PandoraPartyProject

シナリオ詳細

商人と絵画

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●失踪事件
 絵を回収してきてほしいのです、と『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は言った。
「その人は商人さんみたいなのですが、持っている絵画を見せられた人がいなくなっちゃっているのです」
 必ずしも消えてしまうわけではない。目撃者がいるからこそ商人と絵画の情報が人々に知れており、ユリーカの耳にも入ったのである。
 商人は今、幻想国のあちらこちらで見かけられているそうだ。
「調べていてわからないことがあるのです。消えてしまった人たちがどこへ連れ去られたのか……消息が全く掴めないのですよ」
 困ったのです、と眉尻を下げるユリーカ。
 現状としてわかっていることは、人々の失踪に商人と絵画が関係しているという事のみ。必ずしも行方不明になっているわけでもないから確実に黒とも言い難い。
「それでも、ほんの少しでも可能性があるなら行ってみるしかないのです。皆さんには先に行っているシャルルさんに合流して、商人さんと接触をしてもらいます」
 ユリーカから渡された地図には、ローレットからさほど遠くない町が示されていた。

●合流、そして
「あ、アンタたちが今回の? よろしくね」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はイレギュラーズたちの姿を見ると小さく片手を上げた。先行していた彼女は町で聞き込みをしていたらしく、丁度この近辺で商人が見かけられているらしい。
 とはいえ、商店街と思しき周囲には人が多い。この町が栄えているという事かもしれないが、件の商人を探すのは一苦労だろう。
「またここから聞き込みかな……」
 シャルルも小さく溜息をつくとイレギュラーズを振り返った。日差しの光を浴び、暖色が空色の瞳に揺らめく。
「合流したところ悪いけど、一旦解散。各自で情報収集してこよう」
 9人纏まって行動するより効率は良いはずだ。1人で商人と接触しないよう注意の言葉を交わしながらイレギュラーズたちは散開した。

 ──約1刻後。
 再度合流を果たしたイレギュラーズたちは、1人の男を囲っていた。壁を背に商売道具を広げていた商人はイレギュラーズたちに物怖じすることなくへらりと笑ってみせる。
「これはこれは、ローレットのイレギュラーズとお見受けいたします。皆様お揃いで如何様な品をお求めでしょうか?」
「アンタが人々に見せている絵を」
 シャルルの言葉に、商人は大仰な仕草でやれやれと頭を振った。
「どなたも商品より、非売品に興味がおありのようだ。お譲りはできませんが、お見せすることは可能ですよ」
 ごと、と出してきたのは布で包まれた荷物。その形からして額縁──中に絵を入れているのだろう。布が取り払われたそれをイレギュラーズたちは凝視した。
 これと言っておかしなところは見当たらない──『長耳の辿る道』なんて不思議なタイトルではあるが──ただの風景画だ。青空の下、春の花と思しきピンクや白の花畑が広がった絵。その中には小さく、黒い何かがいるようだった。
「なんだろ、これ」
 シャルルも気付いたようで、その小さな黒い物体をしげしげと眺める。
 不意に、イレギュラーズたちは強く腕を引かれた。いや、体全体を思いきり引き寄せられるような感覚。はっとして体を見下ろしても何かが触れているわけではなく、思い通りに行かない体は絵の方へよろめいた。
 その先ではシャルルが熱心に絵を見つめているのに、近付いているはずの気配に気づく様子は全くない。段々絵の方へ倒れ込んで、彼女にもイレギュラーズたちの影が掛かっているはずなのに──。

「……これだけわからないけど、他に問題はなさそうかな。どう思う?」
 立ち上がって後ろを振り返るシャルル。その瞳が大きく見開かれる。
 立ちすくんだシャルルの後ろで、商人の口元が歪な弧を描いた。

