シナリオ詳細
月食み魔女と雷の指
オープニング
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ヒュウ――
冷たい風が吹く。混沌世界の大陸の北方に或る鉄帝は厳しい気候に晒され続ける。富国を掲げ、隣国幻想への侵攻も辞さぬ鉄帝にとって、北東部に広がる貧しい大森林地帯『ヴィーザル地方』は云わば負債のような存在であった。
開墾せよという声も言っときは上がったが、ヴィーザル地方にもとより住まう小数部族たちの抵抗も激しい。其方に戦力を裂く事は無駄であろうと云うのが鉄帝の認識であった。
その最中である。帝国の拡大が北東部に僅かでも手をかけた――かけた、と認識された――時点で情勢は移転する。その地に住まう小数部族たちは国家を名乗り始めたのだ。無論、力こそすべてである鉄帝の中ではそれほど珍しい事ではないのだが……人の手もあまり入らぬ北東部。且つ、3つもの部族の連合であることが事態を困惑させている。
放置しても国防の問題に。併呑しても負担に。
『だからこそ』ローレットへと依頼が舞い込んだのだ。『連合王国ノーザン・キングス』への対処を願う、と。
球体関節の体に、機械仕掛けの体を持つ黒衣の少女は大仰に溜息をついた。
ローレットが遣ってくるのだという。ヴィーザル地方高地に住まう彼女達もノーザン・キングスの一員だ。一員だ、と言うと語弊があるのかもしれない。黒衣の少女はそれほどこの『同盟』に乗り気ではなかったのだから。
雷神の末裔を称する高地部族ハイエスタ。ハイエスタの村に住まうある集落の長たる鉄騎種は幼い少女のナリをした月の魔女であった。
「困りました」
「困りました、で終わってしまっては困るのですよ。魔女殿」
頬杖をついた儘の魔女に対して、長身の男は肩を竦める。厳しい寒さに晒される高地や山岳に布陣するハイエスタの人々は屈強なる体躯の人間種とその気候に適応する鉄騎種を中心で構成されている。
自然と共存するが故に魔女や妖精遣い、ドルイドなども存在する彼らは勇猛果敢でありながら『戦う事を是』とはしていなかった。
「本当に困ったのですよ。クロヴィス。わたし達ハイエスタの民は元より戦う事は望んでいません。
ノルディアとシルヴァンスは戦う事はお好きでしょうけれど……ああ、戦いたく何てありません。隠れ里の様に静かに暮らして居たいというのに」
憂う魔女にクロヴィスと呼ばれた青年は「しかし」と困った様に彼女を見遣った。
「……来るのでしょう?」
「ええ。来るのです。ノルディアとシルヴァンスはハイエスタとの結束を強めるために鉄帝に我々の情報を流したのです」
その情報が嘘か誠かは関係はない。寂れた寒村に住まうハイエスタ達が『鉄帝』に何かを仕掛けるという情報が流されたのである。
「迎え撃つしかありませんでしょう。困りました。そんな事……したくはありませんのに」
肩を竦めた魔女はふと名案だと傍らに立って居たクロヴィスを見上げた。
「そうです。ローレットを味方につけましょう。ノーザン・キングスに加入前の私達です。
色々、さておけば『寒村』を暴漢が狙っているという事に落ち着けるでしょう!」
早速、と魔女はローレットに至急の便りを出した。
仕事内容は『寒村を狙う暴漢共への対処』である。
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ノーザン・キングスと名乗る国家が現れたという事を口にしてさも面白そうに『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)は「ご存知?」と問い掛けた。
「まあ、知らなくって大丈夫なの。わたしも最近知ったんだもの。
鉄帝の北東部の、まあ、言い方は悪いんだけれど『無法地帯』の原住民が徒党を組んだわ」
それで国と云うのだから大きく出た。
凍てつく峡湾を統べる戦闘民族ノルディア。
雷神の末裔を称する高地部族ハイエスタ。
永久氷樹と共に生きる獣人族シルヴァンス。
その三つの部族はそれぞれの性格がある。ハイエスタは勇猛果敢でありながら平和主義である民が多いのだという。
だからこそ、他部族は『鉄帝の拠点を狙い、兵器を盗む』だとか『古代兵器を操れる』だとか嘘の情報を流したのだそうだ。それでハイエスタの村々が襲われれば、鉄帝に対して武力で対抗することとなる。
結果! 否が応でもノーザン・キングスの仲間入り! という無理矢理な結論なのだろう。
「まあ、他部族のやり方が汚いのはさておいて。
あなた達はローレット。ハイ・ルールに則って仕事は何でもするでしょう?」
フランツェルは一通の手紙を差し出した。
ハイエスタのとある村。月の加護を帯びた魔女であるという鉄騎種を中心に形成された小村は鉄帝による進行のターゲットとなったらしい。
