PandoraPartyProject

シナリオ詳細

秋のざわめき

完了

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 季節の空気が変わった。
 と、そう感じるのは、どのタイミングでしょうか。
 花咲く季節に春を。照り付ける日差しの強さに夏を。
 深緑が紅葉する姿に秋を。鈍重な空から落ちる雪で冬を。
 そういう、瞬間瞬間に感じる想いに、時の巡りはあって。
 今この時、残暑厳しい夏から秋への変わる節目。
 過ごしやすさと動きやすさを狙って、お祭りを始めましょう。


 幻想の中にあるギルド、ローレット。
 そこに舞い込む事件は多く、所属するイレギュラーズにとってオンとオフの切り替えは大事になる。
 張り詰めてばかりの生活では、体も心も、休ませる事が出来ないからだ。
「みんな、ちょっと、いい?」
 だから、今日、ここに寄せられる話は、オフにまつわる話。
 声を上げてイレギュラーズを呼んだ『新米情報屋』シズク(p3n000101)が持ち込んだ、秋の祭典の話だ。
「はじめましての挨拶はまた今度にして……今回、皆に、依頼ではなくお誘いが来ているよ」
 こほん、と、咳払いを一つ。
 取り出したのはA3サイズの厚紙で、秋を楽しもう、という題目の下に、子供がクレヨンで描いた様な絵が寄せられている。
「私が描いた」
「いやお前かよ」
 無表情のどや顔で自信作だと言うそれを、イレギュラーズ達は改めて見る。
 紫の楕円が槍で貫かれている絵や、開いた本……の様な物から文字が飛び出す絵や、これは絵か? と再確認して頷かれる程に良く判らない絵が描いてある。
 いやなんだこれは。
「なんだこれは!?」
 こてん、と首を傾げたシズクは、一呼吸の間を空けて答える。
「秋にちなんだ祭典のチラシだけど……ほらここ、書いてあるだろう?」
 良く……よぉく見るとそこには、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋と、それぞれジャンル分けの名が記されている。

「なるほど下手くそだな……」
「え」

 閑話休題。
「で、この祭典、幻想でするんだ。内容としては、それぞれに関連した出店を出して人を楽しませようって感じさ。
 君達へ声を掛けたのは、ここに参加してほしいからだよ」
 食欲ならば飲食の屋台で、読書ならば野外で書店。
 芸術ともなれば、簡単な作業スペースを設け、そこで絵や工作するという流れになる。
「皆はそこへ遊びに行ってもいいし、むしろ出店する側になってもいい。料理の腕を奮ったり、自著を売り出したり、作った芸術品を見せるのもいいかもね?」
 それなりの広さとジャンルのある祭典だ。
 宣伝もして回ったし、集客の良さは確約されていると言っていい。
「イレギュラーズ用のスペースもあるし、警備や誘導は私を含めた有志でする。だから皆、最近忙しかったようだし、仕事は忘れて楽しんできてくれ」
 自家製チラシを全員に配り終えたシズクは小さく笑んで、説明の締めとした。
「…………このチラシで人来るのかなぁ」
 僅かな不安を、イレギュラーズに残しながら。

GMコメント

 ユズキです、ご無沙汰&初めましてな流れで、はい。

 秋と言えば何が思い付くかな、と、そう考えたときにふっと沸いたネタでイベシナ作りましたので、良ければどうぞ。

●行動
 全三種類のジャンルから、それぞれ買う側と売る側を選んで下さい。
 両方ー! ってすると逆に描写があっさりしてしまう可能性がありますので、お気を付けください。
 時間は朝から夜までやってますので、拘りがあればそれも明記しておいてください。

【A】食欲の秋で楽しむ
 沢山の屋台が乱立しているスペースです。
 いい匂いがあちらこちらからふんわりしているのでお腹もくぅくぅ鳴るって寸法なわけですね。
 置いてあるものは祭りで良くあるものや、秋が旬な物が多いようです。

【B】読書の秋で楽しむ
 無いものは無い。それくらいの蔵書をザバッと広げたスペースです。
 日に焼けると困るのでこちらは屋内スペース。
 もしお探しの物が無いときは、無いものは無いので仕方ないですよね、えへへ。

