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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>獅子身中の狡兎
<冥刻のエクリプス>獅子身中の狡兎

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「いっひっひっ、どうです、ジェルマン隊長。俺の言った通りだろ?
 あの魔物共を追い込んで行けば必ず勝てると」
「えぇ、そのようです」
 笑う『騎士のような男』に天義騎士のひとつの班を借り受ける隊長――ジェルマンは頷いた。
 その瞳がひどく淀んでいることを誰も気にしないーー否、どうにも誰も気づいていない。
「流石はプロスペール殿。幻想で名のある軍略家の家系であったとはその通りのようだ」
 そういうのは他の天義騎士だ。
「えっ? あっ、おう。ふふふ、そうでしょそうでしょ、にゃはは」
 明らかに変な返答の仕方であったのに、それを『誰も指摘しない』どころか、『変な返答であったことを認識しない』外から見れば、あまりに自然。
 籠城戦を決め込む彼らにとっての『敵』を前に、騎士達は真っ直ぐに視線を向ける。
「くっくっ。さて、大詰めにしましょう。そうしてーーその手で王宮へ! ね? ヴィルジール殿」
 先程呼びかけてきた天義騎士に向けて言って、そのまま愉悦に頰を歪めた狡兎は、戦場のど真ん中、多くの騎士に囲われてそこにある。
 こんな仮初めの、建物と建物の間を縫うようにして土嚢と石で積み上げただけの簡易の防衛線なぞ破壊してやろう。
 そう言わんばかりに、プロスペールは剣を掲げた。
 応じるような騎士達の声。
「魔種の一派を討ち滅ぼせ!神はそう望まれる!」
 どちらが『そう』なっているのか知らず、騎士達の喊声が轟いた。

 その様子を眺めながら、共に剣を掲げるプロスペールは喉の奥から込み上げてくる物を、そのまま哄笑に乗せた。

 ――ああ、なんて面白い。

 ――――ああぁ、なんて愉しいことか!

 ――――――何でもなかったこの俺が、借りものの語り部をだったこの俺が!

 ――――――――こうも容易く人で物語を紡げるのだと。

 ――――――――――もう誰も、誰にも騙り屋などとは言わすまい。

 ――――――――――――何一つとして真実の物語を言えぬ愚か者など!!

 哄笑は、ただ、誰にも気にも留められず天に消えていく。
 
 哀れな道化は、自らを道化と知らず笑うだろう――――――


 白亜の都フォン・ルーベルグ。
 元来であれば、神への信仰に従い、その正義の下で高い秩序を保つ町。
 イレギュラーズのよく知る幻想から見れば東の大国ーー天義は混乱の坩堝にあった。
 月光人形で乱され、クリミナル・オファーのばらまきで弱体化させられた天義ではあるが、イレギュラーズたちの活躍で最悪の状況は免れている。
 けれど、これは始まりに過ぎない。確信と言っていい推測に応えるように、見え隠れしていた大魔種ーーベアトリーチェが動き出した。
 無数の死者や雑霊を従えるベアトリーチェはフォン・ルーベルグを目指して進撃を始めたのである。
 その状況を利用して、これまでは密かに活動していた枢機卿アストリアが政変を目論み王宮を牽制し、聖都から一度は落ち延びた王宮執政官エルベルト・アブレウがそれに合流せんと迫っている。
 混沌極まるこの攻防戦。それでも、イレギュラーズは市街地における前哨戦でアストリアの私兵『天義聖銃士(セイクリッド・マスケティア)』を半壊させる大活躍を見せている。
 その結果、アストリアは拠点の『サン・サヴァラン大聖堂』に引き篭もっていた。彼女が動けないのは体制派にとってはいい知らせと言える。

 さて、そんな戦況を把握してくれてもらった上でーー貴殿らの力をお貸しいただきたい。
そう言って、壮年男性ーーカーティスが君達へと視線を向けた。


「この聖都攻防戦、大魔種ベアトリーチェの手先は既に聖都の中にいくつかいたようだ」
 カーティスは慨嘆の息を漏らす。
 しかし、その身からは尋常じゃない覇気が迸っていた。
「貴殿らイレギュラーズの調査もあってわかったことだ。
 そしてその中の一匹が、事もあろうに聖騎士団に潜り込んでいたらしい。
 その魔種に潜り込まれた騎士達があちら側のつき、内側から聖騎士や民衆を攻撃し始めたのです」
 そこまで言ってカーティスは一度目を閉じた。
 その表情はうかがえない。何も感じてないわけではないだろう。
 むしろ、煮えたぎる感情をうちに落とし込み、冷静に努めているように見えた。
「国の危機だ。それも飛び切りの。であれば私も微力ながら尽くしたい。
 そこにきて、私の元上官からこの知らせが入りました」
 すると、カーティスは静かに腰を落として君たちに礼をする。
「どうかお願いします。今、彼らの部隊は魔種の扇動を受けて迫り来る聖騎士の部隊を相手に籠城しています。
 もしも籠城側が敗れれば中にいる私のかつての同僚や、匿われた人々に危害が及ぶでしょう。それを避けたいのです」
 人道的観点はもちろん、敗戦すれば敵の数が増えかねない。
 なにより、一時となるかもしれないとは言え、魔種に聖都を占拠されてはたまらない。
「敵はどうやら、自分達が戦っているのがなんなのか分かってないようです。
 これは恐らく、魔種の能力でしょう。それに似た事態を以前、私は貴殿らにご紹介致しました。
 今回、皆様と戦うことになる魔種の名はーー『騙り屋』プロスペール。認識阻害の能力を有する魔種です」
 静かにそう告げたカーティスは、覇気に満ちる瞳を君達に向ける。
 ある者はその時のことを思い起こし、ある者は伝え聞いて不倶戴天の敵の情報を落とし込んでいく。
「プロスペールは嘗て、叙情詩人であったようです。
 ただ、才能はなく、語り聞かせる詩は全て的外れ。
 その上、物語性にも欠けていたと……そしてついには、天義において語り部ならぬ『騙り部』と賞され、陰ながら討ち取られた――はずだったようです」
 一切の同情はいるまい。
 例えそうだとしても、この事態を引き起こす意味がない。
 自然と垂らされていたカーティスの利き腕が、強く握られた。
「敵の天義騎士隊は嘗て、私が属していた部隊と仲が良かったのです。
 それもあって、出来れば双方に大きな被害は出したくないのですが……背に腹は代えられません。
 ただ、くれぐれも隊長のジェルマンやヴィルジールには油断なさらぬよう。彼らは相応に強いです」
 騎士は静かに、淡々とそう告げた。
 故にこそ、それがなんの誇張でもなく事実だと、君達に教えてくれる。

