シナリオ詳細
<冥刻のエクリプス>逃げし魂は月夜に踊るか
オープニング
●冥府への切符
「これはそう難しくない……少なくとも、魔種と戦うよりは難易度の低い仕事だ。勿論手を抜いたら失敗するし、自らにも仲間にも危険が及ぶ。
そして、これは今出されているどの仕事にも言えるが──最悪の場合、天義が陥落する」
そう説明しながら『黒猫の』ショウ(p3n000005)は数枚へ写した羊皮紙をイレギュラーズに配る。1枚を全員で見るには人数が多すぎるが、かといって人数分写すには労力がかかりすぎる故に。
「今回行ってもらう先は、冥府だ」
冥府、死んだら向かう場所。罪と罰の天秤へと導く川がある場所。そこへ向かえと言われれば少なからずの動揺も見られる。
まず資料を読んでほしい、というショウの言葉にイレギュラーズは視線を向けた。沈黙、暫し。ふと1人から訝しげな声が上がる。
「……『マーレボルジェの聖遺物』?」
「それが今回の作戦に必要なアイテムさ。冥府へ行って、帰ってくるためのね」
本来、冥府に辿り着けば戻ることは叶わない。死者が生き返らないのと同じように。そして生者は"招かれざる者"であり、そもそも冥府へ辿り着けない。
だがマーレボルジェの聖遺物を用いれば、生者も冥府へ足を踏み入れることが可能である。永続的な効果はないが、この仕事の間だけ入ることが出来れば良いのだ。
「それだけだと帰ってこられないんだけどね。このアイテムには加護がある。幻想教会から天義へ持ち込んだことで得た、"人々の祈り"ってやつさ」
思いは形にならねど、確かに存在する。聖遺物を守ったのは強い信仰心だ。
さて、それではその聖遺物を使って──冥府へ向かって何をするのか。
「ミッドナイト・ブルーに魂を留め置くの」
そう告げたのは──いつからそこにいたのだろうか。『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はイレギュラーズを見渡し、口を開いた。
冥府に流れるレテの川。流れていくランタンには魂が収められ、その命を燃やしている──そう言われている。
「魔種といっても、真っさらなスノー・ホワイトから色彩は紡げないわ。月光人形を作る時には核となる魂を込めているのでしょうね」
ならばその魂はどこから持ってくるのか。これは問うまでもなく、初期から流れていた噂に答えが示されている。
──黄泉返り。
死者の魂を戻し、傀儡を作る。それは今も行われ、月光人形を増やしていることだろう。
「皆には冥府へ行ってもらって、そこで現世へ戻ろうとする魂を止めてもらいたいの」
核がなければ月光人形は生み出されない。現世での増加を抑えられるはずだとプルーは告げる。
「ああでも、気をつけてくれ。魔種によって連れ戻されようとする魂は少なからず抵抗するはずだ。それに、冥府なんて場所には番人がいるものだからね」
御伽噺に出てくるそれらは、大概が化け物のような風体をしている。魂を導く者、亡者を罰する者、役割は様々だが──生者が歓迎されるとは考え難い。
「……なんて言ってはいるけど、冥府の情報なんて全然ないんだよね。俺もプルーも行ったことないからさ」
肩を竦めるショウ。しかし、それは当然のことだ。彼らは生者であり、たとえ情報屋だとしても死を越えた先までは調べられない。
「だから、伝えられるのはウィステリア・ミストな言葉ばかりになってしまうわ。参考になるかわからないけれど、無いよりは──」
「──ふむ? 勇者たちが駒を進めるは冥府か」
プルーの言葉に被さって、見知らぬ女の声がした。──いや、とある者は知った声かもしれないが。
ローレットの入り口に、2つの影がある。1つは左目に眼帯をつけた女。1つは神父らしき姿をした男。
イレギュラーズや情報屋の反応に、女の瞳が細まる。
「なに、敵ではない。妾たちもこのゲームに参加しようというだけよ。そうだろう? エドアルド」
女に同意を求められた男──エドアルド・カヴァッツァは穏やかな笑みを崩さず「ええ」と頷いた。
「ゲーム……?」
勇者(イレギュラーズ)から漏れた呟きに、女は一層笑みを深めて。
「そう、ゲームよ。世界は盤上、妾たちは須らく駒だ。妾たちはな、その盤上を狂わせに来たのだよ」
駒だと言いながら、彼女らはどこに属してもいない。常に面白い方へ。常に楽しくなれる一手を指すように。
そうして引っ掻き回してできた混沌は大いに女を楽しませることだろう。それがイレギュラーズと魔種、双方にとってどんな状況となるのかまでは興味の対象ではないが。
「まあ、人数が増えるっていうのなら有難いね。勿論、変なことはしないでもらいたいけれど」
「無論だ」
頷く女の隣でエドアルドも微笑みを返す。その目が笑っていないことに──そして誰かを探すように動いていることに、『探されている本人』なら気付けるかもしれない。そんな小さな昏さを秘めて。
「妾はサマエル。『ウィーティス』の教祖を務めている者だ」
よろしく頼むぞ──サマエルはにぃと、口元を楽しげに歪めた。
●冥府
それは、死んだら行くべき場所とされている。
それは、川が流れている場所とされている。
それは、罪を裁かれる場所とされている。
それは、罰を背負う場所とされている。
こちらは此岸。あちらは彼岸。