【C】芸術の秋で楽しむ
 なんだこれは、と首を傾げるような奇抜さから、これは良いものだ、と思うような至高の逸品まで揃うスペースです。
 売り買いするより鑑賞する、のが多いかもしれませんが勿論売り買い出来ます。

●プレイングについて
 文字数節約の為、【A、夜、売】みたいな感じでも大丈夫です。

●NPC
 シズクが警備の巡回していますが、特にお声掛け無ければ登場しません。
 また、もし売上が悪かったり人が集まらなければ、それはもう、ええ、チラシのせいなのでごめんなさいをします、はい。

 それではどうぞ、よろしくお願いいたします。

  • 秋のざわめき完了
  • GM名ユズキ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年10月20日 21時40分
  • 参加人数34/∞人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(34人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
銀城 黒羽(p3p000505)
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
羽瀬川 瑠璃(p3p000833)
勿忘草に想いを託して
コレット・ロンバルド(p3p001192)
破竜巨神
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
カイル・フォン・フェイティス(p3p002251)
特異運命座標
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
リナリナ(p3p006258)
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
宮里・聖奈(p3p006739)
パンツハンターの血を継ぐ者
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
閠(p3p006838)
真白き咎鴉
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
グランツァー・ガリル(p3p007172)
大地賛歌
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて
シエル・フォン・ルニエ(p3p007603)
特異運命座標
エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)
月明かりのアリストクラット
バスト・ハボリム(p3p007628)
黒炎風
楯野 笑真(p3p007632)
嗤う護国の盾
スカサハ・ゲイ・ボルグ(p3p007639)
「牙羅九汰堂」店主

リプレイ

 昇りが遅くなった朝陽を浴びて、人の少ない道にコレットは赴く。高い視点は膝を折り、屋根の下に並んだ本を取る。
 興味を惹かれる。と、彼女は表紙を見た。
 立て掛けられ、一見し易く列にした書物達。気になる物を見つけるのは容易い。
「見ても?」
「勿論」
 短い確認で表紙を捲る。感触として古く、指に掛かる質感は乾き、描かれた挿絵は掠れもある。
 だが耐久度の点に於いて、自分が安心出来る位に状態は良好だ。
「貰っていくわね」
 対価を払って隣へ、眺めて見てからまた隣。古書のみならず、自作が混ざっているだけあって、目の移ろいは激しい。
「……増えてきたな」
 しかし静謐の目利きはそこで終わりだ。遠い賑わいの気配に会計を済ませ、丁寧に鞄へ納めたコレットは、
「あ、いい匂い」
 漂う香りを背に受けて、その場を後にした。

 ファム・ファタル。
 看板の奥に、机を広げた店主がいた。
 左右に器具と小瓶、正面に小分けされた草花を。名称の掲示と共に置いた店だ。
「ふふ、いらっしゃーい」
 ジルーシャが魅せる、出張の香屋だった。
 開場から時間が経ったとはいえ朝の時間、人通りは少なく、あちらこちらの店に目移りするものだが。
「んお?」
 彼が扱うのは、匂いだ。
 視覚で得られる情報に限界はあるが、嗅覚を刺激する香りは意思と関係なく鼻へ入り込む。
「いい匂いでしょう。金木犀、と言うのよ」
 匂いに誘われ、ファム・ファタルの前に数人の列が出来上がる。
「秋は食べ物も美味しいけれど、山に映える紅葉、大地に咲く香りを、一番素敵に感じられる季節なの」
 旬と言える物は格別だ。そう続け、金木犀のアロマを作った彼は小袋に納める。
「お祭りだから特別プレゼント。気に入ったら、今度はお店に遊びに来て頂戴ね?」

