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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>玉砕のパパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●よしだ一家の敗残
 泣いている。
 泣いている。
 子供たちが泣いている。
 たまの休日は、最悪の思い出になった。
 思えば、浅はかな行為であったかもしれない。
 久しぶりの長い長い休日。店頭でたまたま見かけた、安いキャンプセット。
 そうだな、家族でキャンプに行って、秋の思い出を作ろう、などと――。
 見通しが、甘かったのだ。
 キャンプ。
 いうだけなら簡単だ。
 だが、それを達成することがどれだけ困難か――。
 私は、理解していなかった。
 それが、この惨状だった。
 テントもうまく建てられず、寝袋は安物故にすぐに敗れた。
 炭火はうまくつかず、肉は生焼け。
 動物や虫よけも不十分な夜は心細く、とても眠れたものではなかった。
 最初こそ、期待に溢れていた子供たちの眼も、私が少しずつ、ミスを重ねるごとに、徐々に不安に彩られ、最終的には不満にとってかわる。
 ああ、キャンプなんて。
 キャンプなんて、来なければよかった――。

 ――かくり、と。
 男たちは動きを止めた。
 泣きわめいていた子供たち。うなだれる男。絶望の表情を見せる妻。すべてが。
 途端、男たちはきゅいきゅいと、まるで映像を逆戻しするかのように、すべてをさかしまに動き始めた。それはキャンプの工程をさかのぼり、破滅から開幕へ。設置された未熟なキャンプ用具はすべて、綺麗な未使用状態へと戻っていく。絶望から希望へ――逆戻っていく。
 かくり、と。
 男たちは動き始めた。
「お父さん、今日はキャンプの日だね!」
 楽しそうに、子供たちは声をあげた。
「ああ、最高の日にしような!」
 男は、期待に満ち溢れた笑顔を、子供たちへと見せた――。

●ドラゴンの頭の上で
「パパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴンが現れました」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が死んだ魚みたいな目で言うので、イレギュラーズは「今なんて?」と聞きなおしてみた。
「ですから『パパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン』です。アニマルドラゴンですね……」
 ああ、アニマルドラゴンか。
 と、思ったイレギュラーズ達もいたかもしれない。
 アニマルドラゴン。それはドラゴンのようでドラゴンに非ず。
 おおむね三体ほどで同時に出現し、合体すると周囲に被害をもたらす面倒な生物。
「で、今回現れたのは海洋でしてね?」
 ああ、なるほどね、と思ったイレギュラーズもいたかもしれない。
 現在、海洋では22年ぶりの大号令により、新天地への航路開拓で大忙しだ。
 そんな状況の中、幾ら珍妙な生物とはいえ、このような生き物に暴れられては面倒この上ない。
 となれば、討伐依頼が投げられるのも、しょうがないだろう。
「えーと、パパが格安……パパキャンプドラゴンでいいです? まぁ、こいつの顔面には、島がありまして」
 島が、あるのか。
「で、その島の上には、格安キャンプキットを買ってきて大はしゃぎしたけど、必要な道具何も持ってないので地獄の思い出になることが宿命づけられた一家、という概念の擬態生物、よしだ一家がおりまして」
 よしだが、居るのか。
「パパキャンプドラゴンを倒すためには、このよしだ一家のお隣でキャンプをする人たちになり、よしだ一家をさりげなくサポートし、最高のキャンプの思い出を演出してあげる必要がありまして」
 つまり――。
「キャンプしてきて、ついでによしだ一家を助けてあげてください。そうしたら、アイデンティティの危機に陥ったパパキャンプドラゴンは死にます」
 ちなみに、今回合体すると、アニマルドラゴンは何になるの?
「『アルティメットギルオスパパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるロープウェードラゴン』になります。呪いは、この世から醤油が消える事です」
 割と深刻な呪いであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 大変です皆さん、パパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴンが現れました! やめろ、なんだ! 僕は正気だ! 放せ! このままだと醤油の危機なんだぞ! こn