記憶の川を流れるは命の炎。裁きの時を待つ魂。
ただ、ただ、静かに。罪と罰の天秤へ導かれるのを待っているのだ──そう、本来ならば。
──それは、狂気を伝播させる傀儡。
──それは、誰かの大切なヒト。
──それは、冥府へ渡ったはずの魂。
キィ、とランタンの扉が開く音。燃えていた命の炎はふわりと浮いて、此岸へと向かい始めた。
嗚呼、嗚呼、呼ばれている。
『帰りたい』
『行きたくない』
『おかあさん』
『帰りたくない』
望む者も、望まぬ者も。何かに引かれるように、ランタンから抜け出して。
おいで、おいでと──手招かれているように。
●黄昏時
マーレボルジェの聖遺物によって、冥府を訪れたイレギュラーズたちは思わず空を見上げた。それはまるで、ここが冥府であるということを一瞬忘れてしまったかのように。
──いいや、実際に忘れてしまっていたかもしれない。だってそこには、見事な夕焼け空が浮かんでいたのだから。
どういうことだと困惑の声が上がる。周りを見渡せばその視界には大きな川が写った。
「これがレテの川……」
目を凝らした『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は、川岸にぼんやりとした人影を認めた。それはふらりふらりと危なげな足取りでこちらへ向かってきており──夕焼けが、透けて見えた。
咄嗟に攻撃を打ち出せば、人影が川の方へとよろける。強くはない。けれど、一撃で戻ってくれるほど柔くもない。
「番人も来たようだ」
苛烈な炎が揺れる。『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は真っ直ぐに、冥府の番人と思しき化け物を見据えていた。加勢に入ろうとしたシャルルは、しかし川から次々と現れる人影に瞳を眇める。先ほどの人影と、さらにその周囲の人影はシャルルへ狙いを定めているような気がした。
夕暮れ時。
黄昏時。
誰そ彼時。
今、この瞬間は生者と死者が混じり合う、長く短いひと時だ。
- <冥刻のエクリプス>逃げし魂は月夜に踊るか完了
- GM名愁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月10日 23時15分
- 参加人数50/50人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
リジェネレートをかけたMeltingは番人の前へと立つ。
「Loveはみんなを愛するの」
愛するから守る。
「Loveからは逃げられないの」
立ちはだかって逃がさない。
Meltingへ苛立ったように牙が食い込むが、その傷は徐々に回復して。そして受けた分からいくらかなダメージが番人にも跳ね返る。
Meltingが粘れば粘るほど、他のイレギュラーズが長く戦うことができる。どれだけ粘り強く戦えるか──それがMeltingの戦いだ。
(天義。天義。神と正義の国かそれを守る為に戦う闇の騎士……悪くないジョークだ)
黒騎士が目の前に見据えるは冥府の番人。髑髏のような兜を被った騎士は黒き剣を構える。自らが長期戦に向かぬことは知っている、ならば──。
「──最初から全力だ」
肉薄し、叩き込まれる剣魔双撃。守りを考えぬそれは後のことも考えぬ戦い方。けれど。
(独りならば後が続かぬ。しかし他にも戦う……『仲間』が居るならば憂いは無い)
どことなく新鮮な思いを胸に、黒騎士はひたすら剣を振るい続ける。彼の後方から、畳み掛けるようにフロストチェインが番人を襲った。
(私は、できること、すくない、けど……)
だからこそ沙雪は思うのだ。今は誰かの役に立ちたい、と。
ひと度では捕らえられぬ相手も、度重なれば余裕は確実に削れていく。
「うごけなくして、あげるから。すきには、させない……!」
やがてぱき、という音と共に氷が番人へと纏わり付いた。その姿を見て──そして仲間たちが霊魂を押し戻している声に、ぽつりと言葉が零れた。
「くるもの、こばむなら。ゆくもの、こばむのも、番人の、おしごとなのに」
そこへ番人の羽を雁字搦めにするかの如くマジックロープが飛来する。津々流は「ごめんね」と小さく呟いて。
「ちょっと悪いけど、番人さんたちには少しの間大人しくしていてもらわないとねえ」
霊魂たちには現世へ還らず、ここで安らかに過ごし続けて貰わねばならない。その邪魔をするのなら、こちらも仕掛けていくだけだ。
どのような攻撃なら仲間たちが上手く立ち回れるか。それを考えながら攻撃方法を変える津々流は、やはり考えずにはいられない──まさか生きているうちに冥府を訪れることが出来るなんて、と。
それはヨタカも同じこと。そしてあの川の中に、あるいは輪郭として浮かび上がっている中に亡き母が居るのではと、探してしまいそうになる自身も自覚していて。
これではいけない、とヨタカは小さく頭を振り、再び霊魂を視界へと収めたその瞳に剣呑の色を乗せた。
亡くなった者が彼岸から蘇るなど、理に背かれる事象だ。決してあってはならない。
「傾く天秤……何方かの皿が沈む前に……水平に戻す……」
顕現させしは怨霊。それが番人を執拗に狙い始める。同時に向けられるは封印を施す攻撃。
