シナリオ詳細
真夜中ピクニック
オープニング
●
月よ、そう照らしてやるな。
星が恥ずかしがって隠れているじゃないか。
赤に覆われた白がうつむいてしまったじゃないか。今にもしおれてしまいそうだというのに。
一面の赤が続くこの野原で、おまえの光から逃れえるものなど何一つないのに。
冷たい顔をして素知らぬふりで夜空を滑っていくのか。
月よ、そう照らしてやるな。おまえの慈悲の光へ理性など投げ出したくなるから。
●
「……こんばんは」
そう【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)は言った。
ちょうど今日の依頼を終えて、帰ろうとしたあなたへ。
いい月夜だった。青い月光が街を照らしている。リリコはフリルの付いた日傘のようなものをさしていた。それはなに、とあなたが問うと、月光傘だと返ってきた。
「……こんなに月が青い夜は、魂が呼ばれるから月から顔を隠すのよ」
そう言ってリリコはゆるく微笑んだ。月光に照らされたその頬は、陶器の人形のように血の気が薄い。彼女はバスケットを抱え、どこかへ出かけるようだった。どこへ往くのかたずねると。
「……一面の彼岸花、見たくない?」
ウサミミみたいな大きなリボンがうれしげにぱたぱた揺れた。
「……森の奥に、彼岸花だけが咲く野原があるの。とてもきれい」
彼岸花、別名曼珠沙華、天上の花を意味する。小さな赤い百合を束ねたかのような独特な形をしていて、ひと目見たら忘れられないほど美しい。だがその身は毒を持ち、他の植物を損ねる。彼岸花が群生していることが多いのはそのためだ。きれいな薔薇には棘があるが、彼岸花の毒は薔薇の棘よりも恐ろしい。だがその美しさに魅せられてしまえば、そんなことは些細な事柄だ。一面赤に染められた野原はどれだけ心惹かれるだろう。
「……もし、白い彼岸花を見つけた人はね、それをつんであげて」
彼岸花の異名は捨子花。だれからもあいされなかった子どもの魂が白い彼岸花になって咲くのだという。生命の息吹を連想させる赤をまとうこともかなわないまま、ひっそりと隠れるように咲く捨子花。もしも見つけたのなら、次の命へ生まれ変われるように、あえて花としての命をおわらせてやってほしいのだとリリコは言う。輪廻へ乗ることができたなら、その白い彼岸花は融けるように消えていくのだそうだ。
リリコは少し首を傾げ、何か思い出したのか、そうそうと続けた。
「……野原の隅にはね、夜にだけ開く居酒屋さんがあるよ。朝になるとなくなってるって噂だけど、おかしな食べ物はでないから、安心して……」
ヒトが来るかどうかもわからない野原の隅で、何故か居酒屋を営んでいる店がある。そこの店主はでっぷり太った壮年の男で、時折狸のしっぽが見え隠れするが、腕は確かで、どんな注文にも答える。なかでも特に、焼き鳥が美味いらしい。せせりになんこつ、ねぎまにささみ、つくね、はつ、砂肝。それに酒。海洋から取り寄せた名品珍品の数々がそろっている。ただ、そこで飲み食いした者が、もう一度行こうとしても不思議と見つからない、そんなお店。
「……月夜の晩にお弁当持って、彼岸花のお花畑を、お散歩。孤児院のみんなもいっしょ。私はサンドイッチ、持っていくよ」
人形のように無表情なリリコ、だけどリボンが楽しげにぴこぴこ揺れている。
「……月光傘がないなら、貸してあげる。だからいっしょに、真夜中ピクニックへ行こう」
リリコは背を向けて歩き出すと、そっと歌い出した。少女らしい高く、少しかすれた声。
満ちては欠ける無慈悲な女王
夜空を往く彼女から
顔を隠して盗られぬように
白い花はペンキで赤に塗ろう
歌声につられて、あなたは月光傘を手に取った。
