シナリオ詳細
月天の夜に舞う殺人乙女
オープニング
●夜に舞う
――ああ、今日も月が綺麗。
肌を突き刺す寒さも、この夜の空が透き通ると思えば何てことは無い。
空に煌めく輝かしい星達が、私をもっともっと綺麗に魅せてくれる。
夜が好きだ。
この誰も居ない月天の夜は私だけの聖域。
満天の夜空にウットリと。喉を通る月の光に身体が震えていく。
すると、どうだろう。
私の命令を聞く、私だけの魔獣(ペット)がひぃ、ふぅ、みぃ……とぉ。
夜の神様はきっと私に恋してる。
そうでなければ、こんな力を私に与えはしない。
「ふふふ、わかっている。わかっているわ」
夜は渡さない。
この聖域に足を踏み入れるものは、みんなみんな消してしまえば良い。
夜に舞う。華麗なドレスを翻し。
見事に着地を決めれば、醜悪な豚がギョッとしたように瞳を見開いた。
「嗚呼、なんて醜いのかしら。
私の夜に、その醜さは必要ないわ」
一声命ずれば、魔獣たちが豚に群がって、跡形もなく綺麗に食べてくれる。
その光景に「うふふ」と笑みがこぼれて、もう一度昏くて明るい夜の空を見上げた。
――ああ、今日も月が綺麗。
●
幻想南部の街トルパシャで、夜な夜な人が獣に喰われるという事件が発生した。
たまたま現場を目撃してしまった若者は命辛々逃げ出して、こう証言した。
――若い女性が魔獣を使役し、人を喰い殺していた、と。
事件は一週間ですでに四回。いずれも空がよく晴れた夜だという。
「都市長は領主との話し合いを設けた上で、軍隊ではなく少数精鋭の腕利きを選んだようね。つまりローレットの出番というわけよ」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は依頼書片手に手に入っている情報を言葉にしながら書き込んでいく。
「容疑者はトルパシャに住むミュリア・プロンプト。年齢は十七歳ね。魔術的才能を持つ子だったようね。手に入れた力を傍若無人に振るっている気配があるわ。
闇夜を好んで、明るい内はどこかに潜んで居るみたいね。住んでいた実家には戻ってないみたい。黒いドレスが好みというところにシンパシーを覚えるけれど、殺人は許容できないわねぇ」
よくもまぁそこまで調べ上げたものだと感心すると、「杜撰なのよ手口が」とリリィは妖しく微笑んだ。
「手にした力で何事も叶えられる全能感のようなものを感じているのでしょうね。
すでに取り返しの付かない状態まで行き着いてるとも知らずに……可哀相なものね」
オーダーはミュリアの確保。ただし生死は問わないという。魔獣を十体引き連れる彼女はすでに他の殺人犯と同じ立場だ。慈悲はない。
「問題は彼女の出現予測がまるで立たないところね。
トルパシャは結構大きな街よ。大凡の位置を絞り込んだとしても五箇所も候補があげられるわ。
それと、私のギフトで得られた断片情報的に、彼女逃げ回るわ。魔獣を嗾け敵わないとみれば即撤退するわ」
ある意味予知夢であるリリィのギフトの情報だ。まず間違いないということだろう。と、すれば二重三重に待ち伏せる必要があるだろう。
「街中を逃げ回るとして……最終的にはどこへ帰るかしらね。実家かしら、それとも潜んでいる潜伏地? 夜が好きだという彼女が、一番夜を感じられる場所……」
それを見つけるのも仕事の内だろう。
イレギュラーズは情報を書き終えた依頼書をリリィから受け取ると、トルパシャの街へと向けて出発する。
事件は夜。
その時までの時間はまだあるはずだ。
- 月天の夜に舞う殺人乙女完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月31日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●夜が来る
トルパシャの街はそう人口の多くない街だ。
昼間と言えば仕事に精を出す者が多く、通行人はそれほど多くはない。
依頼を受けたイレギュラーズは、来る夜に向けて、何を為すべきか考えた。
「ガキ殺しを嬉々として行うか……気が重いな」
「ローレットに手配された以上、遅かれ早かれ手は下される。
俺達が担当することになった以上、やれるだけのことはしてやりたいが」
『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)の漏らした呟きに『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が答える。
