PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蒼剣教導

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●イレギュラーズ、要望す
「要するに、レオンさんに稽古をつけて欲しい訳よ」
 ギルド・ローレットの執務室で今日も今日とて『ダラダラ』とした仕事ぶりを見せる『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の元を、そう言ったリア・クォーツ (p3p004937)以下八名のイレギュラーズが訪れたのはうだるような暑さの続く八月の或る日の出来事だった。
 書類から面を上げる事も無く「あん?」と応じたレオンは珍しく眼鏡をかけていた。
 羽ペンでサラサラと雑なサインを繰り返す彼は内容を確認しているのかいないのか、強烈なスピードで目の前の作業を決裁し続けている。
「だから、これからの為にね。
 イレギュラーズを待ち受ける戦いはこれから厳しさを増すばかりでしょ?
 ……正直、次も勝てるか分からない。『冠位』にしても魔種にしても、今のあたし達よりも圧倒的に強くて、危険な相手だから。
 守るべきものの為にも、譲れない事の為にもね。
 個々の力を底上げするのは必要不可欠だと思うのよ」
 リアの脳裏に『いとしいひと』の長髪が揺れた。いい匂いがした気さえする。
 唐突とも言えるタイミングで彼女が咳払いした理由は推して知るべしだ。
「それで八人も集まった訳。色っぽい理由なら歓迎するのによ」
 レオンの軽口に『自覚が無くは無い』約二名が赤面した。
 やれ戦いだ仕事だ以外でこの部屋の扉をノックするのはそうだ、それはそれですごくいいのだが、いやそうではなく今は別件で、なんだその。
「オマエ等も暑そうだねぇ」
 ……練達製の空調機の利いた執務室内は外に比して圧倒的に快適である。
 その『特権』を手放したがらないレオンはここでようやく集まった面々の顔を見回した。
「まずはリア、次にドラマ、華蓮に幻、シラスにアーリア。加えてレジーナにクロバね。
 ……驚いた。売れっ子の一線級をよくこれだけ集めたな。
 ローレットに仕事を依頼する連中が喜んでラブレターを出すメンバーじゃないの」
 レオンの言う通り、リアをはじめドラマ・ゲツク (p3p000172)、華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)、夜乃 幻 (p3p000824)、シラス (p3p004421)、アーリア・スピリッツ (p3p004400)、善と悪を敷く 天鍵の 女王 (p3p000665)。クロバ=ザ=ホロウメア (p3p000145)といった面々はローレットでも活動量が多く比較的高い戦闘力や遂行力を持つ主力級のイレギュラーズ達である。逆を言えば、今回の訓練を求めたのも彼等が一線級であるが故……とも言えるのだろうが。
 実際の所、集まった面々の『動機』は様々だったりもする。
 それは強くなりたい、という話は言うに及ばず。今の自分の全力を見せたいという想いだったり、戦う彼を間近にみたいという願望だったり、そんな彼女の為だったり、レオンに一発かまして褒められたい為だったり、運動不足を心配してだったり、爆発しろやだったり、レオンの得体の知れなさの正体を見極める為だったり……兎に角、余り統一感はない。
「オマエ等、十分強ぇだろ。俺がどうこうしなくても――」
「たまには運動した方がスッキリするんじゃない?」
 案の定渋るレオンにアーリアが笑みを浮かべて言った。
「ここは快適だけどね。外で思い切り暴れるのも楽しいわよぉ」
「オマエらしくもない」
「うふふ。そうでもないわよぉ。その証拠にこうして、ね」
 今は酔ってないし、と言うアーリアにレオンは「そういうもんかね」と肩を竦めた。
「第一、約束だったろ」
「あん?」
「俺達が強くなったら、『遊んでくれる』とか言ってたぜ」
「レオン君。時に師匠は、弟子に自ら試験を課すものです。駄目ですか?」
「……私は、えっとレオンさんの素敵な所が見たいなって思って。えへへ」
「あー……」
 シラスの指摘と上目遣いのドラマ、頬を染め夏の日差しより真っ直ぐな好意を隠さない華蓮の言葉にレオンは「失敗した」という顔をした。
 当人にも思い当たる所はあったらしく旗色の悪さは自覚しているようだ。
「……そんなら、具体的にはどうしろってのよ」
「僕達八人と模擬戦でも、と思いまして。
 何しおう『蒼剣』――レオン様ならいいハンデでしょう?」
「合法的にギルドマスターをぶん殴れるいい機会と思って、ね。
 ええ、決して八つ当たりではなくてね。ええ、決して!」
 呆れ半分に問い掛けたレオンに幻が応え、レジーナが付け加える。
「そうそう! 俺達実際『強敵』とやり合う事も多いんだ。
 仮想敵として身近で一番丁度いいだろ。付き合ってくれよ」
「俺達が勝ったら晩飯はレオンの奢りって事で、な」
 目を輝かせたシラスに続き、クロバが以前よりずっと爽やかに言った。
 流れは概ね決まっており、逃げ切れそうもないレオンは「俺にメリットねぇじゃねーか」と溜息を吐いた。吐いてから……
「……いや、まてよ。メリットは無いなら作ればいい。
 クロバに感謝だな。これが賭け事なら、オマエ達にも賭けて貰うか。
 ひとつ、オマエ達が勝っても負けてもアーリアは俺の酒に付き合う。←SSを待ってね。
 ふたつ、俺が勝ったら言いだしっぺのリアは何か色っぽい格好をする。
 みっつ、俺が勝ったらクロバが全員の飯を奢る」
「上等だ、てめえ。このやろう、ぶん殴ってやる」
「あらあらうふふ」
「よし来た、乗った」
「!?」
「……!?」
 苛烈なるリアさんの反応は置いといて。
 レオンの言葉に目を丸くしたアーリアは艶やかな笑みを浮かべ、クロバは不敵に笑う。ついでに約二名が面白い顔をした。
「あくまで余興だしな。盛り上げなきゃ話にならん。
 ……そうだな、今回は俺を『三速』まで引っ張り上げたらオマエ達の勝ちでいいよ。
 わざわざ炎天下に引っ張り出すんだ。ローのままで居させるのは勘弁してよ。そりゃ、あんまりにも眠いから」
「……上等だぜ!」
「そうですね。……レオン君にはそれ以上に付き合って貰いましょう」
 レオンの傲慢な台詞にシラスの闘志が、ドラマのやる気が燃え上がる。
(あ、今のすごくかっこいいのだわ……♪)
 華蓮は滅多に見ない彼のシビアな顔にうっとりしてるように見えないでもない。
 幻が義母の有様に「これは重症ですね」といった顔をしたが、それは兎も角。
 ひょんな事から『蒼剣教導』の話は決まった。
(見ていて下さいね、お嬢様――)
 目指す高みが遠くとも、レジーナさんは邁進するのみ。
 嗚呼、降ってわいたイベントの――今回の結末や果たして、如何に?

