PandoraPartyProject

シナリオ詳細

なんでもない日に空を望んで

完了

参加者 : 17 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……」
 春の息吹が心地よく窓辺から入ってくる。
 格式ばった執務室の中、少女――『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は真剣な面持ちで椅子に座っていた。
 重要そうな書類に目を通してはサインをしていく。
「ふぅ……これで今日の分のは終わり、ですよね?」
 最後の一枚を隣に立つ女性に手渡してから、少女はふぅと一つ息を吐いた。
「お疲れ様です。お嬢様」
「明日の予定は……そういえば、明日は管轄地の視察ですよね!」
 明らかに面倒くさそうにしていた少女の目に、一気に生気が満ちていく。
「ええ、まぁ……そうですが」
「んー! 久しぶりの外ですよ! 町の人達は大好きですけど、お出かけなんて久しぶりですから。ふふ、楽しみです」
「先だって都にいかれたはずでは?」
「あれとこれとは別ですよ。面倒くさ……いろいろと考えないといけない事に関わるのと、いろんな人に会いに行くのは一緒じゃないでしょう?」
 思い出してうへぇとげっそりした後、ぐぐっと伸びをして、視線を外の景色に向ける。
「まぁ、いいでしょう。明日はどこへ行く予定か、分かっておられますか?」
「ええ。あそこでしょう? 例の再建中の」
 テレーゼは頷くと少しだけ悲し気な表情を作る。
「紅蓮の巨人が荒らしたおかげで、あの町は使い物にならなくなりました。今、あの町の更に南に再建しつつある町は、それ故に神経質な部分があります。ただおでかけ、というぐらいの気持ちでいかれても困りますよ」
「分かってます。あの町の姿は、私も見ましたから」
 ため息をついて、テレーゼはおそるおそる笑う。
「それから、一応、傭兵団を連れて行って下さい。護衛は必要でしょう」
「えぇぇぇ……でも、あの人達を連れていくとなると、町の人の緊張を煽るかもしれませんよ?」
 露骨に嫌そうな顔を浮かべる。折角のお出かけに護衛でたくさんの人を連れ立っていくことへの嫌悪感を隠す気もない。
「だからと言って、護衛もなしに外へ行かせるわけにもいきません」
「ぶーぶー。私を狙う人が居るわけないです」
「……いい加減になさらないと取りやめにしますよ」
「でしたら他の人に頼みます! ユルゲンさん達傭兵団の皆さんにはブラウベルクの守りをお願いした方がいいはずです。私個人より、絶対」
 身内に見られる中で行動するのは嫌だという本音をくるくると包んで言えば、秘書の女性が大きくため息をついた。
「……ではどうなさるのです?」
「いつもの通り、あの人達にお願いするんです」
 微笑みながら言えば、秘書は額に手を当ててやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。


「――とまぁ、そういうわけで、私の護衛を皆さんにお願いしようと思いまして」
 集まってきたイレギュラーズを見て依頼人、テレーゼが穏やかな笑みを浮かべる。
「秘書さん達は私の身の危険がどうとか言ってますけど、まず確実に私が襲われることはないと思います」
 久方ぶりの堂々といける遠出にテンション高めなテレーゼは目を輝かせながら君達に言うのだ。
「そうそう、この時期、あの町には渡り鳥が来るので野鳥を見るのも良いでしょうし、出来たばかりの町ですから、色々と商店があるみたいですよ? 行商とかも新しいコネを作ろうと行きかってるみたいですし。きっと、いろんな物があると思います」
 せっせと荷物をまとめ終えたテレーゼは、そこで早々と一つ言い忘れたことを君達に声をかけた。
「特に、夜空は綺麗だと思います。今ならきっと、深夜まで営業してるとかも少ないですし満天の星空が眺められるんじゃないでしょうか?」
 ぽんと手を叩いて少女は笑った。

GMコメント

さて、こんばんは。皆さま。

バードウォッチング&夜空見物へ行きませんか?
護衛と言う体ですが、護衛任務は特にありません。

●プレイングについて
迷子を避けるため、出来る限り、例文の様にお願いいたします。
【例文】
一行目:【1】~【3】 (行きたい場所)
二行目:同行者名、グループ名など。
三行目以降:わーやちょうきれー(本文)

●注意
(1)描写が薄くなってしまいかねませんので、出来る限りどこか1つの場所をお願いします。
(2)同行者名は愛称などでも大丈夫ですが、最低でもPCID(p3p~)がないと迷子になりえます。