●成功条件
 パパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン を倒す。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●このシナリオについて
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

『<青海のバッカニア>粉砕のギルオスドラゴン』『<青海のバッカニア>玉砕のパパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン』『<青海のバッカニア>大喝采のロープウェードラゴン』は同時参加が出来ません。同時予約は可能となっております。

●状況
 海洋の海に浮かぶ、パパキャンプドラゴンの顔面が舞台です。パパキャンプドラゴンの顔面には偽装された島が存在し、その上には破滅を宿命づけられた概念存在、『よしだ一家』が存在します。
 よしだ一家は絶対にキャンプに失敗することを宿命づけられており、地獄の思い出を何度も繰り返し演じています。
 皆さんには、よしだ一家のお隣でキャンプをする集団として島に上陸し、よしだ一家のサポートをしてキャンプを最高の思い出としてあげてください。
 そうすると、アイデンティティが崩壊したパパキャンプドラゴンは死にます。
 島には、キャンプを失敗させる概念として、うるさい害虫、怖い害獣、突然の通り雨、などが発生する可能性があります。様々な危機に対処し、キャンプを成功させましょう。
 まぁ、普通にキャンプを楽しめば大丈夫です。イージーだし。

●登場概念生物
 概念生物うるさい害虫
 特徴:蚊とかハエみたいな奴。鬱陶しい。

 概念生物怖い害獣
 特徴:狼とかくまみたいな奴。怖い。

 概念現象通り雨
 特徴:突然激しい雨が降ってきて寒くなる。

 概念生物よしだ一家
 特徴:失敗するキャンプを宿命づけられた存在です。
  よしだパパ(38)、よしだ息子(12)、よしだ娘(10)、よしだママ(38)の四人家族です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <青海のバッカニア>玉砕のパパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年12月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リナリナ(p3p006258)
ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)
軍医
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●上陸! パパキャンプドラゴンの島!
 海洋、その海のど真ん中に、突如として一つの島が現れた。
 前日まで影も形もなかった場所に現れたその島は、さらに奇妙なことに、少しずつ、少しずつ、海の上を移動しているのだ――!
 さて、船上。イレギュラーズ達は、奇妙な島へと臨んでいた。
「あれが――パパが格安キャンプキット買ってきて大はしゃぎしたけどキャンプに必要な道具何も持ってないのでこのままだと地獄の思い出になるドラゴン、だね」
 何かを思い出すように、『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は呟いた。思い出される、かつての戦いの思い出。ゴッちゃん……その思い出を、胸に。
「ドラゴン……え、ドラゴン?」
 『黒陽炎』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)はたまらず目を細めた。どこにドラゴンがいるというのか。いや、そもそも依頼からしてなんかおかしい。ドラゴン。それはある種の憧れを持って語られる最強生物の名。その名を冠するパパが……いや、もうパパドラゴンでいいや、とにかくそいつの討伐が依頼であったわけだが、その作戦は、楽しくキャンプをして来い、と言う物である。
「違うよ、あれはパパ(中略)ドラゴンであって、ドラゴンじゃないんだ」
 シャルレィスが真顔で言う。
「ゴリラドラゴンがゴリラでもドラゴンでもなく、ゴリラドラゴンであるようにね」
 ふと目を伏せるシャルレィス――アンナは眉間にしわを寄せた。
「えっ、哲学の話?」
 本当に意味が解らなかったので、アンナは茫然と呟いた。アニマルドラゴン……その奇妙な生態を理解することは難しいだろう。そんな生物を生み出したであろう神ですら、多分理解していないだろうし。
