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シナリオ詳細

続・陽炎千一夜恋物語
続・陽炎千一夜恋物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●都市伝説は生きている
 ラサ砂漠の南ジビエには、ある都市伝説が伝わっていた。
 陽炎の精霊がある男に恋をしたという物語である。
「陽炎は知ってるだろう? 暑い日に空気がゆらゆらと揺れて見えるって現象さ。
 けどこの物語では、陽炎は砂漠の精霊が踊ったあとに見える揺れだって説明していてね。
 その精霊はかつて砂漠を旅する男に恋をしたらしいのさ。
 けど男のことはよく知らなかった。陽炎の精霊は世界がゆらいで見えるから、人を見分けられないんだってね」
 そして精霊は考えた。道行く男に片っ端から抱きつけばきっとその男にたどり着くだろうと。
 けれど彼女は陽炎の精霊。抱きつけばその身の熱で相手を焼き焦がしてしまう。
 やがて精霊は人食い陽炎と呼ばれ人の手によって倒された。
 後に精霊が残した恋心だけが砂漠で踊っているのだ……というのが、『少し前まで』の都市伝説だった。
「けど、知ってるかい。この精霊に出会ったっていうローレットの奴が、恋心が真実かどうか確かめたんだそうだ。
 真偽はどうかって? 決まってるじゃないか、死して尚踊り続ける恋心が、真実じゃないわけがないさ」

 そこまで語った旅の商人バッケルは、くわえていたチョコレート色の煙草を手に取った。
 立ち上る煙がチョコレートのように甘い香りをたて、彼女の顔半分を覆うやけど跡をくもらせた。この顔つきから、彼女は『ローストフェイス』バッケルと呼ばれている。
 場所はジビエに位置するオアシス街。美しい屋敷の応接室であった。
 かつて幻想から流れ貿易によって栄えた商人貴族マシリテの屋敷であり、バッケルはこの場所にローレット・イレギュラーズと共に招かれていた。
「なんでまたアタシが一緒に呼ばれたのかと思ったが、合点がいったよ。
 アンタがお話に出てくる『恋する男』なんだろう?」
「そんな呼び方をされるとこそばゆいな。この通り恋とは無縁の歳だ。
 第一、あれが本当に恋であったのかなど、私にはわからなかった。
 道行く者をただ焼き殺しているだけの精霊とも、とれたのだしな」
 クッションによりかかるように座る貴族マシリテは、齢90になろうかという老人であった。
 長く白い髭。おおきな帽子。身なりは良く、厳しい現実と社会のなかでもまれた目の奥には、ロマンチストの輝きが僅かに残っている。
「私が長年分からずにいたことを、諸君らは確かめてくれたようだ。求められていないこととはいえ、追って感謝申し上げる」
 具体的に誰がそれを確かめたのかは、マシリテ氏には伝わっていない。
 ひっくるめて『ローレット』の功績として受け取っているようだ。
 その上で。
 マシリテ氏は真剣な面持ちでローレットの面々を見た。
「ひとつ。諸君らに依頼したいことがある」

●熱砂の魔物
「昨今、あの辺りに『熱砂の魔物』が現われたそうだ。
 通りがかる者たちを無差別に襲い、焼き殺していると」
 知っているかと話をふると、バッケルは煙草をくわえたまま顔を半分しかめた。
「そうだねぇ……。
 女性の形をした砂の魔物が何体も現われては通行人を包み込み、砂の熱で焼き焦がしてしまうという噂は聞いたことがあるよ。
 精霊の物語と混同してる奴もいたね。
 精霊はホントは人殺しがしたかっただけだなんてハナシをする奴もいる」
 土地とシルエットが重なったことで、二つの全く異なるものが混同される。そういうことは、都市伝説の変遷としてよくあることだ。
 だが、しかし。
「陽炎の精霊たちは倒され、残された心も昇華した。もはや別物に違いないが……『物語』が汚されることを私は望まない。
 純粋な恋心が無関係な魔物の暴行によって踏みにじられることも、私は望まない」
 マシリテ氏はローレット・イレギュラーズの前にコイン袋を置いた。
「熱砂の魔物を倒し、『物語』を守ってくれ。
 真実であった恋心を、美しいままで」