そのあたりの都合を全てひた隠しにした上で暴漢に襲われる村を救って欲しいというSOSが舞い込んだ。
「……まあ、助太刀しましょう」
いとも簡単にフランツェルは言った。
「ノーザン・キングスだとか鉄帝とかは置いておいても戦う気がない寒村に侵略ってのはちょっとねえ」
月の魔女の村を一先ずは救えばいい。有難いことに彼女たちは『話せる方の人種』だ。
「ああ、ちなみにハイエスタの長でもノーザン・キングスお王でもないわ。
あくまで彼女たちはその集落を形成しているだけだから……」
細かい事を置いておいて、とりあえず助けてみよう。
何か知り得る事もあるかもしれない。ローレットも手探り状態なのだ。
- 月食み魔女と雷の指完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月26日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ヒュウ――
冷たい風が吹く。雷神の末裔を称する高地部族ハイエスタ、その集落のひとつであるこじんまりとした村の指導者にして長たる鉄騎種の月の魔女、ベルタは「よくぞいらっしゃいました」と穏やかに告げた。その背後には屈強なる人間種の青年クロヴィスが控えている。
「此度は我々を救ってくださるとの事で――」
「ええ。平和に暮らしている人達の生活を脅かすのは許せないんですよ。白銀の騎士の娘、ですから私!」
胸を張った『魔眼破り』シュラ・シルバー(p3p007302)にベルタは大きく頷いた。そう、ハイエスタの中にも様々な人々が存在するがベルタ達はその中でも穏健派と呼ばれる存在だ。
「我らは事を荒立て、不用意に鉄帝(くに)を敵に回したくはありません。
何故ならば、『誇り高きハイエスタがかの賊を真っ当なる敵などと認識はしません』から」
ベルタの言葉に『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は真意が見えた気がして「お」と小さく声を漏らした。戦闘民族ノルディアや獣人族シルヴァンスと比べれば雷神の末裔を自称する高地部族ハイエスタは誇りを重視しているのだろう。
(ベルタ達、この村は『鉄帝国』を下に見ているが故に無駄な労力を使いたくないってか……?)
確かめるような視線を送ったエイヴァンにベルタは「なにか?」と首を傾げる。
「ううん。皆にどんな事情があるかなんて知らないけど、戦いたくない人たちまで巻き込むなんてどうかしてる!」
此処は守り切るからと『さいわいの魔法』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が力強く宣言すれば『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)はオーダーの通りに『食い散らかせば』良いだけであろうと認識を強くした。
エイヴァンが感じ取った様に愛無もベルタの発言に人間らしい感情を感じていた。鉄帝国(たいこく)の考えは尤もであり、『憎ければ殺す』『欲しければ奪う』という実に人間らしい考え方は暴力や実力に起因することを愛無走っていた。そこに理性的な理由を付けれど、結局は『利』があるからい集結するのだ。
「……ふむ」
同じ北西部共同戦線『ノーザンキングス』であるというのに気乗りしない味方に姑息な手を使うものだと『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は肩を竦めた。
「念頭に置くのは『村民に被害を出さない』! 頑張ります!」
明るい声音で『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)は決意を口にした。特異運命座標達の『戦う意思のない者を守る』という態度はベルタには非常に好感が持てたのだろう。クロヴィスの服の裾をくい、と引いた彼女は「よき人達ではありませんか」と穏やかな――我が子にあまり心配性になるなと言い聞かせるような――声音で囁いた。
「あの、『雷神様の末裔さん』なの?」
自身も神の血を引く身として『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は気になると言った調子でベルタ達へと問い掛けた。クロヴィスは「ハイエスタは皆、雷神の血筋である」と堂々たる調子で言ってのける。
――実の所、旅人である焔と比べればハイエスタのそう言った発言は『自称』の域を出ない。勿論、ベルタが月の加護を持つというのも自称なのだろうが……村人たちの様子から彼女が慕われている事は確かだ。
「さて、まずは! 腹が減っては戦は出来ぬ!