- 真夜中ピクニック完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年10月06日 21時00分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●赤い野原
一面の彼岸花。
ルゥチェはその景色に圧倒された。魔物が作り出したと言われても信じてしまいそうな、どこか不吉な美しさ。そう感じるのは、自分がまだこの世界に心を許してないからだろうか。
(慎重に行動しないと……)
足音ひとつ立てずルゥチェは歩いていく。と、白い彼岸花を見つけた。
(なんだっけ、つんであげてほしいとかなんとか)
情報屋の少女がそう言っていた気がする。茎の中程を折り取り、月へ掲げると、ほろり、雨に打たれた白雪のごとく消えた。ふいに遠い故郷やかつての仲間の顔が浮かぶ。ルゥチェは苦笑いした。
「こ……こんなセンチなとこが私にもあるとはね……」
おでかけ、しかも夜中に! 特別感がルアナの胸をわくわくさせていた。
「今日は寝なくていいんでしょう?」
ルアナがそう言うとグレイシアは苦笑しつつ答えた。
「寝なくて良いというわけではないが……多少の夜ふかしは大目に見るとしよう」
「やったー!」
ルアナはぴょんと飛び上がり、ついでに野原の隙間を見つけた。
「おじさま、あそこ空いてる。おべんとたべよ?」
「これは広げるのにちょうどよさそうだ」
準備ができると、さっそくお弁当を広げているルアナにグレイシアはつい微笑んだ。
「普段と違う状況というのは、それだけで気分が弾むものだ」
おだやかにルアナを見守る。一方そのルアナはというと、ちょっとご不満だった。
(おじさま特製おべんと……。お手伝いさせてもらえなかったんだよねー、普段ならちょっとは触らせてくれるのに)
メインは螺鈿模様の入った漆の重箱三段重ね。期待を込めて上蓋を取ると……。
「ふ、ふわぁぁぁぁぁ!!! なにこれ! わたしの好きなものばっかり! ね、おじさま! 何から食べよ!? ね。ね。どうしよう!!」
「そう驚かなくとも」
「だってだってどれも美味しそうなの、うーん、迷うー迷うよおじさまー!」
ルアナはふと気づいた。だからお手伝いダメだったのかなって。……えへへ、うれしい。帰ったら洗い物は自分がやろう。
「まだまだ時間はある。ゆっくり食べるとしよう」
淹れたての茶をルアナに渡し、グレイシアも一息ついた。
月光傘にふたりで入って、アニーと零は一面の赤を行く。
「……綺麗だな」
「うん」
言葉少なに道を進むのはあまりの赤に圧倒されたから。知らず傘の下、身を寄せ合う。
「零くん、待って。泣き声が聞こえるの」
アニーは何度もあたりを見回して……。
「あ、あった」
埋もれるように咲いていた白い彼岸花を見つけ出した。
「その子が……泣いてるのか?」
「うん。悲しいの? 痛いの? ……そう。寂しいんだね」
私のところへおいでと、アニーは白い彼岸花を折り取った。抱きしめるように胸元へ持っていくと、体温に触れた彼岸花はほろほろとほどけて、空へ消えていった。その先を見上げると青い月。
「本当に魂が呼ばれちゃうのかな」
「アニー……」
月を見上げていると、どこか心配そうな零の顔。アニーはふわりと笑って、月光傘の下、零に寄り添い、ぎゅっと手をつないだ。どこにも行かない、そんなサイン。
「君が離れず居てくれるのは……すごい嬉しいや」
「そう言う風に行ってもらえるのは、私も嬉しい」
「あの花の子、輪廻に乗れたのかな」
「うん、きっとそうだよ。さっきの子とはね、約束したの。白い彼岸花の花言葉は「また会う日を楽しみに」きっとどこかでまた会える。ひょっとして……未来の私の子どもかな?」
「え゛」