GMコメント

■依頼内容
 『熱砂の魔物』を討伐する

 魔物の発生地点は分かっています。
 パカダクラ馬車で現地に向かい、現われる魔物を倒してください。
 一見女性の形をした魔物なのかな……と思いきや、戦う中でその正体が分かってきます。
 以下、メタ情報です。
 最初から知っているというより、戦いの中で『そういうことだったのか!』と気づくロールをプレイングに混ぜたりするとより美味しくお楽しみ頂けます。

■■■エネミーデータ■■■
 このシナリオでは『熱砂の魔物』との集団戦闘パートと、『サンドマクラクラン』とのボス戦闘パートに分かれます。

・『熱砂の魔物』との集団戦闘
 女性の形をした砂魔物が大量に発生し、踊るように飛びかかってきます。
 接触時は砂粒ごとに分離し対象を埋めるようにぶつかっていくことで攻撃します。
 これらの攻撃には【火炎】の効果がつき、接触されている間は『移動』が不能になることがあります。

・『サンドマクラクラン』とのボス戦闘
 熱砂の魔物を倒しきると、地面からとても巨大なアリジゴク(1体のみ)が飛び出してきます。
 これはサンドマクラクランといって、人が執着しそうなものを砂で生み出し、疲弊した所を喰うという魔物です。
 この魔物もまた砂でできており、攻撃には砂を放ってぶつける【業炎】つきのもの、直接噛みつく【必殺】つきのもの、特殊な泥を塗りつける【猛毒】つきのものがあり、いずれも攻撃範囲が広く設定されています。
 これを倒すことで、シナリオの成功条件は満たされます。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 続・陽炎千一夜恋物語完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月30日 23時05分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
闇討人
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
虹を齧って歩こう

リプレイ

●アフターテイルアフター
 のぼる陽炎、砂のかおり。
 太陽と風の通り抜けるジビエ砂漠に、二台の馬車がとまった。
「精霊が人に恋していたなんて、なんて素敵なお話なのでしょう
 恋が実らなかったとしても、それが真実の恋だったなんて、なんていじらしい恋心なんでしょう……」
 馬車を降り、被っていた帽子を脱ぐ『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。
「そんな本物の恋を汚す真似は許し難いですね。
 しかも、人の執着を利用するとは、なんて卑怯な……」
 精霊の恋物語に、彼女なりに思うところがあるのだろう。
 物語というものは、その虚実にかかわらず美しいことを尊ばれる。それを汚すことを拒絶するのも、無理からぬことだろう。
 一方で『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)もまた、今回の背景に思うところがあったらしい。
「ある意味悲恋の物語か……悲恋から生まれた呪いの妖精鎌として色々と思うところがあるが、まずは仕事をこなそう。
 既に終わった恋物語ならば、誰かが汚していいものではないからな」
 馬車の窓からひゅるひゅると飛び出し、人間サイズへと戻るサイズ。
 先に馬車から出ていた『必殺仕事忍』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は、フードを脱いで深く呼吸を整えた。
 からっと焼いたような空気が、肺を介して空に溶けていく。
(かの陽炎の精霊の恋心は真の物であった、とか……)
「これが真の話であれば精霊の儚き恋心を誤解されたままでおくのは余りにも哀れな話、依頼人の憂いを晴らす為にも拙者も一肌脱ぐ事にいたそう」
 手甲をはめ、咲耶は手をぎゅっと握りしめた。