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 リクエストやっと来たので受けてみます。
 以下詳細。

●任務達成条件
・『蒼剣』レオンにある程度本気を出させる。

※本人曰くの『三速(サード)』に入れば合格です。

●シチュエーション
 遮蔽物無く暴れられる空地
 100メートル四方程度の空間があります。
 訓練という名目上「面倒くせぇから飛行高度で逃げるのは無しな」だそうです。

●『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ
 ギルド・ローレットのオーナーにして元(?)世界的冒険者。
 今は積極的に冒険に出る事は無く専らデスクワークの日々。
 酷い腰痛持ちだから、との事ですが真偽の程は良く分かりません。
 露悪的で昼行燈を気取る節があるので実力の底は読めない所があります。
 以下、レオンの大雑把なデータ。(推測)

・非常に高いレベルで全ての能力値が纏まっています。
・負けない戦い方を好みます。『基本的には』『対外的には』苛烈な攻め手よりあしらって読み切って完封するタイプとして知られています。

 今回使ってくるアクティブスキルは以下。

・ギガクラッシュ
・アーリーデイズ
・ブルーフェイクI(物中扇・弱点・ブレイク・停滞・呪縛)
・ブルーフェイクII(物自域・連・???・???・???)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 単にレオンと殴り合うだけのシナリオです。
 少なくとも現段階のPCよりはずっと強いので殺す気でやっても大丈夫です。
 リソースはリクエストですが、判定はハード相当で見ます。
 勝ち負け時の『賭け事』は話半分でも実行してもいいです。
 以上、頑張ってくださいませ。