「すまない。キミ達にとって外敵はボク達の方だ」
ピューピルシールを番人へと向けながら、マテリアは淡々と告げる。
「しかし、キミ達番人は彼らを還す事は出来ない。悪いが仕事の為だ、少しの間だけ大人しくなってもらおう」
麻痺は津々流によって付与されている。ならば封印をかけ、戦況を有利に運ぶべきだ。
薄く足元を浮かせ、ピューピルシールを放ち続けるマテリアに番人の目が向く。がばり、と開いた口からはマテリアに向けて闇色の玉が吐き出されて。
「大変な戦闘になりそうですが、今の私に出来る限りの事をさせていただきますね」
ディアナはハイ・ヒールでマテリアを回復し、他の者へも目を向ける。余裕がある時には攻撃も向けるが、全員で生きて帰るためにも重視するは回復。だからこそ自らも──倒れる訳にはいかない。
「まさか生きながらにしてこんなところに来ることになるとはね……」
「あたしもここであの世を見ることになるなんて思ってなかったのよさ、ミシャ」
ミシャとリルカは帰ったら飲もう、と約束して。
「──ぶった斬るだわさ!」
肉薄したリルカが魔力撃を叩きつける。振り回された爪に血が舞うが、すかさず後方からミシャのライトヒールが飛んできて。
「ちょっと番人さん、確かにあたしたちはここにいるべきじゃないけど。それよりどんどん現世へ戻ろうとしてる魂たちはいいのかしら?」
リルカの問いに番人は答えない。答える術を持たないのか、それとも。
けれど、それが問題であるとイレギュラーズは皆思っている。
(たしかに私たちはここに来るべき者じゃないわ。でもこの魂たちも現世に来てはいけない)
なんとしても、こちら(彼岸)で押し留めねば。
イレギュラーズたちへの敵意変わらぬ番人に、2人もまた戦闘態勢を崩さない。
(世界の危機なんぞで進んで動く性格じゃない癖に──)
「よりによって最前線とか……えぇいこの蛇は!」
「おや」
現れた旧知に、サマエルは楽しげに笑って見せて。ルーキスの傍らで威嚇するように睨みつけるルナールの姿も見れば、それは一層深くなる。
「……ルーキスは俺のだからな!」
「おにーちゃんが愉快なことに」
『動物の本能ってやつだろひひひ!』
マリスとテラがルーキスへ視線を向け、威嚇された蛇はひらりと手を振る。サマエルは「左目」とルーキスを呼んだ。
「──言いたいことが山ほどある顔だな?」
「あるけど後回し。今は番人の排除が先だ」
視線を番人へと向けるルーキス。サマエルは視線を彼女の後ろへと送って。
「妾を含めて5つの駒。さあ、どう動かす」
どこにあっても、サマエルにとってはゲームの盤上。ルーキスは彼女とルナールに攻撃手を任せる。
「マリスとテラは火力支援。鈴音ちゃんは回復支援、問題なし?」
「ルーキスさん、問題ありませんの!」
猫耳をぴこーんっ、と立てて頷いた鈴音。補給品などない以上、いつものように要は彼女だ。
さあ、遊戯に止まっている暇はない。
「こっちは抜け出してる魂を叩き返したいだけなのにねぇ。なんとも、見合わない重労働だこと!」
放たれるブラックドッグ。追いかけるようにマリス・テラが肉薄し、剣魔双撃を叩き込む。
「おお頑丈」
『手が痺れてきそうかぁ?』
「戦闘用兵器は伊達じゃねーのです、邪魔する奴はどれだー」
重なる攻撃に番人がマリス・テラへと牙を剥く。回復の申請をされた鈴音は出番だ、と言うように猫耳を揺らして。
「いたいのいたいのとんでいけー、ですにゃ!」
鈴音が彼女を治せば、あとはやることに何ら変わりはなく。ただ番人へ攻撃を浴びせればいい。
多方向からの攻撃に番人がぐるりと見渡し──それでも抑え役がいる限り、進めはしないのだが──その口を大きく開く。ルーキスの前方にいたルナールは咄嗟に彼女を庇った。すかさず鈴音のヒールがかかり、ルナールは槍をしっかりと構える。
「頑張りはするけど、無理はしないでねルナール先生」
その肩越しに声をかけたルーキスは、サマエルの戦う姿を見ながら小さく息をついた。
嗚呼、あの蛇がいなければこっちには来なかっただろう。
(流石に前線周りは慣れないとキツイなぁ)
だが、ここで盤上を降りる訳にも──降ろされる訳にもいかないのだ。
(願わくば、ボク達は目的を果たして堂々と凱旋したいわね……)
神話のようだ、と蛍は思いながら視線を番人へ向ける。
「珠緒さん、よろしくね。珠緒さんの支えがあれば、安心していくらでも頑張れるわ!」
「はい。盾となってくださる蛍さんをはじめ、誰も彼岸に渡さぬように致しましょう」
互いに視線を交わして、──そして、動き出す。
「番人なら、生死の境を侵しかけてるあの魂達こそ何とかしなさいよね! もう!」
番人の注意を引いた蛍の周囲を頁が舞い上がる。振り下ろされた爪に、珠緒がすかさず回復を施して。
(盾役と回復役を組として、攻撃役は可能な限り1体ずつ落とせるよう)
珠緒は見える限りの仲間へハイテレパスで状況伝達をし、偏った編成があればバランスが良くなるよう指示を出す。
「すずきさん、こじまさん」
珠緒の言葉に了解したと言わんばかりのロボットたち。見えぬ場所で戦う仲間への伝令へと走っていった。
蛍と珠緒の相対する番人に対しても、珠緒のハイテレパスによって仲間が増えてくる。
(珠緒さんが頑張ってる。ボクも盾役として踏ん張らないとね!)
