シナリオ詳細
Attack on Chick
オープニング
●これは夢オチです。
気がつけば、混沌は滅亡の危機を目前としていた。あなたたちが立っていたそこ──ローレットも建物は崩れて残骸だけ。人気はなく、あたりを見れば周りの建物や民家も同じような状態だ。
なぜそのような状態になってしまったのか──あなたたちはすぐ気付くだろう。そう、黄色だ。空一面が黄色に染まっている。
「ぴよー!」
「ぴよぉぉぉ」
「ぴぃっ」
喧しい黄色だ。あれはローレットで情報屋として駆け回っていたひよこに酷似しているが、何せ数が多い。どれが本物でどれが偽物かなど、わかるはずもない。
あなたたちの中には正しい──正しいと思っている──普段のローレットを知る者や、逆に今のこの世界こそ正しいと、滅亡に向かった記憶を持つ者もいることだろう。そんなあなたたちは一様にそこに在り、唯一これだけは知っている。『あのひよこを倒して倒して倒し尽くせば、世界の滅亡は免れる』のだ。
気がつけば手に持っていた武器をしっかりと握ると、ひよこたちが一斉にあなたたちを見た。何百もの真っ黒でつぶらな瞳が見つめているのだ。ちょっと不気味である。
だがしかし、負けるわけにはいかない。なんとしても──滅亡を流れなければ!!
●夢だったんだって。
「……っていう夢を見たんだけど。アンタ、どんな悪行積んだの」
「夢の中でも僕の扱いひどくないですか!?!?」
胡乱げな視線を向ける『Blue Rose』シャルル(p3n000032)にブラウ(p3n000090)が悲痛な声を上げる。本人のせいでないのはいつものことだ。
「でも、この前フレイムタンも見たらしいけど。そういう夢。……あ、もしかしてボクらに怨みでもある? この前の写真見せずに捨てたこと?」
「それは僕も見たかったけど! でも! 流石に恨むほどのことじゃないでしょう!!」
だよね、と小さく息をつくシャルル。その視線がふと、漏れ聞こえる話を聞いていたあなたたちへ向けられる。
「聞いてた? 最近、大量のひよこが世界を滅亡させる夢を見るらしいよ。皆でひよこを倒して、在るべき世界へ帰るんだって」
アンタたちも見たことがないのなら、今夜あたり見るかもしれないね──シャルルはそう呟いた。
●これは夢です。
灰色の空ならぬ黄色の空を見上げて、誰かがああと溜息をついた。
思わないじゃないか、と誰かが呟く。そんなフラグ回収するように、あの話を聞いた夜に見るなんて、と。
思ったよ、と誰かが呟く。あんな話をされて見ないわけがなかったんだ、と。
なんのことだ、と誰かが呟く。自分はずっとこの世界で戦い続けていた戦士で、ここが一大決戦の地なのだと。
まあ、なんだってすべきことは変わらないのだが──。
- Attack on Chick完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年10月18日 22時05分
- 参加人数29/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 29 人
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参加者一覧(29人)
リプレイ
●ぴよ! ぴよ!! ぴよー!!!
「ぴよぴよぴよぴようるっっっさいな?!」
ルフナが心から叫んだ言葉は、やはりひよこたちの鳴き声に消される。鳴き止まぬその様子に、ルフナはがっくりと肩を落とした。
(……思わないでしょ、普通に。こんな雑なフラグ、回収される?)