  • 蒼剣教導完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年08月19日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●ギルドマスターI
 蝉の声が近く、遠く只々やかましい。
 広々とした空き地に降り注ぐ真夏の日差しを地面が無数に跳ね返す。
 蒸した空気は僅かたりとも涼やかな顔を見せる事は無く、全力で夏の風情を演出していた。
「やるとは言ったが、オマエ達、本当に酔狂だよ」
 俄かに気乗りしたらしいレオンを何とか連れ出す事に成功したイレギュラーズ八人は「あっついな」とぼやいて目を細め、襟元を仰ぐ彼を前にすっかり準備を整えていた。
「確認するけど」
「あん?」
「今回のこれ――つまり訓練は模擬戦。
 実戦の心算で本気でやる――
 こっちの勝ち筋は『あんたにある程度本気を出させる』でいいのよね?」
『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)の言う訓練こそ、今日イレギュラーズが為さねばならない『仕事』である。実際に次々目の当たりにした敵の、魔種の脅威は彼女に、イレギュラーズ達に常に危機感を与えてきたのは確かだった。
 半眼でリアを眺めるレオンの言う通り、きっとイレギュラーズは強くなったのだろう。それは確かなのだろうと思うが――そのペースが『正しい』かどうか、『間に合っている』かどうかは、きっとこのリアのみならずとも気にせずにはいられない事だったのだろう。
「まぁ、それでいいけど。約束は忘れんなよ」
「……は」
「勝っても負けてもアーリアは一杯付き合う。負けたらクロバは飯を奢る。
 リアは取り敢えず色っぽい格好をする」
「あらぁ、お酒ならいつでも大歓迎よぉ。
 それじゃあ、勝った方が奢りってことでどうかしらぁ?
 それなら、約二名には悪いけど――レオンくんの奢り、頂くわぁ」
「おいおい、流れ弾だぞ。勘弁してくれ!」
 鈴が鳴るように笑った『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の言葉を良く良く聞けば「負けてもいい」に相当する。冗句めいたアーリアは幾分か余裕めいていて、お手上げだぜと仰々しく肩を竦めてみせた『黒のガンブレイダー』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)にも「うふふ」と艶然とした笑みを見せていた。
「勝っても負けても色っぽい格好するで」
「条件変えんな! 二度言うな! マジでぶちのめす!
 本気出させるとか、そういうのやっぱいい! 絶対にあんたぶちのめす!」
 ……一方で頬をカッと紅潮させ(※怒り)俄かに殺気立ったリアの愉快さは分かり易く愛おしい。遊ばれていて愛おしい。
 とは言え、当のレオンがどれだけ不真面目だったとしても。
 イレギュラーズにとって今日という好機が伊達や酔狂でないのもまた確かであった。

 ――大切な何かを守る為には力が要る――

 古今東西、全ての物語で手垢のついた有り触れた言葉だが、それが故に真実だ。
 己が力を試し、磨く砥石にする相手として『蒼剣』は余りにも相応しい。
 リアの瞼の裏に居るのは家族か、愛しい人か。何れにせよ今日は彼女の決意めいた表明である事も確かであった。そしてこの機会は彼女だけのものではない。
「まぁ、強くなりたいというのは事実よ。
 超えたい相手もいる……
 ギルドマスターと彼の赤犬は同等の強さと聞くし、その指標にもなるでしょう」
「何よりその女性関係にちょっと思うことあるから爆発させたい」。そんな言葉の後半は敢えて言わずに。咳払いした『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が生真面目な顔をした。彼女が本当に相手にしたいのは実を言えばレオンではなくその赤犬の方なのだが――どうしてか。赤犬への対抗意識というか、倒さねばならぬという決意というか……レジーナの脳裏に愛しい愛しい蒼薔薇の蠱惑的な笑みが過ぎる程に。避けては通れぬ実力の研磨という現実を思い知るばかりなのである。
 蒼薔薇を積むには恋愛力が必要だ。神秘も、物理も。
 一方でレジーナが「爆発させたい」と思う理由の一端かも知れない連中も居る。
「ああ……戦う前から既に格好良いのだわ♪
 後は戦う姿を! 絶対格好良い……目に焼き付けないと……!
 その為にも……全力で戦ってレオンさんのギアを上げるのだわ!!!」
「……そうですね。ええ、そうですとも。これは本気を出さねばいけませんね」
 大きな碧眼を極上の宝石のように輝かせた『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)に、生温い笑みを見せているのは『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)だった。
(華蓮お義母様もあのように軽薄で誰にでも色目を使う方などに夢中になるだなんて。
 これは何としてもレオン様のカッコ悪いところを見せて、華蓮お義母様には正気に戻って頂きませんと。
 第一、男の方は一途で一人の方を大切に思ってくれる方がいいのです)