蛍は防御の姿勢を崩さず、そして他へ注意を引かれぬよう再び声を上げた。
そんな蛍へ綻紲ノ鎹を施した絆楔は珠緒とともに回復手として立ち回る。瞑想を途中に挟みながら、視線をつと番人へ向けて。
「……道理ではない手段でわたくし共がここにいることは重々承知。ですが、黄泉帰りがそも道理を外しているのです」
花は枯れ、命は終わり、次代を繋ぐ。それが世界の理だ。その理よりはみ出ようとする霊魂たちを裁かないとは──番人の名が聞いて呆れるというもの。
「ですから、わたくしは誰ひとり欠けさせずにこの場を凌ぎます。
微力と笑わば笑え、わたくしは彼岸と此岸の鎹となる者として、不条理に楔を切りに来たのだ!」
啖呵を切った絆楔の瞳が苛烈に煌めいた。
そこへ踏み込んだゴドフリートの一刀両断が、番人の皮膚を傷つける。間合いを取ったゴドフリートはちらりと川を見やった──首はないので、そういった仕草をした、だが。
(生前より吾輩も混沌世界に居たとしたら、この川を渡っていたのであろうか)
今のままという可能性もある。けれどもしかしたら、とっくにランタンの住人となっていたのかもしれない。
「──さて戦である。死合おうか、番人殿」
ゴドフリートは再び武器を構えた。
(番人ねぇ……ふーん……)
リリーは背後から奇襲しようと忍び足──だが、川へたどり着く前に足を止めた。
あちらはどこからも霊魂が上がってきている。さりとて、霊魂のいない場所といえば遥か遠方だ。
それならと、なるべく迂回する形で背後へ回ったリリーは思いっきりバールを振りかぶった。
飛んでいくバール。痛い音が響き、けれど蛍へ注意を奪われている番人がリリーを向くことはない。
「あのさぁ……番人ならさ、魂が出て行くの何ボーっと見てんのさ……仕事やる気あんの……?」
そこへ何も反応がないのは、元々人の言葉を解さないのか、それとも。
けれどもリリーには関係ない。仕事放棄の時点でギルティである。
リュカシスのファミリアーが空を舞う。それを見届け、彼は周囲を見回した。
(川向こうに足を踏み入れないよう、堅く気をつけましょう)
戦場が未知の土地であることはいつもと変わらない。けれどいつも以上に慎重さが必要だろう。
そんな彼がバウンティフィアーと共に込めるのは、天義の民に貰った《ひとひら》の気持ち。それを胸に──誰1人とて、欠けさせはしない。
番人が暴れ、周りを朱へ染めんと牙を剥く。ルサルカは移動を繰り返しながら前衛をライトヒールで癒していた。
(今の私は無力に等しい存在。でもね──無力は無力なりの魅せ所があるって教えてあげるわ)
魔力の底が見えてきている味方には緑の抱擁を与え、後衛で立ち回るルサルカ。前衛に立つ力がないと自負するのならば、前衛に立てる味方を支援するだけだ。少なくとも今は──一喝せねばならぬほど挫けている者は、誰1人いないのだから。
(ここが冥府。死してなお歩める道があるのであればそれは幸福なことなのかもしれないですねえ)
グランツァーは始まりの赤で自らを強化し、番人を真っ直ぐに見つめた。
ここが生者の踏む道でないことは重々承知。けれど、現世もまた、死者が踏むべき道ではない。
グランツァーの周囲に無数の石礫が召喚され、一斉に番人へと向く。
「生者と死者、互いにあるべき道を歩むために、番人様には少しお相手いただきましょうねえ」
言葉とともに、石礫が番人へ向かって飛んだ。
(全く、魔種には困ったものじゃ。じゃが生きている内に死後の世界を見回れる日がくるとは僥倖)
地獄の沙汰も何とやら、というやつだ。金を見せれば閻魔の覚えも目出度くなるだろう、と大ニは踏んで。
とは言え殴り合いは分が悪いだろう。ならばすべきは支援と──そう、金の盾で以って庇ってやっても良い。
山吹色の煌めきが辺りを舞い、榊神楽が仲間たちを鼓舞する。
そして仲間を庇った大ニはふと思った。──先日、地元のダチコーがこちらへ旅立ったのだと。
(番人の弱点を知っているかもしれん)
情報を得るには対価が必要だ、と大ニは黒のパンツを手に持った。……対価でなくとも、それは証拠隠滅のために置いていったほうが良い、かもしれない。
「えっ彼岸で紅茶を飲めるんですか?やったー! 流石の私もこれは初体験……あ、ギリギリ此岸なの」
なーんだあ、と肩を落とすラァト。けれどほぼあの世だと自らを納得させ、番人たちを見据えた。
彼らは彼らの理に従って動いている。霊魂を止めなくとも、悪とは断じられない。
(けれど、こちらも仕事でね)
手近な仲間へブラッシングウィスパーをかけ、紅茶(祝福)の囁きを与える。
誰かが傷つき、変調をきたすならこの力でもって癒そう。