特に寒い土地だからな、温かいもん食って腹の中から熱と気力を蓄えておかねぇとな!」
腹をぼん、と叩いた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。村人にもと進める彼の声に、匂いに釣られてやってきた子供達が美味しそうと走り寄ってくる。
「ぶはははッ、あんまり食い過ぎんなよ! 後でたっぷり食えるからな!」
「あとで?」
きょとりとした子供達にゴリョウは大きく頷き、ベルタは「事が済めばすぐにお帰りになる訳ではないのですね」と多忙な特異運命座標達を気遣う様な顔をして肩を竦める。
「もしも良ければ、事が済んだら村の散策をしても?」
シュラの言葉に頷きかけたベルタを制してクロヴィスは「特異運命座標だけなら歓迎ですが」とどこか固い声音で返した。
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自身は壁役であるとエイヴァンはクロヴィスへと告げた。「頼りにしよう」と頷いた青年もまた屈強な体つきをしている――それがハイエスタの特徴なのだろう。
村の内部での戦闘は避けたいと焔は焚火で凍えぬ様にと気を抜けながら『暴漢』を待ち伏せていた。防寒具を借りる事は出来ないかと相談したアレクシアにベルタは人数分のものを準備してくれた。
「あっ、豚汁ボクも食べたい!」
にんまりわらう焔に「飲み過ぎて動けない様になるなよ」と軽快に笑ったゴリョウ。
豚汁を飲みながら住民の避難対応に当たるベルタ達から出来る限り離れた場所で戦闘を行う事を心がけ待機を行い続ける。
「へえ、ここが噂の……」
のそりと現れた男たちもまた屈強な体つきをしている。一見すれば険しい山の上にあるのどかな寒村だ。『暴漢』達もさすがに様子が違うと感じたのだろう。「どこに兵器何てあるんだ」と呟く声が聞こえてくる――が、「とりあえずは、殴ってみりゃぁ分かるだろ」という結論に落ち着いたようだ。
愛無は落とし所がいまいちない話だと感じていた。ベルタ達月の村の人々の中では『暴漢に襲われる可哀想な平和な村』として事を荒立たせることを避けたいようだが――
(依頼人があくまで『暴漢』に襲われた態をとるならば、そうするだけだが……。
相手が、それで納得するのか。脳筋が莫迦とは限らぬ。鉄帝の軍人というならば――)
彼らのなかでもノーザンキングスという存在の確認なのかもしれぬと。使者としてどの程度の存在であるかを愛無は計り兼ねていた。どちらに対しても顔を立てなければならないとなれば一苦労だが。
「喰う。喰えばいい」
とりあえずは『腹拵え』だ。特異運命座標の姿に気づいた『暴漢』は「村の人間か」と問い掛ける。
「如何にも」と前線へ立ったクロヴィスへと拳を向けた暴漢に向け、エイヴァンが動き出す。
ぐん、と前線へと飛び込んだエイヴァンの体中の力全てが漣のナイフへと集中した。漣と優しい名を侮るなかれと込められた力一撃、暴漢の体へと飛び込んでいく。
「ハッ、良いアタックじゃねえか!」
「そうか。険しい雪山で白熊と会うんだ。お誂え向きだと喜んでくれ」
剣を手にしたクロヴィスの肩を叩いたゴリョウは不意打ち搦め手一先ず置いて真っ向勝負と鎧をその身に装着し、力強く本能へと訴えかける。ゴリョウへと視線を向けた暴漢に気付いた様にメイド服がふわりと揺れた。
「本気で行きますが……死なないでくださいね!」
赤の軌跡が揺らめいた。それがシュラの放った赤き炎である事に気付き焔の瞳が爛と踊る。飛び込み放った乱撃が朱と赤を広げていく。「この」と小さく唸った暴君の一撃にゴリョウがその腹をぼんと叩いてにいと笑った。
「ぶはははっ、いい一撃だ! だがまだまだ俺を倒すにゃ足りねぇなぁ!」
巨大な蛇の捕食シーンを思わせるが如く前線へと飛び込む愛無に続き、勇気の花を揺らしたアレクシアが赤き花の魔力を咲かす。その気配に困惑感じ取るように顔を上げた『暴漢』達のその姿を見遣り、アレクシアは鉄帝軍人としての統率の取れた動きを感じ取った。
(うん、暴漢に襲われるって話だけど――鉄帝軍人ってなれば、やっぱり、強い……!)