 ――例えば、あの方のように。

 ぼっと色白な顔を真っ赤にした幻に華蓮が「んー?」と小首を傾げた。
 中々に姦しいやり取りだが、事情は様々悲喜もこもごもそれは間違いない。
(――レオン君に師事して暫くの時が経ちましたが、まだまだ至らぬ点ばかり。
 きっと、私には剣の才能はありません。ないのでしょう)
 見慣れたやり取りを眺め、溜息。内心だけでそう呟いた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)にとっては確かな好機に加え『レオンがレオンであるからこそ意味がある』。
 だから、でも。
「僅かでも成長しているトコロを――折角のこんな機会です。
 今の私に出せる全てを、存分に味わって頂きましょう!」
 騒ぐリアをかわすレオンは気を吐いた彼女に「ヤル気じゃん」と軽く笑う。
 ドラマが為すべきは『教えてくれた彼の為にも、自分の成長を見せる事』である。
 最大最高の一太刀を『師匠』に贈る――良いではないか?
(他意はありません。まったくそんなものありませんけど――)
 日頃平素から積み重ねられた意地悪の数々とか、つい一昨日も華蓮さんを誘って帰った事とか、そういう個人的事情は全く影響していません。叡智の捕食者――自己分析出来るドラマさんはかしこいので!
「あんたも大変だね、色男」
「分かってくれるか、店は取ってあるからな」
「もう勝った気かよ。お前、あんまり舐めんなよ」
 首をコキコキと鳴らして足場の砂を払ったレオンの空気が変わった事を鋭敏に察し、クロバはそれ以上に――幾ばくかの獰猛さをその笑みに乗せていた。
「この日を待ってたんだ、いよいよ燃えるぜ」
『夜闘ノ拳星』シラス(p3p004421)が見上げるのは青い陽炎。
 熱気に浮かぶ剣士が抜いた青い刀身の輝きは彼に瘧のような震え、興奮を与えている。
「その気がなくても『上げ』て貰うぜ。
 無理矢理にでも、三速以上にでも――」
 シラスはにっと笑って構えを取った。
「――それこそがローレットへの恩返しって、な!」

