シナリオ詳細
浸食される村に来訪する奴隷商人達
オープニング
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深緑、アルティオ=エルム。
その集落の一つに今、魔種が滞在している。
ハンネスという名の元幻想種。この男は旅人の少女を連れて、先日、この村へとやってきた。
人々は魔種の到来に怯えていたはずだったが、ハンネスは少女、エミーリエ・シュトラールの持つ何らかのギフトの効果で人々に魔種の到来を喜ばしいものだと認識させていたらしい。
その後、ハンネスは大きな動きを見せてはいない。
まるで、集落の住人全てが自らの発する『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』の影響で狂気に堕ちていくのを待っている、そんな風にも感じさせた。
ある日、村にやってきたのは、傭兵を率いたラサの奴隷商人。
商人アレシュは屈強な体を持ち、中国刀という独特の武器を持つ男だ。
「ハンネス殿はおられるか?」
彼は敢えて、この地に滞在する魔種へと接触する。
要望に応えたハンネスは旅人の少女を引き連れ、商人達の前へと現れる。
「俺に何か用か」
「なに、俺達に数人もらえないかと思ってな」
魔種を相手にしてもなお、その商人アレシュはまるで臆することなく要求する。
「ザントマンって奴から、お前さんのことを聞いてな」
そいつはハンネスの狙いを察しており、見逃す代わりにこの集落の住民を数人よこせと要求する。
「なぜ、俺がお前達の要求に応えねばならない」
「お前の狙いは知っている。そいつを強引に連れ去ってもいいんだぜ?」
「……いいだろう」
立ち上がったハンネスは少女を連れていく。
少女エミーリエは複雑な表情をして。
(お姉ちゃん……)
腕につけたミサンガを見つめ、祈りを捧げるとハンネスに引きつられて外へと出ていった。
それを見ていたアレシュは懐から、小瓶に入った青い砂を取り出して。
「これで、砂は別の機会に使える。使えるもんは使っていかねばな」
にやりとアレシュは微笑み、再びその小瓶を懐へとしまったのだった。
●
幻想、ローレット。
現状、『深緑に住まう幻想種』の拉致事件が頻発している。
「調査の結果、幻想種の人達は深緑の隣国ラサに『奴隷』として流されていることが確認されています」
今回の依頼に関して、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)がイレギュラーズ達へと説明を行う。
深緑は元々、他国とあまり関わらない閉鎖的なお国柄だ。
ただ、ラサだけは例外で、緩やかな同盟による繋がりがある。
「これが全て台無しにするような行為を、ラサがするとは思えないのですが……」
だが、間違いなく奴隷としての流れがあるのは事実だ。
深緑のリュミエ、ラサのディルクは両国の関係にヒビが入りかねないこの事態を放置するはずもない。
両国に跨る問題、またラサから更に他国に奴隷が流れているという幅広い状況。
それらもあって、彼らはどこにでも介入できるローレットに目をつけ、依頼を持ち掛けている。
「ですので、幻想種の皆様の救出はもちろんですが、この黒幕の調査を合わせてお願いできればと考えています」
今回事件が起きるのは、深緑内のとある村。
この地には現在、1人の魔種が滞在している。
「先日、魔種の情報を集めに私が調査依頼を出したのですが、この地に奴隷商人は目をつけたようです」
商人と魔種はなんらかの口約束を交わしたらしく、商人は引き渡された幻想種数人を馬車で連れ去ろうとしてしまうらしい。
森の中で移動中に商人達を撃退して、馬車に乗せられた幻想種の人々を助け出したい。
「ただ、奴隷商人は護衛として傭兵を雇っていますし、その商人自身がかなりの力を持っているようです」
自らの護衛として奴隷商人アレシュは5人の傭兵を雇っているが、何よりアレシュ自身が屈強な体と剣の技量を持っている。
自らが戦線に立てば、並みの傭兵なぞ軽く蹴散らし、力ずくで物事を解決することもあるのだとか。
それでも、普通の人間種であるアレシュがなぜ、魔種ハンネスと同等の取引をしたのかは不明だが……。
