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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2018>葉の落ちぬ木の下で

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●集落の祭
「その集落では以前からグラオ・クローネの話が伝わっていたみたい。けれど、少し物語が変わってしまっているようね」
 グラオ・クローネ。
 大樹ファルカウと『最初の少女』の物語は、先日イレギュラーズ達へ伝えられたばかりだ。
「集落の近くに森があるのだけれど、1本だけターコイズ・グリーンを保つ大きな木があるの。その下でチェリー・ピンクを伝えれば叶うそうよ。その集落では毎年、言い伝えの物語の時期にお祭りをしているわ」
 集落の祭、とは言ってもそこそこ規模は大きい。露店も多く、集落の外から来た客で毎年賑わいを見せる。ターコイズ・グリーンを保つ木――常緑樹の元にも、これから先1年共に在れることを祈る家族や贈り物をし合う友人同士と思しき少女達、告白の場にする男女などがよく訪れる。
 実際に木の下で告白して付き合い始めたカップルも少なくないようだ。
 イレギュラーズへグラオ・クローネの物語が伝わったことにより、ローレットへ依頼としてその祭への誘いが来たのである。
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3p000004)はそこにいるイレギュラーズ達を見回して目を細めた。
「伝える思いはチェリー・ピンクである必要はないわ。大切な人への絆を形にするのがグラオ・クローネだもの。まだ雪も積もっているから寒いけれど、セピアの香り漂う飲み物も売っているそうよ。よかったらいってらっしゃい」

●言い伝え
 とある男女が旅をしていた。
 同郷というわけでもなく、恋人というわけでもなく。ただ目的地が同じだったから、行動を共にしていた。
 彼らが目的とする場所は遠く、まだ交通手段も確立されていない彼らは歩くしかない。
 移動する間も必然的に季節は移ろい、冬が訪れた。
 冬は実りも少なく、生きる者にとって厳しい時間。そんな中も移動を続ける彼らは、ようやくたどり着いた。
 枯れたように沈黙する木々の中。その生命力を誇示するかのように緑の葉を付けた大木を。
 冬でも葉を落とさない木。見たことがなかった2人は、それをどうしても見たかった。
 たどり着いてしまった、と片方が呟いた。
 それこそが目的だったはずなのに、それを残念がるような口調。
 たどり着いてしまったね、残念だ、ともう片方が呟いた。
 目的を達成したのに、何処が残念なのか。
 互いに顔を見合わせた男女は、その木の下で笑みを浮かべた。

 ――なんだ、同じ気持ちだったのか、と。

GMコメント

●目的
 祭りを楽しむ

●選択肢
A:祭を楽しむ
 集落全体をあげてのお祭りです。至る所でチョコレート商品を売っています。集落内お散歩コースです。雪は退けられています。
 友人と店を見て回ってみたり、恋人とデートにどうぞ。
 下記がよく売られているようです。
・ホットチョコレート
・チョコレートクッキー
・ココアマフィン    etc.

B:想いを伝える
 言い伝えの常緑樹の元へ行きます。見つけやすいので迷うことはないでしょう。幹は成人男性3人が一緒に腕を回した時に、3人目の手が1人目へ手が届くかどうか、程度の大きさです。
 意中の人を連れていってみてはいかがでしょう。仲間との絆を再確認したい方などもどうぞ。
 同時に複数人(同行者以外)がいる描写にならないよう心がけるつもりですが、入れ代わり立ち代わりみたいになりそうです。

●注意事項
 当シナリオはイベントシナリオです。描写は通常シナリオと比べ軽くなるかと思います。
 これがやりたい! ということを明確にして頂けると幸いです。あれもこれもはおそらく書けません。すみません。
 Bの選択肢へ行く場合は同行者と関係性を明らかにしておいてください(プロフィールで確認できれば問題ありません)。

●ご挨拶
 お目にかかれまして幸いです。愁です。
 手作りチョコレートとか個人的にとても好きです。当方は自分用に菓子を作ります。くれる人も特におりません故に。
 ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • <グラオ・クローネ2018>葉の落ちぬ木の下で完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年02月24日 21時00分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ノイン ウォーカー(p3p000011)
時計塔の住人
ジュア(p3p000024)
砂の仔
アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
アレフ(p3p000794)
純なる気配
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
幽邏(p3p001188)
揺蕩う魂
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ルシフェル・V・フェイト(p3p002084)
黒陽の君
Masha・Merkulov(p3p002245)
ダークネス †侍† ブレイド
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
XIII(p3p002594)
ewige Liebe
ぺリ子(p3p002675)
夜明けのハイペリオン
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
コルザ・テルマレス(p3p004008)
湯道楽
白銀 雪(p3p004124)
銀血
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
Morgux(p3p004514)
暴牛
ロズウェル・ストライド(p3p004564)
蒼壁
ルーニカ・サタナエル(p3p004713)
魔王勇者

