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シナリオ詳細

大鍛冶師の娘

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「助けてくれ!!」
 新進気鋭の鍛冶職人集団『ドロシーズ・ファクトリー』の筆頭職人ユージーンは、転がり込むようにローレットにやって来るとその場にいた『黒猫の』ショウ(p3n000005)にすがりついて悲鳴を上げた。
「オ……オータルの娘が……とにかく大変なんだ!!」

「俺には小太りの中年親父に抱きつかれたい趣味はないんだけどね」
 ショウが文句を言いながらもこの半泣きで何を言ってるのかわからないおっさんを宥めて聞き出したところによると、鍛冶師オータルの娘リリーナが、彼の鍛冶場に「修行のため」と称して現れたらしい。
 鍛冶師オータル――おそらくその名を聞いたことのある者もいるだろう、彼の打つ剣は魔法を帯びて竜の鱗すら容易く斬り裂くと言われる、あの大鍛冶師のことだ。
「ああ、俺はその名前を聞いた瞬間に、今まで『この鍛冶ブランドで世界一になってやるぜ』なんて考えてたのが全部すっ飛んじまったぜ……だってそうだろ? 二十歳にも満たないあの娘っ子に対して、俺が何を教えてやれるって言うんだ!!」
 天を仰ぎ見た後に、差し出された水を思いきり飲み干したならば、ユージーンは少しばかり落ち着いたようだった。今度は手を組み合わせ、おのれの罪を告白するかのようにその先のことを訥々と語りはじるユージーン。
「だから俺は、このネタならば満足してくれるだろうと思って、炎の武具を作るのに役立つ火竜水晶の在り処の噂を教えたんだ……そしたらあの娘、なんて言いだしたと思う?
 置いた荷物に手を伸ばしながら、『ウチも一度くらい打ってみたいって思ってたのよね』だぜ?
 ありゃあ、自分で採りに行く気満々な顔だ……俺が伝えた話のせいで大鍛冶師の娘が危険に晒された、なんてことになったら、妻に『まーたアンタは軽率なことばかりして!』って叱られちまう! 助けてくれローレット!!」

 なるほどよくわかった。つまり、今回の依頼はこうだ:

依頼内容:リリーナの火竜水晶採集遠征を護衛する
依頼料:ぜんぶユージーン持ち

 どう転んでもユージーンが奥さんに叱られるの確定案件に見えませんかねこれ……と誰もが思ったところで唐突にギルドの扉が開かれて、栗色の毛の獣種の娘が顔を覗かせたのだった。

「へぇ、ここがローレット……ウチの火竜水晶採りを手伝ってくれるってのはアンタたち?」

GMコメント

 はい、さようです。

 ……というわけでどうも皆様、るうでございます。
 このリリーナという鍛冶娘、若さゆえか随分と怖いもの知らずというかなんというかのようですが……とりあえず彼女が酷い目に遭わないように護衛してあげてください。多少痛い目に遭うくらいなら仕方ないかな……。

●火竜水晶の在り処
 とある火山の火口の内壁に析出しています。リリーナは火口ギリギリのところまではひょいひょいと進んでいってしまいますが、火竜水晶には炎の精霊が宿っており、彼女らを倒さない限りは火竜水晶は入手できません。

 精霊たちとの戦闘は、火口内壁の狭い足場で行なう羽目になります。飛行状態や、然るべきギフト・スキル・アイテム等をご利用になる場合を除き、常時バッドステータス【体勢不利】と同様の効果を受けつづけることになるでしょう。

●炎の精霊×3
 可燃物(人を含む)を見つけたら、とにかく燃やすのが大好きな精霊たちです。【火炎】や【業炎】の技を使用し、燃えやすそうな相手への攻撃を優先します。『過酷耐性』スキルの持ち主は多少燃えにくいと判断するようです。
 リリーナは自作の耐火ジャケットを着込んでいるため、攻撃優先度はかなり低めです。

●Danger!
 炎の精霊との戦いで戦闘不能になったとしてもその時点では死亡しませんが、もしも全員が戦闘不能になったり、戦闘不能者を残して撤退するようであれば、炎の精霊は嬉々として戦闘不能者を火口に投げ込みます。
 つまりパンドラ残量に拠らない死亡判定が発生しますので、あらかじめご了承の上ご参加ください。

  • 大鍛冶師の娘完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月15日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
銀城 黒羽(p3p000505)
武器商人(p3p001107)
闇之雲
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
彼岸会 空観(p3p007169)