しかもこれが世界の最期というならば、もう少し格好の付く相手にしてほしい。普通より大きいひよこに人類が負けたなんて歴史に残したくないじゃないか。
「とりあえず倒せばいいんだよね、もう。ほらひよこたち、お母さんだよ。誰かの」
無数の念が大きな鳥の姿を取り、ひよこへ突撃していく。ひよこが飛んでひよこにぶつかり、そのひよこがまた飛んでひよこに以下略。
ビリヤードかドミノのごとく連鎖していくひよこ。それを見上げて。
「「ブラウがいっぴき、ブラウがにひき……」」
アルクとカイトは異口同音にひよこを数え、ん? と互いの顔を見合わせる。他の声がかぶさってくればまあそうなるだろう。
「1匹くらい持ち帰っても──」
「ダメだろ」
「駄目? そうか、なら10匹単位で持ち帰るしか……」
そういう話でもないと思うが、カイトは肩を竦めてそれ以上は言及しない。そして再び空を見上げ、はたと思いつく。
「3つ揃えたらこの量産型ブラウ、消滅したりするんじゃねぇの」
そんなことあるわけないのだが、ないのなら自ら実行すればよい。
「はい、3つ揃ったから消えたァ!!!」
小気味よい狙撃音と共に3匹のひよこが落ちる。異様にテンションを上げるカイトのレーザーが、次々とひよこを狙っていった。
さて一方のアルクは、多く持ち帰るなら冷凍保存しようと氷の魔術を放つ──が。
「あ、駄目だ。冷凍焼き鳥になってしまう。可愛そうだ」
食べることは可愛そうでないのか。
「というかなってしまった」
手遅れだった。
「……ちゃんと焼いて食べてあげよう。塩が良いかな、タレが良いかな……味噌でも良いかな」
ごろんごろんと落ちてきたひよこの元で屈みこみ、アルクは真剣に悩み始めた。
「ヒヨコは食べられますか……」
そう呟いてしまったオルヴァは小さく頭を振る。食べたいわけでは、決してない。そう、食べたいわけでは。
オルヴァにとって食事は必須ではなく、何より愛らしい姿の生物をそのまま食べるのは流石に気も引ける。
だがしかし同時に、どのような味がするのか気にもなる。その姿のまま食べなければ良いのだ、加工さえしてくれる者がいれば──。
「お口直しやデザートに! ひよこ印の焼きマシュマロはいかが!」
──いるじゃん。
ひよこはどんな素材にもなるらしい。わかる者はわかるだろうが夢だ。つまりご都合主義。
マシュマロのような触感と味がするひよこを、こんがりと焼くのはリュカシスである。
つい先ほどまでは置かれた状況に首をひねっていたのだが、切り替えが早かった。手元には火器があり、周りには相棒と呼ぶべき相棒たちもいる。ならば他を気にする必要はない。
「ボクは今日から焼きマシュマロ屋サンです! 千客万来! 立身出世!」
えいえいおー! と気合を入れるリュカシスから焼きマシュマロを受け取ったオルヴァ。ひよこ印を見て、ぽつりと呟いた──愛らしい、と。
「お、俺には……できない……この子達を倒すなんて……」
空を見上げながら震えた声を絞り出すヨタカ。目の前には黄色が。空を埋め尽くす黄色が。もふもふな黄色──ひよこが。
きょろりと円らな瞳がこちらを向けばノックダウンするのも致し方がない。鳥同士であるし、可能なら平和的解決を望む。
(……そうだ)
ヨタカはおもむろにヴァイオリンを取り出した。音楽で解決する他ない、と。子守唄にも似た優しい旋律が、空気を震わせてひよこたちへ届く。
「ぴよ……」
円らな目を瞬かせ、ふわふわと降りてきたひよこたち。おねむな彼らは身を寄せ合ってモコモコになり、すぴょーと寝息をたて始めた。ああもふもふ。
「ピヨッ! ……はっ俺は一体何を!?」
カイト・シャルラハはきょろきょろと辺りを見渡した。おかしい。正気に戻ったはずなのに正気とは思えぬ光景だ。
(このひよこたちに洗脳されたのか)
そんなことはないけれども。そうと信じるカイトは青空を取り戻さんとひよこを狩り始める。そういえばずっとこんなことをしていたかもしれない。
(そもそもこのひよこたちは世界を滅ぼそうとしているか?)
いや、ただ飛んでいるだけだ。一緒に飛んでいても良いのではないか。よくわからないなら飛ぼう、鳥らしくピヨピヨ鳴いて。
「え、鷹はピィ? じゃあピィピィで」
鳴き声が1つ増えたぞ。
カイトの脇を飛んでいたひよこが、不意にピチュンと消える。
(やはり人の話に聞き耳を立ててしまった罰でしょうか)
ライカがひよこ消し砲を手に、黄色の軍勢を見上げていた。混沌で生きてきた時間は長いはずなのに、こういった展開はいつまで経っても慣れやしない。
──ひよこ消し砲って? 打つとひよこがピチュンって消えるんだよ。
(犬も女の子ですから、ひよこを消すのは忍びありません。かわいいは正義です。しかし──)
解決法はこれしかないのだ。そう、もちろんこの手に持ったひよこ消し砲で。
「ひよこに対峙ぴよです」
「ぴ、」
打つとまたひよこが1匹消えた。
そんな中、地面をしかと踏みしめる影。
「夢だが何だかは関係ねぇ。ここには俺がいて、そしてお前(ことり)がいる! それが全てじゃねぇか!」
ソリッドが叫ぶ。声を大にし、黄色の空へ向かって。これは自然の摂理。食うか食われるか、男の戦いなのだと彼の反応が告げている。
「戦闘能力が無いだぁ? ただ狩られるのを待つ気か?