 低い姿勢で聖奈は人波を駆ける。
 目標目前、最速の加速で後ろ姿の女性へ接近。
「シーズークーちゃーんお久しぶりぱんつ頂だぶは!」
 ヒラリと躱され足を引っ掛けられゴロゴロと転がった。
「え、誰」
「前に何だかんだぱんつ貰った聖奈だよ! 今もぱんつは大切に保管してるよ友情の証!」
「……え、誰?」
「覚えられてない!?」
 ガガーンと鳴りそうな落胆をした聖奈は刹那で顔を上げ、みょん、とアホ毛を揺らし、ニッと笑顔を向けた。
「冗談はここまで! さ、一緒に周ろ、シズクちゃん。だって君はもうローレットの一員なんだよ? シズクちゃんも楽しまなくちゃ!」
「でも私、まだ仕事の途中で、だから──」
 誘いに渋る顔は、拒絶ではない、と思う。歯切れも悪く、揺れている、と。
 故に聖奈は、買っておいた焼き菓子をシズクの開いた口にひょいっと押し込んだ。
「聖奈とシズクちゃんはもう友達。友達とは、仕事を少し休んで一緒に見て回っても許されるものなのです!」
「……なら、うん、仕方ない、な」
「うん! ぱんつくれるのも友達の証だよ!」
「嫌よ」
「ええー」
 そうして暫く、二人で行動する姿が露店で散見された。

 ちりん、ちりん、と音が鳴る。
 乾いた空気に響く囁きの金鳴りは、閏の横髪に結った鈴によるものだ。
 封じた視界の中、音の反響で周囲を把握して進む。
「読書の秋……素敵な季節、ですね」
 見ない分、喧騒の気配が肌にあり、呼吸すれば鼻腔へと紙の香りが漂って来た。
「すみません」
 最も大きい店舗の店員に声を掛ける。
 並べられた本を、目視で確認出来ない閏だ。それでも目当てがあり、その辺、店員の好意に甘える。
「童話や神話、それから、植物の本で──あ、刺繍に関する物も、はい。おすすめが、何かあれば」
 あらすじを語って貰うまでは甘えすぎだろうか。
 快い返事と心地よい物語に購入を決め、用意したザックへ傷まない様に本を納めた閏は、ズシリと感じながら背負い直す。
「おぅっ」
 歩き出しをふらつかせながら出立。またちりん、と鈴を鳴らす。
「いつか、端から端まで……なんて買い方を、してみたいものです、ね」
 その為の貯蓄も始めなければ。
「また、お仕事をがんばって、貯めなければ、ですねぇ」
 その時を夢想して、鈴の音色は遠くへ消えた。

 アルメリアの前に、落ち着かない安らぎがある。
 右左前後ろ。四方八方本の群れ。
「んんー! 久々に本に囲まれた気分……!」
 実家では蔵に引きこもり、書物へ没入する毎日だった。それが召喚で投げ出され戦いに駆り出され、今、家に帰る機会も少なく戦いの後にはバタンキュー。
「ストレス発散の機会……買えるだけ買うからね!」
 握り拳で宣言し、周りの視線を集める程度では揺るがない決意で行った。陳列棚の前に仁王立ち、広げた両手でバチン! と頬を左右から挟み打つ。
「見えるわ!」
 すると彼女の視界、本達が眩い輝きを放って見える。昨今流行りの、面白いと評判の物だ。
「あと勉強に使えそうなのとラブにロマンスとミステリー……あ、この冒険譚もいいわね!」
 それらを筆頭にあれもこれもと手にとって重ね、どっこいしょと会計した時には、彼女の腕には分厚くなった袋があった。
「いいじゃないなーんでも揃ってるじゃない……いい買い物だわ……!」
 抱え、家に持ち帰った彼女の没入はまだ、誰も知らない。

「ふむ」
 手にしたチラシから顔を上げたラルフが居るのは、食を扱うスペースだ。漂う匂いは入り交じり、しかしそれぞれ何か判るほどに濃い。
「ま、どうせ私は年がら年中読書浸けだからね」
 ならば匂いに釣られ、腹を満たすのもいい。思い、彼はまたチラシを見た。
「しかしこのチラシ、下手だが味のある……おや」
 嫌いでは無い。そして隅に小さく入れられたサインは新米情報屋の物だ。それを確認して、目についた焼き菓子の店から大入り袋を買い、ふらつく動きで範囲の外へ。
「ああ、君、忙しい所済まないね。ちょっと屋台で焼き菓子を買ったのだが、つい買いすぎてしまってな。良かったら、一緒に如何かな?」
 そうして見つけるのは、ベンチに座って休憩中のシズクだ。了承を得て隣に座り、木枯らしに揺れる紅葉を眺める。
「イレギュラーズだね、貴方」
「その通りだ。君は、つい最近来たのだろう? 此処はどうかね?」
 差し出した菓子を摘まませながら、ラルフは聞く。
 ここに至るまでの経緯だとか、好き嫌いの話だとか、とりとめ無い雑談だ。
「もう時間だ」
「おっと、引き留めてすまなかったね」
 立ち上がりに合わせて席を立ち、仕事へ向かう背に一言。
「また会おう、新米情報屋君」
「またね、イレギュラーズさん」
 背を向け合った二人の上に、午後の日差しが降り注いだ。