GMコメント

さて、お世話になっております。春野紅葉です。そういうわけで、とんでもない事態のようです。

こちらでは『魔種』と『魔種にだれと戦っているのかを見誤らせられた騎士達』と戦っていただく形になるようです。

恐らくは魔種を討つか、死ぬ直前に阻害から解き放たれる様子。

それでは、詳細をば。

●成功条件
『騙り屋』プロスペールの討伐
それ以外の天義騎士に関しては倒さなくても大丈夫です。

●失敗条件
敵戦力が防衛線を突破し、避難している人々に被害が出る。
魔種に逃げられる。

●戦場
聖都フォン・ルーベルグ内部。
現在、味方の籠城戦力は街道の一つを閉鎖し、建物と建物の間を土嚢やら石やら魔術的処理で塞ぎ、建物の上に射手を配備して簡易の防衛線を築いています。

皆様は到着時、魔種らの部隊を挟んでこの味方と反対側にいます。

合流を先にするか、味方に任せて速攻で魔種に迫るか、あるいはその他か。いかなる手段でも構いません。
また、合流した場合、籠城組の一部戦力を外に出すことも可能です。

●味方戦力
<カーティス>
半ば引退している天義の騎士。
信仰はもちろん、国そのものへの忠義に満ちた武人です。
イレギュラーズに恩義と信頼を寄せています。
何かなくとも相応に動きますし、特にこうしてほしいという指示があればそう動きます。
プロスペール、ジェルマン、ヴィルジールを除く天義騎士であれば数人を相手に立ち回れます。
ジェルマンかヴィルジール相手の場合、一人ずつであれば対等以上、二人になると回復の術がないこともあり不利です。
抵抗がずば抜けて高く、物攻、神攻、反応、命中が高め、HP、防技、回避、機動は並、EXA、EXF、CTが低め。
明鏡止水:物遠貫 威力中 【万能】【弱点】
虚心坦懐:物中単 威力中 【麻痺】【崩れ】
晴曇秋月:物至単 威力大 【自カ至】【ブレイク】【怒り】
光風霽月:物自範 威力大 【ショック】【氷漬】

<追従部隊>
20人ほど。実力としては皆様と同程度。戦力としては十分です。

<籠城部隊>
20人ほど。そこそこ強いですが、磨耗してます。とはいえ士気も悪くなく、皆様の到着を知ればなおのこと士気も上がるでしょう。

●敵方戦力
<魔種プロスペール>
今シナリオで倒さなければならない魔種です。
認識阻害能力を有し、比較的強力な原罪の呼び声を持ちます。
寧ろ、認識阻害能力で揺さぶることで相手を呼び声に答えやすくしている節があります。
到着時、下記の敵天義騎士部隊のど真ん中にいます。どうにかして辿り着く必要があるでしょう。
反応、回避、EXA、機動が尋常じゃなく高く、物攻、防技、CT、命中が高め、HP、抵抗が並。
霧裂くモノの詩(A):物中貫 威力特大
降り注ぐモノの詩(A):物遠域 威力大 【万能】【体勢不利】【流血】
嘆かれたモノの詩(A):物至単 威力大 【弱点】【連】【氷結】
狂気伝播(P):常に域相当の範囲に狂気を振りまいています。
騙り語るは喜劇(さんげき)の詩(P):遠距離範囲内にいる『目が合った相手』に認識阻害をかける特殊能力です。
 魔眼の類と思われ、視線を合わせることが条件になります。
 プロスペールの目が見えている限り、視線が合った後、1ターン以内にそらさなかった場合、次の1ターンのみですが、認識を阻害されます。
 アタッカーであればレンジに合った味方へ攻撃、ヒーラーであればレンジに合った敵へ回復を行なう、タンクであれば敵を庇う、一番近い味方へのブロックなどの行動が予想されます。
 回避方法は高い水準での抵抗判定に成功するか、何らかの方法で待機や行動失敗、そのターンに行動しないことよう試みること。或いは発動させない状況に持ち込むことなど。
 イレギュラーズはもちろん、味方戦力にも発動しえます。

<ジェルマン>
認識阻害に陥っている天義騎士の部隊の隊長。
認識阻害によりイレギュラーズや友軍をアストリアや魔種などの『反体制派』と見誤っています。
プロスペールを討ち取れるまでは、全力で殺しに来ます。
立ち向かうもよし、味方に任せるもよし。ただし、かなりの手練れです。戦力配分を間違えると肝心の魔種への対応に欠く可能性があります。
立ち位置は天義騎士隊の中央、プロスペールの近くであろうと考えられます。