リプレイ

●賑わう祭に
 露店はどこもかしこも賑わいを見せ、集落全体が活気づいている。
 そんな中『ewige Liebe』XIII(p3p002594)と石動 グヴァラ 凱(p3p001051)は銃を構えていた。
 銃と言っても、入っているのはコルク弾だが。
 先に射的の人だかりに気づいたのはXIIIである。
『そんな目を、するのは……珍しい、な』
『狙撃モデルとして作られた私にとって、遊戯と言えども射的という行為には興味を惹かれます』
 そう告げたXIIIは凱を勝負へと誘ったのだ。
 凱は狙って――引き金を握るようにして引く。
 発射されたコルク弾はあらぬ方向へ飛び、景品を掠めることなく地に落ちた。
(……予想通り、か)
 手先を使う作業に難がある凱は、大敗を喫するであろうことを分かっていた。
 一方のXIIIが放った弾は、吸い込まれるように景品へ。
 景品はゆっくりと棚から落下していく。
 彼女の構えや、目つき。それらは過去の業を、その暗い気配を感じさせるようで。
「……どん、な、業も使い様、だな……」
 凱は目深にかぶったフード越しに目を細める。XIIIはその呟きにどういうことかと首を傾げながら貰った景品を差し出した。
「どうぞ」
「……これ、は?」
「プレゼントです」
 次の客に迷惑になるため、2人は露店から離れて歩き出す。
「1人では祭りにはまず訪れない私ですが、お誘いを頂きましたので」
 今回の礼と言うことらしい。
 景品を受け取った凱はゆっくりと口を開く。
「気楽に何かを、とは、久しぶり、でな」
 誰かと来なければ、途方に暮れていただろう。
「如何楽しんだものかと、な……故に、助かった、共に来てくれ、て」
 それを聞いたXIIIは目を瞬かせ、そうですか、と淡々と返し。
「こういった場にそぐわぬとは思いますが、まずは足の向くままに共に散策するとしましょう」
 2人は、隣の通りへと足を踏み入れたのだった。
 その通りでは宣伝の声が響いていた。
「チョコー! チョコはいらぬでござるかー!」
 賑わう人々の声に負けない声量を出しているのは『ダークネス†侍†ブレイド』Masha・Merkulov(p3p002245)。
 連れのいないMashaは客として楽しむのではなく、店の一員として参加することにしたのである。
「残弾は多くても困らない代物ですぞー! さあさあ、見てってくだされー!」
 Mashaの声を聞き、露天に人が集まってくる。
 そこへふらりと通りかかったのは『銀血』白銀 雪(p3p004124)である。Mashaの売っているチョコレイトを一瞥し、また次の露店へ。
 時折首筋へ手を当てるのは、まだその傷が癒えきっていないからだろうか。
(買いはしない。見て回るだけ)
 そう決めていた雪は露店へ近づいては離れを繰り返し、1つの露店で立ち止まる。
「チョコレイトに模様がある」
「そうなんですよ。この辺では木の模様や形のチョコを仲の良い人と食べる風習があって――」
 この辺りの風習と聞いて、店員の話を聞き始める雪。
 その隣の露店にはホットチョコレートを購入する『暴牛のモルグス』Morgux(p3p004514)の姿があった。
(今日は祭らしいな。適当に歩いて回るか)
 ふらりと足の向かう先へ。目的地などない。
 常日頃のように祈っていた方が落ち着きはするが、偶にはこういうもの悪くないだろう。
 その次にホットチョコレートを買いに来たのは『時計塔の住人』ノイン ウォーカー(p3p000011)。メニューにコーヒーの文字を見るとホットチョコレートと1つずつ購入する。
 甘いはさして好みではない。食せないほどではないが、できるだけ避けたいものであったのだ。
「買ってきました、よ……」
 『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の元へ戻ると、突然小さな箱を突き出された。
「チョコレート。作ったやつの余り物だけれど、丹精込めて作ったのは本当よ」
「うっわマジか」
 思わず出た言葉に鋭い視線を飛ばされ、ノインは慌てて咳払い。
「……ありがとうございます」
 甘いものを好んでなくとも、好意を受け取らないという事はないようで。
(一応女子だな、べ、別に嬉しくねぇし)
 などという、照れ隠しを心の中で呟いているのは誰にも知られない事である。
 露店の向かいにあったベンチに腰かけているのは『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)と『白仙湯狐』コルザ・テルマレス(p3p004008)だ。
「しかし、場所が変わっても人の笑顔は良いものだね」
「ええ、本当に」
 通り過ぎる人々やその空気に2人の表情は柔らかい。
 寒い中、ホットチョコレートが体の内と手を暖めてくれる。女性をエスコートするのは騎士の役目、とロズウェルが買ってきてくれたものだった。
「そういえば1つお伺いしたことがあるのですが、コルザさんも旅人ですよね」
「ああ、そうだな」
 頷いたコルザに、ロズウェルは視線を合わせる。
「……心細くありませんか? 突然この様な世界に放り出されて」
 その言葉を聞いたコルザはゆっくり視線をロズウェルから、通りの方へ向けた。
 この場所でコルザは、多数召喚されたイレギュラーズの1人に過ぎない。だから。
「ない、と言い切れば嘘になるけれど。そうだね。僕が御使いではなく、1人のコルザとして生きていけると考えるなら……良い機会なのかもね。君はどうなんだい?」
 問い返されたロズウェルはホットチョコレートに視線を落とし、淡く笑った。
「私は私らしく、ですかね。私はまだ若造ですが、矜持の1つくらいはありますから」