 開店準備の店内に、エルはいる。
 仕込みした釜を開け、沸き立つ湯気の中を覗き込む。そこに、食感が出るよう大きく切ったキノコを混ぜた炊き込みご飯がある。
 その横、弱く火に掛けた寸胴鍋で作ったのは、昨晩から具材を染みさせた熱々の豚汁だ。
「ゴリョウさんの混沌米は美味しいですからね……これは味わってもらわないと!」
 後は普通の炊いた米と合わせて焼鮭を包んで握る。食べ歩きしやすい二種握りと汁物が揃った。
 正午より少し前。
 いざ、開店の時、暖簾は開く。
「ぶはははっ、さあさぁ食ってってくれ!」
 通路を挟んだ向かいに、米の生産主ゴリョウが居た。
 蓋をした蒸し器を並べ、その隣の熱した鉄板におにぎりが焼かれている。
「え」
「お」
 目が逢う時。行列の波が遮る。
 ゴリョウが用意した蒸し器の中は、ホイルされた豚肉と茸が仕込まれている。あっさり醤油でじっくり染んだそれは、歯応えが強く噛むほど味が溢れ出す代物だ。
 そこに焼いたおにぎりを合わせたら──。
「美味しい!」
 しかしあくまで主はホイル。エルは逆に、おにぎりに主をおいている。
 客層の分かれた二店の繁盛がここから始まった。

 喧騒を離れた位置に屋上テラスはある。
 街の活気と、街外を眺められるそこに、シルフィナは居た。
 備え付けの机に買った軽食を三つ置き、ホッと一息吐いてから空気を吸って、街を見る。
「良い匂いですね……ここまで我慢していた分、少し贅沢をしてしまいました」
 ホイルの包みを開いて、カップに注がれたスープを置き、具材の混じったおにぎりを取り出す。両手を合わせて箸を入れ、味わい、眼下から空へ視線を遊ばせた。
「……秋、ですね」
 柔らかくなった陽の光に目を細め、撫でる風に微笑み。
「……あ、これ美味しい」
 同じく買った、芋のデザートを頬張った。

「……たすき掛けと申します」
 緩やかな着物の袖を、背を通す帯で縛った雪之丞は、感心したように見るクラリーチェに言った。
「なるほど……動きやすく、且つ、凛々しく見えますね」
 頷きながら眼鏡の位置を直したクラリーチェはエプロン姿だ。
 二人が居るのはカウンターの内側。つまり売る側だ。
「いらっしゃいませ、よろしければどうぞ、ごらんくださいね」
 ふわりと微笑み、クラリーチェはカウンター越しに声を掛ける。販売するのは、甘い香りのスイートポテト。勿論手作りのそれは、見た目の可愛らしさと甘い匂いが客寄せに一役かっている。
「緊張、していらっしゃいますか?」
 正面を見る彼女の隣、雪之丞はカウンターの作業台へ俯いている。そこにあるのは、裸のスイートポテト。柔らかいそれを包む作業を行っていた。
 真剣に、崩さないように、丁寧に。
 そうして出来た物をお客さんに手渡して。
「緊張、でしょうか。貴女の様に、拙も、上手く出来ないものかと少し、意識があるかもしれません」
 なにより、そのような笑顔を作れるだろうか、と。
 言わないが、察した様にまたクラリーチェは頷く。
「そうですねぇ、人様に何かを売る機会は、早々ありませんものね」
「それに、この香りはこちらもお腹が空いてしまいます」
「それもわかりますね……!」
 とはいえ売れ行きは良い。持ち込んだ在庫は見る間に減っていく。
 だから二人は、その内の二つを静かに脇へ取り除いた。
「二人で頑張ったので、ええ、この程度は許されるでしょう」
「いい案です。教会に帰ったら、美味しいお茶と頂いちゃいましょう」