HP、防技がずば抜けて高く、物攻、神攻、命中が高め、機動が並、反応、回避、抵抗、EXA、CTが低め。
天声一閃(A):物至単 威力大 【ブレイク】【恍惚】
裏・天声一閃(A):物至単 威力大 【自カ至】【体勢不利】
剣魔両断(A):物+神至単 威力大 【攻勢BS回復】

<ヴィルジール>
認識阻害に陥っている天義騎士の部隊の武人。
武勇で知られた天義騎士、この部隊の中でも屈指の実力者です。
立ち向かうもよし、味方に任せるもよし。ジェルマン同様にかなりの手練れです。
そのため、ジェルマン同様に戦力配分を間違えるとプロスペールの対応に欠く可能性があります。武闘派の分、守りが苦手であると思われます。
立ち位置は天義騎士隊の最前衛、籠城方との交戦の真っただ中と思われます。
HP、物攻がずば抜けて高く、命中、反応、CTが高め、機動が並、防技、抵抗、回避、神攻、EXAが低め。
戦旗炎舞(A):物近扇 威力大 【ショック】【業炎】
戦旗刺攻(A):物中貫 威力大 【必殺】【弱点】
戦旗円乗(A):物至範 威力中 【窒息】【崩れ】

<天義騎士部隊・兵士>
認識阻害に陥っている天義騎士の部隊。人数は20人ほど。
認識阻害によりイレギュラーズや友軍をアストリアや魔種などの『反体制派』と見誤っているため、プロスペールを討ち取れるまでは全力で殺しに来ます。
打倒したとき、彼らをどう扱うかは皆様次第です。そこそこ強いですが1対1であれば味方の追従部隊で十分対応できます。
HP、防技、物攻が高め、回避、EXA、機動、神攻、命中が並、抵抗、反応、CTが低め

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報に嘘はございませんが、魔種の能力、狂気伝播などの状況変化による不測の事態が起きる可能性があります。

  • <冥刻のエクリプス>獅子身中の狡兎Lv:7以上完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月10日 23時16分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
叡智のエヴァーグレイ
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
コラバポス 夏子(p3p000808)
一兵卒
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
マルク・シリング(p3p001309)
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
守護天鬼
シラス(p3p004421)
閃翼
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ルチア・アフラニア(p3p006865)
斜陽

リプレイ

●狡兎の鳴く日に
「カーティス、助太刀に来たぜ。
 同士討ち……あの白兎野郎(プロスペール)はいけ好かん。此処で倒すぞ。
 そして、皆生きて帰還するンだ」
 以前にカーティスと関わったことのある『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は騎士にそう声をかける。
「カーティス様は随分と、覇気が戻られたようで何よりです。
 ご一緒できる戦場がこのような形ですが、力となりましょう」
 同様に『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)もまた、そう声をかける。
「正義も義理も、縁薄いものでございますが、この悪辣さは、腹に据えかねるもの。
 最早、語る物語はなく、荒唐無稽。悪趣味な人形劇でございますね」
 静かにそう残して、少女は目を閉じる。
「認識阻害……とても変わった能力だね
 でもそれを使って楽しんでいるように見えるこの魔種は性格悪いなぁ
 逃すと絶対に悪さをする決まってるし、ここで倒してしまわないとね!」
 敵の能力を聞いた『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がいえば、騎士も頷いて見せた。
「こんな形で同胞相争う事、誰も望んでなんかない……!」
  マルク・シリング(p3p001309)が敵の能力に不快さを示す。
「騎士に限らず、吾輩達も敵味方を誤る可能性があるだけに、注意して向かわねばならんな……」
 2人に言葉に続けるようにして言う『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は、しかしそれ自体はどうということもなさそうで。
「カーティスはジェルマンへの対応を。
 倒してしまう必要はないが、晴曇秋月でひきつけてもらおう」
「承りました」
 グレイシアの言葉に、騎士は短い言葉で頷いた。
 要点の確認を終わらせ、イレギュラーズと騎士達は戦場に向かっていく。

 目的の場所までたどり着く少し前から、聖都には似つかわしくない剣戟と銃声が各地から聞こえてくる。
 実際に辿り着けば、それはより一層強くなっていた。
 壁を突き破らんと密集する人々と、それに対して押し返すように高所から銃や矢を降らせる者達。
  そして、人々の怒号や悲鳴。そんな中でも、ひときわ目立って聞こえてくる嫌な声がした。
「詭道も詐術も兵法であります。敢えて否定はすまいが……」
 攻めあぐねる様子を見せる敵方を見つけた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は、頬を引きつらせながら、明らかな不快感を見せる。
「ええ、認識阻害で同士討ちをさせる。
 戦術としては有効なのでしょうけれど、虫唾が走るわ」
同じように戦術的観点から告げた『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865) は、不愉快さを露わに、鳩を空へと飛ばした。
「しかし、甚だ気分は悪いでありますな。何がって、あのドへたくそな歌でありますよ」
 耳を塞ぐようにして吐くようなしぐさを見せる。
「人の意思を奪い思うがままに操作する……よくもまあ語り部を名乗ろうとした。
 物語はドラマティックじゃないと」
 そう言いながら『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)は槍の調子を確かめるようにぐるりと振るい――。
「僕達は運が良い! 勇者と肩を並べ! 友のため! 義を成せるのだから!!」
 そう、声を上げた。
 槍を横になぐように払った直後。凄まじい発砲音と強烈な閃光が敵の背後から襲い掛かるように――驚いた兵士達が前へと吹っ飛びながらこちらを向いた。
 それに続くように、イレギュラーズ達は山ほどいる敵の方へと走り出す。
「クソッ真っ当な人間の相手は逆に厄介だな……」
 纏わりつこうとしてくる敵兵を見ながら『天義の希望』シラス(p3p004421) は思わず苛立ちを口にした。
「慌てたり動揺したりしたら思う壺なんだ。
 だから、落ち着いていこう。大丈夫、やれるよ!」
そんなシラスを見て、隣にいた 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はそっと声をかける。
「っん、大丈夫、殺さないって」
 ハッとした様子のシラスに続くように敵陣を進んでいく。
 しかし、敵もさるものというべきか。挟撃を避けるかのように、動き始めた。
 友軍の天義騎士たちが雄叫びを上げて吶喊する。
二人一組となった天義騎士たちは、敵味方入り乱れながら戦場を形作る。
 友軍騎士らからこぼれ出た敵兵が、イレギュラーズを抑え込まんと立ちふさがった。