 『黒陽の君』ルシフェル・V・フェイト(p3p002084)は露店を物色していた。
(チョコっていうのはそんなに美味しいものなんだろうか!)
 くいっ。
(これが人間の美味しいというものなのだろうか!)
 つんつん。
「俺から言わせてみれば血や肉の方が――ん?」
「これ」
 視線を落としたルシフェルがぐい、と差し出されたのは焼きそばだったり、トウモロコシだったり、お好み焼きと呼ばれる物に見える。色を除けば。
「ぐらおくろーねのチョコレート」
 渡そうとする『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)の頬は少し赤い。そして手にはまだまだたくさんの菓子がある。
 思わず買いすぎてしまったのだ。食べられなかったら勿体ないし、ちょっと恥ずかしい。
「あげる」
「おお、チョコレートか! 有り難く頂こう!」
 ルシフェルはセティアが差し出した菓子を受け取り、お好み焼きに見えるソレに齧りつく。
 咀嚼。そして、嚥下。
「甘くておいしい! よし、流石人である!! 俺も俺の世界に帰ったら、このチョコを魔界全土に広めようぞ!」
 そんなルシフェルを見て、セティアは目を真ん丸に。
「まかいぜんど、って……パネェ」
 はっと口を押さえ、周りを見るセティア。
 幸いにも、その言葉を聞いたものはいないようだった。
 彼らの傍を通り過ぎ、自分の目的に邁進するのは『宿主』ストマクス・グラ(p3p001455)。
 グラはきょろきょろと楽し気に露店を見て回っていく。
「よいお菓子があるといいのですけれど……」
『……主役はあちらにある常緑樹だったはずだが?』
 グラの内から声が発される。儀式呪具のストマクスだ。
 けれどもグラの目的は木ではなく、祭を楽しむ事。
「ホットチョコレートですよ。甘い匂いが素晴らしいです。あ、チャレンジ競技の屋台もありますね」
『予算を考えて行動を、……負担がかかるのは我なのだが』
 表情というものがあれば渋面を浮かべていただろう。まるで保護者である。
 グラは体の内にあるストマクスと共に、楽し気に雑踏の中へ紛れていった。
「お祭りー! お祭りー!」
 はしゃいだ様子を見せているのは銀髪の少女――『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。
(お祭り独特の雰囲気、っていうのかな? 賑やかで好きだなぁ)
 必然的に恋人や家族を連れる者は多いが、スティアは気にしていなかった。
「わぁ、美味しそうな物がいっぱい! 迷っちゃうなぁ」
 どの店のチョコレート菓子も魅力的で、スティアは店員の話を聞きつついくつか購入しつつ食べ歩く。
「季節的にホットチョコレートは外せないよね!」
 歩いている内に甘い香り漂う露店に目を付けたスティア。温かい飲み物にほっとしたところでぐるりと辺りを見回した。
「そういえば、大きな木に関するお土産とかあるのかな?」
 言い伝えには樹木が登場する。折角だから探してみてもいいだろう。
「誰かにあげるもよし、自分で使うもよしって感じだもんね! れっつごー!」
 スティアは今しがた購入したホットチョコレートを掲げ、再び雑踏の中へ。
 その雑踏の中。人が避けるようにぽっかりと空いている場所がある。そこに収まって辺りを見渡しているのは『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)であった。
 辺りには甘い匂い、と人の群れ。
 翼を折りたたみ、きょろきょろと興味深げに歩くアルペストゥスへ『堕ちた光』アレフ(p3p000794)が声をかける。
「中々楽しそうなお祭りをやっているな」
「グルルル……」
 唸り声で答えるアルペストゥス。と、不意にその薄氷のような瞳が1つの露店に向けられた。アレフも促されるようにそちらへ視線を向ける。
「ふむ……あれか。解った、少し待っていなさい。私と君の分を買ってくるとしよう」
 アレフが露店へ向かい、立ち止まるのはよくないと少しひらけた場所に出る。広場のようだ。
 買ってきたホットチョコレートは、アルペストゥスにとって初めて食べるものだ。
 口の中で原始分解、その副産物まで成分を取り入れると一際に高い声で吠える。
「……ギャウ!」
「解った、解った。私のも飲むと良い、ほら」
 自分にと買ってきたホットチョコレートも差し出し、アレフは笑みを零した。
 そうしてホットチョコレートを飲むアルペストゥスの首元を撫でながら口を開く。
「もう二度と、このような人々の笑顔が溢れる景色を見る事はないだろうと思っていた。だが、やはり……悪くはないな。君はどう思う?」
「……グァウ」
 問われてアルペストゥスが思い出すのは、仲間と見た世界の破滅。きっと今見ているような笑顔は、あの世界では見られぬものだっただろう。
 嬉しそうに、尾が縦に揺れる。
 アレフは道行く人々を見て目を細めた。
「人の一生は短い。だからこそ、我々の様な存在には眩しいのかもしれないな……」
 呟きが零れ落ちる、広場の一角。『揺蕩う魂』幽邏(p3p001188)はホットチョコレートを静かにすすった。
 その瞳が見ているのは遠く、通りの先の祭。超視力で眺めているのであった。
 それは人間不信ゆえに。その姿に奇妙な目を向けられていた少女は、近付かれることを良しとしない。
 けれど、それでも祭を眺めるその理由は――。