 わかっていることはただ一つ――キャンプを成功させれば、この敵は死ぬという事だけだ。
「まぁ、良いわ。キャンプをするだけ。楽な仕事よね」
 アンナは現実と折り合いをつけた。
「おう、そろそろ上陸できる位置だぜ!」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が、仲間達へと声をかけた。その背には大きなリュックを背負っていて、よく見ればそれがキャンプキットであることがわかるだろう。
「準備は良いな? 俺たちがキャンプを失敗しちまったら元も子もないからな!」
「はいはい、準備は万端で御座いますよ!」
 『名乗りの』カンベエ(p3p007540)も、背負ったリュックを指して、答えた。
「キャンプと言う物は初めてで御座いますが、要は楽しめばよいとの事。辛きことも捉え方次第で楽しく思えるもので御座います! そのあたり、ワシがこの身で証明して差し上げましょう!」
 ニッと笑うカンベエ。その頼りがいのある発言に、仲間たちは頷いた。
 一行は大型船からボートに移り、島へと向かった。道中に邪魔立てするものは何もない。何事もなく浅瀬にボートを係留させ、島へと――パパドラゴンの頭部へと、上陸した。
「さて……話によれば、よしだ一家、とかいう連中がいるはずだが……」
 『軍医』ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)は言って、辺りを見回した。砂浜から、少し歩を進めて森の入り口へ。果たしてそこには、呆然と立ち尽くす、一つの家族の姿があった。
「あれか……!」
 ウィリアムが声をあげる。だが、家族――よしだ一家は、凍り付いたようにピクリとも動かない。付近には、無残な様子を見せるキャンプキットがあって、それもまるで、彫像であるかのように固まり、テントが風に揺れる様子もない。
 ふと、何かに反応したかのように、よしだ一家がキュルキュルと逆戻り始めた。キャンプキットは瞬く間に開封される前の姿に戻り、よしだ一家は昨晩の経験を逆戻しするように演じ始める。
 奇妙な光景だった。目の前で、映像を逆戻ししてみせられているような光景である。
「おー、失敗の朝から、キャンプ始めの朝に戻ってるんだな」
 『おにくにくにく』リナリナ(p3p006258)は奇妙なその風景に、たまらず眉をひそめた。
「なんだか不自然でむずむずするぞ」
 その異常さを、肌で感じ取ったのだろう。あるいは同様に、何か粟立つものを感じたイレギュラーズ達もいたかもしれない。
 それがふと、止まった。先ほどまで浮かべていた絶望の表情は、今は希望に満ち溢れた晴れやかなものへと変わっている。
 誰かが再生ボタンを押したかのように、よしだ一家は途端、動き始めた。
「お父さん、今日はキャンプの日だね!」
 息子が、そう言った。
 娘はこれから起こる楽しい出来事に想いを馳せるように、笑顔で頷いている。
「ああ、最高の日にしような!」
 よしだパパが笑顔でそう言った。一瞬、あっけにとられたイレギュラーズ達であったが、奇妙な出来事には慣れている。すぐさま気を取り直して、一歩ずつ、よしだ一家へと近づいていった。
「こんにちわ!」
 『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はにっこりと笑って、挨拶をした。おや、とよしだパパは首をかしげてから、挨拶を返した。
「こんにちわ! 皆さんもキャンプですか」
「うん! オイラはチャロロっていうんだ。お隣さんだね!」
 奇しくもチャロロは、よしだ息子と同年代である。息子は友達になれそうだ、と思ったのだろう、
「よろしく、俺、よしだ!」
「よしだ君だね。仲良くしてくれると嬉しいな」
 話しかける息子へ、チャロロは笑顔で返した。息子もまたうれし気に、笑顔をチャロロへと返す。
「隣同士、よろしくね」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、にっこりと笑ってそう言った。
「もし困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。そう言うのも、キャンプの醍醐味だから」
 焔の言葉に、よしだパパが頷く。
「はい! 其方こそ、何かあったら遠慮なく声をかけてくださいね」
 まだ己の運命を知らぬよしだパパは、自信満々である。悟られぬように苦笑を浮かべつつ、イレギュラーズ達はよしだ一家のエリアの隣に、荷物をおろした。
 そして――イレギュラーズ達と、よしだ一家の戦い(キャンプ)は、始まったのである。