さあ来い! 来てみろよ! いや来てください!! 俺に、一矢報いてみやがれブラウ擬きぃぃぃ!!」
振り抜かれる拳。避けるまでもなく宙を切り、そこで微動だにしていなかったひよこが腹に直撃する。
「ぐふっ……や、やろうと思えばできるじゃねぇか。遠慮無く来やがれ! ……遠慮なく!」
やろうと思ってやったわけではないが、ひよこからのダメージにどことなく嬉しそうなソリッド。ギフトのせいというべきか──いや、元々か。
(チィちゃん、あん中にいるんやろか)
ブーケは黄色の空を見上げて目を細める。そこにはひよこ、ひよこ、ひよこ。ずっと傍らにいたはずの小さな親友は、その中に紛れてしまってどこにいるかわからない。
(俺、忘れてへんよ)
雨の日に遊んだこと。泥だらけで怒られたこと。ともに食べたアイスの味。互いに強情で頑固で譲れなくて、喧嘩は大体長引いていたこと。
(どうか、チィちゃんを最初に見つけるのが俺ですように)
黄色の中にその姿を見出そうとするように、ブーケは瞳を小さく細めた。
「……グゥ?」
アルペストゥスは空を見上げ、不思議そうに鳴く。だって空が黄色い。よく見ればそれは見覚えのあるひよこだ。だがしかし、いつぞや追いかけた鳥とは違うような気もする。
その翼を広げ、ひよこへ向けて飛び上がるアルペストゥス。目で見る。耳で聞く。すんすんと鼻を聞かせて──空腹を感じたので、試しにパクリと食べてみる。
──ばふっ!!!
アルペストゥスの口内で爆発音。毒性がないことを確認する彼は、色々割愛すると口の中でプチ核爆発を起こしたらしい。勿論本人(ドラゴン)は平然としている。
もう1匹食べてみるとただの鳥の味。あの鳥──ブラウもこんな味なのだろうか。このひよこを食べ続ければ、あの鳥も見つかるかもしれない。
同じ空をやはり見上げ。
(捕まえて育てれば、さぞかし美味しいニワトリになるだろう)
エミールはそう思いながら、しかしこんなに多くはいらないとも考える。ならば数を減らしてから、まとめて捕まえて持ち帰ろう。
特大の網を用意すると颯爽と馬に乗り、エミール降りてきたひよこたちの元へと駆ける。どこから特大網や馬が出てきたかって? ほら、夢だから。
(夢の中、でしょうか)
明晰夢というものは、不思議な感覚で。雪之丞は視線を巡らせ、知った人影に目を丸くする。
「……雪之丞、御主もここに来るとはな」
「汰磨羈様も、同じ夢を?」
ああ、と頷く汰磨羈。夢を見てしまうほどにふかふかお布団で熟睡できたのは、素直に喜ばしい。
ここではどうやら、空の黄色いふかもふひよこ軍団をどうにかせねばならないらしいが──。
「雪之丞。もふもふしないか?」
もふもふ。もふもふ。
「もふもふ、ですか」
「そうだ。思いっきり、こう」
とエアハグもふもふする汰磨羈。雪之丞も真似してもふもふ。
「私が名乗り口上で大量に引き付ける。そうしたら、2人がかりでたくさんのひよこをハグってもふもふだ」
「拙も、お手伝いしましょう」
頷く雪之丞。汰磨羈は抜かりなくお布団も用意済みである。
「いきましょう。おいでませ、ひよこ様」
「ひよこちゃん、カモーン!」
汰磨羈の声と、雪之丞の打ち鳴らす拍手がひよこを呼び寄せる。あっという間にふわふわもこもこ、2人はひよこに埋まった。