●できること
【1】野鳥見物
この時期、一帯に訪れるという渡り鳥やらその他の鳥達を眺めながらのんびりしましょう。
町の外れ、少し森林のようになった場所で心地よい風に包まれながら野鳥を眺める形です。

一帯に現れるという渡り鳥、綺麗な青色の羽毛が特徴の鳥の他、この時期みられそうな鳥は大体いると思われます。


【2】お買い物
町に訪れているという行商や地元のお店でお買い物ができます。
南方から訪れ、北に行こうとする行商人は何やら衣料品を多く取り揃えているようです。
綺麗な物から素朴な物、一風変わった近隣の民族衣装っぽい物まで。

その他、宿場町の移転のためか、様々な系統の食事処が存在しています。

【3】夜空見物
町の人々も寝静まった夜、昼間にバードウォッチングをした森林一帯で夜空を見ることができます。満天の星空の下、のんびりとした時間をお過ごしくださいまし。


テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)に関しては絡んでいただければ登場しますが、基本的には適当にひっそり楽しんだり仕事しています。

  • なんでもない日に空を望んで完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年05月15日 21時45分
  • 参加人数17/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 17 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(17人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
烏丸 織(p3p005115)
はぐれ鴉
リナリナ(p3p006258)
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳

サポートNPC一覧(1人)

テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)
蒼の貴族令嬢

リプレイ

●晴天を舞う蒼の鳥達へ
 緩やかな暖かさは春の温もりを感じさせ、或いは夏の足音を微かに刻む。
 そよ風に揺らぐ木々のザァ、ザァという音が森の中に溶け込む。
「鳥さんを見れるだけあって、ほんまに静かでええとこやね
 空気も美味しいし、こんな日ぃは昼寝したいわ」
 セティアの手を引いて歩いていた蜻蛉はそう呟いて少女の方を向いた。
 良く分からないまま着いてきていたセティアはうんうんと頷いて。
「すごい絶好の、まじではんぱない昼寝日よりみあるかなっておもう、たぶん
 いっとくけど私、十秒とかで寝られるから、すごい自信あるから、たぶん」
 普段通りのややジト目のような目をこする。いや、やっぱり普通に眠いっぽかった。
「やちょう? とり? とりいる? こわい? たべる? たべない…! たべない!」
 ハッとして、セティアは少し顔を赤らめる。お姉さんに憧れるセティアは食い意地はってるような自分に恥ずかしくなったようだ。
「やばい、とりきれい」
 あたふたとして可愛らしい様子を見せるセティアに微笑む蜻蛉はそっと唇に人差し指をか出して、小声でしぃーと息を漏らす。
 滑るように飛ぶ青い鳥の数匹が二人の近くに降りてくる。
 意外と人懐っこいらしい。
 不思議そうに頭部をくるくると傾げたような仕草をした鳥たちは、やがて飛び立ち、近くの木を経て大空へ帰っていく。

「野鳥観察か。素直に観察だけするのって珍しいよね?」
 野鳥の観察に訪れていたルーキスとルナールの二人。
「普段は慌ただしいしな? ま、たまにはゆっくり休んだ方がいいさ」
 ぽふんとルナールがルーキスの頭に手を置いて、苦笑をこぼす。
 お誘いありがとうルナ、たまの一日ぐらいのんびりしようか」
 適当な木陰に二人で腰を掛けた辺りで、ルーキスはふと問いかける。
「ルナは季節だと何処が好きだい?」
 晩春とも初夏ともいえる微妙な季節ならではの話題である。
「私は春か秋だなぁ」
「んー季節か…俺も春と秋かなー」
「夏は夏で羽根が暑いじゃない? 離れようとか思うこともあるんだけど」
「暑くても離れるのは嫌だしな、暑いとか気にしたことはないが」
 言われたルーキスは悪戯っぽい笑みを浮かべると、少しばかり立ち上がって、ルナールの方へと近づいて座りなおす。
 二人の、穏やかな何もない一日を、ぼうと過ごしていると、不意に鳥の声。
「あぁ、あれが噂の青い鳥かぁ……」
 青空にとけるような綺麗な羽をした鳥はやがて近くの木々に止まって羽を休める。
「……絶対ルーキスの方が綺麗だし可愛い」
「こらこら、褒めちぎっても何もでないよ」
 抱き寄せられ、頭を撫でられるルーキスはそう言いつつ。
「………うん、まあ二人の方が何事も新鮮といえば新鮮か」
「俺にとってルーキスだけが幸運の青い鳥だからな……あと、照れてるルーキスが可愛い」
 そんな照れ隠しは弟子にバレバレで。そのまま二人は涼しげな木々の音と鳥の音に目を閉じた。
「野鳥見物ねぇ…同じ鳥でも、色が違うだけで、こうも違うかね」
 口をとがらせぶつぶつと言いながら歩くのは織だ。
「カラスの黒だって、捨てたもんじゃないさ」
 そう言い放ってから、バサバサと背中に羽根を出し、目星をつけた木の枝まで飛び、そこに背を預けて寝転がり目を瞑る。
 故郷を思い出すような涼し気な森の音に目を閉じていると、不意に感じ取る気配。
 目を開けてみると、いつの間にか数匹かの鳥が興味深げに織を見ていた。
「お前さ、俺がカラスって分かってて…ココにいる? この業界じゃ嫌われ者だぜ、ほら……悪い事は言わねぇから、向こうへ行きな」
 そう言いつつ、手で追い払ったりはせず、そのまま再び目を閉じる。
(……まぁ、確かに、見事に綺麗な青だ。
 そこは認めるべきかねぇ…珍しく素直に)
 ひねくれ者よりな八咫烏は微睡みに身を落とす。柔らかいふわりとした何かが、お腹辺りに乗った気がした。