●楽しめ! キャンプ!
 キャンプ場についた! まずやるべきことは何か――そう、テントの設営である!
「やっぱりテントってのは、基本にして一番重要なポイントだ」
 ウィリアムがうんうんと頷きながら、テントを広げる。ポール、テント布、杭(ペグ)……様々な道具が、きれいに並べられている。
「俺も新兵の頃はよく怒鳴られたもんさ……こんなテントで疲れが取れるかってな。そう、やっぱり兵隊にとっても、心落ち着かせられる場所は必要さ。だから俺たち新兵の仕事はまずテント」
「ねー、杭打っちゃっていいー!?」
 うんうんと頷きながら過去の思い出を語るウィリアムを無視しつつ、シャルレィスがペグを片手に声をあげた。
「んーと、まずはテントの形ができてからかな!」
 焔が説明書を片手に声をあげた。
「あ、入り口は、こっちの……そう、風がよけられる場所に向けてね! 開けた時に風が入って、テントが飛んでっちゃうんだって!」
 意識して大声で、焔が叫ぶ。もちろん、イレギュラーズ達にとっては、テントの設営など朝飯前だ。これは、意図して演じる悪戦苦闘。いちいち手順を大声で叫び、躓きそうな部分を大声で解説することによって、隣のよしだ一家へ、意図せぬアドバイスとして届かせる。
 破滅を宿命づけられているよしだ一家にとっては、テント設営もまた一苦労の代物である。代わりに張ってあげる……という事も考えたが、そこはやはり、キャンプを最高の思い出にしてやるためには――そして、よしだパパのプライドを考えれば――さりげないアドバイスがちょうどいいと、イレギュラーズ達は判断していた。
「だが、ロープの結び方をさりげなく、ってのは難しいな」
 くるくるとひもを両手でもてあそびながら、ゴリョウが言う。ロープの結び方と言っても、その方法は用途によって多岐にわたる。これが意外と、口で説明するのは難しいものだ。
「うーん……それはさすがに、指摘してきた方がいいかしらね」
 リュックから虫よけの香草を取り出しながら、アンナが言う。
「では、ワシが行って参りましょう」
 カンベエが手をあげるのへ、アンナは頷いた。
「虫よけのおすそ分けもあるし、私も行くわ。さりげなく、テントの具合もチェックしてくる」
 二人がよしだ一家のテントへと向かえば、そこには何とか、形になったテントの姿があった。ぱっと見、素人が組んだにしては充分な出来栄えを見せている。
「ああ、こんにちわ。お願いがあるのだけれど」
 アンナは虫よけの香草を手渡した。虫が苦手なので、こちらの方にも虫よけを置いてほしい――突然の申し出ではあったが、よしだ一家は基本的に善人であるので、その申し出を受け入れてくれた。
「うむ、よいテントで御座いますね……ああ、よしださん」
 さりげないチェックを入れつつ、カンベエが声をあげた。カンベエは世間話を装い、ロープの縛り方を指導してみせた。簡単に結べながら、そうやすやすとはほどけぬ作りだ。
「なるほど……こういった結び方があるのですね……」
 感心した様子を見せるよしだパパが、カンベエにやり方を教わりつつ、テントを補強する。これならば、まずテントは無事だろう。アンナとカンベエは視線を交わし、頷く。
「パパ! テントが終わったら、森を見に行ってもいい?」
 よしだ息子が声をあげる。その後ろには、娘の姿もあった。
「ああ、いいぞ! でも、遠くには行くなよ」
 ――これはまずいパターンでは?
 アンナとカンベエ、二人の脳裏に、些か悪い予想が広がる。止めるべきか。そう考える二人であったが、救いの声はすぐに現れた。
「ねぇ、よしだくん! オイラもついていっていいかな?」
 そう言って、イレギュラーズ達のテントよりやってきたのは、チャロロだ。
「あ、チャロロ君! いいよ、一緒に冒険しよ!」
 よしだ息子と娘が、頷いてチャロロの手を取った。チャロロはアンナとカンベエへと視線をやり、頷く。こっちは任せて。その意志は二人へと伝わった。