「……ああ、これは極楽のもふもふ加減。ぬくい。寝る」
恍惚とした表情で目を閉じる汰磨羈。雪之丞は彼女の尻尾ごと、ひよこをもふもふもふもふもふもふもふ(略)。
ひよこは溢れかえらんほどで、2人がすっかり埋まったのでころんころんと地面を転がる始末。そのうち1匹がキサラギの足元にもふんとぶつかった。それを見たキサラギはひよこを抱き上げ、存分にもふもふを楽しむ。
そんな光景から、未だ空を埋め尽くす黄色へ視線を向けて。
(──夢、という奴か)
あまり見たことのないそれはレヴォイドにとって新鮮だ。そして目の前の光景はどう見ても破滅とは縁遠く、無害そうな存在であった。
だが、世界を破滅で覆うというのだから無害というわけでもあるまい。いやどう見ても無害なのだが──。
「終わらせねばならぬ」
それはもちろん、世界の破滅を、だ。
その足が、体が、手が、指先に至るまで。死の舞踏を紡ぐ構えを作り出す。……しかしこの状況、雑念は如何ともし難かった。
(果たしてこの夢を見ているのは”俺”自身なのか。身体の方なのだろうか。それとも──)
その解は、誰にもわからない。
力強く地を蹴り、瑠璃が空へ突っ込む。美しい銀の翼が黄色に紛れた。
「あ、とても……もふもふ……いえ、これは意を決した戦いなのです」
包まれるふわもこにうっとりしかけるも、頭を振って正気に戻る瑠璃。
──そう、こんな愛らしいひよこたちを倒せるわけがない。少なくとも瑠璃には無理だ。
けれども現実世界には戻らなければならない。瑠璃が考えた方法は、自らを囮として仲間たちに攻撃してもらうことだった。
「皆で帰りましょう、現実世界へ!」
舞い落ちる銀の羽根が地上にいる仲間たちを癒し、打倒ひよこの一助となる。それを受けつつ、すかさず愛が魔砲を放った。
「闇に覆われし世界を照らす愛の後光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
可憐なるポーズを決める齢ムニャムニャの女性。女の子はいつまでも女の子、年齢を聞いちゃいけません。
そんなことよりも、彼女には見えていた。これがひよこに擬態した悪魔の集団だということに。悪魔の集団らしいよ。
(このような手合いは履いて捨てるほど相手してきましたね)
つまるところ、これまでと同じだ。そして彼女は以前よりも進化している。そう、もう何でもかんでも吹っ飛ばさない。ひよこたちの中心にいる瑠璃にミニバリアを張り、ひよこのみを掃討することができるのだ!
「いやいや、だからってどんだけいるんだこれ」
その傍らではげっそりした顔のアオイが全力でひよこに攻撃を加えている。1体ならまだしも、ここまでいると流石にちょっとキモい。
「キリがないな……ん、待てよ」
ふとアオイは気づく。これは話に聞いた夢そのままだ。つまり夢だ。ならば──普段は使えないような大技だって使えちゃうのでは?
「やってみる価値はあるか……行くぞ!」
魔弾銃を構えるアオイ。集中すると、その銃口に何やらそれっぽい光が集まって──一条の閃光が空を駆けた。
──空、金色の獣に満たされる時、世界の存続は試される。
(悪夢のような、そんな伝説を、ボクは、知っていた……気がするのです。
つまり、この日のために、たくさん悩んで、強くなってきた……のかも知れない、ですね、多分?)