「言い伝えの木かぁ……」
 もぐもぐ。
「ん、浪漫があって素敵だよね!」
 むしゃむしゃ。
「……でも私的には恋人とかより、剣を捧げて守るべきお姫様とかのが断然ほしいかも!」
 自分は勇者。格好良く戦う自分の姿を思い浮かべながら『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)はチョコレートクッキーをほおばった。
 大切な誰かを守る剣になりたいと、なってみせると思ってはいるけれど。
「まあ、何より今は……チョコだよねっ♪」
 その表情は幸せに満ち溢れている。
 シャルレィスは冒険者であるより前に、1人の甘いものが好きな少女であった。
「うーん、美味しい!幸せ~♪」
 ホットチョコレートを飲んだシャルレィスは、次に食べるものを見つけるべく雑踏へ駆け出していった。
 雑踏をかきわけて進むのは同じ場所で同じ時を過ごす仲間と共に来た『砂の仔』ジュア(p3p000024)だ。
 そこかしこから漂う甘い香りにつられてふらり、ふらり。『高みへ導くハイペリオン』ぺリ子(p3p002675)もジュアにつられてふらふらり。
「あ、はぐれて迷子になるなよ?」
 今にも人込みに紛れてしまいそうな2人へ『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が釘を刺す。
 顔を上げた際にフードが外れかけ、慌てて深くかぶり直すレイチェル。夜行性の吸血鬼は日光が得意でない様子である。
「迷子? ジュアはそんなヘマはしないよ」
 当然、と言わんばかりのジュアの隣では。
「こういう場のものもまた違った魅力に溢れてるね! 右を向けばチョコレート、左を向けばチョコレート! 天国かな!?」
 祭の雰囲気にすっかりテンションの上がったぺり子が、うっとりと露店の商品を眺めていた。
「特別な日のお祭りには、今まで見たこともない宝物が売っている様な。そんな気がするわよね~」
 ふんわりと微笑む『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)が上機嫌に日傘を回す。
(どこもかしこも、チョコレートの甘い香りでいっぱいだわ~)
 大好きな食べ物の香りに頬が緩むのは当然の事。しかも、仲間と一緒に来ているのだ。
「やー、こういった季節のイベントものに縁のない生活を送ってきたから。こうしてみんなと過ごせてジュアは楽しいよ」
 へらりとジュアが一同へ笑いかける。と、その視線は香りにつられて1つの露店へ。つられて視線を向けたレストが瞳を輝かせる。
「まあ……! 店員さん、このホットチョコレートを頂けるかしら~? ふわふわなマシュマロもたくさん乗せて、ね?」
 可愛らしく小首を傾げるレスト。その隣に『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)が立ち、同じものを注文した。
 後先考えないメンバーもいるため、最初に自分が食べて味の保証をしようというのである。
「そこまで気にする必要もねぇのになァ」
「……仕方あるまい? 生まれつき、こういう性格でな……どうやら魔剣と化しても、それは変わらぬようだ」
 瞳を眇めるレイチェルに、ホットチョコレートを受け取ったシグは肩を竦めた。
 ちなみに本日の主な目的は味の記憶。後々このメンバーを満足させるために、学習を怠らないのである。
 まるで子供を見守る保護者のようだが、仲間内でコック長となっているシグは食に関して保護者といって差し支えないのだろう。
「……なるほど、こういう仕組みか」
「シグちゃん、どうかしら?」
 マシュマロの溶けていく様子に関心を寄せるシグ。なおも瞳をキラキラとさせるレストへ頷くと、レストは嬉しそうにホットチョコレートを飲み始めた。
 2人が買ったことでレイチェルとジュアも揃って同じものを購入する。
(まだまだ寒い時期が続くからなァ……温まる。それにシグが作ってくれる料理もめっちゃ美味いけど……たまには外出して食べ歩きも悪くねぇなァ)
 食事を作ってくれる、シグの休息も兼ねて。
 両手で持って暖を取るレイチェル。隣ではジュアがふうふうと息を吹きかけていた。
「あちち……ネコ舌はこういう時に邪魔だね」
 まだ熱かったようで、尚も冷まそうとするジュアにレストがくすりと笑う。
(やっぱり猫ちゃんなのね~)
「あ、レストさんのそれ美味しそう!」
 辺りをぶらついてたペリ子が、戻ってきてレストの手元にあるものに目を丸くした。
「店員さん! ボクにもホットチョコレート、おひとつくーださーいな!」
 そうして温かな甘い飲み物にペリ子はにっこり。
「ふぉぉ……! 満ち満ちた甘い匂い! なんて幸せなんだろう!」
 ホットチョコレートを買った一同はゆっくりと雑踏を進んでいく。
「で、皆はどんなチョコが好みなんだ?」
「そういえばビターやミルク、色んなものがあるね」
 そう問うたのはレイチェルだ。次いでジュアが首を傾げる。
「俺は甘すぎないビターが好きだ」
「好みのチョコ! それはとても難しい質問だけど、でも強いて言うなら! 言ってしまうのならばっ! ミルクチョコレートかな!」
「ジュアはナッツ風味のものが好きかな」
「おばさんは甘い甘いチョコレートが大好きよ~」
「フルーツや香草の香りがあるエキゾチック系だな。その香りが何によるものなのか……推測するのが楽しいだろう?」
 レイチェルを始めとして、ペリ子、ジュア、レスト、シグが答える。それは5人もいるというのに1人として被ることはない。
「んふふ~、好きなものは人それぞれね」
 レストが楽し気に笑う。
 祭の雰囲気も、ホットチョコレートの味も。感じ方は違うだろうが、5人の思い出に刻まれるのだろう。
「やー! 楽しいなぁ! また来よう! ね、レイチェルさん!」
 ぐい、と覗きこまれたレイチェルは驚きに思わず1歩引く。けれど、ペリ子の笑みに小さく微笑みを返した。
「……ああ。また来年も来れると良いな」
「ペリ子、レイチェル、まだ終わりじゃない」
 そう口をはさんだのはジュアだ。すっと指したのはジュアが気になっている露店。
「あのホワイトチョコのマフィンもおいしそうだ。これだけ色々な菓子があれば、シグのレシピも増えるかな」
 楽しみだ、と呟くジュアから笑みが広がっていく。
 そう、まだ祭は終わりではない。
 彼らはマフィンの露店へと足を運んで行った。
 そんな彼らを横目に、チョコレートクッキーを齧る1人の男。『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)である。
 袈裟懸けに切られた傷は完治していないものの、動けないほどではない。
(バレンタイン……もうそんな季節なんだな。カップルたちが色めき立つ頃か)
 生憎と黒羽にそういった相手はいない。けれどもバレンタインの喧騒を遠目から眺めるのも悪くなかった。
(何だかわからねぇが、こっちまで楽しくなってくるからな)
 幸せな者達からはそのお裾分けでも来るのだろうか。
 だからというわけではないが、甘い雰囲気を是非とも見せていただきたい。
 チョコレートクッキーを食べ、人々を眺め。
 それもまた1つの楽しみ方である。