アニーが零を見ると彼は真っ赤になっていた。子どもってことは、当然、夫がいるわけで……。零は頭を振って、邪念を追いやった。
「未来のアニーの子ども、俺も見てみたい」
「リリコちゃん、お久しゅう……」
蜻蛉はリリコの頭をリボンごと撫でながらゆるやかに笑んだ。
「リリコ、ほら、ごらん」
ポテトは弁当箱の蓋をとってリリコへ差し出した。
「……とっても、かわいい。食べるの、もったいない」
いつもちょっと眠そうなリリコが目を見開いている。
「そうだろう? 今日は三人でお出かけだから腕によりをかけてみたよ。どんどん食べるといい。リリコが元気そうで何よりだ」
ポテトの弁当箱には一口サイズに切られた軽食が行儀よく並んでいた。
「そういえばこうして蜻蛉とのんびり話すのは初めてだろうか? 初めて会うわけじゃないぶん、なんだか不思議な感じだな」
「せやね……でも、不思議と落ち着くわ。ほんにポテトさんのおべんと…美味しそう♪」
蜻蛉はポテトの弁当箱をのぞき込んで幸せそうに笑んだが、その笑みがすっと違う色に変わった。
「あれ、あそこに一輪みぃつけた」
蜻蛉は手を伸ばし、そこにあった白い彼岸花を手折った。
「早速見つけたのか。あ、その奥にもあるな」
ポテトも白い彼岸花を手にする。蜻蛉が歌うように言った。
「望まれずに生まれてくる子なんて、おらんのよ。みぃんな…等しい命や。次、逢う時は…こうして、美味しいお弁当食べて笑えますように。あたたかな場所で、幸せになれますように」
蜻蛉とポテトの胸元から白い光が天へ昇っていく。
「どうか、次は幸せになってくれ。新しい家族のもとで、素敵な人生を……」
「月の光が狂気を誘うって言われるの、なんでかしらね」
月光傘の下、蛍と珠緒は共に月を見上げる。
「月の影響は、世界によっては実際に起こるそうで。美しさと謎めいた力、惹きつけられる方も多かろうというものです」
そういう珠緒の横顔はとても綺麗で。
(ああ、だから、かしら)
蛍はぼんやりとそう思ってしまった。あわてて頬に浮かんだ朱を拭い去ると、話題を変える。
「綺麗すぎるっていえば、彼岸花もよね。ただでさえ炎みたいな形の花なのに、これだけ一面に咲いてると、まるで、炎の海にいるようね……体まで浄化の火に焼かれそう。お花を見に来たのに、なんだか命について考えちゃいそうだわ」
「そうなのですね。桜咲は妙に落ち着くのです。普段から紅に染まることが多いからでしょうか」
微笑む珠緒の儚げな面差し。蛍はぎゅっと珠緒の手を掴んだ。
「そんなに心配しないでください」
「……しちゃうよ」
せめて月に盗られないようにと、蛍は傘を目深にさしなおした。その時、視界の隅にちらりと。
「あっ、リリコさんが言ってたの、これかな。白無垢の彼岸花。かえって目立ってるようにも思えるけど。摘んであげるのが、この子のためにいいのかな……珠緒さん、どうしよっか 」
「桜咲にも、見つけて欲しがっているようにも思えます。信じるならば、送りましょう、ただ……」
珠緒は咳き込み、吐血した。血に染まった両手で白い彼岸花を紅へ染める。
「そのままは、寂しいでしょう」
彼岸花は淡く光り消えていった。
京司とリリコは彼岸花の園を歩いていた。白い花を見つけて、空へ還してやる。
(この子があの人のお気に入りか……)
自分も気がつくと彼女の手を引いて転ばないよう気をつけてやっている。
「リリコ君、付き合ってくれてありがとう……気付かれず愛されたかった子供(僕達)の慰撫だけでは寂しいから」
僕は認められず愛されないまま大人になったけれど。
僕はもう認められず愛されなくても良いけれど。
今、愛されずにいる子供達が報われる事を願う。
「ありがとう。お行き、君の導く月がお待ちかねだ」