●ギルドマスターII
 八人揃ったイレギュラーズの手管は様々である。
「そんな訳で少し付き合ってもらおうか――ちょっとばかり、本気になって貰う為に!」
 まず攻撃的な前衛として存在感を示すのはクロバ。十分な命中とクリティカルを軸に爆発的な攻め手を持つ彼の切っ先の鋭さは改めて説明するまでもない。特に格上を『食おうとする』ならば瞬ノ太刀・葉風、その技の冴えはより大きなチャンスになるだろう。
「八対一だぜ! スカしてんじゃねぇぞ!」
 次に今日は防御的な前衛としての役割を持つシラスが居る。クロバとは対照的に徹底して殺したファンブルは彼の崩されにくさを示し、同時に展開される零域によるステータスの暴力は攻撃的とは言えない今日の彼の烙印さえも機能させよう。
「負ける理由は考えといた? 天鍵の女王が赤犬の前に先ずは汝(あなた)を下すわ」
 レオンの動きを阻害し、近接戦もこなす――謂わば中衛に立つのはレジーナだ。受けにはそう優れないが高い火力を持つ彼女はアデプトアクションの対応力をもって戦いに楔を打つ事になるだろうか。また受けに弱いと言っても彼女は十分なHPを備えている。
「当てること、はちょっと得意なの。あんまり無茶し過ぎると、腰に毒よぉ?」
 同中衛。中距離のレンジを意識して酒精を謳い、酒精を呪うのは言わずと知れた月呑み――アーリアである。かの続・死牡丹遊戯でも猛威を振るうに振るったというローレットきっての搦め手上手は相手がレオンであったとしても勝利呼ぶファム・ファタル足り得よう。
「レオンさん、ごめんなさいね! 今日は本気で行くのだわ!」
 戦場の中心に立つ二人のヒーラーの内の一人が華蓮である。超分析、天使の歌、ミリアド・ハーモニクス――イレギュラーズの有する代表的な回復手段を揃えた彼女は同時に高い自衛能力とルバイヤードとしてのバッファー性質をも持ち併せている。謂わば倒されない要である彼女と彼女の支援を容易く突破する事は誰にも難しいかも知れない。
「よしきた。覚悟しろ。あたしは後で蹴るから大丈夫!」
 更にはリア。今日はバッファーを譲り、純ヒーラーとしての立ち位置を取った彼女(アルシュ・アンジュ)はキュアイービルとスーパーアンコールを備え、華蓮と共にパーティを下支えする。友愛のアダージョと慈愛のカルマートは勝利の凱歌となるだろうか。
(華蓮お義母様は僕の初めての家族ですから負けるわけにはいきません!
 レオン様の腰が逝ってしまって、カッコ悪い姿を晒しますように!)
 後衛の位置より夢幻泡影を紡ぐのは幻だ。高い機動力と連続性を武器にする奇術師は、変幻自在の術をもって敵を翻弄せんとする毒花の如くである。彼女の幻に飲まれれば敵は恍惚の侭に無様を晒す機会もあろう。まぁ、彼女の望みこそそれなのだが。
「見てて下さいね、レオン君!」
 最後に。後衛にもう一人――純火力と呼ぶべきであろうドラマが居る。今日、この時の為に――師匠に一発ぶちかますその為に――剣魔一体を仕上げた彼女の攻撃力はこの場の誰もが届かない圧倒の域にある。幾多の戦いで敵を薙いだ嵐の王、今の彼女を彼女たらしめる蒼魔剣、この日の為のブルーフェイス。ドラマ・ゲツクは本気である。
「いやぁ、隙のない連中だね」
 呆れ半分、感心半分のレオンが言う通り。
 今日ここに集まった八人はそれぞれの役割を背負った八人である。
 ローレットのイレギュラーズとしてもトップクラスに位置する面々は間違いない強敵であろうレオンに対抗する為に『それ相応』の陣容を整えていた。取るべき作戦は無論、前衛が食い止め、中衛が遊撃し、後衛が支え、叩く――極めてオーソドックスなものである。
 しかし。
「じゃあ、行くか」
「――――」
 気軽に言って地面を蹴ったレオンはその『当然の予定』を許さない。
 八人の強力なイレギュラーズに好きなようにやらせてはたまらないとばかりに。彼は誰よりも早く先手を取る。奇しくもシラスの言った『八対一』はレオンにとって過小評価足り得なかったのだろう。
 面倒な相手等構っていられるかとばかりに余人を置き去りにしたレオンが真っ直ぐ踏み込んだ先は、目を大きく見開いたドラマだった。