リプレイ

●火竜の口
 山体が吹きつける風を切る音が、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)の耳の奥で目まぐるしく形を変えていた。その低い、うねりを帯びた背景音が彩っているのは、彼自身を含めた9つの足音。軽石同士がこすれ合い、時に小さく崩れてゆくときの乾いた音が、カラカラと何もない空の中へと吸い上げられてゆく。
 そのうち最も先頭をゆくものが、彼らが“護衛”すべき人物が立てていたものだった。まったく、困ったお嬢さんもいたものだ……いざという時に首根っこを引っ掴んでやる羽目にならなければいいのだが。そんな義弘の心配とは裏腹に、危なげなくひょいひょいと斜面を登ってゆくリリーナの後姿。
「どんな武器を作るんだろうね」
 彼女は今回の収穫を手に、素晴らしいひと振りを作り上げるのかもしれない――そんな想像が『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)を楽しませてくれる。
「そしたら、闇市でゲット( ゚ロ゚)!!できるネ!」
「ヒヒヒ、せめて正規に買っておやりよ。ついでに、その時は我(アタシ)を通してくれると殊更有り難いね」
 期待に胸を弾ませる鈴音の横から、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が囁いた。あの「尖った」武器を作るオータルの娘。あと幾らか冒険を遂げれば、さぞかし“彼女らしい”武具を作ってくれそうじゃあないかい。
 そうほくそ笑みながら、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の担いでいた“棒”のほうをちらりと見れば。……するとその時、彼女の肩の何の変哲もない竿の先端が、まるでその視線に応えるかのように炎の穂先を燃え上がらせたのだった。
「この子も、仲間ができるのを楽しみにしてるのかな?」
 神槍『カグツチ天火』に宿るのは、父――炎の神の力にて鍛えられし炎。かつての世界との繋がりを失った今も、炎は焔が寂しがらずに済むような出会いに恵まれるよう、祈ってくれているのだろうか?

 ……だとしても。
 『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)には、どうにもリリーナのことが心配で仕方がなかった。彼女は自分が無事に戻ってこれると考えているし、別に無理に守ってくれる必要もないよと嘯きさえもする。……が、そんな彼女の自信家ぶりは、どこかで懲りておかないといつか大変なことになるに違いないのだ――溶岩に落ちて死ぬなんて、クーアの求める焔色の“救済”とは、きっと似て非なる代物だというのに!
(せっかちというか……何か焦ってんのか?)
 リリーナに対するそんな『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)の洞察は、あながち間違いとも言い切れなさそうだった。
 偉大な鍛冶師として知られる父。誰もが彼の見事な仕事を褒めそやすものの、その裏には膨大な量の基礎が横たわることを理解できる者など滅多にいない。
 実のところ、当のリリーナ自身もその域になど達していなかった……自分では必要なものは全て習得したと考えていて、けれども父から見ればまだまだ三流なのだ。彼女は見た目こそ軽やかに斜面を登っているようでいて、実際は、そんな見えない何かに圧しかかられて足掻いている――そんな彼女に対してサンディは、安心して俺に任せろと胸を叩くことくらいしかしてやれない。
 もしもユージーンが彼女のそんな苦悩に気付いてやれていたならば、彼女を危険に晒す事態にはならなかったのかもしれない。そう考えると、今思い出しても『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は頭が痛かった。
(あのおっさんも、余計なこと言ってんじゃねぇよ。せいぜい奥さんにこってり絞られながら待っときな)
 だがまあ、泥縄的だとしても護衛を用立てることにした判断だけは悪くない……もしもそうしていなかったのならどうなっていたか? それは、彼岸会 無量(p3p007169)の3つの瞳が見抜いている――すなわち。
「道を進む為の光が見えたなら、その方向へ行こうとするは必然。それが彼女の鍛冶の道であり、そしてその先に光が見えた。……ならば、どうして己を止める事など出来ましょうか?」
 ――彼女が単身で火竜水晶採りに向かっていただろうことは、想像に難くなかった。むしろ、目の届く範囲で幾らでも水晶と火精らの火を観察させてやることができるのだから、彼女にとっては好ましいことでさえあったと言える。