 ソフィリアは走る。
 胸に抱えた鈴カステラを潰さないよう、ベンチへ向かう。
 ただ座って食べるだけのつもりだったが、視線の先に知った顔があったので、足が早まったのだ。
 近寄り、息を整え、声を掛ける。
「あの、お久しぶりなのです!」
「……ああ」
 掛けられた彼、誠吾は、一瞬表情を惑わせてから得心する。
「カフェで接客してた子か」
 子供に好かれるタイプでは無いと自負する彼だが、一瞬とはいえ関わりがあったなら、こうして関わる事も不思議ではないかと心中で思う。
「あの時はアドバイスや励ましなど……お世話になったのです!」
「気にしなくていい。……食うか?」
 何となく横にズレ、ソフィリアが座ったのを確認した誠吾は、買っていたパックの食べ物を差し出す。
 ほかほかの湯気が立つそれをソフィリアは眺めて、刺されていた楊枝を摘まんであーんと一口。
「あ」
「あふひッ!」
 それはたこ焼きだった。カリッとした皮にトロッとした具は、噛んだ瞬間に広がる。
 ……忠告すればよかったな。
 反省する誠吾に立ち直ったソフィリアは鈴カステラの袋を差し出す。
「ひぇ、シェアなのれすよ」
 ゴクンと飲み込んだ彼女は回らない呂律で微笑む。
「うちは、ソフィリア・ラングレイ、なのです!」
「俺は秋月誠吾。誠吾でいいさ」
 ほれもっと食えと出されるたこ焼きにふーふーと息を吹き掛けながら、
「これからも、よろしくお願いします、なのです!」
「これから? ……まあ、何かの縁、だな。よろしく」
 約三週間遅れで自己紹介を済ませた。

「秋と言えば読書の秋! まあ関係なく読んでるけど!」
 簡易書店の並びを、アレクシアは嬉々として歩いていく。広く流通した本と、個人で作った作品が揃うこの機会。色々な本を買いだめしておきたいな、というのが彼女の第一の目的だ。
 ただ、別でもう一つ、欲しいものがある。
 無いものは無い、と二つの意味で豪語するこのイベントなら、ある筈のものだ。
 それは。
「あった、観光名所案内!」
 活動から一年半。沢山の出会いと交流で結ばれた友がいる。だから、お出掛けの知識として、各国の名所や名物を知りたかったのだ。
「これとこれとこれと……あ、店員さん他の国のはあるかな!」
 目についた物を買い込みながら、ズシンと重いソレを持ち帰れるか? と思う思考はお気楽に追いやられていた。

 グレイシアは並ぶ本を順に見る。探すのは、世界の歴史についての物だ。色々な視点から語られる記録は様々で、そこから知れることも多い。
 だがそれが中々見つからず、
「おじさまおじさまっ」
 勉強用を探していた筈のルアナの声に、意識を戻した彼は、視界を動く彼女に気づいた。
「どうしたのだ?」
「あのねあのね。これたべたい」
 目を向けると、見やすい様に目線の位置まで上げられた見開きの頁がある。
「たいやき、だって。かわいくない? あ、可愛い物を食べるのか? なんて聞いちゃダメだよ?」
 ちょっと声音を寄せた台詞で先に釘を刺されたグレイシアはじっくりとそれを読み、ふむ、と一つ唸る。
 ……無理だな。
 載せられた絵を見るに、形となる型が必要で、容易く入手出来る物ではない、と、そう察した。しかしそれを伝えれば、ルアナはがっかりするだろう、とも。
「そっかー……」
 案の定、分かり易い落胆を彼女は見せる。しゅん、とした姿は、少し心苦しい。
 だから、
「しかし、此方の料理なら、それなりに似た形で作れそうだ」
 代案として、一つ捲った頁にあるどら焼を提案した。材料としては似ているし、違うのは見た目と食感ぐらいだ。
「平べったくてまるっこくてかわいい! ホットケーキと同じ感じなのかな?」
「そうだな、材料を揃えて、明日にでも作ってみるとしよう。上手くいけばカフェでも使えるかもしれん」
 悲喜への転換を見たグレイシアは頷き、ルアナと作り方を学んだ。