●眠る森の
 祭の賑やかさとは相反して、森には静けさがあった。
 それは、まるで森が眠っているかのように。
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)はふと口端を綻ばせた。
「同じ目的地を目指して、共に歩むだけでも物語になりますね」
 それは、言い伝えの男女のよう。
「物語?」
 『儚き雫』ティミ・リリナール(p3p002042)が首を傾げる。
「ええ、物語。人生と呼ばれるモノ。人と言うのはやっぱり不思議で、感動してしまいますよ」
 自らの考え方と異なるそれに、ティミは柔らかく微笑んだ。
「他の人の人生を物語としてとらえるって何だか素敵ですね」
 それは皮肉ではない。自らにない純粋な感性だと純粋に思っているのだ。
「貴女の人生も、そのような彩の多いものになると良い、と『友人』として願いますよ。ええ」
 着きましたよ、と言えばティミの視線は正面へ向く。
(それが黒だろうと白だろうと、とても……ええ、とても感動的でしょうねえ)
 どんな未来へ転じようとも、その中で生きる人間は美しく、面白く、不思議なものだ。
「差し当たって、貴女の笑顔を曇らせるものとの決着……とかはどうですか?」
 冗談ぽく笑いながら言われたそれに、ティミは目を瞬かせた。
「私の笑顔を曇らせる……?」
 思い当たる節は、あった。それにティミは俯く。
 その小さな体に残る傷跡。今もなお、いつまでも縛られる――元奴隷の証。
「今は……まだ、怖くて」
 四音は黙ってティミの言葉を聞く。
 まだ、決着はつけられない。けれど、いつかはきっと訪れる。
「決着を、つける時。その時は、共に――」
 その先に吐き出された言葉。四音は、口元に緩く弧を描いた。

