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シナリオ詳細

船喰い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●船喰い
 人間は海と共に在ったと言っても過言ではない。練達のような科学力を持っているならいざ知らず、大荷物を積んで大陸の東西南北を行き来するなら、常に陸路より海路の方が適しているのだ。故に人類は太古より海の傍に都市を築いてきたのである。
 とはいえ、海には危険がいっぱいだ。今海に浮かんでいるキャラベル船のように、見張りもろくに立てずに航海していたりすると、途端に命を呑み込もうとするのである。
「怪物だ!」
 波の無いのに船が揺れた瞬間、一人の青年が叫ぶ。海から浮かび上がった灰色の軟体が、触腕を何本も伸ばしてキャラベル船の四方に張り付く。船室から飛び出してきた船長は口角泡を飛ばして叫ぶ。
「銛を出せ! 突いて突いて追い払え!」
 船員達は一斉に銛を以て船端に張り付き、灰色の軟体に次々銛を突き立てる。青い血が溢れたかと思うと、軟体は触腕を伸ばしてべったりと甲板に叩きつけた。腕が甲板で振り回され、船員が次々海中へと投げ出されていく。悲鳴があちこちで響き渡った。
「くっ……」
 触腕の吸盤が舟板に張り付き、無理矢理引っぺがしていく。船底が破られ、次々に海水が入ってくる。マストはへし折られ、旗が海へ沈んだ。
「船喰い(キャラベルイーター)……!」
 船長は沈みゆく船を見つめて呻く。次々に這い上がり、船を沈めようとするタコの群れ。それが船長の見た最後の光景であった。

●タコ狩りだ!
「海で大きなタコが暴れているのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、依頼書をぱらりと捲る。イレギュラーズの手元には、沈められた船の船籍やら乗組員の数まで事細かに記された羊皮紙が置かれていた。
「この事件を引き起こしているのは『キャラベルイーター』と呼ばれる巨大タコなのです。文字通り、キャラベル船サイズの船を襲って沈めて、乗組員を食べてしまうタコなのです。賢いのでガレオンには張り付かないのですよ」
 タコは賢い。それ以上にデカイ船喰いはもっと賢い。図体もデカいから攻撃力も高い。多少丈夫な船くらいではあっという間に破壊されてしまうのだ。
「最近やたら襲撃回数が多くなっているらしいのです。早いうちに撃破しないといけないのですよ。依頼主の商人さんが既に討伐用のキャラベル船を手配してくれているのです。それに乗って皆さんにはキャラベルイーターを追い払ってきてもらいたいのです」
 
「では、よろしくなのですよ」

GMコメント

●目標
 キャラベルイーターの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 昼。海上及び船上で戦闘を行います。
 船のタイプはキャラベル船。大立ち回りをするには少し心もとないサイズです。
 大海に落ちた場合にはなるべく早期の復帰をお勧めします。

●敵
☆キャラベルイーター×4
 海洋に原生する魔獣です。キャラベル船に集団で襲い掛かって沈没させ、溺れている船員を捕食します。船を破壊されればたとえイレギュラーズとはいえ戦闘が困難になってしまいます。なるべく船に近づけないようにしましょう。
・攻撃方法
→解体
 タコのような足を用いて船に張り付き舟板を外してしまいます。完全破壊までには猶予があります。
→ぶん回し
 足で甲板を薙ぎ払います。威力が高いほか、吸盤に張り付かれると海まで引きずり込まれかねません。
→船揺らし
 集団で張り付いて船を揺らします。直接的なダメージはありませんが、船体にダメージがあります。

●TIPS
 釣れません。



 影絵企鵝です。
 残暑が厳しいですが、タコでもいかがでしょうか。という事でよろしくお願いします。

  • 船喰い完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月17日 20時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
レミア・イーリアス(p3p007219)
墓守のラミアー
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ

●海を割る触腕
 イレギュラーズと十人の船員、合計十八人を乗せ、一隻のキャラベル船が洋上を進む。船室で船に揺られながら、キドー(p3p000244)は湿気た煙草を吸う。
「ったく。海なんかロクでもねえ。船旅なんてやっぱ御免だ」
 キドーは荒々しく甲板に飛び出した。そのままロープの手入れをしている恋屍・愛無(p3p007296)の肩を捕まえて、荒々しく詰め寄る。
「おい、まだ“船喰い”ってのは出てこないのか?」
「まだ出港したばかりだろう」
 愛無はロープを腰に巻きつけると、もう一方を船端に縛り付ける。簡易的な命綱だ。仏頂面で準備を進める愛無を眺め、キドーはぐったりと肩を落とした。
「めんどくせえ……どいつもこいつもよくやる気でいられるもんだ」
 彼が船首の方を見遣ると、レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が旅装を潮風に揺らし、海原の彼方をじっと見つめていた。
「海の魔獣……少し、召喚獣にしてみたくもあるが……」
 外套の影が広がり、黒い翼がいっぱいに開く。そのまま一度力強く羽ばたくと、彼は船首を下りてキャラベル船の周囲をぐるりと巡った。左舷側では、出航前に括りつけておいた小型船を今まさにヒィロ=エヒト(p3p002503)と美咲・マクスウェル(p3p005192)が下ろそうとしているところだった。
「なるほど。そもそもガレオンってそもそもキャラベルより大きいのね」
「そう! それにガレオン船は船の横にたくさん砲台ついてるから、タコも反撃されて嫌なんだね、きっと」
 ロープを頼りに、少しずつ小船をキャラベルの傍に下ろしていく。ヒィロと美咲は軽々と飛び移った。船の小さなセイルを開くと、潮風を受けて船はスピードを増していく。レイヴンはそんな二人の元へ、高度を下げて近づいていく。
「調子はどうだい」
「いい乗り心地だよ。波はあるけど、それでも結構安定してるしね」
「囮役はボクと美咲さんに任せといて! 今回も頼りにしてまーす!」
 えへへ、と満面の笑みでヒィロは美咲の黒い瞳を覗き込む。その瞳の色が変わる時、美咲は強力無比な魔法で海をも断つのだ。
「任せて。今回も大活躍してみせるから」
「頼もしい限りだね。宜しく頼むよ」
 笑う二人を眺めて頷くと、レイヴンは羽ばたき高度を上げていく。実力を疑うわけではないが、その船は彼の私物。少し心配だった。
「最悪沈没する可能性はあるかもだけど……ま、そん時はそん時だな」
 そう自分に言い聞かせると、彼は海原の彼方をぐるりと見つめる。周囲丸ごと、だだっ広い海原が広がっている。見張りの青年は海図を見つめ、甲板のイレギュラーズに叫ぶ。
「もうすぐ件の海域に入ります! 襲撃に備えてください!」
 腰に手を当て、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はじっと空を見上げていた。彼方に白雲が浮かび、風は強く頬を撫でる。正しく船旅日和の空であった。
「……神がそれを望まれる」
 一瞬頭を垂れたイーリンは、バタバタ慌ただしくなった船員達を見渡し声を張り上げる。
「さあ! 夕飯はあのタコをつまみにホットラムと洒落込むわよ」
「アーイ!」
 船員達の士気も高い。彼女はこくりと頷くと、素早く船首へ向かう。本の背表紙からワイヤーを引っ張り出し、腰のベルトと船縁とを結びつける。これで船から叩き落されても復帰できるのだ。
「よう、アンタが“司書”だったな」
 聖剣を担ぎ、ハロルド(p3p004465)が彼女の隣に並び立つ。彼の横顔を見遣り、イーリンは小さく微笑む。
「ハロルド。随分とご無沙汰じゃない?」
「そうだな。共に戦おうなんて約束したが……今日まで果たさずじまいになってたか。今日がその約束を果たす時だ。頼りにさせてもらおう」
「こっちこそ、その聖剣の切れ味には期待しているわ。よろしく」
「もちろんだ」
 ハロルドが剣を抜き放つと、じっと耳を澄ませる。港の船乗り達から話は聞いて、その習性は頭に叩き込んでいる。船を襲撃する時の連携も、船の構造を熟知しているが故の狡猾さも。
「足場は若干狭いが……仕方ないか」
 小型船を係留して少しでも足場を広げたい、そう思ったが、大蛸がそのロープを引いて転覆させようとするだろうと聞かされては、その選択は取れなかった。
 小さな帆を一杯に膨らませ、ヒィロと美咲を乗せた小船がキャラベル船の前へと躍り出る。その小船は、既に僅かな潮の流れの変化を感じ取っていた。船首がふわりと浮いたのを感じて、二人は顔を見合わせる。