「あと、奴隷となる幻想種の人々は、今回も旅人の少女……エミーリエさんのギフトによって、嫌がることなくついていったようです」
魔種の来訪、奴隷とされる事態を快く受け入れるこの村の人々の状況は異様だ。
少女も何らかの理由で仕方なく魔種に従い、自らのギフトを使っているようである。
「エミーリエさんの救出は……、次の機会に願います。今は、幻想種の人々を助けてあげて下さい」
エミーリエも耐えてくれている状況には違いないが、目下のところ、幻想種の人々は奴隷として売り飛ばされる危険がある。それは水際で食い止めたい。
また、その幻想種の人々を保護すれば、魔種アレシュや前回調査後の集落の情報も直に聞き出すことができるだろう。
「情報を整理しますが、今回は奴隷商人の一隊の討伐。そして、奴隷とされた幻想種の人々の救出を願います」
最後に、アクアベルは依頼を受けてくれたイレギュラーズ達へとそう願うのだった。
- 浸食される村に来訪する奴隷商人達完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年08月30日 23時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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深緑へとやってきたイレギュラーズ達。
今回の事件は、いくつかの事案が複雑に絡み合った状況にある。
「幻想種を奴隷にする話はここでもか……」
体の半分を魔物化させた旅人、『黒のガンブレイダー』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が呟く。
「どこも、『幻想(エルフ)』を求めるのは一緒か……」
青年の姿をした死神憑きの男性、『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)もまた馬の手綱を握りながら、森の木々を仰ぎつつ物思いに耽っていた。
メンバー達はマカライトが用意した馬車に乗っていたのだが、マカライト自身はティンダロスという巨躯の狼のような生物へと跨って移動していた。
「奴隷商人……ほんと数が多いな……しかも、魔種もいるとは……」
妖精の羽を生やした子供といった姿の『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)。その本体は、手にする大きな鎌である。
今回魔種と対面する必要はないが、問題の幻想種の村は様々な災難に見舞われている。
「一つ一つ、地道に何とかしていくしかないのが歯がゆいものだな……」
「事件が事件を呼び、という具合ですわねー」
シロイルカ型の海種、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)もこの事態を喜ばしくないと捉えているが、蟻の一穴となる好機になるかもしれないと感じていたようだ。
「魔種が絡んでいるとはいえ、白昼堂々と人攫いをやるとは……」
今回の悪徳商人は最早、道徳、良識などを彼方に投げているのだろうとマカライトは推察して。
「まぁ、人の尊厳無視して悪事を働いているのなら、諦めてもらうしかないよな?」
マカライトの話に、サイズも頷いて。
「なんにせよ、俺の今回の役割は奴隷商人や傭兵を蹴散らすことだ」
頑張るか……と、やや大儀そうな態度でサイズは気合を入れようとしていた。
そして、別の懸念事項も。
「そして、ユーリエの妹が関わっているのか」
クロバは当人を視界に入れつつ、敢えて言葉に出す。
「魔種さえ絡んでなければ、喜ばしい再会だったろうに」
ラサ出身、馬の獣種の女性、『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は今は無理でも、救出の為の布石を敷いておきたいと語る。
「家族は一緒にいるのがいいと、私も思う」
その家族であり、当事者でもあるのが長い茶色の髪の少女、『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)だ。
「今回もエミーリエを助け出すことは出来ないが、その手掛かりは得られる可能性が高い」