(そう。誰もティーカップから溢れさせはしない(死なせはしない)さ)
揺らめいたとしても、小さなそれに収めてみせよう。
(『現世と冥府の境目が消えし時、死の宴が始まる』と。黙っては見てられませんね)
栞は憎悪のこもった武器を手に、フレイムタンの相手取る番人へとロベリアの花をぶつける。
「ご一緒しても?」
「否やは無い」
言葉は短く、視線の交錯は一瞬。2人はすぐに番人の方を向き、攻撃を再開する。
盾役がいる中、至近まで近付かれることはない。時折吐き出される闇色の球体を躱し、受け止めて。
(……侵入しているのはこちら側。ちょっと悪いなって思わなくもないけど……)
シャルティエはフレイムタンに続いて、番人へブロッキングバッシュで叩きつける。
ここで引けば天義という国が魔種の手に堕ちる。譲る訳にはいかないのだ。
同方向や多方向からの攻撃を意識しながらも、シャルティエは視線を辺りへと度々走らせる。今は3体だが、今後増援が来ないとも限らない。
「……っと、危ないっ」
ぐらりと崩れかけた抑え役に番人の牙が迫る。シャルティエは咄嗟に駆け出し、その間へと滑り込んだ。
「灰になった死者が甦ろうだなんて──」
「死者が蘇ろうなど──」
「「馬鹿馬鹿しい」」
アニーと竜祢の視線が混じる。同じ世界から来たこの相手も、どうやら自分と同じ意見のようで。
「行くぞ鳳凰、手を貸せ。まさかこの期に及んで嫌な顔とはいくまいな?」
楽しげに笑う竜祢にアニーはやはり、嫌な顔をして見せた。元の世界での苦労を考えれば、当然のことである。けれど──手を貸せと言う言葉に否やは唱えない。
同時に動き出した2人は別々の方向へ。竜祢が格闘技を仕掛ける傍ら、アニーは徹底的に燃やしにかかる。
「間違っても私ごと燃やすなよ?」
竜祢は笑って、そして真剣な表情を浮かべると巨大剣を振りかぶる。周りに少なくない被害を与えている番人は、自身もまた少なくないダメージを負っていて。
「お前に輝きなど求めるつもりは無い! 消え失せろ!」
戦乙女の加護を得て、剣が舞う。動きを止めた番人へ、その姿も残さないと言わんばかりにアニーの炎が放たれた。
とめどない剣戟と怒号が響く中──まだ、黄昏時は終わらない。
●
魂たちが現世へと引き寄せられる中、開幕一番に一条の雷撃が地を舐めた。
死霊術師である彼女がここへ足を踏み入れたのは、運命的と取るべきか──それとも皮肉と取るべきか。けれど。
「今の私は勇者の1人……なら、この力も全部使って送り還してあげる。
──何よりこの国は私の友達の故郷だから。絶対、護って見せるわ!」
決意の色を瞳に乗せて、コルヴェットは語りかける。帰ることは再びの別離を与えるのだと。望まぬのならランタンへ戻るようにと。
そこへ流れる鎮魂歌。降り注ぐ雹に幾つもの輪郭がぼやけ、ニーナは小さく眉根を寄せた。
(本来は彼らに対し安らかな死を与えるのが我の役目……)
無理を強いるこの方法に、心が痛まないはずがなかった。けれども死を司る神として、この様な事態は不本意であることもまた事実。
現世と冥府が混ざり合うなど、決してあってはならない。生者と死者は本来交わるべきではないのだから。
「──故に「ヘルヘイム」の名において、汝らを冥府に送り返そう」
その声は、冷たい呪いを帯びて。
「おぉ……これが噂に聞く『三途の川』でございますか」
話に聞いたそれとは違うと思う。が、何にしたって無機物(アンドロイド)であるエリザベスにとっては、ここに来るだけで感慨もひとしお、というやつだろう。
「それで、ジェンガに戯れているお子様はどこに?」
色々と間違っているエリザベス。しかし一先ずは仕事と、霊魂にはお帰り頂くべくネオアーム──中略──エリザベス砲を放った。その頭上を彼女のファミリアーが飛び回る。
人間の魂とは何なのか。その糸口が見つけるにはまたとない機会だ。
(ついでに言えば、敵に何らかの動きや異変があった場合は気付けるかもしれません)
現世へ引き寄せられているだけと言っても、何が起こるか分からないのだから──。
ノースは目の前の霊魂たちへ向けてありがとうございます、と呟いた。
彼岸。冥府。そんなものは人類の生んだ概念だと思われていた。そして、そこに行き着けるのは人類のみ──人工知能には行けない場所であると。
「例え今後行き着けずとも、この経験は何にも代えがたいものとなりました。では──」
使命を果たしましょう。
その言葉とともに威嚇術が放たれる。ノースは同時に、人助けセンサーで仲間の窮地を察せんとして。
感知するのは仲間の声と──目の前の霊魂たちによる、心の叫びだ。