 ティミと四音が去った後。そこへ現れたのは2人の魔女だった。
「言い伝え……いわくつき……つむがれるものがたり。真実を軸に織られたお話、というものはどれも魅力的なものです」
 『灰かぶりのカヴン』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)はそう言いながら、木の幹へそっと触れた。
 その隣に立つのは『頽廃世界より』エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p003593)。木を見上げ、感嘆したように息を吐き出す。
「これが言い伝えの木……何だか永遠を感じさせてくれるわ」
「永遠」
 ミディーセラがエルメスの言葉を復唱し、同じように視線を上へ向ける。
 2人を木漏れ日がちらちらと照らしていた。
「この木は何故葉を落とさず頑張るのか……お話しできないのが残念だわ」
 そう言って木の幹を撫でるエルメスは、ミディーセラにくすりと笑いかけた。
「ここで結ばれていく約束の様に、この木も何か約束を守っている……とかならロマンチックよね」
「とても興味深いですわ。願わくばわたしも、悠久の時を過ごす……そんな存在になりたいものです」
 そうして、ずっと、ずっと。葉を落とすことなく悠久の時を過ごしてきた大樹のように。
「言い伝えの2人はここで残念と笑い合ったけど……わたしは嬉しいわ!」
 ぱっと幹から手を離し、エルメスが木とミディーセラに背を向ける。
 2人は長い旅を共に歩んだ。
 エルメスはこの世界にくるまで1人だった。
「言い伝えは旅の終わりで締めくくられていたけれど……きっと後には新しい始まりがあった筈よね!」
 そう、きっと自分のように。
 だから、とエルメスは振り返り、持っていたものをミディーセラへ差し出す。
 先輩と後輩として、共に歩んでいけるようにと願いを込めて。
「……ふふ、良ければ受け取ってくれるかしら? ミディ……わたしの初めての後輩君」
「まあ、まあ……」
 ミディーセラは思いもしなかったことに目を瞬かせ、微笑を浮かべた。
「……チョコを。わたしに。想いとおくりもの、とても嬉しいですわ。あなたにありがとう、を」
「どういたしまして。……さあ、戻りましょう? 長くいると冷えてしまうもの」
 エルメスの笑顔に促され、集落への道を歩く。
「ふふ……こうした時間を、過ごした記憶を……無くさぬ為に、忘れぬ為に。わたしは生きるのです」
 その背中を見て、ミディーセラはぽつりと呟く。
 楽しかった、辛かった。そんな思いを繰り返す為に。
(……いつか、いつかの未来。その時にあなたはいるのかしら)
 未来は分からない。けれど、出来る限り共に。