●よろめいた先
 イレギュラーズは揃いも揃ってたたらを踏んだ。その足元には、草。自然の匂いが鼻をくすぐり、暖かな風が耳元を撫でていく。商人も、シャルルもいない。
「花畑……?」
 誰かがそう呟いた。目の前に広がるそれに、半ば呆然としながら。
 その景色はあまりにも──先ほどの絵に酷似していた。
 あの場所へ転移させられたのか。それとも見ていた絵の中に吸い込まれてしまったのか。或いは。
 唐突に花畑の土がぼこりと盛り上がった。1つではない。幾つもの盛り上がった土から、天へと"腕"が伸びる。
 誰かが小さく息を呑み、悲鳴を押し殺した気がした。

GMコメント

●成功条件
 元の場所へ戻り、絵を回収する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ゾンビ×20
 OP中で土から生えてきた奴らです。老若男女様々です。所々の肉が腐り落ち、骨が見えています。
 武器を持っている様子はありません。

●ロケーション
 OP中に記載されている絵の内容そっくりです。天気は快晴、周囲は春の陽気。但し、花畑はゾンビの出現により所々土が露出しました。
 現状において、黒くて小さい何かはいないようです。

●PL情報
 ある程度の場所まで行くと見えない壁に押し返されるような感覚があります。何をしても進めません。
 適当に歩かせ続ければすぐPC情報へ落とし込めるでしょう。

●NPC
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 途中まで同行していましたが、イレギュラーズと共にどこかへ引き込まれてはいません。
 無事元の場所へ戻ることができれば合流します。

●ご挨拶
 愁と申します。
 半ば予想された事態でしたが、行方不明者発見に至らずユリーカの情報収集が不完全です。この戦闘、そして探索は皆様のプレイングに委ねられました。
 OPの最後からすぐ戦闘となります。予めフィールドへの大規模な細工はできませんので、ご注意ください。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 商人と絵画完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月01日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ネリー・エイト(p3p006921)
夜啼赫咬猟獣

サポートNPC一覧(1人)

シャルル(p3n000032)
Blue Rose

リプレイ

●花畑の下に眠るは
(さすがにこれだけの人数に囲まれれば、早々に逃げられることはないでしょう)
 『夜啼赫咬猟獣』ネリー・エイト(p3p006921)は周囲へ素早く視線を走らせ、商人の周囲を確認していた。
 周囲にある障害物、そして商人に協力者がいないか。
 自分とシャルル、そして頼もしい仲間たちが取り巻いている中だ。それこそ魔法のように消えてしまわなければ逃げられるはずもない。
 だがしかし、絵が開かれれば思わず視線はそちらに行ってしまう。それは少なからずの好奇心。
 タイトルがネリーの視界に入ると同時、体を引き寄せられる感覚に陥る。彼女は──いや、イレギュラーズたちは絵の方へ倒れ込んだ、はずだった。

