハトーヴとリュカシス。そこから強く感じる友情に親方はいいねぇと笑った。
(……友情、ね)
 佐那はそっと目を伏せて、ちょうど視界に入ったチョコレートへ手を伸ばす。頂いても? と問えばイーハトーヴは頷いて。包み紙を開いて口の中へ押し込めば、ホロリと甘さが広がった。
「……私も『強くなりたい』かしらね」
 月並みだけれど思い浮かぶのはこれだけだ。ただ強く、今よりももっと。ローレットへ赴く前から変わらない思いだ。
 剣術をより洗練させ、昇華する。昂る戦いを楽しみ、乗り越えることで今よりも先へ進む。けれど果たして進めているのか、否か。
「イレギュラーズになって、私の剣が届かない相手なんて沢山見つかったわ。敵も味方も強者ばかりで」
 だから尚更、止まるわけにはいかない。常に剣術を磨き、高みを目指さねばならないのだ。
「ただ、」
 終わるかと思っていた話はまだ続く。今年と去年で違うこと。
「例えば友人の様な……関係を築いた誰かを守る為に、戦える様に。その為に強くなる。少しだけ、そんな事も考える様になっているかしら」
 それは使命感や正義感に駆られたものではなく。なんとなく、そう在りたいと思ったのだ。
 それはきっと──また、喪ってしまわぬように。
「私も、大切な人達を護れる力を身に付けたいです」
 瑠璃は視線を下げ、小さく揺れるカモミールティーの水面を見つめる。そこには顔を曇らせた自分の顔が映っていた。
 ローレットで依頼を受け、報酬を得て生活するイレギュラーズは少なくないだろう。依頼は難しい内容だってもちろんあるし、それによっては無事生きて帰るかもわからない。
 けれど──だからこそ、瑠璃は前線で戦う者たちを護る力でありたいと思う。護る力を身に付けたいと思う。
「その為にはたくさん努力が必要かもしれませんけど……私なりに頑張りたいと思っています」
 ちゃんと伝わっただろうか、と親方へ視線を向ける瑠璃。緊張からか心臓が大きく音を立てている。
 視線を受け取った親方は任せろというように頷くと、手元の花火に次々と想いを込めていった。シャルルの後に続いた4人分、花火が完成する。
「どんな花火になっているか、わかるのかしら?」
「何となくな。だがまあ、打ち上がってからのお楽しみよ!」
 楽しそうに笑う親方。佐那はつられて口角を持ち上げる。
「普通の花火よりも楽しみになってしまうわね」
 機会があれば見に行こうか。そう考えながら呟いた彼女の言葉に瑠璃が頷いた。
(皆さんの花火が素敵な花火になりますように)
 素敵な花火になって──今年の夜空を彩りますように。


 一気に5人が続いたので、ブレイクタイムを経て。
「先ほどからときどき、しょっぱくていい匂いがしませんか? だれか、お肉焼いてる?」
「え、焼肉?」
 リュカシスの言葉にシャルルが目を瞬かせる。その時ふわりと香った肉の焼ける良い香り。外からである。
 ふと思い浮かぶのは黄色いひよこ──。
「いやいやまさか。そんなわけ」
 真顔で首を振るシャルル。でも否定しきれない気持ちになるのは何故だろう。
 そんな最中、大地が徐に手を伸ばした。
「ウルタール、もう終わりだ」
 菓子を食べ続ける黒猫をひょいと手元へ拉致し、大地が皆の注目を集める。腕の中では黒猫がまだ食べるんだと言うようにもがいていたが、それを押さえ込みながらどうしたものかと彼は考えた。まとまらず悶々としていたが、ラチがあかなかったのだ。
 ならば、ひとまず声へ出してみようと。
「……死なないこと」
 言ってから少し違うな、と首を傾げ。
「……生き残ること」
 これもまだ言葉が足りないと頭を捻る。
 今年の、と言うよりは一生続くことではあるのだが、いかんせん形にならない。
「何か、そう思うキッカケがあったんですよね?」
 瑠璃の言葉に頷いた大地。思い出すのは先日のこと──首狩り兎『Vorpal Bunny』との再会だ。
「混沌に来る前の、無力な人間だった頃より、俺は力をつけたつもりではある。けどそれでも、俺の力は足りていない」
 これからも戦いは避けられないだろう。しかし今のままでは、大地1人の力じゃ死んでしまう。兎の件が良い例だ。
(……ああ。だから)
 ようやく答えに辿り着いた気がして。大地はそれを言の葉に乗せた。
「だかラ、この先も生き残っていくためニ……皆と共に戦い、生き延びる。それだけの実力を身につける」
 赤羽と大地は2人で1人だが、それではちっぽけな存在だと身に染みている。1人で無理なら皆で生き残るしかない。仲間の背を守り、自らも生き残る。そのための力をつけるのだ。
「敗走するにしたっテ、逃げ切る活路を抉じ開けるだけの力ハ、発揮して見せよウ。
 ……まァ、負け戦は正直御免だけどヨ」
 肩を竦めるけれど、どちらも本音だ。勝てるなら勿論勝ちたいし、負けて逃げられないなんて笑えないから。
「……すごいな、皆。ボクも頑張らないと」
 そう呟くシャルル。ふとそこへ、やけに低い声が響いた。顔を上げれば麻衣が暗い顔でブツブツと呟いている。シャルルにはその内容が理解できなかったが──中には、理解してしまったものもいるやもしれなかった。
 麻衣はひとしきり何か呟いたかと思うとハッ、と我に返る。
「ま、麻衣は何を!? 麻衣が生まれる前のパチンコの話なんか分からないっすよー!?」
「大丈夫ですか……?」
 気遣わしげな瑠璃にこくこくと頷いて、良かったらどうぞと出されたカモミールティーを飲む。皆の抱負を楽しく聞いていたはずなのに、いつの間にか口走っていたのだ。
「……そう、そうっす、麻衣はギャンブルについて考えていたっすよ!」
 彼女が元の世界で暮らしていた頃、父がよくギャンブルをしていたのだそうだ。年の明ける前の日もそうだった。
「麻衣は待ってたけどなかなか当たらないっす……おとーさんついにポチ袋を取り出したっすよ……あれはきっと麻衣のお年玉っす……」
 娘へ渡す金の一部を使って、果たして稼げたのか──いや、その結果は想像に難くない。麻衣に渡されたのは硬貨1枚だけだったと言うから。
「きっとお札しか使えなかったっすね……。麻衣はそうならないように『闇市は最小限!』っすよ!」
 あの思い出と父を反面教師に、金を貯めるのだと麻衣は意気込む。堅実第一、現金貯蓄。
 来年になったら他者に──孤児院の子供たちとかだろうか──お年玉をあげるくらい貯めるのだ。
 そして絶対ギャンブルはしない。する者に関して詮索はしないが、少なくとも自分はやらないだろう。
 闇市? それは最小限だからギャンブルに入らないのである。