(まぁ、仮にも領主が護衛もつけずにふらふらしていれば体面の問題があるし、善からぬ事を考える賊も出てくるでござろう。
 何よりも、拙者達の食い扶持になるので非常に助かるわけでござる。)
 すっからかんな財布をひっくり返した下呂左衛門は首を振って。
 そんな彼も、鳥をじっくり眺める時間なぞ滅多にないと空を見上げる。
 澄んだ空気はそれでなくとも、心地よく、草木の香りが胸いっぱいに広がっていく。
(それにしても、空を飛ぶというのはどういう気持ちなのでござろうな。いつも見上げるだけの身には想像もつかないでござるなぁ)
 穏やかな空を見上げて、武士は鳥のさえずりに耳を澄ます。

「テレーゼ様、お誘い……おっと、護衛任務のご依頼、ありがとうございました。今日は、お忍びじゃないんですね」
 笑って茶目っ気を見せた依頼人にマルクも頷いて。
「それにしても、渡り鳥の羽、キレイな青色ですね。僕は幻想の北の方の生まれなので、見たことのない鳥です」
 気付けば肩に乗ってきていた青い鳥を驚かせないように、小さな声でマルクは問いかけた。
「北の方は北の方で、またいろいろな生き物が良そうですね。見てみたいです」
 頷いた所で、青い鳥は空へと舞い上がる。
 その様子を眺めつつ、マルクはふとテレーゼに問いかけた。
「テレーゼ様は、鳥にもお詳しいんですね。
 それとも、城を抜け出しては、野鳥を眺めに来ていた?」
「昔は気にしなかったので、時々……」
 暗にここまで来てないだけで野鳥を見に外に出ていた事を匂わせながら笑う。
「よかったら、あの鳥が何ていう名前の鳥なのか、教えてもらえませんか?
 いつかこの町が復興した時に、その象徴の一つになったらいいな、なんて思うから」
 優し気な問いかけに、テレーゼはふと首をかしげて唸る。
「名前、名前あるのでしょうか……特に考えたことなかったです……」

「おー、どれも美味そうだなっ!あのトリ肉、獲っちゃダメなのか?」」
 リナリナは目を輝かせて森の中に住まう鳥たちを眺めて問う。
「あれは駄目ですね。鳥なら……」
 町人がそう言ってリナリナをやや離れたところに連れていく。
「おー、ふっくらトリのマルヤキ!」
 ずんぐりとした鳥のマルヤキをどこからか持ってこられたリナリナが目を輝かせる。
「ヤキトリ! シオダレ! アマダレ! もも! かわ! ればー!」
 ぱちぱちと鳴る音にじゅるりと舌なめずり。
 やがて、他の参加者も集まってほんの少しのバーベキューが始まった。