地面を踏み締め、至近距離。無数の鴉が飛び交っていく。朔耶の放つ秘術は自慢の代物だ。漆黒の複合武器を活かし、組み合わせた印――『暴漢』がその距離詰めんとしたそれさえ留める様に朔耶の唇が吊り上がる。
「さぁ、紅牙の秘術をご覧あれ。鉄帝の強者といえどもそう易々とは通しはせぬぞ!」
そわ、と身体を揺らす夕。最初から戦闘態勢であった鉄帝側の攻撃を受けるのは確かだが、言葉で何か伝える事が出来るのではと彼女自身は考えていた。
「聞いてください! まず、私達はハイエスタから依頼を受け、ローレットから派遣されてきました!」
「ローレット? ああ、あの」
強敵であると認識したか喜ばしい顔を見せた『暴漢』にクロヴィスが雷撃纏う一撃放ち、それを追い掛ける様に愛無がサポートに回る。
「このハイエスタ――月の村側には鉄帝に対する敵意はありませんし、鉄帝と敵対するような話はすべて他部族の嘘偽りです!」
「納得できる要素があるか?」
「なければ、『ハイエスタ 一番 の 戦士!』雷の勇者クロヴィスさんたちとローレットの私達が迎え撃ちます! ただし、村には非戦闘員が多くいます。そちらへの手出しは無用です!」
夕が強調した言葉にハイエスタと手合わせできると『暴漢』が盛り上がる。振り返るクロヴィスに夕はにんまりと笑みを浮かべた。
「……ローレットにそう言ってもらえると嬉しいが……」
「支援はする。心配する必要はない」
エイヴァンの言葉にクロヴィスは小さく笑う。頑張ろうと微笑むアレクシアの隣をすり抜け前進するクロヴィスの背後より翻弄するように朔耶が飛び込んだ。
「其方ばかりでは『お留守』ですよ?」
焔の気配が二つ。一つは神炎を纏いし少女。そして、もう一つは、身の丈程の刃を振り翳す少女。鮮やかなフリルが揺れ、一気に振り下ろされた刃の気配に『暴漢』が「メイドは可愛いだけじゃないってパルスちゃんも言ってたなあ」とからから笑う。
「それは、良い言葉をききました」
シュラの微笑みを見詰めながら夕の耳朶を撫でたのは聞き覚えのある優しい声。
『困ってる?』
ああ、そう言いながらフィーネリアは気紛れなのだ。大丈夫よと囁くジーナローズ の声を聴き夕は頷く。その二人、力を貸してくれる声を聴きながらリンクメイト――混沌を生み出すその一声が周囲一帯に轟いた。
「っと――」
慌てた様な暴漢の声を呑み込む様に。ある意味で『手合わせ』の状態になっているその様子に愛無は不思議なものだと感じていた。成程、脳筋と言っても莫迦じゃあないが『戦う事が楽しくて全てが二の次になる』というのも流石は鉄帝……なのだろうか。
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戦闘が落ち着いたことにより、ベルタが「お疲れさまでした」と特異運命座標の許へと戻ってくる。
「よくぞ、退けて……あら?」
首を傾ぐベルタの前には『暴漢』達の姿が未だある。クロヴィスの居心地悪そうな表情が、彼もこの『手合わせ』を楽しんでしまったとでもいうかのようだ。
「改めてお願いがあります」
シュラはパカダクラの背に鉄帝の『暴漢』を乗せて村を散策したいと再度ベルタへと提案した。
「いけません」とぴしゃりと言ってのけた彼女にはエイヴァンは「しっかり見張っておくが」と困った調子で言う。
「村の入口のみでお願いします。私達は『暴漢』を村に居れたくはありません。
……生活の権利が保障されていれば問題はないのです。それに、私達はハイエスタの中のひとつの集落でしかない。私達とは別のハイエスタが戦闘を望んだ場合、其方の方がわたしたちに刃を向けぬ保証もないでしょう」
クロヴィスが頷き、ベルタは『月の村』の長として「特異運命座標の皆さんにはお世話になりました。ですから、村の入口はお貸ししましょう」と囁いた。
実に人間らしいではないかと愛無は納得する。アレクシアはベルタの言葉より彼女たちが望む平穏は脆い土壌の上に成り立っているのだと理解した――そう、彼女達は『戦闘を望まぬハイエスタの一部』でしかないのだと。
「……でも、月の村には『鉄帝』への攻撃意志はないんだよね?」
「無論。けれど、それが故に戦い望まぬとしても同胞がノーザンキングスに加入したときに手の内を見せた我らが攻撃の矛先に為らぬわけではないでしょう」
先ほどクロヴィスが村を見せるのを渋った理由だったのだろう。アレクシアはそれもそうか、と目を伏せった。
「今回の件で良い意味でも悪い意味でも鉄帝に認識されました。
認識されたなら、あとは『鉄帝とどのような関係を築くか』という話になると思います」
「ええ。そうだと思います。それはノーザンキングスとて同じ。存在を明確に貴方方にも認識された」
ベルタの言葉に夕は頷く。ノーザンキングスという『国家を名乗る存在』がその存在感を強めることが目的であればベルタたち月の村が鉄帝国と交友を深めるのはある意味で危険で孤立を産む可能性もあるのだ。
「難しいですね……」
「とりあえず、だ。何事も、腰据えて話すってなりゃ一緒の釜の飯でも食って連帯を産むってのはどうだ!