彼岸花、思うはあなた1人。
僕の愛は今は亡き彼だけ。
「この毒なら僕を、彼の許へ逝かせてくれますか」
京司は赤い花を手折り、その茎を噛み締めた。
「リリコおいで。ウタが上手だね」
「……ありがとう商人さん」
「銀の月と呼んでおくれ、リリコ。でも顔なんて盗ったりしないよ。シスターに怒られたら、きっと怖いもの」
「……うん、わかった。私の銀の月、ふふ」
ゲシュペンスト・アジテーターに火が灯る。青い蝶がひらひらとその周りを飛び交う。
「知ってる? 蝶は魂の象徴でもあるんだ。だから、もし捨子花が散ったら、次の命としてこのコたちが運んでいってくれるかもしれないね」
「……独りじゃないんだね。とっても、よかった」
「次の命になれるのは素敵だけれど、花の命を愛でられずに散らされるのはきっととても寂しいから……」
武器商人は白い彼岸花へ手を伸ばした。
「――”愛しているよ”。おやすみ、よい旅路を」
「ボクの身の上話を、聞いてもらっていいですか」
ザスとミョールへ向かって、閠は語りだした。
『閏』は余り物、正統ではないの意。その幽霊文字『閠』が、捨て置かれるはずだった次男の名前。
一族復興に縋る大人達が、当主に据えた都合の良いお人形。たった1人の兄に愛し愛され、その死を悲しみ、怒り、全てを真っ白な灰にしてしまった。
「ボクが、そのまま、捨てられていたなら。なんて、贅沢な悩み、ですよね」
「そんなの周りの大人が悪いのよ」
「そうだよ、閠さんは悪くないよ!」
閠は虚を突かれたように顎を引いた。そして鈴と一緒にころころ笑い、白い彼岸花を手折る。
一緒に遊んでからでもきっと遅くはない。ボクはまだここで足掻くからお先にどうぞ。じゃあまたね。
白い彼岸花を集め、花冠にしている女が居た。名はタマモ。炎と狐、そして彼岸花を司る精霊だ。
「そなたらの来世が幸福でありますように……ま、しばしこの世を楽しむのもありじゃろうて。妾の酒の友をいたせ」
タマモは花冠をいただき、持ってきた酒瓶の蓋をぽんと開ける。全身をふつふつと沸き立たせるのは一面の彼岸花のせい。思わず走り回りたくなるのを、強い酒精で飲み干して。
(彼岸花……別名狐花。元は邪炎精霊の妾が彼岸花にも縁がある精霊になったのは別名の影響に違いない)
タマモは月を見上げる。名を授けてくれた旅人の友と…彼岸花を愛した最愛の女…今は世界の敵となった破滅主義者「葛葉」、そして魔種「リコリス」の事を…。
「……ザスくん。男同士ちょっと話さないか? とっておきの箱パンがあるぞ?」
「箱パン!」
わかりやすいとウェールは苦笑する。
「話だが……夢ってあるか? 将来の職業とか」
「イレギュラーズになりたい!」
「そうか。ん? なんで急に夢を聞くのかって? ……月で昔の嫌な事を思い出したから、楽しい話が聞きたくてな」
それは赤い記憶。作られたばかりの頃、製造者の一人に褒められたくて……なのに月下、真紅に染まった手が酷く醜く見えた。
「俺の事より…そういえばザスくんは気になる子はいないのか?」
「んー、いないなー」
「じゃあこの世で誰が一番美人だと思う?」
「……死んじゃったママ」
そうか、とウェールはザスの頭をぽんと叩いた。
メーヴィンは月と花、そして酒を楽しむ。ときおり酒瓶に口をつけては、熱を飲み込んだ。賑やかに飲むのは性に合わないから、こうしてふらりふらりと千鳥足。一面の赤に思う所あるのか足を止める。
「いやぁ、不吉というべきか…はたまた運が裏返ると思うべきか。そういえば彼岸花は数多の名を持つ花じゃったな。狐花とかはかわいいと思うんじゃけどね」
紅に染まった視界に、ふと見つけた違和感。近寄ってみれば白い花。
(……白い彼岸花の花言葉は「また会う日を楽しみに」じゃったかな?)