「花畑……?」
「はて、拙者等は絵を見ていたはずでござるが一体なぜこんな所に……」
 誰かが呟き、『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の困惑した声が続く。辺りには商人も青薔薇の少女もおらず、イレギュラーズはただ目の前の光景を見つめた。
 見たことのある花畑。いいや、先ほどまで見ていた花畑に酷似している。そう、それは──。
「おやおや。絵の中に入るなんて初体験だね」
 『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)の言葉に「やはり」と感じた者も少なくなかっただろう。
(一見した限りでは普通の風景画のようだったね)
 けれど、と『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は足元の花を見下ろす。普通の絵であったのならば、こんな事態には陥らない。
 不意にぼこ、と土が盛り上がった様子を視界に収め「うわ、」と『小さき盾』ユー・アレクシオ(p3p006118)は声を洩らした。
 土の中から生えてきたのは──腐りかけた人間の、腕。
(子供のお使い程度で済めば楽と思ってたんだがそう簡単には行かないか……)
 これ以上花畑が荒らされることのないよう保護結界を展開し、地中に響く音の反響を確かめる。まだまだ這い出して来るようだ。詳しい数は出てくるまではっきりとしないが──10体以上はいるだろう。
 既に這い出てきたゾンビを見て『憤怒をほどいた者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は渋面を浮かべた。
「あれは、もしや……いや、判別は難しいか」
 絵に関連した行方不明者たち。どこか──おそらく絵の中──に飛ばされたイレギュラーズ。現れたゾンビ。この場へ転移した行方不明者たちがゾンビにされたのだとしたら?
 かの情報屋から行方不明者の詳細な情報を得ておけば。一瞬そう考えたが、ゾンビたちの腐敗は酷い。情報があったとしても、判別できるのは片手で数えられるほどだろう。
 そして、この花畑の下にゾンビがいたのは──。
「行方不明者を引きこみ、花の養分としたのだろうか」
 鉄仮面の男、『精狂者』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)はそう呟いた。
 商人は思い描いた美しい景色のため、行方不明者をゾンビとして花を咲かせ続けているのかもしれない。
  『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は薄く笑みを浮かべながら「さて」と呟いた。戦いの場においてギフトの恩恵が囁くことはなくとも、そのワードは何かを切り出す時──即ち、彼女が何かを始める時だ。
「楽しい謎を用意してくれて、あの商人には是非丁寧にお礼(参り)をせねばならんね」
 シャルロッテの生命力を贄として、味方に強化が施される。
「シャルルさんが心配だ。早く脱出して絵を回収しなきゃな」
「うむ。残されたのであれば、シャルル殿にも身の危険が迫っているでござろう。……少々急がねばなるまい」
 ウェールと咲耶は視線を交錯させ、ほぼ同時に駆け出す。次いでユー、そしてメートヒェンも。ある所ではウェールの抱く憤怒が周囲へ伝播し、またある所では咲耶の朗々と響く声がゾンビたちを引きつける。