 二台目の馬車が開き、砂漠の砂に足をつける。
 小さく沈み、そしてすぐに平たくもどっていくさらさらとした砂の上で、『ハッピーエンドを紡ぐ女』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は頬に手をあててうっとりと目を瞑った。
「『私の初めての依頼は、恋物語を守る依頼でした』……なんて、ひゃー! 何だかすっごくイイですね!」
 ぶんぶんと身体ごと左右にふるウィズィ。
「ですねですねー!」
 その場のノリで同じように身体を振る『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)。
「しかも聞いた所じゃナウなヤングの間では、アベックで南ジビエ旅行がトレンドらしいですよー?
 恋物語の後語りとしても後味悪すぎますし、ハッピーエンドで終わらせましょうねっ。あとヨハナはいま炙りトロサーモンが食――」
「物語に憶測や邪推が入ることはよくある事ではありますし、そういったことも楽しみではありますが」
 話を遮って砂地に踏み出す『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)。
 サッとはらった髪に小さな氷の結晶が粉のように散り、そして砂漠の熱によってすぐさま溶けて消えていく。
「終わった物語に蛇足を加えるのは、無粋に過ぎますわねー。あとわたくしはゆず漬けイカが食――」
「つまり物語を護る――其れが俺たちへのオーダーか?」
 またもや話を遮って、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が被っていたフード脱いだ。
 降り注ぐ日差しに手を翳し、目を細める。
「なら、精霊の悲恋を描いた物語は美しいままに……だ。
 恋や愛には疎いが、このまま魔物のせいで穢れるのが許しがたいってのは、俺にも分かるさ」
 一度半分まで抜いた剣を、再び鞘にがちんと納める、白銀の騎士。
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は皆の前に出ると、マントを熱砂にはためかせながらかぶとをかぶり尚した。
 鎧の表面を熱遮断フィールドが走り、内側に冷却魔術が走る。
 目元をゴーグルに、そして口元をマスクによって自動的に覆うと、リゲルは改めて剣を抜いた。
「恋物語を守るのも、騎士の務め。
 伝承は美しいまま、語り継がれていくべきだ……そうでしょう? 父上」
 刀身にうつる自分を見て、リゲルは走り出す。
 まるで彼らを待っていたかのように、砂地に熱砂が巻き上がった。
 風の中で形成された女性のようなシルエットが、こちらを誘うかのように踊り出す。
 まるで陽炎の恋物語をなぞるように。
 偽物の、砂が。
 偽られた物語を破壊すべく、イレギュラーズたちは一斉に走り出した。