シュバルツの言うようにローレットに手配された以上、殺人を行う少女ミュリア・プロンプトの命運は握られたようなものだ。
そのことをよく理解している黒羽は、
「わかっているよ。俺は殺しはしねぇが……他の奴にそれを強要はできねぇからな」
今はただ、彼女がこれ以上の罪を重ねないように対策を講じるまでだ。
黒羽とシュバルツは大通りである『サンライト通り』でビラを配る。
それはミュリアが近頃トルパシャの街を賑わせている殺人鬼であり、この通りにも現れる可能性が高いということを知らせるものだ。
指名手配と同義であり、街の警備兵もローレットの介入を確認しこれを許可した。
地道な作業だが、少なくともこのビラによって深夜この大通りを通ろうと思う者は減少するはずだった。
場所は『サンライト通り』から少し離れた所へと移る。
酒場『MooNote』。
昼間とは言え、仕入れや夜の準備に向けて従業員が働いている。
そこへ『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が足を運んだ。
この酒場も夜を独り占めしようと目論むミュリアのターゲットになっている可能性は高い。
夜になれば多くの客が出入りするこの酒場が狙われれば、混乱と共に対処するのが難しくなるだろう。
故に二人は先手を打って、この店の主人に頭を下げに来た。
「都市長からの依頼を受けてローレットから来ましたの」
「ローレットォ? あの世界を救うだかいってる連中かい?」
少々怪訝な顔を見せる店主はあまり気分が良くなさそうではある。それでも今日一日店を閉めてもらうことはできないか、ヴァレーリヤは説得を試みる。
「夜中に人が酒場にいると、襲われる可能性がありますの。
酒場で犠牲者が出たら今後の商売にも影響するでしょう?
悪い話ではないと思うのだけれど」
「そりゃそうだがねぇ、お前さん一日店を閉めればどれだけの損失になるかわかってるのかい?」
「それは――」
口を挟もうとしたヴァレーリヤの前にゼフィラが出て言葉を返す。
「損失は大きいだろう、だが襲われると知っていて店を開けていたとわかれば取り返しの付かない信用損失に繋がるんじゃないか? それは一日の利益に見合っているか?」
信用の喪失は取り返しが付かない。安心安全に酒が飲める場所を提供する、それが酒場としての在り方なのではないか。二人は言葉を選びながら、説得を繰り返す。
そうして、店主は損得勘定を終え信用の確保を是としたか。しぶしぶ頷いて店を閉める事を承諾した。
ヴァレーリヤはその後、似たような深夜営業する店にも念のためと指名手配のビラを配りあるいた。
これでミュリアの出現予想地である五箇所の内、二箇所を潰す事ができたと言える。
そしてもう一つ、押さえて置かなくてはならない場所がある。
馬車を止め、四人がその家の玄関を叩いた。
「……はい、どちらさまですか?」
そこはミュリアの生まれ育った家であり、今は帰らぬ孫娘を待つ祖母が一人暮らしているだけだった。
積み荷を降ろした『観光客』アト・サイン(p3p001394)がローレットの身分証、そして都市長の命令書を提示した。
事態を把握できない老婆に『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が丁寧に説得する。
理由はこうだ。
旅人由来の特殊魔術によって生み出された魔物の調査地点となったと言う事。その為家屋内を調査する必要がでたということだ。
魔物の出現も考えられるから、一度ホテルへと避難して欲しいと付け加える。
「なに、調査は一日で終わる。明日の朝帰ってきてくれればそれで問題は解決しているさ」
『影刃赫灼』クロバ=ザ=ホ ロウメア(p3p000145)の言葉に視線を下げていた老婆が言葉を零す。
「ミュリアちゃんがね……夜帰ってくるかもしれないんだよ。
その時誰も迎えに出てあげなければ可哀相じゃないか……」
孫娘の事を案じる老婆。話を聞けばいつの頃からか夜遊びが多くなり、遂に帰らなくなったという。
「ミュリアというのは……夜がそんなに好きだったのか?」
「昔からお月様が好きでねぇ……でも、そんな夜遊びなんかする子じゃなかったんだよ」
明るい少女だったというミュリア。だがある日を境にその活動時間は昼夜を逆転し、夜の間外へでて、朝には帰ってくるという生活になったという。