首を傾げながら、閠は空へと浮かび上がる。その姿はひよこたちに埋もれ、さらに上へ──そしてひよこの頭上から衝術を放って地上へ落とす。数が多いが、少しずつ減らしていくしかない。
「こんなことしてまで、存続する世界とは、罪深いもの、ですね」
苦笑するも、ライフルの引き金に置いた指は外さない。誰だって──閠も勿論──死にたくないのだから。ちなみにエルもその1人だ。もふもふは好きでも、ひよこに埋もれて終焉を迎えるのは流石に駄目だと思う。
「それに……夢の中でも、世界が終焉を迎えないようにローレットは戦わなきゃいけないからね!」
手の中にある銃が弾をはじき出し、ひよこの頭に当たる。ぽしゃりと落ちてきたひよこは血こそ流れないものの、息がないことは容易に知れた。
「……ちなみに食べられるのかな?」
雀や鶏は正しい調理をすれば美味しく食べられる。ということは。
「…………美味しいのかな??」
食欲へ意識が向いてしまったエル、暫しひよこを凝視することとなった。
「おー、ヒヨコ! 終焉のヒヨコ!」
るら~! とひよこを殴りつけるリナリナ。戦い続けてもうどれだけの時が経ったのか。けれどもこれだけはわかる。今日が最後のシンパンの日だ。
「……??? シンパンって何だ?」
ふと首を傾げるも、難しいことなどわからない。とにかく倒してヒヨコ肉を食べよう。倒せば何だかいい感じに調理されるし。
倒して食い、倒してまた食う。繰り返していると、何やらボスっぽい──別の言い方をすればブラウっぽい──ひよこを見つけ、リナリナは目を輝かせた。
不意に空から、ひらりと黒の羽根が舞う。
「──」
ナハトラーベはひたすら空を目指していた。ある意味色の褪せたこの世界で、黄色の先には青が広がるのか。確認することは翼を持つ者の義務だ。この決戦以上に重要かもしれない。
向かってくるひよこをリンダーンでいなし、上を目指す──だけではない。ひよこを見る目は捕食者、というよりもう料理を目の前にしたそれであった。唐揚げ美味しいよね、わかるよ。そしてこういうご都合主義世界には、ポケットへ手を突っ込めば良い感じの道具があったりするもんだ。
(ふむ。あれほど多くひよこさんがいるというのもまた稀有な機会)
なにかの吉兆を示すのでしょうか、とグランツァー。そもそも自身がいつからここにいるのか定かでない。
(とにもかくにも。ここが現か夢か)
周囲の精霊を探し、疎通を試みる。夢だからなのか夢の精霊という存在がおり、グランツァーはまず希少な繋がりを持てたことに感謝の意を示した。
「精霊様への願いといたしましては陣地構築よろしく、空に壁を作りひよこさんが自由に逃げ交う余裕を無くしますよう──」
そう願うと、不意に黄色い空の端っこでひよこがぽとぽとと落下した。見えない何かにぶつかったように。
(……俺もついに魘されるようになったのか)
空を埋め尽くす黄色に、レンジスは内心ため息をついて。仕方ないと言わんばかりに武器を構える。二度寝してもダメだったのだ、やるしかない。
それにしたって──。
(どういうことしたらブラウが不特定多数の人間の夢の中で増殖すんだよ。訳が分からねぇぞ)
ぴよぴよと鳴くひよこを薙ぎ払いながら、レンジスはあの情報屋を思い出す。憑かれているのは彼自身で、ひょっとしたら毎晩魘されているかもしれない。
(……起きたら真実を確かめに行くべきなんじゃねぇのか、コレ……)
などと思いながら拳を振り抜き。ぴよー! とひよこがまた1匹転がった。
「いやァ、おじいちゃんの知ってる土地じゃないよネ、しかもデカイヒヨコがわんさかと来た。狩人で有る以上、過多を解消するのも仕事であるサ!」
パンッと乾いた音が鳴る。ジュルナットは空飛ぶひよこに照準を合わせ、もう1発。
ぴよー!!
ぽとぽとと落ちていくひよこ。少しずつだが確実に、空を飛んでいた黄色が地面を埋め尽くしていく。
(終わったら解体して、骨つき肉にしないとネ!)
焼き加減はミディアムにしよう。ほんの少し塩をかけて。欲しい者にも渡せば皆がハッピーだ。そこへ──。
「──その肉! この天才料理人、Dr.マツリカがステーキにしてみせよう!!」
少女が超自信ありげな笑みを見せながらジュルナットの落としたひよこへ近づく。世界に滅亡をもたらすひよこなど早々いない。これこそ超級ブランドの肉なのだ!
「早速調理スタートだ! 料理スキル? ない!」
えっ。
「油もない!」
えっ?
「調味料もない!」
どうやって作るつもりだ、肉だけで!!