●『熱砂の魔物』
 踊る女性のような形をした『熱砂の魔物』が、次々に砂上に飛び出しては襲いかかっていく。
「陽炎の精霊と同じ感じなら炎がなんぼのもんじゃ――あっつい!」
 うおーと言いながら迎え撃ったヨハナは密集した魔物に手や足を押さえつけられ、次々にしがみつく高熱物体に首をぶんぶん振っていた。
「思ってた熱さと違うんですけどっ! これは砂利……砂利……シャリ……はっ!? 熱々の銀シャリっ! そうかこの魔物はお寿――!」
 状況に対して妙に余裕そうなのは、そもそもの耐久力と抵抗力が高いがために、魔物の集中攻撃に耐えられているからである。
「ヨハナさんそのまま! そのままですよそのまま……」
 ウィズィはそんな彼女に巨大テーブルナイフを両手持ちで構えたまま、じりじりとヨハナに近づいていった。
「大丈夫ですからねー……痛くないですからねー……」
「えっなにするつも――グワーッ!?」
 ウィズィは持っていた巨大テーブルナイフをおもむろに投擲。
 ぐるんぐるんと回転しながら飛んでいくナイフが魔物たちに激突。
 ヨハナは通り過ぎるナイフを大きくのけぞることで回避した。
「思ったように直撃(クリーンヒット)しませんね!」
「ヨハナにじゃないですよね!? ないか! よし!」
「丁度いいな、よしそこを動くなよ」
 とかやっていると、サイズも鎌を振り上げてじりじりと近づいてきた。
 反対側からは魔術式を組み上げて巨大な血の槍を作り出し、じりじりと近づいてくるレイチェル。
「安心しな。痛みは一瞬だ」
 そして幻影のチェーンソーをヴォーンと鳴らしながら近づいてくる幻。
「全ては夢、まぼろし……」
「なんですかこれ!? モテ期!?」
 ヨハナがばんざいして固まっていると、サイズが血の鎖を発射。魔物の身体にぐるぐると巻き付けると、強く引っ張って相手をヨハナから引きはがした。
 直後、レイチェルの投擲した槍が二重螺旋状にねじれ合うように変形。魔物を貫いて激しい炎に包み込んでいく。
「陽炎の精霊を模したらしいが……所詮は贋作。焼けて死ぬンだな」
 その一方では魔物の周囲に突如として箱が出現。魔物をパタンとスリットのついた箱に閉じ込めると、幻の投擲したチェーンソーの幻影がスリットへと突き刺さり、箱を真っ二つにしていく。
 箱が開けば――無残にも切り裂かれただの砂と化した魔物が残るだけだった。
「おや? 精霊だというなら砂が残るのは不自然ですね」
「ますます真相が怪しくなってきたな?」
 魔物が集まり、ぐにゃぐにゃと形を変えていく。
 無数の腕がはえた女の怪物を形作ると、継ぎ合わせた巨大な手のような物体をサイズめがけて伸ばしてくる。
「うおっ……!」
 飛び退こうとするが、素早く掴まれて身体が燃え上がった。
 鍛冶の妖精であるだけに火には強いが、直接ダメージまで無視できるわけではない。
 歯を食いしばってこらえていると……。
「サイズを離せ! 偽物の物語よ!」
 リゲルが剣に銀色の輝きを持たせ、豪快に巨大な腕を切り払った。
 集合していた魔物たちがはじけるように分離し、吹き飛ばされていく。
「無粋な歪みをやめ、仮初の舞台から降りて頂こうか! ――いまだ、如月!」
「承知」
 立てた二本指に念を込めた途端、咲耶の姿が白い煙となって消え、吹き飛んだ魔物たちの背後へと回り込むように再出現した。
 手刀一閃。
 吹き飛び宙を舞っていた魔物をすれ違うように切りつけると、魔物は粉々に散り、消えていった。
「トドメでござる、メリルナート殿!」
 咲耶の呼びかけにこたえて、メリルナートは呪歌を清らかに口ずさんだ。
(悲恋の物語から生まれた都市伝説、ですか。
 わたくし達も、悲恋だったといえるのか。
 それとも、悲恋にしてしまったのでしょうか……)
 遠い過去を振り返りながら、メルナリートはディスペアー・ブルーの魔術を発動。
 一塊に吹き飛ばされた魔物たちに叩き付けると、そのことごとくを粉砕しきった。
「これにて一件落着……いや」
 振り抜いた手刀を顔の前に翳し、顔をしかめる咲耶。
「この手応え……皆、下でござる!」
 何かに気づき、咲耶は大きくその場から跳躍した。
「下ですか? あっほんとだ敵だ!」
 猛烈にダッシュして逃げ出すヨハナ。
 その直後、足場の砂が凄まじい速度で吸い込まれ、柔らかいすり鉢状の砂地へと変化していった。
 この形状を、俗に『アリジゴク』と言う。
「わあ!? 蟻地獄!? なん――ウオオオオなめんにゃらぁむ!!」
 一足遅れつつも猛ダッシュで砂地を抜け、ころんと転がりながらもでんぐりがえって再び立ち上がるウィズィ。
 サイズは蝶の羽根をはやしての飛行能力で飛び上がり、レイチェルは衣に簡易的な飛行魔術をかけて砂地から飛び退いた。
「アレが親玉か。まるで巨大蟻地獄だなァ」
「デコイで人をおびき寄せてあの罠で吸い込むつもりだったんだろうが……相手が悪かったな」
「罠ごと移動はできないでしょうから、今に這い上がってくるでしょうね」
 幻もまた幻影の蝶羽根を作り出し、その場から飛び退いていた。