なにかそうなる原因があったのか。一度尋ねた老婆だったが、ミュリアは薄い笑いを浮かべてこう言ったという。
『”夜の神様(あのひと)”が私を認めてくれたのよ。ふふふ、素敵よね。このまま夜を私の物にできればきっと”夜の神様”と一緒に、月へだっていけるはずだわ』
”夜の神様”というのが誰なのか。それは終ぞわからぬことだったという。
「街中で見かけるかもしれない。どこか行きそうな場所や、思い出の場所は知らないか?」
マカライトの言葉に老婆は悩んだが、近くの公園――『ナイトスカイパーク』は大層好きだったという事を話した。
老婆から色々な話を聞いたイレギュラーズは老婆を馬車に乗せてホテルへと送った。老婆は最後までミュリアの身を案じていたようだった。
「さて……それじゃ手早く準備を整えようか。
玄関の材質は、と……」
アトはそうして用意した工具を手にすると、丁寧に玄関の床材をはがし始めた。これは最終的にミュリアを追い詰める――そう、トラップだ。
「あら、終わったのね?」
ギフトで呼び出した犬を撫でていた『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)が作業を終えた仲間達に声を掛ける。
「あとは、公園の方だな。看板は出来ているか?」
「もちろん、こんな感じでどう!」
ルーミニスが作った立て看板は一時的に敷地内への侵入禁止を促すものだった。
これならばわざわざ深夜に公園へと立ち入る者も減るだろう。
そうしてルーミニス達は看板を『ナイトスカイパーク』の入口に立てていく。そして公園にはさらにギフトで呼び出した二匹目の犬を配置。
「いいこと、見つけたら吠えるのよ。街中に聞こえるくらい大きくね」
遠吠えを促し、犬を置いて裏通りである『スターライト通り』へと赴く。そこでもまた犬を呼び出して同様に指示をだした。
陽はゆっくりと傾いていった。
夕日が沈み、静けさを齎す夜が来る。
街の明かりは夜の暗がりに映え、月の光を曇らせた。
まだだ、もっと暗くなれ。
――やがて街は深い深い闇に包まれる。
深夜、月明かりだけが冴え渡る、本当の夜がやってきた。
●月天の夜を往く
その場所でミュリアは空高く輝く月を眺めていた。
「嗚呼、今日も素敵なお月様――早く、早く二人だけの世界にしてみたい」
か細い手を月へと翳せば魔力が迸る。瞬間生まれる魔性の獣たち。
「”夜の神様(あのひと)”がくれたこの力さえあれば、きっとこの夜は私だけのものにできるわ。
ふふふ、ゾクゾクしてしまうわね。
ええ、今日もはじめましょう。夜を穢す者達を、一人残らず食べて仕舞いましょう」
ふわりと彼女が飛べば少し痛んだドレスが風に揺れる。
くるりくるりと空に舞い――彼女は移動を開始した。
ワオォォォォ――――ン…………。
トルパシャの街に犬の遠吠えが響き渡る。
「動き出したわ! 公園からよ!!」
ギフトの犬と五感を共有していたルーミニスが声を上げる。ハッキリと視界に移る月夜に舞う乙女。ミュリアだ。
「今から公園に行っても追いつけないですわね……どちらの方角です?」
「この方向は……酒場の方だわ」
「こっちの方が位置は近い。追うぞ――!」
巡回班であるクロバ、ゼフィラ、ルーミニス、ヴァレーリヤの四人は丁度裏通りから公園へと向かおうというところだった。
恐らく公園の傍に潜んでいたのかもしれない。後手には回るが、今から酒場へ向かえば丁度鉢合わせられるはずだ。
急ぎ向かった四人は、僅かな時間を持って酒場の前へと到着する。
「よし、ちゃんと店は閉めているな」
ゼフィラが店の出入り口に張られた臨時休業の紙を見て安堵する。酒場の前に人は居ない。これならば被害を出さずミュリアを捕らえられるはずだ。
待ち構えるイレギュラーズの前に、ふわりとその場に似つかわしくない少女が舞い降りる。ミュリアだ。
「……あら、貴方達だけ? お店はどうしたのかしら?」
小首を傾げるミュリアにクロバが隠していた武器を抜き放ち突きつける。
「悪いが臨時休業だ。大人しくお縄についてもらうぞ」
「――追っ手という奴かしら。私の聖域を汚す汚らわしい犬ね。
夜の力を持つ私を捕まえられるなんて本当に思っているのかしら?」
まるで怖い物知らずの子供だ。自らの力、その全能感に酔いしれているのが見て取れる。
「主よ、貴方の元へ旅立つ罪深き魂にどうか慈悲を――
貴方には生死不問の捕縛依頼が来ていますわ。手加減は出来ませんのでお覚悟を」
「ふふふ、ははは――!