 ユーはそちらへ引きつけられたゾンビたちを素早く、しかし確りと観察した。その耳は長く──ない。全員が長耳でないわけではないが、どうやら全くいないというわけでもないようだ。
(この絵は幻想種を捉える物ではない……?)
 確実とは言えない。けれども1つの情報だ。
 未だふらふらと揺らめくように近づくゾンビたちへ向き直り、ユーは「さぁて、ひと暴れといくかな」と呟く。
 恐らく彼らは件の絵に引き込まれた行方不明者──いや、犠牲者というべきか。助けてやりたい気持ちがないわけではないが、生きている者が優先されるのは仕方ないこと。
 ユーはエリアジャックで引きつけ、熱の無いゾンビの体に冷気を与える。メートヒェンも名乗り口上で引きつければ──ゾンビは4方へ分かれた。
 いいや、しかし中央に1体だけ。誰もが注意を引きそびれたゾンビがいる。そこへリジェネートをかけて肉薄し、ブロックパージを叩きこむジョセフ。ゾンビの腐りかけた拳が彼へ打ちこまれたが──嗚呼、その鉄仮面の下にあるのは笑みに違いない。
(ああ! 意思なきゾンビ相手なのが残念だが、これもまた愛)
 サディストでありマゾヒストである彼からすれば、苦痛を味わい味あわせるこの戯れは素敵なものに相違ない。
「まずは目の前のゾンビから片づけないとね」
 ウィリアムは仲間を巻き込まない位置へ移動し、武器を構える。その瞳に映るのは虚ろな顔をして動くゾンビたち。
(あの商人の目的が何なのかは分からないけど、このぐらいで僕たちをどうにか出来ると思ったら大間違いだよ)
 放たれる一条の雷撃。穴が開いたゾンビは、しかしまだ動けるようで引きつけるイレギュラーズたちへ向かって行く。
 ──その言葉が聞こえてくるのに、そう時間はかからなかった。
「こいつら、土の中へ引きずり込む気だ!」
 ゾンビを引きつけ、身軽な動きで躱しつつ敵の体力を奪っていたユーから声が上がる。憤怒の狂気を宿す爪で敵を屠っていたウェールもまた、足が徐々に土へ沈んでいることに瞠目した。
 ゾンビが本来の体重とは思えぬような重さをかけ、イレギュラーズを地面へ押し込もうとしている。仮にレベル1であれどイレギュラーズは只人とは異なるステータスを持っているが、力のない住民ならあっという間に地面の下だろう。
「確実に1体ずつ、倒していきましょう」
 白銀のライフルが日の光に煌めき、酷く落ち着いたネリーの視線が敵を射る。次の瞬間、敵は実弾で以って射られ倒れ伏した。
 ウェールが改めて引きつけたゾンビが目の前で崩れ落ち、ジョセフは次の獲物をと顔を向ける。これだけの仲間が敵を引きつけている今、防御は必要ない。ただひたすらに戦い、攻めるのみ。
 シャルロッテは車椅子を機敏に移動させながら仲間の支援を切らさず、ネリーの射撃と共にジョセフの加勢へ回る。
「僕が回復に回るよ」
「ああ、助かる。こいつらがしてくるのは足止めだけみたいだな」
 もっと多彩にBSを操ってくるのなら、とも思っていたのだがそうでもないらしい。かかっているのがいずれもタンク役であるし、必要に迫られて解除するということもなさそうだ。
 咲耶は敵を引きつけながらも敵へブロッキングバッシュを打ちこみ応戦する。タンク役が多い今、攻撃手が薄くなってしまうのは必然的。少しでも長く持たせるべく咲耶は影の如くゾンビの腕をすり抜け、または確りとその攻撃を受け止めて見せる。
 数は多けれど、イレギュラーズにとっては烏合の衆にも等しい敵。呻き声の響いていた花畑は、徐々に静けさを取り戻そうとしていた。