 読書の秋を、珠緒は喜色満面の蛍を見て実感する。
 過ごしやすい季節、書物に集中した蛍ならば、1日が過ぎ去るのは早いものだろうと察する。
 ただ、蛍が抱える本の中身は、料理のレシピ本だ。
 見る視線に気づいたのだろう。蛍はフッと笑み、これね、と前置き。
「一緒に暮らし始めて、料理とか一緒に作るとかで、腕は上達したと思うんだけど……メニューのレパートリーが、ね?」
「なるほど」
 それを解消するためのレシピ本かと納得する。これからはもっと色々作れると喜ぶ蛍に珠緒は頷いて、想像する。
「蛍さんのお料理は、桜咲の為に、丁寧に作ってくださるので、大好きです」
 今後、いや今日からでも、そういう大好きが続いていく。そういう期待と喜びを、想像する。
 蛍にとっても、珠緒の好きな品を更に増やしたいと思っていて、
「あ、珠緒さんは、どんな本を探したい?」
 未だ手ぶらの彼女に気付いた。問いに珠緒は頷いて。
「戦記、戦術の指南書を勉強用に……あと、その……」
 こほんと一息。
「お菓子作り。作ってみたいものが、ありまして」
「なら、どちらもよく探せば見付けられそうね」
「はい。それからやはり、出来たら、蛍さんと一緒にたべたいな、と。どうせなら、作るところから」
 いかがでしょうか。問い掛ける瞳に蛍は、力強く頷いた。
 菓子作りは難しいだろう。だが、二人でならきっと美味しくなる。そんな気がするからだ。
「しかし、考えてみますと我々。半ば食欲の秋と化していませんか?」
「……帰りに、屋台に寄りましょうか」

「カイ、カイ! 見てこの本とっても懐かしい!」
 いきなり走って行き、そしてニコニコと帰ってきたシエルに、カイはふぅ、と一息を吐く。そして「買っちゃった!」と見せてくる表紙を見て、ああ、と応えた。
「懐かしいな。この影響で、俺は騎士を目指したんだ」
「ふふ、久しぶりに二人で読もう?」
 人混みから離れ、遊具の無い公園へ向かう。青い芝が生る地に並んで座り、懐かしみながらペラリと捲る。
「あ、ねえここ、ここ覚えてる。カイも好きだったシーンだよね?」
「……ん? ああ、そうそう、この辺りは何回も、読み直したな……戦う姿が、格好良くて──」
 憧れたんだ。と、続く言葉は落ち掛けた意識に消える。午後の陽気と、安心出来る存在の隣。そういう心地好さが、眠気を誘ったのだろう。
「寝るならほら、こっちこっち」
 だから、膝をぽん、と叩く彼女の誘いに体を横に。何だか昔に戻った様な、そんな感覚に陥って。
「……背も伸びて、大人っぽく成長して。でも、寝顔は昔のまま、なんだね」
 おやすみなさい。
 囁かれる声に導かれ、カイは意識を手放した。あの頃の理想に、近付けているだろうかと、そう思いながら。

 開店の準備が進む出張店で、ルーキスは作業の手を止めずに声を上げた。
「ルナー、頼んだペアの鳥は出来てるかい?」
「……出来てる、出来てるが」
 コト、と置いたティーカップやアンティークを並べながら、何処か歯切れの悪い彼を疑問に思い目を向ける。
 そこに、丸くて白い物体があった。
「いや、うん……錬金じゃないとこうなるよなー」
 固まるルーキスの顔にルナールは乾いた笑みを浮かべ、しかし次の瞬間にはルーキスの笑いが起きる。
「売れ残ったら店にでも飾ろうか、不器用な先生」
「売れ残ったらな。……多分確実に飾れるだろうけれど」
「わぁい、店に並べる置物が増えたね」
 絶妙なバランスで添え木に乗ったソレが最後まで残ったのは、言うまでもない。それから、今度はもっと可愛いものを作ろうと、ルナールが決意したのは、別の話。