彼女は手を伸ばし、花を折り取る。
「そうじゃな。いつかまた、会う日が来るじゃろ……この月も生まれ得なかった命とも」
花に埋もれるように、寝転んでいる乙女が居た。
フィーアは赤い花に昔日を思う。ほそぼそと光る星のどれかが、自分の居た世界なのだろうかなどと。
(確か、彼岸花の花言葉には「思うはあなた一人」がありましたね)
彼岸、あの世を意味する言葉。クローン体のフィーアには数え切れないほど多くの姉妹が居る。同じ顔、同じ姿の姉妹が、星の海で、あるいは基地を守って、散っていった。きっと今も。その姉妹たちを遠くから見送ってきた。
データベース上の無機質な記録上で、あるいは吹き飛ぶ護衛艦の鋭い閃光の中で、昨日会った守備隊が、次の日には頭のない人形になっていた瞬間を……。
赤い花々に思い出を重ねて、フィーアは目を閉じる。
●おしゃけしゃけしゃけ
(うわあー、これ全部居酒屋さん目当て? さすが一度しか入れないだけあります!)
長い行列にエルは驚いた。不思議なことに小さな居酒屋なのに待つ様子もなく次々と客は吸い込まれていく。ほどなくしてエルの番が来た。古めかしい店内は、掃除が行き届いていて、壁にはられたメニュー一覧の墨跡もいい味を出している。
カウンター席へ座ると、狸っぽい親父がキャベツを山と盛った器をエルの前へ置いた。
「もも、つくね、ねぎま、カンをタレで。皮、ささみ、ハツを塩でお願いします!」
カンとハツを頼むなんて我ながら大人なチョイスと悦に入っていると、思ったより早く注文の品が出てきた。
「うわあ、おいしい! どれもジューシーで火の通りもぴったり! あ、焼き鳥丼とネギトロ丼追加で!」
「居酒屋ってたしか大人じゃないと入れないはずなんだが、さっきのねーちゃん普通に入っていったな」
ならば自分のこれはなんなのだ。わざわざ付け髭までつけて変装したのに。いやまず君はガトリングをパージしろ。ほらやっぱり入り口で引っかかってるじゃん。
「あー、こほん。お騒がせしとるよ。こほんこほん」
よし、無事に入れた。最寄りのカウンター席にしゅばばっと陣取り、注文。
「飲み物はジュース……あー、酒はだめなんでオレンジジュースくれ! の、乗るなら飲むなってやつだぜ!」
急いでメニューを開くとそこはよだれのたれそうな逸品の数々。矢継ぎ早に注文をし、ワモンはやり遂げた顔でごはんが来るのを待った。
ゆっくりペースで注文を続けているのはアーリアとミディーセラ。カウンター席で隣り合ってどれがいいかと鵜の目鷹の目。
「どれもおいしいわね、みでぃーくん。幻想の酒場はだいたい知ってるつもりだったのに、こんなに不思議な場所があるなんて!」
「一夜限りというのがとても残念です。めいっぱい満喫しなければ。ふたりで。つくね……とてもおいしい。アーリアさんも一口どうですか……」
「いただきまーす」
ぱくり。つくねを半分持っていかれてミディーセラのケモミミがしょぼんと垂れる。
「つくね……」
「ごめん、みでぃーくん、ちょっとした悪戯のつもりだったのよ。ごめんね、追加で注文しちゃおう?」
「はい」
運ばれてきたつくねを手に、今度はアーリアがミディーセラにあーん。ぱくり。半分こ。二人くすぐったげに笑い合って、次のお酒を選びにかかる。ふとミディーセラを見ればふさふさの尻尾。長い年月を重ねてきた証のように。アーリアは少しだけ不安になって甘えた声を出した。
「ここは朝になれば消えちゃうみたいだけど……みでぃーくんは朝になっても消えないわよねぇ?」
ミディーセラは静かに微笑んだ。
「消えてしまっても逃さないように、しっかりと捕まえておいてくださいね」
「もちろん!」
アーリアがミディーセラの手をぎゅっと握る。この手を離さなければ、きっと。いつまでも一緒。ミディーセラは握られた手を嬉しそうに頬へ寄せた。
「一面の彼岸花、きれいだったね美咲さん!」
「そうね、でもやっぱり花より団子、いえ、焼鳥よ。ヒィロ」