「料理は科学! エキセントリック&ファンタスティックな科学スキルを以てすれば異次元的過程を得た宇宙的クッキングによりあっという間にステーキが!」
嘘だろう?? いいえ嘘じゃないんです。彼女の前にはいつの間にやら、とても美味しそうなステーキが完成していた。
そこへ新たな肉を持ってきたのは銅だ。しっかりと血抜きされた肉である。ひよこを食料とみなした銅は、嬉々として殺しては血抜きをしていたのだ。
これも料理してくれ、といえば任せろ! とマツリカが力強く頷く。調理されたひよこ肉はとても美味しい。
(変わった夢だったけど悪くない夢だね)
次々と殺戮されるひよこを見ながら、銅は思う。次があるのなら、もう少し平和に遊んでもいいのかもしれない──と。
いつの間にやら、黄色かった空は青くなっていた。
──ああ、終わったのだ。
そう誰かが悟る。同時に、イレギュラーズたちの背後で重たいものが動く音を聞いた。
さあ、帰ろう。現実の世界に。
●ひよこはコケコッコーと鳴かない
そんなわけで、朝。
「うっうっ」
ブラウが泣きべそをかいていた。ふわふわの毛が目元だけしっとりしてしまっている。なんでも、巨大なナイフとフォークを持った影に追い掛け回される夢を見たとか。その様子にレンジスは「やはり」と思わざるを得なかった。
「僕は、僕は食べられないって言ってるのに、ずっと追い掛け回されて、ぐすっ」
「それは怖い夢だったね」
相槌を打ちながらちゃっかりブラウを抱え上げるエル。べそをかくブラウはなんと、気づいていないらしい。
そのまんまるふわふわ頭に突然カチャリと銃が突き付けられ、ブラウは飛び跳ねた。同時にその銃の持ち主──閠も驚いた。気づけばこうなっていたのだ、閠に悪気はない。
「……ご、ごめんなさい、です」
「ぼ、僕何か悪いことしまし──あれっ抱えられてっ、ぴよーっ!?」
ぺこりと頭を下げる閠。それを見て助けを求めるように視線を巡らせたブラウはようやく抱えあげられていることに気づいた。
そんな状態のブラウを見て、リュカシスは思わず立ち止まる。その表情は愕然としていた。
(なぜ……なぜボクは今、美味しそうだなんて……)
あれは獣種、あれはヒトになれるひよこ。ノット食用。でも美味しそうに見える。何故だ。ほとんど忘却の彼方にある夢の名残か。自分はいったいどんな夢を見たのか。
また、レヴォイドはひよこを見かけると首を傾げて。何を思ったのかは本人のみぞ知ると言ったところだが、何か引っかかるものがあったことに違いはない。
「ああ、ブラウ」
不意に声をかけたのはアルクだ。見上げるブラウの頭をポンと撫で、一言。
「昨日の夜は美味しかった」
エルの腕を抜け出そうともがいていた動きが止まる。硬直してしばし、ギギ、とそれはそれはぎこちなく自らを見下ろして。
「……しっ、知らない間にどこか食べられ……っ!? 昨日の悪夢はまさか、まさか……!」
ふるふると震えるひよこ。しかし爆弾発言をした本人はすでに颯爽と去ったあと。
この朝、鶏の鳴き声ではなくひよこの絶叫──あるいは悲鳴──で目覚めた者がいるとか、いないとか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。いやあひどかった(大満足)。
想定以上の参加で驚きました。ありがとうございます。皆様にもお気に召して頂けますように。
最後にブラウから一言。
「僕は!! 食べられません!! 食べようと!! しないで!!!」
GMコメント
●すること
ひよこを倒す
●ひよこ×たくさん
ブラウ(p3n000090)によく似たひよこです。空一面を埋め尽くしている、とある通り飛べます。つまりブラウではありません。気まぐれに降りてきます。
戦闘能力はなく、ただただ数がいます。ぴよぴよ鳴きます。喋りません。
その愛らしさにノックダウンしても、無情に狩っても、食べても構いません。現実のブラウくんは狩らないでください食べないでください。
●設定(夢)
オープニング参照。付け加えると、いい感じに倒しきると大きな扉が皆様の前へ現れます。その扉を開けた時が夢の終わりです。
●ご挨拶
愁と申します。深く考えてはいけないのです。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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