 芸術とは、広く理解される物と、見向きもされないものがある。
「やややこれは!」
 スカサハが見つけるのは主に後者だ。
 細かく、繊細で、取り扱いが難しい機械技術の代物。意識的にではなく、無意識でそれを感知出来た。
「まだまだ現役でありますのになぁ!」
 タダ同然に手に入れ、ハイテンションな視界に、黒く細い絹が過る。
「むむ、そこの貴女様! お名前をお聞かせください!」
「え、私か?」
 シズクだ。黒い長髪に静かな気配。それがどこか、似ていると感じた。
「シズク様。あ、これは失礼。今は亡き友に雰囲気が似ていて思わず」
「うん、構わないよ」
「それから失礼ついでに宜しければ色々教えて欲しいであります!」
「それも、構わない。私の仕事だから」
 旧くを思い返す交流は、暫く続いたと言う。

 夕暮れの色に、輝く物がある。
 熱された石を敷き詰め、じっくりと焼き上げた秋の味覚の代表格、さつまいもだ。
 芳しい匂いが立ち込め、辺りを満たし、空腹を刺激する。
 ……懐かしいな。
 ただ芋を焼き、味付けもない素朴な庶民の料理。貴族という出自を持つエミールがかつて、焼き芋に抱いていた印象だ。
 勿論、今は違う。
 口に含んだ時のほろりと崩れる食感と、蕩け出した甘味。既に好物の一つとなっていた。
 冒険者となった当初に味わった衝撃として記憶に残るそれを買い、二つに割って、少し冷ましてから一口。
「……うん、美味しい」
 記憶と直結する味に、顔を綻ばせた。
 見上げた夕日は、山の向こうへと、落ちていく。

 リナリナの前に、串に刺されて火に炙られる魚が置いてあった。
「おー、珍しい食べ物いっぱい! 何だこれ旨いのか?」
 魚……魚の筈だ。どことなく、魚だ、と言い難い形状な気もする。が、じっくり炙られ塩をまぶしたその白身の肉は、食欲を多いに刺激した。
「スタペコラの塩焼きだよ」
「よくわかんないけど一本買う!」
 狐面を付けた店員に代価を払い、観察もそこそこに一口。
「ぬおぉ!? なんだこれ旨い!」
 噛んだ瞬間に広がる、あり得ない旨味が味覚を支配する。次の一口、また一口をと望む本能が、動きを止めてくれない。
「なぁもう一本……あ、あれ?」
 どうせならもっとと望んでも、既にそこに屋台はない。リナリナは、スタペコラが一番旨い、という体験だけを得たのだ。

「やっぱり秋から冬にかけては、この辺よねぇ」
 買った紙袋の熱を感じながら、焼き芋と焼き栗の匂いに思う。本格的に作るのは個人では厳しいだろうなと、追加で思いながら。
「ほっくほくの焼き芋に焼き栗! 甘くて香ばしい匂い……ねね美咲さんもう食べていい? いいよね? もう食べちゃうよいただきまーす!」
「既に夢中ね……? って待って待って、歩きながらじゃこぼすからこっち、座って食べましょう?」
 しかしヒィロは、匂いによって沸き起こされる空腹が我慢出来ない。引かれる間も視線は紙袋で、ベンチに腰掛け美咲から「もういいよ」を得た瞬間に焼き芋を取り出した。
「いっただっきまーあむっ美味しーい! 出来立て最高!」
「旬ものを焼き立て、だもの。美味しくないわけがない、てやつね」
「んふーっ。あ、美咲さん焼き栗剥いてあげる!」
 焼いた栗の皮は内からひび割れている状態だ。爪を立て、綺麗に開いたヒィロは、それを量産して美咲へ渡す。
「私がいくつもやると、爪を割っちゃいそう」
「えへ。そういえばなんで食欲の秋、なんだろう。美咲さん知ってる?」
「それは、夏と冬、厳しい暑さと寒さの間断だからね。夏に衰えた物を、冬を越すために蓄える。人も食物も、ね」
「へぇ~そうなんだ! 一つ賢くなったなぁ……ところで食べたら喉渇いちゃった、次は飲み物みてこよーよ!」
「食べてお喋りだものね、当然だわ。よし、じゃあ行きましょ!」
 ヒィロに手を引かれ、美咲は笑みと共に群衆へ帰って行った。