 火口の縁に立って中を見下ろすリリーナに追いつくと、すり鉢状になった大地の底を、赤熱する液体が満たしている光景が露になった。なるほど、その姿は火竜の口のようにも見える……そして口のかなり下のほうに輝く仄赤い結晶が、件の火竜水晶だろうか?
 さしものリリーナも、ごくりと唾を飲んでいた。来た道よりも遥かに険しい、一歩間違えれば溶岩のすぐ傍まで真っ逆さまの壁だ。できない……とは思わないのが彼女。それでも、だからといって躊躇せずにいられるわけではあるまい。
「下がっとけ」
 義弘の腕が横に伸び、そんな彼女の行く手を妨げる。耳に微かに飛び込んでくるのは、くすくすという少女たちの笑い声……出元は火竜水晶のほうであり、精霊たちが獲物を見つけて、無邪気に笑っているのだろう。生憎、この距離からそれを聞き取れるのは、義弘の耳だけなのだが。
 だからリリーナの表情が歪んだ。そんなに過保護にせずともいいのにと。ならば、そんな彼女に鈴音は訊ねてみる……君は、ローレットで人気の武器がどんなものか知っているのかと。
「そりゃあ……切れ味抜群で、取り回しもよくて、できれば魔法の能力がついてるようなのじゃあないの?」
 リリーナが唐突な問いに面食らいながら答えると……鈴音は「自分の目で見てちょ☆」と悪戯っぽく囁いてみせた。それから次々に火口の中に降りてゆく仲間たちを追って、彼女自身も飛び込んでゆく――そして、先頭の武器商人が燃えた。

●火精の悪戯
 炎は武器商人を包み、その髪を内側より赤々と輝かせてみせる。辺りに精霊たちの楽しげな笑い声がこだまして、さしものリリーナも絶句する――自分は決して、誰かの命と引き換えにしてまで火竜水晶を欲したわけじゃないはずだったのに、と。
 ……けれども。
「ヒヒ、元気な子たちだねぇ」
 炎の中から聞こえてきたのは、断末魔ではなく可笑しがる声だった。どうだい、おやつが欲しかろ? 懐から脂の塊を取り出して、我(アタシ)の傍へおいでと手招きする武器商人の姿は……どういうことだろう、赤熱した髪の他は何も変わらない。体も、服も。
 ちらちらと武器商人に目を遣りながら、互いに互いの後ろに隠れるように距離をとった火精たちが何を囁きあっているのか焔には解る。
「怖い? う~ん、水晶を少し分けてもらいたいだけなんだけどな。炎の武具を作るのに使いたいんだ」
 すると精霊たちから返ってくるのは、くすくす笑いとともに囁くこんな声。
『いいよ?』
『だってそこ、こっちのプールと比べて窮屈なんだもの』
 ただ……そう言ってふわりと浮かび上がり道を開ける彼女らは、本当に人間たちに火竜水晶の採取を許したのだろうか?
「あの子たち、やけに明るく輝いてる気がするね……」
 敵を見抜く鈴音の指揮官の目が、彼女らを包む力の正体を見抜く。あの光、彼女らが力を溜めている証拠ではあるまいか、と。
 ……何のために? 決まってる。それは……馬鹿正直に水晶に向かおうとする人間をこんがり焼くためだ!!
「……といっても、アタシらは戦闘のスペシャリストだからね。それを計算に入れても実力じゃこっちが上だ……行ってこい!」
「おうともよ。さあ来い、精霊たち……焼かれる――ってか、死にかけるのには慣れてるからな」
 鈴音に背中を叩かれる勢いに自らの跳躍の勢いを乗せ、黒羽の体が宙へと舞った。自ら溶岩に飛び込むがごとき決死の突撃は……けれども彼から吹き出す闘気が一瞬見せた、僅かな間の幻にすぎない。
「さあ来いよ。簡単には倒れてやらねぇから好きなだけ燃やしてみせな」
 精霊三姉妹は少しの間どうしたものかと囁きあった後、最も彼の闘気に当てられた1体が惹かれるように近づいていった。その体温に炙られた黒羽の肌が裂け、皮下脂肪が焼けて香気を上げる……まだまだ、彼にとっては心地のよい熱だ。
 だが直後……そんな彼をすら戦慄させうる、強烈な殺気が辺りに満ちた。突如として振り下ろされた白銀の太刀……無量がそこにもうひと掴みほどの殺意を篭めれば、ゾンビのごとくしぶとい黒羽も、この世ならぬ法則に従うとしか思えぬ武器商人も、容易くその命を刈り取られただろう……そんな刃が精霊の小さな体を、上から下まで真っ二つに斬り伏せるのだ!
 精霊は炎に包まれて、失われた半身をすぐに補って……そして恐怖に引き攣るような顔を浮かべた。
「……失礼」
 気付いて無量は謝罪を述べる。精霊はきっと彼女の口許が、自ず綻ぶのに気付いたのだろう……だって、精霊を斬るなんて初めてで、どうしても思わず浮ついてしまう。
 その時、踏み込んだ足元が崩れはじめる。体勢を崩した無量めがけて、精霊の炎が集まってゆく。でも……その時火精がどんなふうに火を使ったか見えた? 今のがもしリリーナの探求の糧になったというのなら、焼かれる肌すら心地よい……。
「……俺はあんま燃えたくねーんだけどな」
 見ていたサンディが、思わず身震いしてみせた。そのためにも、まずは精霊たちがクーアや焔の“お話し合い”に応じる価値を見出してくれるよう、実力を見せつけてやらなくちゃあならない。
 さて、一気に跳躍だ。何故だか風の悪神に気に入られているらしいサンディにとっては、この目も眩むような崖さえ恐れることじゃない。もしも彼がバランスを崩すようなことがあっても、嵐神はその風にて支えてくれるに違いない……が、気まぐれな悪神に命運を委ねるなんて、そんな恐ろしいことしたくもない!
「がんばれジェットパック、それとせっかく用立てた鋼鉄のロープ……」
 文明の利器パワーで軌道を調整し、風の拳で精霊を吹き飛ばす!!