 グレイシアは道を塞ぐように立つ敵兵に、ゆらりとした動きで強かな一撃を見舞う。
 特殊な格闘術式による激烈な一撃に、思いがけずバランスを崩した敵兵が、淀んだ目のまま、グレイシアへと剣を向けて立ち上がる。
(魔種を倒せば正気に戻るとのことだが……手加減する余裕はなさそうだ)
 戦場でありながら風靡にさえ感じられる佇まいの男は、作戦通りに遂行しながらも、ある種の速攻戦術であると感じさせぬ穏やかささえある。
 夏子は身を躍らせた。
 複数の敵兵の真っ只中を裂くように、跳躍し、そのまま丁寧に敵陣を横に薙ぐ。
 ――パンッという炸裂音と、閃光が、兵士達をひるませ、ふらふらと味方の方へと数歩歩ませる。
 全ては本命たる魔種への道を築くため。
 着地と共に、こちらに向けて反撃とばかりに突っ込んできた兵士を槍捌きで対処しつつ、ちらりと仲間達の方へ視線を向けた。
 視線の先――夏子によって無理やりに動かされた敵兵の姿を雪之丞は静かに見据えていた。
「多少傷が深かろうと、生きてさえいれば取り返せましょう」
 月光を思わせる薄く青みを含んだ白色の戦衣を靡かせ、雪之丞は静かに気取られぬ構えを取る。
 敵中に踊り込むような動きで走り抜け――次の瞬間、漆黒の三日月が戦場に描かれた。
 数人の兵士達が、鮮血を残し、しかしまだ倒れぬと這い上がる。
 美しき鬼は、立ち上がる騎士達を見て。
「忠誠の高さ、立ち向かわんとする覚悟は美徳ではありますが」
 けれどそれは、えてして死ぬまで戦い続けるという闇すら抱えかねない。
 血風吹きすさぶ戦場で、まるで返り血を浴びることなく、静かに再び剣を構えた。
「――見つけたぜ」
「ええ。こちらも」
 レイチェルの声とほぼ同時、ルチアは視線をそちらに向けた。
 イレギュラーズの存在に気づいたのか、その姿は敵陣のど真ん中から、やや左に移動しつつある。
「行こう!」
 スティアがそう言うのとほぼ同時に、イレギュラーズ達は空から見下ろす四つの目に従うように、戦場を突っ切る矛先を変えていく。
「わりぃな……可能な限り手加減はするぜ」
 鮮烈たる緋色の輝きを瞬かせ――レイチェルは起動した術式から紅蓮の炎を零すようにして近場にいた兵士の一人へ撃ち込んだ。
 敵兵士達は、以外にも脆かった。
 実力だけであれば、そこそこであろう。けれど、抵抗力が低い――あるいは、認識阻害によって、抵抗力をそもそも奪われているのか。
 毒や炎など、敵への攻め手となる副作用に思いがけぬ弱さを見せていた。
 スティアはセラフィムを開く。
 どこからともなく、戦場に天使の羽が如き魔力の残滓が舞い散り、展開された花弁と相まって、戦場とは思えぬ楽土が如き光景をみせた。
 セラフィムに手をかざし、最前衛を突き進む形になっている夏子に優しき光をもたらした。
 穏やかな光に包まれた夏子の傷が癒えていくのを見届けながら、戦場を突っ切るように真っすぐに。
 ルチアは空を舞うファミリアーで常に動く戦場で、出来る限り目標の居場所を把握することに務めていた。
 ふと、もう一つを見る。
 防衛線を突き破ろうと必死になっていた敵兵たちはいつの間にかイレギュラーズ達の方へと動き出していた。
 その最後尾、巨大な旗を掲げる一人の男。
「ヴィルジールの場所を見つけたわ。あっちからに来てるわ」
 戦いの動きは、いよいよ本格化を始めつつあった。
 ちょうどその時だ。ルチアの横、敵軍の乱れを縫うようにして、仲間達が一気に走り抜けた。
 ほんの一瞬、たしかに築き上げられた魔種への突入路。
 グレイシアは自らの手に虚無のオーラを収束させると、それを魔種へと叩き込む。
 その瞬間、魔種が人間がとても出来ない動きでそれを躱してしまう。
「独り善がりの物語って 誰も聞く人いないっしょ」
 夏子が煽るように告げれば、プロスペールの視線が夏子に向けられる。
「いや! いやいやいや! そんなことねえ!
 お前に何がわかるんや!!」
 激情を露わに、プロスペールがナニカを口走り、尋常ならざる速度と正確さの突きが繰り出される。それを何とか防ぎ、そのままその膂力を利用して流れるように柄の部分で叩きつける。
 ルチアは戦場の片隅で祈りを捧げていた。
 手に握る聖ヘレナの十字架より削り直した掌サイズのソレをそっと額に当てるようにして祝詞を紡ぐ。
 ソレは天義の神ならざる――異界に存在する神への詩。
 祈りはやがて祝福となってルチアの頭上に収束、光の槍へと姿を変えた。
「主よ――我らの敵に祝福を与えたまえ」
 ゆっくりと動き出した光槍は螺旋状のままプロスペール目掛けて発射された。
 一直線上を走り抜けた槍は、魔種の肩口へと炸裂する。
「邪魔でありますな」
 エッダがぽつりと呟く。視線の先には、魔種を庇うように立つ騎士。
「護衛は任せるであります」
 エッダは魔種を庇うように立ったその騎士へ、思いっきり拳を叩きつけた。
 螺旋を描いた拳が、騎士の鎧を打ち抜き、ぐるんとその身を回転させる。
「けけけけ! ほら見ろ! 大人気じゃん! ひゃははは」
 笑い声がした。
 酷く不快な――聞くだけで声の主がろくでもない奴だとわかる声。
「やあやあ、イレギュラーズ! これはこれは、どうだぁ? おいらの舞台は!」
「一人で笑ってろ、騙り部野郎……誰も聞いちゃいねえからよ」
 イレギュラーズの姿を見止めた瞬間、笑いながら言った魔種プロスペールに、シラスはそれだけ返した。
 その時すでに、奴の声など意識の外だ。
 バチリと、何かがはまるような、深く短く、けれど充分な極限へ。
 パンッ――と、不規則に手拍子を放つ。
「てめぇ――俺にその言葉を言うのかぁ!?」
 アレクシアは、プロスペールの激昂を聞いた。
「俺の詩は――騙りなんかじゃねえ!!」
「――――」
 何かをプロスペールが口走ったかと思うと――その身体が人体ではありえない動きでシラスへと一撃を放つ。
「あなた、詩人だったんでしょう!
 詩人ってのは誰かを騙す仕事? 違うでしょう!」
 アレクシアが声を上げる。
 それにプロスペールが一瞬だけ気を取られたことで、シラスはその一撃を何とか致命傷から避けた。
 急所に当たれば、ただでは済まない。それを予感させる一撃だった。
 アレクシアは両手の魔道具を起動させると、その安定した魔力制御技術で大きく高めた調和の魔力を癒しへと変換し、シラスへ向けて放つ。
 白黄の輝きがシラスの傷を癒していく。