「チャロロ君、こっちこっち!」
 息子たちに手を引かれ、チャロロは森を行く。はしゃぐ様子を見せてはいるものの、もちろん、油断はしない。害獣に値する存在が、この森には居るはずなのだ。
 がさり、と草をかき分ける音が聞こえて、チャロロは一瞬、周囲に意識を巡らせた。害獣の登場か――だが、草むらより現れたのは、リナリナの姿だった。
「おー、皆、探検か! リナリナは薪拾いだぞ!」
 その両手にたくさんの薪を抱え、リナリナは笑う。チャロロが視線で訴えるのへ、リナリナは頷いた。
「あんまり遠く行く、だめだぞ! 暗くなる前に、戻る! 迷子なるからな!」
「はーい!」
 チャロロが返事をするのにつられて、よしだ息子と娘も返事をした。三人が駆けだして行く背中を、リナリナは見送っていた。
「さてと」
 と、リナリナは振り返る。草むらに隠れた先――そこには、倒れ、意識を失った、狼のようなクマのような、奇怪な生物が横たわっていたのである。
「……マズそうだから、食べるの、やめ」
 ふぅ、と嘆息しつつ、リナリナは薪拾いを続行した。

 子供たちが帰って来る頃には、日は傾き、夜のとばりが落ち始めようと言った所だった。
「炭火の扱いって、意外と難しいんだ」
 焔の声が聞こえた。
「炭って、焚火みたいにぼうぼうと火が燃えてる状態じゃダメだよ。こうやって、芯から燃えてる状態じゃないと、炭火の本来の力が出せないんだ」
「なるほど……」
 隣にはよしだパパがいて、熱心に焔の言葉を聞いている。
 手際よく着火していく焔。もちろん、これは炎の扱いを熟知し、慣れている焔だからこそ、簡単になせる業だ。素人さんは、意外とこういう高温の炭火という状態に持っていきにくい。洗井落雲も炭火の火付けには苦労した記憶がある。
 炭火がうまくつかない――そんなよしだパパの苦悩を人助けセンサーによって察知したイレギュラーズ達は、よしだパパへと声をかけた。そしてそのまま、炭火の扱い方を説明しているわけだ。
 着火のコツ……よしだパパはそれを、素直に受け取っていく。
「奥さんの料理も、旨そうだな! ウチのタレも味見してみてくれよ!」
 ぶははは、と豪快に笑いながら、バーベキュー用のたれを差し出すのは、ゴリョウだ。ゴリョウはよしだママと一緒に、バーベキューの下ごしらえを行っている。ゴリョウと言えば料理、料理と言えばゴリョウである。
「あら……ホント美味しいのね。もしかして、本職さん?」
「ぶははっ、まぁ、料理は得意でな! なんか困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ! バーベキューも手伝うぜ!」
 好感の持てる笑顔を見せながら、ゴリョウはよしだママを見送った。よしだパパとママは、二人笑顔でテントへと戻っていく。
「……と、ここまでは良い感じかね」
 ゴリョウがウインクなどして見せるのへ、イレギュラーズ達は頷いた。よしだ一家の躓きポイントは、全てイレギュラーズ達によって潰されている。今の所、楽しいキャンプとなっているはずだ。
「さて、じゃあ俺たちも飯にするか!」
 よしだ一家の方は注視しつつ、イレギュラーズ達はつかの間の休息をとる。
 ゴリョウの仕込んだバーベキューは、それはもう絶品であり、イレギュラーズ達の心と体を癒してくれるものであった。