●あの世界への帰り方
 静まり返った花畑に春の風が吹く。崩れ落ちたゾンビは砂と化し、風が何処かへと浚っていった。
 イレギュラーズたちは互いが大きな怪我をしていないことを確認し、小休憩を挟んで探索へと繰り出した。
 推理や謎解きは任せる、とユーはひと足先に周囲へ。聞こえてくる反響音を元に不審な物を探し、未だゾンビが潜んでいないか警戒する。その視線はふと花畑の向こうへ。
(絵の時に見た黒い影の正体も気になるが、ここがどれだけ広がっているかも確認しよう)
 見えている通り、どこまでも続いているとは思えない。ユーの足は花畑の外側へと向かって行った。
 そして謎解き組。
「まずは『長耳の辿る道』だが……」
 ウェールが切り出す。当然、そのタイトルに引っ掛かりを覚えた者も少なくない。
「芸術に関しては疎いのだがどうも引っかかる。道も長耳も描かれていなかったぞ」
 実は本来の姿(絵)ではなかったのでは、とジョセフは言う。勿論見たままの題名をつけなければいけない決まりはないが、このように上塗りされたと考えるほうが自然ではないか。
 長耳が仮に幻想種を表すなら、深緑のような木々が見当たらないのも花畑に塗り替えられたと考えれば妥当である。
「それに何故ゾンビは花畑の、土の下に居た? 道とやらはどこにある?」
「ゾンビは──」
 ──花の養分になった、行方不明者の成れの果て。
 それが概ねの意見であっただろう。同じようにここへ飛ばされ、しかしゾンビと戦う手段がなければ土に埋められていただろうから。
「『道』を始めとした何かはこの下にありそうだね」
 シャルロッテは視線を自らの足元──花畑へと向ける。上塗りされたのなら、刈って露出させてしまえばいい。
 この花畑が道であり、奥行きだった方へと向かえば。或いは額縁を道として手前へ向かえば──とも思ったが、一面の花畑に手前も奥もあったものではない。
(長耳は我々か……地獄耳という意味もあるな)
 多少外れていても構わない。今はどんな情報でも集めなければ、この謎を看破することはできないだろう。
 五感を鋭くさせながら、シャルロッテは咲耶やジョセフと共に花刈りへ向かった。
 ウェールは土の盛り上がった場所──ゾンビの這い出してきた痕を調べた後、花畑をぐるりと見渡した。その脳裏に浮かぶのはここへ飛ばされる前に見た、絵の中の花畑。見覚えのある箇所を見つけ出し、そこを重点的に探索する。そして時には周囲の光景をしっかりと目に焼き付ける。
 探索を続けるウェールの頭には、常に一抹の不安があった。魔術の類ならその発生源を破壊すれば良い。黒く小さい何かの能力なら撃破すれば良い。だが──。
(……全員が精神攻撃を受けてるとかねぇよな)
 そうであったら詰んでいる。手を噛めば痛みで正気に返るだろうかとも思うが、出来る事なら最終手段として取っておきたかった。
(上の果ては……厳しいですね)
 ネリーは空を見上げ、次いで周囲を見渡す。どうやらウィリアムとユーがそれぞれ花畑の端の方へ向かいだしているようだから、横の果ては彼らや他の仲間に任せておこう。
 そうなると、残るは下だ。
 ネリーは目を伏せ──次の瞬間、艶やかな黒毛の狼へ姿を変えた。人間形態の手は器用だが、獣の前肢と異なり貧弱で土を掘るのに向かない。
(獣の前肢ならこれくらいは余裕です……ああ、やはりありましたね)
 土を掘り、掻き分け、犠牲者の遺留品と思しき物を脇に避け。脱出のカギになるような何かを探して掘り下げていく。
 ──不意に。
「どう? そっちは何か見つかったかな」
 ウィリアムに声をかけられ、ネリーははっと我に返った。いや、無心で掘っていたなんてそんなことはない。決して。絶対に。
 遺品が幾つか見つかった事を告げ、横の果てはどうだったかとネリーは問う。ウィリアムは緩く頭を振った。
「途中で透明な壁に当たったように、前へ進めなくなったよ。まるで僕たちを逃がさないようにしているみたいだね」
 花へ語り掛けても応答はない。一見判別はつかないが、花に見せかけた何かという可能性もあるのだろう。
「あとは向こうに混ざって、道を作ってみようかなって」
 示したのは咲耶やシャルロッテ、ジョセフなどの花を刈っているメンバーだ。ウィリアムもまた、花を払って道のように土を露出させてみるつもりである。
「これが謎解きの助けとなる何かだと良いのだけれど」
 肩を竦めるウィリアム。そこへネリーはそういえば、と首を傾げて見せた。
「長耳とは何を差しているのでしょうね。何かを暗示するような表題でしたが……幻想種、」
「それは無いと思うよ」
 当の幻想種から即答で否定が返ってきた。これまでも仲間からその言葉が出るたびに否定していたが──当然であろう、このパーティに幻想種はウィリアム1人だ。もしもその理由なのならば、ウィリアムが仲間たちを巻き込んだということになってしまうのである。
 もし、万が一本当にそうならば。ウィリアムはかの商人をグーパンすることも吝かでないと思っている。
「なら、もしくは──」