 精霊たちのざわめきが火口に反響し、にわかに溶岩がふつふつと沸く音が立ちはじめたようだった。だが……彼女らはかといって、訪問者たちを燃やすのを止めたりはしない。
「ならば、焔の応酬にて語り合うしかないのです」
 クーアがぐっと拳を握った途端、遠巻きにしていた精霊の1体が爆ぜる。炎の精霊が相手では、炎そのものが効かないのは承知……でも、爆風は? 正義の猫耳放火魔メイドにとって、放火とはただ燃やすだけのものではないのです!
「私は、お友達になりたいのです」
 そんな説得(放火)をしてみたならば、いっそうきらきらと輝きはじめた火精たちの瞳。
『なろ? そして、そこの人たちみんな燃やすの!』
「うーん、この人たちは燃やしてはいけないのですが……」
 こんなとき……クーアはどう返してやるのがいいのだろう?
「俺でよければ、好きなだけ燃やしてくれりゃいい」
「ヒヒ、そんなに怖がらなくたって、ここに幾ら燃やしても燃えつきない玩具があるよ」
 黒羽と武器商人が口々に誘ったけれど、精霊たちの炎でも、クーアの放火でも燃え尽きることのない2人を相手にするのでは、どうやら精霊たちらは物足りない様子……なら、そんなおいたの過ぎるお嬢ちゃん方には、義弘が任侠の心意気ってものを見せてやろうじゃねぇか。
「そんなに燃やしてぇ、燃やしてぇって言うんなら、この桜吹雪を燃やして見せて貰おうじゃねぇか」
 脱いだ上着を放り投げたなら、服は急な斜面を滑り落ちてゆく……次は、そうなるのは彼自身の番やも知れぬ。
 ……が、任侠道に足を踏み入れたその瞬間から、義弘は死への恐怖など捨てたのだ。あるのは義。仲間のために失うのならば、命も――背に刻んだ桜吹雪も惜しくない!

●炎の中で
「かかって来い」
 義弘の拳が振るわれるさまは、まるで桜の竜巻だった。嫉妬した嵐神がサンディを急かす……あやつに、真の嵐を見せてやれ、と。
 暴風を纏ったサンディの拳が、火精を捉えて風の中に封じる。激しく、恐ろしく……そして神々しい檻に閉じ込められ魅入られた精霊は……直後、追いついた義弘の竜巻に巻き込まれ、風の中に舞う火の粉の群れへと変わる。
 慌てた様子の残りの2体が、竜巻に新たな炎をくべた。
「炎を落とせ! 松明にでもなるつもりか!」
 鈴音が野太い声を作って指示するが……おそらくは、たとえ義弘が従ったところですぐに限界を迎えるに違いない。
 だが、たとえ炎が肉を焼けども、その男気までは焼ききれなかった。竜巻に巻き込んだ岩々で炎を消して、気力ひとつで立ちつづけてみせる……限界を少しでも先延ばしにするためのその僅かな足掻きは、必ずや確かなる結果をもたらすだろう!
 精霊たちが震え上がったのは、運命が彼女らを穿つ光景か? いいや、そうじゃない……決して焼かれることなき武器商人の囁きが、彼女らを惑わし駆り立てるからだ!
「おやおや。その男を燃やすためだけに、随分と近寄ってきてくれたじゃないかい……我(アタシ)は燃やさないのかい」
 彼女らは気付く。焼かねばならぬ。滅ぼさねばならぬ。さもなくばこの世の灯火は、凡て失われるやもしれぬ、と。
 そんな錯覚に陥ることこそが、足掻きが生んだ結果であった。だが……ああ、どれほどその炎を燃やしたところで、“ソレ”は決して焼き滅ぼせぬというのに!
「今のうちに叩き込んでこい!」
 隙を見逃すことなく号令する鈴音。もちろん、と呼応するものは、穂先を燃え広がらせる焔の『天火』だった。
「炎の扱いならボクだって負けないよ! お父様の加護がある限り、そんな炎なんて効かないんだから……むしろ、ボクが君たちを燃やしてみせる!」
 父ならば炎精すら容易く溶断しただろうその火槍捌きは、人の身では猛火にて攻め苛むのが精一杯……けれど、彼女らを相手にこれだけできれば、少なくとも今は十二分!
『!』
 目を瞑り、声にならない悲鳴を上げた精霊たちは……さらに黒羽の闘気にも当てられて、随分と弱っているように見えた。決して直接は他者を傷つけることなき闘気の鎖も、絡め方ひとつで相手の動きを封じ、確かな敗北へと追い立てる。