●旗手の一念
「まさか向こうから来るなんて……でも、これならチャンスだ」 
  マルクはヴィルジールとの戦闘を開始した味方を横目に呟く。
 距離は――大丈夫。タイミングも問題ない。
 そう判断し――背負っていたジェットパックを起動し敵はおろか、味方を飛び越えるような短期飛行を敢行する。
 やがて、プシュリと音を立ててジェットパックが壊れた時には、既に防衛陣地の内側に入っていた。
「ローレットとカーティス隊が救援に来ました!反撃の時間です!」
 そう叫ぶ。一瞬、その場にいた兵士が怪訝な様子を見せる。
「ローレットか! 助かる!」
「負傷者は居ますか? いればボクの周りに集めてください!」
「了解した。直ぐに反撃できる程度の傷の者を集めろ!」
 班長の檄が飛ぶ。マルクはその声を受けながら目を閉じて集中する。落ち着き、冷静に。
 自分の役割は自分達の到着まで戦ってきた天義騎士達の立て直しだ。
「とりあえずは10人ぐらいだ。
 彼らを癒したら、今前線で戦っている騎士達と交代で頼めるだろうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。皆さん、もう少しこちらへ」
 魔術書を紐解く。
 目を閉じて、集中し――紡ぐのは天使の福音。神聖なる救いの音色が傷ついた天義騎士達の傷をいやしていく。

「悪臣共が……賊の救援とはな! 挟撃だなど卑怯な手も使おうとは!
 我が名はヴィルジール! 神に仇なす愚かな者達よ! 勝負せよ!!」
 巨大な旗を振るい、大柄の男が叫ぶ。淀んだ瞳が、こちらを正確に見ていないことを物語っていた。
「では拙がお相手いたしましょう」
 静かに進み出た雪之丞は、目を閉じていた。
 しかしその尋常ならざる超聴力はヴィルジールが微かに起こす旗の音、鎧の音をたしかに押さえていた。
「オラァ!」
 何かを引くような音と、風を切り裂く音。対し、雪之丞は前に出た。
 その一撃は後の先から更に先を穿つ強烈な一撃。
 無理な筋肉の動作で、身体が悲鳴を上げるのを気にすることなく、蛇の目傘を突き出した。
 結界術式により強靭な穂先となった傘が、緋色の軌跡を描いて逆にヴィルジールの肩を貫いて見せる。
「では、続いては吾輩が参ろう」
 モノクルが光に反射してきらりと輝いた。
 そのままグレイシアはヴィルジールの懐めがけて潜り込んでいく。
 それに応じるがごとく、ヴィルジールは槍を引いたかと思うと、風を切って突きを放つ。
 グレイシアはそれを冷ややかな視線で緩やかに躱すと、抱えこむように掴む。
 レイチェルは目を静かに細め、やや間合いを開く。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
 呪文を紡ぎ、自らの肉体に刻まれた魔術式を起動する。掌をヴィルジールへ掲げると、練り上げられた魔力に反応し励起した陣から、あふれ出る紅蓮の焔。
 散りつく焔はレイチェル自身の身を焼き、煌々と燃え盛る。
 モノクル越しの金色の瞳に炎がちらつき――光輝と共に爆ぜた。
 炎は真っすぐ空中を突き進み、ヴィルジールの顔から肩を焼いた。
 焔がもたらす業炎が、猛毒が、そして致命的な傷が、ヴィルジールへと余すところなく叩きつけられる。
 他の敵天義騎士達の例に漏れず、ヴィルシールも抵抗力の低さが垣間見えた。
「ぉぉおお!!」
 焔を振り払わんとするかのような吠え声と共に、ヴィルジールが頭上で旗を振り回す。かすかな火花が漏れ、やがて旗そのものを燃やすような業火へと変質しーーグレイシアと雪之丞を纏めて薙ぎ払う。
 抵抗力を切り崩す横薙ぎの一撃は重く、単純な火力で二人に傷を負わせながらも、しかし。
 そんな抵抗力の低下を感じさせぬ冷静さで、雪之丞とグレイシアは業炎の伝播に対処していく。
 反撃とばかりに放たれた雪之丞の神速の三連突きがまっすぐにヴィルジールの肉体にすいこまれていく。漆黒の軌跡が3つ。
 鮮やかですらある黒の三連突きはただでさえ希薄なヴィルジールの抵抗力を大きく削減しーー鋭利などという言葉では生ぬるい剣尖が、ヴィルジールの腱を裂いた。
 身動きの取れぬヴィルジールが懐へグレイシアは追撃とばかりに潜り込み、彼の鳩尾めがけて痛打を叩き込む。
 ヴィルジールへとめり込んだ拳から微かに重さを感じながら、そのまま絡め取るようにしとるようにしてヴィルジールの体勢を突き崩す。
 レイチェルは魔術式を叩き起こしながら、弓を構えた。
 月下美人咲き誇る純白の大弓をその体躯からは想像し得ぬ膂力で引きしぼり、魔力の矢として打ち込んだ。
 緋色に輝き焔でできた矢は着弾とともにヴィルジールが受ける多数の状態不良を餌に燃え上がる。
 スティアはその様子を認めると、アレクシアへシラスの援護を頼み、セラフィムの一層に活性化させる。
 脳裏に浮かぶ天使の福音を、そのまま声に出して歌う。
 天使の羽がごとき残滓が舞い、癒しの音色となってグレイシアと雪之丞へ祝福をもたらした。