「来た?」
「そうだね。今の揺れは自然じゃなかったし……」
 美咲は舵を切ると、振り返りざまに船首のイーリンへ手を振る。
「さあタコめ、どこからでもかかっておいでよ! 食うか食われるかの殴り合いだよ!」
 ヒィロが啖呵を切った瞬間、小船とキャラベルを取り囲むように、一斉に四匹の大蛸が飛び出してきた。蛸はその眼で小船の二人を捉えるや否や、触腕を一本振り上げた。
「はっ!」
 瞳の色が揺れ動き、美咲が突き出したその手から衝撃波が放たれる。蛸の振り下ろした触腕が、海原へ弾き飛ばされた。ヒィロは船首に立つと、その熱意に溢れた瞳を見せつける。
「かかってきなよ! ボクが相手だ!」
 豊かな毛並みの尻尾を振り、狐耳をピンと立てて、ヒィロは蛸を挑発する。小船は大蛸二匹の間をすり抜け、キャラベル船から離れていく。ヒィロの気迫に当てられた大蛸二匹は、潮を掻き分け小船を追いかけていく。しかし二体は、そのままキャラベル船の舷側を挟むように取り囲んだ。レミア・イーリアス(p3p007219)はマストの前で伸び上がり、蛸の姿をじっと見つめる。骨の無い獣は、触腕をうねらせながら徐々に間合いを詰めてくる。
「船に乗るのも初めてだけれど……こんな生き物を見るのも初めてね……」
 風に湿り気を感じながら、レミアは蛸の一匹に向き直る。
「さぁ……私の元へおいで……私の眼を見て……」
 レミアの瞳孔が縦に引き締まる。その全身に魔力が満ち満ちて、あらゆる者を挑発する蠱惑的な色香を漂わせる。蛸すらも例外ではない。触腕を一本振り回し、レミアに叩きつけた。レミアは咄嗟にその一撃を受け止める。硬い吸盤が左腕の白い肌を切り裂いた。小さな血飛沫が舞い、レミアの頬に張り付く。彼女は長い舌を伸ばしてその血を舐め取ると、左腕から脈々と溢れる血を鋭い刃へ変えた。
「船喰い……あなたが私を食べるのか、私があなたを食べるのか……勝負と行こうじゃない……!」
 レミアは鋭い牙を剥き出し、深紅の刃を蛸の足へ突き立てた。蛸は咄嗟にその足を引っ込めようとする。
「随分と大きい蛸だ。これほどのサイズでは、食べても食べても餌が足りないだろう」
 愛無はその右腕を黒く禍々しい刃へ変えると、蛸の足に鋭く突き立てた。蛸は足を海中まで引っ込めようとするが、愛無は船縁に張り付いて耐え、無理矢理右腕を振り抜く。触腕は真っ二つに引き千切れ、丸まった足先が海中へと沈んでいった。
 蛸はその眼をぐりぐりさせ、何本もの触手を一気に海上へ突き出す。随分とおかんむりのようだ。愛無は右腕を華奢な少女のそれに戻すと、口の中を小さくもごもごさせる。
「ふむ。味は良し、か。僕には敵わないが」
 反対側の舷側には、目だけを水中から突き出して迫ってきた蛸が迫ってくる。船員がマスケット銃で応戦するが、小さな鉛玉は海中へと飲み込まれていく。ぎりぎりまで近づいた蛸は、不意に水中から全身を露わにした。触腕をいっぺんに伸ばすと、べたべたとキャラベル船に張り付いていく。蛸の重量がかかり、船が徐々に傾いていく。キドーはククリ刀を弄びながら、牙を剥き出し船端に張り付く。
「ったく、タコが生意気によお、背骨も無いくせに無駄な知恵働かせやがってよォ」
 船縁に張り付く触腕にククリの切っ先を突き立て、魔力を足へ流し込む。吸盤が急に縮こまり、するすると足が離れていく。追い討ちとばかり、ギドーは手投げ弾を蛸の頭に向かって投げつけた。
「……大人しく岩場の陰で貝だの雑魚だの貪ってろっての!」
 瓶が破裂し、中から飛び出した液体が蛸に振りかかる。蛸の表皮が燃え上がり、蛸は咄嗟に海へと沈む。船も一層傾き、キドーは転げて船縁に叩きつけられる。
「おわわっ! おい、何とかしろ!」
「了解ですとも」
 レイヴンは咄嗟に高度を下げると、舷側に並んで張り付く蛸の足へ狙いを定める。舞い散る黒い羽根が闇へと変わり、掌へ収束していく。
「撃ち抜く……消し飛べ!」
 魔力の塊が砲弾となって放たれる。張り付く蛸の足を纏めてぶち抜き、肉を抉り引き千切る。船にいくつも痕を残しながら、足が次々に水中へと沈んでいった。蛸の重りから解き放たれ、船はぐらりと大きく揺れ、何とか水平に持ち直す。レイヴンはほっと息を吐いた。
「これじゃあ蛸の足が回収できないな。一本くらいは持ち帰って、刺身にでもしてやりたいところなんだけれど……」
 蛸は相変わらず船へ張り付こうとしている。レイヴンは再び空高く舞い上がった。
「まあいいや。そのうち一本くらいは確保できるさ」