 そろそろリリーナも、精霊たちの戦いぶりの中から、何かを掴み取っていたに違いなかった。
(素直に様子見してくれてて何よりだ)
 岩陰にそっと身を潜めたまま戦いの様子を伺っているリリーナの姿を認めると、クーアのほうを振り返るサンディ。彼女の降伏勧告で、精霊が降参してくれればいいのだが……そんな彼の願望は、はたして彼女らに届くのだろうか?
「これ以上、傷付け合わなければいけないのですか? 私には、精霊さんにお願いしたいことがあるのですが」
 そう言って差し出したクーアの手をじっと見つめて……精霊たちは、小首を傾げてみせた。
 花火のように火を噴いたその手のひらに驚いて、喜んで堪らず飛び込んでくる精霊たち……それがこの戦いが、血みどろになる前に終焉したことを物語っていた――。

●鍛冶の道
『『『……お願い?』』』
 しばらく溶岩に戻って英気を取り戻した精霊たちは、改めて揃って小首を傾げるのだった。
「そ。リリーナちゃんが武具を作るから、協力してくれないかな?」
 焔が後ろのほうを指したなら、岩肌にがっちりと食い込んだ火竜水晶と悪戦苦闘していたリリーナは、ちょうど作業をひと段落させて振り向いたところだった。
「これだけ純度の高い水晶なら、剣に嵌めれば炎の剣に、鎧に嵌めれば耐火の防具になるよ。精霊の力が篭もるなら、たぶんもっといいのが作れるはず……」
「だったら、精霊さんたちが宿りやすい武具にしてあげることもできる?」
「ウチには、力を宿すくらいしかできないね。そういうのは鍛冶屋ってよりは魔術師の仕事だろ? ……親父くらいになれば出来るかもしれないけど」
 親父くらい、と彼女が口に出したとき、その口許が微かに歪んだ様子が黒羽には見てとれた。リリーナにとって父親という存在が、どれほど偉大で――そしてどれほどの重圧を彼女に与えているのかは、本人ならぬ身にはただ想像するほかはあるまい。
「……何にせよ」
 そんなリリーナの傍らに立って、黒羽は、厳しく、しかし穏やかな口調を作って言い聞かせるのだった。
「無茶をするのも程々にな」
 それから、努めて明るい声を作って。
「まぁ、お前さんの造った装備を楽しみにしてるぜ。頑張ってくれよ未来の大鍛冶師殿」
「解ってるよ……その……」
 少しばかり目を逸らしつつ、それから口ごもったようにリリーナが呟いたのは、アンタたちにも迷惑かけたし、そのぶんくらいは返せるようになってみせるよ、との言葉。
「……つまり、良い武器が作れそう、という意味だと取ればよいのですね?」
 無量がそんなふうに聞いたなら、彼女は、もちろん、と頷いてみせた。代償以上の対価を得る……無量の思う『一流の条件』のひとつを、彼女はきっと満たしているのだ。
「じゃあ、武具が完成したときは連絡ください( ・`д・´)」
 懐に手を当てながら妙にキリッとした顔をしてみせる鈴音に、気付けばいつの間にか精霊たちとすっかり打ち解けて、何やら放火のお手伝い契約のようなものを交わしていたクーア。
 こうして目的を果たした9人の帰路は……さて、再びこの崖を登るところから始まるのだ。

成否

成功

MVP

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳

あとがき

 まさか、精霊を手懐けるルートがあったとは読めなかった……このるうの目をもってしても!

 そんなわけで、想定していたよりずっと小さな被害で戦いを終えることとなった皆様でした。
 もしかしたら、いつしかリリーナの作った武具がローレットに届くことがあるかもしれません。もしもお見かけになったなら、今日のこの冒険を思い出してくださるのでしたら幸いです。

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