 騎士は未だに倒れない。倒れてくれるならば、どれだけ楽であろうか。
 他の天義騎士よりも遥かに強く、強靭な肉体は、それ故に生半可には倒れない。
 それでも、3人がヴィルジールヘと叩き込む数々の攻撃は、確実に騎士を追い詰めていた。
「神よーー我が命を。どうぞ、御照覧あれ」
 静かに、旗を自らに引き寄せ、静かに告げた祈り。それは明らかに、身命を賭す契りであった。
 恵まれた体躯と、それに違わぬ武の才覚、精神性。まともな状態であれば、この男は頼りにしうる者であったのかもしれない。
「死ぬまで、参りますか」
 手加減はしない。している余裕も時間もない。
 文字通りの死に物狂いであるのなら、尚更だ。
 雪之丞は蛇の目傘を静かに開き、もう片方の手で抜き身の影狼を構える。
「大人しくしてくれていた方がありがたいのだが」
 グレイシアは静かに葉巻を燻らせると、一息ついた。
 静かに据えられた眼光が、ヴィルジールを射抜く。
 雄叫びをあげたヴィルジールは文字通り、全身全霊をかけるが如く、天へと突き上げた旗を頭上で振るい始めた。
 雪之丞とグレイシアを巻き込み、そのまま殴りつけるようにて振るわれる旗が、極小の竜巻を作りだす。
 体勢を持たぬグレイシアがバランスを崩すが、スティアが冷静に対処し、ヴィルジールの気を引いて脱出させる。
 雪之丞はそれに変わるようにして、ヴィルジールの前へと走り込む。
 敵の作る暴風を、緋雨の結界術式で押し込み、ピタリと止まったヴィルジールの動き。
 ここまでの間に数多に交わした攻防により、ヴィルジールの手の内は把握していた。
 ほんの一瞬の隙は、彼の騎士が持つ致命的な癖――本来ならば、気取られる事なき、僅か癖が、累積した状態異常によって明らかに暴きたてられた結果。
 振り下ろそうとする旗は、引きつった身体により動かない。
 そのあまりにも大胆な隙を、たんと一歩でもう一つ踏み込めば、ヴィルジールの胸元を漆黒の刃が貫いた。
 治療をすれば、死にはしないだろう位置だ。
 立て直しを終えたグレイシアは、その手に虚無を帯びると、ヴィルジールめがけてそれを放つ。それを受けて、ヴィルジールの身体が停止する。
 レイチェルは不快感に僅かに顔を蹙めた。目の前の武人にではない。忠信ある武人を、こうにも貶める騙り部にだ。
「ーー殺しは死ねェ……ただ、少し眠れ」
 幾度目かとなった呪術式込みの矢が、騎士へと一撃を叩き込む。
 一瞬の間、旗を握る騎士は膝からがくりと倒れていく。
「攻勢を強めて!
 敵の攻め手を釘付けにします!」
 マルクの声がした。
 顔を上げれば、数人の騎士を連れたマルクが、防衛線から打って出ていた。
 新たに防衛線に取り付いていた敵兵たちを押し返しながら、こちらへと向かってくる。
 英雄とは、望まれた者。
 マルクの指揮を受けた騎士たちは、簡易ではあるが英雄の真似事を成せる程度にはその指揮の影響を受けていた。
 騎士隊の指揮を執るマルクではあったが、視線を傷ついてる仲間へ向けると、魔術書を紐解き、自らの力を変換した賦活術でグレイシアの傷に癒しを与えていく。
 スティアはセラフィムの能力を起動させると、雪之丞へと自らの魔力を変換した優しき光を降ろす。天使の羽根のような残滓がちらつき、傷口に当たり、残光と共に傷を打ち消していく。