●希望を目指して
「お初にお目にかかります! 橘花芽衣です!」
 やや幼げに見える、赤と黄色の瞳をした女性――芽衣は、今回が初めての依頼であった。
「はい。よろしくお願いします」
 道中、芽衣の誘惑に吸い寄せられてきた町人たちに囲まれたりしつつも、無事に町の中心地に辿り着く。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ? ゆっくりしましょう?」
 依頼人の分と一緒に用意されていたお茶に舌鼓をうつ。ほんのりとした香りが心地よい。
 行政的な仕事を語り合えたのだろうか、不意に依頼人がほうと息を吐いて。
「ああ、そうですそうです。実は今日、ご紹介したい人が居るんですよ。きっと町長にとっても役に立つと思いますよ」
「ほう、……と申しますと?」
「はい、こちらの新田さんは色々と伝手があるお方で。きっとこの町に必要な人材の提供とかもしてくださるかと」
 そう言ったテレーゼに紹介された寛治は、すすッと進み出る。
「新規に興される商業地区とあれば、是非私にも協力させていただきたく」
 くいっと眼鏡をやって、寛治は町長へと案件の提示を始めた。

「テレーゼ様のご紹介のおかげで、いろいろと捗りました。質素倹約を旨とし、市井に寄り添う。素晴らしき事かと存じます」
 町長との商談を終わらせて、人目が少なくなってきたところで、ググっと伸びをした依頼人に向けて、寛治は語りだした。
「とはいえ、質素な衣服ばかりでは、貴族社会で埋没してしまうのもまた事実。されど存在感を示すためだけに着飾るのもお好きでは無いでしょう」
「えぇ。面倒ですけど、もっと面倒なことを避けるには必要な事ですよね」
 何やら痛感した出来事でもあったのか、ややげっそりと言った雰囲気を見せる少女に、ここぞと提案を投げかける。
「そこでご提案です。平時と異なる衣装を着て「肖像画」として示すのはいかがでしょうか。
 普段の活動を妨げず、それでいてテレーゼ様の貴族としての存在も示せる。
 私にプロデュースを巻かせていただけませんか?」
「肖像画……なるほど。たしかに、あった方が箔がつくのでしょうか。
 ふふ、せっかくですし、お願いできますか?」
 ふむふむと納得した様子を見せた後、テレーゼと寛治は静かに握手を交わした。

「ぶははっ、俺は運搬性能とかあるしよ、肩車してやろうか」
「まぁ! よろしいのですか? でしたらぜひ! 私、身長が高くわけではないですし」
「おうよ」
 仕事を終えたテレーゼの事実上の自由時間に、彼女を肩車したゴリョウは町の中を練り歩いている。
(砂蠍関連とかでこの町とかこの辺とは妙に縁深いからなぁ、俺)
 少しばかりの感慨を得ながら、人々が活気良く暮らす町を練り歩く。
 賑わいを取り戻そうとする町の様子は、魔種の脅威に晒された人々であるとは思えぬほどだ。
「ぶはははっ、全く、逞しいなぁこの町の連中は」
 人々に声をかけられ、或いは自ら声をかけながら進みながら、ゴリョウは笑う。
「ええ、こんな風に活気があれば、心配はなさそうです」
 ほとんどゼロからの立て直しであることなどを窺わせない。
 ゴリョウはその様子を眺めながらうんうんと頷いて。
「ゴリョウさんも何かお土産とかに良さそうなのがあれば、買っていかれてはどうですか?」
「おう、そうだな。折角だから、同居人とかマイワイフに合いそうな民族衣装とか見繕ってみるか」
 近くに見かけた衣服店を前に、依頼人を降ろせば、その店へと入っていった。

「ふふふ、芽衣さんもせっかくですし着てみては?」
 依頼人に声をかけられた芽衣は、そのまま女子会と言わんばかりのショッピングに手を引かれた入っていった。

●星空を君に。
 鳥達のさえずりは既に無い。
 満天の星空が夜の闇に散らばり、森の中の人影を優しく、ほんのりと照らす。
(テレーゼさん相変わらず大変そうだな……何とかして気分転換をさせてあげたいが……)
 サイズはホットチョコレートの入ったコップと携帯食料をテレーゼにおすそ分けしながら思う。
「どうぞ。今だけでも、ゆっくりしよう」
 一応は護衛依頼ということを思い出して、しっかりエスコートしようと考えるサイズはそこでふと、護衛とエスコートは同じ意味合いだろうか? なんてことを思ったりした。
「まぁ、ありがとうございます。温かい飲み物はいいですね……ふふ、やっぱり星もきれいです」
「まぁ、眺めるのに飽きてもカードゲームもありますよ?」
「カードゲームですか……じゃあ、後でしましょうか。今はもう少しだけ、空を……」
 サイズはテレーゼに頷いて、穏やかなる夜の空を見上げた。