「よう、お姫様。御機嫌麗しゅう、かね?」
「……っ、お陰様で……!」
 高く金属が啼く。
 咄嗟に抜いたリトルブルーが極あっさりと跳ね上げられた。
 刹那に繰り出された蒼剣は二連。元より受けられよう筈も無いドラマは、早晩動きを縛られ、激しく傷む。
 崩れかかった彼女の腰を抱き、顔をぐっと近付けて。
「良く出来ました」
「……っ、あ、っくっ……」
 ダメージかそれ以外かは定かではないが、ドラマが呻く。軽口を叩くレオンの剣が一撃でドラマを沈めなかったのは彼女が最低限の耐久を備えていたからに他ならない。
「ドラマさんっ……!」
「――意外と本気じゃないの!」
 声を上げた華蓮とリアがすかさず崩れかかったドラマを救援した。
 リアの言う通りレオンは『思ったよりも実戦的』に初手を仕掛けたと言えるだろう。
 高い能力で纏まったパーティに足りないものがあるとしたらば、先手を取る壁位のもの。初手で最も攻撃力が高く、最も脆いドラマを叩くのは理に適っていた。
 とは言え、レオンにとっては喜ぶべきか、悲しむべきか。
 一撃で倒れなかった以上は、華蓮とリアの力が生きる。
 二人の力が合わされば、大抵の苦境は消え去るものだ。
 また、当然ながら『袖にされて』黙っている前衛達では無い。
「おいおい。後回しにされちゃ剣士の名乗れ、なんだがな?」
「面倒って思われたって誇っとけよ」
「ああ、そりゃ、どうも!」
 いきなり乱戦めいた状況を作り上げたレオンにクロバが打ちかかる。
 ドラマを離して身を翻したレオンは彼の猛攻をさばきにかかった。
「突然愚痴にはなるけどな。
 俺に剣の才なんてない、それに貴方に英雄だなんていわれるほど強くもない」
「どうだかな」
 攻めかかるクロバとレオンの刃が噛み合う。
「読みやすいだろ、俺の剣は。よく言われたよ――だけども俺に出来るのは唯一、単純にこの刃を届かせる為に足掻くことだけ!!」
 レオンはクロバの言葉に苦笑する。愚直さが無いとは言わない。しかしもう半分は呪いにも似た謙遜である。『凡庸たる自分が嫌いなのは別に彼に限った事ではない』。
 二刀による高速の斬撃は刃の風。頬に一筋走った刀傷にレオンは笑う。
「生憎、汝(あなた)を女の子に近付けさせたくないの。
 火傷しそうな娘を見過ごすなんて出来ないでしょ?」
「別に相手はオマエでもいいんだぜ」
 レオンの相手は一人では無理だ。すかさずブロックに入ったレジーナにレオンが言う。
「冗談を。我(わたし)が欲するのは何時も」
「一人だけ、だよなぁ。いい趣味してるから」
「お嬢様へのその無礼――きっと後悔させてあげる!」
 何時もよりは幾ばくか獰猛に笑ったレオンにレジーナが声を上げる。
「ギア上げろって、『さっきの』じゃ俺は抜けねえぞ!」
 同様に回り込み、レオンの自由を阻まんとしたシラスが笑って言った。
 テンションは高まりに高まっていた。強敵を、その技を、間近で目の当たりにするこの瞬間に歓喜していた。少年の弱気は何処かへ消え失せ、澄み渡る程に澄み渡った思考は緒戦に見たレオンの実力と自分達の戦力を冷静に見極めんとしていた。
(次を残してるのはレオンだけじゃあない。俺にだってある。
 修羅場を越えてきたのはレオンだけじゃあない。俺達だって――)
 充実する気力は彼に無限の力を与えるようだ。
「駄目よ、レオンくん。女の子はもっと大事に扱わないと」
 嗜めるように言ったアーリアが、その白い指がなぞった先が断裂した。
『月の裏側』を魅せる悪酔のプリヴォルヴァは美しい女が奏でる最悪の好意に違いない。
「成る程、オマエを叩くべきだったかもな」
 極めて高い抵抗からか受けたのは精々ダメージまでか。
 されどさしものレオンもこれには少し参ったらしく口元には苦笑いが浮いていた。
 攻め手はここから。パーティは当然の如く畳み掛ける。
(ゲツク様のブルーフェイスさえ決まったなら――)
 薄い勝ち筋を厚く、太く変える事こそ、奇術であり、幻術である。
 十分な距離を取る事に成功した幻は夢幻泡影を以ってレオンを包む。彼女にも幻を切り払う彼が『何を望んでいるか』は知れないが――