●愚か者の詩
「――――」
 また、プロスペールの口が何かを口走り、次の瞬間には、霧を纏った剣が走るように真っすぐに突っ込んでくる。
 白刃を一度は躱すも、間髪入れずにプロスペールの口が動き、導かれるように敵の腕が不規則な動きを見せ、シラスの腹部を切り裂いた。
 たしかに入った一撃、灼けるような痛みと共に、身体の動きが僅かに悪くなる――それも束の間に、認識外へと追い落とす。
 ルチアはその様子を確かめると、手に握る十字架へ祈りを捧げた。祈りが祝福となり、シラスへと降りていく。
 シラスの身体の鈍さが瞬く間に消え失せ、気力さえ湧き上がっていくのが、目に見えて分かった。
 プロスペールの苦戦に気づいた敵兵士達が、こちらへと向かってくるのが見える。
「庇わせない! 塞がせない!」
 頭上に槍を掲げ、思いっきり振り回す。
 そのまま、勢いを殺さず丁寧に向かってくる敵兵を薙ぎ払う。
 炸裂音と閃光に警戒した敵兵達が、間合いを開けるように後退し、相対するように夏子は構えなおした。
 エッダはプロスペールの背後に回り込むことに成功していた。
 夏子の追い散らしの範囲外からシラスへと迫る数人の騎士。
「全く、無粋でありますな」
 静かに呼吸する。錬鉄徹甲拳――己が全てを拳のみなす鉄帝のさる一族に伝わる武術。
 エッダは己の呼吸を拳のように振るい、気を操り、迫りくる敵兵を視線で射貫く。
 直後――纏わりつこうとしていた敵の騎士達が血を吐き苦しみもがきながら後方へとすっ飛んでいった。
 アレクシアは集中していく。莫大な魔力が全身から溢れていく。トリテレイアの機能で魔力を制御し、効率的に――クロランサスでそれを安定させる。
 それは白く小さな花弁と化して、シラスとエッダ、夏子を識別し、癒しの魔力となって舞い散っていく。
「――――」
 プロスペールの口が動き、天へと剣を掲げた――直後。どこからともなく、無数の矢が戦場に出現し、文字通り雨のごとく降り注ぐ。
 それだけでは止まらない。それを躱したシラスへと、有り得ざる動きの剣が閃き――そのままもう一度、打ち込まれていく。
 パンドラの輝きが、刹那に瞬いた。
「ひひ、オラァ!」
 四度目の一撃――その剣の横腹を、思い切り叩きつけて致命傷だけは避ける。
「俺だって、この技を磨きあげてきたんだよ」
 極限の集中へ、もう一度入り込む。
 不規則な手拍子を一つ。
「しつけえんだよ、その手拍子がよぉ!」
 置き去りにした敵の声が、思惑通りに行っていることを教えてくれた。
 エッダはシラスへと集中する魔種へと静かに拳を向ける。
「もうそろそろ聞き飽きてきたであります。そのへたくそな歌」
 プロスペールが振り返るよりも先、螺旋を描いた拳が動き――振り返りつつあった魔種の頬を捉えた。
 弾かれた魔種の顔が凄まじい速度で反対へと向いた。
 大きく開いた隙。それを見逃さず、アレクシアはその安定した魔力制御を駆使して調和の力を変換した魔力をシラスへと注ぎ込む。大きく蓄積された傷が、瞬く間に癒えていく。
 それに続くように、祈りを捧げていたルチアは、その祝福によって高度な癒しの魔術をシラスへと注ぎ込む。
 危険水準はおろか、万全と言って過言ではない領域まで、舞い戻っていく。
「この先には行かせない!」
 切れた不動の精神性を再び獲得し、宣言する。槍を大きく振るい、その射程全ては自分のテリトリーだと。
 銃兵がこちらに向かって弾丸をぶちまけてくる。その弾丸を、穂先で叩き落としながら、この程度では落とされぬと、言外に。

 霧の向こうから、再び白刃が抜けてくる。
「――そろそろ見飽きたな」
 真っすぐに走ってきた一撃を手の甲で跳ね上げ、静かに挑発の言葉だけ残す。
 激高が、敵の視線に満ちていた。
「てめえら! そこの女を殺せェ!」
 激高が耳に入る。突然の命令が飛ぶ。
 魔種が剣を突き付ける先にいるのは――アレクシアだった。
「護るために力をつけたんだ、そう簡単に倒されるもんか!」
 剣を突き付けられた先にいたアレクシアは、反論するかのようにそう声を上げる。
 銃声がする――。後ろから飛んできた銃弾は、意識するよりも前に出現していた梅と桜が入り混じったかのような障壁に弾かれ、傷痕すら残らぬほどの小さなかすり傷を残すのみ。
「力があってもそんなものなの?」
 ルチアは光の槍を顕現させると、シラスとエッダを撃ち抜かない位置から飛翔させた。
 槍は魔種の横腹を大きく焼き払って消えていく。
 夏子は敵兵氏を数度に渡って後退させた後、走り抜けてプロスペールに至近する。
「つまらない奴だな」
 推進力をそのままに、跳ね上げるようにして突きを放ち、魔種の片眼を貫いた。
「ぎゃあ!?」
「さてはその兵法もお得意の騙りでありますな」
 螺旋と共にエッダはルチアの焼いた腹部を追撃する。
 吸い込まれるような螺旋の動きが、魔種を更に痛めつける。 

●狡兎の独り言
 戦いは佳境へと差し掛かりつつあった。
 多くの回復役の存在により、対プロスペール戦は戦線の崩壊をきたすことはなかった。
 だが、それでも人の領域を超えた反応速度と手数はしばしば回復役の供給を超えてくることがあった。
 開かれたパンドラの箱は複数。
 けれど――けれども。
 戦線が崩れることなくプロスペールを抑え込めたことは、この戦場における均衡を突き崩し、大きくイレギュラーズ側へと傾けていた。