 キャラベル船でイレギュラーズが二体の蛸を相手取っている一方、ヒィロと美咲は必死にもう二体の蛸を相手取って奮戦していた。
「ほらぁっ! どんどん来いったら!」
 既に帆は畳み、小船の行方は波任せ。二人は転覆しないよう右に左に動いて船のバランスを取りながら、次々に伸びてくる触腕をその身で受け止めていた。美咲は振り返ると、その眼を碧に輝かせ、ヒィロの腕や肩の生傷を癒していく。
「美咲さんが付いてるんだもん、こんな攻撃、全然痛くないよ!」
「あんまり無理し過ぎないで……ってとこだけど、そうもいかないかな」
 美咲も身を翻し、鞭のように唸る触腕をその身で受ける。くるりと身を翻して衝撃をやり過ごし、その瞳を今度は深紅に輝かせて蛸を睨んだ。蛸の瞳がぐるりと動き、触腕の動きが僅かに緩む。その隙に背後へ振り返り、眼前に迫った触腕を衝撃波で吹き飛ばす。しかし新たな触腕が次々と水面から飛び出してくる。美咲は僅かに顔を歪める。
「これはちょっと、思った以上にキツイかも」
 触腕が右から左へ振り抜かれる。小船には逃げ場が一つもない。美咲もヒィロも揃って海原へと弾き飛ばされてしまった。
「うわわっ! 早く船に戻らないと……」
 咄嗟にヒィロは美咲の手を引き、ふわりと宙へ舞い上がる。そのままボートに戻ろうとした彼女であったが、次々に振り抜かれた触腕で甲板に叩きつけられた。頭に背中を強かに打ち、二人は意識が朦朧となる。呻く彼女達を船ごと包み込むように、するすると蛸の足が纏わりついていく。
 二人は歯を食いしばる。痺れて感覚の無い腕を、胸元に押し当てた。
「こんな、ところで……」
「やられるわけ、ないんだから!」
 混沌の力に身を浸し、無理矢理その身を癒す。美咲はその眼を紫色に染め上げ、右手に嵌めた指輪を撫でる。彼女の全身から衝撃波が放たれ、船に纏わりつく蛸の足を纏めて吹き飛ばしてしまった。
「このーっ! よくもやったな!」
 ヒィロは眼を丸く見開き、鋭く叫ぶ。彼女の気迫に押され、二体の蛸はじりじりと引き下がる。ヒィロは両腕をブンブン振り回し、蛸二体を挑発する。
(ちょっと押されてる! まだしばらく戦えるけど、そっちに一匹引き受けてもらえない?)
 その隙に、美咲は船首で戦いを繰り広げるハロルドにイーリンへ視線を向けた。イーリンはこくりと頷き、ハロルドをちらりと見遣る。
「ふうん……このままじゃちょっと厄介な事になりそうね。何とか出来そう? ハロルド」
 イーリンは振り下ろされた触腕を横に転げて避け、隣のハロルドを見遣る。彼は歯をにやりと剥き出し、刃で触腕を断ち切った。
「してやるよ。一匹片付けりゃ、もう一匹くらい引き受けられるだろ!」
 蛸は全身を捻り、甲板の上を力任せに薙ぎ払っていく。舷側の柵が吹き飛び、イレギュラーズを纏めて薙ぎ払っていく。キドーは身を屈めてばたばたと船室へ退散していく。
「あっぶねぇ! 海に落とされるのは勘弁だぜ! モヒカンが崩れんだろうが!」
 振り返ったキドーはククリを構え直し、蛸へと向き直る。振り回された触腕の先にしがみつくハロルドを見上げ、思わず彼は頬を引きつらせた。
「マジかよ……」
 ハロルドは蛸足に刃を突き立てしがみつき、歯を剥いて笑う。
「キドー、休むにはまだ早ぇぞ! もっと戦いを楽しもうじゃねぇか!」