 食事を済ませた一行であったが、その片付けの最中、突然の通り雨が一行を襲った。
 だが、このトラブルはすでに予測済みだ。シャルレィスのアドバイス通り、テントの周りの水はけを良くし、内部に水が入らないようになっていたし、イレギュラーズの用意した毛布が、よしだ一家を温めてくれた。そしてお互いのテントで、ボードゲームやトランプなどで遊び、通り雨すらも良い思いでへと変わっていた。
 そして、雨が通り過ぎれば星が出る。
 子供たちは、チャロロが持ってきていた花火で遊んでいる。そんな光景を見ながら休息をとるイレギュラーズ達へ、よしだパパは声をかけ、頭下げた。
「皆さんには、色々と助けてもらいました」
「そんな、困ったときは、だよ」
 シャルレィスが笑う。よしだパパは感極まった様子で、深く頭を下げた。
「実は――前日まで、不安でたまらなかったのです。なんども、失敗する夢を見ていた……そんな気が、して」
「そいつは、夢さ」
 ウィリアムが言った。
「人間、誰しも不安になる時はある。だからそれは、つまらない、夢さ。忘れちまいな」
「そうだよ。キャンプ、良い思い出になったでしょ?」
 微笑むシャルレィス。よしだパパは、なんだか泣きそうな表情で、
「ありがとうございます」
 と、頭を下げた。

 そして、夜はふけ、朝を迎える――。

●さようなら、よしだ一家
 笑っている。
 笑っている。
 子供たちが笑っている。
 たまの休日は、最高の思い出になった。
 最高の隣人たちに支えられて。
 穏やかな陽の光に照らされて、最高の朝を迎える。
「パパ! またキャンプに行こうね!」
「また皆で遊びたい!」
 子供たちが、喜んでいる。
 ああ、なんて。
 幸せな光景なのだろうか――。

「良かった……」
 チャロロは一家の笑顔を眺めながら、呟いた。
 悲劇の運命に翻弄されていていた一家。
 その運命を、イレギュラーズ達は覆したのだ! 報酬は、一家の幸せな笑顔となって、今目の前に花開いている。
 と。
 その笑顔のまま、よしだ一家は固まった。
 きり、きり、と、その姿がぶれていく。
「なんだ!?」
 ゴリョウが叫んだ。
 途端! 大地が揺れ始めた!
(「救ってくれたのか……よしだ一家を……」)
 それは、今まで聞いた事のない声だった。
「こいつ、直接脳内に……!?」
 と、リナリナ。
(「我は……パパ(中略)ドラゴン……悲劇の運命を、見ることしかできなかったもの……」)
「パパ(中略)ドラゴン……! 君なの!?」
 シャルレィスが、叫んだ。
(「ありがとう……心優しい人々よ。お前たちのおかげで……我はパパ(中略)ドラゴンから……パパ(中略)最高の思い出ドラゴンとして……死ぬことができる……」)
 そう、パパ(中略)ドラゴンもまた、苦しんでいたのだ! 悲劇の運命を、見続けることを! それを救うことができぬ己の無力を!
「いけません、島が……崩壊していく……!」
 カンベエが叫ぶ。イレギュラーズ達は、走った。よしだ一家を残して……最高の笑顔を残して。
「ボートに乗って、早く!」
 焔の言葉に、イレギュラーズ達は次々とボートに乗り込んだ。沈む島に引きずられぬように、全力で離脱する。
 果たして島は、徐々に、徐々に沈んでいった。
 そこに残った、幸せな思い出と共に。
 ひと秋の幻影、そこで過ごした隣人と共に。
 ――これは、悲劇なのであろうか。
 いや、そんなことは無い。
 何故なら、最後の瞬間、よしだ一家は――。
 あんなにも、幸せそうであったのだから。
 万感の思いを乗せ、いま、ボートは海原を行く。
「……で、なんだったんだ、あのドラゴン」
 ウィリアムが言うのへ、アンナは頭を振った。
「ドラゴン? 何言ってるの、ただの海洋の面白生物よ」
 やがて回収に訪れた大型船と合流するまで……イレギュラーズ達は様々な思いを胸に、かつてそこに在った島を想っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 よしだ一家は救われ、しょうゆの危機もまた回避されました。

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