(……護衛依頼と聞いて……気を引き締めて行ったはいいけど……
 ……テレーぜさんの言う通り……何事もなかったね……)
 満天の星空、依頼人が見える範囲で警戒しつつグレイルも夜空を眺めていた。
 照らされた青い毛先の混じる美しい白狼は、視界を覆いつくす数多の星々に感嘆していた。
(……それにしても……星が沢山見えるな……ここまでの星空は……そうそ見れるものでもない……よね)
 グレイルの考える通り、春と夏の合間、晴れ渡ったその夜空は、きっとそう多く見れるものではないのだろう。
 穏やかな夜を、まだほんのちょっぴり、それでも心地よい風が吹いていく。

(あぁ、なんて綺麗な夜空だろう。こんなにも美しく、静かな夜は初めてかもしれないな)
 クリスティアンは星空を見上げながらふと思う。原っぱに寝そべって見上げるというのも、それはそれで気持ちがいい。
(美しい星々の輝きには、流石に僕も太刀打ちのしようがないね。……なーんて。フフッ)
 異世界の王子は星の瞬きを見つめながら、静かな夜に身をゆだねていった。
 気づけば、徐々に眠気がやってきていて、微睡みの中に沈んでいった。

(……令嬢の護衛と言う体でしたが……この辺りは特に警戒する事も無し……本人もあまり護衛としての干渉は望んでいないと……なら、私も大人しく夜空でも見上げておくッスかね)
 闇に紛れるように、クローネは夜空を眺めていた。
(ああ、落ち着くな……静かで、空気が澄んでいる……月が……月はこの世界でも輝いているか)
 柔らかな輝きを眺めながら、少しばかり深呼吸する。
「あぁ、ふと、思い出した。私に似た世界の旅人の話…」
「なんだか、面白そうなお話、私にも聞かせてくださいな」
 どこからかひょっこりと顔を出した依頼人が、目を楽しげに輝かせている。
 びっくりしつつも、クローネは依頼人に語り聞かせる。
「なんでも、人は空を飛び出して、あの暗闇の向こう側に行ったんだそうな」
 クローネは終始目を輝かせる依頼人に、語り聞かせていく。



 アレクシアとシラスの二人は、そんな森を、暖かい飲み物を片手に散歩していた。
 見晴らしは良く、微かに聞こえるのは同じように空を見上げる人々のささやき合うような声。
「そうそう、星空と言えばね」
 ふと、アレクシアは足を止める。
「私、星空って故郷じゃほとんど見たことなくて、外に出てきて初めて見た時、すっごい感動したんだよね!」
 見上げれば、圧倒されるような無数の星。
「そこで終わればよかったんだけど、しばらく眺めてたら、なんだか突然、この世界に自分一人だけしかいないような、そんな気持ちになって……不安で、寂しくて、たまらなくなっちゃったんだよね。
 涙も出ちゃいそうになってさ……泣いてないけどね!」
 少女は振り返って、隣にいる少年を向く。
「……それからは、一人で星空見るのが何だか怖くて。
 だから今は、一緒に星空を楽しめる友達がいて、本当によかったなって」
「寂しがり屋だなぁ、アレクシアは」
 少しだけ拗ねたような仕草をした少女に、小さく笑いかける。
「冗談だよ……俺もそういう時ある」
 蓋をした不安は、静けさの中、無限にも思えるような空の下で、いつの間にか顔を出す。
 首をもたげた暗い感情を振り払うように、少年は伸びをする。
「ふふっ、分かってもらえたら、嬉しいな」
「でも、そんな素振り全然見せないよね、泣いてるのなんて想像できない」
 シラスは時々、彼女は何があっても折れないと、そう思わせる強さを感じていた。
「俺も見習いたいね、それじゃ勝負しようぜ」
 悪戯を思いついたように、少年は笑い。
「君が泣く日まで俺も泣かない」
 それは勝負というべきか。シラスの提案に、アレクシアは笑みを浮かべる。
「うん!」
 ――涙を流すことはあっても、それを誰かに見せないであろうけれど。
 それでも、彼女が泣きたい時に、傍で支えになれますように――
 そんな願いを、星の海へ、密かに手向けて。
「あっ、ちなみに泣いてないのは本当だからね!」
じれったいような、照れくさいような。心地よい日常に、今は身をゆだねよう。





成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

すごい平和な1日って良いですよね

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