ゆるふわな印象を抱かせる樹精、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)とユーリエは前回の調査依頼にも参加していた。
「魔種ハンネスや、エミーリエに繋がることなら、奴隷商人だろうと傭兵だろうと容赦しない」
ユーリエの視線の先、森の向こうに小さく見える集落には、魔種に捕らえられた実妹エミーリエがいる。
今回の一件は、その魔種を討伐する為の糸口となるはずなのだ。
「ユーリエさまには、日ごろからお世話になっておりますしー」
ユゥリアリアは恩義を返す機会と考え、依頼の解決と情報収集に全力を尽くす。
「――分かった。会えるのなら、救えるのなら、俺はそれを助ける為に動くよ」
「必ず幻想種を救い出し、アレシュを捕らえて聞き出そう」
「集落の人の命を守る為に。そして、エミーリエの未来を取り戻す為に!」
事情を知ったクロバが助力を誓うと、ポテトも、そして、ユーリエもまた事態の解決に強い意欲を見せるのである。
●
すでに一度、この近辺にまで来たことのあるポテト、ユーリエの案内で集落を目指すイレギュラーズ一行。
蝙蝠のファミリアを呼び寄せたユーリエは温度視覚も併用し、敵の居場所を探っていく。
浪人を思わせる見た目の女剣客、彼岸会 無量(p3p007169)も耳を済ませて敵の動きを突き止めようとする。
「あれは違うでしょうか?」
前方、1時の方向を走る集団は明らかに移動速度が速い。
「数は……6体。間違いありません!」
すると、ティンダロスを駆るマカライトと、半人半馬形態となったラダが先んじて接敵していく。
相手の馬車の進行上に位置取るマカライトが馬車の車輪目がけ、インスタントバレルを発砲した。
同じタイミング、ラダもまた逆側の車輪を狙って大口径ライフル「Schadenfreude」の引き金を引き、車輪の軸を破壊してしまう。
すると、荷台が馬に引きずられる形となり、馬の手綱を引いていた傭兵達が大勢を崩す。
「ちっ、襲撃か」
奴隷商人アレシュは前方の2人を確認し、中国刀を抜く。
傭兵達もまた身を起こし、武器を構えて襲撃に備えていた。
「さて、幻想種達を大人しく渡してくれればいいが、そうはいかないのだろう?」
ラダが牽制する間に、残りのイレギュラーズ達も馬車を降りて、走ってこの場へと近づいてくる。
ポテトは枷をつけられて荷台の外に出られぬ幻想種の人々を気にかけ、すぐに回復できるようにと身構える。
ユーリエはというと、その幻想種達を連れ去ろうとしていた奴隷商人の姿を確認して。
「あれがアレシュ……。絶対にここで抑え込む! 皆さん、力を貸してください!」
同行する仲間達へと告げた彼女は、自らもその確保の為にスキルを行使していくのである。
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対面する傭兵率いる奴隷商人とイレギュラーズ達。
「やれ」
小さくアレシュが指示を出すと、5人の傭兵達が長剣、銃、魔法とそれぞれ得意とする攻撃で軽やかに飛び掛かってくる。
彼らをかわしたクロバはアレシュへと接敵し、抑えへと当たっていく。
新装備のガンエッジ・アストライアを手に、彼は左目の魔眼で相手を見つめつつ心を斬る鬼気を雷と共に一閃させる。
「……上等だ」
口元を吊り上げたアレシュは豪快な立ち回りで幅広な中国刀を操り、クロバへと反撃と繰り出してきた。
その少し後ろ、ユゥリアリアは自らのエスプリ『英雄作成』に皆を収めるよう立ち回りながらも、傭兵のみを照準に抑えてから絶望の海を歌う。
ユゥリアリアの発する冷たい呪いは歴戦の傭兵達でも惑わせ、銃使いなどは同士討ちし始める。
イレギュラーズ達の共通認識として、最優先撃破対象は魔導士。
実際に、マカライトなどはインスタントバレルで狙撃を開始している。
だが、前線が邪魔と判断したサイズ、無量は長剣使いから相手していく。
至近にまで近づいたサイズは氷のバリアを展開して相手の攻撃に備え、さらに妖精の血を使って複製したサイズの鎖で刃を振るう長剣使いを縛り付けてしまう。
無量も常在戦場で戦闘態勢に入り、もう1人の長剣使いへと仕掛ける。
「貴方方は所詮、雇われでしょう。倒れる前に逃げる事を勧めますよ」