他のハイエスタは兎も角してもこの村の人間は『戦闘の意志もノーザンキングス加入の意志もない』、だろ?」
にい、と笑ったゴリョウに一部始終を聞いていた鉄帝の『暴漢』は頷いた。彼らも様子見の心算だ。放置してきた土地に住まう誇り高き雷神の末裔を自称するハイエスタという存在を知るが為の――
百科調理用具に調味料を使っての豚汁に混沌米『夜さり恋』のおにぎりも用意する。村の入口で行われる炊き出しに子供達が走り寄るのをベルタは止める事はしなかった。鉄帝の『暴漢』に戦闘の意志がない事――そして、その素振りを見せれば自身が丸腰の人間に攻撃できる事を分っているからだ。
「クロヴィス、貴方も混ざってらっしゃいな」
「……魔女殿」
唸るクロヴィスに焔は「美味しいもの食べてとりあえず落ち着こう?」と笑みを溢す。ベルタの厳しい態度は村を守るためのものであることを誰もが感じている。
咲耶は念を押す様に「噂とは違う村でござろう?」と『暴漢』達へと告げる。鉄帝の正式な軍人である彼らも特異運命座標を敵に回す事はしない。咲耶の言葉の意味に気付き大きく頷いている。
「うーん、偉い人にお手紙とか持って行ってもらえばいいかな?」
焔の提案にそれには至らぬと軍人がひらりと手を振る。ハイエスタの中にも様々だ。今回この村にそのような噂が立った事による襲撃もノーザンキングスという『新たに国家を名乗る集団』の存在が確認できる機会であると鉄帝国側も捉えているのだろうか。
「まぁとりあえず食え! 話はそれからだ!」
豪傑に笑みを浮かべたゴリョウの言葉に子供達がわあいと声を上げて走り寄ってくる。
「ほら、美味しいもの食べて帰りましょう? 平和に仲良くが一番です」
唐辛子もお勧めですよと微笑んだシュラ。此度はその『一番』が叶ってほっと一安心だ。
これからこの北西の地には何か戦乱が訪れるのだろうか。柔らかに笑ったベルタはその気配に巻き込まれていくであろう特異運命座標を見遣り「御武運を」と小さく囁いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ!
雷神の末裔を称する高地部族ハイエスタからの依頼でした。ベルタ達の集落とは別の集落のハイエスタならばやる気十分に戦う事もあるのかもしれませんが……戦を求めぬ高貴な彼女たちにとっては不要な状況だったようです。
ノーザンキングス自体、一括りにできない存在です。鉄帝でどのような影響を与えていくか……これから見守っていただければと思います!
GMコメント
夏あかねです。とりあえず護る。
●成功条件
・村の無事
・村民の保護
●月の村
鉄帝北東部に位置する高山にある寒村です。集落に住まうのは約20名。
屈強なる体躯の人間種と鉄騎種を中心とした部族が住まいます。
戦意は薄くほのぼのとしていましたが、現在侵略されかかっています。
彼らはあくまで『先住の民として生活の権利が保障されていれば問題がないそうです』。
その為、我関せずでしたが事態が許してくれない事、話し合いなどを聞く気のない鉄帝の武人が押しかけて来る事、どちらにも理がない事を今回の依頼の理由としてあげてきます。
暴漢(鉄帝国の武人ですが……)を退けてください。家屋などがあるため障害物となります。とても寒いです。
●月の魔女『ベルタ』
月の加護を得ているという魔女。幼い外見をしていますがれっきとした大人です。鉄騎種。
魔法を使用して攻撃をし続けます。村の者たちには『長様』『ベルタばあ様』と呼ばれています。
寒村の長にして最年長。クロヴィスの義理の母です。戦闘はせず子供達の保護に回ります。
●雷の勇者『クロヴィス』
ハイエスタの特徴である雷の加護を得た屈強なる人間種の青年です。ベルタを守護しています。
クレイモアを手にしており、村一番の勇士です。雷を伴う攻撃を使用して特異運命座標に協力します。
●暴漢(?)×8
なんだかんだでやってくる暴漢です。鉄帝国に所属する戦士たちであり、脳筋です。
『鉄帝の拠点を狙い、兵器を盗む』だとか『古代兵器を操れる』だとか、そう言ったうわさを他部族がタレコミとして流した事で調査(という名の侵略)を行いに来ました。
少数で来る理由は様子見であるようです。が、脳筋なので難しいことは分かりません。
とりあえず対話は筋肉で行うタイプです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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