「いやー、まさか冥府に来るなんてね、人生何があるか分かんねーもんだ」
行くは地獄、帰るは天国。それが彼らに分からないと言うのなら。
「どっちつかずのこの冥府で……思いっきり歌い続けてやるぜロックンロール!」
エレキギターをかき鳴らし、ヴィマラが届ける純心のロベリアは霊魂たちの輪郭をブレさせていた。
歌い、謡い、踊る。ネクロマンサーたる彼女にとって、彼らへ楽を奏でて在るべき所へ誘うそれは、きっといつもと変わりない。
(死んだことないから死んだ人の気持ちはわかんないし、かと言って死んじゃったら元も子もないわけで)
「……ああもう!」
ノアルカイムは何とも言えない気持ちとともに魔弾を放つ。
死にたかった者などいるまい。そして死んでまでこんな思いをしたい者だって。
「ボク、覚えてるから。……きっと覚えてい続けるから!」
霊魂たちの意識が向けられる。それはその言葉に対してか、害を与える存在と見なされたか。
「大して思い入れもない相手だけに……こんなところで死んだらつまらないというものですよね」
言葉とともにノアルカイムへライトヒールがかけられる。かけた本人──智子は遠くまで見通す視力であたりを見回して。
その瞳にやる気というものは見えないが、さりとて手抜きをしたい訳でもない。智子は次の相手へと回復を向ける。
(霊魂が戻る、か。そんなもの──)
「──ありえても伝説級のクエスト達成者へのご褒美ぐらいじゃ、帰れ!」
クラウジアはマギシュートで片っ端から霊魂を撃退していた。そこに遠慮なんてものはない。
死は死であり、覆らぬからこその死だ。覆らせてはいけない、とも言うかもしれない。
(まあ、哲学問答は今はおいておくとするかの)
何にせよ、天義が魔種の手に落ちるとなれば、無辜の民が虐げられるということに他ならないのだ。何があろうとも絶対にさせはしない。
「む」
クラウジアの視界に入ったのはイレジュラーズではない──けれど此度は味方であるという神父。
「おお、神父殿、救護は儂も手伝うのじゃ」
どうやら仲間を回復して回っている様子に、クラウジアは声をかけた。
現世へ戻ろうとする死者の魂か、死して尚利用されるとは哀れなモノだな
「だが、死神の子……いや、死神リュグナーとして貴様らを在るべき場所へ帰してやろう」
悪意、狂気──そんなものが霊魂たちへと襲いかかる。近づこうとするものには手を伸ばし、その輪郭を破滅へ導かんとして。
「魂が痛みを感じるかは知らぬが、これも依頼故我慢するが良い。──対価として、貴様らを苦しめんとした愚かな魔種は、我々が貴様らの元に届けてやると約束しよう」
差し出されたそれがどうなろうとも……どうしようとも、リュグナーたちの与り知らぬところ。最も──魔種がここへ来ることができるのかは分からないが。
「現世には戻っちゃダメなんだって。ゴメンね」
アメリアは小さく呟いて、前方へエーテルガトリングを放つ。その攻撃に巻き込まれないよう立ち回りながら、ベルベットもまた衝撃の青を霊魂へとぶつけて。
「アメリアちゃんが天義を守る為に頑張ってるから、アタシも頑張るわ~」
天義もローレットの大事なお客様だし、と付けるものの、その言葉はアメリアが1番なのだと思わせるようで。そのアメリアがはっと視線をシャルルの方へと向けた。
「おばあちゃん、シャルルを助けに行こう!」
「ええ、わかったわ〜」
シャルルたちの元へ加勢した2人は近くの霊魂から川へと還していく。アメリアのハイ・ヒールにシャルルが「助かる」と告げた。
けれど、未だ霊魂たちが引く様子はなく。アメリアはベルベットを守るように1歩前に出た。
「おばあちゃん、怖くない? 大丈夫?」
「あらあら、ありがとね~アメリアちゃん。頼もしい騎士さんがいるから、怖くないわ~♪」
騎士たるアメリアに守られて、微笑んだベルベットはシャルルへ視線を向ける。
「シャルルちゃんも頑張るのよ、アタシ達がいるわ~」
「……皆が頑張ってて、ボクが頑張らないわけにはいかないさ」
小さく肩を竦めたシャルル。その瞳は射るように、霊魂へと向けられた。
徐々に増える霊魂に、気付いた者は他にもいた。
「ムムッ! シャルルに狙いを定めている…!? クソ! シャルルは俺が守る!!」
駆け出したラヴィエルのダイナマイトキックが霊魂へと炸裂する。一気に標的が変わった様子にシャルルが声を上げるが、ラヴィエルはにっと笑顔を浮かべて見せて。
「俺は愛の妖精……俺の前では誰1人として愛を失わせはしない!」
囲まれたラヴィエルの愛の鉄拳──いや、愛のキックが川へと霊魂たちを押し戻していく。
「愛の妖精と言えど死者の現世inはノーセンキュー! 現世は生きてる奴らの物ゥ!