テーブルへついたふたりは、まずフードから頼んだ。ヒィロは焼き鳥を片っ端から。美咲はせせり、ささみ、つくねに卵黄とピーマンを追加で。カウンターの向こうへ戻っていった親父を尻目に、二人はドリンクメニューで顔を突き合わせる。
「焼鳥には……ハイボールかな。私はそれで」
「飲み物……飲み物……」
ヒィロは難しい顔をしている。お酒のページもおいしそうな銘柄がずらり、でもどれが自分にあっているのかさっぱりわからない。なにこのたんれーからくちってやつ。初見殺しの単語が目白押しだ。
「あ、いいこと思いついた。美咲さん、ボクのも選んでもらえない? 海洋のバーの時みたいに、今日は、あの彼岸花みたいに真っ赤でオトナなのとか!」
「ヒィロさん、赤いのがいいの? そうだね、親父さん、ここカクテルも……そう、あるんだ。ありがとう。じゃあシャリーテンプルとかどうかな。ジンジャーエール主体だから、お肉食べながらにはいいかも」
「うん、おいしそう! それにする!」
運ばれてきた料理とドリンク。二人はコップを手にすると目を合わせた。
「えーと、何に乾杯しよっか?」
「そうだね、ここは『月と花に』かしら」
「今日にぴったりだね! じゃあ月と花にカンパーイ!」
一期一会の精神で、二人は大いに料理を楽しんだ。
出会いがあるのも酒の席ならでは。ここではみんな酔っ払い。カウンター席では芽衣がゲオルグへ声をかけている。
「にいちゃんかわいい羊連れてるね、ペット?」
「ああ、俺のギフトでな。ジークという名だ。ほら、ジーク、ご挨拶しなさい」
そう言われた手乗りサイズのふわふわ羊はとことこと芽衣の近くまで歩いていっておすわりして頭を下げた。
「ああ、かわいいー! かしこいねジーク君~!」
芽衣が一発でメロメロになった。それを見て鼻高々のゲオルグ。
「お、来た来た」
二人のもとへ料理がやってきた。カウンター越しにタヌキ親父が無愛想に皿を並べていく。しかしその皿の上の物の美味しそうなこと。焼き目の香ばしさ、火のいれ方、肉の歯ごたえとやわらかな脂、どれをとっても申し分ない。
「ずいぶん頼んだな?」
「一度しか来れない店だからね。食べれるものは全部頼むよ!」
芽衣はそう言うとにかっと笑って、片っ端から手を付ける。
「んまんま、おいひ、んー、これ最高。ねぎまのねぎが甘いこと甘いこと。お肉にからむわあ」
そんな芽衣を見ていると、ゲオルグもつられて笑顔になる。
「おっと、いかん。私ばかり楽しんではな」
ゲオルグはよだれを垂らしながらおすわりしていたジークのために、焼鳥を串から外してやった。さっそくかぶりつくジーク。
「羊なのに肉食べてお腹壊さない? だいじょうぶ?」
「ああ、妖精さんみたいなもんだから。気にしなくていい」
「ふむ、焼鳥となれば、日本酒でしょう。ここは、私にエスコートさせてくだい」
「お、ありがてえな! 俺は酒は好きだが詳しくはねえから教えてくれるやつが居るのは助かるぜ! アンタ確かファンドマネージャーのカンジだな? 名うてのイレギュラーズなら安心して任せられるぜ!」
ルカはその引き締まった体躯を寛治に向けた。寛治はまんざらでもなさそうに親父を呼ぶ。
「まずはアルコール度数低めの、飲みやすい淡麗な冷酒を見繕って、ぬる燗でお願いできますか?」
親父は無愛想に(元々そういうもののようだ)うなずくと、フードの注文も取り、カウンターの内側へ取って返した。
「焼鳥自体が重いですから、米の味わいが強いお酒を合わせるのがオススメです」
「なるほど、そういうものなのですね。今から楽しみで仕方ありません。普段はあまりお酒は嗜まないのですが、たまにはこういうのも良いでしょう。今日は仕立ての仕事も片付けてきましたしね」
オフェリアがそう言うと、隣の沙月は頬に手をやり悩ましげな吐息をこぼした。
「初めてのお酒に挑戦……。少し緊張しますね、素敵なお店なので余計に。皆様、本日はよろしくお願いいたします」
「お酒ねー、ヤなこと思い出すから飲むのは遠慮しておくわ」