 蛸が足を頭上まで掲げた瞬間、ハロルドは足を蹴って飛び出す。聖なる輝きを宿した刃を振り被り、弾丸のように蛸の脳天目掛けて突っ込んだ。
「イキの良いうちに、しっかり〆てやるよ!」
 振り抜いた刃は、銀色の軌跡を描く。蛸の頭が真っ二つに裂け、僅かに青みを帯びた血が噴き出す。自重を支えきれなくなった怪物は、そのまま腸を撒き散らしながら海へと沈む。ハロルドは蛸の血を拭って宙へ飛び上がり、小船を取り囲む蛸の一匹へ狙いを定めた。
「はははっ! おら、死にたい奴からかかってこいよ!」
 イーリンは船首に浮かぶハロルドを見上げつつ、身を縮めている船員達へ叫んだ。
「スピードを上げて! 小船から蛸を一匹引き剥がすわ! 衝突するくらいの勢いで寄せてやれば、こっちに蛸の狙いを向けられるはずよ!」
 戦場を観察して働かせたインスピレーションが閃く。叫びながら、彼女は舷側に張り付く蛸へと駆け寄る。蛸が足で舷側を締め付け、少しずつ船体を捻り潰そうとしていた。船も再び傾きつつある。戦旗を担いだイーリンは、宙を舞うレイヴンに向かって叫ぶ。
「レイヴン! 上下から一気に叩くわ!」
「いいとも」
 レイヴンは蛸の頭上に位置取り、再び魔力を集めていく。イーリンも旗を掲げる。魔力が旗の穂先まで深く流れ込み、紫色に薄く光を放つ。
「これでどう?」
 船端から顔を出す蛸の頭に、イーリンの振り抜いた旗の穂先とレイヴンの魔砲が直撃する。紫色の燐光がふわりと舞い、脳天を穿たれた蛸は船端を離して海へと沈む。重しの無くなった船は、一気に速度を増して突き進んだ。
「このまま突撃するわ!」
 船首が蛸の頭に直撃する。揺らいだところに、レミアが船首へ飛び出し蛸の巨大な目を睨みつける。
「さぁ……おいで……」
 蛸は触腕で船の船首を押さえつけると、そのまま海中へ沈めようとする。ククリを逆手に持ったギドーが飛び出すと、触腕の先に切っ先を突き立て、そのまま衝撃波を叩き込んだ。
「めんどくせえなぁ! さっさと死んじまってくれや!」
 蛸が腕を引っ込めた隙を見逃さず、レミアと愛無が一斉に船首へ踏み込む。深紅の刃と黒の刃が次々に交錯し、船首に乗り出す蛸の眼を纏めて潰してしまった。青い血がどろりと溢れ、蛸は泡を食って海中へ逃げ出そうとする。
「逃がさないわよ」
 イーリンは再び旗を掲げ、槍のように尖った穂先を蛸に突き立てた。蛸はぐったりと崩れ落ちる。ハロルドはそんな四人の間をすり抜け、小船で戦い続けるヒィロと美咲を目指して飛び出した。
「残るはそいつ一体だけだ! 一気に片付けちまうぞ!」
 掲げた聖剣が光を放つ。振り返った二人は、一斉に船を蹴って浮かび上がる。
「さっきはよくもやってくれたな! 焼きタコにしてやる!」
 ヒィロは真っ先に蛸の頭に飛びつき、燃え盛る拳を叩きつけた。脇へと回り込んだ美咲が、その眼を橙に輝かせる。拳を固めると、空を蹴って一気に間合いを詰める。
「これでラストスパートよ」
 固めた拳で蛸の頭を殴りつけ、魔力を大量に流し込む。身動きの取れない蛸に、サファイアの宝石を頂く魔獣が迫った。
「起動せよ、起動せよ、碧玉の担い手よ」
 レイヴンが唱えると、魔獣は光を放って蛸の頭を撃ち抜く。動きが鈍ったところへ、ハロルドが刀を脇に構えて飛び込んだ。
「こいつで、終いだ!」
 蛸の脇をすり抜けるように、刃を振り抜く。