だが、傭兵達も力に自信があるからこそ、忠告を無視して切りかかってくる。
その為、相手と刃を交わす無量も力を溜めつつ、その間合いへと入る隙を窺う。
相手が振るった刃を受け止めた無量は一気に肉薄してその体を大きく切り裂き、緑色一色だった森の一部を朱に染めてしまっていた。
その間も、ロッドをこちらへと突き出す魔導士がユゥリアリアを中心として展開するイレギュラーズ達へと火球を投げ込み、大きな爆発を巻き起こしてくる。
その威力は決して侮れない。その身に燃え上がる炎も厄介なところ。
名もない傭兵とはいえ、歴戦の相手だ。下手をするとこちらがやられてしまいかねない。
やはり魔導士は危険と判断したユーリエは、銀色の鎖で巻き付けてその力を封じようと動いていく。
爆発を浴びたポテトは仲間達の回復に回り、調和を賦活の力へと変換して前線メンバーをメインに振りまき、傷を癒やしていた。
そうして、敵陣営を抜け、ポテトは破壊した敵の馬車の荷台にいるままの幻想種達を庇いに回る。
「幻想種を奴隷にも人質にもさせない。ここでお前たちを倒し、全員守って見せる!!」
上等と言わんばかりに傭兵達も攻撃を繰り返す。
銃使いがすぐに我に返って発砲してくる中、木陰に入って身を守るラダも幻想種達の様子を確認する。
(見たところ、特に悪影響があるようには見えないが……)
ギフトで何らかの影響があるのは間違いないと踏むが、ともあれ、今は何か悪いことをしてくるようにも見えない。
魔法、銃弾を発してくる傭兵達の討伐をと、ラダも魔導士、銃使いを巻き込むように銃弾を発射し、鋼の驟雨を敵陣へと降らす。
交戦が続くと、先に苦しみ始めていたのは、敵魔導士。
どうやら、回復手段に乏しいらしく、比較的打たれ弱い敵は近場の木にもたれかかる。
そいつへとユーリエは再び銀色の鎖を伸ばす。
鎖が銀から青白く変色したことで、敵の力を封じたことを察した彼女は、さらに吸血鬼の力を行使する。
「絶対に仕留める」
彼女は相手の喉元や腰へと集中的に赤黒い鎖を巻き付けていき、そいつを気絶へと追い込んでいった。
前線では、クロバと奴隷商人アレシュが刃を交え続けていて。
「折角、うまくいきそうだったのによ」
奴隷商人として活動するアレシュだが、その剣技もかなりのもの。
一気に遠方の仲間目がけて炎の斬撃を浴びせたり、ピンポイントで空間ごと断ち切ったりしてくる力がある為、クロバはできる限り自らへと気を引く。
度々相手の剣の勢いにやや押されてしまうが、それでもクロバは両手に持つ白銀の剣と黒刀で高速の斬撃を浴びせかけていき、その体力を削る。
ポテトが調和の力を使ってその回復に回っていた為、ユゥリアリアが再度、絶望の海を歌えば銃使いの片方が魅了されて味方へと銃口を向けた。
傷つく銃使いはユゥリアリアの歌によって追い込まれながらも、リボルバー銃を発砲して最後まで応戦の構えを見せる。
しかし、マカライトが伸ばす鎖の先端に苦無状の刃を生成してそいつの体を貫通すると、銃使いは耐えきれずに森の中へと崩れ落ちていく。
前線でも大きな動きが起こる。
サイズ、無量が相手にしていた長剣使いが無量の刃を受け、血を流す。
「万一やられても、捕まれば殺されない、そんな甘い考えは捨てて下さい」
口元には笑いすら浮かべながらも、彼女は虚ろな瞳で敵を見つめて。
「私は、如何な者でも斬ります」
そいつ目がけ、無量はなおも踏み込み、相手の胸部を深く切り裂く。
確実に致命傷だ。もう助からない。
完全にその長剣使いが事切れたのを確認し、無量は次なる敵を探して切り結んでいくのである。
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傭兵達も手練れではあるが、この場の猟兵の連携には敵わなかった様子。
アレシュから距離を取るラダは力量の敵の挙動にも油断せず、仲間達と攻撃を重ねることで敵を攻めていく。
幾度目かラダが発した銃弾が銃使いの体を穿ち、地面へと沈めてしまう。
前線のサイズも定期的に相手を縛り付けていき、血の色に染まった大鎌で切りかかっていく。
後で情報を引き出せる可能性を考え、サイズは威嚇術で卒倒させた敵を生け捕りにしていた。
雇った傭兵を全て倒され、アレシュは歯噛みする。
「高給の割に使えない奴らめ……」