やってみなさいよ! 私の邪魔をする奴は皆夜の神様(あのひと)に捧げてあげるわ!」
ミュリアが手を伸ばすと同時周囲に生み出された魔獣が一斉にイレギュラーズに襲いかかる。
「獣は俺がなんとかする。ミュリアを押さえろ」
「わかったわ!」「わかりましたわ――!」
飛び出した士道たるクロバに敵視が集中する。四匹の魔獣の一斉攻撃を受けきりながら、鬼気を乗せた二刀による雷光纏った一閃が魔獣の心を切り裂く。
その脇をルーミニス、ヴァレーリヤが駆け抜けミュリアの押さえに回る。近づかれれば非力な自分では対抗出来ない事を察したか、瞬時にミュリアが間合いを取る。その動きは尋常ならざる体捌きであり、人の力を超越したもののように感じた。
「大通りにも連絡だ。この暗さなら十分気づくだろう」
ゼフィラが信号弾を打ち上げる。明るく発光するその信号弾にミュリアが苛立たしげに睨み付けた。
「私の夜を穢して……! まだ仲間がいるのね!」
戦闘経験などほとんどありはしないはずなのに、ミュリアは状況の悪さを瞬時に察する。これもまた夜の力というもののおかげなのだろうか。
「くっ――邪魔よ!」
「付きまとってきて……あっちへお行きなさい!」
ミュリアを捕まえようとしたルーミニスとヴァレーリヤが魔獣に阻まれる。クロバも四体の魔獣に取り囲まれ身動きが取れない。ゼフィラが追いすがるようにミュリアへと引き金を弾くが、その人間離れした動きに致命打を与える事ができない。
ミュリアはそのまま家屋の屋根へと飛び移ると一目散に駆け抜けていった。
「ゼフィラ、もう一度合図だ! 次は人の多いところにいくかもしれん!」
魔獣の対処をしながらクロバが声を上げた。すぐにゼフィラはもう一度信号弾をあげる。その予想は正しく、ミュリアは大通りへ向け逃げていったのだった。
●殺人乙女の逃走劇
「……くっ、なんてやつら」
ミュリアはすぐに理解した。相手取る連中は自分一人の力では勝てない事を。否一対一であれば魔獣の力を持って対処出来たかも知れない。しかし、同じような力を持つ者がこうも多くては勝てる目算が立たなかったのだ。
故に、いつも通り自分に対して無害な人々を殺そうと考えた。大通りで事を起こせば素性がばれる可能性は高かったが、夜の世界を手に入れる為だ。覚悟を決めようと思った。
――しかし。
「な、なによ、これ」
大通りにはミュリアを指名手配するビラが多く張り付けられ地面に落ちていた。アイツらの仕業か――すぐにミュリアが察する。そこに声が掛かった。
「おい、ミュリア・プロンプトだな」
鬼のような形相で振り返った先には、二個の信号弾を見てその場に留まった黒羽、シュバルツ、マカライト、そしてアトが待ち構えていた。
「……貴方達もさっきの奴等の仲間ね……!」
「さっきの奴等が誰かは知らんが、まあ間違いないだろうな」
シュバルツが鋭利な瞳でミュリアを睨めつける。
「くっ! 行って!!」
すぐさまミュリアが敵対行動を取る。残る四匹の魔獣が一斉にイレギュラーズに襲いかかる。
「お構いなしか。力を手に入れ増長しすぎているな。それは間違いだ。
――容赦はできんぞ?」
ティンダロスに跨がるマカライトが飛びかかる魔獣を手にした盾で弾き飛ばす。
それを合図に一斉に交戦が開始された。
「どこまでその強気を維持できるものかね。先ほどと同じように速やかに逃げるべきだと思うよ。逃げる場所があるのならね」
アトが魅せる観光客流剣術は、その深い造詣から生み出される独特の剣筋で魔獣を切り刻んでいく。
「ずいぶん暴れたようだが……相手が悪かったな」
呪詛込めた儀礼剣を振るうシュバルツが魔獣を不吉不運に塗れさせその行動を阻害する。熱狂的なダンスを魅せるその動きに魔獣は怖じ気づくように低い唸りを上げるばかりだ。
「弱いねぇ、弱すぎる。お前じゃ俺は殺せねぇよ」