 其は荒れ狂う暴風
 其は駆け抜ける雷鳴
 其は吹き荒ぶ滂沱の化身
 今、我が前に顕現し、有象無象を打ち滅ぼせ
 其の名は『嵐の王』!

 ――ドラマの火砲が火を噴けば、戦いはまだこれからだ。

●ギルドマスターIII
(どこまで通じるか、何秒立っていられるか、そんなこと今はどうでもいい――)
 上がる呼吸に、傷む身体とは裏腹にシラスはあくまで高揚していた。
 一撃、一撃を分析し、喰らっても倒れない負傷に収まる最小の防御行動を取る事。
 次の瞬間には追撃に備えて構えを戻す事。一つのミスも許されない刹那の連続は限界を振り絞る彼に、続ける程に力を与えているかのようだった。
「まだまだこれから……っ! いい? 絶対負けないわよ!」
「ふふ。そうなのだわ。レオンさんには悪いけど、今日は――」
 無論、そんなシラスの戦いを引き戻すのは気を吐いたリアであり、華蓮である。
 二人のヒーラーは強力に機能し続けている。時に自身の防御力を頼みダメージコントロールにすら出る華蓮の対応力は素晴らしく短く長い戦いを強烈に支えていた。
 一方でクロバの健闘も光っていた。
「飄々としてたってなんとなく分かるさ。
 その強さの裏にアンタは何か大きなものを隠してる!
 だからこそ――そんなところが正直憎らしい程に嫌いだってな」
 クロバの隠し玉――
「どうだッ!」
 ――ディバイン・ディバイドが閃けばレオンは後退を余儀なくされた。
「天鍵の権能とは飽くなき人の闘争の具現。ならばそれを制す術もまたあるものよ。
 予測できるかしら――臓物(うち)より出でる刃の嵐を!」
 奇襲めいた刃の瀑布は彼女が愛する蒼薔薇の嗜みにも似て。
 レジーナのそんな剣魔の閃きがレオンの防御を破った瞬間もある。
「これでも逃げ切れるでしょうか? いえ、逃しませんよ」
 幻の追撃は執拗であり、
「言ったでしょ。当てること、はちょっと得意だって」
 悪戯気なウィンクに乗せられたアーリアの言葉は『ちょっと』の域を超えていた。
 幾つもの攻防があった。パーティはやれるだけはやった。だが、それでも。



「あらあら、負けちゃったかしらぁ」
「……ったく」
「いやもう無理、こいつやっぱバケモンだわ……」
 大きく息を吐いたアーリアが、舌を打ったクロバが、座り込んだリアが遂に根を上げていた。
 周りを見れば誰も彼も似たような状況だ。パーティは良く戦ったが余力の方が先に尽きていた。成る程、レオンの戦い方は極めて防御的であり、『効率的である事を意識した華蓮以上に余力を削り続ける事に効率的』であった。
「……ねぇ。あたし達見て、ちょっとはあんたも安心した?」
「なあ、なあ――実際、俺どうだった?」
 リアが、大の字になったシラスが剣を収めたレオンに問う。
「……少しはレオン君の力になれるってところ、見せられたでしょうか?」
 渾身のブルーフェイスが彼の影を撃ち抜いた時、彼はきっと満足そうだった。
 ドラマは今一度彼が接近した時、交わした蒼魔剣の一閃を思い出していた。

 ――今の私の全て、受け取って頂けますか?

 二人だけの距離で睦言のように呟けば彼は、彼は――
「――十分だよ」
 誰にと言うよりは全員にそう言ったレオンは何とも言えない表情を浮かべていた。
 複雑そうな、何かの憂いを秘めた――
「……レオンさん……」
 華蓮がは、とした顔をした。
 彼の悲しげな様子に同じ憂いを帯びた彼女は美しい眉根を寄せる。
「あたし達はこれからも命かけてあんたの剣になってやるのよ。
 だからさ、何を考えてるか知らないけど時々辛気臭い旋律奏でんの辞めてよね。
 ……しゃんとしないと付いてかないわよ、マスター!」
 何があったかは知れなかったが人が良いリアは少しだけ罰が悪そうに、彼を激励するようにそう言った。視線を逸らし、そりゃあ気に入らない事も多い男だけれど!
「まぁ、俺の勝ちだからオマエは色っぽい格好ね」
「は? 三速出さなかった訳!?」
「2・9速だからセーフ。色っぽい格好ね」
「はああああああああ!? てか今の旋律は何だったのよ!?」
「腰が痛かった。腰が。もう一歩も動けん」
「よし、避けるな。いいか、そこにいろよ!」
 そしてリアは宙を舞い、シスターのドロップキックが絵になった。
「……華蓮お義母様。本当にあの人が?」
「えへへ。レオンさんらしいのだわ! あ、後でお世話をしてあげないと!」
「……そうですか。ええ、そうですか……」
 心底疲れたように幻は溜息を吐いて、世は全て事も無し。
 これが蒼剣教導の一幕だった――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 YAMIDEITEIっす。

 あー、惜しい。惜しいなあ!
 2・9速なので負けですが、シナリオは成功にしておきます。
 なんでだって? クロバ君、打ち上げの代金宜しくね。
 リアさん、色っぽい格好宜しくお願いします。

 折角なので称号ばら撒いておきました。
 シナリオ、お疲れ様でした。

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