そいつは一気にクロバ目がけ、連続して豪快な剣捌きで切りかかり、二刀を操る彼の体を切り裂いてしまう。
ポテトも回復を行っていたが、アレシュの刃はクロバの体深くにまで突き刺さる。
だが、クロバもパンドラを砕いて見せ、魔物となった瞳を光らせて黒刀を振るう。
その力を危険視し、アレシュも眉を顰めていたようだ。
再び起き上がったクロバが倒れぬよう、ポテトは癒やしの力を振りまき続ける。
ポテトは幻想種にも気を払っていたが、アレシュは幻想種に手を出す素振りを見せない。商品価値を損なわぬ為だろう。
ユゥリアリアもさらに回復のカバーをしながらも、敵の馬車付近で待機したままの馬を宥め、それを使って逃走しないようにしていたようだ。
さて、このアレシュは色々と聞き出したい相手。
サイズは長剣使いを相手した時と同様に、複製した鎖で敵を縛り付けて無力化をはかる。
だが、敵がそう簡単には捕まってくれないのは、無量の存在も大きい。
生け捕りにした傭兵がいたこともあり、彼女は躊躇なくその命を奪いに刃を振るい、深く踏み込んで相手の急所を確実に狙おうとしていたのだ。
対して、ユーリエは確実に情報を引き出そうと最新の注意を払って銀の鎖で敵を捕らえようとしていく。
幻想種の人々が動かずにいてくれるのをユーリエは温度視覚で確認してはいるが、逆に仲間が止めを刺す危険も考え、できる限り自分達の手番でアレシュを倒すよう努める。
マカライトもまた鎖の塊を飛ばして、敵の生け捕りを目指す。
「また鎖か」
アレシュは鼻で笑うが、それはマカライトの眷属。
自らの意思で体を展開して敵の体を縛り付ける。
「何?」
その隙を逃さず、ラダは相手の胸部目がけてゴム弾を飛ばす。
いくらゴム製とはいえ、当たれば死ぬほどの痛みを与えることは可能だ。
苦悶する敵へと、クロバは近づいて。
「痛みと共に刻むといいさ――死神、クロバ=ザ=ホロウメアの名と剣を!!」
その腕を強く締めつけるクロバ。
「おの、れ……」
最後まで中国刀を握って抵抗を続けていたアレシュだったが、やがて刀を手から落とし、地面へと倒れてしまったのだった。
●
奴隷商人と傭兵達を縛り付けたイレギュラーズ達は、アレシュからは有益な情報が得られることを期待して事情聴取に当たる。
「もし、怪しい行動をとるなら……」
無量がその首に大太刀を突き付けて脅すと、クロバが制す。
「妹を助ける兄や姉を邪魔する事は俺が許さない」
対立するクロバと無量。
「家族を想う心を斬れるものならやってみるといい。――それよりも先にどちらが斬れるのか身を以て知る事になるぞ」
「万一、同じ様に魔種になられて逃げられるならば、この場で斬り伏せた方が良いじゃないですか、ねえ?」
両者平行線の主張が続くが、他メンバーが一旦その諍いを収めたことで、無量が先に問いかける。
「アレシュさん、と言いましたね。青い砂を頂けますか?」
以前の依頼で、彼女は青い結晶を埋め込まれて魔種へと変容させられた人を見たと言う。
その懐にある小瓶を強引に回収した彼女は後程、それをローレットに提出するとのことだ。
続き、クロバがアレシュを威圧して。
「集落について教えてもらおうか。特にエミーリエという少女についてな」
だが、相手も奴隷商人だ。そう簡単に有益な情報を漏らすはずもない。
サイズが生き残った傭兵達に尋問していたが、雇われの者達は事情を知らされていない様子。
また、ユゥリアリアが壊れた敵の馬車や傭兵達を調査する。
「んー、ラサ製だと思うのよねー」
その造りからユゥリアリアは判断するが、やはり持ち主から聞き出したいところだ。
「魔種ハンネスの能力、狙い、聞きたいことは山ほどある」
ラダは幻想種達を保護しながら問いかけるが、アレシュが口を割る素振りは全くない。
マカライトもアレシュの逃亡を懸念してその背後に立ったまま、離れた場所で放置している自らの馬車へと幻想種達に移るよう促す。
「いい思い出がないだろうが、もう少し我慢してくれ」
なお、保護した人々は現状、魔種のいる村へと返すわけにもいかないとポテトが考え、深緑の長であるリュミエへと保護を求める事にしていたようだ。
その人々を介抱するユーリエが集落で起きたことを尋ねると……。
「ハンネスの帰還に嬉しさを覚える反面、妙な違和感があってな……」