黒羽が魔獣の攻撃をいなしながら、ミュリアへ詰め寄っていく。倒れかねないダメージを追いながらしかし、最後の一線で踏みとどまる。輝き宿し決して倒れない男を前に、ミュリアはゾンビでも見たような小さな悲鳴を上げた。
「攻撃しねぇでやるからもっと来いよ」黒羽が嘲り嗤う。
「――! ばかにしてぇ!!」
非力な少女の手刀はいかな人外の魔力を持とうとも鍛え上げられたイレギュラーズには届かない。それどころか茨の鎧にその手を傷つけられる有様だ。
「うっ、血が……!」
「人の血には嬉々とするのに、自分の血にはその表情か」
冷たくマカライトが言い放ち威圧する。泣きそうな表情を浮かべるミュリアは遂に心の均衡を保てず悲鳴を上げながら逃げ出した。
「さて、とりあえず魔獣(こいつら)を仕留めておこうか」
アトの言葉に頷いて、四人は魔獣を手早く片付ける。
そうして、ミュリアが逃げつくであろう、その場所へと向かうのだった。
●月は乙女を見放した
月光がまるでスポットライトのようにミュリアを照らす。
「嗚呼どうして……私は夜の神様に愛されたのではないの?」
夜であれば、自分に勝てる者なんていないはずなのに。
疑問、そして力の及ばぬ事への不安を抱えながらミュリアが辿り着いたのは――
「……明かりついてる」
ミュリアは長年暮らしてきた実家を前に動きを止めていた。いまさらどんな顔して戻るというのだろうか。もうこの家も家族も捨て去ったはずなのに。私には夜さえあれば他になにもいらないというのに。
それでも、心のどこかにか細い救いを求める手があったのか。ミュリアは意を決して玄関の扉を開いた。鍵は開いていた。
窓の外から見たとき、誰かが居間に座っていそうだった。
「……おばあちゃん?」
声を掛けながら一歩踏み出したその時、音を立てて玄関の床板が抜け落ちた。
「な、なにっ、これ――!!」
「――分かっていたはずだ。
孤独を肯定した君は最早誰にも救われることがないことを。
君は……」
追いついたアトが、罠に掛かったミュリアを冷たく見下ろす。
穴の中、樽に満たされたモルタルの中へと落ちたミュリアは身動きが出来ず首だけ動かす。そのミュリアを魔獣を倒し終えたイレギュラーズが取り囲み見下ろした。
「――なのに此処に来た。
故に、これ総てが君の『都合のいい考え』に対する報いなんだ」
「そんな、だって私は夜の神様からこの力をもらって……夜を私のものにすれば何だって叶うって――だから、私は」
「そんな都合のよい力なんて存在しませんわ。さあ、誰にもらった力か、答えて貰いますわよ」
「さあ、答えるんだ。一体誰がキミをこんなにしたんだ」
ヴァレーリヤとゼフィラが詰め寄る。だがミュリアは完全に錯乱していた。
「ちが、いえそうか! あはは! わかったわ、貴方達太陽の使徒ね! 夜の神様に仇なす悪魔の使徒だわ! 私を殺すのね! ふふふ、無駄よ私を殺せば夜の神様がきっと貴方達に捌きを下すわ、私は死なない! 死んでたまるものですか! じゃないとなんのために――」
聞くに堪えない異常者を前に、クロバは全員に視線を向けた。一同は頷く。
「月の見える夜はオレも好きさ。しかし届かないからこそ美しいものもある。
独占しようなんて考えが烏滸がましいのさ。――その”ユメ”喰らってやるよ」
クロバのギフト、虚ろなる夢がミュリアを飲み込んだ。
その狂った願望は、すべてミュリアの中から消え去っていくのだった。
「……あれ? 私なにを……なんてことを……」
願望は消えども記憶が消える事はない。嘆きの嗚咽を漏らし始めたミュリアをイレギュラーズは静かに見下ろし続けた。
月が雲に陰っていく。
それはまるで夜を愛し、月に恋した少女を、月が見放すようだった――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