肘をついて行儀悪く愚痴を言うのはメリー。彼女だけ未成年だ。頼んだのはサラトガクーラー、ノンアルコールのモスコミュールだ。
「前、別の店でお酒を飲もうとしたんだけど、子どもはダメだって言うから、魔弾で店の物を壊してやろうとしたら、店長が魔眼持ちで催眠をかけてきたのよ! おかげでただのお湯と泡立てた麦茶に高い料金を払わされたわ、ああ腹立つ! それだけじゃないわよ! 別の店に入ったら、そしらぬ顔してノンアルコールビールを出してきたの、料金は倍! お酒の値段なんか知らないから一杯食わされたわ!」
「それはメリーが悪いんじゃねえの?」
「わたしの居た世界では、わたしは特別な存在だったの!」
ついと顔をそむけるメリーにルカは笑顔を浮かべた。
「まあ同じイレギュラーズだろ。そう言わねえで、これから仲良くしてくれや」
「いいけど?」
つんとしたままの少女にオトナなメンツは苦笑している。そこへ料理が運ばれてきた。沙月が顔を輝かせる。
「砂肝、せせり、つくね、ああどれもおいしそう」
「刺し身に叩き、酒盗、うーん、よくわかってんじゃねえか。ここの親父」
ルカも幸せそうだ。
「マルハツ、チョウチン、ソレリス、胸皮、うむ、どれもいい仕上がりです。それでは、皆さん乾杯といきましょう」
寛治が音頭を取る。
「「乾杯!」」
差しつ差されつして、おちょこで(ひとりノンアル)乾杯する一同。沙月とオフェリアがほっと口元を抑えた。
「なんとも清涼な味。これは本当に日本酒ですか?」
「驚いたわ。ジンベースのカクテルで済ませようと思っていたけれど、冒険してみるものね」
「気に入っていただいて何よりです。よろしければ、焼鳥もシェアしてみませんか。私の注文は希少部位ばかりですよ」
「よろしいのですか?」
「喜んで」
「俺にもくれよー、って寛治が食う分なくなっちまうかな?」
ルカが呵々大笑した。お酒と料理を楽しみ、わきあいあいと時間は過ぎていく。寛治がふと顔をあげた。
「そういえば、オフェリアさんは仕立て屋を営んでいるとか。今度、私のスーツを見ていただけませんか? プローグではなく、オックスフォードで」
「そういう新田さんは何やら変わった商売をされているとか。スーツでもなんでも、衣服が入用でしたらいつでもおいでください」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
真夜中ピクニック、いかがでしたか?
MVPは、だめですよまだ死んだら! 自分で書いといてなんだけど! 京司さんへ。
称号「銀の月」を武器商人さんへお送りしております。よろしくご査収ください。
GMコメント
みどりです。ちょっとダークなメルヘンイベシナ。
気にせずじゃんじゃん歌って踊って飲み食いしてください。
プレイング冒頭に行動タグを、ついで同行者のいる方は共通タグかフルネームとIDを記入してください。ソロの方は適当に混ぜくります。独りだけでの描写をご希望の方は【ソロ】といれてください。
行動タグはふたつ。
【野】
彼岸花で染め上げられた野原でピクニック。時間は真夜中、いいのです、今日はちょっとだけ夜ふかししたって。白い彼岸花を見つけたあなたは空へ還してあげてください。次の命が幸せでありますように。
【酒】
とってもおいしいけれど、二度と行けない不思議な居酒屋。おすすめは焼き鳥ですが、頼めばピザでもパスタでも出てきます。お釣りが葉っぱになることもない良心的なお店です。
下記NPCは自由に呼び出すことができます。
男ベネラー おどおど 最年長
男ユリック いばりんぼう
女『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)
女ミョール 負けず嫌い
男ザス おちょうしもの
女セレーデ さびしがりや
男ロロフォイ あまえんぼう
女チナナ ふてぶてしい 最年少
院長イザベラ くいしんぼう
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