だがイチャイチャキングダムはお前らをきっと受け入れてくれる!! わかったら帰れ!! 次に生まれて来る時は……イチャイチャキングダムで幸せになりな……!」
「天義の皆は大切な有権者だ。俺に潔き一票くれるかもしれないならさ、もう、死ぬ気で守る理由には十分だぜ!」
ピュアエルは駆ける──シャルルの元へと。薔薇にまつわる旅人である彼女と、薔薇の名を冠したアーティファクトを奪取する別依頼。似ているのは果たして偶然か。
シャルルの傍らを駆け抜けざま、ピュアエルはその直感を信じるというイザークと、チーム名に嘆きをこぼすクロサイトを振り返った。
「2人とも、ラブ♡サポート! 宜しくな!! イェア!!」
「もちろんさ! ひとりぼっちじゃ怖いけど、三人ならきっと大丈夫だよね! 終わったら、美味しい喫茶店でお茶しよ!」
イザークもピュアエルの隣へ立ち、榊神楽を舞う。神と言えども死後の世界は初めてで、怖い。けれどもっと怖いのは仲間や天義の人達を失うことだ。
彼らと、そして範囲へ収めたシャルルに始まりの赤を付与したクロサイトは小さく笑みを浮かべて。
「死は好むところですよ。その1文字だけで悲劇が生まれるのですから」
その静かで、冷たい死を邪魔する者がいる。嗚呼、なんて愚かなのだろう。けれども襲い来る霊魂の、悍ましくも愛らしい姿には恍惚とせずにいられない。
「ふふ。シャルルさんは特に人気でズルいです。私も鋭い殺意を浴びたい」
「これ、人気っていうのかな……皆に分けたいくらいだけど」
そう零したシャルルは、しかし加勢が増えたことにどこか安堵したようで。そんな彼女を守るべくピュアエルは気合を入れる。
「よしっ! 愛を振りまくぜー!」
強化された筋力で以って霊魂を叩くピュアエルに、イザークが聖光で追撃してランタンへと押し戻す。取りこぼした霊魂はシャルルと共に、クロサイトが衝撃の青で接近を許さない。
しかしシャルルやピュアエルたちの固まる場所へ、さらに霊魂たちが迫っていく。その内1体を後方から飛んできた蝶が押し戻した。
「うふふ、皆さんが困らぬよう、厄介なお客様にはお帰り頂かなくてはいけませんね」
空より降り立ったカルマリーゼが、崩れた輪郭へと微笑を浮かべる。
死者がそう簡単に帰ってきては、住む所が少なくなって困ってしまうではないか。
「死者は静かに眠るべき、そうでございましょう? 我が蝶の誘いで、大人しくそちらへお戻りくださいませ」
夜光蝶と月光蝶が舞い、押し戻される姿とカルマリーゼへ迫る姿が入り乱れる。
──もう少しだ。黄昏が終わるまで、そう遠くない。
嗚呼、と白の口から吐息が溢れた。
(『同胞』がまた『同胞』になるとかそんなの悲しすぎる…だからあちらに帰って、ただ眠っていて)
ロベリアの花が霊魂を押し戻し、スティールライフで自らを立て直す白。ぐ、と唇を噛みしめるその姿は、けれど何があっても通さないという信念も見えて。
「まだ倒れない、倒れてたまるか。『同胞』を、月光人形を増やすもんか!」
欲しかった力は今、手元にある。だから、出来る限りのことを。
ルチアは輪郭でしか見えない霊魂たちを鼻で笑った。
「筋肉の1つでも生やしてから現世に戻るんだな。──貴様らの現世への未練、私の拳で断つ」
リジェネレートをかけたルチアは霊魂へと肉薄する。1撃──まだ足り得ないかともう1度踏み込めば、魂がふわりとランタンへ戻っていった。
(……数が多いな? 自分がやられないように気を付けて行動するとしよう)
ジリジリと迫ってくる他の霊魂へ、ルチアは冷静に拳を構え直す。これだけ集まっているのなら、ひと暴れしても良いだろう、と。
「……ちょっと不謹慎かもしれないけれど……少し、ゲームみたいな感じね……」
延々と敵を迎撃し、近づけないようにするところとか。
クラリーチェと合わせて霊魂へ死霊弓を放っていたエンヴィは、小さくそう呟いた。
「いっその事、ゲームと考える方が良いかもしれません。『自分に近しい人に会えるかも』等考えると、あちら側に引き摺られてしまうかもしれませんし」
近しい人。そういえば、クラリーチェの家族は──なんて言いかけてエンヴィは口を噤んだ。これは本当に不謹慎すぎる。
「家族……そうですね、もし出会ったら」
出会うだろうか。両親は亡くなって久しく、兄は行方不明のままだ。
「えっと……そうね……もし、クラリーチェさんのご家族に会ったら、ご挨拶しないと……かしら……?」
クラリーチェの言葉に慌てて取り繕うエンヴィ。変な事を言ってないかしら、と思うものの今はこんな言葉しか出てこなくて。
黒の囀りで霊魂を押し戻したクラリーチェは、つと空を見上げた。
黄昏時。それはきっと、何が起こってもおかしくない時間だ。
(いやほんと正直ロクでもない天義のために戦う気なんて起きなかったが……頼まれたらやるしかあるまいて)
やることは単純だ。敵を狙って──撃つ。
味方を射線に入れぬよう、位置を固定したまま狙い撃つメーヴィン。その瞳はつと細められる。
メーヴィンは多宗教であり、否定をしない巫女。蘇り──黄泉還りを否定することもまた、ない。魔種が関わってなければの話だったが。
(……あぁ、私はだって、会いたい人がいるんだから、この人達は否定できないよ)
迫り来る輪郭に、それまでマジックロープで仕掛けていたダーク=アイが動き出す。
「死を奪われた吾輩が、冥府に堕ちる日が来るとは、実に興味深い。終わりなき使命から逃れる為に、此処に留まり死を迎えるのも吝かではない──が、」
自らに残る力と、出来ること。今は彼女を、メーヴィンを庇うことだと判断したのだ。
そしてその声音は到底、ここに留まりたいというものではなく。
──嗚呼、どうかしてしまったらしい。あんなにも終わり無き生に苦しめられたのに。