 肉を真っ二つに割かれた蛸は、力無く海の底へと沈んでいく。そのまま蛸は、二度とは浮かんでこなかった。

●穏やかな海
 四匹の蛸を見事に討ったイレギュラーズ。置き土産になった一本の巨大な蛸足。肉を小さく切り出して、レミアはその肉を貪っていた。
「ん……蛸っていうのもこれは中々……美味しいわ……」
 隣ではヒィロも蛸に塩を塗して噛り付いていた。
「喰っていいのは喰われる覚悟がある奴だけ……! これも結局生存競争の一つって事なのかなぁ、美咲さん?」
「うーん。ただの喰い合いなら、ヒィロさんが言うように単なる生存競争だけど。蛸って群れを作ったっけ……?」
 首を傾げる美咲。ハロルドは肩を竦めた。
「普通の蛸は作らないが、船喰いは数匹で協力して狩りをするらしいな。賢いもんだ」
「やっぱり、大きい分知恵も回るようになってるって事なのかしら」
 イーリンが手帳を片手に呟く。レイヴンは歩き回る魔獣の幻影を見つめた。
「直接に魔法を使用しないとしても、その身には魔力を宿しているものだからね。普通の生物とは常識が違うよ」
「これほど被害が増えたとなると、少し数が増えすぎているのだろうか。個体数の管理など、根本的な解決策も考える段階かもな」
 愛無は仏頂面で呟く。真剣に考えこむ愛無を余所に、キドーは煙草を咥えて深々と溜め息を洩らすのだった。
「はぁ……これでやっとこ帰れるぜ……」

 かくして、海を騒がす蛸騒動はひとまず沈静したのであった。



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加ありがとうございました。
かくして蛸さんは美味しくいただかれました。

この先も海洋でのシナリオは出したいと思いますので、縁がありましたら宜しくお願いします。

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