 レイチェルと共に安全な場所へと着地。
 アーマーからのジェット噴射で飛び退いてきたリゲルが、彼女たちを守るように間に立ち塞がった。
 するとすぐに、そして読み通りに、巨大なアリジゴクめいた魔物が地上へと這い上がってきた。
 全身が硬い砂の装甲で覆われ、鎌を二本内向きにあわせたような恐ろしい牙からは泥があふれ出し、泥からは毒のにおいがした。
「あれに掴まれるのは、避けたいところですわねー」
 距離をとりつつ、攻撃の構えをとるメリルナート。
「とはいえ、基本的な能力はデコイのそれと変わらないはず。あの毒と熱攻撃に注意して行こう!」
「防御はヨハナとリゲルさんにお任せください! ヨハナたちにはドロレス需要は無いはず。熱も毒攻撃も通用しません!」
「なんでいま俺を混ぜた……?」
「いきますよウオー!」
 両腕を振り上げた姿勢で巨大蟻地獄へ突撃するヨハナ。
 そんな彼女を援護するように、メリルナートがアブソリュートゼロの魔術を展開し始めた。
 蟻地獄を覆う急速な冷気が、砂でできた肉体から動きを奪っていく。
 ソイヤーといって蟻地獄の歯を両手でキャッチするように受け止めるヨハナ。
 蟻地獄は一息に噛み砕こうとしているが、ヨハナは子供と遊んでいるかのように『いたいたい腕がもげますー』とわめくだけだった。
 その様子からすごく余裕そうだなと判断したリゲルは戦闘姿勢を防御から攻撃にシフト。
 鎧からジェット噴射をかけると、蟻地獄の上を飛び越えるように跳躍した。
 身体に回転をかけ、輝く剣で表面装甲を削り取るように切り裂いていく。
 メルナリートの凍らせた組織にさらなる冷気の剣を走らせたことで装甲が砕け、内側の柔らかい砂へと刃が届いた。
 血をふくかのように砂を吹き上げ、蟻地獄が身体をゆする。
 まるで痛みに苦しんでいるかのようなリアクションに、レイチェルは小さく笑った。
「オマケだ。こいつも受け取りな」
 レイチェルは血の矢を作り出すと、大弓につがえて発射。
 たった一本の矢が刺さったただそれだけのことで、蟻地獄の巨体がぼこぼこと暴れるように崩れだし、悲鳴を上げて足をばたつかせ始めた。
 くわえていたヨハナを放り投げ、目的もめちゃくちゃに暴れ始める。
「おっと、効き過ぎたか?」
「どうやらそのようでございますね」
 蟻地獄からは激しく炎があがり、毒を帯びた泥が身体から吹き出し自らの肉体を破壊してしまっていた。
 幻はステッキをくるりと回すと、ライフルのように構えて蟻地獄に狙いをつけた。
 砲撃。
 貫いた幻影の弾丸が蟻地獄の肉体を更に崩壊させていく。
 蟻地獄は冷静な判断力すら失ってしまったのか、走り回りながら牙をいい加減に振り回し始める。
 その狙いがウィズィに迫ろうとした、その時。
「よそ見をするな!」
 飛び込んだサイズが攻撃を代わりに引き受けた。吹き出た血が鎖に変わっていく。蟻地獄の打ち込んだ熱も毒も、身体に残すこと無く呪いに変えて、サイズの巨大な鎖が蟻地獄へと巻き付いていく。
「生存の為の業であろうが今回は模した物が悪うござる。これもかの恋心を守る為、成敗にござる!」
 跳び蹴りを繰り出す咲耶。
 頑丈な装甲に守られた蟻地獄ではあったが、咲耶の鋭い蹴りによって砂の装甲が崩れ去り、衝撃が内側を抜けて反対側の走行を破裂させた。
 大きく傾き、地に腹をつく蟻地獄。
 このままでは死んでしまうと考えたのか、地面をひっかいて徐々に身体を沈め始めた。
「逃がすな!」
「貫け!」
 ウィズィの巨大テーブルナイフが投げ槍のフォームで投擲された。
 飛距離にして3メートル。しかし不思議な力を帯びたナイフは蟻地獄の砂装甲をバターでもきるように貫き、恐らく蟻地獄の核にあたるであろう部分を破壊した。
「――私の『ハーロヴィット』」
 投げきった姿勢で、余韻のように呟くウィズィ。
 砂となって崩れていく蟻地獄――『サンドマクラクラン』に、サッと背を向けた。
「これで、美しい物語を取り戻せたでしょうか」

●本当は知り得なかったヒミツ
 後日談、というよりナイショの話。
 イレギュラーズたちが仕事を終え、それぞれオアシス街へと帰った。
 話の流れで回らないお寿司でも食べに行くことになったらしいが、依頼の成功を喜んだ依頼人の商人貴族マシリテが自分の経営する店に招待してくれた。
「マシリテさんは食べないんですか?」
「遠慮しておくよ。オーナーがそうそう顔を出しては店によくない」
 そう言って自分へツケておく旨の特別小切手を手渡すと、マシリテは背を向けて立ち去ろうとした。
 その背に、咲耶が何気なく声をかけた。
「陽炎の精霊は、その後どうなったのでござるか」
 歩み去るマシリテの足が一瞬止まり、そしてすぐに何事も無かったように歩いて行く。
「あの物語に、これ以上は蛇足だろう?」
 背を向けたまま、手を振った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

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