「「ウサギ」」

 ネリーともう1人、メートヒェンの言葉が綺麗に被る。2人の視線が彼女へ注がれた。
「『道』というのが獣道のことなら、脱出のヒントになりそうだと思ってね。そうだとしたら長耳は耳の長い動物になるんじゃないかな」
「成る程」
 一理ある。果たしてそんなに平和な終わりを迎えるのか不明であったが。
「だから絵の中なのだとしたら、あの何かがいたり移動した場所だけ花が踏まれた跡があったり──」
 しないかな、と言いかけたメートヒェンの言葉が途切れる。その視線を追ったウィリアムとネリーは細い道を作るように花が踏まれた跡を見つけた。本当にあった。
「いたぞ!」
 その直後、花畑と睨めっこしていたウェールの声が上がる。同時、黒く小さい何かは驚いたように花畑を全力疾走しだした。その前方に人影が立ちはだかり、びくりとソレは足を止めたが──その人影、咲耶は近づくことはせずに武器を足元へ置く。常のような柔らかい笑みを浮かべ、咲耶は敵意が無いことを示すように両腕を開いた。
「こちらに敵意はないでござる。逃げないでもらえると嬉しいのでござるが……」
「ああ、私たちから危害を加える事は無い。どうか警戒しないでもらえないだろうか」
 咲耶の隣にジョセフが立ち、目線を合わせるように片膝をついて身を低くする。その黒い物体を見たネリーとメートヒェンは思わずじっとソレを見つめ、
「ウサギだったね」
「本当にウサギでしたね……」
 しみじみとそう呟いた。ちなみに、その後ろではウィリアムが心底ほっとした表情をしていた。
 咲耶とジョセフの言葉を聞いたウサギは言葉が通じているのか、鼻をひくひくと動かしながらも逃げる様子はない。2人が脱出口はないか問うと、ウサギはどこかへ去りかけ──途中で止まってイレギュラーズを振り返った。
「これは……」
「付いていってみたらどうかな。別の世界には、ウサギを追いかけて別の世界に迷い込んでしまう有名なお話があるらしいしね」
「ボクたちの場合は元の世界へ帰りたいわけだが……試す価値はありそうだ」
 メートヒェンの提案にシャルロッテが頷く。イレギュラーズたちは黒ウサギを先頭に、辺りの警戒などは続けながら花畑を進んでいった。

 ──嗚呼、再びこの感覚。
 踏み出した足の下は柔らかな土ではなく、舗装された道。ふわりと甘い香りがイレギュラーズの鼻腔を掠め、長い白髪が目の前で揺れる。
「シャルル殿!」
「シャルルさん!」
「……え、えっ??」
 咲耶とウェールの声に目を丸くした『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は振り返った。その白髪に商人が隠れると同時、咲耶は素早く地を蹴って商人の元へ飛び込む──飛び込んだはず、だった。
「……なに?」
 しかし咲耶が掴んだのは絵を包んでいた布。そこに商人はおらず、ただ件の絵だけが残されている。
「消えただと?」
「どこかに隠れたんじゃ、」
「しかし、すぐ隠れられそうな場所はありませんね」
「後ろは壁だからね」
「だが、すぐに探し始めれば──」

「──"さて"」

 そのひと言に、イレギュラーズたちは彼女を見つめた。集まる視線にシャルロッテは一同を見渡す。
「あの商人がどんな方法を用いて逃げおおせたのかはわからない。けれど、ボクたちの確保すべき絵はそこにある。なら──一先ず、ローレットへ報告に行った方が良いのではないかな」
 目立った外傷も見当たらないシャルルはさておき、どこかへ飛ばされたイレギュラーズたちは多少の怪我もある。深入りし過ぎればそれは重い怪我ともなりかねない。
 それに──かの商人が動き出すのなら、再びローレットと縁が繋がることもあるだろう。
「取り調べたくはござったが……仕方あるまい」
「ああ。ボクも商人へのお礼はまた今度だね」
 イレギュラーズの視線は残された絵へ集まる。そこは『あの世界』で花を荒らしたにも関わらず、それより前と同じように春の花が咲き乱れ──その中からぴょこりと黒ウサギの耳が覗いていた。

成否

成功

MVP

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。無事の脱出、おめでとうございます。
 皆様の様々な考察に成る程、と思いながら執筆させて頂きました。かの商人はまたいつかどこかで、皆様と邂逅するかもしれません。そう、縁が繋がるならば。

 メイドロボ騎士の貴女へ。外の世界へ帰るための鋭い考察により、今回のMVPをお贈り致します。

 再びのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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