 愛する人と手を繋ぎながら、『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)は常緑樹の元へ辿りついた。
(……結構大きいな)
 遠目からはそうでなくても、近付いてくればその大きさが分かる。
(でも、木の下で想いを伝えるのは、私には相応しいのかもしれないな)
 共に歩く『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)もどこか緊張した面持ちだ。
 木の根元まで来るとポテトはリゲルの手を離し、面と向かい合った。
「リゲルの思いは展望台で聞かせて貰った。だから、今度は私の番だ」
 そう告げてポテトはにっこりと微笑み。
「大好き」
 その一言に、その表情に。リゲルは目を見開く。
「これからもずっと、リゲルと一緒に手を繋いで……支え合って歩いていきたい。ずっと傍にいて、同じ道を一緒に歩いていこう」
 笑って、怒って。
 時には喧嘩もするだろう。
 けれどちゃんと話し合って仲直りして、一緒に笑いたい。
「……それで、一緒に幸せな家庭を築いていこう」
 笑いかけるポテトに、リゲルは柔らかな笑みを浮かべる。
(笑顔で大好き、と言われるだけでも心臓にグッとくるんだけどな……)
 大好きに止まらない、彼女の想い。それに心が暖かくなる。
「ああ。ポテトの想いをありがとう。ポテトの気持ちはいつも伝わっている。ポテトがいてくれたら、寒い冬も暖かく感じるんだ」
 浮かべるのは誰にも見せたことのない、愛する人だけに見せる優しい微笑。
「こちらこそ、これからもよろしく頼むよ。喧嘩は……そうだな。俺は頑固だから、迷惑をかけてしまうかもしれないな?」
「……ふふ、頑固なのはお互い様だ」
 リゲルの言葉にポテトはくすりと小さく笑う。2人はどちらからともなく抱きしめ合った。
(ポテトと、あの子と築いていく家庭はこれからも幸せに満ち溢れるだろう)
 目の前の彼女と、自分達を親と慕ってくれる少女にリゲルはそんな確信を持つ。
 とても楽しみにしているし、それは自分の拠り所となるだろう。
「これからもずっと、リゲルと一緒にいたい」
「ああ。これからもずっと一緒だよ、ポテト」
(いや……もう拠り所になっているな)
 リゲルは腕の中の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。

 『魔王勇者』ルーニカ・サタナエル(p3p004713)はたどり着いた常緑樹の根元で視線を上げた。
(1人だけど、こういう木の下っていいよね)
 伝わるかなんて知らない。
 もしかしたら周りに誰もいないかもしれない。
(それでも、想いは言葉にしないと伝わらないから)
「想いを伝えれば叶うのなら、僕は皆に向かって伝えよう。僕は魔王で、勇者だ。誰か1人じゃなくて、皆と仲良くなりたい」
 ルーニカはそういうと笑って、くるりと木に背を向けた。
 その方角にあるのは、今もなお賑わっているであろう祭の場。
「皆いつもありがとう! 初めましてな人も今日からよろしくね!」
 その声は、音は。瞬く間に眠る森へ吸収されてしまったけれど。

 きっと、誰かに届いていると――そう、願っている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お祭り、お楽しみいただけたでしょうか?
 ホットチョコレートが大人気だったようで当方驚きです。温かいものっていいですよね。
 当方のうっかりが炸裂していなければ全員描写しています。

 皆さんらしいお祭りの楽しみ方に、とても楽しく執筆させて頂きました。
 グラオ・クローネの一幕にご縁を頂き、ありがとうございました!

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