 さて、残るは2人。チュロスを食べ終わったアリスがそっとゼファーを見る。2人より多い人とどこかへ来たのは初めてで、視線を集めていると思えば緊張もしてしまう。
(わたしの気持ちも花と咲けるのかしら)
 そんな思いを見透かしたかのように、ゼファーは柔らかく笑うと頷いてみせた。彼女にほんの少しの勇気をもらって──アリスは語り始める。
「あのね、あのね。わたしの抱負。

 春は、ピンクの花弁と戯れて。
 夏は、一面の黄色で追いかけっこでしょう。
 秋は、赤い葉っぱで美味しいものを作るの。
 冬は、白の中に埋もれてみてね?

 ──そうやって、季節と、わたしの大事な人の吐息を近くに感じながら過ごしたいわ!」
 1日、1日。大切な人と移ろう季節を過ごすこと。単純で、子供っぽいかもしれないけれど、それがアリスの願いだ。
「心に余裕がなかったら、楽しめないから。『やきもちとか、するのをやめて、自然体で居よう!』……みたいな、感じかしら」
「まあ。やきもちだなんて!」
 くすりと笑ってしまいそうになって必死に嚙み殺すゼファー。本人は至極真面目なのだけれど──ああ、なんて可愛らしいのだろう!
「私もね、もっと色んな風景を見せてあげたい、とは思うよ」
 さらに言えばやりたいことも行きたい場所もたくさん。2人でならきっと『次は』の言葉が尽きないと思う。
「寒いところは苦手だし、私が勘弁ですけれどね。
 私は小さい頃から流れの身だし、それなりに多くを見て来たと思うけれど……それでも未だ見ていないものだってまだ沢山。
 折角なら、それは一緒に見た方がきっと良い思い出になるでしょう?」
 ねえ、蜂蜜ちゃん? とアリスへ視線を流すゼファー。海洋は勿論、幻想も深緑も、そして他にも色々な国がある。そこには色々な人が、十人十色の生活を送っているのだ。
「いいね、2人で国巡りか? 俺も嫁さんといきてぇもんだ!」
 花火にそれらの想いを込める親方にゼファーが「ずっと海洋に?」と問う。
「この道一筋だからな。若ぇ頃から修行よ!」
「へえ……私にはなんだか想像がつかないわ。1つの場所に留まって生業を持つ、って」
「わたしは、今はわからないけれど。もっと歳を取ったら、そういう未来もありかなあ、なんて」
 アリスは頬に手を当てて首を傾げた。若人の言葉にうんうんと頷いていた親方は、ずいっと迫ったゼファーに目を丸くする。
「今度は親方の想いって奴にも私は興味あるな?」
「は?」
「ええ、ええ。是非とも赤裸々に語っていただきたいですわ! 勿論、親方の甘酸っぱい青春の思い出語りも大歓迎で!」
 いやいや待てよと親方が狼狽える。しかし他のイレギュラーズも聞いてみたいと興味を示し。
「はっ、もしかして此れは親方さんの恋のお話の流れ? やっぱり、恋心も花火に籠めて打ち上げたりするのかしら!」
 きらりと目を輝かせたアリスは、しかしふと緩く首を振った。
 夜空に描くそこには勿論、何処かの誰かの──もしかしたらとっても近しい人の──想いや願いが籠もっているのだろう。けれど、それだけではなくて。
「ありがとう、とか、ごめんねとか。そういう誰かの口に出し難いメッセージも、大きな火花にして伝えられるのなら……
 ふふ、わたしも花火師になりたいかも!」
 最初の緊張なんてどこかに行ってしまったかのように、アリスの声音は上機嫌だ。アリスからの視線に耐えきれなくなった親方が思わず目元を手で隠す。
「ああもうわかったわかった! 昔のクソ恥ずかしい思い出でもなんでも聞かせてやる! 笑うなよ! いやいっそ笑ってくれ!!」
 どっちなんだ、なんて突っ込みを誰かが入れながら、やがてイレギュラーズたちは親方の言葉に耳を傾ける。

 ──今年の花火もきっと、去年に負けない輝きとなることだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ!
 皆様の想いは海洋の夜空を彩ったことでしょう。
 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致しますね。

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