 ――――銀花が開く。

「くそが……くそがよぉ」
「お前の詩に興味はない」
 プロスペールの舌打ちは――もう聞こえない。
 魔種の攻撃は強烈がすぎる。
 もう何度目だとか、そんなことはそれこそ不要な思考だろう。
 突き出される超高速の突きも、最早見慣れたものだ。
 ギリギリまで引きつけ、前へ転がるように突っ込む。
 振り下ろされる手を、今度は相手の腕に沿えるようにして受け流す。

 刹那――――紅蓮の焔がシラスの肩越しにプロスペールを貫いた。

 焔はそのまま滞留し、魔種の身体に呪いを縛り付けていく。
「ぐぁあぁあァアアァァ!!!!」
 ぎらつく魔種の視線が、シラスへと固定された。
 交わりかけた視線を外した時、一瞬だけ身体がぐらつく。
「プロスペールへの圧力を強めます! 皆さん、お願いします!」
 マルクが叫ぶ。その直後、幾つもの銃声が、プロスペール目掛けて打ち込まれていく。
「がぁ……、なんでぇ観客がこんなにいんじゃねえか」
 愉悦に敵の頬がゆがむ。
「そうさ、敵はてめぇだけなんだよ!」
 横合いから殴りつけるようにして夏子が槍を振るう。
 完全な死角と化した場所からの一撃が、プロスペールの肉体に強烈な一撃となって叩き込まれた。
 グレイシアは静かに走り抜ける。凍てつくような凄絶な格闘術を叩き込めば、プロスペールの身体がバランスを崩して倒れかけた。
「は……あぁ……」
 剣を杖のようにしながら、プロスペールがイレギュラーズを見渡した。
 直後、その姿がかき消えた。
「行く場所が分かっていれば、姿が消えようと問題にはならないでしょう」
 シラスの前へ立った雪之丞は、影狼を抜き、超聴力に身を任せた。
 聞くのは足の音でも、風の音でもない。呼吸の音。
 閃いた後の先の先を撃つ突きが、プロスペールの胴に風穴を開けた。
「そんな風に気持ち悪いから売れなかったのでありますか?」
 ナチュラルに煽り、エッダは動きを止めたプロスペールに近づき、その服をがっつりと握り己の螺旋に任せるままに思いっきりその身体を大地へ叩きつけた。
「てめェはここで死ぬんだよ」
 レイチェルは燻ぶる感情を露わに、プロスペールへと声を出した。
「は、はははっ、あは、ひひひひ」
 笑うプロスペールに、魔術式を起動する。
 連発した魔術式による疲労感は、たしかに蓄積しているはずだった。
 それをおくびにも出さず、レイチェルは再び術式を起こす。
 紅蓮の焔が術式から現れると、狼の頭部のように姿を改め、遠吠えの後、突貫していく。燃え盛る復讐の焔が、プロスペールの肉体を取り囲むようにして渦を巻き、大きく口を開けて頭の上から食らいついた。
 セラフィムに加えてサンクチュアリを展開するスティアはプロスペールへと焔を叩き込んだレイチェルへと自らの魔力を変換した優しき光を降ろす。
「ふ、ふざけ、やがって……なんだ、てめえらなんぞに……俺はぁ……
 俺はぁ、物語を――――」
「誰かを騙す為のそれは物語なんかじゃない、ただの嘘だよ!」
 視線を巡らせる魔種へと突き付けたアレクシアは、シラスの前に立ち塞がる。
「それの、何が悪い! 御伽噺だってホントの事ばっかじゃねえ
 叙事詩だって誇張してる。なのに、なのに、なんで俺のだけがよぉ」
「結局のところ、真実になど寸毫たりとも近づいていないのであります。貴様は。
 たしかにこれは滑稽な喜劇でありますな。ははは」 
 エッダが笑う。 
「どうしたおい、笑えよ」
「――――真実、真実なんてしったこっちゃねえ。
 俺は、俺はただ、物語を語りたかっただけなんだよ!
 それをてめえらに否定されてたまるかぁア!!」
「そうね、でもいくら強い力でも、こんな風に使う者に負ける訳にはいかないもの」
 ルチアが光輝く槍を再び顕現させていた。
「主よ――」
 短い言葉の後、槍がプロスペールの心臓を貫く。しかし、不殺の恩恵が、彼の死を許さない。
「ホント同情するよ… 騙りですらなく 独り言だった…ってさ!」
 夏子はそう呟いて、槍を手に取ると、思いっきり叩きつけ、続くようにグレイシアが殴りつけたあたりで、プロスペールの動きは完全に止まった。
 少しの沈黙が、戦場に満ちる。
 そして――戦場から勝どきと状況を理解できない者達の混乱の声が響く。
「落ち着いてください! 我々はローレットです! 武器を、降ろしてください」
 マルクがそう叫ぶ。
 認識阻害が消えた兵士達の混乱は――そう時間をかけることなく収まるだろう。

 ――――道化の物語は終わりだ。

 許す意味はない。憐憫を向ける理由もない。
 そんな愚者は最期に独り言を言うだけの騙り部から、
 たしかに物語の登場人物にはなれたのだろう。
 下劣で悍ましい、怪物役――英雄達の敵としてではあるが。


成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
閃翼

状態異常

シラス(p3p004421) [重傷]
閃翼

あとがき

お疲れ様でした。イレギュラーズ。

MVPは今回、一番過酷な役割を担ったあなたへ。

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