「最後まで見届けたくなった。面白くも光り輝く、この不確定要素(イレギュラーズ)たちと、その軌跡を」
だからここで終えるわけにはいかないのだ。
「駄目よ……あなたたちは……戻らせない……」
レミアは鮮血の刃を霊魂へと向ける。自らより背後へは行かせまいとその場に構え、少しでも逃れようとする霊魂へ誘引の魔法を向けて。
「ふふふ……私が本当に死んだら……地獄の番人というのも……向いているかもね……」
当分は先かもしれないが、なんて思いながら、レミアは挌闘技を繰り出して。崩れた輪郭の煌めきがまた1つ、ランタンへと戻っていく。
いいや、1つだけではない。急激に輪郭の数が減っていく。その背後に見えた空は──深い藍色で。
黄昏が、終わりを迎えようとしていた。
「そんじゃーまたね! 人生の先輩たち! 」
死んだらまた歌いにくる、とランタンへ向かって叫ぶヴィマラ。
──もし、この世界にも精霊様がおわすれば。死者の進む道、生者の帰り道を照らしませ。
グランツァーの祈りに呼応するように、後ろへと風が駆け抜けて。
生者と死者の境が明確になった今──さあ、帰るべきところへ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
他のシナリオと同時参加の方も多くいらっしゃったと思いますが、白紙なし&全員がしっかりとプレイングを書いており、無事オーダークリアとなりました。
桜色の貴女へ。戦場全体を見据えるプレイングに、今回のMVPをお贈りします。
またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●成功条件
日が沈むまでの間、可能な限り魂を現世へ戻さないようにする
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●選択肢1:魂迎撃
タグ【霊魂】
川より上がり、現世へ戻ろうとする魂の対処パートです。
イレギュラーズのいる側(此岸)へ上がってきた時点で人の姿をとりますが、ぼんやりと不明瞭で輪郭程度しか見えません。わらわらと無数に湧いてきますが、1撃、或いは2撃で川へ押し戻すことができます。
魂は基本的に現世へ(PCの背後へ)向かって移動しますが、自分か周囲が攻撃を受けた際は反撃します。個々の能力は低いですが、塵も積もればなんとやら。油断は禁物です。
黄昏時を過ぎると落ち着きます。但しあくまで『今は』であり、今後も『冥府が黄昏時だから魂が戻ることができる』ということを証明しているわけではありません。
●選択肢2:番人撃退
タグ【番人】
川岸に佇む番人を撃退するパートです。
此岸側にて、生者が迷い込むことを阻止する役目を受け持っているようです。冥府に来るべきでない者を一目で見分けることが可能であり、イレギュラーズを視認した時点で襲ってきます。
黒い体にコウモリの羽を生やし、鋭い牙と爪を持った化け物の姿をしています。数は不明ですが、少なくともフレイムタンが対峙する1体の他に2体は確認できています。戦い方は不明。
1体に対し少人数では厳しい戦いとなるでしょう。常の依頼で登場するボス格程度を想定して下さい。
●フィールド
黄昏時の空の下、荒野のような地面しかない場所に大きな川が流れています。
イレギュラーズのいる側は此岸。反対側は彼岸となるでしょう。川の反対側には絶対に行かないでください。
川には無数のランタンが流れており、その中にはそれぞれ1つの魂が命の炎を燃やしています。全てが現世へ呼ばれているわけではないようですが、開いたランタンは決して少なくありません。
日が暮れるには暫しの時間がかかる様子です。日が落ち次第、イレギュラーズは聖遺物によって繋がった路を使い、現世へと帰還します。
●友軍
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
花の精霊だったウォーカーの少女。遠距離神秘型。選択肢1にて魂迎撃を手伝います。
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
焔を纏いしグリムアザースの青年。近距離物理型。選択肢2にてイレギュラーズに加勢します。
『旧き蛇』サマエル
天義に本拠を構える密教集団「ウィーティス」の教祖。この戦いをゲームと称しています。神秘型。今回は勇者(イレギュラーズ)たちに味方をすべく、選択肢2に参戦します。
エドアルド・カヴァッツァ
神父の男性。妹がローレットにいるという情報を得ています。選択肢1にて、攻撃も回復もそこそこにこなします。
●プレイングの書き方
1行目:選択肢タグ
2行目:同行者・或いは同行者タグ(1人なら改行)
3行目:本文
上記の書き方を"必ず"守ってください。特に1、2行目。選択肢間違いによる迷子にも注意を払ってください。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
また今回は難易度Normalため、普段のイベントシナリオより迷子に厳しくなります。選択肢ミス、同行者設定ミスにお気をつけ下さい。
友軍NPCはプレイングにてご指定があれば、皆様と連携を試みることができます。参加者内でご相談の上、プレイングにお書き下さい。
●ご挨拶
この度RAIDを担当致します、愁と申します。
茜色の空に、夜の帳が落ちるまで。長くはありませんが、決して短くもありません。
個々の心情・行動は勿論のこと、全体の人数配分なども依頼達成に大きく関わることでしょう。
それではご参加、お待ちしております。
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