 黒羽と瑠璃は、手を繋いで歩いていく。
 並んで──いや、黒羽が少し先に進んで瑠璃の手を引く形だ。
 お互い、どこかぎこちなさが見えて、端から見て一番適切な言葉は、初々しいになるだろう。
(初デートだ……しっかりリードしねぇとな)
 きゅっと握った手の温もりに、楽しんで欲しいと彼は思う。
「さつまいものデザート、買って行こうか」
「あ、はい、さつまいも楽しみにしてました!」
 素直な返答に笑み、匂いを辿って手を引いていく。目当てを買ったら、また他にも見に行こう。そう考え、控えめに引っ張られる感覚に瑠璃を見た。
「黒羽さんあれ、アップルパイですよ。林檎、お好きでしたよね!」
「ホントだ……それにその横、スイートポテトの店もあるみたいだ」
 僥倖と、そう言うべきだろう。欲していた二つが同時に手に入った巡り合わせに感謝して、それぞれ買った好物を一口噛る。
 それから、同時にちらりと目を向け合って。
「……食べ比べ」
「してみましょう、か」
 お互いの口へと、それを差し出した。

 露店、狩人の気分時。広い鉄板に敷き詰められる肉と肉と肉が自慢の店は、ジュルナットが主を務めている。
「肉しかない!?」
「おじいちゃんは狩人だからネ。無骨に肉しか焼いて出せんサ、まあ皆食べるよネ? いいや食べなさイ。食べることは大切なんだヨ! おじいちゃん朝から一人で頑張ったからネ! アイタタタ頑張ったのに食べてくれないと腰がー脚がー!」
 軽口を言いつつ、しかし並ぶ品は美味しそうだ。その日取れた猪や鹿など、普段口にしない物が多く、注文を受けてから焼き、火の通り具合も好みで変えられる。
「無骨ながらも浪漫ある、素朴な味付けの骨付き肉はどうだイ? 何、ただの塩焼きだヨ」
 食事として申し分ない食い応えが、そこにあった。

 笑真が開く鳳圏カレーの店は盛況だ。メインのそれは、祖国である鳳圏が誇る料理の一つである。
「この活気、そして祭典への注力は目を見張るものがありますね……」
 だが鳳圏も負けてないと、スパイスの香りを広げて呼び込む最中、向かいの居酒屋に気になるものを見つけた。
 グラスに注いだアルコールを煽るバストと、彼が声を掛けるシズクの姿だ。
「あの個性的なチラシは君が? へぇ、じゃあシズクちゃんって君なんだ……そのパイスラを生み出す胸部装甲に強者のオーラ、いいねぇ」
「ぱいすら?」
 どうやらバストは、好みの娘にナンパをする癖があるらしい。条件に合致したシズクにもそうする、というのが話の流れだ。
「どうだい、折角出会えたんだ。まずはお友達から、さ?」
 串焼きを差し出すやり取りを見た笑真は、バストとは違う視点でシズクを見た。それは彼女の長い髪。そこに紛れた特徴的な盛り上がり。あれは。
「ロップイヤー獣種……!」
 確信と同時にカレーを持って彼は行く。
「やあお姉さん良かったらこれも食べてくださいそして一目惚れですお付き合い前提で友達から始めませんか?」
「急な直球だね」
 そんな二人の声に、こてん、と首を傾げたシズクは串焼きとカレーを受け取って、
「私、仕事とプライベートは分けてるの。今は仕事中。だから、そういうのは今度ね、お友達さん」
 クスリと笑い、新しい友に背を向けて警備へ戻った。

 懐かしい。アリシアは前の世界を想起させる祭典に混ざっていた。
 祭りは終わりに近づいている。帰る人波もあり、その中で幻想産フルーツジュースと野菜スティックのセットだけを購入する。それから少し歩き、
「……シズク様」
 見掛けた姿に足を向けた。警備も終わりなのだろう、新人情報屋がどれほどか、顔合わせ位はしてもいいかと思う。
「よろしければお一つ、いかが?」
「野菜……うん、ありがと」
 カリカリと小刻みに噛る姿が小動物の様だと、そんな事を思いながら、
「お疲れ様でした」
 アリシアは、労いと共に祭りの最後を見送った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

参加ありがとうございました。
予想以上に絡んでいただけて光栄です。
また、よろしくお願い致します。

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