手分けして地道に出現ポイントの被害を減らしたのはとてもよかったと思います。戦力バランスもよかったと思います。おかげで魔獣たちがあんまり強くなさそうな描写になっちゃいましたが、実際の所倒すのは一苦労でした。
ちなみにミュリアの出現ポイントの順番はダイスロールによって決められましたが、どこへでても対応できるプレイングだったのでお見事と言うほかないです。
MVPは多くの敵を引きつけ、またその欲望を奪い取ったクロバさんへ贈ります。その結果が良かったかどうかはわかりませんが少なくとも正気に戻す事ができたでしょう。
しっかりと完結させないのはPBW上あまり良くない気はしますが、ちらちらと見えてた謎の人物”夜の神様”はそのうち別の形ででてくるかもしれません。縁があれば相まみえることもあるでしょう。
依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
夜に魅入られた乙女が誤った力を手に入れました。
犠牲者を増やさないために、乙女を止めましょう。
●依頼達成条件
ミュリア・プロンプトの確保(但し生死は問わない)
■依頼失敗条件
朝までにミュリアを捕まえられない
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起きません。
●ミュリアについて
夜に魅入られ夜に恋した少女。
夜な夜な月の光を浴びていると、不意に生まれた魔獣。自分の命令しか聞かないと悟れば、これを使って夜を独り占めしようと考え始めた。
一人殺せば、あとは転がるように殺人鬼としての本性を現し始める。
魔力によって強化された身体能力は、イレギュラーズに比べれば弱々しいものですが、人ならざる動きを可能にします。
本人の戦闘能力はそう強くはないですが、召喚する魔獣はかなりの強敵。魔獣の数は十体。
耐久値、反応、機動値に優れ、EXAも高い。ブロックやマークを併用し、ミュリアの逃走を手助けするでしょう。
ミュリアの逃走を阻止しなくてはいけない本シナリオでは、魔獣の対処が肝となるでしょう。
●戦闘地域
幻想南部のトルパシャの街になります。
月が輝く深夜になります。
戦闘予想地域は以下の五箇所。どこにミュリアが出現し、殺人を犯すかは不明です。
①大通り『サンライト通り』
街の中央を通る大きな通り。深夜でも多くの店が開いており、人もそれなりにいる。
一人の夜を好むミュリアが最終的に狙い消し去ろうと考えるのはこの通りだと思われる。
②酒場『MooNote』
大通りからは離れた場所にある酒場。大通りと同じように深夜でも人が出入りしている。
③裏通り『スターライト通り』
大通りから一本裏にそれた道。暗がりが多く夜を好むミュリアの出現可能性は高そうに思える。人通りは少ないが、ゼロではない。
④公園『ナイトスカイパーク』
街にある大きな公園。付けられた名前の通り夜空をモチーフにした設備が多く並ぶ。月形のブランコ、星が刳り抜かれたアスレチックなど。ミュリアが好きそうな場所ではあるが……。
⑤ミュリアの実家
ミュリアが生まれ育った家。両親は他界しており、祖母が一人暮らしている。事件が発生した日よりミュリアは家には帰っていないようだ。
以上の五箇所がミュリアが出現すると思われる場所です。
一つの場所に出ても、その後逃走し、別の場所に出現することがあります。
時間を決めて待ち伏せ、合図を決めて待ち伏せ、追い立てて誘導など、色々考えてミュリアとエンカウントしましょう。
街の中での戦闘となりますが、障害物は少なく視界は良好でしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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