魔種となったハンネスは故郷に狂気を振りまく為、エミーリエという少女を連れてきたらしい。
「質問には、正直に答えてくださいね?」
「…………」
はぐらかし続けるアレシュの拘束を、ユーリエは強めて。
「あの集落に居た私と似た髪色の女の子について、知っている事全て話して下さい」
「話すつもりがないなら、お前の思考に直接聞くまでだ」
問いかけながら、ポテトがリーディングで聞き出す。
金になる幻想種を連れ去るアレシュは、奴隷とした幻想種を売り払った後のことまでは知らないらしい。
「ザントマンは何者だ?」
幻想種であり、ラサの人物らしいが、深緑の状況にもある程度明るく、魔種ハンネスが実質支配するこの集落にも目をつけていた。
そして、ここからがユーリエが本当に知りたいこと。
「答えて。エミーリエの能力って何なの?」
ギフト『不幸なる幸運』。
本人の不幸な記憶を幸運だったと、都合よく書き換えてしまうというものだ。今回の幻想種の連れ出しにも、その能力は使われているらしい。
長らく終焉の地で捕らわれていたエミーリエはそのギフトを悪用されていたが、魔種ハンネスが自らの目的の為、強引に彼女を連れ出したようだ。
「ハンネスの想い人……?」
さらに、思考を読んだポテトの言葉に皆が着目する。
憤怒の魔種となり果てた彼の目的は、集落民を……特に想い人を魔種に堕とすことらしい。
アレシュはこの女性を奴隷として連れ去ると脅したようだが、細かいことまでは分からず仕舞いだった。
敵の能力など聴取が一通り済んだところで、メンバー達は二手に分かれる。
片方の班は深緑のリュミエに幻想種の保護を。
そして、もう一班はラサのディルクにこの奴隷商人を突き出しに。それぞれ向かうことにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お世話になります。なちゅいです。
MVPは、リーディングで情報を引き出したあなたへ。
この情報を元に、次は魔種ハンネスとの決戦になるかと思います。次のシナリオは9月中を予定しておりますので、お待ちくださいませ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
関係者依頼ですが、どなたでもご参加いただけます。
現在、深緑、傭兵で起こっている拉致事件。それがこちらの村にも影響を及ぼし始めているようです。
●目的、状況
深緑、魔種が現れた幻想種の村にラサの奴隷商人が現れ、交渉の末に数人の幻想種を奴隷として、馬車で連れ出してしまうようです。
村を出た先、森の中を馬車で移動する奴隷商人を撃退した上、この幻想種の人々を助けてあげてください。
無事、助け出せれば、魔種の狙いを聞き出すことができるかもしれません。
●敵……奴隷商人
◎アレシュ
屈強な人間種30代男性。
傭兵として活動することもあり、引き連れる傭兵達を黙らせる程度の腕は持っています。
中国刀を所持。力と速さを兼ね備えた動きで攻めてきます。
・大演舞……(A)物中範
・豪快激烈断……(A)物至単・流血・連
・火炎烈風破……(A)神中扇・業炎
・遠隔時限断……(A)神遠単・反動
◎傭兵×5人
戦い慣れした傭兵達です。
いずれも人間種。アレシュほどではないですが、手練れの傭兵達です。
2人が長剣、1人が魔導士、2人が銃。
スキルなどは不明ですので、ある程度幅を持った戦略が必要となるでしょう。
●関係者
〇魔種……ハンネス
直接は登場しません。今回の村で何か画策しているようです。
見た目は幻想種、銀髪に肌が褐色の青年。
村では大きな動きを起こさず、淡々と生活しているように感じさせます。
〇旅人……エミーリエ・シュトラール
魔種が連れてきた少女。
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)さんの実の妹です。
集落の住民に何らかのギフトを使ったのは間違いありませんが、詳細は不明のままです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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